まれびと


◆4

 並んで、脚を投げ出した格好で二人座っている。俺の方は素っ裸。先生は、まだ俺のシャツを引っ掛けていて、あとはソックスだけ。そんな、しどけない姿の先生にも少しだけ慣れただけど、だからって平静で居られるもんでもない。
 それで言葉を無くしていたら、長いこと静かに視線を絡ませ合うだけで過ごした。
 ふわり、と風が吹いて先生の長い髪を靡かせ、白いシャツをはだけさせる。それが合図だったみたいに、先生はシャツを脱いだ。裸体の女神像を今度も礼賛しつつ、やっぱり欲情せずには済まなかった。
「返さないとね、これ」
 無造作に差し出されたのを受け取ってから、残っている温もりに照れてしまい、落としそうになる。
「汗は乾いたと思うけど、匂いは付いちゃったかな?」
 追い討ちを喰らって、きっとまた顔は真っ赤だ。
「匂いって」
 止せば良いのに、繰り返していた。
「ふふ、洗濯に出さずに隠しといたりする?」
 連打はまだ止まない。
「いや、隠してどうするんですかっ」
「んー? 時々出してきて喜ぶとか……使っても良いし」
 使う……?
 一呼吸遅れて意味を解し、むせた。そんなこと考えもしてなかったのに、言われると図星を突かれたみたいな気がして、慌てる。
「使うって、何に使うんですかっ」
 あからさまに焦って口にすると、伸ばした手で俺の頬に触れてくる。
「判らないふりっていうのも嘘の一種よ?」
 言われて黙ったら、首をくすぐられる。色々と耐えられず、顔を背けた。指からは逃れたけど、また、ふわっと風に吹かれて、先生の髪が体に触れてくる。
 落ち着こうと、青い空に漂う千切れ雲を眺めたりする。空ぐらい、よく眺めているのに、強い既視感がして、あまりに自明なその正体が判る。
 十年近い昔、先生とここで話した時は、いつもこんな風に並んで空と雲を見ていたんだ。
「それで、志貴?」
 懐かしい想いで居たら、声を掛けられる。先生の話し方は記憶の中と少しも違わなくて、声の変わってしまっている俺が言葉を発するのは惜しいから、仕草だけで促す。
 夢見るように耳を傾けた俺に、雲の名前でも尋ねるみたいに、先生が言う。
「志貴って、私で『した』こと、あるの?」
「あ、ありませんっ!」
 とんでもない問いの意味を今回は刹那に理解し、判らなかったふりとか、判りつつも何のことなのか聞き返してみせるとか、そんな余裕も得られなかった。記憶に在った先生は、魔法使いで、まるで聖女で、先生には不本意だとしても、俺からはほとんど崇拝に近くて。『した』だけで何の話か掴めたってことさえ冒涜みたいに思う。
 たとえ、ほんのさっき睦み合っていたにしても。
「ほんとに? 一回も?」
 先生の方を向いてしまったから、姿態が目に入って、瞬間的に肌触り温もり匂い潤いと全部追想していた。感覚を反芻しつつ、この期に及んで何処かで現実とは信じられない俺が居るから、ただの妄想にも思えて。
 もたついているうちに、返事が遅れた。
「本当です、そんな、考えたこともっ」
 事実のはずなんだけど、何やら自信を無くしている。
「ふふ、返事するのにちょっと間が在ったじゃない、今」
「それはっ……まずは落ち着いて考えてから答えないとって」
 ちっとも落ち着いてない。
「あはは。でも、考える必要があるってことは、そんなことをした可能性ぐらいは想定されるってことよねえ」
「いや、ありませんよっ」
「絶対に?」
「絶対にっ!」
 からかわれているのは明らかで、先生は笑っているけど、俺としては必死になって否定する。真っ当にNOと言えなかったことが、自分で記憶を汚したみたいで歯痒かった。
「そんなにムキにならなくても良いじゃない。ふふ、でもまあ、本当に無いみたいね」
「はい、無いです、それは」
 信じてもらえた様子に、少し、ほっとする。
「で、何をしたことが無いのかな、なんて話は……もう充分?」
「ははは、充分ですよ。降参です」
「そう……でも、そこまで天地神明に誓うって勢いで無いと言えるのも」
 身を乗り出して這うように迫って来て、両手で首に絡み付かれる。血を吸うかのように首筋に噛み付いて、ひとしきり舌を使ってから、先生は囁く。
「ちょっと、残念かな」
 きょとんとしてる内に、ぺろんと耳を舐められた。
 先生? と呼びかけた俺の顔を両手で挟みつけて、正面から見据えて、言う。
「言ったでしょ。志貴にとって、ちゃんと生身の女でありたいから」
 不意に悪戯に笑い、続ける。
「で、私が充分に肉体化するには、二回も欲情を放っておけば足りる?」
 ごくっ。直截な言葉に駆り立てられ、笑いが艶かしくて、猛る。
 さっきから触れられていて、目の前の先生は真っ裸。節操の無さには何度となく呆れつつ、体がとっくに答えを主張している。表情一つ変えないまま、先生は片手を下げて俺のモノを弄び始める。
「えー、その……」
 この状態で、もう満足なんて言っても、説得力の欠片も。
 嬉しいけど、ほんの今、散々に弄ばれたわけで、ちょっと悔しかったりもする。願わくは逆襲もしたいところだから、こんな白昼夢の時を過ごすに至った経緯を素早く追想し、ひとつ反撃の糸口を掴む。
 返事をする代わりに、俺も手を先生の脚の間に伸ばす。ヴィーナスの丘の茂みは少し乾きかけつつ、中央の泉はまだ潤っている。ぬるん、と指を押し入れたら、途端にイチモツを握られた。
「はぅっ」
 呻くと、今度は精巣の方を包んでくる。
「ほんと、一目で不安に駆られるぐらい危なっかしい生命力なのに、こっちは凄いわね」
「ははは……」
 そうストレートに言われると、照れ笑いぐらいしか出ない。
「これで真祖の姫まで虜にしたのね」
 耳に唇をくっつけて囁かれる。
「いや、別に何もそう言うわけじゃ」
 冗談なのは判っているけど、反論しておく。大体、虜にされたのは俺の方だ。
「良いじゃない、照れなくても。それで、返事はどうなの? 満足した?」
 むぎゅ、と抱き締められて、意を決して答えた。
「もう一回、先生と、したいです」
「ふふ。OK、私ももう一回、志貴と、したいな」
 また、唇を重ねた。先生の口は至高の美酒だ。口を吸いあったまま、手は互いに愛撫を続ける。膣の中を探り、体の跳ねるのをヒントに天井側に急所を見つける。腰を引いて逃げようとするのを、抱き締めて逃がさず責め立てる。まだキスを交わしたまま。
 ちゅぱ……
 逃げるのを諦めたか、攻勢に出てくる。もう弱点は知られてるわけで、指が全部急所を捕らえている。先生はキスも巧い。
 舌を絡ませ合うにつれ快感が再演し、さっきのフェラチオを反芻してしまって押されていくから、引きはがした。
「ん?」
 もうちょっと続けるつもりだったのだろう、先生は戸惑っている。
「いや、すっかり色仕掛けで誤魔化されるところだったなあって」
「誤魔化すって、何を?」
 そりゃ、こっちとしても唐突なことを言ってるんだから、判らなくて当然。
「言いましたよね、いくら先生でも責任は追求しますって。あれだけの騒ぎを起こしたことについて、お仕置きはさせて貰います」
 厳かに言うつもりだったけど、最後は笑ってしまった。
「えーっ、あんなに女の体を弄んでおいて、今さら〜?」
 絡み付いてくる。触る麻薬ってぐらいの肌に意識を犯されつつ、どうにか踏みとどまる。
「ほら、だから色仕掛けで誤魔化されるとこだったって言ってるんです」
「あん……。お仕置きって、何をするの?」
「そうですね。まずはちょっと、拘束させて貰いましょうか」
 投げ散らかしていた服からベルトを回収して、腰の後ろで揃えさせた手に巻き付ける。こんなの外すなり千切るなりする方法には不自由していないと思うけど、抵抗せず、困ったような、照れたような顔を見せてくれる。胸を張ることになるから、ただでさえ大きなおっぱいが殊更に強調された。実はまだ何をするか決めてないから、時間稼ぎに手を添えて、弄ぶ。何度触っても、鮮烈。
「……胸、どれぐらいあるんですか?」
「ふふ、男の子って、見て触って舐めてしながらでも数字とかアルファベットとか知りたがるわねぇ」
 わりと頑張って尋ねたのにスルーされる。ちょっと腹を立てて、ぎゅっと握った。
「んっ、いたーい」
 白い肌に指が食い込むぐらいになっているから、痛いはずだ。それで、お仕置きの内容を思いついた。
「いけないことをした子のお仕置きと言えば、昔からお尻ペンペンと決まっているんです」
 今度はどうにか笑わずに告げ、俯せにならせる。後ろ手に縛っているから、頬を地面に付けて伏せる格好。お尻を高々と上げて、ちょっと膝を開いて貰う。
「志貴のえっち、お尻ペンペンなんて」
「なんでお尻ペンペンがえっちなんですか」
「志貴がえっちだから」
 こっちを向いた顔が笑っていた。
「……反省の色が見られないので、より厳しくお仕置きします」
「えーっ」
 でも実際、今の先生のポーズは酷くいやらしい。突き出された丸くて艶やかなお尻に手を当てて、するすると撫でると、やっぱり魔性の感覚。
「んふっ」
 谷間に指を迷い込ませると、先生がちょっと色っぽい声を上げた。
「ほら、罰を受けようって時に何を変な声出してるんですか」
「刑罰は、お尻ペンペンであってお尻ナデナデじゃないでしょ。……んっ」
 谷底を擽ったら、お尻を揺らした。
 さわさわと更に張りのある肌を楽しんで、告げる。
「行きますよ?」
「うん……はい」
 ノってくれたのか、返事が丁寧になった。
 ペシッ
「あんっ……志貴、ほんとに痛ーい」
「痛くなきゃ、お仕置きになりません」
「えー」
 さわさわ、ぱしんっ、と同じことを続ける。
「んぁっ」
 更にもう一回。
「あふンっ」
 そこそこ強く叩いているから、ホントに痛んだと思う。実際、お尻には手の型が赤く付いたりしている。でも、先生の悲鳴は妙に色っぽい。馬鹿馬鹿しさで抑えていた欲情が蘇ってしまう。
 それで、体の下から先生の脚の間に手を届かせた。
「あんっ、その手は何っ」
「お尻叩かれながら変な声上げるからですよ。先生も大人なんですから、この手で何をするかぐらいお判りでしょう?」
 勝手なことを言い、あっさり、先生の中に指を沈める。熱くて濡れて絡み付くような肉壺は、指に食い付いてくる。クリトリスを探って、内外から先生のオンナを責める。
「んふ、志貴、上手いんだから……ぁんっ……」
 もう一方の手で、お尻なでなでも再開。谷間の奥の秘密の穴まで突いてみたり。
 つんつん。
「ひゃっ、ちょっと志貴、そこはっ!」
 びっくりした声が上がり、きゅっとお尻が締まって指を挟む。
「お尻の穴ですよ?」
「あんっ、駄目っ」
「ほら、お仕置き執行中なんですから、口答えは無しです。リラックスしてください」
「んんっ、志貴のヘンターイ」
 言いながらも、力は抜ける。こちょこちょこちょ、と谷間を指先で駆け回る。
「ひゃん……んふ……ぁっ……」
 声がだいぶんに陶酔してきたあたりで、
 パシッ
 と、久しぶりに平手打ち。
「はぅっ!」
 それからまた、くちゅくちゅと前後から責める。
「ふぁうぅ……志貴、何回叩かれれば赦してくれるの?」
「そうですね……お尻百叩き、なんて言いますけど、それはちょっと俺も手が痛いだろうし」
 ペチッ
 言いながらも、またひとつ打つ。
「んぁ……ん……三回ぐらいで堪忍して?」
「そこまでは負かりません」
 ぴしっ
「くぅ……」
 結構、お尻が赤くなってきたから、しばらくは撫でてあげることにする。血の巡りが良くなって、全身赤みが増している感じ。
「そうですね、半分の五十回では?」
「五回で良いわよ〜」
「駄目です」
 ぱんっ
 何だかリズムで、休憩のつもりが叩いていた。
「それに先生、なんだかどんどん濡らしてますよ? 結構、叩かれて良い気持ちなんじゃないですか?」
 実際、相当にぐしょぐしょになっている。
「弄ってるからでしょ……」
 結局、交渉の結果は、十三回。但し、
「じゃ、一回目行きますよ?」
「あ、もう何回も叩いてるじゃない」
「今からですよ……」
 そんな具合。
 快感の声にしか聞こえない悲鳴にヘソの下を熱くしながら、お尻ぺんぺんを続けた。
「志貴、女の人には優しくしなさいー」
 ぺしっ
「ひんっ、素直な良い子だったのにー」
「正しいと思うことをしているだけですよ?」
「あはは……」
 ここで笑ってくれるあたり、どってことないんだと思うけど、七回ほど打ったところで休みをあげる。俺の方は、さっきからすっかり勃起している。もっとストレートに肌を楽しみたくなったわけでもあった。
 お尻の方から前の潤いを手に貰って、さっきはノックした程度の後ろを再度訪ねる。
「あんっ、ちょっと、志貴ぃ?」
 くに、と押してみる。ヴァギナの方を丁寧に可愛がって気を逸らせつつ、くいっと更に指先を侵攻させる。
「んふっ……」
 前からたっぷりと蜜を運んで絡めておいたのが良いのか、指先だけなら抵抗は軽かった。無茶する気は無いのだし。
「ぁあんっ、もう、お仕置きは?」
「好きなんですか、叩かれるの」
「そんなことないけど」
「こっちの方が好きでしょ、先生」
「そんなことも、ないわよー」
 そんなに嫌がってもない様子だから、前後責めを続ける。我慢できなくなって、お尻に顔を寄せて、頬を擦りつけたりする。叩かれて火照った肌は、汗が滲んで、舐めたらちょっと塩気がした。もう入れたくなっているけど、もったいなくて騙し騙し愛撫だけ続行。
「あ……んふ……ううんっ」
 柔らかくて締まる女の器官は、ますます熱く解れて蜜を垂らす。外から何か受け容れるようには出来ていない、後ろの孔に、気付くとさっきよりもっと指を押し込んでいた。前後で指の位置が互いに感じられる気がする。気がするだけかも、でもその錯覚は妙に滾る。
 お尻を半球味わったあたりでもう、突っ込みたいのを抑えられなくなってなる。ちょうど良い姿勢なんだ、後ろから入れてやろう。思って体を起こす。ちら、と先生の顔を見たら、充分出来上がってくれているみたい。でもまだちょっと我慢して、代わりに後ろから、突き出されたお尻に顔をくっつける。
「あん、何?」
 くい、と二つの山を左右に押し広げる。
「しーきっ!」
 尾骨のところにキスして、舌を下ろしていく。
「志貴、そんなとこっ」
「平気ですよ、先生だったら」
「あん……ひんっ」
 ひくひくしてるお尻の穴にまで、ちょっとだけ舌先を付けたりした。ぺろぺろすると、面白いように声を上げる。
「あっ……にゃっ」
 それに、変態とかなんとかも言ってくる。
「……先生、お仕置きを受けてるって立場が判ってませんね?」
 顔を見たら、視線に気付いたのか、白い敷布に押し付けられた顔を笑いに綻ばせる。開いた口を見て、さっき口で弄ばれたのが今のお仕置きごっこの発端だったと思い出す。
「立場をわきまえないと、先生でも赦しません。少し黙って貰いますよ」
 ん? って様子の先生の肩を掴んで、頭を膝立ちの俺の腰あたり持ってくる。屹立したイチモツを眼前に突きつけた。
「ほら、口を開けて下さい」
 素直に従ってくれるから、くわえて貰う。
「ん……」
 ちゅぱ……
 先っぽから、きっちり舌を動かして舐めてくれる。ぐるんぐるん周囲を辿る動きに、しばし息を堪えつつ耐える。唇で摘む感触が新鮮で、一気に昂ぶる。そのまま逝かされそう。それで、流石にちょっと躊躇いつつ髪の毛を掴んだりして、腰を突き出す。亀頭で上あごの粘膜を撫でる感覚にふるえつつ、更に奥に、喉まで。舌を押し付けてくれてて、そっちの柔らかさにもぞくぞくする。
「んんっ」
 穂先が喉に当たって、先生が少し呻いた。随分酷いことしてるわけで、でもそれは考えないことにして、ゆっくりと腰の前後を開始する。ぴったり閉じて、唇でも楽しませてくれている。抽送にあわせて舌が這い回っている。
「あぅ……」
 知らず、こっちも呻く。先生の美貌が苦しげに歪んでいて、でも俺は猛烈に気持ち良くて。聖女を陵辱しているみたいで、我に返ったら止めてしまいそう。だから、快感に没頭しようとする。舌とか唇とか、本気で辛かったら、こうはサービスしてくれないはず。そう思うから、甘える。先にしてもらったのと刺激は違わないはず、でも気分が全然違って。
 異常に興奮してる。お尻叩いたりとかはえっちな冗談に過ぎなかったのに、今は本気で吼え哮っている。
「せんせ、ごめん……」
 お仕置き、お仕置きって口にしていながら気弱になりつつ、行為はどうしても激しくなり、あちこち強く当たっている。苦しそうだけど今さら中断も無理。動きを変えると違うトコが気持ち良くて、でもそんなことすると先生は予期でききなくて辛いはず。でも我慢できない。しっかり愛撫してくれるから、突き入れたり引き出したりして舌使いを楽しむ。
 苦しそうなのは理解しつつ、喉の奥まで突く。
 唇のしまりが余計に強く。舌使いもまた激しく。こんなにされながら、先生の方から頭を揺すってくれてる。生身の女でありたいって言葉を頼って、好き勝手している。最悪のやり口だ、犯して地に落とすなんて。
「くぁう、ぅあ……」
 口元から涎が零れている。目にも涙が浮んでる。体の反射で吐き気だってしてるだろうに、耐えてくれている。
「せん、せ……」
 罪悪感に、悦楽が倍増している。破壊の衝動。メチャメチャにしたいぐらい獣欲に駆られてる。もうちょっと抑えろって声は、喰い殺されて届かない。あんまり気持ち良くて止まらない。
 酷いこと、してる。先生に。気持ち良い。向こうは辛そう。でも快感。甘えてる。柔らかい唇。目に涙を見つけた。酷い。濡れた舌。深い喉。上気した頬。後ろ手に縛るベルト。
「は……ぅ……」
 先生の口を犯す。身勝手な快感。嫌がってはいない。思いこむ。腰を動かす。頭を揺すっている。舌が動いている。頬の粘膜に触れる。歯が当たって痛んだりもする。でもそれぐらい。快感のうち。
 ぐ、ぐ、ぐ、と奥の方を繰り返し突く。
「く、うぁ」
 目が眩む。血が下に集まりすぎてる。快楽。辛そう。早く。湧き上がる射精感。
 先生が、目線を上げて、ウインクして見せてくれて。
 歓喜と安堵。でもちょっと腹立たしくて、このまま口に……。
 それは躊躇う。
 ――想像には難くない。
「はぅ、ぅ、んぁあっ」
 限度。腰を引く。根本から先まで舌の一撫で。それが止め。唇の環をくぐる快感、それはもうオーバーキル。
「ふあっ」
 グロテスクなペニスが端正な唇から現われる。途端に、弾ける。先生の顔の真ん前で、存分に射精する。無理にこじ開けるみたいに尿道を通る感覚で、それが無闇に喜悦。粘つく白い液が飛び散って、先生の顔を汚す。どくどくと吐き出すのを、追いかけて舐め取ってくれる。先っぽに口付けて、綺麗に吸い取ってくれる。体の奥から紐みたいなものを引っ張り出されているみたいで、くすぐったいけど至福。舌が這い回って、溶けそうなほど舐めてくれる。顔から精を拭って指を突きつければ、呆れ笑いで舐めてくれる。涙がこぼれるほど苦しかったはずなのに、文句も言わず。
 ――でも、それだけは何故か躊躇われて。
「んんんっ」
 代わりに、どうにか耐えて口から抜き出した。
「ぷはぁっ」
 大きな息を吐いているところに、告げる。
「先生、後ろ……」
 それだけで解して、お尻を向けてくれる。大急ぎで迎えにも行く。先生の後ろになり、あられもなく突き上げたお尻を掴んで、いきなり乱暴に先生のオンナを俺自身で貫く。
「はぁんっ」
「くぅ、ぁ……」
 いきなり果てそう。唇を噛んで耐えた。動くたびに射精しそうで、死ぬ思いで毎度耐える。先生と一緒が良いから。
「はんっ……」
 こっちなら、辛くはない。そのはず。思って、激しく動いた。脇腹を掴んで、ひたすら腰を使う。体がぶつかる。パンパン言っている。全体がぎゅっと締まる。それが口と違う。濡れた柔肉の袋にきっちり包まれる。隅々まで快感に掴まれる。体の中から何か搾り取られていく。まるで、放っている時と変わらないような法悦。
「ぁん、志貴……」
「せん、せ……」
 先生も感じてくれてる。それが大事。向こうも腰を揺らしてくれる。当たり方が変わる。刺激も変わる。
 あんまり気持ち良すぎて、何か、異常なものに突っ込んでいるみたいな気がする。自分の体とも、思えなくなってくる。おかしなものに男根から侵入されて気付けば体を奪われてたり、なんて奇想まで浮ぶ。
「ん、ふぁう、うぁ……」
 甘い喘ぎが耳に流れ込む。先生も感じてる。そう思うと、官能がまた倍増。腰を掴んでいただけの手に気が向く。もぞもぞ、指を動かす。何処か、駄目なとこがあるのか、撫で回すほど先生は啼いてくれる。この瞬間だけ奇妙に冷静に、お尻に悪戯しに行く。
「ひゃんっ、ひぅ、ふぁあっ」
 途端に、先生の中が蠢いた。
「はくっ……」
 官能が強すぎて、べったりずっと気持ち良くて、きっかけを無くしてそう。射精する手間を惜しんで快楽だけハウリングしてるみたいだ。
 地面に伏せた横顔が見える。熱くなって桃色の美神の裸体。瀑布のような、長い髪。
 撫で回す。先生の声が高くなる。ほとんど悲鳴。耳で弾けて、まだこれ以上、体を熱くしようとする。際限なく性感を注がれて、もう決壊は目前。
 一際高く、先生の嬌声が上がる。瞬間、異様な快感を覚えた。
「せんせい……」
「ぁああ……ぁ……しき……」
 目の前が白くなって、後ろから犯してる姿勢なのに抱き合っているような不思議な一体感。体の中身が融けて、先生の中に吐き出されて、とろけた先生の肉とぐちゃぐちゃに混ざって、もう元になんて戻せそうになくて、だけどそれが至高天の悦楽。そんな幻想。
 訳も判らず叫んでいて、それからやっと、射精してるんだと気付いた。
「はぁあ……っ」
「んぁああーっ」
 貧血を起こして、崩れた。
「お仕置きは終わりで良い?」
 先生の声に、胡乱な頭のまま答える。
「はい、もちろん」
 どこから聞こえたのか判らず、朦朧とした意識にどうにか気合いを叩き込む。
「じゃ、手、解いて?」
 視界が戻って、見れば、後ろ手に縛られたままの先生が目の前に横たわっている。
 急に、とんでもないことしたなって思えて、慌てて解放した。
「あーあ、志貴に苛められちゃった」
 片眼を閉じて笑い、だるくて動けない俺に熨し掛かって、胸の谷間に顔を埋められる。
「もう、ちょーっとヤンチャ許したらメチャクチャするんだから」
「んーっ」
 強烈に頭を抱き締められて、窒息してたりする。気持ち良くて苦しい。
「ふふ……志貴としては、これで赦してくれる?」
「あい」
 NOと言ったら放して貰えないんじゃ。でもまあ、元よりNOを言う気は無い。
「ありがと」
 解放されて、でもすぐにまた口を塞がれた。短く、だけど熱くキスを交わして、二人して仰向けに寝た。
「結局、顔には出さなかったのね。掛けたそうだったのに」
「ははは……すごく、そうしたかったのになあ」
 どんなに欲情に狂っていても、超えられないラインはあったみたい。
「お尻に入れようとして来たらどうしようかな、とか」
「ああ、しまった、それを忘れるとは何たる不覚」
 先生が吹き出して、また変態とか言ってくる。
 こんな話をしていてさえ、見上げた空は、いつかと変わることなく遥かに、深く青く澄んでいた。

 

まれびと 5へ

/まれびと 4・了

 


ちょっと志貴にも責めさせたいかなあ、と思ったら、ずいぶんやんちゃを……^^;

背景画像は、ゆんフリー写真素材集(Photo by ©Tomo.Yun )様 提供のものです。

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