疲れた。
 いや、この疲れは全く不快なものじゃあない。家が宿泊施設めくのには慣れていたし、みんなで飯を食うのは楽しかった。ただ人数が多いだけ料理人の作業は多くなり、張り切ってしまって、全部片づいた頃にはすっかり疲れていたんだ。
 結局泊まっていくことになった連中のために寝具を用意して、自分も布団に潜り込んだ。この時には、すぐ眠りに落ちそうだったのに、何か引っ掛かって寝付けない。
 いや、恐らく、まどろんでは目を覚ますのを繰り返していた。だんだん、夢だか現だか判らなくなってくる。
 そうしていると、昼間に見た写真が不意に脳裏に浮かんだ。
 う。
 思い出したら、余計に眠れなくなってしまう。
 いつものようにライダーが傍らに何冊も積み上げつつ本を読んでいたから、何気なく良く見もせずに一冊、大きなのを開いたんだ。そうしたら、全裸で縛り上げられた女性の写真が見開きで載っていた。
「うわっ」
 仰天しながらも、まじまじと見詰めてしまって、その数秒間で頭に焼き付いた。我に帰って慌ててページを繰ったら、大方のページはもっと普通の芸術っぽい人物写真。男女どちらも居て、ヌードも多いから照れくさくはあっても、まあ、そんなに凄いものではなかった。
 変に急いで置くのも、と、写真家やモデルさん達の名前とか確認してみたり。でも、そのはずが結局、数枚だけある縛られた男女のページを見ていた。
 いや、もちろんと言うべきかどうか、主に女性モデルのページ。
 ごくり。
 苦しそうな姿勢に全身拘束された姿は、痛々しいのに綺麗に思えて、その点では芸術なのかも知れない。でも、素直に言えば、えも言われずエロティックで、そういう意識で凝視していた。
 ライダーの目の前なのも、忘れていた。
「ふふふ?」
「わあっ!」
 思わず本を放り投げ、危うくライダーにぶつけそうになる。
「ふふ、興味ありますか? こういうことに」
「興味って、いや、別にっ」
 幸いにも写真集を機敏にキャッチしたライダーが、穏やかに笑う。
「そうですか。来月、新都のデパートで個展があるそうで、それで雷画が貸して下さったのですが」
 ああ、興味って、そう言う意味か。
 自分の邪な考えを恥じたのだけど、ライダーはクスクス笑っている。
「もし、お望みでしたら、お相手しましょうか?」
「お、お望みって、てっ」
 やっぱり何を見ていたか知られている?
「ええ。私のようなので宜しければ、写真のモデルぐらいは。いつも、お世話になってばかりですし」
 はは……なんか、一人相撲だな、俺。
「それとも、やっぱりこれが良いですか?」
 小首を傾げて悪戯に笑い、俺に向けたのは、さっきの緊縛された写真のページ。
 我に帰った時には、土蔵まで逃げていた。正解だっただろう、パニクってイエスなんて言ってしまってたら、えらいことだ。
 ごろん、ごろんと何度も寝返りを打つ。頭を揺すって、写真集の映像とライダーの微笑を消そうとする。そうしていると、襖の向こうに誰かの息づかいを感じた。
 えっと、今この家に居る人からして――――

 

1. ■■■■■■■
2. ■■■■■■■■
3. ■■■■
→ 4. ああ、ライダーだな
5. ■■■■■■
6. ■■■■■■■■■
7. ■■■■■■■■

 

 

全男子渇望のイベント・ライダー編


 

◆ session 1

 ――逃げ出す前に、イエスと言わなかったか?
 特に根拠も無く、ライダーだと確信した。だけど、まだ様子をみる。気配を消すつもりなら俺なんかに気付かれるわけがないから、わざと教えてくれたんだと思う。こちらから声を掛けるのを待っているのか。
 数分は待った。暗くて充分には見えないけど、音もなく襖が滑り動いて開き、やっぱり足音を立てることなくブーツが入ってくる。
 ブーツ? ああ、あの色っぽい戦闘服みたいなののブーツだ。でも、家の中で?
 ――いや、そう言いつけたか。
 布団からは少しだけ離れた位置で腰を下ろし、また、そこで長いことじっとしている。こんな時間に何の用だろう。
「んっ、ふ……」
 黙りこんでいたライダーが、不意に小さく息を漏らす。変に艶っぽい吐息だったから、どきりとしてしまった。
 そんな意識を持つと、微かな匂いに鼻を刺激される。ライダーの匂い、考えたことも無いけどそう認識した。途端、熱を出したみたいな暑さを覚えた。浮遊した感覚、濁った頭の中。
 何も起こらず長いこと経って、ライダーが来たなんてこと自体が夢だったかと思った頃、声がした。
「もうお休みですか、士郎」
 サーヴァント・ライダー。真名はメデューサ、ギリシア神話で一番有名な魔物かも知れない。英霊というよりは神霊に近く、現に元はコリントスの女神だったらしい。そんな正体からは到底考えられない、か細い声で、ライダーが俺を呼んでいる。
 ――変われば変わるものだ。
「起きているよ」
 短く答えると、一気に安堵したみたいだった。
「でも、何の用? こんな時間に」
 びくり、と怯えた気配。
「士郎が求めたからでしょう? 午前から準備させて」
 俺が? 求めた?
 ――そうだ。今夜、相手をしてもらおうか、と。
「準備って、何?」
 俺がライダーに求めるようなことって。
 ――決っているじゃないか。
 言っていることが判らず、戸惑う。やっぱり夢だろうか。さっきから、自分が衛宮士郎であると言うより、衛宮士郎という人間に取り憑いた幽霊か何かのような気がしている。それとも、俺自身は正しく衛宮士郎で、何者かに取り憑かれているのか。
 どちらにしても、この状況を把握している衛宮士郎がちゃんと居て、勝手に喋っているかのよう。
『意外に意地悪なのですね、士郎』
 ライダーがおかしなことを言い、立ち上がった。
 部屋が明るくなる。ライダーが着ているのは、聖杯戦争の時に身に付けていた黒と紫の扇情的な衣装。腿まであるブーツ、長手袋。当時と違うのは、顔を覆うマスクが無く、代わりに眼鏡を掛けていること。そして、長い髪がなびいていないこと。
「その服の下は、ちゃんと朝のまま?」
 ――事情を判っているらしい方の衛宮士郎が声を出した。
「はい。この通りです」
 足を少し開いて姿勢良く立ち、布団の上に座った俺を見ながら、答える。大きく息を吸い、意を決するようにして、目を瞑る。本来、呼吸などしなくても良いはずだが、人間らしい仕草が身に付いてしまっているようだ。
 もう一呼吸した途端、魔力で編まれた服が消えた。ブーツと手袋は残り、胴体だけが素肌を晒す。下着は着けていない。しかし、単純に裸ではなかった。それが、髪の靡いていない理由だった。
 あまりにも非現実的で、息をするのも忘れた。思考力が崩れていく。
 女神アテナの嫉妬を買うほどの、麗しき長髪。それが、幾筋かの束に分けられて、ライダーの裸体を縛り上げている。肩の辺りで、頭を動かせるだけの余裕を残してリボンで結ばれ、そこから下に編み目のように絡み付いている。まるで、白亜の肌を締め上げるラベンダー色の毒蛇だ。汗に濡れて、肌が天鵞絨。
 ごくり。恥ずかしくなるほど大きな音を立てて、涎を飲み込んでいた。目を閉じたライダーの顔は真っ赤で、羞恥に耐えて俺にこんな姿を晒していると知れる。だから、見てちゃ駄目だ。でも。
 どこから、どう繋がっているのか。判らないけど、豊かな乳房を上下から絞り出し、菱形を幾つも描いて柔らかな肉に噛み付いている。一番下では、下腹部から股間を辿って左右の腿の付け根を一周し、後ろに回って垂れ下がっている。
 ――遠慮なんて要るものか。求めてるんじゃないか。
 誰かに囁かれている。畏怖させられるばかりの美しさのせいか、ライダーには変な気を起こすことは無かった。それが、こんな卑猥な姿だと神聖さが薄れて獣欲の対象になる。
 酸素が足りない。息が早くなって、それだけ余計に女の匂いを嗅いでしまって、欲情がハウリングしている。
「凄い……」
 目を逸らそうとしても、空しい努力だった。隅々まで詳細に見詰めていた。何処にも、ホクロ一つ無いのを確認できるほど。目にしたら視力を奪われるニンフの話を思い出す。裸体を見たら死ぬとさえ。なら、こんな姿を見た以上、永劫に壊されてしまいそうだ。
 いや、きっと、もう手遅れ。
 髪の縄の辿っているのは概ね胴体だけだから、動きを束縛してはいない。しかし、体をひねったりしたら何処かしら窮屈で、戒めの存在は始終意識させられているはず。
 今日一日、ライダーがしばしばぼうっとしたり、頬を染めたりしていたのを思い出す。
 ――思い出す?
 あとひとつ、腰には黒いベルトだけ掛けられている。臍の下で縦に繋がった別のベルトが、これも脚の間を厳しく通っている。ちょうど女の部分のあたりにから細いコードが一本だけ伸びて、ベルトに引っかけた小さな箱に繋がっていた。実物を見たことなんか無いけど、ローターとか言うやつだろう。知っている自分に面映くなる。
 でも、そんなのは些細なこと。
「凄い……綺麗だ」
 あまりに異様な姿に残り少なかった理性を吹き飛ばされながらも、この言葉は本心。人の身に得られる美しさではない。
 そんな天の芸術たる肢体が、あからさまに猥褻に、己の髪を使うなどと言う辱めの意図をもって緊縛されている。戦闘のための衣服の一部をそのまま残されているのも、普段、髪を束ねているのと同じ色のリボンがそこかしこに留められているのも、羞恥と屈辱を煽るものに他ならない。右側だけ、乳首にまでリボンが結んである。朱鷺色の乳首は堅く尖っている。
 たかが人間に、そんな恥辱を強いられ、ギリシア先住民の地母神は一日を過ごしたのだ。堪えられない欲情に身を焼き、どうしようもなく快感を覚え。
 ――秘所に埋められた淫具の、酷く間欠的な動作に怯えながら。
 股間には、他と違う煌きが見える。女の雫を垂らして誘っている。
 ――そして、耐えられずに忍んで来たのだ。
 喉が渇いていながら、唾が湧き続ける。飲み込んでも飲み込んでも、止まらない。渇きは少しも癒されない。
 臍の下の方が熱くなる。とっくに、剣は張り詰めている。
「なんで……そんな格好」
「ですから、士郎が命じたのではないですか」
 お、俺が?
 ――もちろん。
 理性が消し飛んでいく。囁きに捕らわれ、状況の把握なんてものに意識が行かず、魅入られる。いつもに増して、ライダーは綺麗だ。流麗な曲面を持つ象牙色の肌に髪の縄が喰い付いて、不自然な凹凸を作っている。それさえも、優美。
 喉は、からから。あまりに悪魔的な美しさと、蠱惑。獲物を貪り食うための餌だと判って、甘んじて喰われようと思うほどの媚態。
「み、美綴とか一成とか、気付かなかったのかな?」
 傍に居たら脳髄まで侵蝕されそうで、恐ろしくさえなる。おかしくなりそうで、気をそらせようと思い浮かんだことを口にした。
 真珠の肌を桃色に染めて、顔を背けながら、ライダーは答える。
「大丈夫だと思います。髪を出して見せて欲しいと言われたときには困りましたが」
 まるで、余計に辱めようとしたみたいな言葉になっている。
「なんだ、脱いで見せてあげれば良かったのに」
 出来るわけ無いのに、他人に操られているように口に出してた。
「そのようなことは……あぁっ」
 悲鳴を上げる。性器の奥の玩具が動いたらしい。別にコントロールはしてないから、偶然。ライダーは体を小さく痙攣させて、甘美な業火を堪え忍んでいる。
「しろ、う……」
 快感は、鋭くはあっても弱く、もどかしいのだろう。少しでも貪ろうと言うように、腿を擦り合わせる仕草をしている。淫らで、なのに優美で、俺は口をぱくぱくさせているばかり。でも、
「はしたないなあ。良いよ、挨拶してごらん」
 挨拶? また、取り憑いている方の衛宮士郎が喋った。
 ――いや、俺が、取り憑いている方じゃなかったか?
「はいっ……」
 混乱する俺を余所に、ライダーは急いで振り返る。背中の側でも、幾筋にも分けられた薄紫の髪が、複雑に格子を作っている。腰のところで余りが束ねられていて、ちょっと位置が高いけど、尻尾みたいだ。
 ライダーは膝を畳に突き、大きく広げる。体を前に倒すと顔を床に付ける。両手を背中に回し、しばし躊躇い、お尻を隠す格好だった尻尾を退ける。
 丸い、珠のようなお尻に手を当て、やっぱり数呼吸時間を要したあと、自分で左右に押し広げる。食い入ったベルトのせいで中はよく見えないとはいえ、女性にとって、これほどに恥辱極まるポーズもないだろう。
 ――ああ、夢だ。決っている。こんなに途方も無い、酷い妄想。絶対、明日の朝ライダーの顔が見られない。
 でも、溢れ零れている欲情は、夢なんだったら、好きなだけ喰えば良いと唆している。
 何度喉を鳴らしても治まらない渇き。溢れる唾液。嫌になるほど勃起している。跳びかかってしまわずに居るのが信じられない。
 そして、ライダーは『挨拶』を口にした。
「私は、体も精神も魂も……エーテルの一片まで、士郎のものです。ご自由にお扱い下さい」
 ――ほら、ああ言ってるんだし。
「らい……」
 どうにか残っていた、夢か現か気にしていた衛宮士郎は、今度こそ掻き消された。剥き出しにされた妄想と欲望ばかりが形を止めていた。

「良し」
 言ってやると、お尻から手を離し、四足のまま俺の方を向く。そこから這って来て、投げ出している俺の足の両側に手を置く。一度顔を上げて俺を見ると、怒りとも屈辱とも付かない表情だったけど、慌てて取り繕ったように微笑んだ。
 ゆっくりと頭を下げ、僅かに逡巡した後、つま先に唇をつけた。長い舌を出し、指を丁寧にしゃぶり始める。ぬるり、と舌が足指に絡む。両肘をついたまま、お茶会で茶碗を押し戴くように俺の足を持ち上げ、土踏まずあたりから舌を使う。
「ふふふっ」
 くすぐったくて笑ってしまうけど、ぞくぞくする快感もあって、続けさせる。
 唇を付け、あちこちを吸う。べとべとになるほど唾液を塗りたくり、再び全部舐め取る。尻を高く上げた格好のまま、目を閉じて泣いているように、だけどうっとりと、そんなことを続けていた。
 ちゅ、ぺちゅ
 収まらない、荒い息遣い。指を一本づつ吸う。指の間を何度も何度も舐める。苦悶なのか、悦楽なのか区別出来ない顔つき。
 ――初めは、あんなに抵抗したのにな。
 踵に舌を伸ばしているところへ、爪先で額を軽く叩いてやる。合図されたライダーは名残惜しそうに足を放し、また少し這ってもう一方の足にキスする。同じことの繰り返し。奇跡そのものの美貌の女が、厭なのを隠し切れないまま俺の足に奉仕し始める。でも、いざ始めると湧き起こる快美感に犯されて、恍惚とする。自分でそれに気付くのか、時々、諦めたような溜息を吐いていた。
 眺めていて、愉悦。男が滾る。こんな凌辱的行為を楽しんでいる自分に驚く。ただ、どうにも、くすぐったい。だから、また爪先で額を突付いてやった。
 足から顔を離し、初めて自分の口にしていたものが何か判ったかのように一瞬だけ顔を歪めた。でも、再度しっかりと口付け、酔ったように更に二箇所ほど接吻した。丁寧に足を床に下ろし、俺の正面に正座して頭を垂れる。
「美味しかった?」
「はい。とても」
「じゃあ、満足した?」
 短い沈黙。続いて、吐息。
「はい」
 ――自分から求めるようなことは、しない。そう躾られているのを思い出したようだ。
「じゃあ、今夜は戻る?」
 さっきより長い沈黙と、強い吐息。
「……はい。ありがとうございました」
 言って、少し上がっていた頭を畳に擦り付け、静止する。下がって良いと告げでもするまで、待つつもりなのか。
 汗の浮いた白磁の女体、髪が格子に巻き付いた背中の向こうに豊かなお尻があって、革ベルトが丘陵を割り裂いている。あの黒い封印の下で、午前からたっぷり時間をかけて嬲られ、女をトロトロに疼かせているはず。このまま下がるなんて、望んでいるわけがない。
 それでも、退席を命じれば従うだろう。ライダーは、それぐらい忠実だ。
 ――俺はマスターじゃないにしても、体に服従を叩き込んで、忠誠を誓わせてあるのだし。
 ひくっ、と腰を揺らした。秘所に穿たれた責具が動作したようだ。逃げたいのか追いたいのか、そこかしこの筋肉の伸縮が見て取れる。それでも律儀に土下座した姿勢を崩さない。
 雌の匂いが、薫る。ライダーの匂い。いや、ライダーの密の香りなのか。
 伏して息を乱している姿に、葛藤が殆んど目に見えた。
「嘘だろ?」
 助けをだしてやると、びくん、と全身が緊張した。足を差し出したら、俺の真意を窺う気配ながら、また接吻する。あまりしゃぶり付いて不興を買いたくないって怖れもあるようだ。
「欲しいんだろ? 本当は」
 硬直したまま、何度も息の音が聞こえた。要らないの? と訊き直したら、やっと口を開いた。畏れ震えるように。
「欲しいです、士郎……」
「良いよ。嘘吐きのお仕置きは後にしよう」
「はい」
 脚の間に這い進んで、軽々と俺を腰のあたりで持ち上げ、寝間着とトランクスを一緒に引き下ろしてしまう。下半身裸にされて、いきり立っている俺のモノが目に入った。
 自分でも、興奮具合に呆れる。直接は触れられてもいないのに、もう射精が近いみたいに張り詰めている。
「ご立派です……」
 うわずった調子で、ロングブーツのまま無理に正座したライダーが告げる。恥ずかしくて俺が顔から火を噴きそう。眼鏡の奥で、魔眼が俺の顔とペニスを交互に見詰める。危険な力は封じられているのに、魅入られると普段でも背筋に冷気が走る。でも、今は双眸は惚けている。
 また息を飲んでいたら、男根に平伏すように、ライダーは額を畳に擦り付けた。
「頂戴致します」
 言って、いきなり睾丸を片方、口に含む。舌が、ぬめる。
「うぁ」
 温かく濡れた口の中で、柔かくマッサージされている。むず痒い快感。燃料を注がれてエンジンが咆える一方。気持ちいいけど、その何倍も掻き立てられる。
「く、んぅう」
 どう見たって、女に淫猥な奉仕を強いている光景。ライダーも、抗うことを諦めた悲哀みたいなものを顔に浮かべている。でも、俺の方が圧倒されている。
 ライダーは咥えていた玉を吐き出し、もう一方に移る。火が点いたように熱くなる。蠢く舌が、ホットナイフで溶断するみたいに袋の中まで入り込んで、精腺を直接味わっているかのよう。
「くぅうっ」
 掌に爪を立てて、耐える。そうでないと、睾丸を舐められているだけなのに、もう放ってしまいそう。それでも、早くペニスに刺激が欲しくて疼いている。
「らい……」
 呟くと、ちょっと目線を上げた。床についていた手を出し、先端を指だけで包む。
「ふくっ」
 まるで、電撃。
 女の顔が、小さくほころんだ。
 ――卑しい奉仕を強要されていても、憎い支配者が己の所作で喘ぐのは暗い悦びでありえるのか。
 亀頭を、繊細な指がなぞる。先走った腺液に光っている。ほんの指先だけの愛撫なのに、突き刺さるような快感。両手で扱き始めた途端、また拳を握り締める羽目になった。
 相変わらず、口は精巣にばかり仕えている。精液が増産されて溢れかえっている気がする。やっと離れた時には、どろどろに濡れて、湯気が立たんばかり。
「ふぅ……」
 無理矢理の燃料補給が止まって、やっと小さく息が吐けた。
「本当に、逞しい……」
 賞賛しながら、竿に鼻を近付けたライダーは涙を出しそうな表情。
 ――こんなこと、厭で厭で泣きそうなのに、拒む術がない己を憐れんでいるのか。
 ――厭々やっているうちに、喘がせるほど上手くなってしまったことが哀しいのか。
 ――厭だったはずなのに、牡の匂いに陶酔し、快楽を覚えている自分を嘆いているのか。
 ――それとも。男に、征服感を与えて喜ばせるための演技に過ぎないのか。
 自分の発想とも思えないことが次々と頭に浮ぶ。
「失礼します」
 遠慮がちに、竿に唇を当てた。長い舌が伸びて、上に辿っていく。一点だけなのに、真っ二つに斬られそうな強烈な感覚。一番上に着いて尿道口のところを唇に挟み、その間を舌でつつく。
 おずおずと、憂いた目付きで口を開き、穂先から咥える。ゆっくり頭が降りて、華麗な口の中に俺のものが納まっていく。温かくて潤ったライダーの口。絡めてくれる舌。信じられないぐらい深く沈んでいって、根本に唇が届くころ、先端も柔らかいものに当たる。
「かふっ」
 喉の方が蠕動して、搾り取ろうと襲ってくる。根本を唇に締められつつ、舌が動き回っている。気持ち良すぎて、脚が勝手に動く。気を緩めたら刹那に放ってしまうと思う。
 ほんの小さく上下して、エラのところが引っ掛かるみたいに刺激される。
 いや、気を張っていたって……
「かはぁっ」
 危ういタイミングで、ライダーは引き下がった。口から現われるのは、自分のだと思えないほど凶悪に勃起したペニス。唾液に濡れて鈍く光っている。
 片手を添えて、愛しげに頬を擦り寄せてくる。そんな、ほっぺたの肌の感触だって、とんでもなく甘美で、ふやけて崩れるばかり。
 再び開いたライダーの口の端から、唾が落ちた。慌てて、こくんと飲んでいる。
 ――涎垂らして欲しがってるのか。
「待て」
 驚いて、怯えた顔をして、俺を見る。手を取ってペニスに触れさせると、素直に手だけで愛撫し始める。でも、お預けをくった恨みを晴らすみたいに、複雑に巧みに指が動いて俺を磨くから、また必死で耐える羽目になる。
 対抗しようと、手を伸ばして耳に触れた。一瞬だけ逃げようとしたけど、すぐに大人しく、されるがままになる。
「あふ……」
 両耳を弄ってやったら、喘いだ。顔の近くで少しだけ垂らされていた髪の束を持って、毛先で耳を責める。
「あんっ、それはっ……」
「ん、どうかした?」
 大分、この攻撃は駄目みたいで、悶えている。
「いえ、何も……」
 耐えているのが、判る。
「ほら、手がお留守だよ」
「あっ、はいっ」
 悶えながら、更に熱心に指を蠢かす。
「あっ、ぁあん……」
 腰をびくりとさせた。こんどもまたタイミング良く、止まっていたローターがオンになったらしい。
「感じてる?」
「はい」
「止めて欲しい?」
「いえ、お望みのままに……」
 健気にも、言う。
「あふっ、んん……」
 啼き始めながら、性器をくわえ込んだ。激しく首を振って、穂先ばかりを責めてくる。
「こら、まだ許してないぞ」
 言いつつも頭を撫でてやると、媚びて甘えた目線を送ってくる。
 ――何でこんなことをしてるんだろう、なんて今さら頭を掠めた。でも、気持ち良すぎてすぐに融ける。
 今度は横ぐわえにして、何度も根本から先っぽまで往復している。陰嚢まで遠征して、またドロドロに濡らす。
 睾丸は指に譲って、再度真っ直ぐ奥まで口に受け容れる。喉の感触が魔物のよう。柔らかい粘膜に締められる。玉を揉まれて、上下から責め立てられて、まだ破裂してないのが不思議なほど。でも、まだもっと、って求めている。答えてくれると判っている。
 怜悧な美貌が苦悩か快楽かに歪められているけど、それでも、美しさを損ねてはいない。
 瞬間に終わりそうで、声も出せない。
 舌と唇。頬の粘膜。喉。それぞれ触覚が違う。順に波状攻撃を受けて、防戦にもならない。もう、耳に悪戯したりとかしてられない。
 ――これだけの性技を仕込まれるのに、どれぐらいかかってるんだろう。それとも、女って、これぐらいのことは本能で出来てしまうんだろうか。
「がっ……」
 尿道に舌先を差し入れられて呻いたら、予想通り、栓が抜けた。
「くああぁっ」
 破裂した。口の中に弾けた。ライダーは瞬間、顔を引いたから、残りが飛んで顔にかかる。どくん、どくん、と何度かに分けて噴出して、麗しき女神の美貌を汚す。魔眼殺しのレンズに落ちる。
 じゅっ
 まだ脈打っている俺に吸い付いて、終わっていない吐精を口で受けてくれる。袋を揉んで、竿を扱いて、零れるほど蓄えられていたのをすっかり空になるまで吐かせようとしてるみたい。
「ん、んぁ、はぅぅ……」
 それに応えるように、びっくりするほど多量に放精した。
 やっと終えた頃には、息が出来ていなかったのか、頭が眩んでいた。
「士郎?」
 呼びかけられて、見ると、思い切り顔を穢している白い粘液を掬って集めていた。指に絡んで落ちないほどねっとりとした体液を口元に運び、匂いを嗅いで淫蕩に微笑む。それから、美酒同然に、陶然として一本ずつ指を舐める。
 眼鏡を取って、そこに付いていたぶんまで味わっている。
 それ、魔眼殺しっ!
 気付いて焦ったけど、何も起きない。
『夢ですから』
 ライダーが、そんなことを言った。
 綺麗になった眼鏡にもう一度接吻し、かけ直す。
 口を開けて、多量の濁った白い液を見せてくれる。舌が動いている。
『もっと、遊びたいですか?』
 ――うん。
『ふふふ、では、お望みのように……』
 ライダーは目を瞑った。世紀の美味のように口を動かしている。何をしているのか判ったのと同時に、言っていた。
「飲んじゃ駄目」
 ――え?
 ライダーが眼を開けて、不思議そうに見ている。いや、不満なのか。
「まだ、飲んじゃ駄目。さっき、許し無く口を使った罰として、しばらく口に入れたままにしてること」
 安堵したような、でも拗ねたような。そんな様子ながら、従順に簡潔な返事をした。
「はい」
「良し。じゃあ、場所換えようか。ライダーが大きな声出しても良いようにね? みんな居るんだし」
 間抜けな姿だけど、トランクスと寝間着を履き直して、言う。
「みんなに知られたいんだったら、ここでも良いけど」
「そんなことは……」
 結局、生殺与奪は俺が握っていると身に沁みている様子。
「じゃ、行こう」
 俺の手のあたりを見て、ライダーは憎悪と欲情の混ざったような表情をした。憎みながら渇望するような。渇望していることを憎むような。
 いつの間にか、俺は紐の繋がった小さな革ベルトを持ってた。仰々しい錠前が付いている。
 首輪だと理解するには、夢なんだって思い出さなきゃならなかった。
 何て、夢だ。感謝のしようも無いほど恩のあるライダーに、こんなことをしてるなんて。
 実は願望だったりするのかと思ったら、夢の中なのに吐き気を覚えた。自分じゃない自分を完全に楽しんでいたことに嫌悪を抱く。まともな判断をするのを、態と止めてたんじゃないかって、疑う。
「士郎……」
 でも、散歩を催促するライダーに手をペロリと舐められて、また、堕ちた。

 

/全男子渇望のイベント・ライダー編・session 1

 


 

 どうも、あからさまに夢と示してさえ士郎にこんなことをやらせると違和感が強く、受け入れてもらえるかどうか少々不安なのです。
 あと、続きを書く気はありますが、SM/調教系のネタに造詣は浅いので、プレイ内容等に希望があればお聞かせくださいw もっとも、あまりハードなものは私には無理です。また、採用できなくてもご容赦くださいませ。

 

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