幕間の戯れ


/phrase1

 校舎を少し離れ、グラウンドの土の上に胡座をかいてみせ、男は言う。
「構わなければ、少し話さないか?」
 口元に手をやって女は一瞬思案したが、やがて隣に並んで腰を降ろす。
「見ての通り、オレはランサーだが、あんたはライダーで良いのかな?」
「ええ。他に当てはまるクラスも無いでしょう」
「いや、今回は変わり者が多いみたいだがね」
 まかりなりにもさっきまで殺し合っていたとは思えないほどリラックスしていた。ライダーの露出した肩やロングブーツ上の腿やを眺めつつランサーは続ける。
「しかし変わってるな、あんたも。停戦したとは言え、いきなり襲って来た相手に平気で近付くなんて」
「殺し合うのも良いですが、貴方のような男性となら、もっと楽しいこともあるでしょう」
 ライダーは体をランサーの方に向ける。投げ出していた脚が曲げられると、スカートの裾が捲くれて奥が見えそうになる。
「そいつは良いな。趣味の合わないマスターよりあんたと居た方が楽しそうだ」
「奇遇ですね、私も今のマスターとは趣味が合いません」
「へえ、不遇を託つ者どうし仲良くしたいところだ。そうは行かないのが悲しいが」
 手を伸ばしてライダーの髪を梳る。自分が槍で切り飛ばした部分を見つけて、律儀に詫びを言った。
「どこかの文化では、女の髪を切るのは強姦に等しい罪だそうですよ」
 ランサーは苦笑する。
「先の話ですが。今夜一晩は仲良しで居るのはいかが?」
 向き合い、唇に指を添えて女が誘う。
 髪を撫でていた手を後頭部に回し、ランサーはいきなりライダーを抱き寄せる。強引に重ねた唇も拒まれることはなく、思うがまま吸い合った。女は舌が長いようだった。
「美味い」
 たっぷりと口付けを交わして、ランサーが評する。
「ふふふ、貴方も悪くありませんね」
 再び抱き寄せ、体重を掛けて押し倒す。ライダーは抵抗せず、囁く。
「また一突き馳走頂けるのかしら」
「遠慮するな、幾つでもくれてやる」
「あら、素敵。でも、もう少し柔らかい褥が欲しいですね」
 言われてランサーは女の上から退き、助け起す。背中に着いた土埃を払ってやりながら周囲を見渡していた。
「ベッドのある部屋はありますよ?」
 提案を受けて、ライダーの案内で二人は校舎に侵入した。向かったのは、保健室である。
「へえ。王者の寝室ってわけには行かないようだが」
「そんな夜でもないでしょう」
 簡素な寝台の上に二人腰掛ける。
「しかし、やっぱり見せちゃくれないのか?」
 男はライダーのマスクに触れる。どうやって外すのか探るのをしばし許していたが、やがて告げる。
「止した方が良いでしょう。前に、私に劣情を向けながら無理に剥がした男が居ますが、そのせいで欲望が果たせなくなりましたし」
 ランサーの手が止まる。
 何故、と問われてライダーは笑う。
「女が顔を隠す理由など限られているでしょう? 見て劣情が萎えたと言うなら判りそうなもの」
「嘘だな、それは」
「そんなに騙されたがっていては生き残れませんよ」
 肩をすくめ、自分に呆れたように笑う。
「疑って生き残るより信じて死ぬ方が良いこともあるさ。これこそ、マスターが聞けば嘲笑するだろが」
「信じて生きなさい、英雄殿」
 ライダーが唇を近付け、また接吻した。抱き合って、どちらからともなく魔力を編んだ衣服を消す。いきなり全裸になるような無粋な真似はせず、下着だけは残している。正体不明の装束の下が二人ともこの時代の肌着なのを知って、背中をまさぐり合いながら笑う。
 やがて、ライダーが床に降り、躊躇いもなく男の下着を引き下ろして全裸にした。跪いて、股間に顔を寄せ、男のものを握る。
「積極的だな」
「こんな女は、お嫌い?」
 根本近くをペロリと舐めて、囁く。
「いいや? スケベな女は大好きさ」
 ライダーの手が弄ぶと、男の性器は隆々と勃起した。根本を横咥えにして長い舌を巻きつけ、先端に向かって滑っていく。亀頭を口に含み、ぴったりと唇で覆って周囲に舌が蜷局を巻く。
「くっ」
 強烈な感覚にランサーが呻く。女の頭に手を当てて髪を撫で、耳朶を擽る。
 ライダーは手を添えて袋を揉みながら、先とは逆の側から横に咥える。ゆっくり、根本に降りていく。先端を掴んで五本の指の腹で傘の部分を弄る。陰嚢を持ち上げて裏側に舌を付け、睾丸を片方ずつ口に納める。唾液に塗れた唇の間からそっと押し出す。
 ちろちろと舌先を触れさせながら、また真っ直ぐに上に向かう。
「流石に、御立派……」
 囁くと、再び先端を咥え込んだ。
 尿道口を一頻り舐めた後、頭を下ろして咽喉の方へ受け入れていく。英雄の名に恥じない宝具が女の口に収まる。穂先は喉の奥に届いていた。
 女は息を吸いながら頭を小刻みに上下させる。亀頭を喉が、裏筋を密着した長い舌が、根元一周を滑らかな唇が刺激する。
「くはっ、ぅっ」
 拳を強く握って、ランサーは女の技巧に耐えた。
 くす、と笑ってライダーは頭を上げ、指の輪で陰茎を愛しつつ、男の胸に顔を寄せる。鋼の胸板に頬を擦り付けたあと、乳首を唇で挟んだ。
 ちゅっ、と音を立てて吸い、舌で先端を転がす。
 ランサーは片腕で女の頭を抱き、逆の手で肩から背中の方へ撫で下ろす。磨き上げた大理石のように滑らか。吸い付くような潤い。
 両手でペニスを愛撫する女が口を反対側の乳首に移した頃、ランサーは女の背中を渡るブラジャーのホックを外した。露わになった乳房に手を添え、揉み始める。柔らかく弾む豊穣な二つの果実は触れているだけで男の体を漲らせる。頂点の突起に掌を当てて渦を描くと、次第に硬くなって男の手を擽り返してくる。
「んふっ」
 女が、甘い息を吐いた。
 胸乳を揉む手から逃れるように姿勢を低くし、再度ライダーは陰茎を口に入れた。喉まで使って奉仕しながら、片手は袋を揉み、もう片手は男の乳首を弄る。
 存分に男根を唾で濡らすと、乳房の間に挟む。少し体を上げ、ちょうど亀頭を峡谷に収めて左右から肉を押し付ける。滑らかで熱い肌に埋もれて先端はまた勢いを増した。
 深くしっかりとペニスを挟んで、体を揺すって擦り付ける。舌を出して、届く間は先っぽを舐めてやる。
「く、うあっ」
 種類の違う快感が男を翻弄した。
 びくん、と射精の前兆を感じ、ランサーは中断させようとする。
 女は聞かず、硬く尖った自分の乳首で尿道口や傘の裏をグリグリと責め立てた。
「んくぅ」
 男を喘がせつつも、擦り付ける乳首の感覚に女の方も昂ぶって行く。
「あふ……」
 ランサーが女の脇に手を入れて抱え上げ、ベッドに引き上げて強引に中断させる。
 寝台上で向き合った二人は、互いに抱いて唇を吸い合う。舌が絡む。キスしながら男が唯一残った女の下着に手を掛け、ずり降ろす。ライダーは大人しく協力した。
 女が両膝を開いてランサーの腰の上に跨る。ランサーは女の脚の間に手を伸ばし、滴る泉に指を差し入れた。
「いつの間にこんなに濡らしていたんだ?」
 揶揄を含んで男が言う。空いているほうの手を胸にやり、小高い丘を包んで愛でる。
「ふふふ、こんなに逞しいものを味わえば、期待に女を濡らしもしますよ」
 天を突く怒張を柔らかに包んで、蕩けた声でライダーが答えた。
「男を煩わせないって訳かい? なら、ついでにもうちょっと自分で出来上がらせてみなよ」
 ペニスを弄る手を剥がして女の股間に押し付ける。
「そんな……」
 縋(すが)るような声を発しながら、口元は淫らに笑っていた。
「意地の悪い人ね」
 膝立ちして体を反らせ、二の腕で乳房を誇らしげに持ち上げる。指を唾液に濡らし、舞うように下腹部に運び、女の中に突き入れる。
「ぁん……」
 残りの手で胸を鷲掴み、乱暴に揉み立ててみせる。あえかに口を開き、物欲しげに唇を舐める。
 ランサーは、女の蜜に濡れたままの指をその口に咥えさせてやる。
「んふっ」
 音を立てて吸い付き、指を舐める。
 腰を揺すりながら、ヴァギナに差し入れた指を動かし、柔らかな肉を自分で捏ね回す。その手を胸にやって蜜を乳首に塗りつけ、擦る。交互に手を入れ替えて、尖りきった赤い乳首と周辺が濡れて光って行く。
「あぁあっ」
 クリトリスを撫でる指が小刻みに動き、全身の肌が朱に染まる。
「ふあぁっ、あー……」
 男の指を噛む歯に力が篭り、湧き上がる快感に耐えている気配。
「ん、んっ」
 突き入れた指も胸を揉む手も動きが激しさを増す。体が大きく反る。
「ふあっ」
 切羽詰った声を上げ、全身に微かに痙攣めいた動きが見えた瞬間、男は女の股間から手を引き抜かせた。
「あぁ……ん……意地悪……」
 達するのを邪魔されて、もどかしげにライダーは体をくねらせた。
「一人で逝っちゃ駄目さ」
 体を寄せて、ランサーは女を抱き締める。
「ほら、欲しかったんだろう?」
 ライダーの手をそそり立つ男に導く。
「はい、とても」
 愛想の良い返事をして、ライダーは男の槍を受け入れる。
「んんんっ」
 静かに腰を落とし、長大な凶器が体を刺し貫くのに耐える。体が馴染むのを待ち、静かに腰を上げ、また緩慢に体を沈ませる。
「凶悪、です、ね」
 感極まったように、絶え絶えに囁く。
「くっ、手強てごわいよ、お前は」
 男も、押さえた声を発した。女の中は熱く、力があった。戦闘で見せた身体能力をこんなところでも発揮するがごとく、強烈に締め付ける。
「ああぁっ」
 サイズに慣れたのか、ライダーは大きく腰を使い始める。小気味良く揺れるバストに誘われて、ランサーは手を出す。いささか乱暴に掴んで押し潰し、捏ねまわす。愛液に濡れた乳首を撫でつける。
「くふぅん……」
 女の声の調子が変わり、動きが更に複雑になる。肉が蠢いて、まるで陰茎を喰い尽くそうとしているかのよう。数匹の蛇が巻き付いて締め上げている姿が思い浮かぶ。一度往復する間に十回もしごかれているような気がした。
 胸から片手をどけて、体の繋がっている付近に移す。ライダーの紫色の翳りの下、クリトリスを探り当てて責める。
「ひあんっ、くっ、はあぁっ」
 また女の声が一オクターブも上がる。苦痛なのか快楽なのか判らない啼き方だった。それでも、半ば自虐的に思えるほど、腰使いは激しくなって行く。時折、不意に止まるのは、自分で絶頂を先送りにして楽しんでいるのだろうか。
「うっ、つぁっぁあ」
 ランサーもまた、悦楽に苦悶していた。神経が過敏になる毒でも注がれたみたいに甚だしい快感。そのくせ、達するのは別の神経毒に禁じられたかのよう。次第に、女が動きを止めるのは寧ろ自分が達しかけた瞬間だと判ってくる。
「このあまっ」
 次に女が静止した時、ランサーは尻を掌で打った。ぱしん、と音ばかりは派手だが、それほど強く叩いたわけではない。
「あんっ」
 それでも、甘い悲鳴を上げてライダーは動きを再開する。暴れ馬を御そうとするように、自分の中で暴れる男と争う。
 触れられていない方の乳に自分で手を添え、蹂躙する。もう一方の手は、器用に体の後に回して男の陰嚢を捕まえた。女が垂らした蜜ですっかり濡れている。
「がぁっ」
 柔らかに精巣を揉まれて、その衝撃で今度こそ射精しかけた。しかし、次に根元を強く握られて逝き損ねる。数秒間休んで、袋を揉むのと上下運動とがゆっくりと再開される。
 弄ばれるのに幾分腹を立て、一瞬、掴んでいる胸に爪を立てた。びくん、とライダーは体を震わせ、従順にロデオに戻る。
 しばし穏やかに感触を楽しんだ後、激しさを戻した。
「くふぅんっ」
 ぱしっ
 また腰を止めた女の尻を打つ。動こうとしないため、もう一度。
「んあんっ」
 喘ぎはするが、まだ耐えている。
 バシッ
 業を煮やして力が篭り、ずっと激しく叩く。
「つぁっ」
 今度は効いたのか、男の意に沿った。
「ほら、一緒にっ」
 女が善がる合間に言い、男もその気になった。ぐちゅぐちゅと掻き回す音が高まり、女の道具は更に男を搾り取ろうとする。
「逝けッ」
 口にして、男は下からも突き上げてやる。
「はぁ……んっ」
 信じ難いことだったが、バギナは更にペニスを絞め、精どころか血まで吸い取ろうとするかのようだ。
「かぁっ」
 男が呻き、耐えに耐えた果てに吐精する。
「ぁああ〜っ」
 合わせて、女は最後の啼き声を発した。後に倒れそうなほど身を反らし、痙攣して震える。ランサーが腕を引いてやり、倒れこませて抱き締める。
 抱き合って、長いことただ荒く息を吐いていた。
「強烈だな、お前」
「そちらこそ、殺されそうでした」
 唇を重ねて、たっぷりとキスを楽しんだ。

 

coda