別れの前に(round 1)


 

 目を覚ました頃には、東の空が明らんでいた。。
 私たちは最後の闘いの舞台となったシュラインビルの敷地で、別離の挨拶を交わそうとしている。
「で、本当に大丈夫なのか、シオン」
「はい。依然として私の体は吸血種のままですが、吸血衝動そのものは耐えられるレベルです。アトラスに戻り、吸血鬼化治療の研究を続行します。今までのように私一人ではなく、アトラスの人たちと協力して」
 誰かと協力して、と語ると志貴は喜んでくれた。
 ……一緒にいた志貴がそう言う人だから、私も少しは変わる気になれたのだろう。
「志貴。別れの前に、その、ひとつお願いしたいのですが」
「ん、なに? シオン。俺に出来るようなことならするよ」
 愛情や情熱の感情表現を、私はまだした事がない。ただ、惹かれ合った男女がその証にすることぐらいは、知っている。
 ……それも、他者から盗み取った知識として保有しているだけ。だけど、だからこそ、この触れ合いに、出来うる全てを覚えさせたかった。
 私は、両腕を志貴の首にまわし、華奢なくせに奇妙に力強く思える胸に顔を埋めた。
「志貴。別れの前に、その、抱いて貰えませんか」
「――――――」
 志貴は、いつまでたっても動こうとせず、言葉さえ発しなかった。
「どうしました。真祖の姫君と同じように私を愛してくださる訳には行きませんか」
「シオン、いったい何でそんなこと」
「良いんです! 志貴はいつもいつも、節操無く姫君や代行者やその他の方やをお抱きになっているじゃありませんか! こんなときに志貴がどんな行動をとるかなんて予測出来ているんです! 結果は判り切っているんですから、回りくどい事を言って恥をかかせないで下さい!」
「え───あ、はい。その、節操無くって、俺は」
「それに、志貴。私の吸血衝動は無くなってはいないんです。他の欲望を満たすことで代償可能なのは、貴方も知っているはずです。そして血が飲みたい、と思った人間は今のところ志貴だけですから、志貴に抱かれておけば、きっと耐えるのに役立ちます」
 頬が熱くなると言う感覚を初めて本当に意識した。訓練の成果は何処に行ったのか、呼吸も鼓動も乱れ切って完全にコントロールを失っている。
 私まで言葉を失っていたら、やがて志貴は、私の体を抱き上げて歩き出した。そして、いつの間に見つけていたのか、折りたたまれた工事用の青いシートの上に私を下ろした。
「こんなところでも、良いかな。少なくとも、人は来ないと思うけど」
 ベッドと呼ぶには硬いが、それでもタイル張りの地面よりは遥かにましだろう。それに、普段から私は路上で眠っていたのだ。
「はい、構いません。勝手な言い分ですが、できるだけ上手にしてくれれば助かります
「シオン……」
 私に覆い被さるようにしながら、志貴は穏やかな表情で私を見下ろしている。視線が絡んで、また気恥ずかしくなって私は目を反らした。こんな感情を覚えるのもほとんど経験が無い。それに、こんなことする機会は今後も多いとは思えない。
 それなら、私はこの一度だけの経験を存分に活用するべきだろう。そう思ったから、私は慣れた手順で思考を分割した。
 こんな時ぐらい、錬金術師であることなど忘れてしまっても良いのに。
 
異性としての私は、志貴の目にはどんな風に映っているのだろう?
 
思えば、読み取った知識から志貴には変なイメージを持っていた。間違っているとは思わないのだが、まあ、それはすぐに判ることだろう。
 
ああ、エーテライトを刺しておけば、志貴の考えも理解できるな。やはり私は奪うことでしか情報を得られない。それは変わってはいないんだ。
「シオン。良いんだね、本当に」
 目を反らしたままで、私は肯く。
 そう何度も訊かれたら、不安が勝ってしまうではないか。私は初めてなのだから。
 真祖の姫君と比較されてしまうのは、名誉なのか、屈辱なのか。
 志貴は顔を私に近づけ、僅かの間静止してから、私に唇を重ねた。
 私はこっそりエーテライトを手にすると、志貴の頭を抱くふりをして、必要な位置に取り付けた。
 他人の体に唇で触れたことなどあろう筈も無い。まして、唇同士の接触など想像も付かない感覚だった。志貴の唇は滑らかで温かく、心地よかった。
 
志貴の知覚に同調してみる。唇の感触は、私が受けているものよりも更に柔らかい。つまりこれは、私の唇の肌触りは志貴のそれよりやわらかいと言うことだ。志貴はそっぽを向いた私の瞳を覗き込んでいる。
 
視線を合わせていないのが申し訳なく思えて、私も志貴の目を見つめた。距離が近すぎてピントが合わないが、目が合ったことは志貴も判っただろう。
 
私の目が志貴の目と見詰め合った。志貴が何か慌てているのが判る。そうか、平静でなくなっているのは何も私だけではないんだ。
 
ああ、そう言えば、こんなときは目を閉じるものではなかったか。
 私は目を閉じた。それを待っていたかのように、私の唇を柔らかで濡れたものが割る。
 あっ……。他人の舌が自分に触れるなど、考えるだけでも気味が悪かったのに、口の中に入り込む志貴の舌は不快ではない。
 舌。
 
志貴の舌が私の唇を這い回る。
 志貴が何をしたがっているのか判ってしまって、羞恥に駆られながら、応えることにした。
 私はどうして良いか判らず自然に閉じたままだった上下の歯をくつろげ、志貴の舌を内側に受け入れると共に私の方からも伸ばした。
 奇妙な感覚。
 不思議な、くすぐったい感触。
 濡れた粘膜の触れ合うぬめぬめした快感。
 強烈過ぎて混乱を来たすから、志貴の知覚に同調するのは控えることにしよう。志貴が私と同じように絡み合う舌から甘い知覚を得ているのが判って、少し嬉しい。
 舌が絡み合い、押し合い、闘争し、共に舞い、愛撫しあった。
 濃厚なキスなのは知識としては判る。
 気持ち良い。
 鼓動がメタメタに乱れている。いや、もうそれは良いだろう。普通の女の感覚も知らなければ。
 志貴の鼓動が早鐘を打っている。やっぱり同じ状態なんだ。また嬉しくなった。
 髪にピンで留めてある帽子を志貴がゆっくりと抜き取って、髪を撫でてくれる。
 こんなことをされたら不快に違いないと思ったのに、梳る指の感覚にぞくりと快感を覚えた。
 髪は女の命だなどと言うが、考えたことも無かった。そもそも、私は自分が女であることも意識したことがあまりない。
 志貴は今度は首元に手をやって、スカーフを解く。少し下に滑り降りて、胸の膨らみをそっと覆った。
 女の乳房に対して男が持っているらしい憧憬と欲望の入り混じった感情が優しい手つきから感じられる気がした。

 アルクェイドほどのバストは私にはない。
 あっ。
 
真祖の胸と比較されているのが判って、少し嫉妬した。勝手なものだ、私が割り込んでいるのだと言うのに。
 
志貴の手はゆっくりと丘をなぞり、次第に力を込めて来る。
 もちろんこんなことも初めてだから、感じているのは戸惑いがほとんだ。だけど、はっきりと揉まれ始めるに連れて、くすぐったさと羞恥に加えて、甘美な波動が起こり出した。
 
時々、胸の先端を指がなぞる。その瞬間だけ、はっきりとした快感を覚える。衣服の上からなのがもどかしくなって来る。
 
志貴は口付けをやめた。口を開けて、まるで吸血鬼が血を吸おうとしているかのように、唇を私の首に移した。
 一瞬、タタリに噛まれた時を思い出し、震えた。
 恐怖に駆られて志貴を突き飛ばしそうになるのをどうにか堪えた。
 口の内側の形を濡れた舌が描く。
 くすぐったい感触を跳び越えて、初めから背筋に響く快楽だった。
 
志貴が何か戸惑っている。ああ、上着の脱がし方が判らないんだ。
 
自分から脱ぐなんて恥ずかしいことはしたくない。
 
こんなことに錬金術の応用を使ったせいで、前開きの服なのに繋ぎ目が志貴には見えないらしい。
 
仕方が無いから、自分で胸元に手を添えて、そっと前を開いた。きっかけが出来たから、その先は志貴が開けてくれた。出来るだけさりげなく協力して、上着を脱がして貰う。
 覚悟が出来ないうちに、志貴はシャツのボタンにも指をかける。
 ……。
 
私の裸体を早く見たがっているのだ。ドキドキしているのは私と同じなのに、ボタンを外していく志貴の指は沈着な動きをしている。
 
急いでいるくせに、慣れた作業のように落ち着いていて、少し口惜しい。
 
シャツの前を開かれてしまったら、もう私の双丘を守っているのは下着一枚だけ。それも外そうとして、何故か中断し、一瞬だけ唇を重ねてから両手で乳房を掴んだ。
 薄い布一枚しか肌を隔てていないから、志貴の手の温もりがはっきり感じられる。
「あぁっ」
 
指の動きが明瞭に伝わるから、乳首を擽られて起こる快感はずっと強くなった。
 
声を上げてしまった。恥ずかしくて、でも嫌じゃない、不思議な気分。
 
ひとしきり胸を愛撫した後、志貴はブラジャーを外した。思わず隠そうとした手は、掴まれてしまう。
 いじわる。
 
やっぱり、恥ずかしい。
 
乳首が硬くなっているのは、きっとばれただろう。
 
志貴は、再び両手で胸を揉み始める。
 直接肌に触れた志貴の手は暖かくて、半ば吸血鬼化した私の体を融かしてしまいそうな気がした。
 
また、胸のサイズをアルクェイドと比べている。今度は少し腹が立った。私に集中して欲しい……ああ、こんなこと、志貴の思考を読もうとしなければ気付かずに済んだのか。
 
口を胸に近づけてくる。
 あ……
 
何をされるか判って、緊張しながらも、それより遥かに期待していた。
 
唇が乳首を包み、濡れた感触が先端を襲った。同時に、もう一方の乳首を指で摘まれ、さらに先端を転がすように弄られた。
「あふぁっ」
 感覚の強烈さに耐えられず、また喘いでしまう。
 温もりがあんまり優しいから、そんなわけも無いのに、このまま身を任せていれば人に戻れる気がした。
 
左右を入れ替えて、志貴は胸と乳首を責めつづける。手で口を覆って堪えようとするけど、到底果たせなくて、私はあられもなく喘ぎつづけた。
 こんなことだけで、こんなに感じるなんて。
 
志貴の記憶にちらちらと見た、抱かれる真祖の痴態を思い出して、この先のことが怖くなる。
 手が胸を離れているのに気付いた時には、スカートを脱がされていた。思わず脚を閉じようとするけど、既に志貴の膝が間に割り込んでいて、出来ない。ソックスの上から膝を擽られて、逃げようとして脚を開いてしまう。途端に志貴は自分の膝を私の方に寄せて、さっきよりもっと閉じられなくされてしまった。
 それから、腿の内側に沿って指を滑らせ、脚の付け根の方に寄ってくる。乳首への愛撫を続けながら、内腿を揉み、爪先でパンツの端のラインを往復する。
 あっ、駄目、そんなに……しちゃ……
 離れた二ヶ所を愛撫されて、私は思考が纏まらなくなりかけている。
 気持ち良すぎて、それでもまだ肝心の部分には触れられもしてない無いのを思って、期待していて、そのことに気付いて私はまた羞恥に襲われる。まったく、初めてだというのに、知識ばかり豊富だから、私は。
「良かった、感じてくれてるみたいだね」
 そんなことを、耳元に囁かれた。
「あん、そんな、こと……」
 言っちゃ、嫌。
「そんなこと、ない? こんなになってるのに」
 志貴が肌着の上から、私の女の部分に触れた。くちゅ、と濡れた感触がある。
 ああ、私、しっかり濡らしてるんだ。
 
聞こえるほど大きな音であるはずも無いが、志貴が押すたびにくちゅくちゅと鳴っている気がして、羞恥に耐えられなくて手を払い除けようとした。だけど、やっぱり捕まえられて、今度は同じ部分にもっと柔らかいものが押し付けられた。
 あ、駄目、口を付けたりしちゃ……
 私の女の匂いに志貴が興奮しているのを理解してしまった。
「初めての癖に、えっちだな、シオンは」
「それは、志貴が」
 そんな年の癖に、上手すぎるんだと思う。
 
健康状態は良くないくせに、こっちばかり無闇に強いんだから。
「俺が、なに?」
「……いじわる」
「そう、じゃあ、ご要望に答えないとね」
 え?
 
ちょっと、何?
 
あっと言う間もなく、パンツを脱がされた。脚の間に顔を埋めて、志貴は「私」に口付ける。
 駄目っ。
「志貴、汚いから、そんなところ!」
 言っても聴いちゃくれないと判りつつ、叫ばずにはいられなかった。
 
舌が這い始めた瞬間から、私は堕ちていた。甘美で熱い感覚は脚の間から私の体に攻め込んで、全身を陥落していく。
 
志貴の更なる興奮を知って、私も短絡したように発情を激しくした。
 
舌が少し上に登って行き、クリトリスを捉える。
 そこが女の体の中で一番敏感で、快楽を得ること以外に機能の無い器官であることは知っている。しかし、それ以上の興味を持たなかったせいで、どんな感覚なのかは知らなかった。
 
強烈過ぎて、初めは苦痛で、やめて欲しかった。
 
苦しい声を発した。だけど志貴はやめてくれないから、私は暴れた。私を押さえ込んで、志貴はそこを舐めつづけた。
 少しだけ動きがゆっくりになり、私の方も少し慣れた。
 気持ち良い。
 
志貴の勝ち誇ったような感情が口惜しいけど、嬉しい。
 
凄い。こんなこと、続けられたおかしくなる。
 
セックスに夢中になってしまう男女のことが初めて少し判った。
 
志貴は私の中に指先を入れ、動かす。快感が二重になって、ますます私は狂ってしまう。反対側の手を、胸の方に伸ばしてくる。
 そんな、駄目、これ以上は。
 
胸も、触ってくれるの?
 
三重になったら、私は。
 
志貴の手を必死で捕まえた。
 うん、そのまま。
 
この手、ちょっと怖い。
 
ほら、ここ……
 
私は、捕まえた志貴の手を自ら胸に導いていた。
 三重奏になった快感のために、ますますまともにものが考えられなくなる。
 あん、こんな……
 許して……
 駄目、気持ち良い……
 死んじゃいそう……
 本当に思考が真っ白になって、頭脳が弾け飛んでしまいそうに思えた時、志貴は動きを止めた。
 そんな、もうちょっと、して。
 やっぱり、こんな時の志貴っていつも通りいじわる。
「そろそろ、良いよね?」
 なにが?
 いちいち訊かないでよ、いじわる。
「駄目?」
 どうやら、返事をさせたいらしい。
「良い、です」
「うん、じゃあ、出来るだけ痛くないように努力するから」
 ああ……
 志貴ぃ……
 覚悟、しなきゃ。
 私がぼうっっとなっているうちに、志貴は服を脱いだらしい。私に覆い被さって、唇を重ねる。せめぎ合う舌と、伝わってくる唾液から快楽が広がって蕩けそう。
 志貴の指が私に触れる。そっと、くつろげて、指とは違うものが押し当てられた。
「志貴……」
「大丈夫」
 そう言えば、私は男性のものを、見たことも無い。
 志貴のものが少しだけ入って、止まる。
 努力するとは言ってくれたけど、痛みを覚悟する。これも、知識としてだけ知っているから、酷く恐ろしい。
 志貴ぃ……
 不安と、それに倍する期待。
「行くよ」
 私は、歯を食いしばって、備えた。
 志貴が意志を固めたのを先に知ってしまい、焦る。
 志貴ぃ……
 少し、動いた。
 痛!
 志貴!
 ぐっ。
 あああ……
「がぁっ」
 抑えられなくて、私は苦悶に呻いた。
 口には出さなかったけど、志貴は「ごめん」と思っているのが判る。
 痛い。
 確かに痛いけど、吸血衝動の苦痛に比べたら、耐えるのは何でもない。
 志貴はさらに私を貫いてくる。体の緊張を解して、志貴の男を受け入れる。まだ痛みは続くから、また歯噛みして耐えた。
 ズッ、と志貴が私の女に入って行く。
 鋭い痛みは最初だけで、それからはもう随分とましだ。
 大丈夫、怖れたほど痛くはないみたい。
「大丈夫?」
 心配そうな声。
「うん。ゆっくり、して下されば」
 まだ痛いけど、辛いとは思わない。
 真祖も志貴が初めてだったみたいだが、こんな感覚だったんだろうか。
 いや、他の女のことなど考えるのはやめよう。
 
んっ。今、ちょっとだけ気持ち良かった気がする。
「ほら、入ったよ」
 そんなことを言われると、恥ずかしい。
 
志貴は、そのまま動かず、またキスしてくれる。唇の快感に酔わされている中、ゆっくり動き始める。体に打ち込まれた楔が滑り動いて、私を揺さぶる。
 まだ、ちょっと痛い。
 
ちょっと、気持ち良いかも。
 
志貴が焦っていて、冷静になろうと努力しているのが感じられた。何か、アルクェイド並だとかなんとか、そんなことを考えているみたいで、やっぱり比べられているのかと思うと少し哀しくなる。
「凄い、よ、シオン」
 切羽詰った声で、志貴が言っている。
 私は息も絶え絶えだから、何が凄いのか判らない。
 
キスしてくれる志貴の優しさに包み込まれている気がして、少しずつ快感と幸福感が湧いて来る。
 「凄い子ばっかりだな」って、何のことだろう?
「あっ……あふっ」
 気が付いたら、私はまた悦びに声を発していた。
 凄い。
 気持ち良い。
 志貴……志貴ぃっ!
 すっごい。
 
志貴が動きのスピードを上げるに連れて、私はまた何も考えられなくなってしまう。分割した思考がどれも同じことしか考えなくなって、意味を成していない。
「良いよね? シオン。行くよ、ほんとに。俺も限界だ」
 ああ、志貴……
 志貴!
 うん、来て……
 良いよ。
 志貴が更に動きを速くする。
 脚の間から引き裂かれて粉々になりそう。
 気持ち良い。
 志貴ぃっ……
 往復運動を繰り返しながら、志貴は指先をクリトリスに当てた。また、悦楽が二重になる。それから、キスが激しくなって、三重奏。口を離れて、体を密着させて、首筋に噛み付くように口を当てる。首筋に吸い付いている。
「あふっ、あっ、あぁあぁーー!」
 駄目、耐えられない。思考を分割したままじゃ、快感が相乗されたみたいで激しすぎる。二番停止。
 ひょっとしたら、私、四倍気持ち良いのかも、今。でも、これ以上は、無理……三番停止!
 志貴も、まともには考えていないから、やめる。四番停止。
「志貴。志貴、志貴ぃっ!」
「シオン……!」
 それからは、もう本当に何も考えられず、空っぽになった思考にただ、快楽と至福を満たすばかりだった。
 砕け散って、融けて、蕩けて、蒸発して、事象の地平線の先まで飛ばされた。
 集合無意識の海に沈んで、志貴とひとつになって、エーテライトも使ってないのに凄まじい一体感が得られた。
 きっと、この瞬間のことは、永遠にでも記憶に刻んでいられる。

 やっと呼吸が元に戻ったとき、志貴はまだ私を抱き締めてくれていた。
 志貴……
「ごめん、シオン、君が凄すぎて自分のことしか考えられなくなっちゃってた。大丈夫だった?」
「はい。でも、志貴、あなた中に出しちゃいましたね」
 志貴は、絶句した。
「ふふふ、責任とって下さいね」
 志貴は、まだ何も言えないでいる。それが可笑しくって、少し精神的に優位に立てた。そう、私はこんなジョーカーに劣ったりはしない。
「冗談です。自分の体のコントロールは、アトラス錬金術の基礎ですから」
 志貴は、もうしばらく沈黙した後、笑って私の髪をくしゃくしゃにした。

 

 

Round 2


 

 初めの方は、メルティブラッドのストーリーモードから多少引用したり、一部書き換えて利用したりしてます。エンディング二つ分からゴッチャに引いているので混乱されませんように。基本的にはKルートの流れのつもりですが、周囲にアルクェイドは居ないのでしょうね^^;

 

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