Half a Blue, Half
a Shadow
Catalina
◇
「口をお留守にさえしなければ、見逃してあげたんだけどね」
「はい……ごめんなさい……」
奉仕を忘れて自慰に耽ったことの赦しを乞う。地面を舐めるように土下座して、頭を踏みつけられて鼻を潰しそうになり、額を着けて耐える。こんな痛みなんて、何ほどのものでもない。
「基本からやり直す? 青子」
青子、と呼ばれている。
ああ、渾名で呼んで貰えない。こんな不甲斐ないことだから。
「はい、お願いします。是非おみ足を味合わせて頂きたく」
「よし、ラストチャンスだと思ってね」
「はい、ありがとうございます」
頭から下ろされた靴に口付け、丁寧に靴下共々脱いで素足になってもらう。地面に付かないように両手で支えて、つま先に口を付けさせていだだく。
指の間に舌を這わせて吸いながら、これを味わうのは久し振りだと気付く。この儀式は、座れなくなるほど尻を鞭打たれながら覚えたのだ。最初は本当に厭だったな、と青子は思う。相手次第とはいえ、男性器を口で愛撫することなら嫌いではなかった。でも、足を舐めるなんて死ぬほど屈辱だった。別に、今では好きになったのでもなく、屈折した楽しみは見出したけど、屈辱に違いは無い。でもやっぱり、これをしていないと自分のあるべき姿を忘れてしまうみたいだ。今度から、省略しないようにお願いしよう、いつか殺す男のにおいを忘れないように。ああ、この匂いは嫌いじゃない。
ちろちろと、青子は男の足指をしゃぶり続ける。期間はもちろん、満足してもらえるまで、だ。一本ずつ順番に吸い、舐めて、親指から小指まで移っていき、戻ってくる。更に一往復。腰掛けてらっしゃる場合だと、この次は足裏に移るようにご指示下さるのだけど。
「青子、お尻を上げて」
今日は、違うことを命じられた。青子が膝を伸ばして従うと、尻尾みたいにぶら下がったアナルビーズが揺れる。
「良く馴染んでいるね」
くぷ、くぷ、と二粒ほど引き出され、甘い感触に力の抜ける膝に気を向ける。口の中で足指が動いて、また疎かになりかかっているのを注意された。慌てて、舌を使う。
「一度、全部入れるよ?」
手ずから、ゆっくりと押し込んでもらえる。いつもは自分で入れるのだ、滅多に無い厚遇。全部受け入れるのは、実はかなりキツイのだけど、精いっぱい頑張る。
お尻の経験なんて、無かった。恥ずかしくて、痛くて……でも、自分の指だけで逝けるようになるまでアナルも蕩かされてしまった。指も舌もローターもアナルバイブも経験した。もちろん、こちらで交わることも教わった。慣れるにつけ痛みは緩くなって、だんだん良くなって、それが羞恥を弥増している。痛いのは辛いけど、恥ずかしくは無い。一番恥ずかしいのは、つまり気持ち良いのは、ちっちゃめで強いローター。正座して、平静を装いながら、アレで逝くのが大好き。電車の座席もイイ。
「はぁ……う……」
「ふふ、頑張ったね。じゃ、抜くのは任せるよ。終わったら青子の大好きなものを代わりに入れてあげるから、もう一頑張り」
男が紐の先を持っているから、青子が尻を動かして自分で抜け、ということ。
「はい」
でも、単に動いただけじゃ、男が追ってくるから抜けない。不規則に、大胆にお尻を振らないと、一粒も出せやしない。元々、この遊びは青子の大の苦手だった。恥ずかしくて恥ずかしくて、なかなか大きくはヒップを振れなかった。やっと上手く行っても、今度は押し出す快感に動きを止めてしまって数を稼げない。トロいって、何度もお尻を叩かれた。
だいぶん、いやらしいダンスは上手くなった。ブーツの上だけでもスラリと長い脚の上の、良く熟れた丸い大きな水蜜桃は、ゆらゆらと男を誘う。きゅっきゅっ、と左右にリズム良く揺らす。不意の動きを利用するには、緩やかな踊りも見せなきゃならない。大きく上下に揺する。アナルの快美感に駆り立てられて、激しくなる。丸を書いたり、バツを書いたり、そうやって男の裏をかくゲームだ。没頭できれば、しばし恥じらいは忘れられる。そんなタイミングに限って、誰かの好奇の声を聞いた気がして目を覚まされるけれど。
そうやって、くぷん、くぷん、と珠が抜けるたび、快楽にぐずぐずと何か崩れていく。余計な思考が溶け出していく。男の与えてくれる快楽に隷属する牝と、そんな自分を恥じ、口惜しくて口惜しくて、だけどやっぱり快楽に負けていく女である自分とだけが、純化していく。殺す殺す殺すって呪いが研ぎ澄まされながら。
久々にカメラの音を聞いて、知らず、青子は動きを激しくする。こんな姿を撮られるなんて、消え入りたいばかりの恥辱。撮られている知って、興奮する。殺してやるって、念じる。でも気持ち良くて、腰の動くのが止まらない。
だから、誰がカメラを持っているのかなんて、頭に浮かばなかった。
くにゅっ、と最後の粒が抜ける。
やっと、終わった――――
はあぁ、と桃色の溜息を吐きながら、残響を惜しむ。厭なのに厭なのに。終わってしまうと、残念に思う。一息に引き抜かれるのと違って、これだけじゃ逝ったりは出来ないし。お尻を貫いて欲しい。
「青子?」
余韻に浸っていると、呼び戻された。
「はい」
「今、青子は何をしていたんだったかな?」
え?
アナルビーズを……。
そう思って、間違いに気付いた。
また、快楽と羞恥のダンスに酔い痴れて、口が留守になっていた。
大慌てで爪先を口に含もうとして、蹴られる。
「だめだな、青子は。好きなことばっかり楽しんで」
「ごめんなさいっ! ごめんなさい……ごめんなさい……」
土下座して謝って、同じ儀式をする。もちろん今度は、アナルビーズは自分で入れた。
猥らな腰振りダンスを再演し、どうにか今度は、最後までご奉仕を忘れずに居られた。
「よし、これは合格。でも、さっきのがラストチャンスって言ったよね? 青子は我慢するってことの躾をやり直さないといけないみたいだね」
「はい……お願いします」
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©Catalina