わたしのどこが好き?


 

◇眼

 どこが好きか何て言われても、その、困る。アルクェイドが好きだ。きっと全部好きだ。全身隅々まで無駄なく好きだ。
 脚の指の真珠色をした爪が綺麗だと思う。鎖骨の作る三角のくぼみがセクシーだ。おっぱいや大事なトコやお尻やに限らず、アルクェイドのどこを見たって、賞賛しか湧いてこない。
 ……いや、嘘だ。賞賛と同じだけは、欲情が湧く。綺麗すぎて怖いぐらい、畏敬を覚えさえする、だけど同時に、アルクェイドが欲しくてならなくなる。
「……アルクェイドの体で触ったことが無いところって残ってないよな」
 そう、そのあたりが、『お手を触れないで下さい』とか書いてある美術館の展示物とは違うんだ。触るのがまるっきりOKなたあたりも違うけど。
「そうね。たぶん、触られたところに色が付いてたら、全身とっくに染まっていると思う」
 アルクェイドの全身に色を。
 うん、そういう遊びも良いかもしれない、なんてことも考えてみる。
「でも、舐めたらその色が落ちるんだったら、きっとどこにも色は残ってないんじゃない?」
 堂々と、アルクェイドが凄いことを言ってる。確かに、アルクェイドの全身、どこだって舐めたりキスしたりはして来たと思う。
「そのくせに、全身調べ直すとかなんとか……」
 嫌がってないのは確実だけど、言い訳のようなことは口にしておく。
「諮問の前には、おさらいをしておかないといけないだろう?」
 アルクェイドと向かい合わせで、見つめ合う。そうしたら、触ったことがない部分を見つけた。もちろん、舐めたこともない。
 その点だけ伝えてみたら、アルクェイドにはまだ、何処のことなのか判らないみたい。そりゃまあ、普通だったら考えもしない行為だから。
「何処なの?」
 尋ねてくるアルクェイドを抱き寄せ、軽くウォーミングアップに口を吸った。片手で頭の後を押え、もう一方の手を額に当てる。指を滑らせて、まだ俺の舌の届かぬ目的地を上下から挟むように置く。
「ん、なに?」
 答えず、アルクェイドの目玉を舐めた。
「ひゃふんっ!?」
 びっくりして、アルクェイドは硬直している。それを良いことに、もういっぺん、ぺろりと舐めた。
「ひあっ」
 今度も、悲鳴。
 堅くて滑らかで弾力の強い、風変わりな舌触りだった。僅かに舌に残るのは、アルクェイドの涙の味なんだろう。
「舐めたことがないって、眼のことだったの?」
 肯定したら、改めて驚いた様子。
「普通、こんなところ舐めたりする?」
 ごもっともな疑問だ。行為として知らないってものでも無いけど、間違っても普通じゃない。しかし、さっきの話の続きなわけで。
「でも、ここぐらいしか残ってないってのが既に普通じゃないだろ」
「んー、つまり、志貴ってヘンタイなのね」
 ぶっ。
「何処をどう、つまったんだ、それ?」
「だって、普通はしないことをいっぱいしてるんでしょ?」
 む。
 勢いで言い返したけど、仰る通り。そりゃ、お尻の孔だろうと足の指だろうとお臍だろうと舐めたことがあるなんて、変態と言われてしまえば返す言葉はない。
 いや、無くはないか。
「そうだな。しかし、それに付き合っているアルクェイドも立派に、な?」
「えー、私は志貴の変態趣味の犠牲者っていうだけで……」
「そうか、そういう言い方をするのか」
 片手で口元を隠すアルクェイドを再び引き寄せる。
 また、正面から見つめ合った。
 アルクェイドの、血色の眼。魔の色。人ではないことの証。でも、向き合って思うのは、綺麗だってことだけ。人の侵入を拒む秘境の奥に輝く、人ならざるものに作られた宝玉。
 見詰めるうちに、まだ一カ所、俺の舌の侵入を拒んでいる秘境がアルクェイドにがあるのを思った。
 単に、もう一方の眼のことだけど。
「で、アルクェイド。そっちの眼も舐めて良い?」
「え?」
 ちょっと迷う気配。さっきのが、余程のことだったのかな?
「んー……。志貴、ちょっとじっとして?」
 言うと、アルクェイドは俺の頭を抱く。顔が近付いてきて、何をしようとしているのか、判った。
 ちょっと怯えは感じるけど、拭い落として覚悟を決める。
 案の定、アルクェイドは俺の眼鏡を取り、まぶたを押えて開かせた。形の良い、朱い唇が開いて右目の視界を占拠する。色々とたくさん気持ち良いこともしてくれる肉色の舌が、こちらに延びてくる。
 開いた口に右目を覆われ、中は暗くてよく見えない。舌の動きは辛うじて判る、でも近すぎてピントは合わず、最後のタイミングは判らなかった。
「はぅ……」
 アルクェイドの舌が、俺の目玉に触れた。
 れろ、れろ、と舌先が動く。理由もなく痛みを予期していたのだけど、それは無かった。
「ん……?」
 経験したことのない感触、異物感にアルクェイドを突き飛ばし掛け、堪える。少し慣れたら、ぞくっ、と奇妙な感覚が走った。また舐められて、同じ感覚の繰り返し。
 そこで、アルクェイドは離れた。異物感は残っていたけど、瞬きするうちに消えた。
「こうする方が良いのかな」
 今度は、左目を狙ってきた。
 さっきと違い、俺に頭を傾けさせ、自分も反対側に頭を倒す。九十度交差して、アルクェイドの上下の唇が目尻と目頭に触れる。
 舌を出されると、目を閉じてしまう。
「だめ、開けててよ」
「無理だって、そんなの」
「んー……」
 しょうがないか、と指を添えて開かせ、再び眼に吸い付く。
 まぶたの隙間を舌でこじ開け、横向きに端から端まで目玉を舐めてくる。繰り返し、何度も。
「んん……」
 また、ぞくっとした。もう、判る。何のことはない、気持ち良いんだ。考えもしなかったから、さっきは戸惑っただけで。
 れろん、れろん、と繰り返して俺の背筋をぞくぞくさせて、アルクェイドは離れる。
 悪戯な笑いを見せながら、アルクェイドは言う。
「ふふ、良いよ、こっちの眼も舐めて?」
 ふむ。自分も気持ち良かったんだろう、アルクェイド。そうすると、さっきより良くしてあげたい。既に計三回行なわれた目玉舐め、もっと良い方法は無いものか。
「……よし」
 引き寄せて、先に唇を重ねる。舌を絡めて、アルクェイドのも貰って、唾液をたっぷり舌に載せる。
 それから、口を閉じたまま、アルクェイドの眼にキスする。やっぱり閉じてしまっているけど、押し付けた唇を開いて一緒に開けさせた。
「ふふっ、志貴、上手い」
 舌先で、目頭の方から横に掃く。
「んふ……」
 唾液でとろとろ、層が出来て、舌そのものは触れるか触れないか。
「ひゃん……」
 アルクェイドの体の他の何処にも無い、面白い舌触り。丸くて滑らかな形が良く判る。くるくる、瞳のあたりを舐め回す。こんなことも、快く思っている。
「あふ……」
 感じてるのは、確かだった。
 長いこと舐めていて、思い出したように終える。
 向き合うと、アルクェイドも眼をパチパチさせてた。
「ねえ、こっちにももう一回、今みたいに……」
 ねだられて、口付けからやり直す。舌を絡め合って唾を付けて、唇で眼を開けさせて、その中を舐り倒す。
 同じシーケンスを、まだもう一度。
「志貴も、気持ち良かった?」
「うん、なんか奇妙だけど。目玉を舐められて感じてるなんて、やっぱり二人揃ってヘンなのかな?」
 二人揃って、というあたりには不満があるらしい。
「なんか不思議ね。うん、志貴にも、もっとしたげる」
 同じように口付けて、今度はアルクェイドの舌に唾を絡める。濡れて光る唇が真っ直ぐ近付いてきて、反射に逆らえず閉じてしまう目にキスしてくれて。
 唇の動きで、開かされる。
 ぬるん、と舌が動いていく。そんな、強烈に気持ち良いってことはないけど、酷く官能に訴えた。
 眼に悪くないかなってちょっと心配になりながらも、それからも繰り返し、代わる代わる目玉を舐めっこした。

「私、志貴の眼に酷い目に遭わされたけど……」
 とろんとした目付きなのは、舐めすぎておかしくなったとかじゃないはず。
「志貴の眼は、好きよ」
「すごく風変わりな意味でも、かな?」
 黙って、また、まぶたにキスされた。
「さて、アルクェイドの全身隅々まで確かに舌で征服したところで、だ」
「私のどこが好き?」

 うむ、それが問題だったのだ。
 今度は、どこを試そう?

/わたしのどこが好き? 眼

 


 

求めよ、さらば叶えられることも無きにしも非ず……( ゚ ゚)ヾ

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©Syunsuke