別れの前に(round 2)


 日が昇り始めている。いくら暑い夏といえど、夜明けのこの時間には少しは気温が下がるから、触れ合った肌の温もりが心地良い。
 私は頬を撫でる志貴の手を捕まえ、指を絡ませた。志貴を死神たらしめているのは直死の魔眼に他ならないが、実際に死をもたらすのはこの刃物を握る手だ。私に比べれば、幾分骨ばっていて大きい。しかし、真祖さえ解体したはずの手はそれでも酷く繊細で、血の匂いも感じさせない。
 この数日間共に戦い、私を守ってもくれた手に、私はそっと口付けた。それから、妙な悪戯心を起こして人差し指を口に含んだ。さほど意識もせずディープキスするように指先を吸い、舐めまわした。
 ちゅ、ちゅっ、ちゅっ。
 口から指が逃げて行きそうだったから、少し歯を立てて止める。そんなことをしても、吸血の衝動は起こらなかった。
 ぺろぺろぺろ……
「シオン?」
 声を掛けられて、やっと自分の子供っぽい仕草を自覚する。思わず、志貴の手を振り払ってしまう。
「シオン、ひょっとして、まだもの足りない?」
 また、意地悪く志貴は訊いて来た。
「そんなことは!」
 ……正直言えば、少し、ある。満たされないのではなく、純粋に『もっと欲しい』の感覚。もう一回、さっきみたいに気持ち良くなりたいってことだ。しかし、あまりにはしたないから、求めるのは躊躇う。
 逡巡している間に志貴は私の方を引き寄せた。正面で向かい合う体勢になって、私の下半身に何か触れる。何も考えずにそこに手を伸ばし、思わず志貴の男性器に触ってしまった。慌てて手を戻したら、志貴はちょっと残念そう。
 うん。
 性交はしたのに、私はまだペニスと言うものを直接見てもいない。志貴の顔の方を見てしまわないようにしながら上体を起こし、私は志貴の脚の間のものを見た。
 なんか、変な形。射精したばかりのはずだが、それは元気だった。
「シオン?」
 また呼びかけてくるのを無視しながら、私はおずおずと手を伸ばして志貴自身に触れる。そしてゆっくり、指で包み込んで撫でまわした。濡れているのが、主に自分の蜜のせいなのだと気付いて、また頬を火照らせる。指の中でまた大きさと硬さを増す。それを嬉しく思っているのが判ったから、私は開き直ることにした。
 志貴の脚の間に体を入れ、ペニスのあたりに顔を近づけ、棒を握った右手を上下に滑らせる。左手で睾丸に触ったら志貴が小さく呻いた。ここは急所なのだとしか認識していないから、苦痛の声かと思ったのだが、そうではないらしい。
 ああ、せっかく付けたエーテライトのことを忘れていた。ひとつだけ分割思考を再開し、志貴の頭の中を覗き込む。
 私のぎこちない動きにも、志貴は感じてくれている。口を噤んで照れを隠しているのは志貴も同じなんだと判って、少し余裕が出た。
 
気持ち良いらしいから、精巣をゆっくり弄ぶ。
 ちょっと変な匂い。
 
志貴の知覚を探って同調する。
「あっ……」
 志貴の快感まで身に受けてしまって、喘いだ。
 ペニスは女性の体では発生学的にクリトリスに相当するから、ある程度は処理可能だ。脳の状態をメインに、一応直接の感覚もモニターしておく。
 
どこが感じるのかな? 志貴。
 初め身じろいでいた志貴も、私の行為を受け入れてくれた。
「えっちだな、シオン」
「志貴には敵いません!」
 言いながらも、自分のしていることが信じられないのは確かだ。
 
先の方の、茸の傘みたいに張り出したあたりが良いみたいだから、五本の指先で取り囲むようにして擽ってみる。
 
よく判らないながらも、袋の部分を揉み続ける。
 
……ふふ、良いみたい。
 
びくんびくん、って、さらに志貴は張りを増した気配だ。
 さっきは翻弄される一方だったから、責め手に回るのはちょっと楽しい。
 
エーテライトを通じて流れ込む知覚が、完全な対応は取れないながらも私にも気持ち良くて、熱心に愛撫を続けさせる動機になる。
「シオン、どうして君、そんなに」
 上手いんだ? 志貴はそう言おうとしていた。
 
さっき志貴がしつこく私を舐めてくれたのを思い出す。指で触られるのより、一段と強烈だったのも覚えている。
 やっぱり、口で愛してあげたら、気持ち良いのかな。フェラチオなんて言葉も知らないわけじゃない。とてつもない耳年増だ、私は一般の人が知っていることなら大概は知っているのだ。ただ、知っているだけで経験は伴わない。それが大きな問題だと思ったことは無かったのだが。
 
耳までどころか、全身紅潮していそうだけど、志貴を舐めてあげたくなった。頭で判っただけじゃ駄目なんだ。自己を形成する核は、経験であるべきだったのだろう。『私』の頭脳にだけ存在する記憶を今後は増やす必要があるんだ。
 ……そんなふうに、自分がしようとしている淫らな行為を正当化する言い訳を並べ立てた。その実、必要としてはいなかったのだが。

 
そうっと唇を志貴のものに寄せる。恥ずかしくて目を閉じ、ペニスの柱の真ん中のあたりにキスした。ここまで顔が近付くと、初めて嗅ぐ匂いがずっとはっきり鼻に入る。初めてなのに、いやらしい匂いだと思う。
 発情してる。気持ち良くなりたい。気持ち良くしてあげたい。優しく蹂躙して欲しい。快楽で壊してやりたい。私を求めて欲しい。志貴がもう一度欲しい。
 私のしたことに志貴は驚いている。それもそうだ、私が同世代の男性と手を握ったことさえなかったことは志貴も知っているのだから。驚きつつも喜んでくれているから、私も嬉しい。
 
舌を出して、先端に向かって下側を舐め上げた。目を開けて、尿道口らしいところを舌先で突付いてみたら、感じるみたい。張り出した傘の部分に大きく舌を這わせる。ずっと大きいから同じとは行かないけど、さっき指をしゃぶったみたいに絡める。
 気持ち良い。少しだけながら共有している志貴の快感を高めることに私は没頭していく。
 気持ち良い。責めているはずの私の舌や口まで、融けて流れて行ってしまいそう。
 思い切り口を開けて、志貴をほうばる。舌を押し付けながら上下する。唇で傘を包み、唾液で濡らして素早く出し入れする。片手はやっぱり精巣を。
「うっ……くうっ」
 口が疲れてきたけど、志貴が切羽詰った呻きを発しているから、続けた。
 私の愛撫が気持ち良いのかどうか、はっきり判るから、優位に立った気がして楽しい。恥じらいを忘れていることに恥らいつつも、止まらなかった。
 
もっと良い手は無いのかと志貴自身の記憶を検索して、悦びそうなことを探したら一つ見つかった。
 ……出来るのかな、私に。
 
フェラチオを止めて、逞しい志貴のものを乳房の間にあてる。私のサイズでは包み込むのは無理だけど、挟むぐらいは出来るみたいだ。これからどうすれば良いのかちゃんと知っているわけではないが、手を添えて挟みつけたまま体を揺すってペニスを刺激してみる。
「なんでそんなこと知ってるのさ、シオン」
「嬉しいならそう言いなさい、志貴」
 どうにか平静を装って言う。
 誰かには、時々ねだってしてもらっているのでしょう?
 こんなこと、普通しないものなのだろうか。
 両手で左右から胸の肉を押し付け、唾液を垂らして、谷間に入れた志貴のものを出入りさせる。先端は指先で包んで転がす。
 やっぱり、この辺らしい。
 顔を上げたら、志貴と目が合い、思わず互いに目を反らす。躊躇いながらチラチラと顔を見ていたら、向こうも同じ事をしていて、何度も視線が交差する。最後は開き直って見つめた。
 ちょっともの足りないみたいだ。私のバストではこれ以上は無理だ、口の方が気持ち良いのかな。
 
下を向いて、先っぽだけ口に含む。手と胸で挟んでこすり付ける。小さく小刻みに傘を責めると、びくびくとペニスが律動した。
「くっ、このっ」
 声を出しながら志貴が手を伸ばして、頬から首筋にかけて撫でて来る。頭にまわって髪を梳かす。耳をつつく。
「んふっ」
 反応してしまった。途端に両手で耳に襲ってきた。脳髄が挟み撃ちに遭っているみたいでぞくぞくする。ずっと攻勢だったのに、一瞬で力が抜けて愛撫が続けられなくなった。
 志貴が顔を寄せてくるからキスしようとしたら、逃げられた。
 確かに、今まで自分のを舐めていた口とはしたくないかも知れないが、少し寂しかった。
「耳、弱い?」
 志貴は私の耳に口をくっつけ、反対側の耳も指先で弄りながら囁く。
「あふぁ……ああぁあ……」
 自分でもびっくりするぐらい、感じた。耳から流れ込む甘い劇薬が私を犯していく。耳たぶを噛まれ、唇で挟まれ、丁寧に舌で形を辿られて悶えた。
「んっ、んふっ……あんっ」
 左右の責めを反転するために口が耳を離れた間、逆襲の好機だったのに、私は悦楽に溺れているばかりだった。志貴は私への挟撃を続行しながら、余った手で鎖骨を撫で、首筋を擽りまわす。
「くふっ」
 やがて手が下に降りて行き、胸に至る。何度も左右を移動しながら形をなぞり、乳首を摘んだり転がしたりする。まるで、志貴にもこちらの頭の中が見えるかのようだ。自分の手を口に押し付け、指の肉を噛んで必死で反応しないようにしているのに、次第に志貴の指と舌は一番駄目なところをピンポイントで捉え始め、容赦無い攻撃を仕掛けてくる。
「もっと声、出せば?」
「そんな……」
 恥ずかしい。
 声を殺して忍んでいる姿が志貴を掻き立てているんだ。
 やっと片手が離れて、両耳への快楽の拷問からは解放されたけど、右耳は甘噛みされたまま。両手で胸を一頻り弄んだ後、片手だけもっと下に下りていく。
 駄目、許して。
 早く、そこも、して。
 指が私の中に侵入し、工作を開始する。当然のように、クリトリスにも魔の手が及んだ。何箇所も同時に責められて、私は声も出せないほど感じていた。
 愛撫だけで逝っちゃう。
 お願い、早く。
 か細い声で啼く私は意識を飛ばそうとしていた。それなのに、ぎりぎりの瞬間で志貴は動きを止めてしまう。
「あん、どうして?」
 答えず、意地悪くくすりと笑って志貴は顔を私の下半身に寄せる。脚の間にキスして、そこを舐め始めた。
 志貴にはまだ余裕があるみたい。
 口惜しいから、傍にある志貴のペニスを掴んで、しごく。志貴は仰向けに寝て私を上に乗せ、私を口で攻略し続ける。私も、俯いてフェラチオを再開した。
 シックスナインとか言ったっけ。
 ほんとに、絶倫なんだから、志貴って。
 少しの間私が何もしていなかったから、志貴の怒張は幾分沈んでいたけど、すぐに口一杯になるほどに元に戻ってくる。お互いの急所が判って来て、快楽が果てしなくフィードバック増幅される。とてつもない高みに上っているのに、過飽和して結末が来ず、辛いほど気持ち良いのに逝けない。悦楽は無節操に注ぎ込まれているのに、それより早く器が大きくなって行くから一杯にならないんだ。
 もう、これ以上、続いたらほんとに死んじゃう……
 志貴の方も、ほとんど限界なのに逝き損ねているみたいだ。

 片手で陰嚢を包み、もう片手で陰茎の根元を握る。先端の張り出した部分を唇で覆って素早く上下する。息苦しくなるのに耐えながら、可能なだけ続けた。
 不意に、志貴がお尻の谷間の方に指を入れ、周囲を突付き回した。それが、そんなに激しく感じた訳ではないのだけど、不意打ちを喰らって過飽和状態が破れることになった。
 ようやく。
 私は、形容する言葉もないような絶頂を得ることが許された。
 無意識に手に力が篭ったらしく、それを契機に志貴もまた、私より少し遅れて果てた。大量の志貴の精が口の中に弾け、思わず仰け反ったら残りを顔に掛けられた。
 もっとも、絶頂感の潮が引いてしまうまで、口の中に溢れている粘性の液体になど意識は及ばなかった。
「君はどうかしているよ、シオン」
 志貴が荒い息を吐きながら言う。
 そのままじゃ喋りにくいから、変な味を我慢して志貴の体液を飲み込んだ。その方が吐くより喜んでくれそうだと思ったのだ。実際、私のしたことにはすぐに気付いたらしく、照れたように笑っていた。
「それは貴方でしょう? 志貴。いや、私は他の男性を知らないから、本当はなんとも言えないのですけど」
 志貴はまた、私を抱き寄せてくれる。顔に付いたままだった精を拭い取ってくれたから、お礼にその指を口に含んで舐め取り、音を立てて吸った。
 やっぱり変な味。それなのに不快じゃないのは、きっと勘違いなのだろう。
 そんなに、悪い気のする勘違いではないと思った。

「ありがとう。良い経験が出来たと思う」
 まったく、経験を存分に活用するべきだろうと考えたのは確かだが、充分過ぎるなんて言葉では足りない気がする。この街での出来事がこれしか記憶に残らないんじゃないかと怖れるぐらいだ。
「こんなことで良いなら、お安いことだよ」
 それと判って吸血鬼を抱くことを簡単だと言い切れる志貴が、出鱈目で頼もしかった。

Round 3


 どうも、シオンには
1.耳年増(経験は無いくせに知識は豊富:特に性的な知識に付いて)
2.好奇心旺盛
 なキャラが書いているうちに設定されたようです^^; ついでに悪戯っ子気味かもしれませんね。

 エーテライトでどれだけのことが出来るのか不確かですが、そのへんは妄想優先で。あと、武内崇さんの人気投票支援イラストでバストがそこそこ大きく描いてあるように思ったので、パ○ズ○までさせてしまいました。

 

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