バッカスの泉


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 流石にもう上がろうとしたのに、アルクェイドに捕まった。
「えー、もうちょっと入っていようよ」
「良いだろ、もう」
「えー、気持ち良いよ?」
 結局、再びシャンパンの海に引きずり込まれる。今度は向かい合って、浴槽の反対側にそれぞれ背もたれる。初めよりは幾分ぬるくなって、もう気泡もほとんど無くなっている。初めの頃、濃厚過ぎる香りが鼻についていたけど、慣れて麻痺したのか酔っているせいなのか、もう気ならない。
 高価な飲み物をそれこそ湯水のように使ってしまう悪徳に対して、初めは罪悪感を少しは持ってたのに、それも麻痺してしまっていた。未だに未開封のボトルがあるのを見て、いい加減頭はフラフラなのに手を出そうとする。
「ねー、今度はロゼにしようか」
「あー、良いね」
 何気なく返事して、ふと気づいて一瞬で酔いが覚める。
「今度は、って、こっちのことか?」
 バスタブの液体を指さす。
「あー、ごめん、ロゼは一箱しかない。また買っておこうか?」
 ほっとして、また頭がくらくらした。
「いや、買わなくて良い、ロゼまで何百本もあるんだったらどうしようかと思ったんだ」
 最近ようやく無茶な金の使い方はしなくなったところだったんだが。いや、今回は要るものを要るだけ買っただけの話ではあるのか。
「シャンパン風呂って、これが間違ってるんだったら正しくはどうするの?」
 ぱしゃ、と脚を液面から揚げて訊いてくる。なんとなく足首を掴む。
「いや、知らないけど、普通に風呂を沸かして一本とか入れるだけじゃないのか?」
「そうなんだ。じゃあ、今日だけで一年分ぐらい使っちゃったね」
 もう値段のことは考えないようにした。それより、目の前でひょこひょこ動いているアルクェイドの足が気になる。
「こんなところまで格好が良いよな、おまえ」
 別に足ふぇちの趣味はないつもりだから、足の形について確固とした意見を持っているわけではない。だけど、揃った指の形とか、土踏まずの具合とか、綺麗に見えるのに違いは無かった。
「きゃはっ」
 足の裏に唇を付けたら、はしゃいだ声を出す。それから俺の足を持って、アルクェイドも同じようにキスした。楽しそうに足の裏を舐め始める。ぬらっとして暖かい舌の感触が何やら腰の方まで響いてくる。負けじと俺もアルクェイドの足を口で愛撫する。
「あははっ」
 二人とも最初はくすぐったがってばかりだったのに、次第に気持ち良くなってきた。相手にされたことが気持ち良かった時はすぐにやり返すせいで、どうされると効くのか次々と見つかる。
 指を一本ずつ吸い、指の間をしつこく舐める。マッサージするみたいに土踏まずを揉んだり、甲の方を擽ってみたり。小指とその隣の指だけを口に含んで、その間を舌で突付きながら、脹脛ふくらはぎから膝の方へ揉みながら手を滑らせた。膝の裏に触れたら、びくって逃げようとした。もっと擽ったら暴れるから、ちょっと指を噛んでやる。途端に噛み返された。ちゃんと加減は出来てて、痛くはなかった。
 恍惚としたアルクェイドが何か見つけたみたいな顔をして、いきなり俺の股間で高ぶっていたものが液面下で触れられた。もう一方の足を伸ばしてきていたんだ。先端の方を柔らかい足の裏で、くにくに押してくる。
「また、こんなになってるんだ」
 露骨に嬉しそうにしてる。爪先の方で亀頭の方を摘んだり、逆に袋の方を揺らしたり。
 対抗して俺の方も足を出したら、卑劣にも到着前に捕獲された。報復措置として握っていた方の足を擽ってやったら暴れて、二人とも姿勢を崩して黄金の泉に沈む羽目になった。
 さっき同じようなことになったのを思い出したらしく、顔を出したら目のあたりを舐めに来る。当然の流れでキスもすることになる。
「今度は私がしたげるよ、志貴?」
 俺の怒張をつつきながら囁いた。誘いに応じて、さっきと反対の体勢になった。
 淫蕩に微笑んだアルクェイドは、竿の部分を軽く握りながら、いきなり袋の方に口を付けた。唇で包み込むと、内側でゆっくり舌を動かし、文字通り味わっている。感覚は強烈だけど、緩慢でもどかしい。握っている手が、力の入れ具合を脈動させつつも滑り動いてはくれないのも焦れったい。
「もっと激しくして」
 ねだったら、アルクェイドはまた淫靡に笑う。
「いっつも私のことは焦らして、ねだってもなかなかしてくれないくせに」
 バスタブから掬ってシャンパンを亀頭に垂らす。ちょろちょろと流れるのが、またじりじりする感じ。
「でもまあ、今日はあまり焦らされなかったし」
 そう言うと、不意にぱくっと先端を口に入れた。唇がちょうど亀頭を包み込み、舌が周囲を辿る。
「くふっ」
 酒で鈍感になってるかと思ったのに、まるでそんなことはなく、快感が脳天まで突き抜ける。バスタブに堕ちた背徳の天使は、嬉々として淫らな行為を続ける。次第に頭を下げて行き、ほとんど全体が口に納まる。喉の奥の方に先端が当たっているのが判って、息苦しいに決まっているのにって思う。
「う、くっ」
 息を詰めて耐える。小刻みに頭が上下し、根本の方と先端でそれぞれ粘膜に刺激される。真ん中のあたりには舌が触れている。それぞれ感触も違って、快感にパニックを起こしてるみたいだ。棒の方全体を口で責められながら、陰嚢も指で揉まれていて、びくびく脈打っている。
 いつまでも呼吸を止めてはいられないから、アルクェイドの動きの間を突いてそっと吐いていく。だけど、吸おうとしたら不意に動きが激しくなった。
「ぐっ」
 辛くも耐えられて、どうにか空気が吸えた。それからまた、腰に力を込めて頑張る。さっきまでよりストロークの大きな動きに変わった。一往復ごとに、与えられる快感の代償に削り取って行かれていそうな気がしてしまう。
 ようやく口を離し、軽く握って、きゅっきゅって動きだけをする。
「はぁ、ふぅ、」
 アルクェイドも呼吸を整えている。
 両腕でバストを強調して、訊いてくる。
「ふふ、今度はどうして欲しい?」
 手を出して触れた。
「これで、してっ」
「これ、好きだね、志貴」
 自分で揉むように両手を添えて、俺の性器をたわわな果実で挟み込んだ。
 アルクェイドが体を揺すると、象牙色の肉の間から赤黒いペニスが出入りする。掬いかけたドンペリニオンがびしゃびしゃと滴り、潤滑剤になっている。柔らかくて、なのに指を押し返す乳房が俺を包んでいる。
 ちゃぷ、ぴちゃっ。
 ふと離れて、久しぶりに新しい壜を取った。あっさりと開封し、少し胸元にかけると俺に手渡す。それから自分の手は胸に戻し、上に飛び出している部分をくわえ込む。
 渡されたボトルにを傾け、ほんの少しだけ飲む。そうとうアルコールが回ってるから、これ以上は危険だろう。代わりにアルクェイドに上を向かせ、たっぷり口に含んで飲ませた。ほとんど顔に吐き掛けているわけで、あんまりと言えばあんまりな行為だけど、楽しそうだから良いだろうってことにしておく。
 アルクェイドがパイズリを再開した。アルクェイドのことなら隅々まで好きだけど、おっぱいが好きなのも、それで挟んでもらうのが大好きなのも事実。クリームみたいに柔らかくて、なのに喰い付いて離さない。
 くちゅ、びちゅっ。
 丁度先っぽが埋まるようにして、ぐにぐに揉みながら擦られる。さっきからの連続攻撃をどうにか凌いでいるのは、やっぱり酒で鈍っているからか。この上なく勃起しているのに、あと一歩達しないで居る。
「ぁうぅっ」
 胸の間から離して、乳首で傘の部分を弄り始める。硬く勃起した乳首は独特な感触で、いつもなら止めの一撃にもなり得るぐらい、不思議に俺はこれに弱い。だから今度こそ逝けそうだと思ったのに、何故かやっぱり駄目。両手それぞれ自分で乳首を摘み上げて、それで俺の先端を挟んでぐりぐり押し付ける。ついでに舌を伸ばして、尿道の裂け目を舐め上げる。
「くぁうっ」
 居ても立ってもいられない想いなのに、あと一歩達しない。生殺しにされてる格好で、甘美な責め苦だ。もう無条件降伏してるつもりなのに、体は応じてくれない。
「気持ち良い?」
 再び胸に挟んで、器用に片手は袋の方を揉みながら、上目遣いに訊いてくる。
「うん」
「それ、かけて」
 促がされて、胸の谷間に壜の中身をぶちまける。新鮮なシャンパンが粘膜を刺激してくるけど、滑りが良くなってしまうからなのか、やっぱりぎりぎり爆発出来ない。
「ここに出して良いよ」
 アルクェイドは誘うけど、だんだん心配になるほど、苦しいほど気持ち良いのに逝けなかった。
 俺が屈しないのを悟ったのか、敵は戦術を変えてきた。今度は深く挟んで大きくグラインドし、全体を責めたてる。
「今日はタフだね、志貴」
 いや、もう好い加減、果てたいんだ。
「何かもっと、して欲しいことある?」
 おっぱいの間から出た部分を先に舌で突付いておいてから、こんなことを訊いてくる。
「舐めて。口でしてっ」
 ぺろん、と舐めておきながら、また問うてくる。
「何を?」
 ふーふー息を掛けたりとかもしてる。
「アルクェイドが大好きなもの」
 切羽詰ってるわりには会話も楽しんでる自分が居た。
「うふ、確かに好きっ」
 そう言って、舌を伸ばして擦り付けてくれる。ひたすら柔らかくて、それなのに搾り取られるような胸の感触に、熱く濡れた、でも少しざらついた舌の感覚が加わる。
「くぅっ」
 パイズリとかフェラとかの気持ち良さって、見た目も大きいと思う。こんなに綺麗な顔をしたアルクェイドがイヤラシイ行為に耽っているのに興奮して、それが快感を高めてくれる。グロテスクなペニスを嬉しそうに頬張ったり、ペロペロしたり、あられもない姿に雄の感情を掻き立てられる。
 竿の部分の胸の感触、袋を揉む指の感触、先っぽの舌の感触。混ざり合って、今度こそようやく逝けそうなほどの快感。体中からマグマが集まってくるような、ほとばしる悦楽が起こる。
「咥えてっ」
 すぐに応じてくれ、滑らかな唇でぴったりと覆って吸ってくれる。頬の内側とかまで当ってるのが判る。ペニスの先端から根元まで、その上陰嚢まで、複雑に様々な快感に包まれて、二度か三度往復した頃、ようやく絶頂感が来た。
「いく、よ、アルクェイドっ」
 更に数回、口に出入りしたとき、とうとう爆ぜた。
 尿道を通っていく射精の快感は信じられないほど長く続いて、アルクェイドの口にたっぷりと白く濁った液体を迸らせた。体液が無くなって乾涸びてしまいそうな気がして、それでも、この快楽と引き換えなら惜しくはないと思った。噴出したものが胸や顔にも掛かってしまい、一部は浴槽に落ちる。
「くはぁっ」
 喘ぐ俺の性器に再び吸い付いて、アルクェイドは残っている精子を啜る。
 ちゅうっ。痛いほど吸われて、きっと全部出ただろう。
「すっごくいっぱい出したね。ちゃんと濃いし」
 ぜいぜいと言ってる俺を余所に、アルクェイドは顔や胸から精子を集めている。用意はしてあったのに使わなかったグラスを取って、集めた白いものを中に入れる。口からも吐き出して一緒にすると、唾液が混じって随分な量に見える。
「どうするんだよ、こんなとこに集めて」
 グラスを持たされて、処遇に困って言う。シャンパンに浮いてた分も更に一緒にした。そして、俺が辛うじてまだ持っていたボトルから残りのドンペリニオンを注ぐ。
 俺の手からグラスを取り戻し、アルクェイドはそれを見詰めている。金色の酒の中で、俺の放ったものに気泡が付いて浮き沈みしていた。
 脱力していると、その妙なカクテルをアルクェイドは一息で飲み干した。
「やっぱり志貴のは美味しい」
 なんだそうだ。

バッカスの泉2・了

 

3へ続く


 

まだ続く、かな?

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