バッカスの泉


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 いい加減限界だから、ドンペリの海から上がった。酒の中に浸かっていただけあって、皮膚からも吸ったのか、足下がおぼつかない。眼も回ってるし、頭痛はしないけど鼓動に応じて頭の中でまでドクドク言ってる気がする。転びかけながら、やっとベッドに辿り着く。
「志貴、寝ちゃうの?」
 アルクェイドが言っている。
「ああ、ごめん、ちょっと寝るよ」
「じゃあ、わたしも寝る〜」
 裸のまま追って来て、隣に寝そべった。アルクェイドのベッドだから、遠慮して少し端に寄ったのだけど、すぐ引き寄せられた。軽く抱き合う格好で、冷えた体に熱い肌が触れて安らぐ。
「楽しかったねっ」
 もっと肌をくっつけながら、声を弾ませている。
「うん、でもこんなこと、もうするなよ?」
「えー、なんで?」
「勿体ないだろ、シャンパンは飲み物だぞ」
「そっか。じゃあ、もうしない」
 拭きもせずに来たから、まだ二人ともドンペリを滴らせているような状態で、ここも香気に溢れている。ちょっと目を開けたら胸の膨らみが丁度前にあって、つい乳首にチュッてキスしたりした。
「あは、もう一回する?」
「いや、しばらく休ませて」
 仰向けになって目を瞑った。休ませて、なんて言ったら休んで再戦することが確定みたいだな。
 そうなんだろうし、別に異論はないけれど。
「ねえ、志貴、葡萄食べない? 美味しかったから沢山買ったんだよ」
 葡萄が沢山、ねえ?
「いや、ちょっと寝るって」
「そんなに眠い? いいや、おやすみ」
 言って、改めてアルクェイドも身を寄せてきた。そのままあっさり、眠りに落ちたようだ。

 気が付いたら、アルクェイドはベッドには居なかった。隣室で気配があるから、そっちに向かう。入ったら、白いシャツ一枚羽織ったきりのアルクェイドがまたバスタブの傍にいる。後ろ姿のお尻が、前に強請られて譲った俺のYシャツ裾で隠れつつも、丸いラインを見せつけている。もちろん、下には脚が剥き出しで伸びている。
「あ、起きた? タイミング良いわね」
 振り向いたら、前のボタンを三つほどは留めつつも収まり切らない胸が谷間を覗かせ、張り付いた薄い布が乳首を浮き立たせている。
 さっきのバスローブ姿と同じで全裸よりドキドキするけど、あっけらかんとした態度が気分を穏やかにしてくれる。
「タイミングって、何をしてるんだ? 今度は」
「ふふ、ワインって葡萄を踏んで潰して作るんでしょ?」
 不穏な気配を感じつつ、問いに答える。
「ん、伝統的にはそんな方法もあったみたいだけど、今は果汁絞るのは機械じゃないか?」
「うん、でもやってるところもあるってテレビで言ってたよ」
 さっきのドンペリ風呂もテレビで言ってたそうだが。ますます不安を覚え、無意識にバスタブの中を見ないようにしていた。
「余程、酔狂ならやるだろうけど。口噛み酒を醸して飲むサークルとかもあるそうだしなあ」
 さっき、葡萄を沢山買ってあるとか言ってた気がするけど、きっと関係は無いんだろうと思ってみたりしながら、会話を続ける。
「口噛み酒?」
「何でもね、女の子の口でご飯とかの澱粉質の食品を噛み砕いて、唾液と混ぜたものを発酵させたら酒が出来るんだってさ。何かのお祭りに使うために今でも僅かだけ作ったりしてるらしいんだけど、そんなのとは別に趣味で飲んでる連中が居るって」
 言いながら、もの凄く余計なことを口にした気がした。
「ふーん、じゃあ、これもわたしが噛んで置いておいたらワインになるの?」
 と、アルクェイドがどこからともなく一房の葡萄を取り出す。どうも今、バスタブから出てきた気がするのは気のせいだろう。うん。
「いや、普通は腐るだけだと思うぞ。それに、ワインの場合は菌は皮に付いてるとかだったはずだ」
「そっか、やっぱり潰すだけで良いんだね。ほら、志貴もおいでっ」
 と、腕を引っ張られた。アルクェイドがバスタブに仰向けに飛び込み、俺はその上から被さって倒れる。器用に支えてくれたから体をぶつけたりとかはしなかった。それに、これがまた見事に顔を埋める格好になったアルクェイドの胸だけじゃなくて、他にもクッションになるものがあった。ぐしゅぐしゅぐしゅ、っと瑞々しくて柔らかな粒が体の周りで潰れている。
「えへへ、なんか面白い感触ー」
 はしゃいでいるアルクェイドの上で、観念してバスタブの中身を認識した。
 言うまでもなく、葡萄が一杯に入っていた。
「あのなあ、アルクェイド?」
「なに?」
 両手で掬っては合掌して実を潰しながら、脳天気な返事をしている。
「何でお前はいっつもやることがこんなに極端なんだ?」
 別段、騒いだり怒ったりする気も無く、返事も期待せず尋ねる。
「だいたい、葡萄ジュース作ってもワインにするあてとか無いんだろ?」
「んー、遠野グループでワイン作ってるところは無いの?」
 妙なところに話が行くな。確か、酒造ぐらいしてた気はするけど。
「あるかもしれないけど、頼む伝は持ってないぞ」
「妹に頼めばどうにかなるって」
「馬鹿、そんなこと出来るわけないだろっ。どう説明するんだっ」
 言うと、アルクェイドは意外なほど落ち込んだ。
「まあ、今回は遊んで終わりにしよう。もうやるなよ、こんなこと」
「うん……」
 しゅんとしてるのが見ていられなくて、引き寄せて唇を重ねた。現金なもので、すぐに強烈に舌を絡めてくる。背中に廻した手で葡萄を掴んでは俺に押し付け、ぐちゅぐちゅと弾けさせていた。
「しかし、せめてシャツは脱げよな」
「えー、志貴のえっち〜」
 おいおい。
 果汁が染み込んだ部分で白い生地が透けている。二つ三つ実を握って双丘の頂のあたりに絞ると、僅かに見えていた乳首の桃色がくっきりする。皮から押し出した葡萄をシャツの隙間から峡谷に幾つも幾つも突き入れた。本当は下に落ちているだけだろうけど、柔らかい胸は幾つでも受け容れてくれる。
「あはは、何してるの?」
 尋ねながら、自分も同じことを始める。
 一房ぶんも入れたんじゃないかって頃、両手をバストの両側にあてて、内側にぎゅっと押してやった。それでも潰れず、ぽろぽろと押し出されて来るばかりだ。顔をくっつけて胸に挟まれた葡萄を食べる。
「美味しい?」
 頭を掴んで抱き締めて来るから、余計に押し付けられる。
 また俺の背中で実を潰し始めたから、同じことをしてやろうとしたけど、アルクェイドの体は柔らかくてやりにくい。一粒づつ丁寧に、背筋とか骨のあるところで処理する。ホントに酒を作る積りはないんだから絞る必要は無いんだけど、義務みたいにやり続けた。
 一粒口に含んだまま顔を上げて、唇を吸いに行く。アルクェイドは一瞬驚いたみたいだけど、受け入れて二人の舌の間で転がした。お互いの口の中で行ったり来たりさせる。僅かに甘味を後に残しながら、次第に唾液に塗れてどろどろになって行く。最後は、お互いの唇の間にとどめてアルクェイドが歯を立てた。果汁が溢れ、二つに割れたのを片方ずつ飲み込んだ。
「ぷはっ」
 長々と口を吸いあっていたから、離れて最初にするのは呼吸を整えることだ。
 体の周りに呆れるほどある葡萄の実を手にして握りしめる。勿体無いなんて思考に折り合いが付けられたようで、楽しくなって来て二度三度と続ける。
「志貴?」
 呼ばれて顔を向けたら、またキスされた。葡萄を含んでいて、俺に口移してすぐ離れる。唾の絡んだ果実を嬉々として食べているなんて馬鹿みたいで楽しい。
「わたしにもー」
 ねだっているから、ひとつ口に入れて皮を剥ぎ、食べさせてやる。こいつも楽しんでいるに違いないことは、満面の笑いに明らかだ。
 俺達が身じろぐに連れて踏みつけられ、果汁が風呂桶の底に溜まり始めている。糖分が多いから、すぐベタベタになってくる。良い匂いではあるけど、植物らしい青臭いのも混じっていた。剥かれた皮を分けてはいないし、さっきのシャンパンに比べたら遙かにドロドロの酷い状態だ。手で掬って胸にもっと掛けてやると、濡れそぼって完全に張り付いた。
「ん、この二つだけ種類が違うのかな?」
 シャツ越しに両方の乳首を摘んで弄りながら、馬鹿なことを言ってみた。
「それは葡萄じゃないってば」
 すぐに尖って堅くなってくる。
「え、じゃあこれは何?」
 右のに口を付けて、歯でこすったり甘噛みしたり。
「……ちくびっ」
 こういうことを言うのはやっぱり恥ずかしいらしく、躊躇った気配がある。
 ボタンを外して、左右にシャツを開く。まだ胸の間に残っていた葡萄がこぼれ落ち、たわわな二つの果実がぽろんと揺れる。口を付けたら、果汁のせいで本当に甘かった。
「んふっ」
 右の乳首に吸い付いて責めながら、反対側のを葡萄で擽ってやる。
「両方舐められてるみたい」
 声が蕩けている。左右から寄せて、今度は本当に乳首を両方一度に味わう。
「あんっ」
 喘ぎながら、葡萄を潰しては胸元に垂らし続ける。お陰で乳首がいつまでも甘いから、いつまでも吸っていた。
 液が落ちて来なくなったと思ったら、顔を引き上げられる。キスして来て、甘い液体を注がれる。果汁かと思ったら細かい粒があるから、アルクェイドが噛み砕いた実だ。折角だから、それ以上は噛まずに飲む。
「美味しい?」
 また尋ねてくる。
 要するに自分もして欲しいってことだろうから、答えずに幾つか口に入れ、咀嚼して口移してやる。抱き締められて離れられず、周囲の実を体に押し付けてみるけど、やっぱり潰しにくい。
「柔らかくて気持ち良いよ、お前は」
「えへへ。志貴は堅くって気持ち良いよ?」
 葡萄の沼の下でアルクェイドが俺を掴む。
「くぉっ」
 不意打ちだったから、思わず声が出た。
「葡萄でぬるぬるだね、志貴も。さっきからお腹に当たってたんだもん」
 するすると指が動いて俺を掻き立てる。べたつく液体のために変な感触がして、新鮮に感じる。
 このままじゃ届かないからアルクェイドにも膝立たせて、俺もアルクェイドに手を伸ばした。下の翳りも粘つく汁に濡れていて、その奥ではしっかり別の果汁が出ていた。吸血鬼のくせに、アルクェイドの中はいつも熱い。指をあっさり受け容れて、だけど締め付けて離そうとしない。行きはよいよい帰りは……って感じ。
「くふっ、ぁん、あぁあ」
「うっ、くっ」
 互いに片手だけで中心を愛撫しながら、もう片手で抱き合う。背中側にある急所を順に襲っていたら、同じように反撃された。それだけ体を重ねているってことだけど、アルクェイドの繊細な指は全く的確に俺の弱点を責めてくる。俺自身にも正確な位置は判らないのに、幹や亀頭のうちの妙に気持ちいい点を絶対外さない。
「くぅうっ」
 先端の方を手で包み込んで複雑に動かしながら、素早い上下運動を始めた。強烈に気持ちいいけど、手だけで逝ってしまうのも惜しい。
 裸になっている実を拾って、アルクェイドの脚の間に触らせる。下を見ようとしたけど、抱き締めて許さない。指先で押すと、あっさり体に入った。
「ちょっと、そんなの入れちゃ駄目っ」
 暴れるのをキスして大人しくさせる。アルクェイドは随分と口付けるのが好きだ。キスしながら、下の口に二つ三つ続けて食べさせた。
「出せなくなったらどうするの!」
「大丈夫だって。ほら、しゃがんで?」
 きょとんとしながら、アルクェイドは葡萄風呂の中に座った。
「お尻を下ろして」
 従ってくれたところで、足を掴んで持ち上げ、バスタブの外側に膝から先を掛けさせた。立て膝してお尻の下に入れ、支える。これで、アルクェイドは大きく脚を開いた上に腰を高く突き上げた格好だ。まだYシャツの袖に通している手がバスタブの縁を掴んでいる。白いシャツが葡萄の皮の下の赤っぽい色に斑に染まりつつ、濡れ透けて見える肌に張り付いていた。
「えっちっ」
 言わせておいて、さっそ口を付けて金色の茂みの奥を舐める。
「ひゃんっ」
 葡萄の汁はすぐに舐め尽くしてしまい、残るのはアルクェイド自身の味ばかり。もうひとつ実を手にして、涎の溢れている穴に与えてやる。今度は文句を言わないから、さらに二つほど入れてしまう。それでも嫌がらないどころか、
「もっと入れたい?」
 なんて言ってくる始末。
 平気な顔をされると楽しくないから、そこでストップする。
「上手に筋肉動かしたら、自分で出せるんじゃないか?」
「えーっ」
 それだけ言って、俺はクリトリスを集中的に攻略した。
「あっ、ぁあっ、んん、んふぅ」
 後ろの穴の方もつついたりしてやると、気持ちよさそうに腰を揺らしていた。
「ほら、やってみてよ」
 しばらく恥ずかしそうに俺を見ていたけど、目を瞑って腰をくねらせ出す。
 っと、見ているうちにアルクェイドの下の口が小さく開いて、中から葡萄が顔を出した。
「うふふ」
 笑ったのと同時ぐらいに、完全に吐き出されて浴槽に落ちた。自分で言ったことなのに、実際に目前でやられると今度は俺の方が猛烈に恥ずかしくなる。
「美味しい?」
 訊かれるのも三度目かな。
「いや、下に落ちてしまったから」
「じゃあ、次のはちゃんと食べて」
 腰の複雑な動きを再開する。待っていたら、二つ目の葡萄が産み落とされようとする。その光景に無闇に興奮して、直接口を付けて食べた。そのままクンニリングスを再開する。
「ふあっ、そんなにしたら出しにくいっ」
 じゃあ止めようか、なんて意地悪をいつもなら言うところだけど、興奮していてそれどころじゃない。
「んんっ、あぁっ、あーん」
 お尻とクリトリスにも指を使うと、歌声は高くなった。
 出しにくいと言いながらも、一つずつ器用に押し出してくる。体温で生暖かくなっていて、代わりにアルクェイドの匂いがこの上なく絡み付いている。媚薬でもあるまいに、だけど一つ口にするごとに早くアルクェイドを食べたいって気が駆り立てられていく。
「これで最後っ」
 宣言を受けて、件の果実を口に入れた。
「志貴? 最後の、頂戴」
 縁に掛けていた脚を下ろしてやり、葡萄を口移す。噛み砕いて返されたから、飲み込んだ。
「上になりたい」
 すぐにでも組み伏せて突っ込みたい俺にアルクェイドが言う。俺をバスタブの端に座らせて、背を向ける姿勢で俺の上に腰を落としてくる。言葉でいぢめたりする余裕は無かった。
「ああぁっ」
「く、ぅあぁ」
 体重を預けられてしまい、その分いきなり奥までしっかり入った。そのままじっとしているだけでも、搾り取ろうとするような蠢動が俺を酔わせる。濡れたYシャツが張り付いて気持ち悪いから、脱がせる。これで、後ろから抱き締めれば肌がたっぷり触れ合う。手を伸ばしておっぱいを掴む。果汁と唾でベタベタしているけど、柔らかいのに弾けそうな果肉の触覚が甘美で、揉んでいる手がどうかしてしまいそうだ。
「こっちも触って」
 俺の右手を捉えて脚の間に持って行く。遠慮なくクリトリスに触れたら、びくりと穴の中が動く。一旦放して逆にアルクェイドの手を捕まえ、空いた方の胸を自分で触らせる。
「いやん」
 照れながらも従い、アルクェイドはゆっくり体を動かし出す。腰が上がって抜けて行く時はポンプで吸われでもしているみたいだし、下ろして来る時にはナタデココか何か無理に突き立てている感じ。皮膚の触れ具合が違っていて、どちらも強烈に気持ち良い。緩慢に抽送している間はそれぞれの感触をじっくり楽しめる。
「んふん、あふっ」
 少しだけペースが上がり、だけどストロークは短くなる。同時に、前に屈んだかと思った途端に俺の袋の方を掴まれた。一瞬息を止めて、やっとやり過ごす。ふにふにと揉まれながら、小刻みなピストン運動の刺激に耐える。動きが小さいだけ休みが無くて、気を張りっぱなしにしないと逝ってしまいそうだ。Gスポットを抉るように腰を使っているみたいで、向こうも切羽詰った声になっている。
「くっ、あっ、ぅあ」
「うふ、あん、あ〜んっ」
 すっかり向こうのペースにされているから、取り戻そうとクリトリス責めに意識を向ける。包皮を剥いて人差し指と薬指で挟みつけ、てっぺんを中指で撫でる。アルクェイドは声の調子を変えたから、効いているんだろう。でも締まり具合まで変動するせいで、実のところ諸刃の剣だ。
 クリトリスと同じようにして乳首も責めると、陰嚢を揉む手が少し疎かになった。やっと、ほんの一息だけ吐ける。
「んんっ、志貴ぃーっ」
「なん、だっ?」
 それ以上何も言おうとしないし、名前を呼びたかっただけらしい。
「アル、クェイ、ドっ」
「なあに?」
 同じように無意味な遣り取りをした。名前を呼び合うなんて単純な行為が無闇に幸福感をくれる。
「好きっ!」
「何が?」
「えへへ、志貴のおちんちんっ」
 アルクェイドは自分からは滅多に言わないことを口にしている。
「ソレだけ、くふっ、かよっ!」
 一応、拗ねておく。
「ウソウソ、ぁん、志貴が好きっ!」
 甘ったるい会話の途中でアルクェイドは留守になっていた手のことを思い出したらしく、動きが復活した。こっちももう一矢と、背中に口をつける。ねばねばする葡萄の汁も汗が洗い流しかけている。舌には甘味と弱い塩気の両方が残る。背骨を少しだけ避ける両脇にアルクェイドの弱いラインがあるから、そこを狙う。体を上下させているせいで、俺が位置を選んでいれば、自分の動きで感じてしまうことになる。
「んひゃんっ」
 初め素っ頓狂な声を発したけど、効果は覿面みたいで、いっそう喘ぎは甲高くなった。往復のスピードを保ちながら、上下幅が大きく増す。強烈。吸われる感覚と突き入れる感覚とが、ともすると同時のように思える。クリトリスや乳首を正確に責めるのは難しくなったから、両手で思い切り胸を揉みしだく。アルクェイドの方も、袋からは手を引いている。
 これは、負けだ、な。
 こんなにビッチリ締め付けているのに、意識されるのが生クリームみたいな柔らかさばかりなのは何故なのか。タピオカみたいな粒々の感触があって、ぞわぞわとペニス全体を刺激してくる。気持ち良すぎて、おっぱいを揉むのも忘れている。
 このまま射精するのはメチャメチャ良いだろうなって思いながら、でももっと、ずっとこうしていたくて、必死で我慢する。
「んふふっ」
 妖しい笑いと共に、信じられないことに更にアルクェイドの中は良くなった。気が付くと、精巣の方の愛撫も再開されている。
「うああっ」
 もう、我慢も何もあったもんじゃなかった。
「アルクェイドぉっ」
 呼び終えた頃には絶頂感があって、呆けて力が抜けていた。なのにその瞬間、ペニスの根元のあたりをぎゅっと握られた。
「うあっ」
 押えられてしまって射精できない。
「アルクェイド、何をっ」
 逝かせて貰えなかったもどかしさに呻きつつ抗議する。
「えへへっ、いつもの仕返しっ」
「いつもって」
 言いつつ、理解する。確かに、行く直前で止めていぢめたりってのは頻繁にしてることだ。
 感覚が引いて平静になった頃、アルクェイドは腰使いを再開する。一度で済ませてはくれないだろうなって思いながらも、動き始めたら快感に負けて楽しんでしまう。
 止せば良いのに、やっぱり長く味わいたくて尻やら臍の下やら力を入れている。動きがゆっくりだから、まるで蜜壺。ちょっとずつ早くなり、螺旋めいた動きをされて、再び逝きそうになる。
 案の定、また掴まれて逝かせてもらえない。
「アルクェイド、頼むから出させてっ」
「うっふふ〜」
 相手は、まるっきり余裕だった。
 三度目、理性が吹き飛ぶように気持ちが良いけど、やっぱり最後までは連れていってくれないだろう。お尻に指をあててアナルに突き立ててやろうとする。前の尖塔を責める手もどうにか復活させる。アルクェイドを我慢できなくさせてやれば寸止めからは逃れられるはず。
 脳髄に融けた金属でも注がれたみたいに熱い。
「くぅん、ぁあんっ」
 感じてくれては居るみたいだけど、やっぱり俺の受ける快感が複雑になってしまってヤバくなる一方。袋を弄られているのもあってか、膣内に入っていない部分まで気持ち良く思える。ずっと逝きっぱなしみたいな異様な状態。でもほんとにフィニッシュしたいっ。
「駄目」
 計ったように、その刹那に握られた。
「くあああっ」
 脇腹を抱いていた手に力が入り、爪を食い込ませてしまう。それでもアルクェイドは動じない。中でびくんびくんしているのが納まったころ、やっと解放される。
 また初めから。これ以上は耐えられそうにないから策略を練る。快美に侵蝕される前に手を打ちたい。あっという間に逝かされかけている。
「きゃっ」
 不意にアルクェイドの背中を突き飛ばす。バスタブの縁に手を置き、お尻をこちら差し出した格好になる。一度抜けたペニスを後ろから乱暴に突き立てる。
「んぁっ、あぁん、あ〜っ」
 ここまでがむしゃらになるのは久しぶり。アルクェイドが痛いかもしれないなんて思う余裕はない。
「志貴、優しくしてっ」
「出来るかよっ」
「ひゃうん、くふっ、ふああっ、あーっ」
 もうちょっと。このまま射精したら体中の液体を吐き出してしまいそう。もうすぐ。我慢しない。できない。
「逝きたい?」
 アルクェイドが問う。答えず腰を使う。
「く、あ、アルクェイドおっ」
 もうひと突き。
「あ?」
 一瞬、動きすぎて抜けたかと思った。また逝き損ねた。アルクェイドが態と性器を緩めたみたいで、まるで絡んで来ない。
「志貴、逝きたい?」
 また問われる。幾ら抜き差ししても、さっきまでに比べたら全然気持ち良くない。
「逝きたいっ」
「ちゃんとお願いしたら力込めてあげる」
 このやろ、とは思うけど言ってられない。
「判った、逝かせてっ、お願いっ」
「えへへ、わたしの勝ちねっ」
 途端に、アルクェイドにヴァギナでペニスを握られた。峻烈。爪先から脳天まで電撃のように快感が駆ける。
「ふあっ」
 少し緩和して、ぴったり肉が絡み付く。これぐらいが甘くて愉悦だ。
「あぁあーっ」
 アルクェイドが憚らずに嬌声を出す。俺も構わず呻く。
「アル、クェ、イッドッお」
「志貴、いっ」
 名を呼び合った刹那に逝った。どくどくどく。長くても数秒のはずが、半時間にも思えた。血が全部先端から噴き出していそうなほどの歓喜。ようやく少し落ち着いて、それでも悦楽に酔ったまま風呂桶に倒れかける。横向きに抱き合って葡萄ジュースの泉に浸かる。
 顔を見たら、少し落ち着いた。さっきからの奇妙な興奮状態も去る。今度は葡萄で遊んだりせずに、ひたすらに口を吸い合った。
「やっぱり凄いな、アルクェイド」
「えへへ、気持ち良かった?」
「ああ、強烈だったよ」
 寸止めなんてされるとは思わなかったけど。
「じゃあ、またしてあげるね」
「いや、良いよ、それは」
「えー、気持ち良いんだったらどうして?」
 ちゃぷちゃぷと底に溜まった果汁を滴らせながら、そうやって長いこと話していた。

 

バッカスの泉3・了

 

朱い月編・1へ続く

 


 

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