| うとうとし始めていたわたしを余所に、式は先に起きたらしい。胡乱な頭のまま見ると、既に着物を着付けている。すっかり身を整えた姿で、眠っていると思ったのか、わたしを揺すって言う。 | うとうとし始めていた鮮花を余所に、私は先に起きた。着物を身に着けて、何か飲みたくて台所に入る。鮮花はいつも日本茶だったから、わざわざ別のものを用意するのも面倒だし、お茶を二杯淹れて戻る。 |
| ん、どうして? ぼんやりと問い返したけど、返事を聞いて飛び起きた。 | 初めは何故と気だるく問い返すばかりだったけど、私の返答に飛び起きた。 |
| 濡れてしまった下着が気持ち悪いけど、仕方ない。急いで服を着る。テーブルに二つお茶があるのは、式が淹れてくれたのか。確かに喉は渇いているから、ありがたく啜った。 何処かから式が卓上鏡を持って来る。わたしの後にまわると、手にしていた櫛で髪まで梳かしてくれる。 |
下着が汚れたのは私と同じだ。気持ち悪そうに、でも仕方なく着ている。お茶を見つけて、聞こえないぐらいの声で礼を呟き、飲んだ。 トウコの机から鏡を探してくる。鮮花の後にまわり、私と違って手入れの行き届いた長い黒髪を梳かしてやる。 |
| そりゃ、わたしは幹也の妹だけど。 | 冗談を解さなかったようだから、説明を加える。 |
| って、それはつまり。 | いや、冗談でもないのだけど。 |
| 義妹とわたしを呼んだのだと判って、牽制を発しながら鏡で式の顔を盗み見る。こんな表情、出来たんだって思うぐらい、穏やかだった。気勢を削がれて見惚れていたら、目が合ってしまう。にこりと微笑まれて、不本意にも微笑み返していた。深淵を奥に隠した瞳にも、今回は不安にさせられることは無かった。 調子狂っちゃうな。でも、自分でいつも思っている通りだ。相手を排除したり、蔑んだりして競うのではなくて、己を高める勝負をするのなら、敵が強いのは悪いことではない。 櫛が良いのか、式の手つきが良いのか、陶然とするほど髪を梳かれるのが心地良かった。丸め込まれたみたいで、また口惜しくも思うけど、まあ良いやって気がしている。 |
すごく、照れてしまうけど、こいつが義妹になれば良いなと思う。頬が緩みかけて、鮮花が見ていそうだから引き締める。ちらりと鏡を見たら、本当に目が合ってしまった。変な表情では機嫌を損ねそうだと思い、諦めて笑いかける。どこか不本意そうながら、鮮花は華やかに笑い返してくれた。 上手く行くかな、こいつと。幹也のことは譲ったりは出来ない。でも、私と同じように――あの空を飛んでいた女や、そう、織なんかと同じように――鮮花も、幹也を必要としているんだろう―――― 鮮花の髪は滑らかに輝き、梳っていて心地良かった。無頓着な私の髪は幾分傷んでいる。少し羨ましく思って、だから、手入れの仕方を尋ねてみようかとか、思った。 |
| 尋ねたら、少し人の悪い笑いを見せて、言った。 | 尋ねられて、わりあい率直に、私は答えた。 |
| わたしが式に男じゃないのかなんて言ったのは、幹也が居なかったからだけど。 | 幹也に会いたがっていたのは、二人とも同じなんだから。 |
| 反論は来なかった。 だからって、やることが極端だけれど、もうひとつ思い至る。未だに幹也は式を抱いてはいない。それを式が不満に思っていたりするなら、それも、あんな方向に流れた原因なのかもって。 それに、普通は好きでもしないだろうにしても、嫌いだったらしないよね、あんなこと。自分が覆い被さった時の凶悪な感情を棚に上げて、そんなことも思った。 油断するとこのまま仲良しになってしまいそうだったから、憎まれ口を叩いておく。 |
その通りだから、黙っていた。 鮮花が言い出したことだけど、こんなに織のことを思い出したのは久しぶりだ。いや、最近ときどき、幹也の考えていることを知りたくて、織の思考を追想することはあった。それも、幹也が未だになにもしてこないから。 それでも、いくらイライラしてたり、その、私が欲求不満だったりしたのだとしても、流石に鮮花とあんなことするなんて思わなかった。 これまでより親しくなれそうかな、と思ったのに、鮮花は憎まれ口を叩く。 |
| 以前は何も考えていなかっただけだろうけど、今のは明らかに余裕の返事だ。受け入れざるを得ない、この負け戦、逆転の好機もそうそう在りそうにない。 でも、諦めてなんかいませんからね。もう一回、心の中で繰り返す。 ――――これに完全に決着がついて、わたしと式がいがみ合う理由が無くなってしまった時には。 とても難しいことだろうけど、そのまま決別してしまうのは、避けたい。できることなら憎しみだけ消し去りたい。 そして、わだかまり無く式と親友になれたら良いなって、――思う。 |
織は、私が幹也の隣にいることを夢見ていた。私も、あいつの傍で過ごしたい。反対側に鮮花が居ることぐらい、私は構わない。 でも、鮮花の方は、そんなふうには思ってくれるんだろうか? ――――織が抜け落ちて生まれた洞(ウロ)は、幹也が埋めてくれた。 きっと簡単な道ではないだろうけど、そこを歩くことを怖れはしない。できることなら、三人一緒に行きたい。 そして、わだかまり無く鮮花と付き合えるようになれたら良いなって、――思う。 |
「ねえ、式?」
「なんだ? コクトー」
「いや、僕らが出かけてる間に鮮花と何かあった?」
「――――」
「判らない? 顔も合わせてくれないんだけど」
「知るか、悪いのはお前だ」
「頼むよ、二人して顔真っ赤にして僕が悪いって言われても何も判らないじゃないか」
「しょうがないだろ、原因は間違いなくコクトーなんだから」
反意綜合が(正確には、“裏”が)如何に形式ばって書かれたものであるかを示す試み(笑
オマケだけは新しく書いてありますけが、他は元のままです。
並べて眺めてみることで何か面白いことを見出して貰えたら幸いですが、どんなもんでしょうね?
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