あやあやあや

秋月 修二 様


「……したい、の……?」
「うん――」
 掠れきった、今にも消えそうな問いだった。それでも、確かに答えが聞けた。
 ああ、言えた。そう思った。
 頷いてくれたことが、望まれたことが、妙に――嬉しかった。
 衛宮の腕が、ぎゅっとあたしを抱きしめる。温かくて、自然と体から力が抜けていく。そのまま衛宮に体を任せる。ゆったりとした世界。柔らかくて、ふわふわした場所。安心感でいっぱいの、腕の中。
 それでも、キスをねだるにはまだ勇気が足りない。代わりに、シャツを軽く引っ張った。
 思い切って目を閉じる。衛宮の顔が見えなくなる。
 心臓がどきどきしている。
 解ってくれるかな、という不安と。
 解ってくれるよね、という期待と。
 色々あるけど、でも、信じてもいる。
 見えなくても、きっと大丈夫だから。
 鼻先で気配を感じている。もう少しだと緊張しかかった時、衛宮は今更のように、
「あ、唇……」
 と呟いた。ようやくリップに気付いたらしい。そのタイミングはあまりに絶妙すぎて、折角閉じていた目を開いてしまった。場違いに納得したような衛宮の顔が飛び込んできて、緊張なんてどこかに行ってしまった。
 手を伸ばす。相手の頬を引っ張って、
「遅いよ馬鹿」
 と文句を言ってやる。そのまま手を滑らせて、首に腕を回した。そのまま自然と唇を近づけて。
「ん――」
「ぁ、んむ……っ」
 唇の感触をしばらく確かめ合う。ちょんと触れるだけのキスから、口の端から端までをくっつけるような、確かなキスに移っていく。余さずお互いを触れ合わせて、吐息だけで唇が潤うくらいに擦り合わせる。
 そして唇を半開きにして、吐息を絡ませあう。ぬるい空気が混じりあって、あたしたちの間から漏れていく。角度を変えて、ここでも触れない部分が無いくらいに相手の感触を味わう。
 やっぱりまだ全然慣れない。点と点がくっつく度に、頭の中が霞む。それでも一生懸命、相手の真似をしてついていく。衛宮はあたしが動きやすいように、頭を支えてくれていた。髪の根元で指先が悪戯しているけれど、それがとても気持ち良い。
 興奮と安堵が混ざり合っていく。キスは不思議。
 そして次のステップへ。唇への感触が変わったと思うと、舌が控えめに歯を叩いてきた。縋る手に力がこもってしまう。おずおずと口を開いて、舌先を受け入れた。ぬるりとしたものが内側に滑り込んできて、くすぐったい。
 舌先に舌先がじゃれついてきた。最初は黙ってそれに任せていたけど、段々一緒に遊びたくなってくる。よく解らなかったから、まずくるりと舌先でつついてみる。応じるみたいに、同じく衛宮が舌をつつく。とんとん、とお互いをノックしていく内に、触れ合う部分がどんどん深くなっていく。
 先端を絡ませあって、裏側を探らせる。口の中に溜まった唾液を、かき回される。首を傾げて、より密着出来るように動いていく。衛宮の味が、喉の奥へと流れ込んでいく。
 内側から衛宮に染められていくみたい。取り込んだ相手の呼吸が、唾液が、そのまま自分のものになっていく感じ。
 少しだけ大胆になる。衛宮の中にも、舌を差し出してみる。こっちで暴れていた舌が引っ込んで、受けに回った。舌先で歯の上をスライドさせると、硬くて少し痛いけれど、何だか嫌らしい気持ちになった。
 歯並びを確かめていると、下から掬い上げられた。くすぐるみたいにつっと表面を撫でてから、ゆっくりとお互いを絡ませあって、一度唇を離す。
「くらくら、する」
 頬が勝手に緩んでしまう。衛宮は俺もと頷いて、あたしを布団の上に寝かせた。汗ばんだ肌にくっついた髪の毛を、指で丁寧に払ってくれる。ただそうされるだけで、嬉しくて、くすくすと笑みが漏れる。
 だらしなく体を緩めている。手足を投げ出して、されるがままになっている。
 頭が蕩けてる。
 キスだけでぼんやりして、もうまともに考えられない。
 衛宮の指先が、首筋の上を這う。そのまま鎖骨に向かっていく。背筋がぞくりとして、シーツを強く握った。シャツの襟元の輪郭通りに、指が肌を舐めていく。1センチ動く度に、体が跳ねてしまう。
 胸元を爪が何度か叩く。低い音が響いて、中を探られてるような感じがした。爪は布の上から動こうとせず、障害物越しの触れ合いに息が詰まる。
 じっと黙っているから解る。衛宮も少し――震えているらしかった。
「……脱がす、よ」
「うん、いいよ……」
 するのは初めてじゃないのに、見られるのはそういえば初めてだった。一気に羞恥心が込み上げる反面、おかしな話だな、と振り返ったりする。
 がっかり、しないかな。
 喜んで、くれるのかな。
 自分の体がどうだろうなんて、あまり考えたことはなかった。今まではその必要が無かったし、そうなるならそうなるまでに覚悟は出来ると思っていた。実際はそんなの大間違いで、物事ってのはこっちにお構いなしでどんどん進んでいく。
 それも悪くないって、知ってしまった。
 今まで知らなかった自分が、衛宮が、そこにいる。
 色んな感情を生のまま飲み込んでいく。衛宮の手が、シャツの端っこにかかる。後は引き上げてしまえば、ブラは見えてしまう。でも、一気にそこまで飛ぼうとはせず、手は妙に覚束なくシャツをずらしていく。
 少しずつあたしが見られていく。心許なさが募る。早く済ませてほしい気持ちと、まだ時間が欲しいという気持ちが、ぶつかり合っている。隠したくなる前に、隠したくないくらいに、
 胸までシャツが上がった。
 布が首元でかたまって苦しかったので、最後は思い切って自分で脱いだ。唾液を飲み込む。衛宮の手が肌にそっと置かれる。お腹を掌で優しく撫でらると、頭に血が巡った。ぎゅっと目を閉じて、恥ずかしさに耐える。
「美綴、綺麗だ」
 疼かされる。
 顔が見れない。お臍を指で掠められて、反射的に膝を立てる。宥めるように、衛宮はゆっくりと脚を押し下げた。頭の方はすっかり動かなくなっていたけれど、軽くさすられて、脚は納得したらしかった。シーツの感触が戻ってくる。
 腰の少し上から、じりじりと上に掌が上ってくる。脇腹はくすぐったくて、身を折ったりする。鳩尾の辺りで大きく深呼吸して、吐き出す前に胸に触られる。
「あっ」
 下着越しに、手が感じられた。あまり力をこめず、ただ宛がわれている。それだけで鳥肌が立った。鼓動が早くなって、どうにかなりそう。
 耐え切れなくなって、目を開く。最初は大人しく、でも確かに、胸に力がこもり始める。
柔らかく揉みしだかれて、途切れ途切れに息を漏らす。
「ん、あ、ふぅっ」
 喘ぎを無理矢理噛み殺す。まだ恥ずかしさは全然消えていない。でも、衛宮は耳元で、
「もっと声が聞きたい」
 なんて言う。
 一瞬で顔に熱が溜まる。押さえつけることは、恥ずかしさも快感も何もかもを飲み込んで、外に出さないようにすることだ。別にしたくてしている訳じゃないけど、でも、抵抗はまだある。
 意地になって歯を食い縛る。急いで持ってきた手で、口を塞いでしまう。すると、衛宮は物足りなさそうな顔を見せた。熱心な瞳でこちらをじっと見つめてから、また手を動かしだす。
「っ、むぅ、ふ――」
 ブラ越しに尖った先端を摘まれて、びくりと体をしならせる。そこで手は止まらず、くりくりと執拗にそこを捻っていく。鼻からどんどん息が漏れていって、酸素が足りなくなる。息が苦しい。
 わざとらしく置かれた指先が、先端の回りに線を描いていく。四角く、丸く、遠回りな軌道で苛めてくる。脚をばたばたさせて抗議した。
「手、離して」
 首を横に振る。すると、今まで胸を揉んでいた手が、脇をくすぐりだす。
「〜〜〜ッ、んん! あぅん!」
 反射的に衛宮を止めてしまう。唇のガードが外れた。狙ったみたいに、下唇を衛宮の唇で挟み込まれる。はむ、と軽く挟んだまま、舌先でちろちろとこちらを濡らしていく。
 手が戻ってきたことに、気付かなかった。
「あ、やぁっ」
 まるでブラを縦に折るみたいに、強く揉まれる。さっきまでとは全然感じ方が違う。弄ぶ手は、荒っぽくて、男らしい。自分と相手を意識させられる。それはちょっと痛いくらいだったけど、口を塞がれていたので何も言えなかった。
 異性。
 同じじゃないってこと。
 そうした自覚を擦り込む形で、胸を何度も捏ねられる。下から持ち上げられて、付け根をマッサージされる。足が攣りそうなくらい、四肢をぐんと伸ばした。
「あ、うう、はあ……」
 小さい波が何度も何度も来て、溺れそうになる。でもまだ、水かさが足りなくもある。いつ飲み込まれるのかと、期待と不安を半々に待っている。
 何をどうすることも浮かばず、掌に掌を重ねた。止めることも促すことも出来ないくらい、力は入っていなかった。体が言うことを聞いてくれない。
 まだ下着も脱いでいないのに、芯はもうとろとろになっていて、自分がエッチなんだと思い知らされる。下半身が、落ち着かない。
 胸を苛めていた手が、ふと休む。唇を食まれたまま、少しだけ首を傾げた。多分、もっと欲しかったからだ。
 衛宮が上気した顔で、あたしに語りかける。
「ええと……美綴、ちょっと体起こしてくれないか?」
 そうは言われても、体はふやけてしまっている。かろうじて腕を伸ばし、引き起こしてもらった。衛宮の肩に頭を乗せて、自分を支える。あの時に戻ったみたいだ。
 初めては、特別で不思議でおかしかった。焦ったり楽しかったりもした。そう思い出す。
 首筋に頬をすりつける。汗をかいた肌が触れ合って、衛宮が微かに身じろぎする。くすぐったいのかな、と思ったら、もっとやりたくなる。
 自制が効かない。
 ただ、甘えたい。
「くっ、ちょっと美綴、ホックが」
「やだ」
 そのまま頬擦りを続ける。笑い声をどうにかやり過ごしながら、衛宮はホックと格闘したり、こっちの背骨をなぞったりしている。
 今、あたしは子供になっているんだろう。
 気取ることは無くて、ただ自分でいる。受け止めたり受け止められたりして、幸せ。
 ホックが外される。巻きつかせていた腕をほどいて、ブラを落とした。それだけのことに、とても苦労した。
「美綴、見せて」
「ん――」
 体はだいぶ晒されてしまっているはずだけど、距離が近すぎるため、多分衛宮には見えていないのだろう。個人的には、触れられるより見られることの方が覚悟がいる。視線は距離を感じさせる。隔たっている気にさせる。
 弱くさせてほしい、依存させてほしいのに、独り立ちしなければならないから。
 肺を膨らませて、最後の最後まで指先で衛宮に触れながら、改めて布団に身を横たえた。止めた呼吸で胸が詰まる。それでも暴れる心臓。
 音を押さえるみたいに、胸を腕で覆う。それでも視線は外さない。衛宮の瞳に、ずっと合わせたまま。見せてと言った上で、胸じゃなくて顔を見ていてくれたことに、何となく好感を覚えた。
「……綺麗だ」
「……そんなの、知らない……」
「オマエが知らなくても、綺麗なものは綺麗だ。だからもっと見たい」
 卑怯な言い種。嬉しくて、従うしかなくなる。腕を外して、胸を自由にした。衛宮が立ち膝で覆い被さってくる。
 今度は何も守るものが無い。肌と肌とが、直接に触れ合う。掌が胸にそっと置かれた。甘く動き出した手に、止めていた呼吸が漏れ出す。
「柔らかくて、すべすべしてる」
「いちいち、言わなく、ても……」
 本当は言ってほしい。衛宮が、あたしをどう思っているのか、全部口にしてほしい。全部体で示してほしい。
 体と心が先を求める。蕩けた頭が衛宮だけを考えている。
 掌の熱さを刻むように、衛宮の手が胸の上を通る。何度も何度も胸を揉まれて、引っ張られたり寄せられたりする。輪郭を爪が走っていって、ぞわりと鳥肌が立つ。それでも先端だけは手付かずのままにされた。
「気持ちいい?」
「――馬鹿、それ、反則……っ!」
 訊かなくたって解っているくせに、酷いマナー違反。衛宮だって唇が微かに笑っているけど、顔は真っ赤だ。自分だっていっぱいいっぱいなのに、こっちにだけ訊くのはずるい。
 反論しようとしたら、衛宮の唇が放って置かれていた先端を捉えた。
「あぅ!」
 少し荒れた唇が、乳首をやわやわとほぐし始める。すっかり硬くなってしまっていたのを、意地悪く甘噛みされる。刺激がびりっと来て、思わず背筋を伸ばす。
 行き場を失った手が、衛宮の頭を捕まえる。でもそれくらいじゃ止めてくれなくて、でも、もっと、止めてほしくない。
 髪の毛をくしゃりと丸めると、衛宮はお返しとばかりに舌先を覗かせた。ぬるぬるした感触が、小刻みに唾液をなすりつけていく。
「ふぁ、うぅん、あぁ」
 声が抑えられない。ぬるぬるは変な感じで、嫌なような気さえするのに、何故だか気持ち良い。奥の方が温かい気持ちになっている。体が疼いて、知らず膝頭をすり合わせた。
 濡れてるって解る。
 自覚が我慢を崩す。捕まえていた頭を、ぎゅっと抱き締めた。髪の毛が皮膚の上を掃いて、堪らないモノが込み上げる。
 衛宮がちゅるちゅると音を立ててあたしを吸い上げていく。でたらめに力を込めて、必死で衛宮をかき抱く。快感はちょっと強すぎるくらいで、それでもあるがままを感じていたくて、好きにしてほしくて。
「くぅん、は――」
 衛宮の手が、髪の毛を梳いた。それだけでイってしまいそうなくらい、良くなってしまう。全身の隅々で、全部を感じている。
「も、っと……」
 声に応えるように、尖った先端が強く吸われる。内側でぐるぐるしていた欲求が、どんどん衛宮に持っていかれるみたい。腰ががくがくするくらい気持ち良い。
 腕の中で衛宮が無理矢理に首を曲げて、今度は反対側を責められる。邪魔をしないようにと思ったけれど、勝手に力が入ってしまって巧くいかない。押さえつけたまま、衛宮に頑張ってもらうことになる。
 同じことを続けるうちに、続けられるうちに、体は痺れていく。
 左右の乳房がすっかり唾液塗れにされる。衛宮が頭を振ったので、苦しいのかなと腕を緩める。緩い日を浴びて、肌がちょっとだけ光っていた。鬱血の跡が細く散らばっている。それくらい強くされてたんだと思うと、とても嬉しくなってしまう。
 谷間に顎を乗せたまま、ふと衛宮が顔を上げる。
「なあ……美綴、俺のも……」
「あ――」
 手首を取られ、導かれる。衛宮自身の影に隠れて見えないけれど、指先に触れたものは、熱く硬くなっていた。
 あの時に感じたものよりも、もっと凄くなってる気がする。
 ちょっと触れただけなのに、反応してる。何をしたらいいかも解らないのに、何かしていいのかと迷わせる感触。
「ど、どうするの?」
「口で、出来る? 嫌だったら構わないけど……」
 ――口で? これを?
 一気に混乱する。怪我させたりしないだろうかとか、口に入れて大丈夫なんだろうかとか、色々思う。そもそも口に入るんだろうか。
 確かめるために、指で大きさをそっと確かめる。衛宮が少し腰を引いた。
「え、え」
「いや、大丈夫、大丈夫だから」
 やり取りが何だか不安にさせる。別に口にするのが嫌という訳ではないんだけど、こんなに敏感だと本当に大丈夫なのかと心配になる。
 迷っている間に、衛宮があたしを引き起こす。焦っている、のかな。それとも、そんなにしてほしいものなのか。はっきりとは解らないにせよ、望まれているならそれでいいかと思う。
 ぼんやりしていて、まともに考えられない。やってみなくちゃ、どうかなんて見えてこない。ダメだった時はダメだった時だ。
 衛宮は布団に脚を伸ばして座っている。広げた両足の間のスペースで、あたしは膝立ちになっている。そして覚束ない手で、どうにかトランクスとハーフパンツのどっちもに手をかけた。
 深呼吸をする。ずり下ろしたら、それで始まってしまう。それでも始めないといけない。
「――っ!」
 一気に行こうと力を込めた。でも、吃驚するくらいちょっとしか下がらない。緊張とか、そういうものが手を止めている。
 どうしよう。そう足踏みしていると、衛宮があたしの頭に手を置いた。そのまま優しく撫でて、こちらを励ましてくれる。
 それで、ほぐれた。
 相手が腰を浮かせるのに合わせて、布を下げる。窮屈そうな盛り上がりを作っていた下半身が、露になった。
 あの時は暗くて、お互い何も見えていなかった。だから、こうして見るのは初めてになるんだけど……間近にこういうのがあると考えると、吃驚してしまう。すぐ近くにある衛宮自身は、何だか変な形をしていて、それとなく可愛いような気がしないでもない。とりあえず、嫌な感じはしなかった。
 どうして、こんなことを確認しているんだろう。自分の頭の中に気付いて、ちょっと恥ずかしくなる。
 背中を丸めて、股間に顔を埋めるみたいにした。間近で見るとますます大きい気がする。指先でくすぐって、様子を窺ってみたり。触れた所がぴくぴく震えて、怯えてるみたい。
「遊ぶなって……」
「……別に、遊んでる訳じゃ」
 でも、ちょっと愉しいのは事実で。
 少し視線を上げると、もどかしそうな顔をした衛宮の顔が飛び込んで来る。瞳に熱っぽいものが浮かんでいて、期待されているのだと知る。
 まだ迷いはあったけれど、応えたいというのが勝った。舌を出して、そろそろと動き出す。数センチの距離を埋めていく。
「く――ぅ」
 先っぽの方に舌先が触れる。つるつるした感触は、見た目通りと言えば見た目通り。ただ、何だか人肌らしくない気もする。良し悪しは解らないので、取り敢えずは触れるだけ。
 膨らんだカサの部分から上を、唾液で濡らしていく。勢いには欠けるものの、相手を確かめるのには丁度良い。むっとする匂いが鼻をついて、少しくらくらする。前は気付かなかったけれど、これが男の人の匂いなのかもしれない。
 体が落ち着かなくなる。膝をずらして、体勢を直す。濡れたショーツの中が少し気持ち悪い。バレませんように。
 先端の方が唾液でてらてらとぬめっている。そのまま下の方へ頭をスライドさせる。膨らんだ所から、少しくびれた所を通っていく。頭上で息を飲む音が聞こえた。ここが気持ち良いのかな、と来た道を戻ってみる。
 髪の毛を梳いていた手が落ちてきて、耳を撫でる。小指が耳の中に入ってきて、言いようもない痺れが走る。びくっとして舌が止まった。
「続けて……」
「ん――」
 舌先でくびれを隈なく舐め上げて、そうして段々と下を目指していく。幹に張り出した血管が太い。押してやると、皮膚の下で妖しく動く。柔らかいのに、しっかりした弾力がある。舌をそこで弾ませながら、根元へ。
 たまに衛宮が耳をくすぐるので、どうしても途中で舌が止まったりしてしまう。恨みがましく目を向けたら、興奮しているのがバレバレだったので、それで満足してあげた。だって、それはこっちも同じだったから。
 自分の下着がどうなっているのか気になる。でも、気にしたら衛宮に気付かれる。それに、これだけで終わったら中途半端になる。
 確かめたいのを我慢しながらも、残った意識は衛宮に夢中になっていく。先っぽの亀裂から透明な液体が漏れていたので、指で伸ばしてみる。ぬるぬるするし、後から後から出てくる。何となく手で液体を弄りながら、舌で唾液を塗り広げていく。大体満遍なく濡れたくらいで、一度舌を引っ込めた。
 一つ深呼吸。大きく吸って細く吐き出す。吐息が当たったのか、衛宮の腰が少し震えた。
 あたしの方はどうなっているのか。知らず下半身がもじもじしてしまい、言うことを聞いてくれない。
 舐めているだけでこうなのだから、口に含んだらどんな気持ちになるんだろう。
 解らない。好奇心に負ける。
「ん、むぅ……」
 自分の欲求通り、そそり立ったモノをゆっくり飲み込んでいく。手を添えてずれないようにしてから、先端に口付けて、そのまま奥の方へと。唇がキノコみたいな所を通っていった時、口腔でちょっと暴れた。半ばまで含んだ段階で、息が苦しくなる。
 口の中がいっぱいになっている。唇の端から、溜まった唾液が垂れ落ちていった。これ以上奥に行ったら多分えづいてしまうので、そのまま舌の上で転がすことにする。
「ッ、くあ……いいよ」
 大きなキャンディを舐めているような気分。舐めても舐めても無くならない。それどころか、大きくなっている。鼻先に抜けるような衛宮の匂いを感じていると、手に力が入ってしまう。根元を指先で押さえたまま、少し舌を止めた。
「そのまま、頭動かして――」
「ん、んん」
 頷いたつもりだったが、声なんか出せなかった。ただ言われるがままに、ゆっくりと顔を引いていく。ずる、という低い感触を伴って、さっきまで隠していた部分が段々と顔を覗かせていく。
 抜けそうになった辺りで、また奥へと滑らせる。そうして何度か往復していると、衛宮の腰が時々震えると気付いた。先っぽの膨らんでいる所を責められると、弱いみたい。だから、そこに舌が当たるようにしながら、顔を前後させる。
「ふ、はぁ……っ」
 口の中にヘンな味が混じっている。衛宮から出たものだろう。それに酔いながらも一生懸命続ける。何度も唇を擦ったからか、リップが剥げて、幹にはうっすらと赤い色がついていた。
 こんなになるまで、自分がしたんだと意識する。嫌らしい色。こんなの残しておけないと思って、色づきに舌を這わせて、取れるまで何度も舐める。落ちたかな、と顔を少し離したら、別の部分にも色が残っている。だからまた唾液を塗りつけて舐め取る。でも、舐めようとすると、どうしても唇が触れてしまって、赤みは移ってしまう。いつまでも終わりそうにない追いかけっこ。
「美綴、ちょ、つよっ……」
 そんなこと言われたって、こんなのエッチだから、放って置けない。
 息を吸うために少し頭を浮かせる。舌先から唾液の糸が伸びている。みっともないと感じる前に、目の前に指先が現れて、それを切った。見上げると衛宮が余裕の無い顔で迎えてくれる。
 そんなに、感じたんだ。
 唾液を拭った指が、そのまま口の中に滑り込んでくる。溜まった唾液をかき混ぜるように、指先が中で悪戯をする。反射的に舌を絡めて、液体がこぼれないようにする。爪は硬い。指は少ししょっぱい。
 芯がとろとろしている気がして、太股を閉じた。衛宮が指を抜いたので、休憩を終える。唾を飲み込んで、また舐めにかかる。
 さっきよりも大胆になってみる。一気に頭を沈めたら、カサの部分に歯が掠めた。びくっとした気配があったので、舌でそこを優しく舐める。
 痛いの痛いの、飛んでいけ。
 うなじや首筋を愛撫されながら、衛宮自身に吸い付く。あたしの中に衛宮がいる、ってことが何だかおかしくて、嬉しい。唾と衛宮から出てるのが入り混じって、気が遠くなりそうになる。溢れてしまう前に飲みながら、どうにか行為を続ける。
「んっ、ふむ、うん――」
 はしたない、と何かが言っている。でも、それで気持ち良くなってもらえるなら、それでいい。はしたなくたって、構わない。
 少し顔をずらしてしまい、先っぽが頬の裏側を強く擦る。一際痺れるような感覚が、体中に走った。あんまり吃驚したので、口から衛宮を出してしまう。
「はっ、はっ、は……あ」
「……疲れた?」
「そうじゃ、ないけど……」
 気付かれなかったんだろうか。多分そうなんだろう。たまたまかもしれないけれど、頬の裏側であんなになるなんて思っていなかったから、うろたえてしまった。
 気を取り直す。実験の意味もあって、もう一度頬に擦らせるように咥える。やっぱりぞくっとする。顎が震えて、噛みそうで緊張する。その微妙なバランスが心地良いと思ってしまう。
 あたし、ヘンだ。
 体が勝手に求め始める。ヘンだヘンだと繰り返しながら、行為でも同じことを繰り返している。頬から伝わってくる刺激が、まともな考えを遠くへと押しやっていく。口の中が熱くてぬるぬるする。オイルみたい。
「美綴……ッ、くぁ、それ……」
 うわ言のように快感が聞こえる。合ってるのか間違ってるのかを、それで判断してる。だって、解る訳なんてない。でも、解らないから頑張ってる。
 そうこうしていると、焦ったように衛宮が腰を引き離そうとした。でも何故か、手はあたしの体を引き寄せようともしている。何がしたいんだか掴めないままに、あたしの体は前へと倒れていく。頬の内側の気持ち良い所を強くなぞりながら、衛宮のが喉の奥まで行ってしまう。
「んんんっ、んむぅっ!」
 呼吸が出来なくなって、焦ってしまう。苦しさに軽くえづくと、喉が締まった。それと同時に、上から衛宮の切羽詰った声が降ってくる。口よりは狭いだろうしなあ、と逃避気味に考える。本当はちょっと涙が出そうなくらいで、そんなことでも考えないと、泣いてしまいそうだからだけど。
 喉を塞がれてしまったので、行き場の無い舌がうろうろする。でも口の中だと、どこに行っても硬いものにぶつかってしまう。とにかく呼吸したくて、体を起こそうとする。あちこちでつっかえたりしながら、取り敢えず喉に隙間を作った。
「ふぅ、うぅん……」
「……なあ、もっかい、喉でいい……?」
 ……そんなに、良かったのかな?
 苦しくなるから迷ったのだけれど、そうして欲しいって言うんなら、それでいいやって思う。正直――あれはあれで悪くない、とも思ったのかもしれない。応えたいのは変わらないから。
 衛宮のは口の中でびくびくしていて、あんまり強くしたら危なそうな感じ。でも、前にお腹の中で震えたあの感覚が、一歩を踏み出させる。出来るよね、と自分に確認。もう一度あそこまで行ってみたらどうなるのか、ほんの少しの好奇心。
 隙間から大きく息を吸い込むと、それだけで衛宮が呻いた。じわじわ苦しくならないようにしてるだけなんだけども、こっちとはまた認識が違うんだろう。ちょっとしたことで反応してくれるのは、嬉しかったりもする。
 内心にそれを隠したまま、また奥へ。えづいたりしないように、一気に行ってしまう。
「――んぅっ!」
「うあ……ッ」
 異物感に喉が暴れる。大丈夫、怖くないから。念じながら自分を宥めていく。
 ほら、こんな時、衛宮は優しくあたしを撫でてくれるから。
 酔ったみたいに、一生懸命衛宮のに吸い付く。飲み込めそうなところにあっても、こんな大きいの飲み込める訳なんてない。ただ、喉の辺りにあるってことが、距離の近さをひたすらに意識させる。
 これ以上は行けないから、後は引かせるしかない。ちょっと顔を戻して、鼻で息をして、もう一度喉へ。こつん、と奥にぶつかる度に苦しくなる。苦しくなったらまた息をしに戻る。ねっとりとした唾液が、幹を伝って落ちていく。
 何度も何度も同じ行為を重ねていく。少し膨らんだ血管の場所さえも、見ないで探れそうなくらいに。それくらい夢中で続ける。
 自分がこんなにエッチなことが出来るなんて、考えてもいなかった。
「ふぁ、ん……むぅっ」
 舌を絡めてみる。左右に動かして、輪郭を確かめてみたりする。相変わらず、何をどうしたら良いのかは解っていないから、出来ることや思いついたことをそのまま全部出していく。嫌だったら言ってくれるだろうから、失敗があんまり怖くなかった。
 気持ち良くなってくれてるのかな。そうだったらいいな。
 あたしは男じゃないから、衛宮がどういう風に感じているのかなんて想像も出来ない。今舐めてるのがあるか無いかってのは、考えてみれば大きい問題なのかも。
 脇道に思考が逸れていく。それでも行為を止められない。じゅる、と唾液を啜る音が鳴ってしまう。それが恥ずかしくて、誤魔化すみたいに熱心になる。一際大きく息を吸い込んで、暴れないように手を添える。
 と、唾液で滑る幹を掴んだ拍子に、衛宮がいきなり腰を前に出した。驚くより先に、衛宮のが微妙に震えた。あ、と思ったが遅い。
「あ……くうっ、美綴、出――ッ」
 切羽詰まった声と同時、震えが一気に強くなり、血管が大きく脈打った。呆気に取られる暇も無く、口の中に何かがたくさん注ぎ込まれる。
「うぁ――んん!?」
 熱くてどろどろしたものが、口の中で溢れ返っている。これ以上無理だって思ってるのに、どくんどくん、と衛宮のは跳ねている。慌てて頭を引くと、太い幹がずるりと顔を覗かせた。液体が溢れそうな唇を手で覆って、どうしようと衛宮に目を向ける。だが当の本人は、陶酔した様子で放心していた。
 吐いたら布団を汚してしまうし、かといって飲むには何だか度胸が要る。だから、頬を膨らませたまま、どうしようかと混乱する。口の中が大変なことになっている。
 衛宮の、味と匂いでいっぱい。
 このまま口に含んだままでもいられないのに、相手の反応が無いので困ってしまう。正直なところ、コレは美味しいとは思えないし、良い匂いだなんてこともない。ないのだけど、でもコレは気持ち良いから出てきたもので、何よりも衛宮のもので。
 そう考えると、どうにも出来なくなる。
 舌の上で転がすと、どろどろは口の中で動き回る。粘っこくて、あったかい。最初は変な感じがしていたけれど、慣れてくるとそんなに変でもなくなってきた。一度そう取ってしまうと、不思議な気持ちだけが残る。体の奥が痺れるみたいな、そんな気持ち。頭がぼんやりして、出されたってことに興奮させられる。
 ……これが、衛宮のなんだ。
「――なあ……美綴」
 いきなり話し掛けられた。油断していたので、そのまま咽てしまう。
「んっ――かふっ」
 中途半端に飲み込んで、余ったのをそのまま出してしまう。唇から溢れた液体が、顎を伝って胸の辺りに落ちていった。反射的に指で掬おうとしたら、逆に広がってしまった。広がった部分は、空気に触れると冷えを感じさせる。
 奥の奥は、お構いなしでかっかしてるのに。
 咳を宥めるように、衛宮が背中をさすってくれる。熱が渦を巻いた。何か言いかけていた途中だったので、熱を隠しながらも目で先を促した。少し間を置いてから、
「なあ、そろそろ……美綴の中に入れたい」
 と、お伺いが来た。
 熱が渦を巻く。ぐるぐる。それは、止まらない。

 

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/あやあやあや

 


 

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©秋月 修二