まれびと


◆2

 運命のように重なった唇に初めに感じたのは、春の午後の日差しのような温かさと、慈しみ。滑り込んできた舌に答えて、絡めあう。誘われては応じて、導かれては従って。唾液を流し込まれて、恵みのように飲み込む。吸われて、捧げる。
 慈愛が少しずつ、官能に変わって行く。ずっと感じてる同じ優しい匂いが、いつの間にか淫蕩に思えていた。
 押し付けられた胸のボリュームとは裏腹の意外に華奢な体を抱き締める。Tシャツ一枚の背中をまさぐって、温もりを堪能する。捲り上げて侵入し、素肌を撫でる。痺れるほどに、滑らかで潤っていた。
「あふっ」
 唇を離して、一息ついた。
 耳の下をペロリと舐められる。
「ぅくっ」
 思わず声が漏れる。
「ふふふっ」
 今度は耳にキスされて、喘いでしまう。
「うふふ、敏感ねえ?」
 反撃しようと、手をそれぞれ脇腹に移してくすぐる。びくんって震えて、抱擁を逃れて先生は体を起こした。
 胡坐をかくように座って、肌を上気させながら、笑う。
「口付け、が答えだったと思うんだけどな、志貴?」
 え……?
「いや、そうです、けど」
 きっと先生よりもっと真っ赤になってる。自分も起き上がって、向かい合った。
「で、どうするつもり?」
「どうするって、その、俺は」
 先生を抱こうとしていなたんて、とんでもなく不埒。中断してしまうと、続きを欲しがるのは躊躇う。ちょっと意地悪げに頬を緩めている顔が、まともには見られない。
 でも、欲しい。劣情を抱いている。好き勝手、弄んでみたい。
「先生が……」
 聖なる想い。それについての言い訳は、偶像である人自身がくれている。
 今の自分の滾る想いが、既に抱き合ってキスしたからってだけじゃないと、それは誓える。
「抱きたいです」
 真正面から視線を合わせて、告げた。
「良いわ」
 優しく満足げで、女神のようで。
「抱いて……」
 淫らな、微笑み。
 飛び付きそうになる。
「でもさ?」
「はい?」
 出鼻を挫かれた。
「ここで?」
 思いっきり、笑ってる。
 そういえば、ここは草原の真ん中、陽光降り注ぐ青空の下。
「そういうわけにも……行きませんよね」
「あら、どこか場所探すほど余裕なの? 志貴」
「いや、押し倒しそうな勢いですけどっ」
「なら良いじゃない? ほら」
 と、いつからそこに在ったのか、先生は例の大きなトランクを開けている。
「中、見ちゃ駄目よ?」
 何か白いものを取り出して、ぶわっと広げた。四畳半ぐらいはありそうな、白い毛布みたいなの。そこだけ、白いレンと会った雪原みたいになる。
「ほら、誰にも見られる心配とかは無いからサ。かも〜んっ」
 うわーっ。先生、こんな人でした?
 でも実際、ここまで来て先送りなんて出来やしない。
 飛び付いて押し倒して抱き締めて、唇を貪る。
 熱い。融ける。せめぎ合う舌だけじゃなくて、触れている皮膚全体から融けてしまいそう。息苦しくて、でも放したくない。歯が当ってしまうほど熱情に酔って口付けてる。互いの口の中の蹂躙を隅々まで許して、隅々まで味わう。快感に火花が散る。
 頭の後ろを撫でられて、キス以外のことに少しだけ気が向く。手を体の間に挿し入れて、胸のふくらみを掴んだ。
 寛容な柔かさ。自由にはならない芯の強さ。愛撫してるのは俺の方なのに、快楽に打たれるのも俺の方。
 ぐにぐに揉みながら、もう一方の手で裾を捲くり上げる。脱がそうとする乱暴な所作に、体を動かして応じてくれる。両腕から白い簡素なTシャツを抜き取って、長い髪を捌いて広げる。
 雪白の毛布と、先生の白い肌。花開いた髪とのコントラスト。露わになったバストに、冒涜に思いながら、そのせいで余計に酷く欲情した。渇望が上回り、両手を下ろす。天上の果実は熟れていながら若々しい。
 何か言おうとして言葉にならず、涎だけ落としてしまう。我慢せずに、顔をうずめた。忍び笑いを耳にしながら、口をいっぱいに開けて食いつく。歯を立ててしまいそう。さっきから時々感じる懐かしいような芳香が胸を満たす。蜜と罠のある甘美な猛毒。
 殺すなら殺せ。酩酊して頬を擦りつけ、柔らかな肉を揉む。玉肌の味を探る。
「んふっ」
 笑いと喘ぎの境みたいな声。
 血を沸騰させて、朱鷺色の乳首を咥えた。味なんかしないのは知ってるけど、甘い気がする。唇で挟んで、吸って、舌先で突付きまわして。
「んっ」
 石鹸に濡れたみたいにぬめるのに、くっついて手に馴染む肌。白い視界に淡い静脈のライン。火照って桃色に染まってくる。舐め続けてる乳首が尖ってくる。
「あンっ」
 喘ぎが耳で弾けて流れ込む。
 感情がいっぱいで、にやけながら泣いてしまいそう。
「志貴……」
 頭を抱き締められて、また乳房の谷間に沈んだ。欲情と官能に溺れながら、それでも、安らいだ。遠い記憶をまた追体験して、今やってることに猛る思い。
 両手で天辺の突起を弄り倒し、谷底をペロペロ馬鹿みたいに舐めまくる。汗が浮き始めていて、ちょっとだけ塩っぽい。乳首が指の間で何やらスベスベした消しゴムみたい。
「そんなに、おっぱいが好き?」
 答える代わりに、ぎゅっと掴む。
「あん、強すぎよ」
 努めて、優しく。でもやっぱり夢中で忘れてしまう。肌に、力んでしまった跡が薄朱く刻まれて、だんだん増えていく。唾液で濡れて、歯形までつけてるのが見える。
 時間が判らないほど楽しんで、やっと一息入れて顔を上げる。こちらを見てる先生が、笑いながら、恥ずかしげで快感を見せているから嬉しくなる。
「ほら、志貴も脱ぎなさいっ」
 言って、シャツを脱がしに来る。大人しく従って、腰から上、裸になる。先生がちょっと驚いた顔をする。
 黙って、俺の胸に手を当てた。
「こんなの、背負って、今の志貴で居るのね」
 少しだけ、痛ましげ。
 でも、俺はそれどころじゃない。
「じゃ、今度は先生はこっちを」
 押し倒し直した。すぐジーンズを脱がそうと思ってたけど、横向きに寝た姿を見ると、ピッチリと張り詰めたお尻に惹かれた。ペタッて手を当てて、撫でる。
「んはっ」
 自分からうつ伏せになって、あまつさえお尻を上げてくれたりする。せっかくの誘惑に乗って、存分に撫でまわす。草の上に座ったりしてたせいか、ちょっと湿気があるみたい。手に感じるのは荒いデニムの感触だけど、その下の体の熱さが伝わっても来る。両手使って、ぐにぐに掴んで楽しんだ。丸くて豊かで引き締まった曲面。
「あん……」
 つい、また顔をくっつけたり、する。脚の間を下から押してみる。閉じて挟まれた指を、仕返しに暴れさせる。
「うふふふふっ」
 くすぐったそうに悶えて、仰向けに戻った。
 今度こそ、ベルトを解く。手が震えてしまったけど、どうにかボタンも外した。ごくりと唾を飲みんで、ファスナーを下ろす。
 広げたら、素っ気無いような白いパンツが目に入る。それでも、また唾を飲むことになる。お尻を上げてもらって、ずり下ろす。
「靴……」
 言われて、もどかしく靴を先に取って、足元から引っ張ってようやくジーンズを脱がした。脚の間に頭を入れて、パンツの上から先生の大事なトコロに口と鼻を押し付ける。思いっきり鼻で息を吸った。甘くて生々しくてイヤラシイ匂い。
 あまり色気の無い下着も、先生らしい気がする。蜜が染みて濡れているのに変に感動した。思いっきり、押し当てた口から息を吐く。熱い空気が布地を通して広がる。
「もうぐっしょりですね」
 言うと、頭を指で弾かれた。
「んっ……」
 布を横にずらして、センセイを露わにする。翳りを掻き分けて、いきなり蜜の泉に口付けてしゃぶる。
「ああっ」
 慌しく指を入れて、内側を探る。初めて女の人のここを見てるみたいな気分を起こして、性急にまさぐってしまう。
「慌てないのっ」
 手が伸びてきて、押えられた。
「ちゃんと脱がして」
 お尻を上げてくれたから、楽に脱がせた。脚を片方だけ抜いて、そのままで再度先生にしゃぶりつく。複雑な形をした女性の部分を目の当たりにすると、生身の先生を意識させられる。肌の白さ。性毛の色。性器の淡い肉色。
「綺麗です」
 うわずって変な声になりながら言い、また口をつける。今度はクリトリスを探って、指は奥に沈める。柔かい。でも掴んで放さないみたい。あっさり受け入れるけど、絡み付いて捕らえる罠みたいだ。喰われている指が気持ち良くて、もっと食べられたくて奥をさらに探る。指を捻って、曲げて、抽送して。時々、体が戦慄くのが判って、その位置を探す。
「んぁ、あふン」
 凹凸の多い膣の中に、他と微妙に違うところがある。反応が激しいみたいで、集中する。
「あぁ……そこっ」
 教えてくれたポイントを繰りかえし擦る。蠕動して指を呑もうとしてる。溢れる蜜で口を潤し、食虫花に捕らわれたみたいに足掻く。
 指をひたすらに抽送し、辺り中、舐める。匂いがくっきり官能に染まる。ただ、夢中。どうして良いのか判らないみたいに続ける。
「ふああ……良いわ、志貴、もう頂戴」
 声を聞いてようやく、するべきことを思い出す。急いで脱いで、先生に覆い被さる。久しぶりに口付ける。
「ホントに良いんだよね、先生」
「訊かれた意地悪言いたくなるわよ」
 承諾と受け取って、いきり立った俺のモノを先生にあてがい、圧し進んだ。
「くン……」
 先生の顔が陶酔を見せてくれる。ほんの先だけ入れただけで、休まないとヤバい状態。でも早く突きたくて、必死で堪えて奥に進む。
 ずっ
 さっき指で感じた、粘性の絡み付き。ペニスで体験すると、遥かに強烈。内側が蠢いている。引きずり込もうとしてるのに、きつくて侵攻しにくい。手でクリトリスを責めたら、蠢動が激しくなって、刺激は余計強くなったけど、隙はできた。
 ぐにゅ
「うっ、あぁ……」
 苦痛めいた呻きをあげてしまいながら、少しずつ、先生を貫いて行く。
 ぐっ
 一寸ごとに休まないと終わってしまいそう。
「大丈夫……あふっ」
 頑張って、とでも言わんばかりの表情に意を強くして、最後は一気に奥まで。
「ふぁあんっ」
 搾られて、もう弾けそうで、息を殺して抑えた。
「逞しいわね、志貴」
 露骨に言われたけど、返事なんかしてられない。代わりに口を吸う。ペニスと唇でショートしてるみたい。腰は使ってないのに、睦み合う舌の悦楽に下の方でも応じている。
 胸に手をやって、官能の塊を掴む。硬い先端を摘んだりすると、感じてくれているけど、ますます俺が血を熱くする。
「先生っ」
 僅かに腰を引く。真空に引かれていそうな抵抗。
 ぎゅっ
 締められる。耐えて、更に下がる。やっと半分戻って、魅惑に負けて突いた。
「あんっ」
 全身で応えてくれる。
「気持ち、良い、ですか」
「うん」
 独り善がりじゃないと判って、わずかに落ち着いた。
 首筋に口を移して舐めながら、またゆっくり、だましだまし腰を引く。何処を舐めたって美味しい。痛むと判ってるのに傷口を触ってしまうみたいに、自虐めいた欲望で熱いクリームに自分を突き立てる。
「あーっ」
「くはっ」
 背骨が溶けそう。脳髄まで蕩ける。胸を蹂躙している手だって無事じゃ済んでない。それでも良いと思う。この喜悦なら。
「行きます……」
「来て……」
 緩慢に、でも休まずに、腰を振る。粘質の水音がする。毎度新手で責めてくる先生の秘所。俺に出来るのは、ただ愚直に突きを入れることだけ。
 背中と頭を撫でてくれる。そんなところが、異様に気持ち良い。触れている肌全てが快楽の海。
「あんっ、ん、ひゃぅ……」
 続いたら焼き切れそうな快感。弾けたら死んでしまいそう。でも昂ぶるばかりで、アクセルを踏み続ける。
「はあ……は……」
 息がしづらい。心臓が破裂する。
「志貴……」
 遠い日の偶像と、自分の下で身悶えている女体。背徳。憧憬。欲しい。
「先生っ」
 胸を思いっきり掴んでしまう。これで終わりって判って、腰を振りたくった。体のぶつかる音。
「中で、良い、からっ」
 よく判らないけど、良い匂い。
「くっ、あっ、んぁっ、あふぁっ」
 快楽か苦悶か判らない表情。確かめてなんか居られず、止められない。止めたくない。止める気なんか無い。
 先生の手にも力が入る。引き寄せられて、背中に爪が立ってる。そんな痛みなんてスパイス。気持ち良いだけ。
「ひぅっ、うぁあっ」
 叫ぶ。それでも踏むのはアクセル。ニトロ。爆発する。腰の方で燃えている。天上の閃光。
「あああーっ」
「んんぁっ」
 飛んだ。背骨が爆ぜて飛び出したみたい。体の中身が全部融けてペニスから吐いているみたいな射精。
 どくん、どくん。
「あっ……うふ、熱い……」
 どくん。
「はあーっ」
 先生の上で脱力する。まだ入ったまま。もう射精は終わってるけど、まだ気持ち良い。ぎゅーっと抱き締めてもらって、やっとものが考えられる。先生の匂いにむせ返る想い。抱き合っている喜び。夢みたいで、でも間違いなく生身の先生の肢体。
「ふふ」
 横に並んで、抱き合う。
「志貴……」
「先生……」
 痛いぐらいに、強く抱き合った。そのまま長いこと、じっとしてた。
 やっと落ち着いて、二人とも仰向けになる。空が眩しくて、屋外なのを思い出す。
「参ったなあ」
 まだ何処か蕩けた調子で、先生が言う。
「何ですか?」
 胡乱なままの頭で、訊く。
「志貴、凄いんだもの、感じちゃった」
 頬っぺたを突付かれる。
「素敵だったわよ」
 やっぱり多少は子供扱いされてたのが判る調子だったけど、言われて、純粋に嬉しかった。
 疲れて、草原で素っ裸のまま気にもせず並んで寝ていた。

 

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/まれびと 2・了

 


それにしても青子先生、凄いすごーい、なのは貴女のカラダだと思います(´・`)ノ

背景画像は、ゆんフリー写真素材集(Photo by ©Tomo.Yun )様 提供のものです。

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