Mermaid Smiled

秋月 修二 様


◆4

 プールサイドにもたれかかって、腕を僕に回して、藤乃ちゃんはじっと行為を待っていた。僕もあまり焦らしたりは出来ないでいた。慌てるなと自分に言い聞かせつつも、結局何かに急いでしまう。
「じゃあ……」
「……はい」
 頷くのを見届けてから、ショーツに手をかける。膝の所まで下ろすと、白い布は揺れながら足首へと下りていく。白は、どこかからかうような調子で沈んでいった。
 藤乃ちゃんを覆うワンピースは、かろうじて腕に引っ掛かっている。豊かな乳房は外気に晒され、色付いた突起がつんとこちらを向いている。乳房の青白い静脈は、もっとはっきりと解るようになっている。
 だらしなく垂れ下がった黒い布は、お腹の辺りを頼りなく包んでいた。
 呆、としてその姿を眺めた。
 水で出来た被膜が、ライトアップを手伝っている。潤いを目で感じている。
「あの、どうかしました?」
「いや……綺麗だな、って思ってた」
 誤魔化すことは苦手だ。色々なことを、ちゃんと口にしなければならない。これは今回学んだこと。
 恥ずかしかったのか、藤乃ちゃんは何か言おうと唇を開いたり閉じたりする。結局、何も言えずに黙り込んでしまった。そんな姿に笑みが零れる。
「ん――」
 不意に、くぐもった吐息が届いた。藤乃ちゃんは腕をするりと下ろすと、僕のジーンズを軽く撫でる。さっきから興奮しっぱなしで、陰茎は硬く張り詰めていた。
「……ずっと、当たってましたよ」
「そうだろうね。でも、こればっかりは」
 自分ではどうにも出来ない。恋人が愛しくて、勃起してしまうのは浅ましいことではないはずだ。何せ、直接肌に触れ合いながら、愛し合っているのだから。
「わたしで、興奮するんですか?」
「そりゃあするよ。藤乃ちゃんじゃなきゃ、こんなにならない」
 言い切る。不安も疑問も残さない。安寧を紡いでいく。
 狂おしいほどに、奥に熱が溜まっている。こんなに火照っている、藤乃ちゃんを想っていると、ちゃんと教えたかった。
 ベルトを外し、ジーンズを下ろす。藤乃ちゃんの手を取る。そうして、滾っている部分に導いた。限界近くまで屹立しているそれは、水の中だとより滑稽に見えなくもない。
 青く透ける繊手が、恐る恐る陰茎を握った。幹に張り出した血管を、指が何度かなぞる。下腹から悪寒じみた熱が、体内に広がっていく。
「っく、そのまま、続けて……っ」
 体が大人しくなってくれない。快楽に腰が引けそうになる。反面、ずっと触れていてほしいと、前に突き出したくもなる。矛盾した感情に、我慢が振り切れそうになる。
「熱い……です。ここだけ、こんなに……」
 恍惚とした表情、呆けた声。藤乃ちゃんが、僕の正気を打ち崩していく。ともすれば、体の力を抜いてしまいそうになる。
 けれど、ここで達するなんて勿体無い。そんなことは出来ない。
 やられてばかりではいられないなら、こっちからもお返しが必要だ。
「……っ、触る、よ」
 歯を食い縛って、大きく息を抜く。まだ、まだと言い聞かせながら。
 布がたなびく所為で、時折覗く陰部に手を入れる。今度は脚を閉じられたりはしなかった。指の節に陰毛が当たっているな、とぼんやり思いながら、割れ目に指を宛がった。
「あっ!」
 ぬるりとした感触に、指が止まらず滑っていった。媚肉が擦れて、かすかにひくついた。柔らかい肉が、指を横合いから咥えている。
 秘所に刺激を受けて、藤乃ちゃんが陰茎にぐっと力を込めた。爪が軽く根元を引っ掻いた。赤い筋を刻まれても、快楽の波は一向に収まらない。痛みで冴えた意識が、より激しく彼女を感じさせる。
 飲まれていく。官能していく。
 水とは違った、粘液の手触りを何度も味わう。指を折り曲げて、入り口近くの襞を突付く。陰茎を握ったまま、藤乃ちゃんは身を跳ねさせた。痛めないように力を抜こうと配慮しているようだが、自分で自分がままならないらしい。
 とうとう、藤乃ちゃんは陰茎から手を離し、僕の腰に縋りついた。
「せんぱ、痛くしちゃ……あぅん!」
「気にしないでいいから……」
 余裕が無いのはこちらも同じ。だから、平等のままでいい。
 また陰茎に手がかかる。握るとまでは行かず、優しく包まれている状態。けれど、僕が覚束無い手で割れ目を責めると、必死で答えようとして、藤乃ちゃんは腕を小さく上下させた。指先が睾丸に触れる、手首が亀頭の辺りを叩く。思わず僕も彼女に爪を立てそうになって、堪えるのに難儀した。
 強張った陰茎が、びくびくと快楽を訴えている。ぬかるんだ陰裂が、ひくひくと快楽を欲しがっている。
 まだ、まだ。
 昂ぶり過ぎた僕は、このままだと達してしいまう。敏感すぎる藤乃ちゃんも、このままだと達してしまう。
 それも悪くは無い。だが、味わうには足りない。
 達するのなら、藤乃ちゃんの中がいい。そうでなければ、嫌だ。
 これだけの水に囲まれているにも関わらず、僕は目が乾いたみたいに、目を二度しばたいた。そうだ、目だけじゃない、僕はきっと乾いている。
「藤乃ちゃん、そろそろ……」
 そして知っている。潤いは藤乃ちゃんの中にある。そこまで行かないと、欲しいものは手に入らない。
 藤乃ちゃんは紅潮した顔で、一度だけ頷いた。俯き加減のまま、視線だけは僕から決して外さない。
「……先輩の、好きなようにしてください。いっぱい、触ってください。いっぱい、痛くしてください」
 ――感じたいから。
 ――解りたいから。
 僕は藤乃ちゃんを正面に見据えて、首肯した。彼女に応えないといけない。
「うん。約束する」
 二人で泳ごう。冷えた体が熱くなるまで、全身がずぶ濡れになるまで。それはとても気持ちが良いはずだ。
 僕は藤乃ちゃんのお尻を掴んで、体を持ち上げた。水の手助けもあって、その身は随分と軽い。そして自分を支えるべく、彼女の腕が僕の首に、脚が腰に絡みつく。
「……行くよ」
「はい……来てください」
 反り返った陰茎が、藤乃ちゃんの恥毛に触れている。くっつきかけている下腹と下腹、それだけで迫り上げてくる欲望。鈴口を濡れそぼった割れ目に押し当てると、くち、という幻聴を聞いた気がした。
 深く息を吸い込んで、根元まで一気に突き入れた。
「ッ……あぁ!」
「くぅっ」
 ぐっと腰を進めると、すぐさま藤乃ちゃんの奥に行き着いた。肉棒は、ぬめった膣壁に締め付けられる。先端は子宮と擦れ合う。快感に全身が痺れそうになった。内側を貫いたままで、ゆっくり息を抜いていく。
 奥にぶつかった瞬間、藤乃ちゃんは大きく仰け反る。僕の目に真っ白な喉が映った。蟻が這ったような、小さな赤みが点々と。
 その彩りは道だ。僕はちょっと前に、そこを下へと辿った。今度は逆に、上に行かなければならない。唇で一つの点を捉えて、まずは顎を目指す。
 挿入しただけで覚束無くなる呼吸を、どうにかしたい。あばらの浮いた軋む肺を、藤乃ちゃんの酸素で湿らせたい。
「ぁ、んっ、むぅ!」
「ふぁ、んむ」
 腰は止めたままでも、蠕動する肉襞からは、絶え間なく快楽が送り込まれてくる。そんな中、ようやくの思いで藤乃ちゃんの唇を捕まえる。空気を求めて喘いでいた唇を、そのまま塞ぐ。
 ぬるい空気が、あっという間に入ってくる。口腔が緩い空気で満たされるのと同時、縋るように舌も潜り込んでくる。それを迎え入れるため、藤乃ちゃんの舌の裏を、僕の舌先でなぞってあげた。
「ンッ、むぅ――っ」
「ふ……ぅ」
 藤乃ちゃんは身悶えをしながら、熱心に僕の中を探る。僕もそれに感化されて、律動を再開する。
 振り落とさないように、まずはゆっくり腰を引かせる。包み込むようにしていたかと思うと、いきなり窮屈になったりする膣道を、存分に味わいながら引き抜いていく。出て行く感じが切ないのか、絡まった足が僕を止めようとした。
 心配はいらない。入り口に雁首が引っ掛かった辺りで、少し速度を上げながら中へと押し入る。さっきより刺激が強かったのか、きつく締め付けてきた。
 背筋が震える。下半身から溶けて、水に流れていきそうになる。愉悦の波に呑まれていく。
「ん、ぷぁ、はぁ……っ」
「あ……んむぁっ!」
 息苦しさに、口を開く。その隙をついて、より深くに侵入される。藤乃ちゃんの舌が、僕の中を犯している。歯の裏側を舐め、常にどこかしらをなぞりながら、奥を漁ろうとする。不意に、酷くくすぐったい所に舌が当たって、僕は息を荒げてしまう。
 切なさと心地良さを綯い交ぜにした瞳が、悪戯なものを孕んだ。次の行動を予感する。
 やはりと言うべきか、藤乃ちゃんの舌は、そのくすぐったい場所を強く擦り始めた。そうされると、四肢がどうしても震えてしまう。何か頼るものが欲しくて、尻肉を掴む手に力が篭ってしまった。張っているのに柔らかい、矛盾した感触が左右に割れる。彼女の柔肉がわななくのがよく解った。
 鼻から漏れた息が、混ざり合って顔を湿らせる。水の匂いと、藤乃ちゃんの匂い。彼女に酔わされて、酷い眩暈がする。
 酔い任せに、抽送を速めていく。下半身を強くぶつけると、上半身も自然と揺らいだ。鼻声の嬌声に、腰を勢い良く叩きつける。頭が痺れて、まともにモノを考えられない。入れる時も、抜く時も、藤乃ちゃんは僕を捕まえて離そうとしない。そして、そうされると気持ち良さが募って、止まれなくなる。
 振り子の運動は段々と激しさを増していく。水面が波打って、周囲に波紋を広げていく。
 白い痴態が上下に跳ねて、歯がぶつかった。衝撃が脳味噌に抜けていくが、そんなこと気にしていられない。むしろ、それすら心地良い。藤乃ちゃんの方も、まるで気にする余裕も無く、行為に熱中している。
 突き上げるたびに、躍る乳房が僕の胸板を掠める。硬くしこった乳首が、心臓の辺りをノックする。敏感な場所が擦れるたびに、藤乃ちゃんは甘ったるい響きを漏らす。乱れようが激しかった。
 舌は口腔の中で、伸ばされたまま硬直している。僕はもっとと催促すべく、歯を前後させて舌をあやす。驚いたように舌がまた動き出し、無我夢中といった様子で僕を責め立てる。
 おかしくなりそうだ。おかしくなっている。
 藤乃ちゃんが、僕の中を懸命に掻き回す。舌先がどんどん僕を蕩つかせていく。ぐちゃぐちゃになっているのは、身なのか心なのか。もう判断なんて出来ない。
 目の前に、上気した藤乃ちゃんの顔がある。青白さが薄れた肢体は色めかしく、真珠から魚へと変わっている。冷たい宝石なんかじゃない、確かに息づいた肉体が、快感に咽んでいる。
 その呼吸は苦しそうに聞こえるのに、その実では悦んでいる。もっと欲しいとばかりに、藤乃ちゃんは自分から腰を押し付けることさえしている。そうして、予想よりも激しい快感に、声を高めていく。
「ん、ぁ! んぅん!」
「ふぅ、んむ、ぁ――」
 ぬかるみに陰茎を宛がう。鈴口で陰裂を割り開いて、そして亀頭全てを飲み込ませ、一気に幹を進ませる。陰毛と陰毛が、摩擦でざらついた感触を寄越す。固い僕の体と、柔らかい藤乃ちゃんの体が、ぶつかるたびに響き合う。気持ち良い、もっとして欲しい、そう響く。
 欲求に拍車がかかる。もっと味わいたいと、余裕の残っている手を懸命に動かす。掴みっぱなしの尻肉を、ぐっと捏ね回した。指が沈み、押し返されてくる。そうすると肉襞が蠢いて、陰茎をきつく咥え込んだ。
 喉が詰まって、息が苦しい。塞がれたままの唇、送り込まれてくる酸素が少なくて、僕は肺を竦ませる。奪うように藤乃ちゃんから呼気を啜って、代わりに持っていかれる。楽になりたくて、心地良いままでいたくて。
 貪る。藤乃ちゃんを。
 冷めていた体、醒めない意識、どんどん火をくべる。丸ごと焼けてしまいそうだ。知ったことか、構ったことじゃない。
 散漫な思考、収束は目の前の藤乃ちゃんへと。
 熱の溜まった膣内に、何度も何度も突き入れる。腰を大きく前後させると、水中から低い、肉のぶつかり合う音が聞こえた。絶頂が間近にあるのか、藤乃ちゃんが踵で背中を蹴ってくる。筋肉が打ち据えられる痛みは、感じさせているという証拠。
 気持ち良い。満たされている。
 教えあっている。僕らが愛し合っているのだと。
 僕らは解っているだろうか?
 僕らは感じているだろうか?
 たった今、こうして繋がっている。寒くなんかない。

 ――ああ、温かい。

 触れ合い、湿った音を立てる舌先。
 擦れ合い、痺れを感じさせる胸。
 しっかりと互いに縋り合う腕。
 ぴったりと嵌まり合う性器。
 これが好きだということなんだ。相手を想うということなんだ。
 快楽に浮かされて霞がかった頭が、結論を逃がさないよう捕まえる。興奮と一体感とが、僕らを高みへと押し上げる。
 散々昂ぶった所為で、いつ達してもおかしくない所までは来ている。ラインを踏み越えて、相手とぶつかるにはあと一押し。
「んっ、んっ! んむぅっ!」
 喘ぎのテンポが小刻みになっていく。子宮の奥を突付くたびに、切迫した韻が紡がれる。溢れ返る愛液が早く早くと駆り立てる。張り詰めた陰茎は限界に手が届きそうで、いつ爆発してもおかしくはない。藤乃ちゃんも、内側のざわめきが慌しくなっていて、もうすぐなのだと知れた。
 目の奥が明滅する感じ。視界の中で、眉を詰めた藤乃ちゃんがぶれながら動いている。焦点が合わないことはもどかしく、綺麗な彼女を明瞭に見詰めていたいと願う。通じ合うこの時には、かすかな濁りすら許せない。
 だったら、止めてしまえばいい。
 僅かに残った酸素を振り絞るようにして、一際強く、深く、藤乃ちゃんを抉った。肉と肉がお互いを官能させる瞬間を、出来る限り噛み締める。同時、膣壁がぎゅっと陰茎を締め上げる。
 あまりに強烈で、逆に麻痺しそうなくらいの快楽が、体内を駆け巡った。
「んっ! あぁ、ダメ、い……ッ!」
「くあ……!」
 藤乃ちゃんの両手足が、離れるまいと僕をきつく抱き締める。僕も彼女を、精一杯抱き締める。陰茎がびくりと痙攣し、勢いのまま跳ね上がろうと暴れる。鈴口を子宮に宛がったまま、僕は溜まりに溜まった欲求を吐き出した。
「あ――中で、たくさ……うぅん!」
 滾ったモノが、最奥に流れていく。痙攣に合わせて、僕の中から熱が出て行く。藤乃ちゃんは四肢をひくつかせて、僕の首に噛み付いた。
「っ、ぁ……はぁっ」
 零れそうなくらいに注ぎ込む。出し切ったかと思った時に、藤乃ちゃんの中が少しだけ収縮した。股間が震えて、もう一度陰茎が小さく跳ねる。
 全部を出し切って、ようやく藤乃ちゃんが体を弛緩させた。見れば、彼女の顔には涎の線が淡く浮かんでいる。僕はそれをキスで拭った。驚いた瞳が僕を迎える。
「あ――」
「気持ち、良かったよ」
 疲れた。全身で、やれることの全てをした、という気がする。だからこそ疲労が心地良い。
「はい、わたしも。気持ち良かったです……」
 そしてうっとりと目を閉じて、藤乃ちゃんが想いを大切に畳む。緩慢に上下する乳房が、安堵を告げている。僕の胸中に穏やかなものが芽生えた。
「……いっぱい感じましたよ、先輩のこと。わたし、大丈夫です。解ります」
 優しく微笑んで、藤乃ちゃんは囁いた。僕は彼女の頭を撫でてあげた。喜色を表すよう、彼女は小さく身震いする。そんな彼女を見て、頬の力が抜けるのが解った。
 本当に幸せな時間を過ごしている。二人の時間を共有している。
 不満は無い。好きだから、愛していると心から笑い合える。
「っ、ふふっ、あははっ」
「はは――」
 自然と、僕らの間に笑い声が上がる。暗闇を壊すような、降り注ぐ光に負けないくらいの、明るい笑い声。
 愛しい。大切で仕方が無い。与えられる愛情は、感情を後から後から湧き立てて、はしゃぎ出してしまいそうなほど。
 さて、だとするならば。
 ――残すは、僕の問題だ。

 

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©秋月 修二