Sugar On Me A'd You

B−Ash.様


 

◇2

 テストが終わってようやく一息。重い重いため息は爽やかな青空に紛れていく。ああもう、憎たらしいくらい爽やかだねちくしょう。おかげでテストはバンザーイな結果になりそうで良かったけど。
 けれどその代償は少し大きそうだ。まさか本当にアルクェイドが大人しくしてくれているなんて夢にも思わなかった。夢ですら思わない分これはありえざる事態なわけで、その後にはなにかしら必ず良くないことが降りかかってくるだろう。人生とは得てしてそういうものである。
 そういうわけで早めにアルクェイドの機嫌を直すという名目で、本音は久しぶりにものすごく会いたいという理由でアルクェイドのマンションに直行。元々テスト前に「終わったら直行する」という約束をしていたので確実に居るハズだ。
 朝の秋葉の誘いを素直に謝って断り、有彦の誘いをやんわりと断ったらアルクェイドさんの所だなと指摘されて秋葉の所だと言ったら何故かそっちで通ってしまい、シエル先輩からの誘いを物理的に会わないという荒業を見せて断り、マンションへとたどり着くことに成功。問題はアルクェイドがここまでの道で待ち伏せしているものだと思っていた俺の予想に反して、ちゃんと自宅で待っていることだろう。何かものすごくよからぬ予感がする。冗句でなく。
 一応インターホンを押す。と、中からはーいと返事が返って来た。いや、今までの心配はきっと俺の杞憂だ。頑張って根気良く説得しつづけて説いていた、まともな観念をようやくアルクェイドが持ってくれたんだ。この返事が何よりの証拠だ。いつものような殺気だった声じゃなくって甘い時間をまってましたと言わんばかりの明るい声。今、俺は色々と報われるんだろう。そういうことにして難しいことは放置だ。お邪魔するよー。と言って合鍵を使って鍵を開けて中へと入り、む。こいつ新しい靴でも買ったのかなと増えていた履物を確認しつつ靴を脱いであがる。どうやら居間で何かをしているらしいがさて何を──
 一歩、退いた。いや恐怖とかそういったものに気圧されたからではなく、驚いた条件反射として体が一歩後ろへ下がった。
 理解できない。頭が真っ白にすっ飛ぶ。不意打ちというか予想外というか、とにかく起こってはいけない事態が目の前で展開されていた。
「おつかれさま。やーっとテストが終わったのね」
「いや……あの」
「志貴君ってば結構頭いいのよ? 普段からしないから成績はパっとしないけど」
「なんで、ここに?」
「そうなんだぁ。じゃあ普段から勉強させておいたら、テスト期間中でも一緒に居られるかな?」
 戯言を抜かすお姫様を見ながら、叫ぶ。
「なんでここに朱鷺恵さんが居るんだよ!!?」
 ──そう、あろうことかアルクェイドの部屋に、お姫様と一緒にすっかりくつろいでいる年上の女性、遠野志貴にとっては忘れたくても忘れられない相手、朱鷺恵さんが居たのだ。
 驚いて気が動転どころか縦横無尽に飛び散っている俺に対して、朱鷺恵さんとアルクェイドは互いに顔を見合わせてから、説明。「街でねー。偶然出会ったんだ」。本当かよ。
「話してみたら気が合ったの。それでよく聞いたら志貴君のこと知ってるんだもの。驚いちゃったわ」
「今はねー。志貴の話で盛り上がってた所♪」
 どんな話だろう。知りたいけど知りたくない。だがこの場で今までは年頃の女性らしい和気藹々トークが繰り広げられていたんだろう。くそう、大人しいと思ったらやっぱり裏があったのか。
「ほら、志貴君もこっち来て、座りましょ」
 促されるままに座ろうとするが……そこはアルクェイドと朱鷺恵さんの中間という、目に見えて分かるデッドゾーン。今、俺がここに座れば間違いなくよからぬ事が起こるだろう。俗に言う蟲の知らせというやつ。
 しかし当然後に引くという道はがけ崩れのように断絶されている。この状況で言い訳して出て行くことは無理だろうし、というか逃げたりなんかしたらアルクェイドがどう出るが分かったもんじゃないし、さらに言えばこの二人という磁力は逆らいがたいほど強い力で遠野志貴を引きつけている。結局、俺はそのデッドゾーンに飛び込みたいんだけど、そういうわけにも行かないと理性だけで抗っているのだ。
 しかし、その理性も。
「あら、わたしたちじゃ不満?」
 朱鷺恵さんの前ではハリボテでしかなかった。
 沸騰しそうな思考を抱えて着席。おつかれさまと言ってアルクェイドから頬にキス。え、アルクェイドから!? 意表をつかれた俺の目の前にさらなる攻撃。朱鷺恵さんがはいどうぞと言ってお酒……ではなくお茶を出してくれる。湯飲みに入った緑茶という俺の好みを的確についたそれを、躊躇うことなく口につけて乾いている喉を潤す。
 なんなんだろう。一体何が起こっているんだ?
 両手に抱えきれないほどの花束というこの状況。
 とにかく、思考が吹っ飛ばないことを祈るしかなかった。

 

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