夜空にかかった朱い月
今日のお客は曰く付き
 お姫様はあっけらかん
 教えようにも埒が明かん
踊り終われば既に暁

バッカスの泉


朱い月編・1

 暗い空には月も無く、撒き散らされた星が煌いてほのかな光をもたらしている。都会では望むべくも無い溺れそうな銀河だ。
 気が付いたら俺はそんな広い夜空の下に立っていた。
 水音に周囲を見れば、十歩ほど先で石畳の床が途切れて、すぐ下に水面が続いている。かすかに甘く薫る涼風にさざなみが揺れていた。泉に突き出したテラスと言ったところだろう。
 気配がした。さっきからずっと居て、俺に気付かせるためにわざと身じろいだようだ。この場の風景から、誰であるのかは予想が付いた。落ち着いて振り向くと、果たして、豪華なドレスの女が居た。星明りしか無いのに、くっきりと浮かび上がっていた。
 豊かな長い髪が金細工なら、艶やかな肌は象牙、瞳はルビーだ。アルクェイドそっくりだけど、超然とした美しさは上かもしれない。その美はあまりに完璧さに満ちていて、そのせいでアルクェイドに感じる愛しさ好ましさを幾分損ねている。
「驚かぬのか?」
 尊大さは拭えないながら、親しく話そうとしているのは判る。
「こんなところに連れて来られているのには驚いているけど、おまえが居るのには驚かないよ」
「そうか」
 気のせいかと思うほど僅かに、朱い月は口元を笑いの形にほころばせた。
「俺に何か用事か?」
 ポケットに七夜を探りながら尋ねる。
「なに、ほんの退屈凌ぎに呼ばせてもらったまで。おぬし、今アレと寝て居るだろう? まるで現実の続きのような夢を見るとは器用なやつだと思ってな」
「現実の続き?」
 対面して話すのには慣れていないのだろう、こいつは仕草や表情が割合素直に思考を表す。別段に嘘を吐いているようにも思えず、少しだけ緊張を解く。
「シャンパンを満たした風呂でアレと戯れておったであろう? その後二人でベッドに寝たはずだ」
「何で知ってる?」
 少し、警戒心を呼び戻す。
「見ていたからだよ。おぬしはまだ目を覚ましておらん、葡萄で遊んでいたのは二人一緒に見た夢だ。その続きにここに来ておるのだ、おぬしは」
「葡萄風呂は夢だって? そういうなら確かに、やたらに唐突だったけど」
 首を揺すって蓬髪を揺らし、幾分品の悪い笑いを浮かべて朱い月は言う。
「あんなに激しく睦みあっておいて、夢でまた続きをするとは随分と盛んだな、人間」
 思わず返答の言葉を詰まらせた。何をしていたのか知られているだけでも充分恥ずかしいのに、こんな揶揄を聞かされるとは思わなかった。
「覗くなよな」
 悪戯っぽくも、さっきよりはずっと上品に笑い、女は言う。
「それで、退屈凌ぎってのは本当なのか?」
「本当だ。おぬしはこの身を無闇に恐れたりせんようなのでな。無聊ぶりょうを慰める相手としては調度良いのだ」
 無聊を慰める、か。そんな言葉、実際に使われるのを聞くことがあるなんて思いもしなかったな。しかし、どうもちょっと宜しくないことを考えてしまう表現だと思うのは、考えが偏っているだろうか。
「半端な者にとぎをさせても、慄いているだけで何も出来んか、世辞しか口にせんかのどちらかが多いのでな」
「伽って、その」
「ん? 伽がどうかしたか?」
 少しの間、真っ直ぐに俺の目を覗きこんでから、破顔して言う。
「おぬし、伽という言葉を妙な具合に考えておるな? 『お伽噺』と申すであろう、伽をするとは話し相手になると言う意味であるぞ?」
 そういえば確かに。しかし、どうしてもこう、夜伽をするとかって言い方を思い出すわけで。
「ふむ、今何を考えておったのだ? 正直に申せ」
 いや、ちょっとそれはっ。
「ほら、言わんのなら……」
 朱い月は長手袋をした両腕を伸ばして俺の首を捕らえ、引き寄せる。そのまま顔を近づけて、有無を言わせず唇を重ねて来た。
 びっくりしているうちに離れ、艶然と笑って見せつつ、頬は赤くなっている。
「好きにしてしまうぞ?」
 わけが判らず硬直していると、朱い月は跪いた。俺のベルトに手を掛け、解き始める。
「おい、何をしてる?」
「『相手をさせている』のではないか。こんなことの出来るのはおぬしぐらいのものだと言ったであろう?」
 ズボンのファスナーを下ろし、引き下げる。
「おい、待てっ」
 慌てて止めようとして間に合わず、しかたなく下着を押えた。
「なんだ、私にこのようなことをされるのは不満か?」
 見上げて、幾分残念そうに言っている。そりゃ、こんな美人なんだし、ある意味アルクェイドなんだし、不満なんてあるわけもないんだけど、でも。
「だから、なんのためなんだよ?」
「しつこいな、ほんの戯れだとも。おぬしが本当に嫌だというなら無理強いはせんが」
 残念というより、不安で寂しげな顔になっていた。
「まさか、嫌なんてことはない、けど」
「ふふ、なら、して欲しいのだな?」
 言って、パンツの上から俺のものを撫でる。実のところ、想像してしまっただけで硬くなっていた。
「ほれ、正直に申さんとしてやらんぞ? この助平め」
 するすると竿を撫で、袋の方まで揉みたて始めて、俺はますますいきり立った。
 どうも理解できないし、勝手なことを言っているけど、興奮してしてしまって今さら止められるのは辛いから大人しくする。
「して欲しい」
「そうそう、初めからそう申しておれば良かったのだ」
 下着を足元まで下ろし、朱い月は俺のペニスに直接指を絡める。片手でシャフトを上下に辿り、もう一方で袋を弄る。ちょっと躊躇うようにしながら、おずおずと唇を根元のあたりに付けた。舌を出して、ゆっくり登ってくる。
「うっ」
 思わず声を洩らす。
 こんな姿勢でアルクェイドにしてもらったこともある。でも、ほとんどそっくりながら朱い月は如何にも高貴で超然としているから、感覚が違った。下賎な身でドレス姿のお姫様にいやらしい奉仕をさせているみたいで昂揚する。
 唇が亀頭を覆い、ぬるんっ、と中を舐められる。指先がシャフトのあちこちを擽る。呼吸を落ち着けて快感に耐えつつ、動きが割合に控え目なのに気付く。思い切り咥えたりはしないし、舌の付け方も先の方だけだけだったりした。時々、上目使いに俺の方を見るのは、自分のしていることがおかしくないか確かめたいのかもしれない。
 自分で考えといて、フェラチオの批評してるなんて何様だって呆れたけど、ちょっと口に出す。
「おまえ、慣れてないだろ、こんなことするの」
 ぴたりと朱い月は動作を止め、不安げに見上げて言う。
「何かおかしなことをしたか?」
 顔だけじゃなくて、肩や腕まで紅くしていた。可愛らしく思えて見惚れていると、早口に続けた。
「気持ち良くないのか?」
 やっぱり不安だったらしい。
「いや、気持ち良いし、凄く嬉しいよ。でも、アルクェイドが初めてしてくれた時とかと似ててさ。だから、経験はあまり無いのかなって」
「あまりもなにも、こんなことは初めてするのだが」
 くぅっ。参った、それはまた、嬉しいのか申し訳ないのか。
「教えてくれれば、そのようにするが。出来れば楽しんでもらいたいのでな、アレにもおぬしがやり方を教えたのだろう?」
 いや、俺だって別にフェラチオのテクニックなんて知ってたわけじゃないし。何度も抱き合っているうちに次第にお互いに体のことを覚えていっただけで。そういう意味のことをどうにか伝える。
 そう思えば、随分何度もアルクェイドとは体を重ねてきたんだな。
「そうか。私も同じぐらい、おぬしと愛し合えば巧みにもなるのだろうかな。しかし、精一杯するから今は拙くても許してくれんか」
 そう言って、また俺のモノに唇を付けた。
 許すも何も無い。もうちょっと大胆に、とだけは助言して、お姫様の好意に身を委ねた。
 素直に言葉を聞いて、かぷっと大きく口を開けて咥えてくれる。我慢しようとするのを止めて、ストレートに感触を楽しむ。確かに今のアルクェイドはもっと上手いけど、新鮮な気分で気持ち良かった。それでも、自分がどれだけアルクェイドと変えてしまい、それを愛しく思っているかを感じていて、今愛撫してくれている朱い月に申し訳なく思ったりした。
「そういえば、こんなこともしておったな?」
 いきなりドレスの胸の部分をずり下ろすと、大きなおっぱいが姿を見せる。これだって、アルクェイドそっくりのはずだけど、そこまで事細かに覚えちゃ居ない。単純にこのお姫様が自分でバストを晒してくれたことに興奮する。乳首が綺麗なピンク色で、朱い月も興奮しているのだろう、少しだけ既に尖っているみたい。
「こうすれば良いのか?」
 少し姿勢を高くして、いきり立った俺を胸で挟んでくれる。唾液で濡れた上から肌触りも柔かさも暖かさも極上な乳房が包んできて、一瞬それで逝きかけた。
「くあっ」
 流石に勿体無いから、気合を入れて耐える。
「ん、どうかしたか?」
「いや、気持ち良くて喘いだだけだよ」
「そうか、なら良いが」
 言うと、両手で胸を内側に押し付けたまま上下に擦り始める。肌が吸い付いて離さないように、挟まれてるだけなのに複雑に揉まれているみたいだ。恥ずかしいのか、朱い月は背中とかまで真っ赤になっていた。
「先っぽだけ咥えるとか、無理だったら舐めるとか。乳首を押し付けてくれるのも良いし」
 教えようが無いと言ったけど、そんなことは口にしていた。すぐに聞き入れて、舌を当ててくる。
「ああっ」
 感触が複合的になって、抵抗していないからどんどん気持ち良くなっていく。
「くふっ」
 乳首で亀頭をなぞり始めて、朱い月も喘ぎを上げた。自分の方も感じてしまったんだろう。肌とは違う独特の感触が尿道のところなんかを襲うと一気に射精感が高まる。
「まだ、終わらん、のか?」
「もうす、ぐ……」
 お尻の方から何か湧き上がるような感覚があって、どくんどくんと脈打つ。
「吸って……」
 思わず頼んでいて、理解できたらしく、すぐに従ってくれた。唇が亀頭を包み、唾液に潤ってぬるぬるしてくる。熱いような肌と舌に掴まれて、ペニスが更に硬くなるのが判る。
「ぁあっ」
 声を発してしまいながら、朱い月の頭に手をやって髪とか耳とかを撫でる。両耳を同時に擽ったら背中を震わせていた。
「そうか。この辺りが良いのだな?」
 そんなことを言って更に強く胸で挟み、先端に唇と舌をあて、素早く上下動する。根元の方から突き動かす衝動が溢れて、あと一歩のところで留まっている。
 手を滑らせて首筋を撫でたら全身を脈打たせた。その瞬間、舌の当たり方が代わったのか、ぞくりと強烈な快感があった。
「かっ」
 気が付いたらしく、二三度舌を動かすうちにその微妙なラインを見つけて集中される。
「う、くっ、」
 後に仰け反って倒れそうになるの。バランスを取ろうとしていたらガードが弱くなって、ぞろりと舐める感触がまた気持ちいい。
「うぁっ」
 耐えられず、精を放った。
「つぁっ」
 朱い月が驚いた声を出す。
 ああ、しまった、こいつは経験がないのに。
 朱い月が離してしまったせいで、俺の液は顔や胸に降り注ぐことになった。
「ごめんっ」
 慌てて言い、しゃがもうとしたら再び俺を咥える。じゅっ、と音をたてて吸い、残っていた精を余さず取ってくれる。それから、胸に零れた白いものを指で掬い取って行く。
 俺は、腰を降ろすと顔に付いてしまった自分の精を拭ってやる。朱い月は繊細な指で俺の手を掴み、集めた液を嬉々として舐め取る。
 そうこうするうちに、放ったものは全部朱い月の口に収まった。
 唇に指をあて、しばらく舌を動かしていたけど、やがて喉をこくんと鳴らして飲みこんだ。
「アレはおぬしの精のことを美味いなどと申しておったが」
 微笑んで、語る。
「妙な匂いに舌触りに、だな。しかし、美味いというのは判らんが、おぬしのであるなら悪くはないものなのかも知れん」
 正面から自分の精子の味の話なんてされても照れるばかりだし、そもそも俺は初めてなのに飲み込んでくれたことに感動していた。
「なんか、ごめん、顔に掛けちゃったり飲ませたり」
「悪くは無いといっておるだろう、謝る必要がどこにある。そもそも、私が好き好んでやらせてもらったことではないか」
 ああ、そんなことを言われると、物凄く良い気分だったり。
「それより、こっちに来て座らんか」
 立ち上がった朱い月に促され、見れば、数段の階段を登った先にテーブルが設えられられている。付いて行って腰を降ろした。屋外にも関わらず革張りの立派なソファで、そこに並んで座る。

 朱い月の優雅な指が触れると机上の角灯に不思議な七色の火が入り、柔らかに光を放つ。星明りは充分明るかったけど、こうして姿を照らされると、朱い月の美しさが際立って見えた。そっくりだけど確かに別人。明らかに別人だけど瓜二つ。天上人の気配が強く、たった今、跪いて口や胸でサービスしてくれたのと同一人物だと言うのがどうにも信じられない。
「でも、退屈凌ぎといって人を呼び出しといて、したこともないフェラチオなんてしたがるってのはサッパリ理解できないんだけど」
 黙り込み、朱い月は不機嫌に俺を見据える。しかし、やがて拗ねたように横を向くと、口を開いた。
「おぬし、そのようなこと、この口から言わせるつもりか?」
「へっ?」
 間の抜けた声を発した後、意味を考えた。えっと、それって、つまり。
 人を悩ませておいて、朱い月は用意されていた壜を手にすると栓を抜く。山ほど見て間もないドンペリニオンの壜だった。
「おまえもそうやって開けるんだな」
 アルクェイドがそうしていたのと同じように、平然と指で抓んでコルク栓を抜いていた。お蔭で、本当に見ていたらしいと判った。
「ん、こうするものではないのか?」
 グラスに注いで俺に手渡しながら訊いてくる。気にするな、と言って朱い月のぶんを注いでやろうと思ったら、グラスは一つしかなかった。
「お前は良いのか?」
「おぬしら、さっきは一つも使っていなかったではないか」
 う。まあ、その通りなんだけど。
 しかし、ちょっと意図を量りかねた。グラスが要るってことが判っているんだったら、二つ用意してしかるべきだ。でも俺とアルクェイドが使っていなかったことを知っていて、何故か一つだけ準備してある。遠慮するな、と手渡されて戸惑いつつ口に入れた。
「うん、旨い」
 散々飲んだにも関わらず、やっぱり美味かった。
「ふふ、なら幸いだ」
 と、朱い月は安堵した様子。同時に何か期待していると見えたから、訊いてみる。
「ひょっとして、飲ませて欲しい?」
 途端に、得たりとばかりに笑い、答える。
「おぬしが飲ませてみたいというなら飲んでやっても良いぞ」
 例によって、こんな言い方ではあるのだけど。
 一口、含んで抱き寄せる。抵抗は無く、素直に俺の腕に収まり、そのまま唇を重ねた。口の中身が朱い月の方に移り、喉が動くのが判った。
 離れると朱い月は頬を赤らめていたけど、多分俺も同じようになっている。
「何でこんな変なことしたがるの?」
「んん? おかしなことをしたのは、おぬしの方であろう? グラスが一つだろうと、それを渡せば良いことではないか」
「あ」
 つい比較してしまうけど、アルクェイドがいつも華やかにあっけらかんと笑うのに対して、こいつはもっと抑えた笑い方をする。上品とは限らず、人の悪い笑いを見せもするけど、澄ました様子は消えない。
 肩を抱き寄せて、半分ほどシャンパンの残ったグラスを口元に運んでやる。唇が迎えに行った瞬間、傾けて胸元に全部零した。
「何を?」
 驚いているのを余所に、シャンパンに濡れた胸の谷間に顔を埋めて肌を舐める。
「何をする、狼藉者」
 怒った声ではなかったから、舐める舌の方が快感を覚えてしまうような肌理きめ細かな谷間の肌を一通り堪能した。顔を上げると、白いドレスの胸の辺りが濡れそぼって体に張り付いている。
「ちょっと、手でおっぱいを内側に押えててくれない?」
「こう、か?」
 戸惑いつつも言うことは聴いてくれる。
 さっき挟んでくれた時と似た状態にしてもらうと、ふくよかな乳房が合さって上の部分に窪みが出来る。ドンペリの壜を取り、その窪みに注ぎ入れた。泡立つ黄金の泉に口を寄せ、啜って味わう。
「馬鹿な真似を」
 呆れた様子で、でも飲み終わるまで大人しくグラスになってくれる。
「しかし、その辺りにはさっきおぬしが精を撒き散ちらさなんだか?」
 そういえばっ。
「飲み終わってから言うなよな。よし、洗ってやる」
 また壜を傾けて、肩のから胸にかけてたっぷりと注ぎかける。
「そんなことをしたら服が台無しではないか」
「どうせ何とでもなるんだろ? それより、どれだけ入ってるんだ? これ」
「目の前の泉に一杯分は入っていると思ってよい」
 そりゃ、ほとんど無限だな、シャンパンの量と思えば。
 上半身がぐしょぐしょになるまで注いで壜を置き、遠慮なくバストを掴んだ。
「ふふっ」
 笑うばかりで抵抗もしないから、胸の柔かくて弾むような感触を堪能する。顔をくっつけて乳首の位置に吸い付き、服に染み込んだシャンパンを吸う。
 正面に回って両手で二つの丘を揉み、布にぐちゅぐちゅ音を立てさせていると、朱い月が自分で壜の中身をぶちまけ始める。ぐいっとドレスをずらして下ろし、露わになったおっぱいを更に揉む。濡れた肌を形に沿って撫でまわし、口を付けてドンペリと肌の味を楽しむ。口に一杯含んでから乳首に吸い付いたら、泡が擽ったいのに悶えているようだった。
 うん、アルクェイドとしたみたいに浸かってしまうのも強烈だったけど、無限に壜から湧いて来るってのも遊べるな。
 また新しく口一杯にして、キスしてやる。口移しに飲ませた後、舌を絡ませた。戸惑った様子で、でもしっかり俺の動きに応えてくれる。歯茎とか舌の裏側とか色んなところを次々と突付きあい、唾液を混ぜあってシャンパンの匂いがなくなるまで吸い続けた。
 横に移って、耳朶を咥える。舌を付けて擽る。
「ひぁっ」
「駄目、じっとして」
 逃げるのを禁じて、可愛らしいもっと耳を愛撫する。性感帯までアルクェイドと同じってことはなく、同じところが利く訳ではないみたいだ。それでも、耳は随分弱いらしい。
「あっ……駄目、そこ……」
 弱々しく啼きながらも、律儀に動かず耐えている。
 肩に口を落とし、下に滑っていく。万歳させて腋の下にキスする。
「ふふっ」
 小さく笑うけど、それほど擽ったがる様子でもなかった。ちゅっ、ちゅっ、と腋の窪みに口付けし、舐める。
「ふふふ」
 ようやく少し身を捩った。
 手を伸ばして遠い側の胸を掴み、手前側のに顔を押し付ける。頬擦りして楽しんでいたら、上から泡立つ液体を流される。少しだけ飲み込みながら、乳首に吸い付いて舌を使う。
「んっ、んふんっ」
 口の中で乳首は硬く尖り、しっかり感じてくれていた。
 手をもっと下にやる。もう、スカートの方までプールに飛び込んだみたいに濡れ切っている。
「この服、どうやって脱がすの?」
「ふふ、面倒なら破ってしまえ」
 了解と協力を得て、絢爛たるドレスを濡れて重い布の山にしてしまいつつ脱がせる。残っているのはペチコートとその下の肌着ぐらいのもの。
 ソファに仰向けにしてお腹の上にシャンパンをかける。中央で縦長に窪んで臍があり、泡立っている。そこに唇をつけて、舌で探る。
「ふははっ」
 くすぐったがって暴れるけど、押さえて舐め続けた。手を伸ばして胸とか脇腹とかも順に愛撫する。次第に悶える様子も甘みを帯びてくる。このままもっと下の方に進んで行こうかと思ったけど、考えを変えた。
「うつ伏せになってくれる?」
「構わんが……」
 ソファに寝そべる朱い月の背中に、また壜の中身を流し掛ける。マッサージするみたいに背中一面を撫で回す。
「いや、綺麗だなって思ってたんだ、背中」
「良く見ておるのだな、あちこちと」
 シャンパンで滑る肌を楽しみつつ、どこが感じるのかを探る。指先を使うとビクリと反応したりする個所があるから、そういうポイントを覚える。頬をくっつけて滑らかさを堪能し、舌を這わせて愛撫する。
「あふっ」
 不意に甘い声を発したから、そこを舐めつづける。腰に近い背筋の横とか、脇腹の方とか、弱い所は点在するみたいだった。両手と口を使って、見つけたところを出来るだけ沢山一度に攻める。
「ひゃあんっ」
 大声を上げて全身をびくりとさせ、俺の下から逃げようとした。押さえつけて許さず、攻め続ける。
「だめだ、止めろ……」
「ん、どうして?」
 返事をしかけたところで指の動きを変えてやると、息を飲んだ。
「強烈、過ぎる」
「敏感なんだね、背中がそんなに感じるなんて」
「止めろと言うに」
 思いがけず弱いみたいだから、楽しくなって攻める。
「気持ち良いなら、どうして止めて欲しいのさ」
「それ、はっ」
 可愛がりつつ、ペチコートに手を掛けて引き降ろした。丸いお尻に真っ白なパンツだけが残る。それもワインに濡れて透けている。その上にまた降り注がせると、谷間に黄金の流れが出来る。
「ひゃあんっ」
 手で広げてやったら、途端に悲鳴を上げた。
「ん、お尻も感じる?」
 黙っているから、パンツの下に手を侵入させた。
「ほら、答えないと指入れちゃうよ?」
 途端に体を捻って上を向こうとするから、こっちも体重を掛けて防ぐ。お尻の谷間目掛けて更に注いでやる。
「こら、やめろっ」
 お尻の穴に指を当てて、くにくに押しながら言う。
「感じるのかどうか答えないと駄目」
「感じる、感じるから……駄目」
「さっきから可笑しなことを言うね、気持ち良いならもっとして上げたいじゃないか」
 指先を押し入れようとしたら、もう一度身じろいで朱い月は叫んだ。
「頼むから、そっちは止めてくれっ」
「お願いします、は?」
「……止めて下さい、お願いします」
「宜しい。今は、ね」
 意外と素直に言ったから、止めてあげる。しかし、そんなにお尻が弱いのか。
 起き上がらせて、脚を開いてソファに浅く腰掛けてもらう。薄い下着の布地が透けて、金色の繁みが見えていた。顔を近づけて、いきなりそこにキスしてやる。
「あっ」
 ちゅう、と吸って染み込んでいたドンペリを啜る。
「ひゃあ」
 それだけでも感じたのか、朱い月は声を出す。クリトリスの位置を探って、舌先や歯を当てて刺激する。
「うん、お前の味がするな」
「んんっ、私の、味?」
「そう、やっぱりアルクェイドともちょっと違うみたい」
 手を俺の頭に置いて髪を掻き乱し始めているけど、止めさせる気配はない。
「そんなもの、判るのか?」
「判るよ、もちろん」
 布地をずらして黄金の叢を露わにし、その奥地の泉を探る。そこには確かにシャンパン以外のものが湧いていた。
 するっ、と指を押し入れる。
「ひゃ」
 小さく上がった悲鳴を無視して、ゆっくり侵攻する。掛けまくったシャンパンで肌は冷えていたけど、中は熱かった。掴んで逃がさないように指を締め付けて蠢動し、更に奥へ誘っている。
「脱がすよ」
 もう撚れて下着の意味を成してなかったけど、一応言ってパンツをずらす。ちょっと見上げたら、恥ずかしげに顔を反らしていた。これを脱がせると、残るのは白い腿まであるストッキングと靴だけ。これも例に漏れず濡れている。
 足から抜き取ったパンツを握ったら、染み込んでいたものが落ちる。手に受けて口に運ぶ。
「こら、妙なことをするな」
「シャンパンじゃないか、単なる」
「それでも下着を絞った雫など口にするでない」
「はは、じゃあもっと普通のことをしよう」
 脚をぴったりと閉じさせ、壜を手にして太腿と下腹部の間に出来た窪みを満たす。少しずつは漏れていくみたいだから、急いで口を付けて飲む。淡い色の液面下に泡がついて性毛がゆれている。
「おぬしの基準ではこれは普通のことなのか?」
 呆れた調子で言っている。
「いやあ、こういうことをしてみたいと一度も思ったことが無い男なんて居ないと俺は信じているぞ」
「馬鹿なのだな、人間の男は」
 言いながらも、口調は楽しげだった。
 全部飲んでいたら酩酊するから、適当に零しながら減らして行き、最後は繁みに残った露を吸って泉に口を持って行く。
「くふんっ」
 指で開いて、ピンク色の谷間を覗き込む。
「綺麗だね」
 ひとこと言って、舐める。
「ひゃんっ」
 ドンペリの香りと味はすぐに薄れ、代わりに微かな朱い月の匂いがする。アルクェイドとはやっぱり少し違う気がするけど、ちょっと確信は持てない。
「ふああぁあ……あ……」
 ぺろぺろと舌を使うと、朱い月は気持ち良く唄ってくれる。また指を差し入れて、膣内をあちこち探る。締め付け方は強烈なのに、拒まず指を迎え入れてくれる。
「くんっ」
 上側の一箇所を指が通った瞬間、声が高まった。これはアルクェイドと同じような位置、Gスポットかな。調子に乗ってそこを擦り続ける。ついでにクリトリスを剥き出して唇で啄ばみ、舌で先端を突付く。空いている手を上げておっぱいを掴んで揉む。
「くふぁん……ぁああぁ」
 指の動きを速めて、揉む手にも力が篭る。びちゃびちゃ音をたてて辺り中吸いまくった。
「ん……人間……」
「なんだ?」
「そろそろ……」
 ああ。
「そろそろ、何?」
「その。欲しいのだが」
 うわ。なんて言うかこう、そそる。
「んー、何が?」
「それは、その、おぬしだ」
 ふふふ。
「俺が欲しいって言われてもなあ」
「馬鹿者、入れてくれれば良いのだ」
「だから、はっきり言いなよ」
 うわ、姫様相手の凄いこと言ってるな、俺。思いつつも、ほんの少しずつだけ指を動かし、焦らす。
「性器……」
「いやあ、下賎な身分の俺にも判りやすい言葉で言って欲しいなあ?」
 っと、いきなり頭を叩かれる。朱い月は起き上がり、俺を睨みつけて言う。
「あまり調子に乗るな、人間」
 目が一瞬金色だったのを見て、残念だけど従った。顔が近くにあるから、とりあえずキスする。それから首に絡み付いて、耳に口を寄せてきた。
「おぬしの摩羅まらを、この身の女陰そそに欲しいと言っているのだ」
 蜜の絡んだ声で、そんなことを囁く。自分で似たようなことを言わせようとしていたくせに、いざ耳にすると猛烈に照れる。それ以上に体が猛る。
 正面に顔を戻し、甘い視線を注いで来る。何か言おうと思ったけど詰まってしまい、滾るのを抑えずソファに押し倒した。
「く、乱暴にするでないっ」
「無理だよっ」
 慌ててズボンを下ろし、朱い月の両脚を抱えて狙いを定め、突き入れた。ちょっと入った途端、その感覚に静止する。先の方が包まれただけなのに射精の瞬間以上な快感。魔性の交歓異常な性感。気を張って耐え、更に侵攻する。あり得ないほど朱い月の女は蠕動して、俺のものを吸い込もうとしているみたいだ。
「ああ、くあっ」
 奥まで届くまでの間に数度も達しかけた。全精力を掛けて放精してしてしまうのを避けつつ、どうにか引き戻す。少しは慣れて、また緩慢に沈めて行く。
「逞しいな、おぬし」
 随分と下品なことについてお姫様からお褒めに預かる。
「おまえも、凄いよ」
 意を決して、ずんっと突いた。
「ふあぁ」
「くっ」
 覚悟したはずが、それでも鮮烈。脚を抱えたままなのをやっと意識して、大きく開かせる。力が篭められないのか、流石に少し穏やかになる。それでも、無数の細い触指に巻き付かれているみたいに、理性の弱い抑止に取り憑かれて行く媚態に、熱くて融けそうだし、滑らかで溶けそうだし、柔かくて蕩けそう。
 いつ逝ってもおかしくないのに、どうにか抑えながら、抽送を始める。突くごとに、尿道から何か逆流して俺の中に溜まって行くような気がする。引くごとに、体の奥底に手を突っ込んで何か引き抜かれている気がした。
「はぁあ、ふあ、くふんぁ」
 俺は死ぬ気で吐精を抑えているけど、向こうも感じてくれているみたいで、糸を引くような細い喘ぎが続いている。アルクェイドと良く似ていると思うけど、それでもこんなに峻烈なのは、やはり別人だからか。
「くっ」
 やばい、逝きそう。何とか我慢する方法は無いかと思って、ドンペリの壜が目に付く。手に取って中身を自分の体に掛けたら、冷たさに引き締まって一瞬だけ窮地を脱する。ごぼごぼ溢れさせながら突き続ける。繋がってる部分やらその周りやらが再び濡れそぼって行く。
「んんんっ」
 朱い月は片手を口にやって指を噛み、もう片手はソファを掴もうとして滑っている。ボトルを置いて、その手を握る。痛いほど力が篭った。
「あぁ、んくぁ、ふぅあぁんっ」
 何度目かの射精の予兆を受け取り、もう限度だと判って動きを速める。片手を握り合い、片脚を抱えてひたすらに突く。朱い月が噛んでいた指を離して思うまま声を上げる。壜が転がって腹の上に中身を流しかける。先端から液体が溢れてるって様子を見た途端、意識の中で弾けるものがあって、とうとう解き放った。
「ああぁっ……あ……」
 途端に、合わせてくれたのか、天上の楽曲を奏でて朱い月も体を弓なりに反らせた。引き千切られないかと思うほど結合部が締め付けられ、搾り取られる気分。
「うるあ」
 訳のわからない言葉を吐いて、女の上に倒れる。下から抱き締められて、唇を吸いあった。少し舌を絡めるだけのキスをながいこと繰り返した。
「ふふ……大儀であったな」
「何だよ、それ」
 それだけ言って口付けに戻る。
 冷たいシャンパンが流れている中、抱き合って触れる肌が暖かい。壜を起こせば良いのにそれはせず、ぎゅっと腕に力をこめていた。
 やがて、我に返ったように二人起き上がり、周囲の惨状を眺めた。脱いだ服や何やから、ソファから、全部泡立つ液体の洪水だった。
「別段、片付けねば困るわけでもない」
 今度は二つグラスを具現し、それぞれに満たす。
「今更だが、おぬしの健康でも祈って」
 ひょいと掲げて、二人グラスを干した。

 

/バッカスの泉 朱い月編1・了

 


 

朱い月は男のはずだ、ってのは言いっこ無しw

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