年の初めの


◆2

 これから二人が何をするのか重々判りつつ、藤乃と幹也を残して隣の部屋に出た。自然と握ってしまっていた手を慌てて放すと、式は静かにソファに腰を下ろす。
「なんか、平然としてるわね、式」
 呟いたら、ん? なんて具合にこちらを見る。
「あんたね……幹也の恋人ってことになってるくせに、これから幹也が他の子と仲良くしようとしてるのは平気なの?」
 どうにも勝手な言い掛かりだけど、余裕かまされてるみたいで腹立たしいのだ。
「平気じゃないさ」
 だから、この返事はちょっと意外でもあり、ちょっと嬉しくもあり。
「でもお前、そんなこと言って良いのか? オレが当然の権利として幹也を独占しても」
「何が当然の権利よ」
 言いながら、やっぱり拙い話をしてしまったと思う。
 実際、式が受け容れてくれたから、今みたいな関係が生まれたのだし。
「悪かったなあ、大好きな『お兄ちゃん』を盗ってしまって?」
 お兄ちゃん、と強調して言ってくる。
「うるさいわね」
 話の方向を変えようと、ネタを探しながら式の様子をうかがう。それで、朝からずっと見ていたはずなのに、ちょっと見惚れてしまった。
 悔しいけど、綺麗。日々和服姿で過ごしてるだけに、晴れ着がしっかりと馴染んでいる。いつの間に覚えたんだなんて思うけど、今日はきちんと化粧していて、普通なら下品に見えそうなほど紅い唇も雪肌の式にはつきづきしい。墨染めの髪が少しだけほつれて垂れているのが色っぽい。中性的な顔立ちなのにどうしてこんなにと思い、気が付いた。この艶っぽさって、むしろそのせいなのかもってこと。実際、見事に女装した美男子なのだと言われたら、素直に納得してしまいそうな気配。
 式に向かって、あんた男でしょうなんて言ったものだ、それも数度にわたって。それをきっかけに式と、色々……。思い出したら、多分もう幹也は藤乃と、なんて考えてしまい、藤乃になんの恨みもないけど羨ましくはなる。
「ねえ、式?」
 私は式と慰めあってるから、なんて言い残したの、冗談のつもりだったのだけど。
「ん?」
 式になにげなく見詰められる。昔より、ずっと目つきも穏やかになっているし、何やらドキッとしてしまう。ちょっと横を向き、黙って式の隣に腰掛けた。
「その……」
 不思議そうに私を見て、何か気付いたみたいに笑う。
「……判ってるんでしょ」
 やっぱり、その、私だって恥ずかしいわけだし。
「何がだよ」
 笑いが、ちょっと意地悪になる。
「いざ始めたら、しおらしいくせに……」
 式の頭を両腕に包む。襟元のあたり、何か良い匂いがする。首筋に息を吹きかけてやると、身を震わせた。
「ふふふ……」
 ぺろ。
 耳朶を舐めたら、首をすくめている。仕返しに顎の下あたりから擽られる。気が付いたら、両腕を抑え込まれている。
「こら、式」
 顔を引いて、正面から向き合う。幹也が初めに惹かれたって言う式の黒い眼には、私も、見つめ合ったら引き込まれる思いがする。だから、瞼を下ろして唇を重ねた。そっと舌を押し入れたら、ちゃんと応じてくれる。ゆっくり舌先を擽り合い、甘い感覚に次第にとろけていく。
 式って、こんなにキス上手かったっけ。不思議な気分だ、こんなに憎い女も居ないのに、同時にこんなに愛しいのだから。
 ちょっとだけ大胆になって、互いの口の中を訪ね合う。唾が混ざって、とろとろしている。式の舌、噛み切ってやろうかなんて衝動的に思ったりする。でも、そんなことしたら気持ちいい時間が終わってしまうから、抑える。
 背中に回された式の手が、帯を解き始めていた。
「こら、ちゃんとまた着付けてくれるんでしょうね?」
「お前が良い子にしてたらな、鮮花」
「何よ、良い子って」
「なら、止めておこうか?」
「……だめ」
 私も、式の帯を解きにかかる。素直に言って、キスだけしておしまいなんてのじゃ我慢できないし。
「ほんとに好きだよな、鮮花」
 耳に口を寄せて吹き込んでくる。見なくても淀みない式の手に、もう帯は粗方解かれてしまっている。適当に言い返しておくけど、式って、確かに私よりは淡泊かもしれない。いや、一番幹也と一緒に寝てるのは式で、そこに間違いはない。ただ、私なんかとの間では、いっつも私が求めてしまっている。
「良いでしょ……気持ち良いのは主に式なんだから」
 これじゃ、どうにも私が式に溺れてるみたいだから、それぐらいで口を噤む。
 二人とも帯を外して、脱がしあう。はだけた着物の中に白い肌が覗いたしどけない姿は、それ以上脱がして裸にするのが惜しいぐらいに、扇情的。そのまま身を寄せ合ったら、やっぱり、ほのかに良い匂い。くっついた式の肌は少し冷たくて、私が酷く体を火照らせているのに気付かされる。花開いて落ちていく着物の中に式の手が潜り込んで来て、背中を撫で上げられる。
「あんっ……」
 しっかり敏感なラインを辿られて、声を漏らしてしまう。
「ん……」
 でも、式も同じようなところが弱い。妨害はせず、体をくっつけて背中を撫でっこする。乱れていく息を耳に感じて、自分の呼吸も更に荒くなっていく。人殺しのくせに細い手は巧みに動き回り、むずむずと焦れったい快感を背筋に注いでくる。
「んっ」
 式を押し剥がして愛撫から逃れ、なのに、すぐ抱え直す。キスしようとしたら、ひょいと避けて耳を噛まれた。
「すけべ」
 びくん、って震えている隙にこんなことを囁いてくる。私の方が欲情してるのは確かだから、言い返さず唇を奪う。甘いキスを交わしながら、今度は耳を擽り合ったりする。
 身に絡む着物が邪魔になってきて、とうとう花びらと散らせた。お互い淑やかなバストだから、和服となるとブラとかしてなくて、あっさり裸。あとはショーツぐらい。
 こうなるといつも思うのだけど、式の体って、ずるい。形は少女のまま、もっと言えばむしろ美少年めいているくせに、成熟した女を香らせている。綺麗で妖しく、賞賛と一緒に罪の意識が湧き上がって、まともじゃいられない。赦せなくて、自分のものにしたくなる。
 だから、ソファベッドに押し倒して、のし掛かった。背もたれを倒してリングを広くしておく。
 体を重ねて、改めて口を吸う。柔らかくて濡れた唇と舌が触れあい、ぴりぴりと快感の火花を散らす。擦れあう肌が甘美にざわめいて、爪先まで走っていく。背中を撫でられて、湧き上がった熱が頭のてっぺんまで登る。
「式……」
 初めは、屈折した代償行為だったのだと思う。幹也に愛されている、幹也の指や唇で思うままに触れられている肌に触れたくて。恋敵を辱める気分で。靡かない想い人への当てつけみたいに。
 だけど、式の肌は、優しかったのだ。
 何を余裕かましてるのよ、と腹を立てつつ、だんだん判って行った。式だって、普通に女の子らしく焼き餅も焼くことはあるし、意地張ったり、幹也に甘えたりもしてる。でも、根っこには、確かな信頼みたいなものがあるのだ。ひょっとしたら、当人達には自覚は無いのかも知れない。でも、私や藤乃を二人の間に受け容れたところで揺るいだりしない、確固たる絆と、絶対の自信があるのだろう。
 面と向かって認めてなんかあげないけど、敵わないやって、思わされた。
「式……」
 囁いて、またキスを。くっついてるだけでこんなに気持ち良いんだから、せっつくこともない。唾をたっぷり流し込んで、糸を引きつつ離れたら、喉を鳴らして飲み込んでくれる。顎から唇で降りていき、首を辿って耳へ。押さえ付けて逃がさず、耳朶の迷路を舌先で探る。
「ん、ぅふ……」
 私も耳は駄目だけど、式も相当に弱いみたい。いっつも幹也に責められてるうちに気持ち良くなってしまったと言うのだけど、そうすると、式の弱いトコって、幹也が好きな部分だったりとか?
 唇を滑らせ、淡く残る香水の混じった式の匂いを楽しみながら、胸の方へ。控え目な膨らみに掌を当て、瑞々しい温もりを感じる。頬ずりして楽しんだ後、乳首のあたりにキスしようとして、皮膚に残る淡い赤みに気付く。
「これって」
 私が口紅つけたりしたんじゃないってことは、指で擦って確かめた。肌の性質なのか、式には、わりと長いことこんな跡が残ったままになる。
「ん、キスマークでも付いてるか?」
 ちょっと可笑しそうに、囁いている。
「やらしいわね」
 キスマークも確かにある。でも、こっちは多分、指の跡。
「誰が着けたのよ、これ。ぎゅって揉んだりとか」
 判ってるけど、言う。
「鮮花じゃないんだろう?」
「違うわよ」
 式の口調は、あきらかに楽しんでいる。
「藤乃だったら、キスマークこそ残すかも知れないけど」
「うん」
 ちょっと不機嫌に、答える。藤乃の触り方は、もどかしいぐらい優しいから、こんなマーキングをすることはない。
「だったら、判るだろ」
 自分で付けたんじゃないの、なんて言うのは止めておく。式って、その、自分でそういうことしたりは無いみたいだし。不覚にも小さな弱みを握られて、目の前でちょっとだけして見せる羽目になったことがあるのを思い出して、独りで頬を熱くした。
 式の白い肌に残る、幹也の愛撫の名残り。よく見れば、あちこち沢山ついている。幹也に抱かれて喘ぐ式が、頭に浮ぶ。
 赤みを拭いとろうとするみたいに、舐める。ひとつひとつ、指で擦って、唾で濡らして、私のキスマークを重ねる。
「くふっ、んっ、あざ……か……」
 焦れったそうで、ちょっと嬉しい。触れてもいない乳首が堅く尖っている。刺激を欲しがっている。でもまだ、愛してあげない。幹也との愛の跡、全部消毒してからでなきゃ。
「ん、ぁあ……んふっ……はあぁっ」
 式の嬌声が激しくなって、気付いた。これ、幹也が良く知っている式の急所を愛撫で残した印だってこと。そうと知ったら、幹也に教わって式を責めてるみたいで楽しくなって、脇腹やら太腿やら全部、辿る。
「この肌、ちょっと私に分けなさいよ」
 無茶を言いつつ、平らなお腹に頬ずり。滑らせる手。愛撫は式に蜜含みの声を上げさせているけど、温かくて滑らかな触覚に私もぞくぞくしてる。
 両手で胸に触れる。すぐに登れそうな丘でも、柔らかさには心弾む想い。ちょっと強めに指を食い込ませて、私の跡を付けてやる。痛いと思うんだけど、これぐらいしても式は怒らない。
 見れば、控えめであれ充分に女らしい二つのふくらみは、薄紅と白のまだら。先端がはっきり尖って淫ら。
「いやらしいわね、こんなにギュってされて乳首堅くしてるなんて」
 言葉は無く、胸に抱き止められてしまう。熱くなっていた肌に酔わされて、かぷっと乳首に口を付ける。たっぷり唾を絡めて、舌先で可愛がる。
「んふっ」
 変に意地張ったりもせず、式は桃色の息を吐く。さっきから尖っていたけど、転がすうちにもっと堅くなった。
「あっ……」
 いつもの凛とした姿からは想像できないような乱れ方。そうさせているのが自分であることに興奮する。こんな式を独り占めはしていないのが悔しい気もあって、以前、同級生を紹介しましょうか、なんて式に言ったのを思い出す。なんだ、私の方がよほど男みたいだ。
 今度は鎖骨にキスする。乳首は指で責めながら。華奢な骨の上を舌で辿って、そのまま腋の下まで進んだ。見れば、こんなところにまでキスマークが残っている。
「幹也も、丁寧というか……しつこいわよね」
 愛撫されてるときは気持ち良くて気が向かないけど、思い返すと恥ずかしくて悶えるようなとこまで、触られる。
「ああいうの好きだろ、鮮花。すけべ」
「好きよ。お陰様で、幹也に触れられていない肌なんて無いわ」
「オレだって、幹也が味を知らないところなんて無いぜ」
「あ、味?」
 何よそれ?
 聞き返してしまってから、意味を解した。
 別に、難しくもない。
 体の裏表、文字通りに頭の天辺から足の指まで、お尻の谷間でもどこでも幹也の指が触れたことのない所なんて、私には無い。
 式は、同じように、幹也に舐められたことのない場所なんて自分の体には無いと言っているんだ。
「じゃあ、私も式の味をもっと調べてあげる」
 腕を掴んで守りを崩し、窪みをぺろぺろ。
 もちろん、式には焼き餅やいてる。幹也の舌を知らない肌なら、ありそうにも思うから。
 でも、同じぐらいに幹也にも嫉妬してた。そこまで、式の体を知っているなんて。
「くふふ……」
 紅い名残に唇を重ねて吸う。幹也にこうされて喘ぐ式は見たことがある。私も結構感じるし、藤乃なんかは急所だと言ってた。
「あははっ」
 でも、式は笑っているだけ。
「……くすぐったい?」
「うん。まあ、そっちの方が大きい」
 残念だから、くすぐったがるのを無視して舐めまくってやった。こういうとき、式は大人しくて、されるがままになってくれたりする。
「ふふふふふふっ」
 でも、ちょっとやりすぎたみたい。
「こら、いい加減に……」
 言いながら、私の頭を捕まえる。二人して転がって、式が上になった。血色の良い頬が綻び、紅の乱れた唇が額に降りてくる。眉間に口付けて舐め始め、そこから降りていって鼻の先にもキスされた。
 親愛なのか、馬鹿にされてるのか。
 律儀に目を瞑って、今度はその下、唇に。激しくはない、でも、的確。触れてはすぐ離れ、今さら軽い接吻の繰り返しで、焦れったくなる。口を突き出してしまって、笑われた。
「こういうときは可愛らしいんだけどな、お前も」
 途端に口を吸われて言い返せない。今度は熱くなって、お互いの舌で組み討ちする。暴れ回って口の中で争って、指では耳とか弄りあって。ただ触れているだけのお腹まで、気持ち良い。式の脚が私の腿を挟み、ちょっとだけ冷たい感触があった。
「式、濡らしてるでしょ」
 顔を押し退けて言ってやったら、いきなり脚の間を押された。
「ひゃっ」
 くちゅ、と言う感覚で、自分の状態も判った。
「鮮花こそ、もうこんなだぞ?」
 くちゅ、くちゅってショーツの上から押してくる。
「あん……」
 でも、それ以上はしてくれない。代わりに、乳首に吸い付いて、もう一方も指で転がしてくる。その指がちょっと濡れていて、たぶん私の液。
「んぁっ……」
 式って、ピンポイントで責めてくる。私の駄目なトコ直撃。私の好きなコトばっかり。
「あぁ……」
 胸……真ん中から、融けちゃう。先っぽ、弾けて……。
 二つの乳首を代わる代わる吸ってくれて、気持ち良いけど、もどかしい。
 だめっ……それ、好き……。
 もうちょっと、続けて欲しいのだ。足首をバタバタして、手を握ったり開いたりして、駄々捏ねてるみたい。
 お腹を式が撫で下ろしていって、そのまま遠慮無くショーツの中に潜り込んでく。
「あんっ、しき……」
 抵抗する間もなく、するりと式の指は私の谷間にたどり着く。軽く添えられて、期待に体がわなないている。なのに式はそのまんま、じっとしている。
「ぐしょぐしょだな、鮮花……」
 それだけ言うと、また乳首を吸う。舌で弄ばれる。唇で挟んで舌の裏で撫でてほっぺたを擦りつけて歯を当てて鼻の頭で転がして。
「んふっ、ふぁう……」
 気持ち良いけど、今度はお臍の下の方が焦れったい。脚を摺り合わせようとしてしまい、式の膝を挟むだけの結果になる。他の指がクリトリスの上を押えてきて、でもやっぱり動かない。
「式……してよ」
 式に焦らされるのは珍しい……幹也にはいつもされるけど。
「ん、何を?」
 まったく……基本に忠実ね。ためらっていたら、指は使ってくれないまま、またキスされた。それから、囁いてくる。
「ほら、何をして欲しいんだ? 鮮花」
 生意気。でもこの体勢なら……。
「こういうことっ」
 私も式のショーツに手を入れて、クレヴァスに指を沈める。
「あぅっ」
 式が喘ぐ。
「ほらほらっ」
 ぐっと指を押し入れた。
「んんっ……ふ……」
 甘く息を弾ませながら、とうとう式も指を動かしてくれる。
「あんっ……」
 向き合って並んで寝て、お互い片手だけ女の子に延ばして、くちゅくちゅ責め合っている。まだ、一番強烈なトコにはどちらも手を出していない。触れ合うだけのキスと、唇の舐め合いを繰り返している。女同士は、この焦れったさと共有できる感覚が好き。
 でも、もっと登りたいのも確か。
 指を、深く。速く。ひねったり、曲げたり。とろとろに潤った式の中の肉は、指を掴んで放さないみたい。
「ひゅん……」
 私も、踊り回る式の指に唄わされてる。
 気持ち良いけど、焦れったい。これだけじゃ登り詰めにくいのは互いに判ってる。意地の張り合い。
「変態」
 不意に式が無意味に言う。これって大体、我慢できなくなってきたサイン。
「ふふふ、何か、して欲しいこと、あるんでしょ」
 束の間、式は恥ずかしそうに沈黙する。クリトリスの周りに何度も輪を描いてやったら、切なげに目を瞑った。
「んんっ、ほら、言わなきゃ判らないわよっ」
 ボタンの両側を指で押す。
 式は、しがみついて耳たぶに噛み付いてくる。式の口からイヤラシイこと聞くのって快感。存分に言わせちゃう幹也が羨ましい。
「ほら、何?」
 言ってごらん?
 幹也に意地悪されて、おねだりさせられて、そっぽ向いてごにょごにょ口の中から出てこないような言葉でし欲しいことを口にする式を見たときは、背筋がぞくぞくしてしまった。
「こういうことっ」
「ひゅあ!」
 言いながら、式は私のクリトリスを摘んだ。
「ふぁうんっ」
 そのまま、弄り倒される。
「くんんっ、ぅあふっ、んぁああぁっ」
 体が跳ねる。
 強烈。
 あてが外れたけど残念に思う余裕もない。派手に啼かされつつ、考える前にこっちもクリトリスに手を付けてた。くりくりと小さな突起を可愛がる。
「ひんっ……」
 一声上げて、目の前で式が息も吐けなくなってる。
「ぁうあ……ふあぁ……」
 もっと、して……。
 こっちは派手に声が出ていた。
 式が覆い被さって来て、首筋に吸い付く。自分でもよく判っていない微妙なラインを唇が辿り、爪先まで何かがパルス。
 それ、だめっ。
 でも邪魔はせず、
「しきっ、ずるいっ」
 背中に手を回して撫でる。式の感じる場所は知ってるけど、撫でていると掌が官能に堕ちる。腋に指を這わせたら、式は全身で反応してくれる。
「ひうっ」
「んんあっ」
 口付けしてくる式の頭を押えた。互いのショーツ中の格闘に合わせて、また口で戦端を開く。式の舌が柔らかいけど少しざらついて、歯茎とか撫でられると背筋がぞくぞくする。でも舌同士で絡むのは式が弱い。逃げないみたいだから、空いた手をもう一回背中にやる。
 指がちょうどGスポットに当たって、全身震えた。気付かれたみたいで、そこを探ってくる。
「んふっ、んっ……」
 鮮烈。
 それ、好き……。
 こうやってちょっとずつギアを上げていくのはいつものこと。こっちも式の中を探って、すぐに果たした。クリットもこっちも二人とも凄く感じる。いっつも幹也に啼かされてるし。式とキスするのも好き。
「ひゃんんっ」
 浮き上がりそうな快感。
 相手を先に逝かせたくて、必死で自分を抑えている。身を委ねたらもっと気持ち良くなれると思いながら、何か悔しくて、なかなかそれが出来ない。まともに頭が動かなくなりつつ、それでも先に逝かせてやろうとしてる。
 ほら……。
 たぶん式も同じ。先に逝ったら負け、みたいな無意味な争い。でもひょっとしたら、相手の快感を優先してるってことかも。
 気持ち良いのを堪えるのって大変。でもこれって、跳ぶために構えてる。バネを押えている。限度を押しているから、恐れと期待に震える。
「ん、あふ、ひぅ……」
 もっと。
 喘ぎが止まらないけど、その合間を縫ってキスを重ねてる。考えていない。気持ち良いからそうしてるだけ。相当器用に指を動かしてるけど、もう体が覚えてる。式が一番、感じる責め方。
 うん、それっ。
 式だって、私が一番好きな動きをしてる。
 目の前で、恋敵が身も世もなく悶えている。私の責めにとろけきって、逝きそうになってる。でも、私も恋敵に逝かされ掛けている。
 でも、気持ち良い。
 なんだか可笑しくて、そんなことを考えるのも止めた。
「ふぁう……んぁぅっ……」
 目を瞑ったら、式の体が温かい。ほのかな式の香水と髪の匂いが、体の芯に響く。自分も嗅がれていると気付いて恥ずかしくて、汗の匂いに興奮している。式の唾液の味が判る。
 式の味がする。
 素敵。
 擦れ合う肌が快感を零れさせる。官能の火花を散らす。
 だめっ。
 もっと……。
「んふふっ」
 脇腹をくすぐられた拍子に、弾けた。抑え込んでいたものが破裂して、全身を迷走。浮き上がって、脳天で電光。注ぎ込まれてきた性感が炎上してる。何かに掴まれて空を飛ぶ幻想。お腹の下の方から指先まで痺れが延びてた。
「ふあああぁっ、し、きぃ……」
 頭の中で砕けるステンドグラス。
 式は手を止めないから快感も止まらず、指に力が入って背中に爪を立てていた。
「つっ」
 でも、式を責めている方の手も動いてた。
 それで少し遅れて、式が逝く。
「あくっ、んあっ、あざ……か……」
 きっちり名前を呼んでくれているのが、胡乱なままの頭にも嬉しい。二人とも手を止めず、くすぐったい快感を与え合い続ける。思い出したみたいに、また式がキスしてくれる。
「すけべ」
「何よ、変態」
 言葉と裏腹に甘い口付けを交わしながら、まだ女の子の部分を弄りっこしていた。

「なんか、久しぶりだな、今みたいな感じ」
 やっと互いの秘所から手を放して、軽く抱き合いつつ、式が言う。こんな時いつも髪を撫でてくれるのが、変に気持ち良くて内緒だけど楽しみになっている。幹也、こういうことはしてくれないし、あまり。
「そうね……式、いつもは一人で気持ち良くなっちゃうしねっ」
「したがるのは鮮花だろ」
 どちらからともなく、腕に力を込めた。絡み合っていると暑いぐらいに火照っているけど、放そうなんて思わない。式の肌の滑らかさは、触るたびに、ずるいと思う。でも、式は式で私の体の女の子っぽさが羨ましいって言ったりする。女らしい、ってことに掛けては藤乃に絶対敵わないけど、私ぐらいがちょうど良いって式は言うのだ。
 次第に陶酔が醒めてくると、濡れたショーツが冷たくて気持ち悪くなる。脱がなかったことを少し悔いた。もうちょっとだらけていたいけどこのままじゃ嫌だし、今さら脱ぐのも変だし。
 ……変じゃなくすればいいのか。
「式?」
「ん……?」
 生返事する声は、眠たそう。
「その。式は、満足?」
 声こそ出さなかったけど、式が笑っているのは理解した。
「どうなのよ?」
 意図はバレバレだろうから、少しはドスを利かせて問い詰める
 そもそも、式は私の求めに応えてくれただけなのかも知れない。藤乃に焼き餅をやく気持ちはあったにしても。
「つまり、鮮花はまだ足りないってわけだ」
「そうよ。そりゃ、式が相手じゃしょうがないでしょ?」
「幹也も大変そうだぞ、お前の時は」
 思いがけない言葉に、絶句した。からかわれているだけだと思うけど、あり得ないことじゃない気もして。
「……ほんと?」
 ほっぺたを熱くしながら尋ねたら、式は、笑うだけ。
「良いわよ、お察しの通り私はまだ足りないの。付き合いなさいっ」
「ははは、開き直ったな」
 また笑いながらも、式は承諾してくれた。
 もう一回、キスから始める。一度は鎮まっていた体が熱くなるまで唇を交わした後、正直に、ねだる。
「ね、今度は舐めっこしよ?」

 これも、式は応じてくれた。

 またキスしながら、式とこういうことをした後はいつもそうなのだけど、以前のことを少し想った。いま抱き締めている女には、昔は、殺意さえ向けたことがあったのだと。本当に殺す気構えがあったかどうかは別に、この化け物めいた女に対抗したくて橙子師から魔術を学び始めたのだ。
 それなのに……。
 式を殺したりしたら、永遠に幹也を失うのだとは、初めから判っていたはず。ビルの高さの世界一を競っているわけじゃない。素直に認めれば、私がナンバーツーだったわけでもない。式がいなくなったら幹也が私のものになるってわけでは無かったのだ、初めから。
 それが判っていたから、妹だという事実を忘れさせようとしたのだ。
 もし、式が居なくなったら。亡き者にしたのが私だと知られたら。
 幹也が私を復讐に殺してくれるなら、それはそれで満足が行くかも知れないけれど……。
「鮮花?」
 話し掛けられて、思考が途絶えた。
「なに?」
「いや、何かぼんやりしてなかったか?」
 あは、セックスの後で他のこと考えててパートナーの機嫌損ねたってことか。
「別に……」
 うん。今でも、幹也を自分だけのものにしたいとは思っている。その願いを持っていることには間違いない。でも、それは肝心の幹也とさえ共有していない願いだ。そんなもの、叶わないに決まっている。
 式だって、本当なら幹也を独り占めしたいに違いないのだ。だけど、やっぱり幹也は、私とも一緒にいることを選んでくれている。関わり合う全員が共有する願が一番叶い易い、それが当然というものだろう。全員が少しずつ、譲り合わなければならないにせよ。
 複数の女の子と関係を持ち続けることが、少し我慢している状態だと思えてしまう、そんな男を愛していることを可笑しく思う。
「ねえ、式?」
「んん?」
 藤乃は、どうなんだろう? あの子だって、本心では、幹也と二人きりでありたいと望んでいるんだろうか。それぐらいのことは、むしろ望んでいて欲しいのだけど。
「あの占いの勝負って、『今年最初に幹也と寝る権利』だったよね?」
 だけど、やっぱりみんな一緒なのが、私たちには一番だと思う。
「……そうだったな。何となく、今日一日一緒に、って権利だと思ってたけど」
「うん、私自身もそういういつもりではあったんだけど、言葉としては『今年最初に』。それでさ、もう『最初』は済んだ頃じゃないかなって」
 式は、私の顔を覗き込みながら、束の間黙り込んだ。
 じっと見られて、自分の考えていることを恥じらう思いが強くなる。
「……変態」
 面白そうに、式が告げた。
「時々凄いこと言うよな、お前」
 呆れたように、続ける。
「ふふ、どうする?」
「とりあえず、お前だけ行かせるってことは出来ないな」
 華やかに、式が笑う。
「オーケー、行きましょ?」
 さすがに、こんなことは滅多にしない。形としては乱入に違いないから、せめて藤乃のことをたっぷりと可愛がってあげよう。今となっては、誰がいなくても上手く行かないのは間違いないのだし。


/年の初めの 2・了

 


えー。
続キトカハ、書キマセンヨ (゚∀゚)? 幹式鮮藤4Pダナンテ、ソンナッ!

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