Half a Blue, Half a Shadow

Catalina


 青子はブーツを脱がされた。乳房を上下から絞っていたベルトも、外された。これで、もう目隠しと首輪だけ。蒼崎青子が人として身に着けていたものは、もう残っていない。拠り所を無くして、心が危うくなる。本当に狂ってしまったら捨てられるのは知っている。
 投降した捕虜みたいに、膝立ちで大きく脚を開いて手を頭の後ろに組む。その躾られた姿勢を取って、動いちゃ駄目だよ、という指示に従っている。
 ずーっと何もして来ない。言われた通りの、じっと我慢の時間。再び物音を怖れる。何か話す声にしか思えなくて、やっぱりまた、捨てられたみたいで不安で。風が冷たいから、肌を晒していることを痛感する。
 逃げ出せば良いのに。
 何かが嘲笑っている。風にでも隠れて、消えてしまえば良いのだ。そんなことは容易なのだ。でも、それを選ぶことは出来ない。嫌悪しながらも、恥辱に塗れて涙の泉に溺れていても、逃げ出せない。
 待たされると、惨めさが募る。一緒に、昏い期待も増していく。何もされていないのに、さざなみのように肌がざわめく。
 早く……。
 何もされないで居ると、経験してきた数々の虐待に思いが行く。
 殺してやるっ。
 呪文みたいに念じる。
 次は、どんな目に遭わされるのだろう……。
 ……どんなことをして頂けるんだろう、でしょう?
 また、知らない自分が唆してくる。

「青子?」
 やっと声をかけてもらえたとき、妄想に浸っていて、返事が遅れた。
「青子?」
「あ、はいっ!」
「そろそろ行くよ、青子の大好きなやつ」
「はい……」
 身に受ける責め苦のどれひとつ、好きなものなんて無いって、思っている。
 ……思いたい。
 だけど、厭なものほど、恥ずかしいものほど、とろ火で炙られるように快楽。
「予告しないから、しっかり構えてね?」
 言われて鞭を予想し、心臓がばくばくする。何処を打つのか教えてもらえないのは恐ろしい。
 実のところ青子は、鞭はそんなに嫌いではなくなっている。一発でも、目から火が出るほど痛い。思い浮かべただけで息が乱れ、震えが来る。それでも、他の様々な羞恥を極めた責め苦に比べれば、真っ当に苦しめば済むだけ。
 痛いのなんて、大したことじゃない。苦痛であるはずのことが正しく苦痛であるのは、調教され尽くした青子には嬉しいことで、だから鞭は嫌いではないのだ。
 稲妻に撃たれたような痛みを、思い浮かべる。
 ブタみたいに腕で吊られて……。
 ちょん、と予告に触れてから実際に打たれるまでの僅かな時が何より恐ろしい。
 背中はまだ、良い。お尻なんかも、ましな方。数を行かれると痛くて座れなくなるけど。
 きついのは、胸。
 必ずというほど両方の膨らみをセットでそれぞれ叩かれて、そのくせ一発としかカウントしてくれない。柔らかな肉は打たれると千切れそうに痛む。恵まれたバストをしているだけに、おっぱいは女としての自分の象徴みたいで、それを蹂躙されるのは心の方にも深く響くのだ。
 お仕置きの基本は鞭だったから、容易に屈しない青子は、よく打たれた。
 未だ、慣れられるものではない。ただ、これも官能に結び付けられてしまっている。
 ……まず、吊り上げたまま、幾つもの性具を取り付けて放置される。
 にやにやと眺められながら玩具で逝かされるのは厭で、苦しむのが分かっていても耐えようとせずにはいられない。
 乳首に貼り付けられた、ただ振動するだけのつまらない道具に、声も出ないほど感じてしまう。クリトリスに押し付けれたりすると、恥も外聞も何も。後でそんな姿を見せられて泣いた。秘所に打ち込まれたヴァイブレータに悶え狂い、アナルローターで後ろの味を覚えさせられる。
 一つ一つ馴染まされたセックストイに、逝く直前まで連れて行かれて、寸止めされる。
「逝かせ、て……」
 叶えて貰えず、ただ鎮まるまで放置される。その後で、また無理矢理に玩具で責められて、耐えようとしても無駄だって思い知らされる。でもやっぱり、最後までは連れて行ってもらえない。繰り返されて、青子は半狂乱。
「お願い、逝かせて……あとちょっとなのに……」
 そこを鞭打たれたら、その痛みで達してしまった。
 鞭だけなら良い。でも、あの組み合わせは、今でも辛い厳しいお仕置き。許しを請わずにはいられない責め方。鞭打たれて絶頂し、玩具の無機質な官能に溺れさせられ、あるいは鞭打って引き戻され、あるいは鞭打って逝かされ……。
 一鞭打たれるごとに、殺してやるって呪いを吐きながら。
 それから、灼熱するミミズ腫れに氷を押し付けらえると、身の凍るその冷たさが快い。それは性感ではない筈なのに、追い詰められた体には区別が付かない。結局、気持ち良いってことだけ覚えてしまう。気絶するばかりの痛みと震えるような冷たさが、どうしても快感になってしまうのだ。
 今でも、鞭は痛くて、気持ち良くなんか無い。
 ただ、今みたいな捕虜のポーズで鞭打ちに耐えるのは、あるべき自分で居るための苦行みたいで、死の呪いを醸すのにちょうど良いから嫌いではなく……打たれるうちに、脚の間をぐしょぐしょに濡らす。
 早く……早く、して……。
 打たれる痛みより、この時間の方がずっと辛い。痛みは一瞬のことだから。
 耐え難い不安は期待に似て、苦痛を待ち望む矛盾。止まらない愛液の滝が青子の望み物語っている。この状態も永遠ではないから、覚悟が崩れないうちに打たれたい。
 待たされて、こらえ性の無い青子の花芯はだらだらと蜜を吐き続ける。
 早く……。

「ひっ、はふっ」
 悲鳴。
 いきなり秘所に男根を突き入れられたのだから、無理も無いことではあった。
「ひゃ、ふぁあっ!」
 パニックして暴れ、刺激を受けてしまって更に悲鳴。
「落ち着いて、青子」
 抱き締められて、やっと静まる。それから、指示されてゆっくり腰を下ろして行き、騎乗位で男に跨る格好になる。
「じっとして、青子」
 そんな……。
 待ち望んでいた男の性器を女の器官に穿ち入れられて、青子の体は歓喜していた。髪の毛の先まで暴れたがっている。ロデオのように腰を振りたい。なのに、許されない。
 それでも健気に、男の有無を言わせぬ声に青子は従い、手を頭の後ろに組み直し、暴れ馬な自分の体を懸命に御する。
「それも駄目だよ、青子」
 僅かでも刺激を貪りたくて、青子は膣を締めたり緩めたりしていた。禁じられて、いよいよ青子は追い詰められる。
「もう一度言うけど、動いちゃ駄目だよ」
「は……い」
 声を出すだけでも僅かに刺激され、欲情に更なる呼び水。待機を再び命じられ、しかし三十秒も保ったかどうか。どうしても、こっそりと腰を使ってしまう。小さく上下に、まるく、螺旋を描いて、ゆすってしまう。
「青子、聞こえないの? 動かない」
「はい……」
 素直な返事はするけど、体は手綱を離れていた。ひくひくと体が蠢動するのを、どうしても止められない。微か過ぎる快感が麻薬のように更に強い官能を求めるばかりだと分かっていて、どうしても静止できない。
 何度となく注意されても、無理だった。
 時間の感覚がおかしい。もう一週間もこうしている気がする。やっぱり動かずに居ることなどできず、しかし今度はヴァギナの締め緩めぐらいは大目に見てくれているらしい。男の快楽の為に仕込まれた技を、憎いはずの教えた当人に貫かれて必死で使っていた。
「……鞭が要るみたいだね」
 ちょんちょん、と胸の膨らみを突付かれる。その刺激で嬌声を上げた。バストを打たれる痛みを思い出しつつ、それでも、求める。
「はいっ、よろしければっ、お願い……します……」
「そうか、分かった」
 既に青子は、どんな刺激でも欲していた。熱蝋で達したことも、鞭打ちで絶頂したこともある。擽られて逝ったことだってある。何であれ、こうやって焦らされているよりは救いがある。
 男が実際に手を下すまで、またしばらく待たされ、
「ひゅはぅっ、ふあああっ!」
 乳首を直撃されて、半ばオーガズム。
「ひっ、くふん、はふぁ……」
 その後になって、青子は鞭打たれたのでないのに気付く。
 乳首にそれぞれ、振動するローターを貼り付けられたのだ。電撃のような鞭を待ち望んでいたから、与えられた刺激の甘さがオーバーロード。乳首の勃起が大きくなり、余計に強く当たることになる。
「鞭は用意が無くてね」
 青子には聞こえていなかった。
「んっ、あふんっ……」
 じっとしていられず、仰け反る。腰が上がって、ずる、と膣と陰茎が擦れて、それも快感。踊るように体を捻り、歓喜に舞う。
「駄目駄目、我慢の練習なんだから、じっとして。声も出さない」
 そんなっ。
 無理、と思いながら、ちゃんとハイと返事はする。
 僕より先に逝かないこと、との指示は、一応は聞こえただろうか。
 歯を食いしばって、胸の先端に注がれる無慈悲な快感を我慢しようとするけど、とても敵わない。息を荒げ、腰を揺すってしまう。こんな時は、ふくよかで感度の良い自分の乳房が恨めしい。
 手で乱暴に捏ねられるのは悔しくて、捏ねて貰えるサイズなのは嬉しい。乳肌をまさぐる男の指の感触が芋虫みたいに不気味で、なのに官能。
「青子、何度言ったら分かる、じっとするんだ。それじゃ、先が思いやられるよ?」
「は、はぁぅ、はいぃっ」
 返事はして、止まれないうちから、クリトリスの包皮を捲り上げられる。
「そ、そこはっ」
「好きでしょ? ほら、黙って」
 言うと同時に、クリトリスに振動。
「ひっ、はぁあ……」
 撃ち抜かれるような快楽の衝撃。強すぎて体が悲鳴を発している。
「ひっ、ふっ、はぅ……」
 ちょん、ちょん、と触れて思うまま弄ばれる。腰が上下してしまい、肉壷の中も歓喜の嵐。ローターの振動が初めは辛いぐらいだったのにすぐに慣れ、リズムを覚えて急速に楽しみ始めるから、そこで間を開けられると早速焦れる。恨めしいけど、もう、無しで我慢は難しい。
「んん……もっと……」
 辛うじて、それだけで口を噤んだ。腰を振るダンスは止められない。
「頑張り過ぎるのも大変だよ?」
 からかうように男が言う。くっつけられたら、今の比ではないのは火を見るより確か。 新たな衝撃に耐えようと詰めた息が保たなくなった途端、貼り付けられた。
 青子は声も出せなかった。
「駄目だな。ほら、真っ直ぐして」
 それでも青子は、両の乳首とクリトリスの快感に耐えようとする。負け戦と分かりながら。痙攣するような腰の動きを堪え、背を反らせながらも動かないように努めた。だけど、きっと一秒も止まれなかった。
「以前はあんなに悔しがったのに、悦んでいるばっかりだね?」
 からかわれて、法悦に消えそうな闘志に火をつける。この状態から取り戻せるものでもないけど、ここまで性感に狂ってしまう自分が許せなくなる。
 だけど、嵐の前の灯火。
 殺す、殺す、殺す、殺すっ。
 呪詛を浮かべて、意志を奮い立たせる。
「ひふっ、んあっ、ふあぁああぁーっ!」
 嘲笑うように、その瞬間に達してしまった。
「くふっ……」
 もう、涙が流れるばかりだった。
 それで許されるわけでもなかった。
 ますます乳首が尖って刺激が増す。静止なんて出来ないけれど、懸命に抑える。何も考えられなくて、ただ、呪い続けている。
「まだだよ。こっちにも欲しいよね?」
 これ以上玩具を入れられたりしたら、とても正気ではいられない。恐れながら、だけど迷わず頷いていた。まぎれも無く、欲しかった。もっと気持ち良くなりたかった。駄目だと分かっていて、それでも逃げることは選べなかった。
「よし、そうでないと躾にならないよね」
 怯える青子のアナルに堅いものが触れた。完全にセックスの道具に作り変えられてしまった不浄の器官、感じてしまうことが一番悔しいところ。無慈悲に押し込まれ、静止していることに気を許した途端に動作する。すっかりお尻も弱い青子を吼え哮る快感が襲い、姿勢が保てない。腰をぐるぐる回して、逃げようとするけど突っ込まれているものが離れるはずもなく、まるいバストが淫らに揺れるだけ。
 もう完全に、騎乗位で交わっている格好だ。
「駄目だな。よし、良いよ、腰は使って良い」
 天の救いのように、青子は許しを聞いた。不興を買ったことなど意識には上らせる余裕は無かった。無心に腰を揺すって淫らなダンスを踊り、自ら乳房を揉み、獣のように声を上げた。また、絶頂した。
 そしていきなり、穴のある箝口具を入れられて、そこを通して喉まで男根を押し込まれる。
 えっ?
 そんなはずはない、という思いも一瞬しか続かない。
 ……ああ、駄目……。
 誰のものとも知れぬ男根に滅多突きされる喉さえ、すぐに悦楽に墜ちる。女の芯が耐えるはずもない。ゆるゆると出力が上がって乳首やアナルの刺激も増して、もはや、死人に鞭打つが如く。
「頑張って、青子」
 掛けて貰う声に応えられない自分が不甲斐なくて、青子は哀しくなる。ただ、しっかり舌を使ってせめての奉仕に努めた。頭を掴まれ、喉を突かれる。吐き気がする、咳が出そう、その反応も刺激になるから悪くはない。
 不意に背中に爪を立てられて、それが次の引き金になる。無慈悲な性具に責め立てられて、青子は陥落する。こんな玩具で逝かされるのは、厭。でも逃げ道がない。快楽に喉で奉仕するのもやっぱり厭。でも逃げることは許されない。
 厭だ厭だって、思いながら。
 気持ち良くて、どうしようもなかった。
 殺す、殺す、殺す殺す殺す殺す殺すっ!
 それだけを念じて、だけどそのまま、青子は絶頂に達した。
 しかし、何度逝ったところで法悦の責め苦は終わりではなく、青子の意識が暗転する間際にやっと男は吐精した。
 それまでに、口には数人ぶんは注がれていた。

 

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