まれびと


◆3

 本当に眠りかけていて、先生が身じろぎした気配に眼を向けたら、起き上がって白いものを羽織っていた。
 もう着ちゃうのかと残念に思って、気付く。先生の服はTシャツだったはず。
「先生?」
 背を向けた先生が着ているものは、白いワイシャツ。
「それ、俺の?」
 腰を捻ってこちらを向いたら、前はお腹の辺りしか留まってなくて、開いた胸に、谷間が覗ける。
「うん。ふふ、ちょっと着てみたくて……駄目?」
「いえっ、そんなことはっ」
 返事しつつも、上の空。さっきまで素っ裸だったのだし、見るどころか触って舐めて抱き合ってしてたのに、シャツを引っ掛けた姿が無闇にそそった。
 もうちょっと体をくねらせて横座りになる。普通の動作なのに艶っぽく見えてならない。
「ちょっと大きいわね、やっぱり」
 腕を広げたら、確かに袖が長くて、指ぐらいしか突き出してない。でも、そんなポーズをすると胸元の隙間が大きくなるわけで。
 もうちょっとで乳首が。
「うっ」
 露骨に喉を鳴らしてしまった。
 いや、だから、乳首だってさっき散々に吸い付いたりとかしたくせに、気になってしょうがない。駄目だ駄目だって視線を下げたら、裾もちょっと上がってて、脚の間に翳りが見えている。
 ごくごくっ。
 もっと下に目を逃がしたら、今度は真っ直ぐな長い脚に捕らわれる。柔かそうな太腿。いや、実際、柔かくて気持ちい……
 速やかに、またもっと目を移す。丸っこい膝と、そこから続く脛。くにゅ、と横に押されたふくらはぎの肉、麗しき芸術。
 こんなに綺麗なものを鑑賞して悪いなんてことはない。言い訳しつつ、先をまだ辿ってしまう。目に入ったのは、脱がずに残ったスポーティな白いソックス。
 布が残ってるせいで彫像とかじゃないって突き付けられて、美よりもエロスが勝った。引っかかってるのが、ぱんつだと気付いてしまったりしちゃ、なおさら。
「どしたの?」
「いえっ」
 天を仰いで、目に染みる青さに心を静めようとする。でも、青ってのが駄目だ。先生の名前だし。目の色だし。布地に浮き出た乳首の突起とか、ソックスに出来た皺とか、そんな映像ばかり次々再上映してしまう。靴下だけ残すエロティシズム、なんてやつだ。
「好きよねえ、男の子、こういうの」
 虚像と争っていると、笑いと揶揄が耳に入った。
「えーっと」
 やっぱり、判ってやってらっしゃるんですね、先生。
 開き直って、顔を上げる。
「何も、今更誘惑しようとしたわけじゃないけどさ」
 と、胸元のボタンを留めている。穴に通りはするけど、布地が突っ張って隙間が出来る。張り詰めて、乳首がますます目立ったりする。
「でも、オトコノコがそう言うの好きって」
 おっぱいが押えつけられていて、引っ張られたシャツの下で体の動きに応じて蠢いている。えもいわれぬ感触が甦って手が疼く。
「ん、志貴は好きじゃないの?」
 判り切ったことをわざわざ尋ねる調子。だから、俺の方も仰々しく答える。
「それは、実を言うと」
 身を乗り出し、耳に口を寄せる。向こうも、歯を見せながら、耳打ちを受ける体勢になってくれる。唇が耳朶に触れるほど近付くと、ほつれた髪に鼻をくすぐられた。シャンプーか香水か、仄かに匂いが残っている。掻きたてられて我慢できず、ふぅって息を吹き掛けた。
「ひゃんっ」
 思いがけず大きな反応で、こっちがびっくり。追いかけて捕まえて、囁く。
「大好きですっ」
 そのまま、押し倒した。
「あはは、一回ぐらいじゃ足んないかー」
 言われると恥ずかしいけど、まるっきり事実だった。節操も何も無く、まだもっと先生が欲しい。味を知らないところが無くなるぐらい、しゃぶり尽したい。肌に溺れてしまいたい。
 何も言わず、噛み付く勢いでキスした。平然と受け入れてくれるから、呼吸も忘れて喰い付く。舌が密着してくるくるチークを舞うよう。絹糸めいた髪に手を突っ込んで、頭を押える。指先で耳を撫でると、先生が体を揺らす。でも、止めない。
「ぷはぁっ」
 限度が来て息を継いでも、すぐ口の中のダンスに戻る。口も何か香った。歯磨き粉みたいなミント系だけど、あまり、きちんと歯磨きしたりするイメージじゃない。口付けの相手がそんな人でも、気にもならなかった。軽やかに激しくダンスを続ける舌のせいで、歓喜に体を満たされていたから。
 名残惜しいけど口付けはストップして、首筋に唇を移す。耳の方に舐め上げる。
「んふ」
 また耳に息を掛けたら、やっぱり逃げようとする。
「弱いみたいですね、ここ」
 頭を抱えるようにして押え、耳朶を唇に挟む。複雑な形を舌先で辿る。
「うふふっ」
 笑っているけど、濡れた響き。
 反対側の耳に、同じような愛撫をする。元の方も、指で弄んでみる。
「あん……」
 口を下ろして行って、大きく開けて喉の辺りに食らいつく。中を舐りまわす。先生が両手で顔を挟んで首や喉を責めて来るから、俺は胸に手を伸ばした。
 温かい果実が張り詰めたワイシャツの下に押さえつけられている。撫でつけて、張りと柔かさを堪能しながら、尖ったものを見つけた。迷い無く、そこを弄り倒す。
「あふ……」
 触るうちに、堅さも隆起も増して行く。先生の息も荒くなる。
 下に移って、鎖骨に惹かれて舐めた。両手で胸を掴んで、存分に捏ねる。噛み付いてしまいそうなほど、食欲めいて渇望してる。我慢なんてできなくて、ボタンを外して窮屈そうな双丘を解放する。
 ふわん、と揺れて色付いた乳首が残像で模様を描く。手で揺らして眺める。楽しくなって続けてしまい、笑われていた。
「……いただきます」
 にやけるのを抑えつつ言い、いきなり掴んで乳首にキス。大きな熟れた果実の上の、小さな突起。溶かしてやろうって勢いでしゃぶる。ふくらみを揉んでいると、果汁を搾ってるみたい。甘くて美味しくて、左右交互にひたすらに食べる。
「あふっ、んぁ……ほんとにおっぱい好きね、志貴」
 からかわれるけど、感じてるみたいだし、止めない。いや、止められない。
 間に顔を入れて左右から押し付けて、頭を振り動かす。さらさらしていて、でも潤っていて、滑らかな肌。柔かいのに圧力の高い感じなふくらみ。ちょっと汗ばんで、香りが艶めく。
 乳首が恋しくなって、また吸い付く。山をふたつ内側に寄せて、同時に楽しもうとする。出来る谷間の深さを目にして、不埒なことを欲望する。
 ちょっと躊躇われて胸から顔を離し、もう一度喉から鎖骨へ舌を這わせる。まだ滑って行って、腋の下に辿り着いた。
「ふふふふふっ」
 流石に擽ったいみたいで、笑う。でも、舐めたくて自制できず、腕を押えてまで舌を使った。キスマークが付くほど吸ったりする。舌に引っかかるものがあって、正体が判って、つい、囁く。
「ちょっとだけ腋毛、伸びかけてますね」
 剃ってあるのだけど、僅かにだけ。
「あはは、志貴、変態ーっ」
 それでも、強く邪魔されはしなかったから、舐めたいだけ舐めてた。
「んぁ、ふはぁ……」
 そのうち、笑いじゃなく喘ぎになってもいた。
 ひとしきり楽しんで、また乳房に手を戻したら、さっきの欲望が振り返す。したくってしょうがなくて、甘えた。
「先生、その……胸で、しても良い?」
 ほんの一瞬だけ戸惑って、でも判った様子。
「ん、何をしたいの?」
 片手を頬に当てられる。
「いや、挟んでみたくて……」
「挟むって、何を?」
 両手になる。指先が動き出す。
「だから、俺のを……」
 志貴の何? なんて言いながら、片目を閉じてみせる。
 許してくれたんだと思って起き上がりかけたら、引き止められた。
「こら、素直な男の子なら、ちゃんと志貴の何なのか言いなさい」
 ははは……
 照れながらも口にすると、華やかに笑顔が弾けた。
「何でもしたいこと、して」
 大喜びで、体を起こしてやり易くしてくれる先生に馬乗りになって、とっくに屹立していたペニスを丸い山の間に置く。ごくりと涎をまた飲み込んで、手を添えて左右から挟みつけた。柔らかで瑞々しいおっぱいに包まれて、その温もりに歓喜している。まだ谷間に埋めただけなのに、腰の奥に脈動を覚えている。
「動かないの?」
 いきなり終わらないように静止していたら、促された。答える代わりに、慎重に腰を引く。
「ふぅっ」
 肌理細かなシルク。傘の裏の部分とか、複雑な形に合わせて丹念に拭われた感じ。すべすべなのに摩擦はある。息を飲む。
 ゆっくり、腰を出す。突き穿つ快感。手で加えている力の加減で圧力は変えられるのに、緩めたりなんて出来やしない。根元まで突き切ると、亀頭は向こうに飛び出す。先生がじっと見ていて恥ずかしくなるけど、今更収まるものか。
 緩慢に、引き戻す。穂先の返しが戻り際に引っかかって、背筋に響く。それでも、手を当て直してもっと強く押し付けてしまう。ついでに乳首を弄るようにする。
「あは……あぁ……」
「く、ん、ぁっ」
 呻いたり喘いだりしながら、再度、突き出す。暴発の畏れは薄れて、気は張りつつも、楽しめるようになって来た。
 下げては、戻す。繰り返す。次第に叩き付けるような動作になってしまう。往復ごとに、どこか違うところを責められる感覚があって、同じ事をしてるのに惰性にはなっていかない。体中の血が、我先にイチモツに押し寄せているみたい。
「くあぅっ」
 いきなり高まって、漏らしそうで突き抜いたところで止まった。腹の下に気合を叩き込んで、耐える。
「はぅあっ」
 でも、いきなり矛先をぬるりと刺激されて、危ういことになる。
「せん、せ……」
 先っぽを、ちろちろと舐められている。
「だ、め……」
 急いで、引く。退却して辛くも態勢を取り戻す。
「舐められるの、嫌い?」
 大好きですっ。
 とんでもないことを言われて、それだけで興奮して果てそう。
「逃げ場は無いわよ」
 変なことを言っていると思ったら、睾丸を握られた。指が蠢いて軽やかに揉まれる。先生の顔に掛けてしまいそうで、それは欲望にも勝って、逃げようとする。
「したいことして良いわよ?」
 そう言って止められた。俺が手を胸に戻せずにいたら、先生はシャツの胸元を留める。元より、きついサイズだったから、俺のを挟んでいるのもあって凄く窮屈。つまり、押えなくっても圧迫がさっきと変わらない。
 どうしたって、もう保たないから、開き直って往復再開。
 しっとりと密に竿を包んでくれる大きな胸。白い肌が薄桃に染まっている。温かくて融けそう。隙間から、俺のが飛び出したり引っ込んだりしてる。濡れてるのは、先生の唾液だけじゃなくて、腺液が先走ったせいもあるみたいだ。
 袋を責めて来る指。体の芯から炙られている気分。精液を沸き立たせて噴出させようとしている。
 突き出す槍の穂先を受け止める唇。舌。こんなこと、先生にさせていると思うと、冒涜に思えて。だから、全身に電流が走るみたいに、猛り狂ってしまう。上下左右包囲されて、どこにも逃げ場は無い。
 もう、限度。止めようって意志は押し流されてた。先生の頭に手を置き、髪を掻き乱し、耳を擽り。
「せん、せ、い……」
 腰が加速。このまま達したら、まともに顔にぶっかけてしまう。映像が目に浮かんで。
 是非とも、そうしたくなる。
 顔中が白いどろどろした粘液で汚れて、瞼を張り合わせた格好で強制ウインク。しょうがない子ね、なんて風情で先生はそれでも笑って赦してくれて、恍惚と指で精液を集める。口に運ぶ。伸ばした舌で蜂蜜でも舐めるみたいに美味しそうに。ペニスの先に、まだ少し白濁した液が垂れているのを見て、艶然と唇を寄せて吸い取ってくれる。髪にまで付いていたのを俺が拭うと、その指まで咥えて。口を開けて白いものがあるのを見せ、喉を鳴らして飲み込む。味わうように舌を蠢かし、唇の周りを舐めると、まだ残していたらしくて再びこくんと喉が動く。もっと欲しいみたいに、指をしゃぶる。
 そんな情景を妄想して、実現させようと、力を抜く。沸き立っている精がマグマみたいに火口に登る。あと三度も往復したら噴火する。
「ふぅ、はふぅ」
 精巣を弄ぶ指も動きが激しくなる。
「あぅ……」
 首を曲げて、深く咥えてくれる。口に出した方が始末が良いかなとか思う。
 ごめんなさい、やっぱり顔に掛けたいんですっ。
「くぅ、あぁ……はぅうっ!」
 これで、終わりっ。飛び出す白い溶岩が殆んど見えた射精の寸前。
「んん、んぁあっ」
 イチモツの根元と袋を握られて、無理矢理止められた。
「がっ、くっ、んぅぬぁっ」
 訳の判らない叫びをあげる。
「せ、せん……」
 顔には快哉の笑い。握られているうちに、破裂する感覚は少しずつ引く。息が整うに連れて、出せなかったもどかしさが全身に鬱屈した気分になる。
「先生……」
 恨めしげに言ってしまう。
「あはは、ちょっと意地悪だった?」
 仕草で横たわるように促し、言う。従ったら、上に被さられる。耳元で囁かれる。
「もっと色々、してあげるから」
 耳を一頻り舐めて、移動していく。首筋から喉へ。下がって、胸の方へ。
 胸に手を当てて、ちょっと止まっている。見ると、また少し、痛ましげ。胸の大きな傷跡を撫でながら一度だけ視線が上がり、俺と目が合って、穏やかに微笑んだ。
 言葉の無いまま傷跡の上に顔を下ろし、ペロリと舐めて、頬を載せる。鼓動を確かめるように、左胸に耳を当てている。何が判ったのか、まだ幾分は険しかった表情が、和らいだ。
 手を添えて乳首を弄り始め、もう一方にキスされた。
「う……」
 乳首を舌で突っつき回されて、くすぐったいのか気持ち良いのか曖昧な感覚に声が漏れた。
「志貴、乳首、感じるんだ」
 言われて、なんだかそっぽを向いて我慢してしまう。
「ふふ、照れなくても良いのに……それそれっ」
 逆の方に吸い付かれて、さっきよりもっと転がすみたいに舐められる。確かに、感じてる。何故か、妙に恥ずかしい。
「さっき、さーんざん乳首責められたから、お返しっ」
 楽しそうに、左右行ったり来たりしながら執拗に舐められる。
「ほら」
 手を取られて、自分で乳首に触らされる。
「すっかり堅くなってるわね」
 言われた通りで。よく判らないけど、やたらめったら恥ずかしい。
 やっと羞恥責めから解放してくれて、密かに笑いつつ、胸から下へ向かう。脇腹とか撫でられると、ぞくぞくする。
「元気ねえ。ここは、もう男の子というより男よね」
 さわっ、と根元からイチモツを軽く撫でられる。いきなりだったから、声をあげかけた。
「当然か。そういう年だもの」
 今度は、根元をペロリと舐められた。
 見れば、股間に潜り込むように顔を寄せている。思いっきり好きなことしたけど、先生の方からそんなことしてくれるって事実に、やっぱり吼え猛る。
 オカリナみたいに、あちこち指先だけで触れて、擽られる。それぞれピンポイントで快感だけど、刺激は弱い。片手が亀頭に集中して、急に激しくなって、でも止めは刺してくれない。
 先端に口を寄せて、大きく開ける。でも、はーって息を当てるだけ。温かくて、びくびくするけど、それだけ。疼いて悶えていたら、こんな事を宣告された。
「顔に掛けようとなんてした子は寸止め焦らし責めの刑」
 うわっ、そんなっ。
 でも、もう射精してしまいたいくせに、頑張って耐えてもいた。
 また唇を鈴口の所に近づけて、今度は細く息を掛けられる。こんなに微かな刺激も、生殺しに遭っている身には鮮烈。
 ふーっ
 弱い刺激が何とも悦楽。
「はうぅっ」
 ふーーっ
 俺まで息がおかしくなる。
「ん、く、う、んんっ」
 三呼吸めぐらいで、ほんとに弾けそうになって。
「だーめっ」
「があぁっ!」
 また、根元を押えて止められた。膝が跳ね上がって、危うく蹴り飛ばしかけた。がくがくする腰を大人しくさせられたあと、とうとう、口を付けられた。
 まだ、根元の辺りを緩やかに舐められているだけ。それでも、震えるほど気持ち良い。先の方に滑って行って、傘の下で引き返す。横向きに咥えて唇で扱き、口の横が亀頭に触れたら反対側から咥えなおして、下に戻っていく。
 まだ、いぢめられている。焦れったい。思いっきり咥えて欲しい。知らず、膝を揺すっていたら、内腿に両手を置いて揉まれる。
「あぅぅ」
 睾丸を片方口に含んで、舌で転がしている。温かくて濡れた口の中。ぬめぬめした感触。唇で丹念に引っ張られる。少しは収まっていたマグマがまた熱くなっている。
 同じことを、左右交互に繰り返し。今にも果てそうに気持ち良いけど、シャフトの方に刺激がないと決め手がない。
 掻痒感に呻く。
 指先で包んで洗うみたいな動き。性器にしか神経が通ってないみたいな気がする。こっちに片手を向けて擽る真似をされて、見てると体中を触られてる気がする。目を閉じたら、余計駄目だった。
「こしょこしょこしょ」
 なんて囁かれて、悶えてしまった。
 その次の瞬間、いきなり咥えられた。舌が尿道のところに触れて、輪を描いていく。だけど呼吸困難で死にそうなほどゆっくり。やっと一周した途端、逆周りに早い回転。
「ひあ!」
 まるっきり弄ばれてる。でも腹も立たず、快楽と興奮で心臓がやられないか心配になるだけ。
 やっと、まともに咥え込んでくれた。じゅぷ、じゅぷ、って水音をたてて、リズム良く先生の頭が上下してる。こんなに卑猥な行為をしていても下品に見えないのは、思い込みかな。この期に及んでもまだ、都合の良い、いやらしい夢にも思える。
 フェラチオされて、気持ち良いけど不思議に穏やかで、さっきまでみたいな焦燥と責め立てる鋭さは無い。すべすべした唇と、ぬめり付く舌。頬の内側の粘膜。先っぽは時々、喉にまで当っている。蕩けそう。心臓は休まらない。でも、静か。
 脱力して寝てしまい、空を見る。こんな空の、遠く深く青い空の下で。
 全裸で寝ていて、先生にイチモツを口で愛して貰っている。
 馬鹿げた夢としか思えなくて、でも、気持ち良い濡れた感触はあまりに生々しい。
「はっ……くぅぅ」
 ぼんやりしていた間に先生の動きは変わっていた。何がどう違うのか、優しいままにも燃え立つ喜悦。舌があちこちに当って、時々、電撃が体を駆け抜ける。弱みを見せたら途端に集中砲火されて、ひっきりなしに体をわななかせる羽目になる。
 身を委ねて悦楽に耽ったって良いのに抵抗するのは、長引かせたいのか。唇を噛んでいる。
「ふふ、もう、逝きたい?」
 竿に頬擦りしている先生が訊いてくる。はい、と答えようとした直前、続きがあった。
「それとも、まだ胸でとか、して欲しい?」
 それから、よく言うハーモニカみたいな横咥えでしゃぶってくれる。ちょっとずつ袋や亀頭やへの責め手が増して来るから、答えを急がされる。
「……お願いします」
「O.K.」
 結局、ほんの一瞬の逡巡だけだった。
 いや、その、胸で挟んでもらうのって、気持ち良いのももちろんだけど、凄くドキドキして嬉しくなるのが好きで。あんなに綺麗で優しいものをヘンなことに使ってるって感覚が楽しくて興奮して。母性を雌に堕としてるみたいで。
「って、せん、せ……ぁうっ」
 オーケーって言ったはずが、いきなり頭の振りを激しくした。小刻みで、ぴったり覆って傘だけに猛攻。
 それは、ヤバイッ。
「な、んぁあ」
 シャフトと袋をそれぞれ手にして各個撃破。
 別に、逝っても良いのに、もう一回ぱいずりしてもらう気になってたから、掌に爪を食い込ませて耐える。
 ほとんど雄叫びを上げてる俺を無視して、素早い往復が続く。舌が絡みだして、ますます威力が上がる。
 あ、やっぱり、もう駄目……
 観念して脱力する。お尻の方で湧き上がるような感触。何回も寸前で止められた果てだから、猛烈な開放感。
「はあぁっ……」
 芸術めいた先生の唇の中に精を吐いてしまう、それも、申し訳ないけど歓喜。
 なのに。
 もう、声も出なかった。また、掴み込んで止められた。意地の悪いことに、掴んだまま口は使っていたから、押し潰された射精感もなかなか引いて行かない。
 ボディブローでも喰らったみたいに呻き、吼えた。
「勘弁して、くださ……」
 情けない声を出してしまう。
「胸でして欲しがったのは志貴よ」
 冷酷に言われる。
 そうですけど、と弱々しく抗議したら、唾液やら腺液やらでベトベトになっている俺のものを即座に双丘で挟んでくれる。
 誤魔化そうとしても……いや、その……
「もうしないから」
 笑い方が妖しい。
「そう言って騙まし討ちは無しですよ」
 笑いを含んだまま胸を両手で押し付け、揺すり始める。
「頭が良いのは困ったものねえ」
 柔かくて絡みつく肌。そのくせ、張りがあって滑らか。陶酔しかけて、まだ妖しい笑いを浮かべているから留まる。
「先生?」
 答えは無く、かぷっ、とペニスの穂先を頬張る。
「お願いですからもう、勘弁してくださいね、止めるのは」
 全面降伏して、嘆願した。やっと返事がある。
「しょうがないわね」
 悪魔な笑いが天使の方にシフトして、やっと俺は身を任せられた。
 自分で動いたときよりずっと長いストローク。根元から先の方まで存分にマッサージしてもらえる。体の中身を吸い出されている気分。さっきから気持ち良すぎて、半分ほど液化してそう。
「ん、はぅっ」
 亀頭だけ包んで小刻みに責められるのが、凄く、駄目。数往復に一回、それをやられる。同じようなことを口でされるのにも弱い。辛いぐらいなのに、楽しみにしてる。毎回、辛くも耐える。合間のおっぱいでの摩擦だってじわじわ効いて来て、呆けて涎が頬を伝ってた。何処まで高まるのか恐ろしいぐらい。でも、まだ。
 声にならないほどの笑いを感じた。見れば、やっぱり先生は妖しく笑っている。
 それで、悟る。やっぱり、焦らされてるんだって。点火の半秒前で抑えてる。
 半分ほど咥えて、残りは挟んで。いや、どうやってるのかなんて判らない。
 ただ、絡み付く滑らかな肌、ペニスの先端が突く喉や頬。尿道に割り込んだり傘の周りを走り回ったりする舌。睾丸を吸う唇。挟み付けて圧迫してくるバスト、擦りつけられる乳首。擽る指。ひとつひとつの感触は鮮明に把握できる。でも、何処を舐められて何処を擽られて何処を包まれて、それがさっぱり。
 ただ、今度こそ、逝かせてくれるとは期待できた。
 喉の奥まで突っ込んで、端から端まで扱かれて。ひきつけを起こしたみたいに、手足がちゃんと動かない。怖くなって、敷いてある布を握り締める。
 熱い。そう感じた途端、限度だって判った。
 最後、また穂先を包んで細かく震わされて、弾ける。
 刹那、くいって少しだけ摘んで意地悪されたけど、押えに押えられた末の爆発は、そんなの弾き返した。
 どくっ
 もう、体表以外は全部融けていそう。
 どくっ
 融けた体の中身が湯道を通って行く。快感で気が触れそう。
 どくっどくっ
 何か叫んでいたけど、判らない。酸素が足りなくて目が霞む。でもまだ、吐精は続いている。
 どくっどくっどくっ
 まだ先生が扱いてくれている。まだ搾られている。まだ快楽が増している。まだ終わらない。真冬に、かじかんだ手を熱い湯に浸したみたいな痺れと痛みと快感。
 どくっ……
 気が遠くなりかけて、やっと治まった。死んだみたいに、伸びた。
 ちゅっ、くちゅっ、と萎えたペニスをまだ舐めてくれている。敏感すぎて耐えられないから逃げたいのに、四肢に全然力が入らなくて、されるがまま。
「せんせ、もう良いですっ」
 言うのが、やっと。でも、面白がってやってるっぽい先生は、すぐには聞いてくれない。
「イイんでしょ?」
 結局、もう一回勃起させてしまうまで、死ぬほどくすぐったくて気持ち良い責め苦からは解放されなかった。
 やっと赦されて深呼吸していたら、先生が隣に寝て、顔を向ける。口の中に、まだ俺の放ったものがある。目を閉じて、うっとりとして、数度喉を鳴らした。
「ふふ、二度目なのに凄いわね。濃くってたっぷりだから、飲むの大変」
 顔から火が出そうで、そっぽを向く。
「ねぇ?」
 無視も出来ないし、目をやる。
「キスして良い?」
 いや、それはちょっと、とか思う間もなく伸し掛かられる。肌が触れ合うと、悦びが反芻されて弛緩する。さっきまで、浴びるように楽しんだ胸が、やっぱり柔かい。
「今更、怖くないでしょ、キスなんて」
 髪の匂いが芳しくて蕩けながら、それでも拒絶の言葉を発しようとする。でも、
「問答無用っ」
 なんて。気付いたら、舌を入れられていた。
 ……幸い、悪戯に過ぎなくて、もう全部飲んでくれていたけど。

 

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/まれびと 3・了

 


えー。志貴が頑張ってしまったらしく、もう一話ぐらいは続く模様です。
しかし、ちょっと先生がえっちなおねーさんになり過ぎましたか。今は反省して……w

背景画像は、ゆんフリー写真素材集(Photo by ©Tomo.Yun )様 提供のものです。

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