年の初めの


◆1

 正月だから、晴れ着姿の女性はたくさん居る。それでも、僕らは目立ってしまうらしく、恨みがましい視線を浴びている。まあ、しょうがないかな、とは思う。
「脚、大丈夫か? 幹也」
 言いながら、式が手を取ってくれる。普段だと簡潔な着物しか身に付けない式も、今日は華やかに装っている。惚れた欲目で見ているのだろうけど、式が美人なのは客観的に事実だと言わせて欲しい。
「こら、式、何さりげなく手ぇ繋いでるのよ」
 少し先を歩いてた鮮花が、振り向いて気付いた。
「とっとと一人でこんな太鼓橋を渡ってったのは鮮花じゃないか」
「そ、そうだけどっ」
 初詣と言うので、鮮花も珍しく和装をしている。式に着付けてもらうことになったのが口惜しいらしく、今年は習いに行くって息巻いてた。家族としての贔屓目であろうことを差し引いても、我が妹は美少女だと思う。だから、せめてもう少し、淑やかであれば良いのに。学校では充分に擬態してるみたいだけど、中身はとんでもない。
「良いじゃないですか鮮花、手を繋ぐぐらい」
 と、反対側の手も握られた。
「藤乃っ」
 鮮花が小さく叫ぶのを聞きつつ顔を向けると、頬を赤らめて藤乃ちゃんが笑っている。ひょっとして、お屠蘇を戴き過ぎてないかな。いつもは、もっと控えた態度だし。
「ねえ、幹也さん?」
 右手を、温かい両手で包んでくれる。
 やっぱり和服で、姿としては一番華やか。この大切な女の子にしても、全くニュートラルには見てないだろうけど、やっぱり群を抜いて綺麗だ。
「な……」
 式はともかく、藤乃ちゃんには強く言えないらしく、鮮花は不承不承引き下がった。
 そういう風に、人目を惹くほどの外見をした女の子たち三人に囲まれて人込みを歩いているわけで、目立ってしまうのは不可避のようだった。
 そのこと自体には慣らされているけど、時々、本気で絡まれてしまうのには参る。幸い、式に一睨みされて退散してくれたのだけど、さっきも数人連れの少年達がいきなり囲って来たりした。
 すぐに逃げてくれたのは、ほんとに幸い。
 長い参道を辿って社に着く。式が財布を探った隙に、鮮花が左手を取り、勝ち誇って見せている。
「馬鹿式、階段の目前で手、離してどうするのよ」
 でも、式は笑っただけ。
 十段ばかりの石段を登り、賽銭箱の前に出た。礼園はキリスト教系の学校だけど、鮮花も藤乃ちゃんも、拘りはないみたい。それぞれに小銭を投げ、手を打ってお辞儀をしている。
 僕も、旧年の幸に礼を述べ、息災で平和な一年を祈った。去年、一番良かったのは、藤乃ちゃんの無痛症が完治し、それに伴う色んなことも解決を見たってことだ。
 それと、この四人のおかしな関係が始ったことも……悪いことではないのだと、思うことにする。真っ当に考えると、罰があたっても地獄に堕ちても文句の言えた義理じゃないのだけど。
 お参りを終えあと、鮮花が一大イベントであるかのように口を開いた。
「さ、御神籤を引きに行くわよ?」
 途端に、何故か式と藤乃ちゃんに緊張が走る。
「うん」
「はい。行きましょう」
 まるで、戦場にでも赴くかのように、三人は歩き出す。置いて行かれそうになって、慌てて付いて行く。御神籤は、社の横の方でやっていた。漆塗りの筒から串みたいなのを引く、古典的な籤だ。
 順に引いていく三人とも、裂帛の気合を込めている。それぞれ、内容の書かれた紙片を受け取って、一斉に中を見た。
「中吉!」
「ああ、ただの吉だ」
 式より良かったのがそんなに嬉しいのか、鮮花は満面に笑いを浮かべる。でも、それも藤乃ちゃんが告げるまでだった。
「あ……大吉、です」
「ええ?」
「はは、負けだな、鮮花」
 藤乃ちゃん、すごく華やかに笑ったけど、すぐにちょっと申し訳無そうにする。それに、元から血色の良かった顔が、もっと赤くなった。
「大丈夫? 酔ってない?」
「いえ。大丈夫です」
 そう言うけど、目を伏せがち。
「しょうがないわね……ほら、今度は兄さんの番です」
「ん? 僕も引かなきゃ駄目なの?」
 その気が無かったから反射的に口を突いて出た言葉に、三人は口々に駄目だと言う。
「まあ、良いけど」
 自分だけやらないのも確かにノリが悪いかと思い、賽銭を支払って筒を手にする。途端、軽い気でいる僕と裏腹に、三人がほとんど空気を固化させた。三様に僕の手元を見詰めていて、火花でも飛びそうなぐらい。中でも鮮花は、何か呪詛でもしてるのかと思うほど。
「えーっと、十九番?」
 数字を告げて、結果を貰った。
「中吉」
「やったっ……って、あ、違う……」
 僕の結果を一瞬だけ喜びかけた鮮花は、すぐに沈む。対照的に、式は楽しげ。
「良いじゃないか、凶とか居ないんだし、鮮花は幹也と二人、仲良く中吉なんだし」
 でも、話し方に妙な含みがある。
「そうだけど。ああ、何で、同じはOKにしなかったんだろ、私」
 何のことだか判らないけど、気に入らないらしい。尋ねてみても、まともな返事は返ってこなかった。それどころか、急に式と二人で歩き始めた。慌てて追いながら、藤乃ちゃんにも訊いてみる。
「鮮花が何を言っていたのか判る?」
 そうしたら、ますます俯いて、呟く。
「えっと、そのお話は家に帰ってからにして戴けませんか」
 判らないながら了解して、帰路に就く。家まで、藤乃ちゃんと手を繋いだままだったのだけど、今度は式も鮮花もちょっかいは出して来ない。先までとは打って変わって姉妹みたいに睦まじく、途中から二人も手を握り合ったりしていた。
 一駅ほどの距離をのんびりと歩いて、家に着いた。式がお茶を淹れてくれて、四人でテーブルを囲む。
「それで、藤乃、説明はしたの?」
 鮮花が切り出す。御神籤のことだろう。
「いえ、まだです」
 返事する藤乃ちゃんは、やっぱり凄く顔が赤い。
「ほら、ちゃんと説明しないと無かったことにするぞ、藤乃」
 式が、ちょっと意地悪な笑いを見せる。言われて、藤乃ちゃんは僕の方を向き、ためらいがちに口を開く。
「その、御神籤で一番、良いのを引いた人が、幹也さんと……」
 また目を伏せ、声を落としながらも、続ける。
「今年最初に、一緒に寝る権利を……」
 ぶはっ。
 思わず、お茶を吹きかけた。そんなこと、御神籤で決めようとしてたのか。
「それに、兄さんが中吉なんて引いてしまうものですから」
 鮮花が、ちょっと不機嫌に言う。
「僕の結果も関係あったの?」
「幹也より良いのを出した場合は参加可能ってルールを鮮花が付け足したんだよ、ぎりぎりになって。それで、お前と同じ中吉だっただろう?」
 参加って。なんか、無茶なこと言ってるなあ。
「兄さんと同じでも良いことにしてたら、式だけ抜きに出来たのに、口惜しいなあって」
 鮮花、笑いはしているけど、真剣に残念そうではあった。
「……でも、それじゃ、僕は悪い結果であるほど良かったってこと?」
 一体、何だと思ってるんだ。言ったのだけど、すぐ反撃される。
「兄さんにとっては、何人もの女性といっぺんに同衾するのは、そんなに良いことなんですか」
「いや、そう言うわけじゃ、ないけどさ」
 慌てて取り繕う。確かに、そんな風に言ってることになってしまう。
「まあ、良いわ。私は式と慰めあってるから、どうぞごゆっくり、藤乃っ」
 立ち上がりつつの捨て台詞に藤乃ちゃんは返事をせず、ますます赤くなる。
「鮮花、お前ね……まあ、藤乃一人ってのが一番平穏だったとは思うけどな」
 呆れながらも、式も鮮花に続いた。
「がんばれよ、幹也。藤乃が独り占めなのは、今日だけだからな。覚悟しておけ?」
 腕を組むようにして、二人は出て行ってしまった。
「えっと……」
 二人残されて、思わず束の間だけ顔を見合わせた。照れてしまって、互いに横を向いたけれど。
「藤乃ちゃん?」
 呼びかけたら、びくっとしてから、おずおずと口を開いた。
「その、幹也さん。今年も、よろしくお願いします……」
 小さく、でも言葉はしっかりと、言う。
「うん。こちらこそ、どうぞよろしく」
「はい」
 俯いたまま固まっているから、意を決した。僕から動いてあげないと。
 顔に手を添えて僕の方を向かせると、黙って唇を重ねた。びっくりして硬直しているから、目を閉じさせて、キスを繰り返す。今度はすぐには離れず、そっと舌を伸ばす。やがて、藤乃ちゃんも応えてくれた。
 丹念に、舌を絡める。唇も舌も、ふっくらと柔かい。仄かに、良い匂い。息苦しくなるまでキスを続けて、また顔を見合わせた。
「その……まだ、まるっきり昼間だけどさ」
「……何ですか? 幹也さん」
 とろんとした目も、もう、お屠蘇のせいじゃないはず。
「……する?」
 ストレートに、尋ねる。
「でも、脱いだら自分で着られないですし……」
「ふふふ、服を脱ぐようなことなんだ」
「み、幹也さん! ……いぢわる、です……」
 もう一回、口付けたあと、今度は耳に唇を寄せて囁く。
「大丈夫だよ、また式に着付けて貰えば良いし」
 藤乃ちゃんも耳は弱いから、擽ったそうに、もがく。でも、赦してあげない。
「幹也さん、凄いこと言ってますよ? 恋人に、他の女の子を抱いた後始末をさせようとしてるんですから」
 ああ、そうか。でも。
「それを言うなら、他の子を抱いている時点で酷いやつじゃないか」
 耳朶を唇に挟んでやる。
「あふ……そうですね。幹也さんは、とっても悪い人です」
 またもう一度、接吻して、寝室に場所を移した。
 皺になったりすると面倒だから、着物を脱いでもらう。
「へえ、着物でもそういう肌着なんだ」
 ちょっと見慣れない形だけど、普通にブラとかを着けている。
「え? ――ああ、はい。和服用なんです、これ。着けないのは落ち着かなくて」
 言い訳するように、照れていた。
 下着姿でベッドに身を横たえてもらい、藤乃ちゃんにそっと覆い被さる。肌が上気して血色良く、眩しいばかりで、ブラやショーツの清楚な白さが映える。長い黒髪がシーツに広がって、艶やかに輝いている。
「幹也さん?」
 見惚れていたら、焦れたように名を呼ばれる。でも、催促してしまったことに照れたのか、こっちを向いてくれない。
「今年もよろしく、ね」
 頬に手を当て、顔を下ろして口付けた。さっきもキスはしたけど、この状況になると想いが違う。柔らかさが、朝に食べたお餅とか思い出させる。
 ちゅ……ぺちゅ……
 おずおずと伸びてくる舌に応えて、絡ませる。とろりとした唾液が甘い。僕も上は裸だから、肌が触れ合って気持ち良い。
 半ばいつもコースになっているけど、口を耳元に移す。耳の後ろをぺろりと舐めたら、首をすくませた。敏感だなあ、と可愛らしく思い、しばらく前には敏感とか何とか言う問題じゃなかったってことに思いを馳せた。
 本当に、この子ばかりは、幸せにしてあげたいと思う。
 かぷ。
 耳朶を咥える。手で、首筋をくすぐる。髪か、香水か何かなのか、穏やかな良い匂いがした。
「あんっ」
 悶えるから、もっと続けてしまう。唇を滑らせて辿っていき、顎の下あたりをぺろぺろする。額を押えて、逃がしてあげない。
「んんんっ」
 抑えた喘ぎ声に、もっと色々してあげたくなり、鎖骨を辿って腋のあたりへ。
「そこは……」
 万歳させて、滑らかな窪みに吸い付いた。べったり、舌を付けて味わってみる。
「そんなトコ……汗臭くないですか」
「んー、汗の匂いはちょっとするけど、別に臭くなんか無いよ?」
「そ、そんなっ」
 腕を下げようとするけど、流石に腕力は僕の方が上だ。
「良いじゃないか、藤乃ちゃん、ここは気持ち良いみたいだし」
 そう、腋の下はかなりの弱点だ。
 ぺろんぺろん。
「にゅっ」
 周囲から中へ、何度も繰り返し舐めてあげる。中央に口を押し付け、吸ってみたり、吹いて唇を震わせたりする。
「うふふふふっ、くすぐったいですっ」
 離れて、ほっとしてるのを見て、反対側に移って同じことを繰り返す。
「あン、幹也さん、駄目……」
 脇腹に手を当てて撫で上げ、胸の膨らみに登った。ブラの薄い布地越しに、柔らかい塊を楽しむ。こんな時に、他の子のことを考えるなんて失礼だとは思うけど、藤乃ちゃんは一番バストが豊かだ。
 顔を上げると、やっと急所攻めから解放された藤乃ちゃんはちょっと僕を睨んでいた。
「ふふ」
 視線から逃れるように、胸の間に顔を埋める。しばらく、滑らかな布地をなぞっていたけど、我慢出来なくなる。背中の下に手を滑り込ませ、ホックを外す。
「やん……」
 抵抗されないうちに、素早く剥がしてしまう。白い、二つの大きな膨らみが露わになり、やっぱりお餅を思い出したりする。丸っこくて中央のツンと尖った曲面があんまり綺麗で、勿体無い気がしてしばらく眺めていた。
 我に返って手を添え、お餅を丸めるみたいに擦る。柔かくて瑞々しい肌は、気が変になるぐらいに気持ち良くて、両手で揉みながら、また顔もくっつけていた。
 舐め上げて、衝動を抑えて先っぽに口付けるのは我慢する。代わりに、周りだけ舌で辿ったり、唇で覆ったりする。手で乳房を掴んで、でも藤色の乳首は指で挟むだけ。
「あん……」
 痒い背中をシーツに擦り付けるみたいに、体をもぞもぞ捻っている。こういう、焦らすとかの意地悪をしたときの反応は可愛いのだけど、おねだりさせる加減はまだ掴めていない。
 ちゅっ
 だから、今日は黙って進攻する。すべすべした乳首がすぐに堅くなり、舌先にも、指先にも快い。
「あっ、ふあ……ん……」
 上に戻って口付けながら、手は下に伸ばす。膝のあたりから、内腿を胴の方へ攻め上る。慌てたように脚を閉じるけど、そんなことには怯まない。また移動してお臍にキスしたあと、平らなお腹にも片手を置き、上下から挟み撃ちにする。左手が上からショーツの下に潜り込む頃、下からは、女の子の部分を突付いていた。
 くちゅ。
「もう、すっかり潤ってるね」
 顔をちらちら見ながら、言う。顔を向こうに向けて、返事はしてくれない。ひたすら恥ずかしがって、何も言ってくれなくなることは藤乃ちゃんには多い。
「脱がすよ?」
 嫌がるようなことはしていないって自信はある。だから、こっちから進んであげる。
 小さく頷いてくれたのを見て、膝をそろえてふっくらしたお尻を持ち上げると、布地を抜き取った。
「ほら、もう何も隠すものはないよ?」
「あん……恥ずかし……」
 隙を突いて脚を広げさせ、間に陣取っていきなり秘所にキスしてしまう。
「舐めたりとか、して欲しい?」
「んんっ、また、そんなこと……訊かないで下さい」
 羞恥で更に肌が赤くなった気がする。でも、律儀に答えてくれる。
「……して欲しいです、けど……」
 それだけ聞ければ充分だから、舐めてあげる。
「ん……ぁん……ふあっ」
 口を押し当て、舌を突き入れるつもりで動かす。秘花の滴らせる蜜を啜る。舌に甘さは感じないけど、脈打つ肢体が心を弾ませてくれる。僕の小さな動きに応える唄声に、背筋がぞくぞくする。蜜の香りは藤乃ちゃんが一番はっきりしてると思うのだけど、言うと恥らって泣いちゃいそうだから、黙っている。
 まあ、今のところは。
「あっ……幹也……さん……」
 必死で声を抑えているのが判るから、手を緩めずに責め立てる。
「ふぁうぅ……」
 藤乃ちゃんを愛していると、毎度、無痛症だった頃の彼女に同じような愛撫をした時のことを思い出す。何をどうしてあげて良いのか判らなくて、結局、しつこいぐらいに全身を隅々まで、触って撫でて口づけて。突付いて揉んで舐めて。頬擦りして吸って擽って。
 心が痛むなんて口にした手前、心が愛撫を感じられるまで愛そうと思った。
「まだ、もっと敏感なところが残ってるよ?」
「あーん……」
 煽っておいて、クリトリスを唇で挟む。舌を出して包皮を捲り上げ、転がす。
「ひゃぅっ……んぁん……」
 心なんて、あるのかどうか判らないし、決められない。なら、信じてやれば良いと思う。思いが通じたなんて、自惚れるつもりは無い。だけど、何かが応えてはくれたのかも知れない。
「行くよ、覚悟してね?」
 言うが早いか、するりと藤乃ちゃんの中に指を差し入れる。
「はう……」
 柔かいくせに指を掴んで来るような肉の中を進んで行き、探りを入れる。
「幹也さん、駄目です……」
「だーめっ」
 多分、唇を噛んでる。でも、そんなことじゃ隠せない。内外から鋭敏なところを襲われて、もう陥落寸前。
「ああっ、ふぁあ、ひあっあっ……」
 指を抽送し、小さな突起を舐め回し、その上お尻の谷間にまで攻めかかる。
 太腿で頭を挟まれるけど、柔かくて温かいだけ。藤乃ちゃんの匂いがちょっと強くなっていて、痙攣したみたいに全身が脈動し始めている。
 本人は、一人で先走ってるみたいで困ると言うのだけど、愛撫だけで逝かせてあげられるのが嬉しくて、ここ最近は毎度そうしてしまう。
 果てるのが近いのを感じて、膣内の一番弱いポイントを激しく擦り、舌も、攣りそうなほど速く震わせた。
「みき……」
 言いかけて声にならない。頭に手があたって、髪を掴まれる。もちろん、怯まない。
「あぁー……んぁ……」
 ひときわ高く、声にならないような悲鳴を発した。髪が引っ張られて痛いけど、続ける。
「くふ、ぁふっ、ふあっ……」
 息苦しそうな声と友に、一瞬、太腿に更に力が入る。次の瞬間には脱力して、荒い息遣いだけが耳に届く。
 そっと体を起こし、脚を真っ直ぐにさせてから、沿い寝て抱き締める。
「あん……みきや、さん……」
 それだけをぼんやりと口にして、口付けて来た。しっかりと応じて、甘美なキスを交わした。
「わたしだけ逝かせないで下さいって……いつも言ってるのに」
 やっぱり言われたから、もう一回、口を塞いだ。離れた時、まだちょっとだけ不満げだったけど、笑ってはくれた。
「こういうときだけ、絶対お願いを聞いて下さらないんですから」
 と、当然とっくに大きくなっている僕のペニスに、布地越しに触れてくる。
「大人しくなさってくださいねっ」
 僕を仰向けにさせて、ベルトを外して、ファスナーを下ろして。恥ずかしそうに、でも着実に。腰を上げて抜き取るのを手助けし、待っていると、とうとうトランクスも下ろしてくれる。
 ふっくらした指が、先端から僕のものを包み込む。触れられてしまうとじれったくなるけど、我慢する。愛しげな仕草だと思うのは、男の身勝手だろうか?
「うふ……」
 笑いを零して、唇を付けてくれる。閉じたままの口を、先端から根元の方まで滑らせ、何度も往復する。唾液に湿った滑らかな感触は、もどかしいけど、陶酔させられるほど気持ち良い。
「あぅ……」
 いきなり舌を使われて、呻いてしまった。楽しそうに、今度は舌で往復してくれる。手を袋に添えて、緩やかに揉み解してもくれる。
 何より、尽くされているっていう印象が強い。そんなに刺激が強いわけじゃないけど、一心さに絆されて蕩けて行く。
「くっ」
 そんな意図は無さそうだけど、藤乃ちゃんはいつも唐突に責め手を変えてくる。今回も、いきなり口に含まれた。舌までふくよかなのか、柔かいものに締め付けられる。あまり深くは咥え込んで来ないけど、それだけに、敏感な穂先あたりばかり集中されることになる。
 ちょっ、ちゅっ、ぺちゅ……
 熱心に舐められる快感に、あちこち力を入れて、耐える。
「気持ち良いですか?」
 不安なのか、わりといつも問われる。
「うん、気持ち良いよ。気を緩めたら口に出しちゃいそうだ」
 安堵したように微笑み、先っぽをきゅうっと吸って、尿道口に舌を入れるようにしてくる。
「うわぁっ」
 おまけに、また睾丸を揉まれて、もう射精しそう。
「駄目、藤乃ちゃ……」
 声を出したら気力が抜けそうで、黙った。口の中が熱くて、柔らかで、痺れるほどの快感。もうしばらく堪えるうちに、息が続かなくなったのか、やっと中断された。
「口に出して下さって良いのに」
 息を吐いて、また、かぷりと咥える。
 実際、飲んでくれたことも何度でもあるけど、申し訳なく思うのには変わりないんだ。
「判りました。やっぱり、これが良いんですね?」
 悪戯に笑って、豊かな双丘で僕のものを挟んでくれる。藤乃ちゃんでないと出来ないから、これをするのは楽しいみたい。自分の女らしい体つきを嫌っていた時期もあったから、受け入れているのが判るのは嬉しい。
「はぅ……んっ」
 単純に気持ち良くて、これが好きなのは確かだけど。
 もち肌の乳房に包まれて、また大きくなってしまった気がする。薄紅の綺麗な丸みの間から、変な格好に思える亀頭が出入りしている。きめ細かな肌に磨かれて、神経に直接快感が届いていくみたい。
 こんなことまでしてくれるのが嬉しくて、知らず、頭を撫でていた。まっすぐな髪はさらさらしていて、梳ると息を呑む想いがする。
「藤乃ちゃん、もう、逝っちゃいそうだから……」
 言うと、余計に動作が激しくなる。
「うふふっ」
 耳を摘んだら、目を瞑って少し悶えた。仕返し、とばかりに、おっぱいの間から突き出すペニスを咥えてくれる。挟みつける力が強くなり、更に追い詰められる。唾液に塗れて、ぬるぬるした感触になり、擦れる感じが薄れて単純に快感だけになっていく。
「ん、あぅ……」
 両手で耳を責めてみるけど戦果は上がらず、余計に激しい反撃を招くだけ。
「ちょっ、と、ほんとに口に……」
 それも気持ち良いし、全然嫌じゃないんだけど、汚すみたいで済まなく思う。でも、藤乃ちゃんはむしろ望んでくれているみたいで、ちっとも止まろうとしない。
 また、きゅっと先端を吸い、舌をぐるぐる動かし、頭を振りたくって刺激される。お尻の方から沸き立つような感覚あって、もう限界だと判る。
「ごめんっ……」
 口にした途端、弾けてしまった。
 びっくりしたのか藤乃ちゃんは頭を引き、そのせいで口から外れて、吐き出された精液が顔にかかってしまう。
 その様子を見ながらも、まだ快楽に捕まって動けず、幾筋も顔に落ちていく。まだ脈打つペニスを藤乃ちゃんは口に受け入れ、残りを吸い取ってくれる。袋を包み、竿を扱きまでして、存分に射精させてくれる。
 清楚な顔つきなのに、匂い立つほど艶やか。妖しい眼。白いものが掛かって、こんないやらしい姿もないだろうに、卑しくは見えない。
 やっと動けて、手を伸ばす。
「ごめん、顔になんて」
 頬から、自分の放った白い液体を拭い取ったら、その手を捕まえて舐めてくれる。顔に付いているのを取る度に、吸い取ってくれる。
 正直に言えば、それが嬉しいから、丹念に拭き取っていたのだけど。
 綺麗になった後、もう一回、性器にキスしてから、藤乃ちゃんは抱き付いて来た。
「ほんとにごめん、口に出す気なんて無かったんだけど」
 頭を撫でながら、繰り返す。
「ふふふ、そんなこと良いんですよ。幹也さん、わたしとかが幾ら駄目って言っても赦して下さらないですから、仕返しです」
「はは……」
 苦笑するしか無かった。この子にそういことをされるとは、思わなかったから。
「式さんとか、鮮花とかには、色々敵わないですけど、わたしだって、今日一日幹也さんを独り占めって言う権利は充分楽しませて貰うつもりですから」
 可愛らしく宣言する顔を覗き込んだら、案の定、ほんとに耳まで赤くなっていた。目を開いてくれないから、口付ける。離れようとするけど、捕まえた。それからまた、胸に抱き締める。
「まだ全部、飲み込んでなかったのに。変な味、しませんでした?」
 消え入りそうに、囁いている。
 やっぱり、そうか。ちょっと早まったかとは思った。
「大丈夫。すぐ飲めないようなもの、含ませちゃったのは僕なんだし、そんなこと構わないよ」
 頭と背中を撫でる。汗が浮いて、肌が濡れている。
「と言うより、吐いてくれて良いんだし」
「いえ、その……」
 もっと小さな声で、途切れつつ、言っている。
「別に、飲み難いわけじゃ、無いんですけど……その……」
 ぎゅっと抱いていると、続ける。
「すぐ飲んでしまうのは……勿体無くて……」
 なんだか、強烈なことを言われた気が、した。
「藤乃ちゃんっ」
 上に乗って、もう一回口付けて、胸に顔を埋める。失礼は承知で、だけどやっぱり、ここが一番藤乃ちゃんを感じるところ。思いっきり揉んで顔を擦り付けて、乳首に吸い付いて。
「あふっ……甘えんぼさんっ」
 頭を抱かれる。
「ふふ」
 ぺろぺろ、おっぱい中を舐めまわす。微かに汗の塩気があって、乳首だけ舌触りが違うのが何か甘美。左右から寄せて、両方いっぺんに口に入れて、味わう。僅かながら、左右で堅さは同じじゃない気がする。
「くんっ」
 多分、藤乃ちゃんは右の方が敏感だ。左を揉みながら右を吸うってことが多いせい、かな?
 だとすれば、そんなにも僕を刻んでしまっている。
 吸い付いて、二つの山に沢山キスマークを付けてしまう。まだ飽き足らず、自分の物だって主張してるみたいで、やっておきながら呆れる。
 だけど。僕のものに、してしまいたい。藤乃ちゃんを包んで。彼女を融かして。この子を染め上げて。古い、他の色も何もかも、洗い流してしまいたい。
 毎度、そう思う。
「行くよ?」
「……はい」
 脚の間は、とろとろに溢れている。僕の方もすっかり回復しているから、探って狙いを定める。
「ほら……」
 先端が当り、そこから静かに、だけど一息に貫いた。
「あっ……えいっ」
「かはっ」
 根元まで包まれた感触に呑まれそうで呼吸を整えていたら、締められて悲鳴を上げる羽目になる。思わず、おっぱいをぎゅって握っていた。
「くんんっ」
 痛かったのか、ちょっと顔を顰めている。
「ごめん」
 キスしながら、ゆっくりと腰を引く。またゆっくりと、押し入る。顔を眺めながら緩やかな動作を続け、表情が安らぎ、笑いに溶けるのを見て、少し安堵する。気持ち良いけど、まだ感触は穏やかだから、見ていられる。
 じっと見てるのに気付いたのか、藤乃ちゃんは横を向いてしまった。でも、頬っぺたに手を添えて上を向かせる。反対側に顔を向けるから、そっちからも挟みつけた。
「やぁん……」
 目を閉じて、頭を仰け反らせる。
「綺麗だよ……」
 言った途端、藤乃ちゃんの中が凶悪になった気がする。
 元来、藤乃ちゃんの中は、温かくて優しい。繊細に緻密に、隅々までみっしりと覆ってくれる。ただ、奥まで入るたびに、一本ずつ新しく何か巻き付いてくる気がする。初めの心地良さを堪能しているうちに、捕らえられて文字通り抜き差しなら無くなる。
「やっぱり凄いや、藤乃ちゃんは」
「はふ……何が、ですか? ……あんっ」
 本人には、まるで自覚が無いみたいだけど。
 ……こんなだから、繰り返し。
 余計なことが頭に浮かんで、弾き飛ばそうと背中を曲げて乳首に口付ける。手でクリトリスを探りに行く。
「はぁ……あ……」
 がくん、と体の下で藤乃ちゃんが震えた。声が上がり、途切れ途切れに、続く。空いている掌に爪を立てて気を逸らせながら、腰を動かす。
 顔を上げて、口をぱくぱくさせている様子を確かめて、反対側の乳首に吸い付く。指は、こりこりした突起を弄りつづける。ますます稠密に張り付いてくるような秘裂を、休まずステディに穿つ。今にも放ってしまいそうで、唇を噛む。絶対、真っ白になるまで感じさせてあげる。
「あっ……ひあっ、んくっ……んんぁあー」
 細い声が耳から流れ込んで、頭の中を掻き乱す。全身、神経がますます鋭くなって、苦しいほど藤乃ちゃんを感じている。甘い、女の匂いが胸を満たす。そんなに変わるものじゃあるまいけど、ペニスを包む肉が凹凸を増して行く気がする。突き穿つ切先が、しなやかに捕まえられ、削り落とされ、刃引きされて行く気がする。
 僕ばかり悦楽に溺れそうだから、手を上げさせて腋の下を舐める。
「ひゃ、ひうっ」
「かふっ」
 効果は上がるけど、きゅって締め付けられて、僕の方も危ない。
 全身で藤乃ちゃんを感じている。肌の味。匂い。温かい体。抵抗の強くなった膣を貫いて、一心に動く。細かいことが出来なくなり、ただ抱き締めながら。
「みき、や……さ……」
 ずっと搾っていたスロットルを開いて、体が求めるままペースを上げる。昂ぶった快楽に駆られて、ターボチャージャーめいた加速。
 まだ快感が高まるなんて信じられない。到底、正気では居られない。
「くふ、あ……」
 溶ける。藤乃ちゃんを見て、同じぐらいに溶けているから安心して、身を任せる。起き上がり、脚を抱えて引き寄せて、突く。視野狭窄して藤乃ちゃんしか見えない。身も世も無く喘ぐ顔。物静かなこの子を、自分がここまで乱れさせているのだという征服感。
「あっ……あっ……あぁ……」
「う、ぁう……」
 融ける。あまりに熱くて、どろどろに融け合っていそう。左右対称に揺れている大きな胸。薄赤の乳首が描く模様。藤乃ちゃんしか知覚できない。融け合っているなら、それは自分でしかない。一体感。気持ち良くて、それしか感じられなくて、飲み込まれて行く。それも、快美。藤乃ちゃんに喰らわれて溺れて帰れなくても省みない。
「みきや、さん、わたしっ」
「ふじ、の、ちゃ……」
 名を呼び合って、熔け合った。とっくに液化した僕の体の中身が噴出して、藤乃ちゃんに混ざっていく。放つだけ、幾らでも受け入れてくれる。空っぽになりそう。
 いつの間にか、抱き合っていた。まだ、背骨を抜き取られるような快感が続いている。また、互いの名を呼び合っている。
 この子のことが、愛しい。世間のしがらみや常識や良識やを引き摺りつつも、この子が大切なのには、違いは無い。
「あは……」
 おかしな声を出している。次第に頭がまともに動き始め、全身で触れている柔らかな肌を知覚し、しっかりと藤乃ちゃんを認識する。
「気持ち良かった?」
 いろいろと判り切っているけど、訊いてみる。胸に頬を擦り付けながら、囁いてくれる。
「幸せでした……いえ、幸せです」
 また、恥ずかしがらせてみようかとか思っていたのだけど、こんなことを言われて、僕の方が死にそうに照れる羽目になる。
 三人もの女の子と関係していて、そのうち一人は血の繋がった妹だ。さっき藤乃ちゃんにも言われたけど、悪いやつだと思う。だけど、身勝手と判っていても、それぞれの相手を抱く度それぞれの相手をますます大切に思う。そのことには、偽りは無い。
 三人のうちの誰に比べたって、僕には力は無い。
 何をしてやれると言うものでも、ない。
 それでも。
 僕が、この子たちの拠り所になれると言うのなら。
 その勤めだけは、果たしたいと――――思う。

/年の初めの 1・了

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 私はカップルとしては迷い無く幹式が好きなのですが、藤乃や鮮花を放置はしておけないのです^^;

 

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