白の夢


 ベッドに入る前から、予感はしていた。
 人の姿を取ったときでも、レンは相変わらず喋らない。その代わり、目線ひとつで最低限必要なことは伝えてくれる。他の猫の表情なんて読めないけど、一応は契約で繋がっているからなのか、レンについてなら黒猫のままでも肝心のことだけは判る。
 今夜みたいなことの場合は、変に目を反らすせいで却ってそれと知れる。何かと言えば、まあその、こういうときにレンが夢に現われるわけだ。
 夢を見る前から発情したみたいな暑苦しさを覚えて、予想通りに現われたのを見つけた。だけど、想像だにしなかったこともあった。
「ふふ、こんばんは、志貴……」
 足の方でベッドに腰掛けていたのは、この前の騒動の時に見た、白いレンだった。
「お前、何で」
 髪も衣服も雪白、肌もそれに近いほど白い。微笑を咲かせて、もう毛布を捲られている俺の脚の間に座り込む。ワンピースの裾からニーソックスの脚が突き出していて、ちょっとはしたない。
「良いでしょう? レンがいる限り、私も消えたりはしないわ。ああ、安心して。癪に障るけど、今の私はレンの許しがあって来ている格好だから。好き勝手はできないわ」
 言いながら、レンそっくりな白いレンの愛らしい顔が僅かに歪んで、それだけで悪意あるパロディめいて見える。
「何をしに来た?」
 レンのコントロール下にあるというのが本当なら、まずは安心して良いのだろうけど、目的は何なのか。
「ふふ」
 ひょい、と片脚を上げる。裾が落ちて、白い布地の中にあってなお白い素肌の太腿がソックスの上に顕わになる。ちらりと覗く、レンと同じ淡いピンクの肌着。
「変態ね、こんな小さい子の体をそんないやらしい目で見るなんて」
「馬鹿」
 言いながら、唾を飲み込んでいた。
 どれだけ必要としているのか判らないのもあって、レンに精を欲しがられると、あげないわけにも行かない。いや、正直なところ、そういうことを抜きにしたって迫られたらなかなか拒めない。牡の本能だとか、サッキュバスなんだしとかの言い訳はともかく、その気のレンには欲情してしまう。幼い体に罪悪感は拭えないけど、それで余計に滾っていることにも気付いている。
 それは、この白いレンに対しても同じみたいだった。
「自分の状態を確かめてから言うのね、そんなことは」
 気付いていた。でも、目を反らしていた。さっきから欲情に疼いていて、見れば、とっくにイチモツは大きくなっていた。分の悪い勝負だ、知らぬ間に腰から下は裸にされていた。
 そして案の定、起きあがった上半身は金縛り。
「なんでいっつも、こんな」
 これが白いレンの嗜好でもあるのかどうか、しばしばレンはこんなやり方をする。
「お仕置きよ、こんな姿の女の子まで平気で毒牙に掛けていることのね」
「何を、勝手なっ」
 頭に来て腕に力を込めたけど、さっぱり動かない。酷いもんだ、会う前から人を欲情させておいて、こっちの自由は奪う。
「ほら、嬉しくてしょうがないくせに」
 こっちの言葉をまるで無視して、両足をそれぞれ俺の膝に載せて、そこから腿の上を滑らせてくる。
「こら、止めろ」
 ソックスの薄い生地越しに柔らかい足の裏の体温が感じられて、くすぐったい。いや、くすぐったいだけだと思おうとする。
「うっ」
 だけど、もう白いレンの思うがまま。勃起したペニスの両脇で蠢いて、挟み付ける真似をしている。きっと思惑通りだろう、数センチの隔たりに悶える。
 息を荒げているうちに引き下がっていき、少しだけ内腿の側に寄ってまた攻めてくる。ソックスのきめ細かな肌触りがくすぐったくも快い。まくれたスカートの奥の桃色がはっきり見える。認めざるを得ない。いや、今さら、認めるも何もない。好きに動けたら、とっくに覆い被さっていた。
「もっと違うこと、して欲しいんでしょう?」
 凶悪に笑いながら、しなやかな脚を伸ばして、内腿を踏みつけるみたいにさすってくる。爪先の方から血をペニスに集められているみたいに、繰り返されるほど猛ってしまう。脚の付け根のあたりまで届いているから、時折イチモツに掠める。そんな小さな刺激にまで、ぞくりとさせられる。
 するならするで、もうちょっと直接……言いそうになりながら、どうにか留まっている。
「どう? ずっとこうしているのが良い?」
 高揚して火照らせた顔で尋ねてくる。そんなことされたら焦れったくて狂う。するすると器用に両足が動き回って内股を攻められ、もう戦況は明らか。華奢な、肉付きの薄い脚なのに、いやに扇情的。触れる場所から痺れるように甘く皮膚に沸き立っていく。
「何で、いきなりこんなこと、してくるんだよっ」
 勝てないのは判りつつ、いらだちをぶつけた。
「志貴がして欲しがってたからじゃない。私に会う前からよ、こんなに節操のない姿を見せていたのは」
 ちょん、と竿の裏を弾かれて、息を呑んだ。悪夢みたいに欲情している、もう一度して欲しくて嘆願してしまいそう。本当に、このレンに身を任せたりしても大丈夫なのかどうか。接触をねだっていないのは、その危惧のためだけ。
 だけど、もうあまり保ちそうにもない。小さな足で施される官能のマッサージに、思考が犯されて狂っていく。ストッキングの中の指の動きに、唾を飲む。ぷるぷると震わせているのが、指先まで響いてむず痒くなる。
「ほら、して欲しいって正直に言えば、してあげるわ」
 馬鹿言うな、と返すつもりが違うことを口にしそうになって、どうにか噤む。
 爪先を亀頭の傍に寄せて、くにくにと指を動かす。触れるか触れないかぐらいで、竿の裏をもう片方の足裏が上下する。
「ぁうっ……」
 ここまでされちゃ、我慢も何も限界。
 今度はペニスの根本で両側に押し当てた爪先を振動させ、時々、内側に力を入れてくる。
「ははははっ、くすぐったいってっ」
「それは、気持ち良いってことでしょ」
 いや、くすぐったいのに違いは無い。無いのだけど、性感に響かない訳じゃなくて。
「やめろってっ」
「やめても良いの?」
 答える間もなく、動きが止まる。でも、また内腿に足の裏を押し付けたままだから、温かみは感じてしまう。
「よっぽど焦らされるのが好きなのね、志貴。朝までこうしてあげても良いわよ?」
 にぃ、と肉食獣の笑い。背骨を折られて痙攣するネズミをまだ弄んでいる猫の笑い。
「いや、それはっ」
 焦れったくて死ぬ。何もされないならそれで終わりだけど、踏み解されている腿から注がれて、情欲は増す一方。あられも無い状態のワンピースの奥に、ピンク色の下着が見える。なんとなく、白いレンも濡らしているみたいに見えた。
 良いなりになってどうする我慢しろ、とは叱咤しつつ、こいつも欲情してるんじゃないかなんて思ってしまい。
「頼む……」
 とうとう、折れた。
「あら、何を?」
 ひらひらとからかうようにイチモツの周りで踊っている愛らしい足を食い入るように見詰めていた。
 捕まえて、押し付けて扱きたい。土踏まずのあたりとか、思いっきりくすぐってやりたい。しゃぶり付きたい。頬ずりしてみたい。
「……気持ち良く……」
 うわごとみたいに口にしていた。
 嬉しそうに、でもちょっと頬を朱くして、白いレンは告げる。
「気持ち良くなりたいの?」
「うん」
「変態ね、こんな子供に欲情して、いやらしいことをねだるなんて。そうでしょう?」
 息ができないほど疼いていて、まともに聞きもせずに肯定。
「あは、良いわ、してあげる。でも、足でして欲しいなんて、やっぱり変態ね」
 足で、なんて言ってないと思いつつ、頭が胡乱で自信は無かった。足に欲情はしてたんだ、言ったかも知れない。
 ひらひらと舞っていた足が、猛っているペニスを挟む。根本のあたりを温かくてぷにぷにした柔肉で挟んでくれる。するり、と上に滑る。ソックスの薄い生地の中に、熱い官能。
「んふ……」
 満足げに笑いながら緩やかに登り、その動きで呼吸を操られる。詰まらせてしまって、許しを得ないと息も吸えない感じ。
「ぁう、ふあ……」
 不意に左右ばらばらに動き始めて、思わず悲鳴を上げる。シャフトをさすられているだけなのに、背筋で快楽が走り回る。
「気持ち良いの?」
「うん」
「ふふ、正直のご褒美をあげる」
 言うが早いか、そろって擦り上げ、亀頭のエラのとこを刺激された。
「っく、くぁ……」
 布地で擦られるのは痛いぐらいなのに、それに倍して快感。二度、三度と繰り返され、いきなりもう射精感が湧く。なのに、そこでストップ。言葉が口に出せず、喘ぐ。
「もっと?」
「うん、お願い……」
「駄目」
 そんな、と思う間に、正面からペニスを腹まで倒して踏みつけるようにしてくる。ぐにぐに片足で押しながら、垂れ下がった玉をもう片足で揺らすように弄ぶ。
「はぅっ」
 気持ち良いけど、ちょっと痛い。
「変態、踏まれてそんな惚けたみたいに」
 罵倒の声なのに、耳に媚薬みたいに流れ込む。強くはないけど、確かに踏んだり蹴ったりされてるわけではある。でも、ソフトに撫で回される中で、不意にぐにっと押されるのは息を飲む快感。根本の方を踏まれていると逝けない。そのまま、先っぽをいじくられるのには悶絶する。
 ぴり、とソックスを爪先に引っかけて破き、顕わになった小さな指を蠢かし、器用に亀頭を掴んでくる。ソックスに比べたら遙かに優しい、素肌の感触。ぬるりと湿っていて、先走りの液を漏らしているのに気付く。
 ねっとりしたのと、さらさらのとで挟まれて、またシャフトを扱かれる。さっきと違う感触に血が沸きながらも、吐精するにはちょっと足りない。また生殺し、焦れったくて疼く。
「志貴、逝きたい?」
 逝きたい。でも、恥ずかしいし、悔しいから、まだどうにか耐えようとする。黙り込んだことで気配を察したのか、動きがゆっくりに、力加減が弱く。忘れさせてはくれない、でも気持ち良いってほどじゃない、そんな意地の悪い愛撫。
「やっぱり朝までこうしてたい?」
 そんなの、気が変になるっ。
「逝きたいんでしょ、志貴?」
 もう、限界です。我慢なんてできっこありません。何故か丁寧語で思考しつつ、
「……うん」
 答えていた。返事は不承不承だったのか、嬉々としていたのか。
「わたしに逝かせて貰いたいのね、志貴?」
「うん」
 また、ぐいっと根本を踏み込みながら、袋を揺すってくる。
「あぅぅ」
 ちょっと痛い。でもそれは堪えられないほどじゃなくて、ぽよんぽよん揺らされるのが気持ち良くて。
「はい」
 やっぱり、言葉が丁寧になってしまう。
「男の人の大事なところ、こんなに足蹴にされて、それで逝きそうなのね?」
「はいっ」
 即答してた。射精を封じられたまま、また穂先を責め立てられる。もう、汁気でずるずるになってる。
「ほんと、変態ね、志貴?」
 羞恥も腹立ちも増すけど、得意げなのが可愛らしくもあり。
「逝かせて下さいって、おねだりしてみて?」
 あぅ。
 そういうこと言わせる快感は良く知ってるし、しばしば楽しんでいるけど、言わされるとなると凄い恥ずかしい。でもほんと、プライドとか言ってる状態じゃなかった。
「逝かせて」
「駄目、わたしの足で逝かせて欲しいってちゃんと言って」
 足が離れて刺激が無くなる。小さな足を目の前に見せびらかされる。何かもう、食い付きたい思い。柔らかくて美味しいに違いない。
「レンの足で、逝かせて……」
 とうとう告げても、悪戯に笑うばかり。
「……逝かせて、ください」
「お願いします、は?」
「お願いします、レンの足で逝かせて下さい」
 これで満足したのか、もう一方の足のソックスも破いて、素足二つで挟んでくれる。もうべとべとの足と、まださらさらの足とはやっぱり少し違う感触。両足で亀頭を包んで擽り倒され、竿をさすり回され、快感が迸っていく。
「はぅ、うぁ……」
 熱い。腹の奥で何か煮え立ってる。それが沸騰してフタを押している。白いレンの笑うのが見える。もう、ほんの少しでお仕舞い。腰が何かガクガクしてる。あと一歩で気持ち良くなれる、やっと解放される……
 でも赤い目に浮んだのは不穏な気配で、
「がぁっ!」
 逝く、って瞬間、イチモツの付け根に踏み込まれて、また止められる。痛くて星の飛ぶのが見えるほどなのに、快感は退かない。
「レンっ! 逝かせて、お願いっ」
 束の間ながら、そのまま擦られ続けて悶えた。
「ふふ、可愛い……」
 また、レンの声が耳で弾ける。
「いいわ、許してあげる」
 力が緩み、両足でするすると撫で回してくれて、
 どくん、
 本当に解放された。貧血みたいに、目の前が暗くなってる。
「はぅ、あぅく……」
 異様な性感に、呼吸ができない。視界が今度は白く。弾ける。
 どくんっ、どくんっ……
 動きを封じられた全身が一緒に脈打って、足の先まで快感に震えた。
 噴きこぼれたみたいに、精が飛び散っていた。白いレンが差し出していた足にも掛かってべっとり張り付いていた。最後にまた、くいくいっと踏まれて、先っぽからとろとろと溢れている。
 無茶な射精をしたせいなのか、性器に鈍痛が残っている。いや、体に向かってとはいえ、あんなに踏まれたりしたんだから痛んで当然なのか。
 それでも、それぐらい良いやとか思うぐらい、快感も強烈。
「いやらしい、足で蹂躙されてこんなに飛ばすなんて」
 レンの脚やシーツにも落ちたらしく、拭い取って集めて俺に見せつける。射精の後の今となっては、猛烈に恥ずかしくて顔を背けたくなるけど、まだ金縛り状態。小さな指に絡み付いた白い粘液を、レンはじっと見詰めている。そのうち、頬を赤らめながら顔の前に運んで、匂いを嗅ぎ始める。
「いや、そのー」
 白いレンも照れた表情だけど、そんなことされると俺の方がもっと恥ずかしい。でも声を掛けても反応が無く、目を閉じて恍惚とし始める。幼い顔が欲情に染まっていく。
 眼を開けて、意を決したみたいに、まだ惚けた表情で、
「んふ……」
 俺の精に汚れた小さな指を、口に含んだ。
「え?」
 ぺろぺろと、舐めっぷりはまるで甘いクリーム。夢中な仕草。
 俺が見ているのを忘れていたのか、気付くと慌てて繕っている。でも、視線を落として硬直し、おずおずと自分の足に手を伸ばす。そこは、精の残りが付いたまま。指で拭って、また口に運ぶ。真っ赤になりながら、我慢できないみたいに。
 美味しそうと言うより、もっと切羽詰まって餓えた様子だから、気恥ずかしいのより興味が勝った。
「ひょっとして、君も精が必要なのか?」
 訊いたら、途端に我に返ったように睨まれた。
「ふん、だったら、堂々とわたしを犯せるってわけ?」
 自分で言っておきながら目を泳がせ、やがて俺の臍の下に注視する。精を舐める淫蕩な姿に、今放ったばかりなのにまた少し勃起していた。幾分、零れた白い液が垂れたままになっている。
 黙って、俺が羞恥で悶えるほどイチモツを見ていたあと、酔ったみたいに姿勢を下げていく。なんだかやっぱり、我慢できないって感じで、唾を飲む込むのが判ったりする。流れている雫の傍に顔を寄せ、また匂いを嗅ぐ。ちらりと俺を見て頬を更に染めつつ、ためらいためらい、口を開いて、舌を出す。
 ぺろ……
 舌先だけ、ほんの軽く触れて、舐め取る。しばらく間があって、また口を開いて舌を延ばし、今度はペニスに押し付けて舐め上げる。
「うっ」
 ぞくりと愉悦が走って、声を漏らした。
 びくりと体を震わせ、白いレンはこっちを見る。さっきまでとは打って変わって、自信が無く心配そうな、いや、むしろ怯えた顔。
「いや、大丈夫、気持ち良かっただけ」
 声を掛けると明らかに安堵して、それから、はっとしたように表情を険しくする。何か言いかけたみたいだけど、黙った。そのまま、また舐め始める。精一杯凄んだような顔つきは、三回も舐め上げるうちに崩れてしまい、うっとりとしたものになる。
 さっきの足での愛撫が酷く的確だったのに比べて、たどたどしい。まっすぐに舌を滑らせては元に戻り、それを繰り返しているだけ。快感ではある、でも焦らしているんじゃなくて、どうして良いのか戸惑ってる気配。
 やっと手を添えて、唇だけで咥えるみたいなキスをしてくれる。亀頭の方に口を寄せ、ひとしきり逡巡して、とうとう尿道のところを舐めてくれた。
 ちろ……
「んっ」
 またこっちを向くから、頷いてあげたら、しっかり舌を使い出す。まだ精子の味でもするのか、美味しそう。傘のトコに沿って移動して、あちこち舐めていく。
「んくっ」
 息を吐くと、顔を綻ばせる。段々大胆になってきて、ぺろぺろ舌が走り回る。かぷ、と先端を大きく開いた口にくわえて、尿道口を舌でこじ開けようとするみたいに舐めてくる。痒くするのと同時に掻いてもらってるみたいな感触。
「あ、くっ……」
 未だ動けないままで、快感に体中が痙攣しそう。
「ふふ、ここが志貴の気持ちい……弱いところなのね」
 言って、同じことを続ける。小さな口じゃ、深く銜えることなんかはできなくて、せいぜいが亀頭を包むぐらい。だけど丁度唇がエラに重なって、いっぺんに刺激される。唾が溢れ落ちて竿が濡れていく。両手で包んで、さすってくれる。
「ふ……くっ」
 こっちは酔い痴れるほど気持ち良いけど、白いレンの方は息苦しそう。すごく一所懸命な様子。こんないやらしいこと、やらせてるわけで、さっきと変わって嗜虐の快感。でもそれ以上に、愛しくなる。
「無理、しないで」
 思わず声を掛けたら顔を上げてきょとんとして、ふんっ、なんて言ってる。そのくせ、また俯いて奉仕してくれる。今度は、袋を舐め始めた。
「はふっ……」
 尖った耳まで、紅い。あんまり健気だから、頭を撫でてあげたくなったりする。サディストにはなれず、ちょっとだけまた姿の幼さに咎められつつ、でも悪いことって蠱惑的。どう見たって目の前の女の子は自分に欲情してくれていて、そんなの嬉しくないはずはない。脚の間の良心無き正直者は、とっくに結論を出している。
「そろそろまた逝きそうなんでしょ、志貴」
 舐め上げながら、囁いている。ちゅく、と先っぽを啄み、吸い、しゃぶる。楽しげだから、俺も気が楽になる。
「うん、気持ち良い……」
 素直に、嬉しそう。でも責め方はサドっぽい。ぐいっと根本を掴み、ぱくりと穂先を口に入れる。頭を揺すり、舌を踊らせる。
 ちゅ、ちゅうっ、ちゅっ
 思い切り吸われて、さすられて、しゃぶられて、吼え哮る羽目になる。
「レンッ」
 思わず声を上げると、にっこりと、にやりと、笑う。
「なあに?」
 ひとこと言って、愛撫に戻る。
「逝かせて、レンの口で」
 こっちから、言ってあげる。
「ふふ……」
 唇で亀頭を覆って、とどめとばかり頭を振りたくる。でもまだ根本は掴まれたまま。
「がぁっ、う、くっ……」
 止められてなきゃ、逝ってるはずの状態。気持ち良くて、苦しい。掻痒感に暴れ出したい。レンは、酷く楽しげ。よほど生殺し責めがお好きのようで。
「ふふふっ」
 小さな舌が踊りまわり、どろどろなペニスを嘗め回す。止められたまま擦られて、びくんびくん、気持ち良くて痛い。焦燥感に叫びたいほど。
「レン、逝かせて、お願いっ」
 聞いてくれず、目を瞑ってイチモツに頬擦りなんかしてる。陶酔しきった表情。しっとりと柔らかいほっぺたが、もどかしくも甘く快感。刺激を弱められたのに、官能も焦らし責めも倍して効いてくる。
「レン……」
 なんとか囁いたら、レンは薄く眼を開ける。
「好きなんでしょ、こういうの。変態だものね? 志貴」
「好きだよ、レン」
 すぐに答えたら、ぱっちり眼を開けた。
「レンは、好き?」
 尋ねたら、さきっぽを黙って銜えてくれて、ようやく根本も解放された。小さな唇と舌の動きに翻弄されて、押さえ付けられていたものが登ってくる。
「レンッ……」
 焦らされ捲っていた精が、沸騰して飛び出す。立て続けの2回目なのに、存分に。束の間、視界が霞んで、白いレンの笑いだけが残って見える。
 どくん、と鼓動みたいなのが聞こえて、同時にペニスが脈打っている。視界がまともになって、笑顔を穢す白い粘液に目が行く。咥えていられなかったのか、口だけじゃなくて、上気したレンの顔をべとべとにしていた。そのままの姿で、まだ俺のものを扱いたり、零れ出る精の残滓を舐め取ったりしてくれている。
「レン……」
 他の言葉が出ない俺に、顔を汚したまま笑いかけてくる。満足の気配も、まだもっと欲しいっていう満たされない気配も、どっちもあるような妖艶な笑い。あどけない顔には似合わない、なのに無性にレンらしい、小悪魔の微笑み。
「んふ……」
 太腿を跨いで座り、顔を拭って、見せつけるように匂いを嗅ぐ。
「はは……」
 どうにも、恥ずかしい。口を開けたら、そこにも既に白いものがある。指に絡む俺の精を口に持って行き、やにわに眼つきを険しくして俺を見ながら、唇に取る。
 途端に、せっかく俺を睨んだのに、頬が緩んでしまっている。
 目を閉じて、そっぽを向いて、顔中から粘液を集めて口に入れる。味なんて知りたくもないけど、蜂蜜かみたいな舐めっぷり。
 大方全部綺麗にして、こっちを流し見ながら、こくんって喉を鳴らした。まだ欲しい、って眼だけで煩いぐらいに言ってる。
「……おでこ」
 まだ、そこにちょっと付いてた。
 びっくりした感じで、額を拭いてぺろんっ、と。
 すごい、ヘンな気分になる。
「ふん、良い気分でしょ、さぞかし」
 挑みかかる笑いに戻って、白いレンは言う。
「良い気分?」
「そうよ」
 動けない俺に顔を寄せて、またペニスを弄りだす。
「こんな姿の女の子に、あんなにイヤラシイご奉仕をさせたのよ?」
 流石に少しは大人しくなっているペニスを弄られて、くすぐったい。
 させたわけじゃない、とは主張したいけど、二度も出しちゃってるのは確か。
「キスも知らない唇に自分のものを咥えさせて。吐き出した精子で顔を汚して、それを何も味わったことのない舌で舐めさせて。生まれて初めて喉にやったものは、今見た通りよ? 良い気分でしょう?」
「なっ……?」
 言葉を無くす。
 何? とさえ出ない。
 好き勝手されて、すっかり俺が凌辱された気分ながらも気持ち良かったのは確かで。今の告白が事実なら、とんでもない罪悪って気がする。なにかどう罪なんだか判らないけど、強烈に申し訳ない思いがして。
 目線を合わされるのに耐えられず、見つめ合うほど羞恥と罪悪感を掻き立てられるけど反らしもできない。
「いや、その……ほんと?」
「ええ。大丈夫よ、美味しかったわ、志貴の精子」
 そういう白いレンは、威厳をみせようとしながら喜びが隠せなくて失敗している。嘘を言ってるようには、あまり見えない。
「うわ……」
 改めて言葉を、無くす。
 …………ただ、正直に言えば。
 レンが言う通り、猛烈に、興奮した。無垢なものを、これ以上ない最悪の方法で穢れさせたみたいで、そんなことに欲情する己が恥ずかしくても、滾ることには違いがなかった。永遠に自分のものって刷り込みをしてしまいたかった。
「どうしたの? もっと色々、わたしの初めてを奪いたい?」

 

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