強烈な日差しの中を歩いて、アルクェイドのマンションに着いた。
 本当は朝から来るつもりだった。なのに、いきなり秋葉に説教されてしまい、結局昼食後になってしまった。
 幸いなのは、別に朝から来るって約束してたわけではないってことだろう。ただ、この天気じゃアルクェイドが出かけてるって心配はないけど、寝てるって方の危険はある。
 ぴんぽーん、とチャイムを鳴らす。例によって出てこないから、合鍵を使う。そしてドアを開けた途端、むせ返るような柑橘系の甘い香りがした。

バッカスの泉


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「ん、志貴ー?」
 アルクェイドが間延びした声に続いて顔を見せた。って、それがまた、バスローブを羽織って帯もしてないような姿だった。
「なんて格好してるんだよ」
 ちゃんと閉じられていない胸元にどきどきして、照れ隠しに言う。別に、すっぽんぽんを幾らでも見たことがあるのに、なんでこう一々滾ってしまうのか。
「お風呂に入るところだったのよ」
「なんで風呂に入る前にバスローブ着てるんだ?」
 それでも前を抑えていた手を退けてしまったから、無防備に開いてお腹やらもうちょっと下のあたりやらまで見える。
「むー、それは志貴がいきなり入って来たからでしょっ」
 うっ、それはそうだ。旗色が悪いので話を反らせよう。そう思って尋ねる。
「で、この甘い匂いはなんだ?」
「えへへー、テレビでやってたシャンパン風呂にしたから」
 それはまた、豪勢というのか俗っぽいというのか。風呂に入浴剤みたいに牛乳とかコーヒーとか、果てはチョコレートとかまで入れたりするらしいけど、シャンパンなんてのもあるわけか。沸かした風呂に注いだらこんなに強烈に香りが立ち込めるものなんだなあ。
 それにしてもまあ、貧乏な俺に考えられない。金は持ってるらしいから、シャンパンの一本ぐらい風呂に入れてしまってもなんてこと無いのかな。アルクェイドのことだから、何にも考えずに高級なのを使ったに違いないし。
「これからだけど、志貴も一緒に入る?」
 なんて、ストレートに誘惑してくる。
 来ていきなり一緒に入浴ってのはどうなのか。一応、真面目にそんなことを考えてみる健全な青少年を目指しながら、しかし、そんな華やかで期待に満ちた笑顔を向けられたら健康な青少年としては拒めるわけがない。
「うむ、思えば朝風呂は時々入るけど、昼風呂ってのはあまり実践していないな」
 と、真面目ぶって承諾の返事をした。
「じゃあ、はやくっ」
 振り返ったアルクェイドを追って部屋に入る。
 っと、部屋の真ん中に、この前まで無かったことは確かな大きな洋風のバスタブが設置されている。
「こんなのいつの間に持って来たんだ?
 なにやら金色に輝いているが、まさか本当に金で出来てるってことはないだろう。
 いや、ないと信じたいのだが。
「知らなかった? 志貴が最近あんまり来てくれないから」
 また良くない方向に話が進みそうだから、風呂を覗き込んでみた。金ピカの、多分ブロンズ製の巨大なバスタブには淡い金色で泡立つ液体が程よく入っている。
 うん、確かにシャンパン風呂。
 って。えっと。
 一瞬思考停止して、さっき浴槽の更に向こうにも何か目新しいものがあったのを思い出す。そっちに目を向けたら、積み上げられた沢山の箱と、そばに転がっているこれまた沢山の壜。
「って、おい、これ全部シャンパンなのか?」
 幾らのシャンパンなのかはともかく、でっかいバスタブだから、二百リットルとかは軽く入ってる。そりゃあ、こんなにも濃密に香りが充満するわけだ。
「え、だって、シャンパン風呂ってこうするんじゃないの?」
 いや、それは間違ってる。牛乳風呂だって、普通は一パーセントぐらいだ。世の中にはチョコレート風呂なんてのもあると聞いて驚いたものだったが、あれも結局のところ、チョコレートを含む入浴剤を使うだけだ。
「えー、でもマリリンモンローとか言う人はシャンパン三百五十本入れて、お風呂に入ってたそうだよ?」
 ああ、あの女優さんならやりそうだ。いや、何にも知らないけど、そんなことをイメージさせてしまう何かをマリリンモンローって人は確かに持ってる。そう思えば、テレビでやってたことをそのまんま再現してるだけなんだろう。
 まあ、シャンパンを沸かしたりしなかったことだけは誉めてやるべきなのかもしれない。
「いや、だけどなあ、アルクェイド、」
 振り向いて言おうとして、止まる。アルクェイドがバスローブを脱ぎ捨てていたから。
「良いから、早く入ろうよっ」
 そう言って、腕を引っ張る。
「待て待て、服っ!」
 間違ってるとは思いながら、反論も出来ず服を脱ぐ。
 ふんふ〜ん、と上機嫌で鼻歌を唄いつつ、アルクェイドはバスタブに脚を入れた。
「んっ」
 金色の液体の中に、アルクェイドの裸体が沈む。細かい泡が一気に湧き上がって体を包み込み、収まると、今度は定常的な気泡の層が出来る。もともと風呂に入ったらアルクェイドの豊満なおっぱいは湯に浮かぶけど、いつも以上にそうなってる気がする。泡がくっついて浮力を増してるんだろうか。
「うふふふっ」
 目を瞑って気持ち良さそうに笑う。見慣れているはずの体だけど、どれほど見たってやっぱり、あんまり綺麗で信じられない。何か、非現実的な造型品のようで、だけど、それにしては生々し過ぎるわけでもある。
「ほら、志貴も早く〜」
 また誘われて、俺も不道徳な行為に足を突っ込んだ。
「うっ」
 冷たい。それに、アルクェイドが笑っている理由が判った。
「えへへー」
 引っ張られて、全身をシャンパンに浸す。また泡が湧き起こって、風呂桶の縁から溢れかける。
「くすぐったいねぇ」
 そう、泡が皮膚の上を滑っていく感覚が強烈。でも不快ではない。蒸気が発ち込めているんだろう、柑橘系の芳醇な香りで胸が一杯になる。もうこれだけで酔ってしまいそうだ。
 あまり酒は強くないしとか思っている傍で、アルクェイドが両手で掬って一口飲み込んだ。
「美味しいよ、志貴も飲めば?」
「いや、ちょっとバスタブからってのは」
「私が入ってたら飲みたくない? いっつも体中舐めるくせに」
「いや、アルクェイドが入ってるのは平気だけど、むしろ自分の体がどうも」
 不思議そうな顔をしてアルクェイドは言う。
「そう? 私は志貴が入ってるのは気にもならないけどなあ」
 もう一口、飲んでみせる。
 俺と同じことを言ってるだけにしても、そう真っ直ぐに言われると照れてしまう。思わず覆い被さりかけたら、アルクェイドは半身を浴槽から出して手を伸ばした。小さなテーブルが傍にあって、そこにまだ何本もシャンペンが置いてある。
「こっちからなら飲むよね?」
 示したボトルのラベルには、どうやらドンペリニオンとか書いてあるらしい。俺でも名前を知っているような、高級シャンペンの代名詞だ。それをバスタブ一杯って、いったい幾らぐらいなんだか。あまりの経済力の違いを見せ付けられた気分だ。
 アルクェイドはコルク栓を素手で抜き取るという離れ業を見せ、そのまま壜を呷る。ドンペリをラッパ飲みとはこれまた豪快だけど、体を漬けてやってるんじゃ、今さらって気もする。
 俺に飲めと言ったんじゃなかったか、と思った途端、アルクェイドは開いている左手で俺を引き寄せる。唇を重ねてきて、壜の中身をこっちの口に注ぎ込んだ。唇が離れるのを待って、ゆっくり飲み込む。フルーティで複雑な味わいの液体が喉に流れていく。
 飲み込んだのを確かめて、アルクェイドはもう一度キスしてきた。またシャンペンを含んでいるけど、今度はすぐには離れず、お互いの口の中で液体を共有して行き来させる。その中で舌を泳がせて絡め合った。アルクェイドが中々離してくれず、最後は無理矢理突き放す。
「けち、もうちょっとキスしてたかったのに」
 どうにか飲み干して、咳き込んでから言い返す。
「殺す気か、息が出来ないだろ、あんなにしてたらっ!」
 やっと気付いたように、アルクェイドは御免なさいを言った。たまに、本気でこういうことを忘れてしまうのが困ったところだ。
 ちょっと落ち込んだみたいだから、ドンペリの壜を取り上げて、今度は俺が口に含む。意図が判ったらしいアルクェイドは、さっそく現金に微笑んだ。だから、初めは自分で飲む。残念そうな顔を見てもう一度壜に口を付け、そのままゴクゴク飲み続ける。
 どんどん表情が寂しそうになって行くのが辛くなって、やっぱり抱き寄せて口移ししてやる。
「この方がおいしー」
 そんなこと言われたら、もっとしてやる以外にないじゃないか。二度三度と繰り返して、立場を入れ替えて再開。また飲ませる方と飲ませてもらう方を逆にする。
 アルクェイドが飲んだ量の方が多いと思うけど、それでも吸う空気にさえアルコールが含まれてるような状態だから、だんだん酔いが回ってくる。それに、冷たいシャンパンに体を入れているせいで、冷えてきてしまった。
「ふふふ、こうすれば暖かいよ?」
 そう言うと、アルクェイドは抱きついてくる。確かに、肌が触れ合ったところは冷たい液から離れるし、何よりアルクェイドの体が熱くて心地良い。こいつの体は冷えないのかな、なんて真面目ぶったことを考えてみるけど、一瞬しか持たなかった。ドンペリに浮かんでいた大きなバストが二人の胸の間で押し潰されているし、尖って堅くなっている乳首がはっきり判るし。
 背中に両手を回して抱き締め、背筋の両脇の敏感なラインを上下に指で往復してやる。
「元気だね、志貴」
 アルクェイドが体の間に手を入れて、いきり立っている俺のものを掴んだ。新たにシャンパンに亀頭の部分が晒されて、泡とアルコールが刺激してくる。そこに絡み付いてくる指が対照的な感覚だ。
「おまえは?」
 俺の方も、手をアルクェイドの脚の間に運んだ。漂っている草むらの奥に指を当てて、女の部分を開いてやる。
「ひゃんっ」
 ちょっと上にクリトリスを探り当てて、こっちも剥いてやる。
「くぅっ」
 流石にちょっと強烈みたいで、体を震わせている。でも抵抗はしてこないから、背中に回していた手を下ろしていって、お尻の方も谷間をくつろげた。
「んんっ」
「どうしたの?」
 俺の首を抱いて悶えるアルクェイドに囁いた。
「くすぐったいっ」
「どこが?」
「やんっ」
 裸を見せるのもえっちを迫るのも割と平気なくせして、こういうのは恥ずかしがる。
「ホントは気持ち良くて悶えてるんだろ? 何か、ぬるぬるしてるぞ?」
 脚を絡めて開かせ、指も使って更にぐっと広げながら囁いたら、アルクェイドは返事をした。
「うん。なんかビリビリして、泡がムズムズして、変な感じで気持ち良い」
 それでも、基本的にこいつは正直だ。照れるのが楽しくて、また言う。
「だから、何処が気持ち良いの?」
「んふ、志貴が大好きなトコロっ」
 可愛いことを言うから、たまらなくなって体を入れ替え、下敷きにした。さっきは自分で嫌がったけど、バスタブから薫り高い酒を口に含むとアルクェイドの口に流し込んだ。そのままキスをしながら、両手でバストを掴む。いつも以上に温もりを楽しみながら、液面のすぐ下にピンク色の小さな果実を見つけて口を付けた。じゅるじゅる音高く吸い付いていたら、ポンッとコルクの抜ける音がして、頭の上から新しい流れが注がれる。
「ぷはっ」
 アルクェイドが瓶の口を首のあたりに持って行くと、双丘の谷間に泡立つ黄金の滝が出来た。目を瞑って顔を埋め、滝に打たれてみた。口を開けて新鮮な雫で満たし、そのまま乳首を咥える。
「あん、」
 発泡が激しいせいか、さっきより感じるらしい。尖りきった乳首を舌で転がしたり、軽く歯で挟んで引っ張ったり、シャンパンを吹きかけたり。
 また下に手を伸ばして、アルクェイドの中に指を差し入れる。
「くぅん、んっ」
 抱き締められて、二人を支えていたアルクェイドの手が風呂桶を放れたから、滑って一緒に液の下に沈んでしまう。この状態でアルクェイドを見てみたい誘惑に駆られて目を開けたら、酷く浸みたけど、金色のワインの中で白い姿態は輝いて見えた気がした。
 ざばっ、と頭を出したら、アルクェイドも目が痛そうだ。口を付けて目のあたりからシャンパンを吸い取ってやる。すぐ、同じことをしてくれた。
「ねえ」
 改めて俺を抱き寄せて、言う。
「舐めてっ」
 立ち上がってバスタブの縁に腰掛け、形ばかりに脚を開く。
「もっと開かないと舐められないぞ?」
 こういうことを言われるのは好きらしい。頬を染めて、おずおずと開いて行く。
 扇情的な行為の最中なのに、アルクェイドは、やっぱり綺麗だ。
「ほんとに、お風呂に堕ちた天使ってか」
「え、私は精霊かも知れないけど天使じゃないよ?」
 いつものように、ボケた答えが返ってくる。
「そういうことを言ってるんじゃないの」
 そして俺は、天使の下腹部を舐めるという不道徳な行為を始める。
 たっぷりとドンペリの染み込んだ金髪の繁みを掻き分けて、アルクェイドの女の部分に接吻した。指で開いて、左右の唇をなぞりつつ舌を中に入れる。
「あんっ」
 人差し指と中指を差し入れる。熱い肉がぬめぬめと吸い付いて、奥へ突き入れさせようとしているようにさえ思えてくる。シャンパンまみれながら、それとは違うアルクェイドのジュースも溢れてる。
 途切れ途切れに喘ぐのを聞きながら口を動かしてクリトリスに至り、唇で挟んだり舐めまわしたり、時々歯を当ててみたりする。
 膣内の上側を丁寧に辿って、アルクェイドが大きく反応するところを探った。いつも最初は平気な振りをするんだけど、二度三度と擦るうちに耐えられなくなって啼く。
「あぁん、志貴ぃっ」
 バスタブに沈んでいたボトルを取って、アルクェイドが中身をお腹に注ぐ。体を伝ってまた金色の流れができ、その中で俺は舐めつづけた。酔っているせいもあって、これがアルクェイドの体液なんじゃないかなんてことまで思う。
「ねえ、もう、頂戴」
「ん? 何を?」
 まだ脚の間に顔を埋めたままで問い返す。
「志貴の」
「俺の何?」
 頭を掴まれて離れさせられ、アルクェイドがまたシャンパンに体を沈めて身を寄せて来ると、俺のものを握った。
「これ」
「名前ぐらい知ってるだろ?」
 首筋に口をくっつけるようにして、小さな声で答える。
「志貴のおちんちん」
「うーん、いくらお前の頼みでも、それをくれてやる訳には行かないなあ」
 言った途端、ぎゅっと力を入れてくる。
「入れてくれれば良いのっ」
「どこに?」
「私のここに」
 俺の手を取って、導く。
「だから、名前ぐらい知ってるだろ?」
 アルクェイドは返事をせず、しばらくして代わりに
「いぢわる」
 と呟いた。
 いつもの儀式みたいなこんな遣り取りのあと、立ち上がって向き合う。なにも浴槽の中でしなくても良いんだけど、ここまで来たら勢いだ。
 とりあえずやっぱり、キスから始める。ドンペリの滴るアルクェイドの体に、自分の滾りを突き入れた。そのまま動かずに抱き締めて、乳房を二人の間で変形させながら、唇を貪りあった。アルクェイドの中は熱くて、すぐに動いたりしたら一瞬で終わってしまう。必死で我慢しているのに、早く早くって蠢き絡み付いて誘惑してくる。
 背中を撫でたり脇腹を擽ったりして、そんなところでも誘い合う。抱き合っていると、濃厚な酒の芳香の中でもアルクェイドの肌の匂いはかすかに感じられた。
「動いてっ」
 とうとう口に出して、同時にアルクェイドはヴァギナを締め付けた。うふ、なんて笑いながら、繰り返し締めては緩める。それがまた、奥の方と入り口の辺りで動きが逆だったり、リズムが違ってたりする。
「うあ、」
 そろそろ動いても大丈夫なぐらい落ち着けたと思ってたのに、こんなことをされちゃ耐えられない。じっとしてたって果ててしまいそうで、だから俺は動くことにする。
「ぁあっ、んはぁっ」
 突くとすぐに、アルクェイドは蕩けた声を吐く。
「手加減してくれっ」
 締めたり緩めたりをまだやってるから、ストップ願う。
「えへっ」
 あれをやってると、アルクェイドの方も気持ち良いそうだけど。
 止めてはくれたけど、だからって快感に違いはなかった。もとより閾値を越えてるから、溶鉱炉にでも突っ込んでるみたいな溶ける感覚は少しも変わらない。腕の中の肉体の中には溶岩でも詰まっていそうだ。
 不自由な体勢ながら、それなりに譲り合って往復が滑らかになる。お互いを支えるのは相手に任せて、俺は両手でおっぱいを揉む。
「あふ、ぁあんっ。ちくび、触ってぇ」
 摘んで先端をぐりぐり弄ってやる。
「あぁんっ、それ、好きっ」
 感じてくれるのは嬉しいけど、そのせいで下がまたキツくなったりして、危うく放ってしまいかけた。どうにか堪えて、今度は片手でクリトリスを責めてやる。
「くはっ、ああーっ」
 それほど激しく突けるわけじゃないから、せめて複雑に動く。二人とも、腰を回すように揺らしている。
 片手づつで抱き合って、余った手でそれぞれに愛撫しあった。少し落ち着いて、今にも弾けそうなのに違いは無いけど、それでも穏やかに体温と濡れた肌を楽しんだ。
「んふ、ぁん、志貴ぃっ」
「アルク、エイドっ」
 オレの体にもマグマがいっぱいに溜まっているような気がする。また締まりが強くなって来たのは、アルクェイドが限界に近付いているからだ。貫入した部分で融けた岩が混ざり合ってるみたいにぐちゅぐちゅと言ってる。もう一箇所行き来させたくて、唇を重ねた。さっきからのイメージの続きで、口と性器を通じて何かが互いの体を循環しているような幻想を抱く。
 息苦しくなるまでキスをして、離れた頃には俺ももう限度だった。
「いい? アルクェイド」
 形だけは問う。結局、駄目とか言われてもどうしようも無いけど。
「うん、志貴、いっしょにっ」
 承諾を得て、一心にアルクェイドを貫き、抱き締め、腰を動かし、肌を甘噛みし、掴む。ぎりぎりまで続けていたクリトリスへ愛撫は力が篭り過ぎるのを怖れて中止し、単純に掻き抱いた。アルクェイドに背中に突き立てられた爪が痛くて、でもお陰で少しだけ長く持った。
「はあぁあっ、ふあ、ぁあぁっ」
 愛しいから気持ち良くて、気持ち良いともっと愛しくなる。自然の具現化した途轍も無い力が腕の中で身も世も無く善がっていると思うと、誇らしくも畏れ多くもある。
 でも、腕の中に居るのは綺麗な女の子に過ぎなくて、俺はこの女の子が好きだ。
 ちょっとだけアルクェイドが先で、蕩けきった顔を眺められた。女の子の方が絶頂に居られる時間は長いらしく、結果的にはタイミングは合わせられた。逝った瞬間に吸い込まれそうなほど締められて、果てる以外になかったんだ。
 体の奥から脈打って体液が溢れ、アルクェイドの中に融けて行った。肉体の快楽と、それに倍する幸福感に酔う。巡り合っていたマグマはすっかり二人の間で均質になったんだろう。
「んんっ、志貴っ」
 恍惚とした表情で口を吸いたがっているのに応じる。アルクェイドはキスが好きだし、俺もそれは同じだ。
 真っ白だった思考が少しずつ覚めていく中、アルクェイドがまた一本壜を開けたらしい。抱き締め合う体の間に注ぎ掛け、傾けたボトルから直接飲み込んで、またしつこくキスした。火照った体を冷たいドンペリニオンが冷ましてくれる。
「んーーっ!」
 幸せな笑いを満面に湛えて、アルクェイドはバスタブの端に座る。
 こっちも、正面に腰掛けた。
「まったく、凄いことするよなあ、お前も」
 バスタブから溢れて床に滴っている大量のシャンパンと、その周りの壜を見て、改めて呆れた。幸いなことに、浴槽を入れたときに床の方も防水はしてあるようだけど。
「私はテレビの真似しただけだよ」
 笑いの名残は見せつつも、真面目な顔で言っている。
「普通はしないんだよ、こんなこと」
 こいつに判らせるのはきっと無理だろうと思いながら、一応言っておいた。

バッカスの泉1・了

 

2へ 続く


 

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