Mermaid Smiled

秋月 修二 様


◆3

 抱き締めて、額に軽く口付けた。整った眉をなぞるように、そのまま唇を横に這わせていく。吸い付くと、プールの水の味がした。角の取れた優しい味だ。
「もう一度」
 今度は僕が誘う。
「何度でも」
 今度は藤乃ちゃんが受ける。
 そうして、またキスをする。深く舌を差し込んで、歯の付け根をくすぐる。溢れてきた唾液を混ぜながら、舌を絡め合った。少しざらついた感覚を味わう最中、唾液のぬめりを擦りつける。
 口腔の中は濡れていて、水気が多い。次第に漏れそうになる唾液を、何度も啜り上げる。
 立っているのがもどかしく、二人で水へと倒れ込んだ。水中で揺らぎながら、心中で頼りながら、口付けを続ける。お互いの酸素を奪うように、ぴったりと唇を合わせる。僅かに流れ込んでくる水を、二人で楽しむ。
 舌で水を叩いて、飛沫を上げる。ささやかな水遊び。周りではくぐもった音がしているのに、口内ではぴちゃぴちゃと言っているのが解った。
 床を蹴り、顔を上げる。
 姿勢は変えない。抱き締めたまま、唇を触れ合わせたまま。
「んむっ……はぁっ」
「ふぁ……」
 水面に出た途端、藤乃ちゃんが僕の頭をちょっと傾けた。僕の中に溜まっていたものが、彼女の方へと流れていく。溜まった水を飲み込もうと、彼女は小さく喉を鳴らした。
「苦しくなかった?」
「いえ。……それよりも、先輩が解ることが嬉しいです」
 笑いながら、ちょんと舌先を出す。それは今も赤みを持ったままで、青い唇から慎ましく覗いている。僕はそれを軽く食んだ。
「藤乃ちゃんの味がする」
「先輩の味もしますよ」
 少しして、悪戯が見つかったみたいに笑い合った。優しい破顔だ。
 僕は藤乃ちゃんの顔に手をかけて、髪の毛を整えた。額を撫でて、揃った前髪を上げる。頬に張り付いた房を、耳の脇に引っ掛ける。濡れて髪型の変わった彼女は、いつもとは趣が違った。こんな彼女もいるのだと知る。
 不思議な気分だ。けれど、それでも藤乃ちゃんは藤乃ちゃんだ。
「どうかしました?」
 気付けば、顔が緩んでいたらしい。穏やかな光を湛えて、藤乃ちゃんが問いかける。僕は髪の毛をそっと梳いて、理由を教える。彼女は今気付いた、とばかりに驚いて見せる。
「……ちょっと、恥ずかしいですね」
「似合ってるよ。いつものも好きだけどね」
 朱の差した肌を見て、僕はもっと色々な言葉をかけるべきだと実感する。ただこれだけで、ここまで藤乃ちゃんは可愛らしくなる。知らない彼女をもっと知りたい、彼女に僕を知ってほしいと思った。
 黒く澄んだ瞳が、僕を見上げている。喜色に、それは細められている。
「先輩……」
「何?」
「もっと――」
 教えて、と音も無く口は動いた。願いはちゃんと重なっている。
 手を頭の後ろに持っていって、首を仰け反らせる。舌先で顎の輪郭を確かめながら、段々と下に移動していく。滑らかな肌は、まるで真珠を思わせる感触だった。艶々としていて、冷たい。けれどこの宝石に素っ気無さは無く、むしろ柔らかさを感じさせた。
 水玉が首を伝って落ちていく。目の前のそれを、僕は舐め取る。ざわつくものがあったのか、藤乃ちゃんはふるりと身を捩らせる。
「そこ、くすぐったいです……」
 それは否定とも肯定とも取れなかった。恐らくは実感なのだろう。僕はちょっと回り道をしようと、その辺りに強く吸い付いた。
「んッ、はあっ」
 赤い斑点が一つ、二つと首筋に残されていく。自分がつけたのだと、意識しながら残していく。
 かすかな喘ぎが心地良い。
 鼻にかかった吐息を覚えながら、また僕は下を目指していく。首から下に辿り着いた。そのまま肩へと移って行く。なだらかな線は、期待を示して震えていた。
「ん……く」
 ブラの人工的な白に噛み付く。手は使わず、か細い肢体を抱き締めながら、歯だけで肩紐をずらした。一緒にワンピースの肩紐もついてくる。
「あ……っ」
 紐を咥えて、離す。水面で紐が仲良く踊っている。ワンピースはだらしなく垂れ下がっていたが、まだ乳房の先端を覆い隠していた。次にすることは決まっている。逆の方も同じようにして、肩紐を二本齧った。
 肩の支えが無くなったので、ブラとワンピースがはだけて落ちる。ちょうど乳房の下辺りに、布が揺れながら溜まった。あんまり抵抗無く衣服が落ちたので、藤乃ちゃんは反射的に胸を押さえた。たわわな乳房は腕で隠されてしまう。それでも、歪められた柔肉はどうしても覗いてしまう。
「あ、あの、先輩……」
「ん……」
 体を見せるということに慣れていないのだろう。まだ、躊躇う気配がある。それは随分と藤乃ちゃんらしい話で、僕はちょっともどかしさを覚える。その頑なさを崩したい。
 鼻を皮膚に押し付けると、かすかに慣れた香りを嗅げた。甘くて優しい匂い。時に僕を落ち着かせ、時におかしくさせる。
 肺を藤乃ちゃんで満たす。より先に向かって、顔を下ろして行く。肩口からすぐの所に、整った指先が並んでいる。よく磨かれた爪は、光を反射してきらめいている。
 それを退けたかったのかと言われれば、多分首を傾げるだろうが、ともあれ僕は指を咥えた。真珠のような舌触りは酷く心地良い。すべすべしていて、舌先が行き過ぎてしまうくらいに。
 と、藤乃ちゃんが指をかすかに動かした。控えめに舌の脇をからかいながら、頬の内側を軽く擦る。口内の悪戯っ子を追いかけて、僕は舌を懸命に蠢かせる。関節に軟体を被せて、唾液を絡めていく。
 ちゅる、ぷちゅ、と湿った音が続く。そう大きい響きではないのに、間近にいると妙に自己主張が強い。そういうことをしているのだ、とよく解りすぎる。だから夢中になってしまう。
 タガが外れてしまったみたいだ。自分に歯止めが効かず、もっと奥を求めている。
「んっ、あ……」
 切なさの篭った吐息に、僕は顔を上げる。藤乃ちゃんは僕をじっと見詰めている。二人の視線が真っ直ぐにぶつかった。そこにある意図は何となく読み取れたが、それでも僕は彼女の想いを直に聞きたかった。
 どうぞ、と瞬きを返す。
「エッチなこと……したいんですか?」
 問いかけはどう捉えるべきなのか、具体的には解らなかった。しかし、どう答えるべきなのかは、とてもよく解っていた。
 元より、誤魔化せる衝動ではない。唾液塗れの指を離して、僕ははっきりと口にする。
「……うん、したい。藤乃ちゃんのこと、もっと知りたいから」
 そう僕が告げた時の藤乃ちゃんを、一体どう表せば良いだろうか。それは色々な感情を伴っていて、中でも一際目立つのは喜びだ。
 そう、ただ――眩しい。
「わたしも同じです。先輩のことを、もっと知りたいです」
 藤乃ちゃんが唾を飲み込む。流れるような自然さで艶を孕む。そうして腕をどけて、僕の頭をしっかりと抱き締めた。
「ん……っ」
「はぁ――」
 顔が両脇から、柔らかな乳房に挟みこまれている。焦点がぼやけて何も見えない。もしかしたら、意識が蕩けているのかもしれない。
 藤乃ちゃんの静かな興奮が伝わってくる。耳元でごうごうと血の巡る音が聞こえた。確かな息吹を感じられた。
 生きている。ここにいる。触れている。
 愛おしい。
 僕は腕を藤乃ちゃんの腰に回した。折れそうなその身を抱き寄せて、谷間に舌を這わせる。頬を包む胸はふっくらとしているのに、谷間の皮膚は薄く、胸骨の感触を容易に捕まえられる。
 リズム良く脈打つ心臓を、大事に守っている殻。大切に心を包み込んでいる。
 脆そうでもあるのに、どこまでも確かで。
「聞こえ、ますか?」
「うん。よく、聞こえるよ」
 丁寧な心音。大きく乱れる訳ではなく、徐々に速度を上げていく。行き先を僕に示すように、鼓動は反響して止まない。
 谷間を舐めていた舌を、脇に逸らしていく。潤った肌は水気だけではなく、ライトを浴びて光沢に濡れている。透けるような白を辿っていくと、すぐさま乳房の根元に行き着いた。そこはやはり柔らかな弾力を持っていて、押してもすぐにまた元の形に戻ったりする。付け根に唾液でマーキングしながら、右も左も同じようになぞっていった。
「はぅ、ん……ふぅっ」
 くすぐったかったのか、藤乃ちゃんは僕の頭を強く抱き込んだ。心臓に押し付けられる錯覚。行き場を求めて迷う腕が、僕の髪の毛を掴んで丸める。
 こうして頭を撫でられて、胸に吸い付いていると、まるで自分が子供に戻ったような気になってしまう。怯えることもなく、藤乃ちゃんに包まれている。
 けれど、羞恥と歓喜を帯びた嬌声は、僕を子供のままではいさせてくれない。何より、一度それを耳にしては、僕がそのままではいられない。
 舌を突き出して乳房に当てたまま、僕は顔をスライドさせていく。目的に気付いたのか、藤乃ちゃんは僕を覆ってしまおうと、手に力を込める。だが、ここで止まっていられるほど、僕は冷静ではない。
「強いかな?」
「っ、はい。いえ、大丈夫です……っ」
 詰まった喉からは、どちらなのかの判断は出来なかった。感覚に振り回されているのだろうか。だとすれば――乱れてほしい。
 舌先はやがて、色付いた突起に行き当たる。乳首の周りも褪めてはいたが、他の場所よりは彩られつつもあった。乳輪を舐めて、体を慣らしてあげる。
「ぁ、やぁっ!」
 宥めるように、後ろに回した手で背中をさする。指通りの良い背筋をつっと走っていくと、藤乃ちゃんは身を痙攣させる。反応はあまりに可愛らしく、こっちの余裕が無くなってくる。
「あぁ、先輩、まだ――ッ!」
 抑止は頭に入って来なかった。僕は衝動に身を任せたまま、硬く尖った乳首に歯を立てた。
「ッ、はぁ……あ!」
 藤乃ちゃんの背筋が弓形になる。引き絞られて感極まり、爪が僕の頭を引っ掻く。掻き毟る強さは、それだけ彼女が感じているということでもあった。僕はその強さが心地良くて、クリアーなまま昂ぶっていると自覚した。
 グミのような歯触りの乳首を、やわやわと刺激する。歯で前後に擦ってやる。時折強く、窪ませてしまうほどに、何度も何度も。
「せん――あふ、うっん! つよ……待って……!」
 待たない。待てない。
 おかしくなったっていい。おかしくなってほしい。
 その甘い官能が、僕を狂わせてしまっている。どれだけ満足させても飽かない、どんなに乱れても、構わないから。
 歯で挟み込んだまま、口を窄めて強く吸う。そのまま、散々に苛めた乳首を思う様にねぶる。
 縋るように、藤乃ちゃんは両腕を首に絡めてくる。顔が乳房に埋まる。柔らかくて、冷たくて、息が出来ない。でも、こうして塞がれたって、ここから離れたいなんて思えない。
 荒い呼吸、自分の中の空気が、乳房で弾けて顔にかかる。お互い必死で感じあっている。羞恥が体温を上げていく。藤乃ちゃんの芯が、段々と疼きを帯びている。ふやけていっている。
 一人で立ってはいられない。だから二人で立っている。
 お互いに寄りかかりながら。
 もう何もかもが藤乃ちゃんで満たされている。光景が、匂いが、味が、感じられる全部で感じている。満足と不足のシーソー。何度快楽を汲み上げても、不思議と足りない。導火線に火は点いているのに、焦げるばかりで爆発になかなか届かない。
 水の中でも、僕らには体温があるのに。
 歯痒くて、僕はより上に藤乃ちゃんを押し上げようとする。文字通り彼女の肢体を貪る。彼女の肌はとても美味しい。彼女の体はとても美味しい。
 肉体は水に浮かんで、意識は熱に浮かされて、没頭したまま乳首をしゃぶる。鼓膜を、途切れ途切れの嬌声が叩いている。
「は――、あぅっ! くぅん!」
 揺れる。自分を保っていられない。背中で遊んでいた手は進む先を変えて、ハリのある尻へと向かう。豊満な肉感を持った、むっちりとした尻肉を手で掴まえた。手を柔肉へと沈ませるように、力任せに握る。手に合わせて尻がたわむのが知れた。
 掌を尻に張り付けて、揉み解す。ショーツでくるまれたままの双丘は、しっとりとしていて質感がいつもと違った。生唾を飲み込んで、指を蠢かせる。締めたり緩めたりを繰り返して、布を割れ目に食い込ませていく。
 ショーツが、青白い尻の割れ目に飲まれている光景を思うと、下半身が持ち上がるような心地になった。愛液でぬかるんでいるであろう秘所は、今布に割られている。
 触れたい。それだけでは足りない。
「あぁっ、もう、早――せん、ぱ――!」
「ん……むっ」
 切迫した悲鳴が聞こえる。甲高いそれは、端的な感情を引っ張り上げる。そんなに感じているのなら、もっと気持ち良くしてやりたい、と。
 僕は悲鳴に合わせるように、濃くなった色に強く歯を立てた。そうして、ショーツの中に手を入れて、薄い布を持ち上げる。乳首と秘所を同時に責められて、藤乃ちゃんが一際体を強張らせる。
 ぎゅっと僕を捕まえたまま、四肢が硬直した。
「あ、ぁんっ!」
 少しして、藤乃ちゃんは肺から快楽を搾り出した。僕に突き立っていた爪が力を失い、優しさを取り戻していく。喉に引っ掛かるような呼吸を、彼女は無理矢理に抑えようとしていた。
 僕は藤乃ちゃんを鎮めるように、けれど決して醒まさないように、背中をゆっくりと撫で擦った。抱き締めていると、彼女が消えてしまいそうな儚さを感じた。逃がさないようにしっかりと繋ぎ止める。
「先輩……あの」
「ん?」
 軽い絶頂の後で、体が思うように動かないのだろう。肩は呼吸に合わせて、大きく上下している。
 僕は膝を伸ばして姿勢を正した。藤乃ちゃんの髪の生え際に口付けて、力を抜いてあげる。こんな時だからではない、いつだって、甘えてくれた方が嬉しい。言いたいことは解ったのだろう、彼女は素直にしなだれかかってきた。
「可愛かったよ。それに、綺麗だった」
「……先輩は、意地悪でした」
 待ってって言ったのに、と小さく聞こえた気がした。
 僕は僅かに苦笑する。そう言われても止められなかっただろうし、何より間違いではなかったと思う。第一、あんな姿を見せられて、止まれるはずなんてない。今言ったことには、何の嘘も無いのだから。
 また藤乃ちゃんと向かい合う。青白いのに紅潮している様は、矛盾しているのに、自然さを感じさせた。
「先輩のこと、また少し解った気がします」
 少し拗ねた調子で、藤乃ちゃんは頭をずらした。こちらの鎖骨に額を当てて、息を吹きかける。背筋にぞくりとしたものが走った。込み上げてくるものがある。
「今度は……」
 喉が渇いているのか、言葉尻が掠れた。藤乃ちゃんがかすかに身じろぎをした。僕はなだらかな背中を見ている。水を掬ってかけると、それは鏡のような光を湛えた。滑らかで澱みが無い。
「今度は、藤乃ちゃんがしてくれないかな」
 ようやくの思いで口火を切る。二人の温度差を消したい。僕も追いつかないといけない。だから藤乃ちゃんに動いてほしい。
 脳裏に並び立てるのは、ひたすらに欲求。俯き加減の藤乃ちゃんが、手を僕の胸元に入り込ませた。
「解り、ました」
 何かに震えながら、藤乃ちゃんが上着のボタンに手をかける。緊張と期待が綯い交ぜになっていた。彼女はいつだって、どこか清楚なモノを残している。強く求めても、求められても、まだどこかこなれない。
「感じます……」
 そう、藤乃ちゃんは今、感じているから。
 慣れないものに、振り回されているから。
 だから僕は、自分に慣れるように手伝ってあげたい。
 二人で――感じ合いたいから。
 ぎこちない手つきで、藤乃ちゃんがボタンを一つ、二つと外していく。上着が取り払われて、水底に沈んでいく。へばり付いたシャツが邪魔そうだった。
 僕は藤乃ちゃんに身を任せている。シャツを脱がせたいのだけれど、どうすれば良いのだろう、そう迷っているのが見て取れた。
「あ、あの」
「腕、上げようか?」
「お願いします……」
 頼もうとして頼みきれない。それくらい、言ってくれたって困らないのに。
 何となくおかしかった。
 腕を上げて、シャツを脱がせてもらう。外気を浴びた素肌が、寒さを訴えていた。だけど、そんなことに構っていられない。
 藤乃ちゃんは、おっかなびっくりといった感じで僕の胸に触れる。濡れたシャツとはまるで違う感触に、心臓が跳ねた。鼓動が高鳴る。望んでしまっている。
 手首を鳩尾の辺りに宛がって、水を拭うように親指が躍る。可憐な指が、僕の薄っぺらな胸を撫で回す。愛撫としては些細なはずなのに、体が震えてしまう。ただそれだけで、気持ちが良かった。
 目を閉じて、藤乃ちゃんが僕の胸板に口付ける。先程のお返しとばかりに、彼女は囀りを響かせた。白黒の小鳥が僕の上で鳴いている。反響と同じ数だけ、キスの雨が降り注いでいる。ひたむきな小鳥は歌うことを止めない。
「ん、く……」
 刺激される度に、鼻から酸素が漏れていく。藤乃ちゃんの頭に隠されて、自分がどうなっているのかは解らない。見えないから、必死になっている彼女が逆に感じられて、酷く興奮する。
 水気でまとまった髪の毛に、指を絡める。僕と藤乃ちゃんを結ぶ糸を、確かに実感する。皮膚にしなやかさを刻みつけて、次第に官能していく。
「ん……んむ、ぁ――」
 舌がちろちろと僕を苛む。控えめにそれは触れているのに、全身が総毛立ってしまう。触れられた場所から、末端まで喜色が抜けていく。
 自分は今、どうにも硬くなってしまっている。そしてそれは、ついさっきの藤乃ちゃんと同じだ。そう気付く。
 これが藤乃ちゃんの感覚だったんだ。
 指と舌で責められて、意識の奥が煮立っていく。沸騰した脳味噌は、僕を黙ったままにさせない。
 水中でたなびいている、ワンピースを持ち上げた。軽く下から扇いでやると、水の動きに合わせて、布はゆらりと捲れ返る。踝から膝、膝から太股と、次第に見える部分が増えていく。両手で裾を捕まえて、ぎりぎりショーツが見えないくらいで止めた。
 布は早くと促すように、手招きをしている。光と影とに縁取られて、その素足は実になまめかしい。密やかに輝く真珠は、手が届く位置にちゃんとある。
 裾を離して、中に潜り込んだ。光沢のある太股に触れると、藤乃ちゃんが一際強く吸い付いてきた。唇を当てたままの時に、敏感な場所の近くを触れられたからだろう。
「ふぅ……っ!」
 胸に縋る手に、力が篭った。額を押し付けるようにして、藤乃ちゃんは耐えている。敏感な肢体は、何かするとすぐに反応を寄越した。
 太股の外側を弾きながら、内側へと進んでいく。半分を過ぎた辺りで、藤乃ちゃんは膝頭を合わせて、脚を閉じてしまう。
「脚、開いて……」
「んっ、ぁ、でも……」
「大丈夫、痛くしないから」
 呟き、頭のてっぺんを舐めた。つむじを舌先で強くにじる。細い髪の毛がまとわりついてきて、藤乃ちゃんの味がした。
 そのまま返事を待っていると、少しして藤乃ちゃんは手を広げて、僕に体重を預けた。一度頭を離して、髪の毛を含んだままの僕にキスをくれる。
「ん、むぁ」
「ぅん、ぁ――む」
 積極的に、舌を絡めてくる。僕もそれに応じて、一緒に唾液と髪の毛を混ぜっ返した。藤乃ちゃんの柔らかい舌は、口腔で懸命に動いた。蕩けるような深さ。
 唇を貪ったままで、藤乃ちゃんは躊躇いがちに脚を開く。僕は導かれるように、開かれたそこに手を滑らせた。すべすべした内腿をなぞりながら、徐々に上へと上っていく。
 間も無く、僕は行き止まりへと辿り着いた。指がそこに触れた途端、藤乃ちゃんがびくりと痙攣する。軽く触れただけのショーツは、水とは違った質感に濡れていた。
「感じてた?」
「ん、はぁっ、ずっと――前から、感じてます……っ」
 焦燥感を織り込んだ声に、僕は何を言っているのかと、僅か自己嫌悪する。払拭すべく、ただ藤乃ちゃんにのめり込もうと決めた。
「……ごめん、考え無しだった」
「気に……しないで、くださ――」
 笑った気配がした。打ち消しの言葉があった。
 唇を塞いだ。塞いで、ただ酸素を送り込んだ。舌は触れ合う程度に、けれど一生懸命にお互いを探るように。
 馬鹿だなあ、そう浮かんだ。どちらがかは、判然としなかった。
 いっそ許さないくらいならば、こんな想いはしなかっただろう。僕の軽率な発言を、藤乃ちゃんは軽く許してしまった。ああ、彼女は優しい、本気でそう思った。
 僕は藤乃ちゃんが好きなのだと、心から再認した。
 精一杯愛したいと願った。だから口付けを。
 想いを有りっ丈込めた、純粋なキスを。
 お互いの血を通わせる、透明なキスを。
 この冷えた体を、芯から熱くさせて。
 火傷してしまうくらい、熱くさせて。
 理由よりも先に、ただ藤乃ちゃんの全てが欲しくて、どうしようもない。
「藤乃ちゃん――好きだよ」
 意識する前に、言葉は口にされていた。ちょっと丸く見開かれた瞳が、僕を見詰めていた。その吃驚した表情が、咲き誇るように、満面の笑みに変わる。
「わたしも、先輩のことが大好きです」
 そしてまた、音高く口付け。唇と唇の温度を交換して、より強い好感へと繋げる。
「藤乃ちゃんのこと、もっと感じたいんだ。だから――僕をもっと感じて欲しい。ダメかな?」
 硬い唾を、無理矢理に飲み下す。解ってはいても、抑えられない。
「いえ。わたしも……先輩が欲しいです」
 返答は欲求とぴたり重なった。二つのラインが一つになる。
 離れない線。波打つ気持ち。揺らめいたまま伸びていく。浮き足立っているのは知っているけれど、それもそのままに、僕らは同時にもう一歩踏み出す。
 相手のより深くへ、踏み込む。

 

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