わたしのどこが好き？

◆prologue

　休みの日、たまにはこっちから遊びに連れ出そうとアルクェイドの部屋に行ったのに、返ってきたのはこんな返事。
「んー、こんな暑くて晴れた昼間に出掛けたくないー」
　今日よりもっと気温が高くて日差しの強い時に引っ張り回されたことだってあるけど、出て行きたがらないんじゃしょうがない。
　それに、冷房の効いた部屋に入ってしまうと、俺自身もあんまり出掛ける気がしなくなった。結果、アルクェイドと一緒に寝転がって、自分からは普段読まないような雑誌のページをめくっている。アルクェイドが買ってきた物だけど、脈絡無く色んなのが山になってる。芸能ゴシップ、文芸関係、政治っぽいの、スポーツにファッション雑誌。グラビア誌があれば技術系も。漫画とか、教育番組のテキストとか、クーポンマガジンとか、一体どんな基準で読んでいるのやら。バイト情報なんて、用があるはずのないものまで。
　今は、テレビのない家に暮らす身で、酔狂にも番組ガイドを眺めている。
「ねー」
　芸能関係にはすっかり疎くなっているなあ、なんて感慨していたところに、アルクェイドがつついてきた。
「ん、どうした？」
「志貴って、わたしの何処が好き？」
　はい？
　そんな、あまりに古典的な、恋人同士で問われる最難問を。カラダ、なんて即答させたがるトラブルの神様にはお引き取り願い、時間を稼ぐ。
「いや、何処って言っても」
　しかし、考えるまでもなく答えはあった。

　――――アルクェイドを愛している。

　面と向かって告げるのは照れて容易じゃないけど、俺は別に、アルクェイドの何処かが好きな訳じゃない。ただ、アルクェイドが好きなだけ。
　でも、こんな答えで納得するんだろうか。どう答えたものかと逡巡していると、アルクェイドが続けた。
「あ、間違い。志貴って、わたしの体の何処が好き？」
「カラダ？」
　問題、一気に俗化。とたんに、アルクェイドの胸やらお尻やらが頭に浮ぶ。それも裸で。
「いや、体って。何の話？」
「ん、こういう話」
　と、読んでいた雑誌を広げて見せてくれる。そこには、『男の子って、女の子の体の何処が好き？』なんてタイトルが挙っていた。見開きいっぱいに、胸とか足とか指とか個々のパーツを大写しの写真が並んで、アンケート結果の予想を促している。
「アルクェイド、何の雑誌読んでるんだ？」
　不意に見せられたフェチな写真を面映ゆく思いつつ、訊き返す。
「良いじゃない。それより、わたしの体の何処が好きなの？」
　答えないと許してくれないらしい。アルクェイドの何処が好きかって問いよりは、まだしも答えやすいけど。
「うーん、とりあえず、良く見て考えても良いか？」
　束の間きょとんとしていたものの、言ってることは判ったらしい。
「えへへ、志貴のえっちー」
「お前が話を振ったんじゃないか。ほらほら、脱いだ脱いだっ」
　きゃーきゃー言いながらも、アルクェイドは大人しく裸になる。
　そして向き合えば、ただ、見惚れた。
　見るのが何度目だって、少しも変わらない。
　あまりに綺麗だから、恐ろしくさえなる。露わになった眩い素肌。胸のふくらみや腰つき、長い脚の曲線。そんなあたりの魅惑は語るまでもない。まるっこい膝。お臍のあたりの縦に長いくぼみ。脚の間の茂みの金色、ルビーみたいな眼。ふくらはぎから踵へのライン。のびやかな腕の内側のとりわけ白い輝き。アルクェイドの何処もかしこも、目に映るのは天上の至宝。
「志貴？」
　瞬きも惜しんでいたら、お姫様は退屈したみたいに呼んでくる。
「志貴も脱いでっ」
「いや、何で？」
「わたしも志貴のどこが好きか考えるの」
　そのまま、有無を言わせず脱がされた。
　夏の終わりの休日、真昼間から、互いに全裸で向き合っている。隠そうとすると止められて、興奮してるのがまるっきりばれてる。アルクェイドの裸を目の前にして、平然となんてしちゃいられない。
「ねえ、それで、わたしのどこが好き？　わたしの体の」
　あっけらかんと裸体を誇示して、改めて訊かれる。目線をふらふら彷徨わせつつ、とりあえず思いつく。
「うーん、やっぱり見ただけじゃ判らないなあ」
「じゃあ、どうするの？」
　身を乗り出して、耳に口を寄せる。
「やっぱり、試してみないと」
　するん、と頬を撫でた。
「んふっ、ためす？」
「うん、アルクェイドの色んなところをさ？」