Half a Blue, Half a Shadow

Catalina


 目を覚ますと、青子は柔らかなベッドに横たわっていた。
「え……?」
 なんだか記憶がゴチャゴチャで、ここが何処なのか、何故ここに寝ているのか、そんなことも分からない。
「起きた?」
 声を掛けられて顔を向ければ、自分を犯し続ける男が穏やかに笑っている。
「昨夜は良く頑張ったね」
 青子の頬や額を優しく撫でながら、男が言う。
 稲妻のように記憶が蘇る。昨夜受けた手酷い虐待と陵辱をひとときに追体験して、破裂しそうなほど心臓が脈打ち、過換気を起こす勢いで激しい息をする。あんなに激しい輪姦にはまだ慣れていなくて、恐怖し、発情している。
 やがて、一つのことが頭に浮んだ。
 ああ、捨てられては、いなかったんだ。
 それは、犯されて過ごす日々が終わらなかったことを意味すると言うのに、青子は安らぎを覚えた。これからも男に辱められ続けるのだと思うと、世界が半分ぐらい優しい影に墜ちていく。
 でも、これで、まだ目的を果たす機会はあることになる。
「抱くよ、アオアオ」
 アオアオって呼ばれている。ハイと即答しながら、拘束されていないのだから奉仕しなければと身を起こしかけた。
「良いよ、今回は特別。アオアオは何もしなくて良いから、思うまま陵辱を楽しむと良い」
「はい」
 今までに、ほんの数度しかない体験で、どれも確かに特別なことだった。
 男が両手で青子の乳房を撫で始める。その豊かで熟れた果実には、男も執心だったのだ。
 執拗でおぞましい愛撫に、青子はすぐにとろけてしまう。見るも嫌な男の指が自慢のバストを玩弄する屈辱に、先端がピンと隆起していく。
 そこをくりくりと摘まれて、悔しい喘ぎが漏れた。
「やっぱりアオアオは、他の男に色々としてあげるのは、嫌なのかな?」
 言われて、また昨夜の輪姦劇を思い出す。
 触るのも嫌、触られるのはもっと嫌。口でするのも、胸に挟むのは特に嫌。体に受け入れるのなんて、本当は考えるのも嫌。思い出すほど、高揚する。
「嫌です……するのも、されるのも。ごめんなさい……」
「昨日みたいな散歩は?」
 何も見えないまま這い回らされるのは、怖くて。
 顎の下を舐められて、首輪がないのに気付く。こんなことも、まず無い。
「嫌……です」
 ぺろ、と今度は腋を舐められて、また喘ぐ。どこかでホテルのボーイに舐められたことを思い出して震える。
「ふふ、今度は、目隠し無しで散歩に行こう。這わなくても良いし、縄と玩具で身を飾ってね。途中で一人で帰らせたりしないで、ちゃんと最後までリードを持っててあげる」
「厭です……」
「そうか、じゃあ、僕にこんな風に犯されるのは、好き?」
「大っ嫌いっ!」
 ここぞとばかり、叫んだ。叫んでから後悔すると知りつつ。
「良いよ、いつも言っているけど、嫌なら嫌で良い。でも、言うことは聞いてもらわないと困るんだ」
「はい……」
 そうだった、と青子は思う。
 自分が好むか好まないかはどっちでも良いんだった。ただ、ちゃんと務めを果たせば良いんだ。
 それなのに昨日は、ご奉仕するのも忘れて自分の快感に浸ってしまった。その上、失態を大目に見て下さろうとしていたのに、その機会さえ逃したのだ。
「昨夜は辛い目に遭わせたかも知れないけど、何も、苛めようと思ったんじゃないんだよ?」
 それは、青子にもよく分かった。
 それなのに、逆恨みしていた。捨てられたなんて思い込んで、あんな売女な振る舞いをした。あんなに犯されたのも、自分の選んだことだった。それなのに、ちゃんとこうやって、助け出してくれてた。赦してくれたんだ。
 乳首を吸われて、やっぱり喘ぐ。指と口とで左右一緒に責められると、快感に悪寒が走る。
 うん、厭で厭で、こんなにも気持ち良い。官能と嫌悪との極まった不思議な感情を青子は覚える。落差の大きいのが良いんだと思う。
「これからも、従ってくれるかな?」
 今でも、ミスブルーでなくなったわけじゃない。魔法使いとしての蒼崎青子が何か変わったわけじゃない。
 ただ、女として……。
 いつか飽きて捨てられるまで、陵辱と羞恥と服従の時は終わらないと、とっくに知っていたけど、その絶望に目が霞む。でも熱くなるのだ。
 男が青子の真っ直ぐで長い脚の間に顔を埋め、滴る蜜を吸う。舌と唇から、いつもどうにも蛭を連想してしまって肌を粟だて、捻れた快美感に身を委ねる。
 これからも過ごすのだと、覚悟しようとする。名も知らぬ男たちに辱められ、蔑まれて明ける夜を、これからも。歓びに打ち据えられながら。
 ……殺す。
 男の指が膣に侵入し、Gスポットを捉えて擦り立てる。その正確さに冷たいものを感じて馴染めない。
 ……またすぐに来る、縄を掛けられ首輪を付けられ、鞭打たれ擽られ、口も膣も肛門も男根に塞がれて、両手と乳房を奉仕に使い、太腿でも腋でも望まれるまま快楽のために供する夜が。もう耐えられないと思うけれど、その実、耐えることを要していなくて。
 ……殺すっ。
 湧き上がる快感に、青子は唄う。
 ……何度でも繰り返す、夢の中でさえ弄ばれ、現実にはありえない恥辱と悪夢でしか得られない歓喜を味わう夜を。せめて静かな休息が欲しいけれど、本当はそれが無くては寂しくて。
 男が、股間の凶器で青子を刺し貫く。お腹の中が温かくなる。満たされた気がする。腹を裂いてでも掻き出したい何かで。
 ……終わる時は来ない、一人寝の寂しさを自分で慰め、もの足りなくて手近な誰かを咥え込み、やっぱりそれでも駄目で、結局眠れない夜に。忘れようと思って、実際には刻みつけている。
 ……殺すっ!
 慰みものにされる悦びを、もう忘れさせては貰えない。いや、忘れることなど求めては居ない。
 ……平穏な日はいつでも取って代わる、電話一つ、伝言一つ、そんな突然の呼び出しに天国から落とされ、屈辱に甘んじなければならない夜に。その落差にいつも目の前が暗くなるけど、影の国は優しいから。
 ……殺す、殺すっ!
 男が腰を使い始める。淀みなく、青子の泣き所を心得尽くした動きで。脚を持ち上げて、あたり具合を変えながら。足の裏を擽って笑いと快感で青子をパニックに陥らせながら。
 ……甘んじなければならない、ステージでスポットを浴びて、涙を隠しながら淫らなショウを演じ、自分を選んでくださった一夜のご主人様に可愛がっていただく夜に。恥辱を忍ぶようで、そんな時間を偲んでいる。
 体の奥に生まれて心を犯す官能に、青子は己を任せていく。
 ……つなぎ合わせて生きよう、街角で裸になって沢山の人に恥ずかしい姿を晒し、犬みたいに這いまわり、女の道具を品定めされ、求められるまま愛の技術を披露する夜を。胃がいっぱいになるほど精を飲まされ、全身の肌を精液に染められ、洗っても洗ってもにおいが取れない気がして啜り泣く夜を。女としての何もかもを、ただ男に捧げる夜を。
 あっという間に登り詰める。同時に、奈落に墜ちていく。官能と同じだけの無力感。性感と同じだけの絶望。
 殺すっ……。
 それでも、呪っていた。初めの頃からの癖で。
 そのあまりに甘美で底の無い官能の蜘蛛糸に、昏く果て無き被虐と欲情の鎖に、青子は絡め取られて捕らわれている。そこに身を置いて初めて生きている気がする。
 殺す、殺す、殺す、殺すっ!
 また、呪う。ただ快感が忘れられないだけなんじゃない、期が熟すのを待つために甘んじているんだと。
 絶頂は、諦観と共にだけ。
「アオアオ、さっきの問いに答えてくれるかな?」
 昏い、深淵のような仙郷から醒めた青子に、男が問い直す。
 美しき捕囚の返事は、訊くまでもなかった。

 

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