Catalina
青子の部屋を担当して美味しい思いをしたルームボーイは、世界中に居る。
青子は時々、不安になる。自分の居場所をいとも容易に掴んでいる男のことが恐ろしいのだけど、ひょっとして、と思うことがあるのだ。
行きずりの男を咥え込むような痴女になって見せることを強いられたとき、そんなペルソナを演じてやり過ごす習慣が着いている。それは、羞恥に捻じ伏せられるのをどうにか耐え忍ぶために見出した方法なのだけど、段々とそれに頼っている。どっちが本当の自分なんだろう、なんて在り得ない疑問を擁いたことさえ無いではない。ホテル泊する夜は多く、そう毎晩のように辱しめを受けなければならないのでもない。なのに、ある平穏な夜にも、取り憑かれたようにルームサーヴィスのボーイを誘惑している自分に気付いた。
……もし、本当に二重人格を形成してしまっていたら。一番危惧しているのは、そんなこと。性的虐待って、原因の筆頭みたいだし。最高の時に限って急転直下の地獄に落とされるのは、ありえないって思うけれど、独立してしまったマゾヒストで淫らで従順な自分が男に知らせているんだろうか。
そんな絶望的な思いに耽っていたらドアが敲かれて、青子は怖れを飲み込んだ。不埒な女の青子を纏い、部屋に呼び入れたルームボーイに笑いかける。
シャンパンを運んできた客室係は、凍り付いていた。さっき、すれ違いに青子の美貌に目を奪われていた若いボーイは、その目映いばかりの美人が半裸で緊縛されているのを見ることになったのだ。中でもやっぱり魅惑的なのは、たわわに実ったグレープフルーツみたいなバスト。丸くて、重量に逆らってツンと天を目掛けている。いかにも柔かそうで、触れたら弾けそうなほど張り詰めて、ぷるんぷるんって誘いかけているみたい。
「大丈夫、犯罪に遭ったとかじゃないわ」
証拠とばかりに、青子は手足は自由なのを示してやる。
ずーっと婦女陵辱の被害者だけどね……。
艶然と笑いかけてやると、やっと、自分の幸運に気付いたらしい。
「お、お客様……」
それでもまだ、ホテル従業員の慇懃さを無くしてはいない。
こんな高価な部屋には、暇と金を持て余し、あらゆる遊びをやり尽くした客もよく泊まるのだろう。爛れたセックスに走るのは珍しくも無いと、青子も知っている。酷いパーティの余興に連れて行かれたことも無いわけではなく、ほんの遊びで客室係に抱かれるようなセレブリティだって居る。あまりに危険でスキャンダルとして語られることさえないような女性達が、そんな中にも名を連ねているのだ。
自分も、そんな一人だと思われているに違いなくて、ボーイの欲情と蔑みに、青子は自己憐憫しながら燃え立ち始める。とりわけ胸に集中している視線に昂揚し、まだギリギリ引き返せるって思いながら、誘いかけた。
「……触る?」
「はい、お客様……」
まだ夢のようで、間の抜けた言葉。何も分からなくなるまで善がり狂わされていてさえ、自然と口を突いて出るようになっている、自分のセックス奴隷な口調。それと似たようなものだと、青子は可笑しく思う。笑いの大半は、自分に向けた侮蔑だった。
じゃ、たまには王様気分にしてあげようよ。
そんなことばかり先に浮かんでいる。
両手を胸に導いて、掌に浮いた汗が不快で鳥肌の立つのを感じながら、億尾にも出さずに愛撫をねだる。
「揉んで下さい……」
肌の荒れた手に強すぎるぐらい力が入って、青子の淫らなバストを蹂躙し始める。想像を越えた柔かさと張り具合、滑々の肌に指は指を沈むぐらいに受け入れてくれるけど、ねっとりと押し返す弾力もまた確か。
揉みたてるボーイの手が気持ち悪くて、青子の官能を刺激する。放して欲しいのに、手を重ねて押し付けている。
「見ての通り、こちらはお使い頂けないのです」
青子の股の下を通るのは、下着ではなく鍵の掛かった貞操帯だから。
「えっ?」
まだ夢中で胸を揉みながらも、目にしたボーイは落胆している。ここまで誘っておいて、なんて逆上しそうなぐらいに。
「ですので、この胸でしっかりご奉仕させて頂きますね」
頭を抱くように青子が手を伸ばせば、いそいそとボーイは胸に顔を埋めた。縄が少し邪魔ながら、芳しい肌の匂いに男が猛る。食欲めいた欲に駆られてすぐに乳首を吸い始め、青子は、ナメクジに集られでもしているみたいに怖気を覚える。そのくせ、しっかり硬くなり、乱暴な愛撫に愛嬌良く応えるのだ。
「んっ、素敵、です……もっとっ」
そんな台詞まで吐いて。
下賎な男に身を任せる快感なのか、そうしなければならない苦汁なのか。いや、今は青子が卑しい牝犬で、高貴な男の手に委ねる喜びなのか、女としての誇りも何もを搾取される悲しみなのか。
ボーイの舌が腋におよび、匂いを嗅がれ、ぺろぺろと舐めまわされる。青子は自分で腕を押えて、大きく腋を晒すように努めている。
「ここ、弱いの?」
「はい、とても……」
やっとルームボーイから慇懃さが抜けて、一個の雄になりつつあった。
「へえ、くすぐったくないの?」
くすぐったい舌使いも唇も、受け入れれば官能。その違いは、紙一重というより青子の心一つ。
「それも、好きですから」
「そうなんだ」
「くふふふふふふっっ」
いきなり指で擽られて窒息するほど笑い、でも舐めてもらうと快感。
「そんな苦しそうなのに。マゾなんだね」
「はい、そうです」
躊躇い無く肯定し、その後で打ちのめされる想い。
違う……私、本当に……。
蔑まれて、貞操帯の中を蜜の海にしていた。違う、違う、っていう心の叫びも、胸に感じている快感に抑えられて内に篭っていくばかり。
胸を心行くまで味わったルームボーイは、青子を押し倒して突き入れようとする。しかし、貞操帯が正しく務めを果たす。
がああ、などと苛立って吼えている。
「ですから、胸で」
ひざまずいて、屹立するペニスを握ってやると、少しは落ち着いた。
口も使えば仕事は早いのだろうけど、駄目だと命じられているから、それは出来ない。逞しい男根を谷間に受け入れ、双峰を両側から押し潰して挟みつける。唾を垂らして少し潤わせ、竿全体を包んで揉む。とりわけ亀頭は丹念に挟んで、上下しながら擦り合わせて。
「ああ……」
見上げたら、ボーイは馬鹿みたいな顔をしていた。
……うふふ、みんな同じ顔するのよね。
いつか、道端で同じことをしてあげた少年の憧憬交じりの性衝動は可愛いものだったけど、女を見下した欲情の表情は醜くて
素敵じゃない?
女に性欲をぶつけるのが間違いとは言わないけれど、受けてくれると思い込むのは
いいわよー?
どうせ突っ込んでやれば勝手にヨがるものだと思っているなら
「気持ち良い?」
訊いてやっても、がくがくっと首を振るだけ。
そのあたりにまた、いつもの自分を見つけたりする。
なんて弱いんだろう、人間って、快感に対してだけは。
思いながら、また唾を落とし、硬い乳首でエラをなぞり、鈴口をくすぐり、いろんな感触を与えてやる。乳首が擦られて、痛いけど気持ちも良い。無遠慮に顔をまさぐられ、嫌悪しながら甘くて震える。でも、そんなに嫌がっているのも不思議な話、若いし器量も悪くないのに。ホテルマンとしてはともかく男としては小物っぽいけど、行きずりの快楽の相手としてなら別に問題じゃなし……。
慄く。その思想がおかしいのだ。
「ぱくっ」
口に出しつつ指を咥えてやると、また無遠慮に突っ込んでくる。フェラチオのつもりで舌を絡ませ、吸い、溢れて来る涎を飲む。胸に男根を挟んでいるから二人を相手にしているみたいで、思いつきに興奮し、複数相手に慣れてしまっていることが哀しいはずなのに涙も出なくて、だけどもう驚かなかった。
諦めたりしないってまだ思えたから、せめてそれに縋る。
自分でも、大きくて形も良いことをちょっと自慢しているバストを使って男の欲望に奉仕することと、口に迎え入れて男の快楽に貢献するのと、どっちが屈辱なのか、よく分からない。どっちが好きだろう、なんて考えてしまったりもする。楽しまないのは損だっていう危険思想だ。
もちろん、同時にそうさせられるのが、一番……。
嫌よっ!
ボーイが逝きそうになっているのが分かって、スパートしてやる。
口に精を出されると、今でも嘔吐きそうになる。なのに、親しんだ舌触りと渋味はまんざらでもなく、人によって違ったり、同じ男でもずっと同じわけじゃないとことを面白がったり。ついつい、しっかり味わってしまうのだ。顔に吐精されると、不快で震えそうになる。だけど、鼻を突く匂いは脳天まで抜けて、そこから甘美な諦観の毒が心身を蝕む。生ぬるい自己憐憫に浸って出て来れない。胸元に射精されると他のどこよりも穢された思いが激しい。だから後で必死で洗うくせに、掛けてもらった瞬間には、おっぱい全体に両手で塗りたくったりする。触れたら痛い傷口に触れたくなるみたいな誘惑に、
一度でも抗ったの?
「あう、出るっ」
律儀に叫んでくれたから、思考が途切れた。
半ば噛んでいた指を吐き出して俯き、乳房の間で弾けた精液を顔で受けた。続けて扱いてやるうちに数度にわたって脈打ち、胸元に糊を付ける。最後だけ禁を破って吸い付き、残っている牡のエキスを残さず啜った。
しっかり、顔にも口にも胸にも浴びた。余程溜めていたのか、青子の胸が余程良かったのか、おびただしい量だからホントに二人ぐらいで掛けてくれたみたいに思えて、熱くなった。濃くって素敵、うんと匂いを堪能し、口に含んで舌を絡ませ、よく味わう。
煙草吸うのかな、この子。
大きなバストを隈なくパックできそうなぐらいたっぷり、半分ほど唾交じりのを吐き戻し、胸に付いていたのと一緒に塗りつける。それから丁寧に手を舐めて、ちょっと惜しいけど飲み込んだ。
体の芯に、火を付けられている。胸で思い切り欲情を迸らせてやるうち、どうにも下腹部が疼き出していた。思わず指を突っ込もうとして、今度も貞操帯に邪魔される。つまりはもの足りなくて、見ればボーイもまたギラ付く目を向けている。
「あんたも、まだシたいんだろ?」
吐き付けた精液で遊ぶ青子の仕草に、また欲情したのだ。
「うん、でもコレだからね……」
臍の下を示す。
「口は駄目って言われているし。でも、こっちで良いなら入れて良いよ?」
うつ伏せて、尻を突き出して、その奥のアナを指差して誘う。青子の貞操帯は、後ろまでは覆っていなくて、むしろアナル挿入を進めるみたいに開いていた。
「大丈夫、ナカもキレイにしてあるから」
唾を付けた指を、少し埋めてみせる。
「凄い、でも、いきなりで大丈夫なの、お尻なんて」
青子の尻を掴んで広げていて、気遣いを見せるようだがすぐにも突きたがっている。
「ローションがあるわ。でも、ちょっと舐めてくれたりすると嬉しいな?」
言われた途端、して良かったんだ、とばかりに顔をすり寄せ、青子の尻穴に舌を突き出す。
「あんっ、素敵……」
牝犬の姿勢の青子の尻を、ボーイがこちらも犬みたいにぬめぬめと舐める。一舐めごとに、気持ちよくって青子がお尻を振るから、頑張って食い下がる。尻の谷間が唾でどろどろになり、邪魔っけな帯の内ではヴァギナがトロトロ。指でとってそっちもペロペロ。
不浄の穴を犯される予感に、脳味噌が沸騰する思い。
「うふ、そろそろ入れる? これ掛けてね」
ローションの瓶を渡してやる。
もどかしげに尻に液をブチ撒け、猛りきっていた男根を青子の尻穴に押し付け、勢いのまま貫く。
「あんっ、乱暴ねっ! 良いわ……」
十分に解れているアナルは荒っぽい挿入にも耐えた。激しさは火勢を増すのに貢献するばかり、腹の中を犯されて青子は満たされた思い。
「すげえ、締まる……」
上ずった喘ぎが素敵。
お尻って、このギッチリ詰められる感じが気持ち良い。ゆっくり満たされるのが素敵。「んっ……」
あんまりピストンしなくても、グニグニしてれば良い感じ。どうして良いか分からないみたいに腰をくっつけてハァハァし合っているだけ、でも何だかすっごく良い。
「ははは、やっているな、アオアオ」
男がいきなり声を掛けても、どうせ知っていたから青子は驚きもせず。ルームボーイの方もまた、理性は飛んでいた。
「続けてくれていいよ、こっちは口を楽しむから。アオアオの相手は大変だろう?」
言いながらさっそく入ってくる。久し振りのペニスが嬉しくて、やっぱりコレじゃないと、何て思う。舌を絡ませて雁首の隅々まで味を確かめたら、ちょっとしょっぱい。奥まで咥えようとしたらお尻も動いて感じてしまう。うん、上にも下にもって良い。
「こっちで動こう、アオアオ」
腰を使ってもらえたら青子は楽だけど、申し訳ないから、そのぶん舌と唇に集中する。喉を動かす技を披露し、手で陰嚢を揉みたてる。息苦しくてクラクラ、それがイイ。お尻がちょっと痛いぐらいにいっぱい、抜かれる動きが特にイイ。お尻で環を描いてあげるとすっごい、女の子みたいに悲鳴あげてる。
「胸に執心だったじゃないか、揉んでやればどうだ?」
促されて、初めて気付いたみたいに手を回すボーイ。まるっきり乱暴、自分の精液塗れなのも忘れている。捕まれて痛くて、でも痛いのって嫌いじゃないし。頭を捕まれて、イマラチオされつつ耳を擽られている。
うふ、やっぱり沢山おちんちんがあるのって素敵よね?
「それにしてもアオアオ、いつもこうやってボーイと楽しんでるの?」
え?
そんなこと……今日も命じられて、不承不承……。
ボーイの腰使いが激しくなり、痛いのと一緒に快感も高まる。ごりごりする感じが堪らない。爪を立てられているおっぱいが毟り取られそうでイイ。
「初めの頃は、ミミズ腫れの網目が全身覆うぐらい鞭を振るってもそっちを選んだのにね?」
見知らぬ男性を裸で誘うなんてことより、痛い方がマシだったんだ。
昔はそうだったわね。
嫌で嫌で、恥ずかしくて、でも許してもらえなくて。泣く泣く誘惑して、
「わざわざ呼んでくれてこれってことは、間が空いて寂しかったかい? これは当て付けってわけで」
呼んだ……?
そんなはずは。いつもみたいに、メッセージを受け取って、まずはおしゃぶりさせていただいた後、貞操帯をして縛られて口は使わないと決められてボーイを呼んで……。
体は快感に蕩けきっているのに、氷のように理性が冷たく乖離した。
「前は閉ざしているけど、そっちは僕専用にして欲しがってたね?」
おかしいと気付く。久し振りに口に入れて頂いているのだから、まずご奉仕したって記憶はおかしい。前だけは他の男の方には使わせないで、というのは青子の嘆願で、いつも男は嘲笑うのに、こんな都合の良い付け方は無い。それに、ディルドーか媚薬無しに付けさせられたことなんてない。逃げられない快感か掻痒かに悶えるのがいつものことなのに。ヴァギナの疼きか湧き上がる喜悦かを人に知られないように歩かされたり、バレて好奇の目に酔わされるのが。
「よく連絡をくれるけど、僕が来れなかった時はこうやって楽しんでいるんだ?」
じゃあ、やっぱり、私……?
でも、自分で好きな胸ばかり責められるように仕向け、胸だけで可愛がってやらねばならないって言うのはいかにも課せられそうな甚振り方だ。何を嫌がるかなんて、
分かるわ、自分のことだもの。
え?
そこで気が遠くなって、青子は再び口と尻を犯されてよがる牝に戻った。
喉まで陰茎を突きこまれて涎を垂らし、深々と肛門を刺し貫かれて外道の喜悦に狂う。直前に擁いていた疑問も恐怖も忘れて、ただ、男とボーイの注いでくれる悦楽を楽しみ、返礼にその恵まれた女体を捧げるだけの女として。
「あうぅ、もう、俺っ」
やっぱり律儀なボーイに、声は掛けられないからお尻をキュって締めてあげる。
「うわぁっ」
それが止めで、青子の尻穴に存分に注がれた。あわせたように、口を使っていた男も射精する。青子としては、こっちの味の方が好きで、その濃厚さを匂いと一緒に堪能した。
結局その後、青子はボーイに前でも逝かせてあげた。
/Half a Blue, Half a Shadow
©Catalina