差し指、くわえて(舞台裏)


今回、比較的短期間に一本書いたので、過程の思考をわりとよく記憶している。ので、記録にも残しておく。

◎女言葉の式に幹也がどぎまぎ、というのはわりと古くから持っていたアイデア。
◎式と口紅ってネタは1kbで書いたことがある。これ
◎式のフィギュアの爪がピンク色してる(らしい)と聞いて、ちょっと頭に残った。式がマニキュアしているなら幹也が関わっているのは当然と考える。
◎幹也が式にマニキュアなりペディキュアなりしてる途中で、式が女言葉で話して……というネタを考える。でもまとまらず保留。
◎式の爪の色に鮮花が気付いたら? というパターンを考える。鮮花は式が嫌い/憎い、でも式は鮮花が基本的に好き(らっきょ本編、愛蔵版用語集)、ってことを念頭に、次のようなメモが生まれる。

 橙子の事務所か、幹也の家。式と鮮花だけが居る。

 式の爪にマニキュアが塗られてるのに鮮花が気付く。問えば、「幹也が有無を言わせず」と。
 塗ってもらったと言うことで、うらやましい/腹立たしい鮮花。
 式、マニキュアのボトルを差し出して「使っても良いぞ」と。
 鮮花、幹也が式にあげたマニキュアを自分で塗る(それも式に許可されて)なんてことは出来ない。でも、そう返事するのも嫌なので「礼園的にマニキュアなんてNGだ」って内容で拒む。
 式、「じゃあ、足の爪に塗ったらどうだ」と。式は足も塗ってもらっている。
 でも鮮花としてはあまり意味が無い。むしろそんなことまでしてもらった式がもっとうらやましいだけ。
 式、「塗ってやろうか?」と。意図は不明。
 鮮花、『式が幹也に貰ったマニキュアを自分の足の爪に塗らせる』というのは悪くは無いとか、思って塗らせる。
 式、ちゃんと塗ってやる。
 鮮花のペディキュアが終わった頃、ちょうど幹也が帰ってくる。幹也、二人が仲良さそうなのが嬉しそう。
 鮮花、「幹也に塗ってもらえばよかったんだっ」と気付くが、もう遅い。
 式、それを判って自分で塗ったっぽい。と鮮花が気付いて怒る。

◎知人に見せたところ、『良い感じだが、鮮花がヤラレて終わるのは可愛そう?』みたいな意見と『式は鮮花が好きだし』とのリマインドとを貰う。トップコートだけは幹也にってのでどうかとかも考えるが、結局、以下のようなメモの続きが生まれる。

 幹也、「あれ? それって式のを塗ってる?」
 鮮花、「?」
 式、「そりゃ、オレが渡すわけには行かないだろ?」
 鮮花、「??」
 幹也、鮮花のぶんも用意していた。校則で駄目だろうとは思って、ほぼ無色の目立たないもの。
 鮮花、嬉しいけど式にからかわれたのが口惜しくて複雑。

◎メモに従っておもむろに書き始める。以下、過程の思考をできるだけ。

・幹也宅の方が自然そうなのでそちらを選ぶ。
・式の手に注目する切っ掛けを探す。最初は料理を考えたが、大きくなりすぎる。楊枝を持っているところ、ということで和菓子を持ち出す。
・でも書き進むうちに『主客』ってネタが出たのでそっちに使う。
・改めて手を見るネタが必要になり、今度は鍵。これが合い鍵を貰う云々の話を呼ぶ。
・式の「塗ってやろうか?」に対し、鮮花が「あんたじゃなくて幹也に塗って貰うわよ」と反応されると困る。そう反応しないことが読者に不自然に思えても拙い。よって、そっちに向かわないように鮮花に色々考えさせる。式が答えを促すのとかも同目的。
 結果としては、如何なものだろうか?
・先に足を綺麗にはしたいとは思うだろう、と考えて風呂場に行くことに。それが女物シャンプー云々の言及に繋がる。洗顔フォームで足を……なんてのも執筆の現場での思いつき。
・書いている中で「女言葉な式」を使いたくなる。幹也に塗って貰っているところを回想っぽく入れるというパターンを考えるが、やり方としては弱いと判断する。じゃ、鮮花に対して話させて、幹也相手の場合にも触れれば良いと決める。
・式が女言葉になる切っ掛けが必要なので、鮮花に挑発させる。そのために「常識無いのか?」に始まるやりとりが書かれる。思いつきだった洗顔フォームのことも再度引いてくる。
・女言葉な式って部分が思ったより長くなるが、それもまた良し、ってところ。
・幹也が帰って来た後の話の纏め方は未確定だったが、女言葉な式ってネタを更に引張って解決する。幹也の前でやらせないために、幹也はトイレにw
・また、「何故式はペディキュアなどしてやったのか?」という疑問への回答がようやくちゃんと生まれる(これも詳しいことは未定だった)。
・タイトルについては当初からはぼんやり考えていたが、「女言葉な式」のシーンあたりで『紅差し指』という言葉(薬指の別称)を思い出し、『紅差し指、くわえて』というのが生まれる。『指をくわえる』という言い回しを思い出したのと同時だったか、タイトルが先だったか。
・タイトルの別案に、『鳳仙花』というのも考える。「口紅は話の主要素じゃないし……爪を染めるのに使う花ってのが何かあったなあ?」と思って調べた結果が鳳仙花。恋愛成就のマジナイがあるらしいと知り、一時はこっちが優位に。小ネタ的に、和菓子の菊を鳳仙花に書き換えたりもしていた。
・ラストに口紅のことを再度持ってくることにし、タイトルは紅差し指の方を採用と決める。式が塗ってやるんだから鮮花に指をくわえさせれば良い、と気付く。
・二人して柔らかい口調にさせて幹也を挙動不審にするってラストが決まる。

・この後、書きながら出てきたネタを遡って反映するために幾度も推敲・書き直し。しっかりネタが播いてあるように見えたら、それはこの作業の結果。小ネタの大半は現場仕事だし、重要っぽいネタも結構な割合で当初から予定したものではないことが多い。ちなみに、こういうやり方に慣れすぎると「連載」ってのは難しくなる……。
・数人に読んで貰い、受けた意見から同意する点を反映。

 尚、「書きながら思いついた」とはキーボード叩きながらという意味ではなく、書いている期間中にということ。風呂場、トイレ、電車、ベッド、その他での考えも有り。
 そのため、最初に書く時はひたすらに頭の中身を吐き出す作業に近かった。
 また、中断後に続きを書く時は既に書いてある部分に手を入れる作業から始めることが多い。そういう点から、推敲は随時行われている。

 

 まあ、以上、何らかの参考にでもなるか、少なくとも興味を満たすなら、幸い。

 

/了

 


 

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