Half a Blue, Half a Shadow

Catalina


 一番大事なのは服従することだと、男は嘯いた。
 青子がどう思っているかは関係が無い。どう感じているかも関係が無い。
 鞭打ちが酷く痛いことも、融けた蝋が酷く熱いことも、もちろん知っている。青子がただ苦しんでいようと、痛い熱いと思いながらも楽しんでいようと、それはどちらでも良い。
 羞恥心とプライドは忘れないように。それが女を美しくするのだから。青子には死んだ方がましだってぐらい恥ずかしい思いをさせ、屈辱を舐めて貰うことになるだろうけど、それをただ辛いと思うのも、楽しむのも、青子に好きにすれば良い。
 嫌なことばかりではない方が幸福だろうとは思うけれど、ね。

 そして今夜も、死にたいような恥辱のステージに上げられた。こんなショウを見に来る客が何者なのか、青子の登場には歓声が上がった。
 脚を開いて高く上げたおかしな格好に拘束されて、苦しくはないけど全身が無防備に晒されている。小さな無数のカメラが青子の裸体を隅々まで余さず写し出し、巨大なスクリーンに分割表示していた。とりわけ恥部に重点が置かれている。女として、そこだけは隠しておきたいようなような部分、それこそが存分に映し出されている。
 青子は、目に掛けられたディスプレイヴァイザーでスクリーンの映像だけを見せられていた。状況は捉えにくく、どれほどあられもない姿にされているかだけ、見せつけられる。
「ほら、まずは見られるのが大好きなアオアオを視姦して感じさせちゃおー」
 大勢に見られていると思うと、もう殺して欲しい。
 殺してやるっ。
「アオアオの魅力的なところ、なんと言ってもまずはお顔かな? 美人だよねー。 いきなりマニアックに鎖骨とか、腋の下とかも色っぽいな。うん、この綺麗な腋の窪みは擽られたがってるね」
 一カ所ずつ、クローズアップされる。そのたびに、触れられたみたいに思う。
「良いねえ、この大きいおっぱい。ほらほら、先っぽがツンって生意気だから、可愛がってあげないとね……」
 胸の双峰、その頂の尖塔それぞれ。お臍、爪先、膝、首。
「すっごいヤリマンのくせにこんなにココが綺麗なのって、魔法みたいだね」
 くつろげられた性器、お尻の窄まり、耳、背中。長々と見られて、一々紹介されて、視線に擽り回される気がして、次第に高揚してくる。やがて、濡らしていることを指摘される。
「ほーら、見られる快感に潤んできたね。さあ、こんな露出狂のアオアオの弱いトコロを調べて行こう……」
 まともに聞かず目を閉じていた青子は、不意打ちを喰う羽目になった。
「んっ」
 耳に、淡い刺激受けただけ。くすぐったく、柔らかな感触。
 毛の長い筆が、青子の耳を擽り始めたのだった。
 駄目……。
 それはだけは……堪忍、して……。
 叶わないと分かっているけど、願う。味を覚えてしまった青子は、これには本当に、弱い。筆の感触を思い出しただけで濡らしてしまうほど。沢山一度に使われるイメージは、一番あっさり逝ける、だから惜しくてあまり使わない、自慰のときの妄想のネタ。メイクしないときでもチークブラシは持ち歩いている。そんなに気持ち良いのに赦して欲しいのは、やっぱり、恥ずかしいから。筆なんかで体を弄られて、身も世も無くよがり狂って逝くのが悔しいから。結局それも快楽の内だと知っているけど、衆人環視下だなんて、あまりに無惨だ。
 体のあちこちに、柔らかな責め具が迫ってくる。
 拘束を解こうとして悶えずには居られない。
「じっとして、ね?」
「は、はい……んんっ!」
「ふふ、耳は感度抜群、と」
 耳の後ろを刷き、首筋に至る。鎖骨を撫でて胸の谷間へ。一々、反応の程度をコメントされる。
 そのくせ、すぐに責めのポイントが増える。まずは、反対側の耳。鎖骨。背筋。
「ふっ、はっ、ふぁ……」
 足の裏。つま先。足指の間を一つずつ……。
「ふんふん、小指の方ほど駄目、と。ああ、イイんだね」
「ひぁっ、はふっ、ぅ……」
 土踏まずなど撫でられても、心が付いて行かずですぐには笑い声も上がらない。
 ヴァイザーに、いきなりグラフが出て、乳首とかアナルとかがカウントされている。
 何よ、これ?
「さあ、みなさん投票投票! 次は何処をどうしようか?」
 馬鹿みたい。
 ……でも、これ……。
 肘、二の腕の内側。腋の下に迫ってくる。触れるか触れないかの絶妙の動き。ふくらはぎ、膝の裏。初めは移動して行くのがメインだったのに、次々と攻撃点が増えていく。どう考えても一人で出来る責めではない。でも青子に考える余裕は無い。何人掛りの責めだか知る由も無い。
 鋭くなった感覚神経に直接触れられるかのよう。でもそれは痛みではなく、柔らかな筆のくすぐったくムズ痒い、素直に言えば気持ちの良い感触。
 投票の結果は……“腋−たっぷり”。
「よし、腋の下、行くよ? 好きでしょ、ここ」
「ふはぅ、は、はいっぃ、い……」
 するり。両の腋の一緒に撫でられて、必死で腕を下ろそうとしても無駄な努力。色を塗るみたいに、腋の窪みを筆先が刷く。ここも、青子の鋭敏過ぎる性感帯だ。くすぐったいのとオーバーラップする甘美な筆使い。全身、もう粟立っているのだけど更に増す。痙攣したみたいに震えていて、逃げたいのに指一本まともに動かない。
 くすぐったくて、でも筆の動きに肌が蕩ける。
「くふっ、はふふ……ぅくっ……」
 太腿を内と外とから挟んで登ってくる。腰骨を擽って、脇腹を上下する。残像を残すみたいに数が増していく。
「あっ……ふぁう、ひゃんんっ」
 擽りの拷問なのに、同時に官能の拷問でもあって。全部、感覚神経になったみたいに、鮮烈過ぎる快感の対価に体が不随意。これでもまだ、特に好きなトコロにはシテ貰っていない。
 怖い。期待。
 “お尻−焦らし”。
 背筋に沿って降りて行く筆が、腰を通り過ぎる。そのまま、お尻の谷間に進んでいく。きゅ、と力が篭って肛門を窄めてしまう。
 “胸−焦らし”。
 ふくよかな胸の山を、周囲から刷いて行く幾本もの柔らかな凶器。ナイフで切り裂かれる方が、いくらか耐え易いと思う。一寸刻みに乳肌を犯される。五分試しに脳天まで冒される。でも、頂上には至らなくて、焦れったい。アンケートのまま、聴衆の望みのまま。
「ひふっ、かふぅ……」
 平らなお腹に縦に窪んだ愛らしい臍も、ターゲットにされる。肉の薄いところだから、体の芯まで悪戯されるみたい。内腿からなぞり上げて、膣と尻穴とへの岐路のあたりで数本も蠢いている。サワサワと責めていたはずなのに、もう青子の液に塗れてクチュクチュ言っている。腰骨から降りて、パンティラインは既に攻略されている。決められたスイッチを押すように体を突付かれて、力が抜けて、尻の谷への侵攻を許す羽目になる。
 息が続くのが不思議。初めは、数本の責めでさえ暴れた。ギチギチの緊縛で一晩中責め続けられて、死ぬような思いをしたものだった。さっき言われたような性感帯の調査なんて、とっくに済まされているのだ。
「ふーっ、はーっ、ふー……」
 いきなり尻を更に広げられ、上から、尾骨を越えて擽ってくる。そのアナルの僅かに上の位置が、やたらに感じた。
「うーん、気持ちよさそうだね、焦らしになってないかな?」
 途端に、“焦らし”のカウントが増える。
 “ヴァギナ−焦らし”。
「焦らすの、嫌ぁっ!」
 堪らず、叫ぶ。
 でも、目こぼしは無い。愛液の滝の中に突っ込んで、何本も筆が待機する。僅かでも腰を動かして少しでも刺激を得ようとするけど、果たせない。
 渦を描いて筆が乳房を登る。先端に欲情を掃き集められる気がする。どんどん敏感になって行く。
 “乳首−焦らし”。
「お願い、止めて……っ」
 焦れったい。到達を恐れながら、それに倍して期待している。紐に括られた錘を揺らされると、しこり切った乳首が千切れそうで、だけど焦燥感よりはまし。やがて細い筆が乳輪だけ擽り出す。尖りきった乳頭を避けていたぶる筆先に、見入る。解れた毛が間違って乳頭を掠め、それが電撃のように痺れる。
 局部の掻痒感に悶えながら、首とか耳とか足裏とか腋とか鎖骨とか、そんなところも総毛立つほどおぞましくて快感。
 もう、私……狂いそう……。
「いじわるっ、おねがいっ」
 無意識に叫んでしまい、
「辛抱が足りないな、アオアオ」
 逆に、刺激が止んだ。見れば、どの筆もこの筆も半センチばかり離れてなぞる仕草。もしアレが一斉に触れてきたら。思うだけで、くすぐったくて気が遠くなる。こんこんと愛液が湧いてくる。
 ああ……。
 もどかしさが、体中を蟻に這いまわられているみたいにおぞましい。
「もうちょっと我慢!」
 “全部−焦らし”。
「そ、そんなぁ」
 動きが変わって波打つようになるけど、やっぱり触れてこず。
 見るとくすぐったいから目を閉じたら、こんどは想像してくすぐったくなる。だからって、見たらまた……。
「くふふふふふ……」
 息が苦しい。
 怖いのに、迫ってくるのを期待していて、でも見ていられなくて、目を瞑ったら分からなくて厭。
 “乳首−ちょっぴり”。
 見ていたのに気付かず、不意打ちで乳首を撫でられた。
「ひっ」
 ひと撫でだけ。数呼吸の後、また一度だけ。その次は反対側。ちょいちょいと撫でられる度に、楽器みたいに青子は鳴く。たった二箇所なのに、全身に波及するみたい。こしょこしょこしょ、と続けられたら今度は声も出せない。筆が乳首を離れると、思わず追って胸を突き出してしまう。そんな仕草も逃さず映し出されている。
「ホントに筆が大好きだね、アオアオ」
 苦手なのに。
 こんなに善がり狂っていながら、否定は出来ない。女の肌は、味を覚えている。
 “お尻−たっぷり”。
「良し」
 言うが早いか、突かれた。
「ほら、アオアオのお尻の穴の皺は幾つあるのかな?」
 本当に、尻穴の皺の一つ一つ数えるように細い毛先が潜り込む。もぞもぞってされると逃げたいところを耐えなきゃならないのに、筆を退かれるとお尻を突き出して行かないでって懇願する。僅かな自由でお尻を振る様子もまた、逃すことなく映像になる。何か、三十八とか四〇とか表示されている。
「その調子じゃ、前が大変だよ? ああ、アオアオはアナルの方が好きだったかな?」
「いえ、どちらも好きです……」
「そうらしい、おしっこ漏らしたわけでも無いのに」
 それぐらい、濡らしている。
 ぬるん、と下から谷間を撫でられて、逝きそうになる。もちろん本当に逝かせてはもらえない。間を空けてもう一度。もう一度。またもう一度。甚振られて息絶え絶え。自分でも、食い入るように見てしまう。ラビアのピアスが蜜に濡れていた。
 そっちじゃなくて……。
 動かして欲しい。擽って欲しい。
「クリトリスは最後のお楽しみに取っておこうね」
 これを合図に、全身責めが再開。今確かめた、とっておきの部分は全部除いて。それだけでも逝きそうだけど、加減されている。青子は、火炙りにでも掛けられた思いだった。気持ち良い、でも掻痒。死にそうに気持ちが良い、だけど焦燥。恥ずかしいところ全部見られて、よがり狂っている。
「アオアオ、逝きたいの?」
 言葉が出せなくて、がくがくと頷く。
「困ったなあ、これは我慢の躾じゃなかったかな?」
 そうだけど。それは分かっているけど。
 “乳首−ちょっぴり”。
 ちょいちょい、と乳首を擽られた。一瞬の甘い閃光、さっきの快感を思い出す。
「逝かせて欲しい?」
「いえ、あの、はふんっ……」
 耐えられない、返事にならない。
 逝きたい。逝きたい。逝きたい逝きたい逝きたい逝きたい逝きたい! それが駄目なら、いっそ、殺して……。
 殺すっ!
 “お尻−ちょっぴり”。
 もう、ちょっぴりも厭ぁ……。
 ぬちゅ、とアナルを突付かれる。脳天まで走る快感、でもすぐに退く。
 駄目、もっと……もっと、もっともっともっとっ!
「いきたい、ですっ……おゆる、し、をっ……」
 “ヴァギナ−ちょっぴり”。
 アンケートは無慈悲。ぬる、とラビアを撫でる。もの足りない。そこじゃなくて、そこだけじゃなくてっ!
「アオアオはえっちだなあ」
「……はい、私はえっちです」
「アオアオの体中の弱いところ、みんな知られちゃったね?」
「はい、嬉しい、です」
「逝きたいんだ、こんなみんなに見られながら」
「はい、見られながら逝きたいですっ」
 何を言っているのかなんて分かっていなかった。
「よし、良いよ」
 途端に、いっぺんに乳首を刷かれ肛門をノックされヴァギナの左右の唇に愛液を塗りたくられクリトリスを剥き出しにして繊細な毛になぞり上げられ、叫び背を反らせ息が出来ず脳髄まで閃光に貫かれた。触覚と視覚の協奏で快感が増す。
 一つ一つが十分に青子を絶頂に導けただろう感覚。でも一度に全部浴びては限度を越えて、オーガズムと変わらぬ高みの中、でも過飽和で逝けなくて焦れる。背筋で暴れまわる官能、指先まで走る痺れ、熱。乳首を包んでみっしり隙間無く愛撫し、ヴァギナを筆先が引っ掻き回し、クリトリスを転がされ、くちゅくちゅとアナルを筆に舐められ。
 その耐え難き生殺しの地獄で、細い筆先が尿道口に潜り込んで責め始める。
「ぅんう、ふぁふっ、はぅ、ひああああーっ!」
 その偏執的な快感がロック解除だったみたいに、くすぐり責めの快美感が全身で調和して、魂の抜けるようなクライマックス。悦楽がオーバーロード、口が閉じられず涎が零れ、涙が漏れる。脳神経が焼ききれそう。長い長い絶頂の飛翔。それでもまだ筆を操る手は休まない。
 尿道など責められたせいか酷く尿意が湧く。やがて絶頂が過ぎても全身筆責めの手は休まず、もうひたすらくすぐったくて、笑い死にしそう。押さえ込まれて動けず、そこでまた尿道を刺激されて。
 失禁、なんて文字が見えたから、意図したままの結果だったのだろう。
 耐え切れる刺激ではなかった。青子は、生暖かい尿を迸らせた。撒き散らしながらも、まだ筆を使われて、放尿する開放感と性感とを織り合わされた。湯気を上げながら、続けざまに達していた。何度逝ったかなんて分からない。白目を剥くようにして笑い続けるまで、逝きっぱなしだったのかも知れない。

「アオアオ、人前でとんだ粗相をしたね」
 強烈な絶頂の後まだ覚醒しきらない青子に、揶揄の声が掛かる。
「お詫びするべきだとは思わないかな?」
 仕向けたくせに……。
「漏らすまで擽るの、止めなかったんでしょうっ……」
 恥辱の磔刑からは解放され、ぐったりした体を土下座の姿勢に運びながら、口にせずには居られなかった。
「とんでもない、違うよ、それは」
 そんな言葉の後、ここで刃向かうべきじゃなかったと悔いる青子は、いきなり頭から生暖かいものを浴びせられた。髪に染み込み、顔を伝って口元まで流れてくる。
「漏らしたって止める気は無かったわけでね」
 地に伏せて頭から小便を掛けられる姿が、ヴァイザーでも見て取れた。アンモニアっぽい臭いに咽せながら、青子は目を閉じる。
「さあ、皆さんにお詫びしよう。どうするのが良いと思う?」
 何を求めているのか、察した。今のは多分、男が掛けたのだ。それで、皆さんにと言うのだから。
 そんなのって……。
 殺すっ!
 呪いながらも、まだ雫の付いた唇を開いた。
「皆様、掛けて下さい……」
「良し、潔いのは良いことだ。それに免じて、顔は上げて良いよ」
 上げたくなかったけど、従う。小便に濡れて正座する自分の姿がヴァイザーに見える。
 凍り付く思いの数秒の後、顔面に、胸に、背中に、幾筋も温い流れを受ける。長く豊かな髪が、生ぬるい迸りに浸っていく。
 息を止めていたら、更に命じられる。
「さっきの口答えのお仕置き。口を開けて」
 俯いて開けたら、もちろん上を向かされて。そこを狙う客が居るのは当たり前。吐かせて貰えるなんて思えないから、自分から喉へやった。
 目は閉じていたけど、今夜も涙は零れた。
「さあ、他の液を掛けて頂いても結構ですよ? ただ、お触りにはならぬように」
 自分の嬌声が聞こえたと思ったら、ヴァイザーにも、青子の急所の全てを擽るような先程の責めと、それを受けて狂う姿が再演された。客達と同じぐらいには青子も興奮してしまう。あんなに激しく逝ったばかりなのに、体が疼く。
 小便の臭いが分からなくなるほど他の液を掛けられながら、ただ、呪っていた。
 殺す、殺す、殺す、殺すっ、機が熟したら殺してやるっ。
 誰も禁を破らず指一本触れられることがなかったのは、尿まみれの上に、好んで標的にされた顔と胸が白濁した粘液で覆われるほどになって行ったからだろう。

 

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