黄昏城の女魔術師


 

◆1

「もう、判ったわよっ」
 君の目の前で、遠坂凛が大きな声を出した。
 それは、心を開いている証拠だ。隙のない猫っ被りを除けて素の姿を見せる相手は、美綴綾子でなければ君ぐらいのものだ。
 ここは人気の無い放課後の校舎、君の教室で二人きり。
 凛の頬が赤いのは、半分は怒りのせいだけど、あと半分は羞恥。君を睨んでいるけど、その眼には、かすかに涙がにじんでいるみたい。
「で、どうすれば良いのよ」
 せいいっぱい虚勢を張っているのが判る。
 君の言葉を聞いた凛は、息を呑んだ。
「……覚えてなさい」
 クラスでの顔に似合わぬ呪いを吐きながらも、凛は従う。
 その事実に、君もまた息を呑む。
 学内に、遠坂凛を知らない生徒なんて居ない。絵に描いたような優等生にしてアイドル、学業はもとよりスポーツだって抜群。容姿については言うまでも無い。数多くの男子生徒が多かれ少なかれ憧れを抱き、誰もが自分の手なんか届かないと思っている高嶺の花。
 君だって、ご多分に漏れず、ずっと声一つ掛けるのもままならないでいた。
 その遠坂凛が、君の言いなりになっている。
 おずおすと凛は、制服の襟元を飾る紅いリボンタイを解き始める。
 ベストのボタンを外す。
 ちょっとためらい、ますます睨みながらも、ブラウスのボタンを外していく。その手が震えているのを見て、君は自分の鼓動の速さにも気づく。
 君は今、学園のアイドルにストリップを演じさせているのだ。自分で求めておきながら、君自身が一番信じられない。こんな場所で、という思い。
 まさか、承諾されるとは。
 君に対する小さな負い目が、凛を従わせている。結局は、後で思い切り仕返しされることだろうけど、今だけは遠坂凛が君に服従している。
 ボタンが全部外され、ここに来て横を向くと、大きく息を吸う。
「ほら」
 気合を掛けて、凛はブラウスの前を開いた。
 白い肌が、晒される。むろん、まだブラジャーは残っている。でも、充分過ぎるほど刺激的な光景だった。
 遠坂凛が、君のためにシャツを肌蹴させているのだから。
 健康な輝きを見せる肌は、少しだけ上気していて、純白のブラとの対比が眩しい。胸のふくらみは、特別に大きくはないけれど、目を奪う魅惑に事欠きはしない。
 ちらちらと、君に恨みがましい目線を向けてくる。呟くように、凛は尋ねる。
「これ、も?」
 ブラジャーのことを言ってるのだと、すぐに判った。
 その臆病な態度に、君はまた、あらためて信じられない思いになる。
 あの遠坂凛が、こんな姿を、こんなところで。
 感動で喋れないでいるに過ぎなかった沈黙を、無言の威圧とでも解したらしく、唇を噛みながら凛は背中に手を滑らせる。
 端正な横顔に浮かぶ恥じらいに、興奮を抑えられない。後でどうなることか、怖れはするけれど、だからって止まらない。
 君の目の前で、ブラジャーが凛の胸から滑り落ちた。荒い息に胸が上下している、それだけが意識に上った頃、耐えかねた凛は両腕で前を覆ってしまう。体こそ君に向けているけど、ひねられて、顔は半ば後ろを向いてしまった。
 それでも凛は、要求を受けると、諦めたように両手を下におろした。酷い辱めを強いているのを自覚して、後ろめたくて、だけど熱くなる一方。
 遠坂凛が、教室で裸の胸を晒している。
 こんな姿、夢にも見なかった。
 こんな姿を、幾度と無く思い描いていた。
 君には、どちらも事実に思える。
 凛に憧れを抱く、男子生徒の多くは、学園のアイドルを文字通り偶像にしている。神聖不可侵の聖女のように。それこそ、トイレに行かない人間が居たって良いじゃないかってぐらいに。
 そしてまた、男子生徒の多くが、妄想の中では自在に凛を慰みものにしていた。凛を組み伏せる自分を想像したことぐらい、多くの男子にはあることだろう。
 矛盾はしない。つまるところ、自分にだけは恵みを垂れてくれる聖女であることが望みなのだ。
 露わになった凛の胸は、夢のように綺麗だ。形良く清楚にふくらんでいて、凛の高貴なイメージに似つかわしい。白い双丘の頂には、小さな乳首が宝石のよう。ツンと上を向いた感じで、君は吸い付きたくてならない。
 触りたい。
 君は生唾を飲む。
 ほんの暫く前までは君も、凛を遠くから眺めてため息を吐くばかりの大勢の男子生徒の一人だった。
 それが今、手を伸ばせは素肌に触れられる。形の良い、柔らかそうな、だけどちょっと気の強い感じのする凛のバストにだって触ってしまえる。
 その事実をやっと飲み込んで、両手を伸ばす。
 意図に気づいて身を硬くする気配を無視して、君は凛の乳房に手を当てる。
 まるで、電撃を受けたみたい。指と掌に伝わる、形容しがたい、官能の息吹。
 柔らかい。
 温かい。
 張りのある、しっとりとした肌触り。力が入り過ぎるのを必死で抑えながら、君は手を凛の胸の形にそって滑らせる。生クリームみたいに柔らかいのに、弾んで指を押し返す。肉の奥に凛の鼓動を感じながら、君も同じぐらいに早鐘を打っている。心臓が破裂しそう。
 感触もさることながら、単純に、遠坂凛の乳房であることが君を官能に駆り立てていく。自分の体じゃないみたいに、両手は勝手に凛の胸を揉みしだく。放課後とは言え、まだ誰か居るかもしれない校舎、そんなところでふしだらな行為に耽っている。その背徳の香気に打たれる。
「つっ、痛い……」
 つい、強くなり過ぎたらしく、凛は苦痛を訴える。見れば、凛の白いふくらみに、薄紅く指の跡がついてしまっている。悪いとは思いながら、凛に自分を刻んだみたいで君は興奮してしまう。
「んっ……」
 恐る恐る指先で乳首に触れたら、今度は押し殺したような喘ぎを上げてくれた。
 ごくん、と君はまた唾を飲む。
「あっ……」
 指先でそれぞれ乳首を転がしてやると、凛が喘ぎを漏らすのと共に、硬さを増して行く。それを指摘すると、凛は体をわななかせ、だけど言葉は発しなかった。君が目線を上げると、唇を噛んでいた。
 摘み上げて、君は胸に顔を近づける。凛が震えているのを感じる。聖女を穢す思いに、ためらうのと共に、猛る。ほのかに凛の肌が薫って、脳天まで突き抜けた。
 意を決するように舌を突き出し、ずっと憧れていた女生徒の乳首を舐めた。まさに、高嶺の花に唾をつけた。クラスの男子に知られたら、きっとタダでは済まない。
 それぐらい、凛にこんなことが出来るんだったら問題じゃない。
「あっ……ふ……」
 びくんと身を震わせながらも、凛は健気にじっとしている。罪悪感と、その何倍もの昂りに駆られて、君は乳首に吸い付く。
 ぴちゃぴちゃと音を立ててしゃぶる。何度も口付け、舌先で転がす。キャンディみたいに甘い気がして、ひたすらに舐める。凛の肌が熱くなっていく以上に、君の頭の中は沸騰していく。
「んん……ふぅ……」
 抑えられずに漏れる凛の声が、耳で融けて頭の中に流れ込んでいく。
 凛の胸に頬を擦り付け、滑らかな肌と温もりを楽しむ。ふにゅ、と潰される胸の感触。存外に大人しいから、君は少しずつ大胆になっていく。
 舐め回す舌に、少し塩気がする。凛が汗をにじませているのだ。変態っぽいとは思いながらも、そのことに臍の下を滾らせている。当たり前だ、遠坂凛だって汗をかくし、その匂いを気にしたりもするんだ。
 肌の匂いをたっぷりと嗅いだ。
 そこらじゅうに唇を押し付け、吸い、キスマークを残す。
 遠坂凛の胸に、君の証を印していく。
「ん……」
 のけぞっていた凛が不意に俯き、二つ束ねた髪が揺れて君の頬を撫でた。
 見上げると、蕩けたような凛の眼を覗き込むことになり、憚られて視線を逸らす。そのまま反対側の乳首に移って吸い付き、さっきと同じように執拗な愛撫を繰り返す。もう君の唾液塗れになっている方の乳首は、指で玩弄を続ける。
 君の頭に何か触れ、凛が撫でてくれたらしいと気づいて、一瞬硬直してしまった。
 気を取り直して、ちゅうっ、と乳首を吸い、そこを舌で突っつく。
「ああっ!」
 ひときわ高い声を凛に上げさせて、君はひとまず満足し、それでも名残惜しくは思いながらも凛の躰を離れた。唾液に塗れて光る凛の乳首は君の愛撫に応え、どちらも尖っている。サクランボとか苺とかって喩え方があるけど、もっと遥かに甘くて美味しかった。
「……これで、満足?」
 胸に見とれていた君に、凛が尋ねる。
 今の凛は、睨んでいるのか流し目なのか判らない。怒りが羞恥を上回っている気配だけど、官能も充分浮かんでいる気がする。

 君は――――

 NOと返事する  ……………… 34へ
 YESと返事する  ……………… 58へ


 

◆9

 君は、厳しいプレッシャーを押し返して、まだ駄目と告げた。

「何よ、まだ何かさせるつもり?」
 ギロ、と音が聞こえそうな目付きだ。
 させるつもりは無いから再び否と口にしながら、君はしゃがんで凛の足を掴む。
「きゃ?」
 そのまま、凛の腰掛けている机の上に、両足とも上げてしまう。机をもうひとつ引き寄せて、凛の背後の方にくっつける。
「ちょっ、やぁっ」
 ついでに、スカートを膝からめくり落とす。膝に手を当てて開かせると、机の上に、すらりと長い凛の脚がMの字を描く。黒く艶やかなニーソックスが、太腿とショーツの白さを際立たせている。
「馬鹿、何よ?」
 君は答えない。代わりに、剥き出しの太腿に頬を寄せた。
「もうっ」
 引き締まった脚は、それでも柔らかくて気持ち良い。君は膝から手を滑らせて撫で下ろし、ニーソックスの中に滑り込ませる。
 凛の脚が震える。薄い布地の中で内腿を揉んだら、くすぐったいらしく、笑いが漏れている。なんとなく湿り気を感じて、君はそんなことにもドキドキしている。欲情を開放して間もないのに、凛の躰に触れてしまうとまだ全然足りない。
「ひゃっ」
 頬擦りしていた太腿にキスしたら、凛は可愛い悲鳴を上げた。君は口を大きく開けて、甘噛みしてしまう。舌を這わせる。逃がさないように膝を抱え、べろべろと舐め回し、ここにも歯形やらキスマークやらをたっぷりと刻んでいく。
 舌の辿ったラインが光って、ナメクジが這った跡みたい。遠坂凛の前だと、それぐらいの対比に思えてしまう。
「んっ……変態っ」
 だから、これぐらいのこと言われても、凛の体中にマーキングする快感は堪らなかった。
 官能をくすぐる甘酸っぱいような匂いがして、気になって頭を上げる。見れば、すぐに判った。
 白いショーツの中心のあたりが薄く透けて、黒い翳りが浮き上がっている。凛は、しっかり女を濡らしていた。
 君はそこに唇をあて、ふうっと息を吐く。
「んんっ」
 喘ぎながら、掴もうとするみたいに凛が君の頭に手を当てる。鼻から息を吸って、凛の匂いで胸をいっぱいにする。
「ヘンなことしないっ」
 凛が頭を押し剥がそうとしてくるけど、君は太腿に腕を絡めて抵抗する。歯でショーツの布地を引っかいてクリトリスを探り当てたら、びくんとして力が弱まった。
 君は、ショーツが濡れていて、それが良い匂いだとか、そんなことを口にする。
「そんなこと、一々言わないっ」
 君は髪を掻き毟られながらも、凛がどんな顔をしているのかを想像する。見ない方が良さそうな予感がして、顔は上げないでおく。内腿のギリギリのあたりに左右かわるがわる口付けたあと、するりと腰骨のところからショーツに指を入れる。
 一応、脱がすことに承諾を求める。その実、君は凛に意識させて、恥ずかしがらせたかったのだ。
「だからっ、一々訊かないっ」
 思う壺、だけどこんなに上手く行くと後が恐ろしい。
 いざ脱がすとなると、胆力が要った。えい、とばかりにショーツの中に手を滑り込ませ、脚を揃えさせて、ずり下ろす。思いがけず楽にお尻を越せて、凛が自ら腰を上げてくれていたことに気づく。お礼のつもりで、君はいきなり谷間に舌を這わせる。
「ひっ」
 長い脚を上げさせて、邪魔な靴を脱がし、ショーツを抜き取る。元通り、Mの字形に脚を曲げさせた。そこが机の上だから、君はここが教室なのを思い出す。もう何度目だか判らないけど、自分に秘所を晒してくれているのが遠坂凛だなんて、嘘みたいだ。
 顔を見れば、凛は、腹を括ったように挑みかかる目を君に向けている。でも、口元に浮かぶ笑いには承諾を読み取れる。照れてはいるけど、嫌がってはいないのだと判る。
 毎日を過ごしている教室の机に、胸も腰も露わな遠坂凛があられもない格好で座って、笑いかけてくれている。黒いニーソックスの先に白い肌があって、その中央には黒い翳り。妄想じゃないって確認するみたいに、君は凛の脚の間に顔を埋めた。指で広げると、翳りの内に肉色が覗いた。
 こんなに綺麗な色は、他に知らない。
 ちろちろと、舌を使う。そんな味はしないことぐらい、君は知っている。だけど、とろりと凛の秘部を濡らす蜜が甘くないのが不思議な気がする。もっと舐めたら甘くなるかな、なんて具合に味見を続けた。
「んっ、ふぅんっ……」
 凛の膣口に指を当てる。そっと押すと、狭い孔ながらも進行を阻むほどの抵抗はなく、指は凛の中に入っていく。
 遠坂凛が現に処女じゃないなんて、誰が想像しているだろう?
 凛をひたすら心の聖域に祭っている男子たちの場合はもちろんのこと。妄想ではどれだけ淫らな凛を描いていようと、あんなのに限って裏じゃ凄いんだぜ、なんて口にしていようと、それは凛のバージンが揺ぎ無い前提なのだ。たとえ犯してやりたいと思っていても、既に非処女な凛を想定する男などいない。
 だけど君は、凛のヴァギナが開通済みなのを知っている。初めてこの聖地を犯したのが誰か、もちろん知っている。
「ぁんっ、ひぁっ」
 君の指が二本、ずぶずぶと膣に潜り込む。蜜を含む肉襞が絡みついて、締めてくる。奥の方で何となく感触が違うようなところがあり、そこに触れると凛が啼く。
「ひぁあっ、だめっ、そこ……」
 君は耳を貸さず、余計に集中した。凛の艶声が体の末端まで沁みて行く気がする。凛の匂いが体を肺を満たす。顔を挟みつける内腿が頬に温かく弾んでいる。ちゅ、と、しばし休んでいた口を、また働かせる。指を突き入れているすぐ上で、尖塔を唇に挟みながら、凛の蜜の本当の味を確かめる。
「だめ……」
 拒絶の言葉が、君には、ねだっているようにしか聞こえない。めくり上げるように、クリトリスを舐めた。
「ひんっ、ひゃうんっ」
 小さな突起が、ぐにぐにとした感触で君の舌先と擽り合う。痙攣しそうなほど舌を震わせ、唇で摘み上げようとする。ぐちゅぐちゅ、指の出し入れを速める。空いている手で腿を撫で回す。
「あふぅっ、んぁあっ! ぅんっ……」
 溢れるような凛のジュースが突き入れた指で跳ねて、顔が濡れる。手が君の頭を掴み、髪が引っ張られて痛いけど、凛に酔い痴れて気にもならない。
「んあっ、くんっ、ふぁうぅ……」
 さっきの君みたいに、達しかけている凛もまた、名を呼んでくれる。耳にして、嬉しくなる。愛しくて、滾って、指を突きまくってしまう。噛み付いてしまいそうだから口をいっぱいに開き、舌だけを動かし続けた。
「ひっ、ふぅんっ、はふあっ、んぁあっ……!」
 凛の声がクライマックスを歌い上げ、苦しいほど太腿で君の顔を挟みつける。それと一緒に、今までになく指が締め付けられて痛いぐらい。絞り出されたみたいに、こぷっと蜜が溢れてくる。腰を浮かして秘所を君の顔に押し付け、揺する。
 がくん、と力が抜け、机から凛の脚が滑り落ちた。喘ぎが終曲を奏で、荒い息を吐きながら、凛は、しつこく舌だけは動かしていた君の頭を小突く。
「もう、いつまでしてるのよ」
 言われてやっと、君は体を起こす。ぼうっとした様子で凛は机に仰向け。その姿に、感動を覚えながらも、やっぱり君は落ち着かない気分にもなる。顔だけを君に向けた凛は、相変わらず激しい目付きだけど、快感の名残で柔らかくなっていた。
 普段なら何処にも隙のない凛の美貌が、今はしどけなく緩んでいる。口の端から涎の零れた跡がある。汗で額に、ほつれ髪が張り付いていた。
 惚れた欲目か、そんな凛の顔だって、君には天上の芸術だった。
「んんっ……もぅ……」
 凛が起き上がり、お尻を動かしたから、机の上に落ちた蜜が溜まっているのが見つかる。凛が途端に上気した頬を更に赤くする。目が合ってしまい、君も頬を火のように熱くする。
 そっぽを向きつつ、ごにょごにょと凛が呟いた。
「この机って……」
 君のものではない。そのことに、むしろ少し安堵する。もし自分のだったりしたら、思い出してしまって、明日から正気で席に座ってなんか居られないところだろう。
 ただ、明日からもこの席に座る生徒が居るのが困ったところ。
 そんなこと、させられない。
「後で、どうにかしておくのよっ」
 照れまくった様子の仰せに、君は是非もなく返事をした。
「……ところで、また、そんなにしてるのね」
 凛が、君の腰を見て、もっと目を伏せて、そんなことを言う。
 ずり下ろしたままだったズボンの上で、君の性器は、まだ隆々と張り詰めている。口ごもって言い訳する君に、凛は思いがけない言葉を掛けてくれた。
「……したい?」
 意味を理解して、君は驚くと共に、にやけてしまう。

 君は――――

 したい   ……………… 86へ
 したくない ……………… 27へ


 

◆14

 死んでいる。
  ここに来てしまったということは、死んだと言うことだ。理不尽でも納得がいかなくても、君は首の無い絶世の美女のように矛盾無く死んでいる。
 幸い、本物の人生とは違って、ここでは死さえやり直すことはできる。人生の他の大方の種類の失敗のように。

 やり直すなら、良い知らせと悪い知らせがある。
 まず良い知らせとして、君の精力点を原点まで戻して良い。望むならサイコロを振り直して新しい原精力点を決めても良い。面倒なら、一番大きな数字が出たことにしてしまっても良い。
 悪い知らせは、凛のご機嫌点も原点に戻さなければならないと言うことだ。

 地図を書くほどのことはないだろうが、今までにどの選択をしてきたかぐらいはおぼえておくと良い。

 準備が出来たら、始めに戻ろう


 

◆27

 これぐらいが潮時だろうと思って、やめておくって君は答えた。いいかげん、ばれたら怖いし。
 そうしたら、いきなり凛が叫ぶ。
「何よ、することが半端ね!」
 が〜っ、と凛が吼えている。
 どういうわけか、激しい怒りを買ったようだ。
 いつの間にか凛の姿が変わり、可愛らしい三つ叉の矛を手にして、ぱたぱた小さな翼を羽ばたかせている。ベロを出して、あかいあくまは呪文を唱えた。

「ザキ!」
 しかし、MPが足りない。
 そうなるはずだったのに、あかいあくまはウッカリしていた。君の精を飲んだばかりだったのがいけなかった。

 ばっちり利いてしまったから、ゲームが違うってば、と突っ込みを入れたら、諦めて14へ


 

◆34

 しおらしい態度にゾクゾクしながら、君は、首を振った。

「……じゃ、今度は、何よ」
 君が望みを口にすると、凛は複雑に表情を歪めた。
「調子に乗ってるでしょ」
 しかし、拒むことは無かった。机の端に腰掛けた君は、学校中の生徒の憧憬の的たる女の子をひざまずかせる。見上げてくる凛の顔から、いつもなら湛えられていた自信と余裕は霞んでいる。
 それでも凛は、従ってくれる。人を見下すのではなく、勝手に見上げさせてしまう光背だけど、それが和らいでいる。
「準備ぐらい、自分でしなさいよ」
 君が恐ろしさと共に覚えるのは、紛れもなく愉悦。
「……それも、わたしにやらせたいわけ?」
 文句は口にしながら、ためらいながら、でも最後には君のお腹に手を伸ばす。ベルトに手をかけ、バックルを外し、抜き取る。ボタンを外してジッパーを下ろし、凛はそこで硬直した。
「あ……」
 君の男性器がすっかり張り詰めていたのは、あたりまえのこと。興奮しまくっているのだから。凛にも判っていただろうけど、眼にして平気では無かったようだ。そして君も、凛にさせようとしていること、それが今更、頭に血を上らせる。
 君まで動けなくなっていると、凛が先に我に返り、開き直ったようにズボンを引き摺り下ろす。君が腹を括らないうちに、トランクスまで下ろされてしまった。大きくなった君のイチモツが、憧れだった女の子の端整な顔の前に突き出されている。自分のものが酷くグロテスクに思えて、君は激しい羞恥に萎えそうになる。
 でも、それも、凛が触れてくるまでのこと。
「二度とこんなこと、許さないからね」
 上ずった声で口にしながら、遠坂凛が、君のペニスを指に包む。女の子らしい手が、輪を作って君の性器を擦り始める。自分のと同じ構造をしているのが信じられないような、しなやかに長い綺麗な指。目にしている光景が妄想でないと信じられるのは、指の感触が自分のものとはあまりに違って甘美だから。
「ん……」
 少し冷たいような指が気持ちよくて、ますます張り詰め、硬くなるのが判る。君のものを擦りながら、凛が小さく息を吐いている。真っ赤にしている顔からは、怒りが薄らいで、別のものに変わっている。
 遠坂凛も、いやらしい行為に昂っている。
 君が快感に呻くと、凛は顔を上げる。羞恥の笑いに悪戯な気配が加わり、途端に、ペニスの先端にキスしてくれる。
 はうっ、とばかり、君は喘ぐ。遠坂凛の唇が君のものに触れて、そのまま離れず、形をなぞってくれている。ピンク色の舌があらわれ、ぺろんと亀頭を舐めた。
 寒気のような快感が背筋を駆け上る。ぺろん、ぺろん、と続けられて、君は快感に脳天まで貫かれる。
 君の過敏な反応に気を良くしたらしく、頭を揺すって大きく口を動かし、凛は大胆に舌を使い始める。
 遠坂凛に教室でフェラチオさせたなんて、誰に言っても信じないだろう。夢と現実ぐらいは区別しろとかって、どやされるのがオチだ。あるいは、凛を偶像化している男子に聞かれたら、タコ殴りにされかねない。
 でも、現実に今、凛は君のペニスをしゃぶっている。数多くの男子が妄想し、叶うことを夢にも思わないでいることを、君は正に今体験している。
 学園一の優等生が、根元から君のイチモツをつーっと舐め上げ、先っぽを啄ばむみたいに唇で挟む。じれったいぐらいのやり方だけど、これ以上激しくされたら、すぐに達してしまいそう。
 君は、うわごとのように名前を呼ぶ。
 凛が小さく笑ってくれたことが、無闇に嬉しい。
「もう、はやくっ……しなさい……」
 怒っているというよりは拗ねた声で、凛が言う。同時に、しばらく遊んでいた手が脚の間に伸びて、君の睾丸を弄び始める。その上、大きく口を開けて、とうとう凛は君のものを咥えてくれる。
 そういう厭味はなくともお嬢様には違いない遠坂凛。そこからはすれば意外な、被った猫を脱いだときの気の強さを君には見せているから、噛みつかれそうな気がして少し怖い。だけど、そんなことはされない。
 芸術のような顔立ちをした凛の口に、君のものが突き入れられている。少し息苦しそうだけど、嫌がるでもなく、しっかりと唇で愛撫してくれる。君は、歯を食いしばるようにして耐える。凛の口の中で尿道孔の辺りを舐められ、そのままぐるぐると亀頭の周りを辿られて、ますます快感に沈んでいく。気がつけば、また名を呼んでいた。
「……こうするの、良いんだ?」
 凛が、息を継いだついでに君をからかっている。やたらに恥ずかしい、それでも君は嬉しくてならない。正直に、もっとして欲しいと、ねだる。
「今回だけなんだから、ね」
 と、咥えてくれた。
 さっきより、ぐっと奥まで。
 ちゅぷ、ちゅぷ、と音を立てて、君のイチモツをしゃぶる。頭の上下に合わせて、束ねられた髪が二房、揺れている。惹かれて、君は両手でそれを握った。跳ねるように凛が視線を上げたけど、拒む様子は無く、熱の篭った愛撫を続けてくれる。臍の下の方で、快感に何かざわめく。
 握った髪が、手綱みたい。君は遠坂凛の手綱を引き、男根に口で奉仕などさせているのだ。思っていたよりずっと激しくて、じゃじゃ馬っぽいけれど、何の不満も無い。
 夢じゃない。
 夢にしては、あまりに気持ち良過ぎる。
 君は快感に声を漏らしつつ、そろそろ堪え切れないと思い知る。
 また、名を呼んでいた。
 くちゅ、ちゅぷっ、って水音に合わせて、凛の黒髪が君の股間の前で揺れる。その凛の美貌も、官能に染まって見える。
 尚いっそう深く、凛が喉に受け入れてくれる。穂先が喉の奥を突いていて、酷い目に遭わせてるみたいで、でも凛が自分からしてくれているのだ。吸われて、痛いような感じもするけど、快感に比すべくも無い。また精巣を握られ、君はほとんど悲鳴を発する。
 限界。
 手を握り締め、凛の髪を掌に爪で食い込ませている。腹の奥で何か融けている。ぐつぐつ沸き立って、出口を求めている。
 ぐるんぐるん、さっき握られた君の弱点を突く舌使いをみせてくる。
 堪ったもんじゃなかった。
 放課後の教室で、学園のアイドルをひざまずかせて、淫らな口唇奉仕をさせている。だけど、遠坂凛は少しも穢れたようには思えず、変わらず君の憧れの女の子。凛でシたこともあるけど、無論、これほど気持ち良くはなかった。
 融ける。蕩ける。弾ける。
 腹の奥から噴出す快感に痺れながら、それでも図々しく凛の頭を押さえつけている。二度三度と、喉まで突きつけていた。またもう一回、名前を呼びながら、凛の奉仕で君は達した。
 その可憐な口に、たっぷりと欲情をぶちまけた。
 それだけでは飽き足らず、まだ吐精の続く中、口からペニスを引き抜いて凛の花顔に突きつける。
 びゅくっ、とまた白いものが吐き出され、遠坂凛の顔を汚す。嬉しいことに、凛が手でペニスを扱いてくれて、更にまた吐き付けた。飛ぶだけの勢いを無くして先端から垂れる粘液を、凛は自ら接吻して舐め取ってくれる。
 君がその仕草に感動を覚えていたら、ぱくりと咥えて、尿道に残るぶんまで吸い出してくれた。
 どうにも嬉しくて、乱暴に突き入れたことが申し訳なくなって、君は凛の頭を撫でる。顔を上げた凛の照れた笑顔がひどく眩しい。眼光の鋭さも、腹立ちではなく自己を誇示する気配。そこに自分の精子が張り付いている。男の精に顔を汚されていたって凛は綺麗だから、征服感に酔いながら、やっぱり後ろめたい気がした。
 指で凛の顔から拭い取ってあげると、君の手を凛が捕まえる。悪戯に、あるいは子悪魔のように笑い、凛は君の指を舐めてくれる。甘い蜜でも味わうみたいに、君の吐き掛けた精液を啜り取ってくれる。
 奉仕を強いたにも関わらず、こんなことをしてくれるのが嬉しくて、君は凛にお礼を言った。凄く気持ちよかったとも。
「こんなこと、褒められたって複雑よ」
 反発はしているけど、好意が感じられた。
 それが無性に嬉しいから、君は凛に対する自分の好意の大きさを噛みしめる。
「それで……もう、満足よね? こんなことまでしてあげたんだから」
 不安は浮かべつつも、NOとは言わせないわよ、と迫るように凛が言っている。
 凛のフェラチオで逝った余韻がまだ抜けていない、そんな君に向き合って、同じように机に寄りかかりながら。
 肌蹴たままの胸元を手で押さえつつ、イイ笑顔を君に向けている。

 君は――――

 満足      ……………… 71へ
 まだ、足りない ……………… 9へ


 

◆43

 満足とかって言い方もどうかと思い、君はただ頷き、凛に倣って衣服を整える。

「……こんなこと、二度と無しだからね?」
 君の手を取り、凛が宣告する。
 君はイエスの返事をした。逆らえやしない。初めに凛を従わせた小さな負い目のぶんなんて、遥かに超える恵みを君は貰った。
「っていうより、こーんなことして、判ってるんでしょうね?」
 何を判っていれば良いのやら。
 思いながらも異論は無く、君は凛の手を取る。
 もういちど、口付けた。
 激しく舌を絡めるわけでもなく、柔らかに唇を触れ合わせて、ほんの軽くちろちろと舌先を突き合うだけ。そんな優しいキスが、痺れるように気持ち良い。
 凛の唇がこんなにも美味しいのは、この子が学園のアイドルだからとか高嶺の花だからとかじゃなくて、ただ、君は遠坂凛が大好きだから。遠坂凛もまた、君を大好きでいてくれるから。
 だけど、大変な女の子を好きになってしまったもんだ。
 今更ながら、君は痛感する。ただでさえ一生頭が上がりそうに無く、惚れた弱みはがっちりと握られている。
 だけど、君になんの異論もあろうはずはなかった。
 凛と手を取り合った君は、日の暮れた教室を並んで後にした。

 …………………… 100へ


 

◆58

 これ以上は許してくれないだろうと思って、君は頷いた。

「……ほんとに?」
 複雑な表情の凛に、やっぱり怒ってるみたいだと焦りながら、君は重ねて満足したと答える。
 なのに、凛は余計に怒りを露わにする。
「何よ、することが半端ね! 私になんか相手じゃこれ以上のことしても嬉しくないっていうの?」
 えらく怒らせてしまったらしく、ちょっとキャラが違う気がする言動に及んでいる。
「良いわよ、それじゃ、私なんかよりもっと良い相手を呼んであげるわっ! ……ざりあとなとみくす、やんな、えてぃなむす、はいらす、ふぁべれろん、ふべんとろんてぃ、ぶらぞ、たぶらそる、にさ、うぁるふ=しゅぶ=にぐらす。だぼつ・めむぷろと!」

 幸い、召喚されるものが何なのか理解する前にSAN値を充分失った君は、14へ


 

◆71

 凛のプレッシャーに押され、流石にこれ以上は駄目かと思い、満足だと君は答えた。
「……ふーん?」
 凛の意向を汲んだつもりだったのに、凛は却って目が据わる。
「つまり、私にサービスさせて自分だけ気持ち良くなればそれで良いってわけね?」
 そんなことはない、と慌てて取り繕うけど、聞いてくれない。
「良いわよ、ほら、もっと何回でも吐き出させてあげる。じっとしてなさいっ」
 凛が何事か唱えた途端に君は金縛りに遭い、あかいあくまが再び君の足元に座り込む。射精したばかりで敏感なペニスが再び握られる。嬉しいことのはずなのに、どうにも死の予感しか感じられない。
「魔術書で読んだだけで実践経験は無いけど、すっごく気持ち良いみたいだから文句ないでしょ?」
 なんでさ、などと思う間もなく、効き過ぎた凛の性魔術が発動し、苦痛と区別の付かない快感で君を六次元まで吹き飛ばす。

 サイコロを六回振った合計だけ立て続けに射精して、乾涸らびたら14へ行け。


 

◆86

 もちろん、したいって答えた。

「良いわよ。どうぞご遠慮なく、今更でしょう?」
 ここに来て、凛の方がよっぽど腹が据わったみたいだ。
 反撃しようと、君は、また凛の足を取る。
「ひゃ?」
 両脚を高々と上げさせ、二つ並べた机に仰向けに寝させる。ニーソックスの長い脚が今度はVの字。臑を掴んで、凛のふくらはぎで君の頭を挟む格好にする。まだ姿勢が定まらない凛が身じろいでいる。君は手を伸ばし、ブラウスとベストを払いのけて、胸が良く見えるようにした。
「やんっ」
 口には出すけど、そのままにしてくれる。さっき付けてしまった愛撫の跡がまだ肌に残って、生々しい。
 君は、凛の脚の間に怒張を挟み、そっと腰を前後させる。ペニスの裏側が凛の秘唇に擦り付けられ、愛液で濡れていく。きめ細かな太腿の肌に撫でられ、それが充分に悦楽。
「あんっ」
 擦り付けられるだけで、凛も感じている。だけど、内腿の柔肉に挟んで貰っている君に比べれば焦れったいのか、恨めしげだ。それを理解はしながら、君はもう少し凛の素股を楽しむ。ときどき、ソックス越しに脚にキスしたりしながら。
 実際、このまま逝ってしまえそうなぐらい、気持ち良い。
「ちょっと、もう!」
 蕩けた目で、凛が君を見ている。いや、睨もうとしているみたいだ。
「ぁんっ……。もう、したいんだったらっ、はやく、しなさいよっ」
 焦れったさに耐えられなくなった凛が、乱暴な口をきく。
 ぞくぞくするような愉悦を覚えながら、君はそれでも、ただ挟んだだけで腰を振り続けた。
 何も、いじめたいんじゃなくて、入れてしまったら余裕は持てないから。
 今でも、気を緩めたら逝きそう。
「ふぁんっ、ぅ……」
 ふくらはぎに頬擦りして、膝を擽って、のびやかな美脚を堪能した。足の裏に唇を付けたりまで。
「ちょっ、なにっ」
 そんな君の行為に、凛は焦った様子だった。
「もうっ……、入れてよ……っ!」
 とうとう、凛が挿入をねだる。
 遠坂凛が、自分を犯して欲しいと、君のペニスが欲しいと、それを自分の中に入れて欲しいと、ねだっている。切なげに、もう我慢できないって様子で。
 その事実だけで、逝ってしまいそうだ。
 そんな失態はどうにか回避し、凛の脚を肩に担いだまま、片手で探って秘所に指を入れる。
「んっ……」
 一瞬、凛の顔が喜色に満ちる。
「……いじわるっ」
 でもすぐに、君を睨んでくる。
 別にそんな意図は無かったのだが、入れたのが指だったから、凛は君がまだ焦らしていると思ったらしい。
「もう、ちゃんと入れてっ、その大きいの……」
 消え入りそうに恥じらいながら、でもきっぱりと、凛は口にした。
 君ももう、余裕は残していない。
 先に入れていた指をガイドに、ずぶりと凛の中に君自身を沈めた。
「んぁんっ」
 凛が、衝撃と官能に啼く。
 君も同じぐらい、呻く。
 半分ほど男根を突き入れた。凛の媚肉が触手みたいに絡んでいる気がする。温かくて、むしろ熱くて、火傷しそうな錯覚。きゅるきゅると締め付けられる。快感を搾り出されて、動いたら果てそうなのに、じっとしていても終わりそうだ。
「ぁんっ、ふぅんっ」
 意を決して、腰を前に出す。ねっとりと肉襞に撫で付けられながら、君の性器が凛の中に奥まで入っていく。お尻に下腹部が当たるまで腰を突き出すと、凛の満たされたような表情が見られた。
 しっかりと凛を脚を抱きながら、今度は腰を引いていく。凛が机の端を掴んでくれているから、ゆっくりとペニスが引き出されていく。わずかな脚の隙間に恥毛が見えて、その陰で凛のヴァギナが君を呑み込んでいる。
 君は今、遠坂凛を犯している。
 否、君は今、遠坂凛と愛し合っている。
「うふっ……ぁんっ……」
 ずぶ、と突く。気を遣りそうで、堪える。ゆっくり、引く。凛の下の口は放そうとしてくれず、引くのもまた悦楽。
 それでも少しずつ馴染んで、快感は高まる一方だけど、安定してくる。
「んっ……んんっ……あふっ……」
 君の刻むビートに合わせて。凛のハミングがリズム良く響いている。君の演奏に、凛は子気味良く応えてくれている。君が感じている喜びも、ちゃんと共有しているだろう。
 大きなストロークで、ゆったりと遠坂凛を味わう。これ以上速くしたら、終わってしまう。しがみ付くような凛の中は、めまぐるしく感触が変わる気がする。幾ら馴染んでも、単調にはならない。飽きるなんてことはありそうにない。
 だんだん、頂点が見えて来ている。
 かたん、かたん、と机が揺れる。
 見れば、凛が片手を君に差し出している。君も手を伸ばして握ってやると、引き寄せて凛は体を起こそうとする。姿勢を譲って応じれば、凛はもう一方の腕で君の首にしがみ付く。
 君は脚を離して、凛を抱き寄せた。蕩けきった表情で、凛が笑ってくれる。
「んふっ……」
 唇を重ねる。思えば、まだキスはしていなかった。口付ける前にフェラなんてさせたことが、今更ひどい悪行な気がした。互いの淫液を啜った口を、ためらい無く吸いあう。舌が絡む。凛の唾液は、これまた甘いシロップの印象。
 腰使いをしばし休んで、髪の毛を撫であう。背中を擦りっこする。じれったいけど快感。愛しくてならない。君に、一人の女の子に落されてしまった学園のアイドルは、だけど、それを悔いてなんかいない。
 キスの合間に、たっぷりと睦言を交わす。
 腰使いを休んでいるから、温かくて快いけど、もの足りなくて疼いて来る。凛の方も、知らず知らずみたいだけど、腰を揺すって催促している。
 それについて、嬉しくて突きまくりたいのを堪えながら、君はまた意地悪に囁く。
 代償は、背中に突き立てられた爪。
 お詫びに凛にしっかりと捕まらせ、両膝を抱えて、持ち上げた。
「きゃん?」
 戸惑った凛の喘ぎ。凛を正面に抱えて立ち、リズミカルに揺する。さっきまでより、更に奥まで入ったみたい。
「あ、ん、くんっ、ふぅ……」
 速くなったピッチに合わせて、君の首っ玉に抱きついた凛が歌う。深いところを抉られて、オクターブほども上がったみたい。すぐ耳元から聞こえてくるから、媚薬みたいに君を侵していく。
 ストロークは小さく、凛の膣が緻密に喰らい付いて、性感に溶けた君のペニスを遠慮なく食べようとしている。
 ずんっ、ずんっ、と強く腰を使う。
 凛が頭を仰け反らせ、口を大きく開いている。慌てて、必死でしがみ付いてくる。落したりしないように、君もまた必死で支えている。
 それでも誘惑に勝てず、腰使いは激しくなる一方だ。
 こんなに乱れた遠坂凛が、この上なく愛しかった。
「んんっ、あふんっ、ひゅあっ」
 そして君はまた、ピッチを優先させる。どうにか、強さを落さないままで。
 よりいっそう、凛がしがみ付いてくる。体が密着する。湧き上がるものに耐えかねた凛が、君の肩に噛み付く。ちょっとぐらいのその痛み、君自身で凛を貫く法悦の前には、どうと言うことも無かった。
「あっ……んっ……」
 くぐもった呻きが漏れている。
 君の腹の奥で沸騰しているマグマが飛び出したがっている。堪えに堪えて来たけど、もう限界がすぐそこ。首に抱きつく凛の腕が暴れて、あっちこっち掴んだり爪を立てたり。あんまり凛の締め付けが強いから、出してしまいたくても塞がれるみたいだ。
 思い切り、貫通させる勢いで腰を突き、凛の体を上下させる。壊してしまいそうで怖いぐらいに強く。ストップなんて出来ない。壊れてしまいそうで恐ろしくなるほど激しく。手加減なんて出来たもんじゃない。
「あふっ、ふぁっ、んぁんっ!」
 自分でも信じられないぐらいのペース。アレグロ。突くほどに快感。揺するほどに法悦。君に抱きつく凛の膣内が異次元の悦楽。
 知らず、凛の名を口にしていた。繰り返し、愛しい女の子の名を呼んでいた。君は、それしか言葉を知らないみたいに名前を叫び続けていた。
「ああっ……あんっ……」
 凛もまた、喘ぎの合間に、切れ切れに、君の名を呼んでいた。それ以外に、何一つ意味のある言葉を発してはいなかった。二人とも、世界に互いしか大事なものが無いみたいに、お互いしか存在しないみたいに、ただ名前だけを呼び合いながら、全身を貫く快感に溺れていった。
 君が絶頂した瞬間、快感のあまり気絶しそうで、それでも凛の体を支え続ける。一緒に達した凛の体から力が抜けて、崩れ落ちそうになって、それでも凛を支えた。
 愛しくて、愛しくて、君はただ愛しくて、抱きしめて、凛と一つになった快感に溺れながら、君と凛とは、一体感に酔いながら、ただ最後の一秒まで、瞬間まで、喜びを求め合い、与え合い、貪りあい、共有し続けた。
 それでもやがてトリップは終わり、まだ陶然としたままの凛を、君はそっと机に横たえる。焦点の合わない目をしたままの凛に口付け、無意識らしい舌の動きに応じる。やがて抱きしめられ、また長々と寄り添っていた。
 やがて起き上がって。
 凛が服装を整え始める。
「いい加減、まだ足りないとか言わないでしょうね?」

 君は――――

 流石に、満足      ……………… 43へ
 まだ全然足りないっ! ……………… 92へ


 

◆92

 いやあ、教室でHするなんて機会はもう二度とないだろうし、もう一回ぐらい良いじゃないか。

 そんな風に思ってしまったことが何故かバレたらしく、いきなり凛は左手を構える。
「この、ケダモノっ」
 ガンドなんて喰らったら堪ったもんじゃない。大慌てで逃げようとする君の背中から、果たして魔弾が飛来する。
「ええい、当たるじゃない、じっとしなさい!」
 出来るわけがないじゃないか、と君は逃げ回ったけど、今回ばかりは大人しくするべきだった。
 『当たるじゃない』って言葉通り、本気で当てるつもりはなく、それなりに威力も加減していたのだ。ただ、君が暴れたものだから、もとより余り狙いの良くない凛のガンドがたまたま当たってしまった。それがまた、ズボンを脱いだままだった君のタマタマに直撃で。

 悶絶して、君はそのまま夢時間に至り、酷い扱いに反抗期を迎えた息子と対決する羽目になった。
 君が負けた場合、息子に対して面目が立たなくなり、すっかり自身を無くして息子自身も立たなくなる。
 君が買った場合、威厳は保つものの、与えた負傷がもとになって息子はオシッコしか出せなくなる。

 どちらにしても同じ結末に世を儚んだ君は、夢時間から14に直行することを選ぶ。


 

◆100

 えー、阿呆な遊びにお付き合いいただきましてありがとうございます^^;
 二人称でエロ文、というのを前からやってみたいと思っておりまして、今回試してみたのです。が、意味には乏しかったかもしれません。どんな感じを受けるか教えていただければありがたいです。

 ちなみに、作者としては言うまでもなく “君=士郎” で書いたつもりです。まあ、他の読み方をされるのは読者様の自由ですが。
 尚、 “14へ” 関係のネタが判らない方は、これを是非。体位、その他、行為内容を選択式にするとか言うネタは、いずれまた機会があれば……いつの日か。

 充分確認したつもりですが、リンク間違い等あるようでしたら連絡をお願いしますm(__)m

 

/黄昏城の女魔術師・了

 

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