交換条件


◆1

 シエルは、テーブルに腰を高々と突き上げて這わされていた。手は腰の後ろに組み、頬を机上に着けさせられて、反対側の頬には半乾きの白い粘液がこびり付いている。短いスカートが背中に捲れ上がって、丸く豊かな尻が露わ。引き下ろされたショーツは、まだ片膝に残っていた。
 厚いカーテンを閉めた薄暗い部屋の中、唯一灯されたスタンドが、大きく開いた脚の間を斜め下から照らしている。男が何処に注視しているのか、嫌でも思い知らされる。女の部分も、尻の谷間も、その奥の窄まりも、無慈悲な視線に晒されている。
 鈍い振動音が響いているのは、乳首に貼り付けられたローターが服の生地越しにテーブルに押し当てられているから。
「はあっ……」
 堪えられず、喘ぐ。
 奉仕することには気持ちの整理を付けていたが、責められるとなると、また別の話だった。
「ほら、もっと良く見せて。自分で開いてさ」
 不承不承、指を性器の両唇に添える。目を瞑り、ひとつ息を吐き、気合を掛けてようやく、内側を晒す。
「なんだ、もうすっかり、いつでも大歓迎って感じだね」
 指摘されて、唇を噛む。自覚はしていた、自分の状態を。偏執的な責めに、体は覚醒してしまっている。ここに来て乳首を責める性具はストップし、快感に溺れて羞恥を忘れることも許してはもらえない。
 手入れされた様子の性毛の下に、淡い肉色が覗いている。充分に潤い、光っている。
 ピピ……パシュ。
 フラッシュの閃光を浴びる。もう、何枚と無く撮られているが、これほどまともに恥部を収められたのは初めてだ。シエルが息を詰まらせている間にも、二度三度とシャッターを切られていく。
「後ろも見せてよ。それと、ちゃんと返事する」
「は、はい」
 羞恥に息を詰まらせつつも他の指を尻にまわし、肉を押し開く。放射状に皺の集まった肛門の蠢くのが、スタンドに照らされる。その付近には、毛穴が曖昧に見て取れる。
 パシュ。
 また一枚、二枚。
「ふーん……お尻の方の毛は、剃ってるのかな?」
「ひゃっ……はい……」
 谷間に息を吹きかけられて、間近に見詰められているのを意識させられた。数度も繰り返される間に、淡い刺激に快感を覚えていく。
「でも、剃り残ってるよ」
 長いままの毛を摘んで、くいくいと引かれる。
「んっ、つっ」
「抜いてあげる」
 途端に、強引に引っ張られた。
「つぁっ」
 痛みと恥ずかしさに、手を尻から離していた。
「駄目じゃないか、勝手に動いちゃ。お仕置だね」
 乳首のローターが動く。しばし責められて快楽が戻って来たころ、尻を撫でられる。次の瞬間、
「はぅっ」
 したたかに、打たれた。
「昔から、お仕置きといえばお尻を叩くのが定番でしょ」
 ぱしん。
 更に、もう一発。性感に昂ぶった体には、打たれた瞬間の痛みはともかく、残響する感覚は甘美に思えてくる。
「それとも、お尻撫で撫での方が良い?」
 言うなり撫で始める。シエルが黙っていると、またもう一発打って、答えを促される。
「……叩いて下さい」
 痛みなど、慣れていた。痛まないわけではなくても、それに耐えるのには慣れていた。
「へえ、そっちの方が好きなんだ。マゾなの? うん、でもまあ、今はもう良いよ。それより、ちゃんとさっきと同じように開いて」
 躊躇ってしまい、また一発、打たれる。ようやく従うと、再び毛を引っ張られる。
「まだ二本あるみたい。同時にしようか?」
 小刻みに引いて、シエルが体を震わせるのを楽しんでいる。問われたのだと気付いて、答える。
「お望みの……ように」

 行方を知っている。端的にそう告げられたのが、ことの始まりだった。選択の余地も無く応じたシエルは、予想した通りの要求をされ、やはり他に取る道も無かった。
 わざわざ、戦闘服を着せられた。第七聖典を使うためのペイントまで含めて。完全武装とも言える姿で、相手をさせられている。
「いやらしい衣装だね。こんなに腋が開いてるなんて、誘ってるの?」
 手を頭の後ろに組ませて、囁く。
「ほら、笑って」
 カメラを構えて、要求する。シエルが無理をして笑顔らしきものを作ると、誘うようなポーズを撮影した。
「表情が硬いよ」
 男は、羽の束を両手に取る。
「羽根責め、って魔女狩りの時代の拷問があったそうだね? 火の付いた羽根でこのあたりを炙ったりするような」
 柄の先で、黙り込むシエルの脇腹を突付く。
「まあ、そんな惨たらしいことには興味ないから、火は省略しよう」
 そう言って、手にした羽根の束を腋に滑らせる。
「うっ、くっ」
 さわさわとした刺激に、声を漏らす。艶やかな白い肌を柔らかな羽毛が這いまわり、くすぐったく耐え難い感触を起こす。
「くふ、ふふふふ、くふっふっ……」
 抑えられたものではなく、堪らず笑う。腕を下ろしてしまい、やり直しを命じられて一層ひどく擽られた。
「ほら、そういう風にしっかり笑って」
 ウインクまでさせられ、何枚も撮影される。
「さて、擽りも立派な拷問だろうけど、それもあまり、ね」
 からかうように言い、今度は羽根を衣服の下に潜らせる。弾性のある羽根は、ブラジャーをしていない、たわわな乳房を覆うように滑り込んでいく。
「あふっ、んっ」
 くすぐったいのは不可避だと諦める。しかし、それだけだと思おうとしているのに、体が裏切る。羽が動くにつけて、体の芯の方にざわめきが起こる。若いながらも成熟した体は性感も豊で、それだけに、繊細な羽根になぞられると意に反して官能を呼び起こされる。
 感じたり、しない。
 そう気を張りはしても、いきなりガードは崩されている。よほどシエルの息遣いに意識を向けているのか、押し殺した喘ぎも聞き漏らさず、反応したが最後すかさず追撃されるのだ。
「あ……あん……」
 するりと乳首を刷かれて、背筋がざわめいた。掠めた程度で今の感覚なら、まともに責められた時はどれほどのものか。
「んっ、ふぅ……」
 器用に羽根を操り、もどかしい刺激を乳房に与えつづける。細かな棘めいたものがあり、ちくりちくりと引っ掻いて痒みを起こす。そこを中途半端にソフトに撫でられて、快楽半ば、むず痒さ半ばで、次第に乳房全体が火照っていく。
 もっと、して欲しい。
 体は求めている。
 するり。
 するり。
 左右の乳首を互い違いに擽られる。まだ、時折間違ったように掠めるだけ。
 駄目……
 強い刺激を怯えつつ、欲している。気付いて動揺し、更に守りが崩れる。
 するりするり。
「うっ、ぁう……」
「ずいぶん、あっさり感じちゃうんだね」
 はっとさせられて、意志を奮い起こす。
 シエル自身、こんなに感じてしまうとは思ってもみなかった。さわさわと、触れるか触れないか程度の責め苦だ。巧みな動きは左右の乳首を魔の手に捕らえ、毒液のように快楽を注いで来る。
 手で揉まれているなら、むしろ耐え易かっただろう。こんな道具越しの刺激は、どこか拒みきれない。
「ふあぁ、あんんっ」
 とうとう、まともに責められる。胸の先端がどれだけ隆起し堅くしこっているか、見えずとも明らか。羽束の痒みをもたらすラインが往復して、ひたすらに欲情が増す。
「ああ……」
 こんな刺激だけで、まだ直接は指一つ触れられていないのに、軽く達してしまいそう。
「あ……」
 動きが、速くなる。淡い刺激もこうなれば脳髄を犯すように甘く致命的。乳首が擦られて少し痛み、だけどそれさえ甘美。
 動きが遅くなると、途端にもの足りなくなる。
 もっと……
 ねだりかけ、まだ残る理性が口を噤ませる。
「逝きそう?」
「あ……はい……」
 それでも、焦れているところに問われて、正直に答えてしまっていた。途端に羽根の動作が元の激しさに戻り、快感も帰ってくる。それでも、辿り着こうとしているのは、欲情ばかり注がれるような絶頂感だと判る。
「ふぁ……ふぁふ……」
 それでも、いい。諦めて受け入れ、しかし、
「駄目」
 羽根が抜き取られ、それさえ与えられない。乳房に、痒みだけが残る。
「自分だけ楽しんでないでさ、立場に相応しいこと、してよ」
 言われて、火照る体を慰めながら、男の前にひざまずいた。おずおずと股間に手をあてると、ズボンの中で男は存分に勃起していた。
 ベルトを外し、ファスナーを下げ、ずり下ろす。男根を手に包んで扱くと更に隆々と立ち上がり、凶暴さを増す。まともに目にして、高揚を抑えられなかった。大きいほど女の快感も大きいなんてことは幻想でも、迫力と言うものはあるのだ。
 蒸れたような牡の匂いに胸を一杯にされ、知らず、息を荒げる。
 早く、と言うように頭に手を置かれ、眼を閉ざして先端に唇を付けた。
 せいぜい、お気に召すように……
 口を開き、咥える。すべすべとした粘膜の突起を唇で包んで、丹念になぞる。舌を出し、動かす。尿道口を舐めると、僅かに塩気がした。鎌首にたっぷりと唾を付け、小刻みに往復して唇で愛撫する。
 亀頭膨らみが増して、口がいっぱいになる。縁の反しが盛り上がり、突き穿たれたら二度と抜けないかのよう。
 頭を後ろから押されて、更に口の奥へと受け入れる。覚悟を決めて、喉まで突き入れられるのに甘んじた。嘔吐感に耐えて矛先を喉の奥で慰め、唇を閉じ、吸う。舌を押し付け、ゆっくり引き戻す。息を継ぎ、亀頭を舌でぐるぐると舐め、促されて再び咥え込む。
 フラッシュが光るたびに跳び上がりそうになりながら、早く済ませたくて、手を尽くす。精巣を持ち上げ、そっと揉みしだく。
 愛しい男の顔を思い浮かべ、己を奮い立たせて、情熱を込める。適当に済ませることは許されまい。
「凄いな、聖職者なのに上手いんだ、こういうこと」
 揶揄に、黙って耐える。
 早く終わらせよう。
 余裕を見せながらも、男は快感に呻いている。ならば、このまま射精させてしまえば良い。凶器を指に包んで擦り立て、睾丸を片方づづ口に入れてマッサージする。精巣の裏の方からペニスの先端まで、べったりと舌を付けて舐め上げる。亀頭を吸い上げると、少しだけ渋い味がした。生々しい匂いが強くなっている。まともに嗅いでしまって思考を犯され、牝の火が勢いを上げる。
「好きなんでしょ、しゃぶるの」
 愛しい男のものなら。
 思いながら、続ける。知らず、熱意がさらに増している。自分が興奮しているのには気付いていた。女が雫を垂らしていることにも。耳を弄られて、慄くような官能が腰まで響いた。これは、いつものように志貴が仕掛けてくる悪戯。
「くはっ、凄いね……」
 耳を責められながらも、手は緩めない。いつしか、夢中になっていた。男にいやらしい奉仕をすることが思考を蕩かせていた。
 いつの間にか、楽しんでいた。
 違う。
 愛しい男のためのフェラチオであってこそ、歓んでしてやれる。それを楽しむぐらいの色事の経験は、シエルにはある。でも、今は、早く射精させてしまいたいだけ。
 もう少し。気を新たに、息苦しさを我慢しながら、奥深く受け入れて男根全体を刺激する。再び、精巣を揉んで射精を促す。先端を吸うたびに、新たに少しずつ腺液が漏れているのが舌に残る味で判る。
 もう少し……
 脈打つのを感じて、とどめにスパートを掛けようとし、しかし。
「ストップ」
 言われても、一心に奉仕していて聞こえなかった。結果、乱暴に頭を掴んで止められる羽目になる。
「かはぁっ」
 大きく、息を吐く。
 その間に、背中のファスナーを下ろし、衣服を前に剥ぎ落とされた。上気した肌に、幾枚もの翼の模様が映える。ふくよかに丸い乳房の先端が、円錐に高く堅く尖っている。無意識に腕で隠そうとし、しかし意志をもって動きを抑えた。
 顔は背けつつ、腕を垂らして胸乳を男の目に晒す。
「判ってきたじゃない」
 言うが早いか、また閃光。
「良いなあ、その恥じらった感じ。でも、今度は正面」
 顔を起こすと、すかさずシャッター。次のポーズは判るでしょ、と促されて、手を頭の後ろに上げる。更に促されて、片眼を瞑る。
 姿勢こそ先と似たようなものだが、今度は上半身の素肌が全て被写体になる。乳首が興奮をはっきりと示しているが、判ったところでどうにか出来るものではない。その様子さえ、接写される。薄赤く染まり、浮いた汗に艶を増した乳房も、女らしい優美を保ちながら引き締ったウエストの曲面も、縦長に窪んだ臍も、余さず写されていく。
 羞恥に震えるシエルを思うままに撮りまくると、無造作に胸を鷲掴みにし、揉む。指が肉に食い込むばかりに、蹂躙される。
「つっ」
 知覚は痛みでも、接触を渇望していた肌はどこかで快く思っている。乳首を摘まれて、意外にも繊細な指使いに不意打ちをくらい、快感に堕ちる。
「んふっ、ん……」
「いやらしい、おっぱいだね」
 揉みしだく手は、変わらず乱暴。なのに乳首は緻密に擽られる。
 いい加減シエルも、自分を悦ばせる技量に長けていることを認めていた。
 乳房を堪能しつつ再び口唇奉仕を強いた後、男根を谷間にあてがってくる。
「手、使って。ああ、乳首は自分で楽しんで良いよ」
 両側から手を添えて、唾液に塗れたペニスを双丘に挟む。命令だと解し、指先で乳首を転がす。自分の指でも、快感に違いは無い。
「体は動かさない」
 左右から圧迫すると、男は腰を使い始めた。優しげな膨らみの間を、禍々しくさえある陰茎が往復して、時折シエルの顎を突く。
 肉の奴隷扱いではない。それなら、シエルが動くことを求めたはずだ。乳房で男を楽しませる性技ぐらい心得ていると、とうに判っているのだから。それでも、黙って女の象徴を快楽の道具にさせているシエルの耳を、また弄っては来る。求められて俯き、口を開け、舌を出す。突き上げてくる凶器の先を、また口で受け止める。
 新たに垂れていた先走りの液が、舌先に判る。
「ほら、行くよ」
 腰使いが激しくなる。それにあわせて、乳房を擦り寄せて男に与える刺激を強くする。歯に当たらないように気を遣いもした。ほとんど無意識であった。恋人たる志貴が好む戯れのひとつであり、身についているのだ。恋人が相手なら、当然それぐらいのことはする。
「う、あぅ」
 呻いて、男が果てた。わざと口を外したのだろう、青臭く白濁した粘液がシエルの顔面に飛び散る。再度噴き出して、首から胸元まで汚す。夥しい量だ。とくとくと緩やかながら溢れ続けるペニスを顔に押し付け、男は綺麗にするように命じる。
 自分の顔は汚されたまま、また咥えて、隅々まで舌で清める。男には少しも萎える気配が無く、まだまだ玩弄は終わらないだろうと思い知らされる。ぬめり、そのくせに粘つく牡の毒液は、舌にこびり付いて取れない気がする。微かに、ざらつく。においが強く、塩気と苦み、渋みがある。
 こんなものを喜んで口に吐き出させてやれるのは、相手が好きであってこそ。飲み込めるのは、なおさら。
 吐きも飲みも許されないまま、きっちりと写真にされた。美貌に精を浴びて恍惚とするかの姿。白い粘液のまとわりつく舌と唇のクローズアップ。胸から掬い取り、嬉々として舐める演技。
 演技……そう、演技。喜ばせてやるための。
 こんな写真を撮られて喜ぶような趣味は無い。
「口にあるのは、飲んで。顔は拭わないこと」
 濃い塊を鼻先に塗りつけて臭いを嗅がせ、指を清めさせてから、男が言う。喉へやろうとして、糸を引くように引っ掛かり張り付く感触に、咽せる。
「うん、良かったよ。ご褒美に、今度はちゃんと気持ち良くしてあげる」
 咳き込むシエルの胸を無造作に掴んで、中心に何か貼り付けた。コードが伸びていて、ローターだと判った。オンされて、無機質な快感を意識から締め出そうとしつつ、快感と受け止めている時点で果たせていない。
 わざわざ、衣服を正すことを求めてくる。応じると、紐の繋がった短い革ベルトを渡された。黙ってニヤニヤと笑うばかりなのに甘んじて応え、自ら首に巻き付ける。
 こんな馬鹿みたいなこと。
 しかし口にすることなく、首輪の南京錠を閉めて、鍵を差し出す。
 紐を引かれ、テーブルに上がって這わされる。言われるがまま、自分でスカートを捲り上げ、ショーツをずり下ろし、腰を突き上げ、脚を開く。その挙動を一々撮影された。光を受けるたびに鼓動が高鳴るのは、怒りと羞恥のせい。
 そうに決まっている。
 しかし、顔にへばりついたままの精のにおいが意識を狂わせているのは判っていた。

「まだ二本あるみたい。同時にしようか?」
「お望みの……ように」
 即座に、抜かれた。鋭い痛みにも、今度は堪えた。
「うん、これでこそ綺麗なお尻が引き立つね。そうだ、後で前も綺麗にしてあげるから」
 濡れた性毛を梳って、言う。
「ほら、さっきのこれ、気持ち良かったでしょ?」
 また手にした羽根の束を示す。
 あれは……駄目。
 シエルは怯えた。まだ、あんなものでいたぶるつもりなのか。
「嬉しそうだね。でも、その前に」
 両手で尻の丸みをそれぞれ掴んで、開く。
「んあっ」
 いきなり肛門を舐められて、悶える。ぬめぬめと尻の谷間を舌が這い回り、唾まみれにしていく。
「ん、ぁん……」
 蠢動する放射状の皺を一本ずつなぞるような執拗な舐め方に、堪らず声を漏らす。おぞましいのに、とろとろと炙られるような快感で、もう到底火を消せはしない。
 駄目、そんなの……
 信仰はさておき、セックスの快楽を罪悪とばかり思ってはいないシエルだが、排泄器官である尻の穴の性感が無性に強いことは恥ずかしく思う。そんなところを舐められて快楽におののく己の体が恨めしい。
 でも、気持ち良い……
「ここ、好き?」
「……はい……」
 どうせ、思うがままにされるなら、わざわざ抵抗することもあるまい。羞恥と諦観と快感とプライドと。ない交ぜになって、どう転んでも何か鬱屈していく。
 快楽に身を任せてしまえば、もっと楽になる。選択の自由は元より無いのだから、無理に抵抗しても喜ばせるだけ。ならば精々、媚びてやれば良い。
 理解はしても、それを許せなかった。言い訳を並べ立てているだけだとも理解していたから。
 少なくとも、まだ。
「じゃあ、良いものあげる」
 冷たい、固いものが尻の穴に触れて、びくりと震えた。
 それから、いきなり秘所に何か突き入れられ、再び痙攣する。今度は、驚きではなく快感のせい。いままで一度も触れられていなかった女陰が感触に応えてしまっていた。
「濡らした方が良いからね、これも」
 くちゅくちゅと水音を立てられ、どれほど性器を濡らしているか知らされる。小さな棒状の何かの滑らかな表面はあまり刺激がなく、女の泉をえぐられても、快楽よりも欲情を掻き立てるばかり。
「こんなのじゃもの足りない? でも、素敵だと思うよ、これ」
 言い終わらないうちに、シエルの中で振動が起こった。焦らされた格好のヴァギナを貫いた快感は、ほんの数秒でスイッチを切られるまでシエルに発話さえ許さなかった。
「はぅ……あん……」
 抜き取られた後、誘うように自ら腰を揺すってしまうほどに、一瞬の快感は強かった。
「ふふ……でも、お尻の方が好きなんでしょ?」
 先端を肛門にあてがう。ゆっくり、押す。
「力、抜いて」
 シエルは深呼吸し、猥褻な器具が尻穴を犯すのに甘んじる。
「ああ、楽に入る。慣れてるんだ」
 異物感に堪えているシエルに揶揄を浴びせ、追い打ちをかける。
「じゃ、残りは自分でどうぞ?」
 ためらう間に、ローターを突き立てられた尻を写真に撮られる。仕方なく手を伸ばし、ゆっくり、受け容れる。その過程もみんな、撮影される。尻から入り込む異物を意識して飲み込み、コードだけが尻穴から伸びている絵になるまで、押し込む。
「良くできました、ご褒美ものだね」
 言っておきながら男は何もせず、知らず知らず腰を揺するシエルを眺めるばかり。
 次に何をされるか、想像は簡単。今、後ろからシエルを穿っている淫具を動作させる。それぐらい、予想とさえ言えない。
 だから、シエルが抱いているのは、期待。あるいは、渇望。しかし、長いこと黙って眺めるばかりだった。異物を打ち込まれた尻は更なる刺激を渇し、自然と淫らに揺れてしまう。その谷間に、羽根束があてられた。
「ひぅっ」
 会陰から尾骨の付近まで擽られて、堪らず啼く。鳥肌の立つような、そのくせ快感にしか帰属されない感覚。初め逃げようとしたのに、今は尻を突き出している。
「あっ、はぁーっ」
 震わされると、寒気が勝る。
「だーめ、お尻締めちゃ」
 力が篭って、羽根を締め出していたのだ。
「は、はい」
 深呼吸して力を抜く。しかし、羽根を往復されるとどうしても締まらずにはおけない。
 気持ちいい。それは間違いない。しかし、どこかおぞましくて拒もうとしている。
「仕方ないね」
 言うと、乳首のローターが久しぶりに動作し、忘れていたシエルは不意を突かれて快感に打ち倒される。そのまま、また存分に尻の谷間を責められた。
「ひっ、はふっ……あっ、ん、くふン……」
「やっぱり閉じちゃうか、お尻。じゃあ、こうしよう」
 衝撃。
「ひあぁっ!」
 肛門の淫具のスイッチ。
「あっ、はう、うぁあっ」
 腰が跳ね上がり、姿勢を維持できずに崩れる。あまりの感覚にオーバーロードされて、のたうち回るばかり。しかし許されず、また尻を突き上げて這わされた。性具のリズムの変動に合わせるように、がくがくと腰を振る。卑猥な仕草と重々判りつつ、止められない。
 堪らない。
 恥ずかしい。
 ……気持ち良い。
「気に入った? さて、続きと行こう、良いときに催促して?」
 続き……?
 火花の飛んでいるような頭では意味を解するのに時間がかかった。理解してからも、恐ろしくて決断が付かない。それでも、時間が経つほど体が快楽に屈していくのは明らかで。
「して、下さい……」
 機械のように、口だけ動かした。
 言い終わらないうちに、羽根が襲った。中枢神経を掻き回されたような、怖気を伴う悦楽。声も出ない。やっぱり尻に力を入れて締めてしまい、そうするとローターの振動を強く受ける。逃れたくてどうにか緩めると、すかさず羽根責めを受ける。逃げ場のない快楽の挟撃。
「ひっ、ひぅ……」
 おまけに、性具の動きが少しずつ激しくなっていく。いきなりでは苦痛だっただろう猛烈な動きも、慣らされて全て悦楽。
 鮮烈過ぎて、べったりと快楽が続き過ぎて、きっかけが無く逆に絶頂に至り損ねていた。
「ほらっ」
 ぴしり、と、尻を叩かれて。
「ひっ」
 その瞬間に、意識が飛びかけて。
「あ……」
 淫具を止められて推進力を失い、墜落する。
「んあ……くふん……」
 死ぬほど煽られて、なのに止めは刺して貰えなかった。
「……遠野……くん……」

 

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