「ぁああぁっ……あぁっ……あ……」

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 少しの間意識が飛んでいた。覚醒したときには、式にキスされていた。腕が動いたから、体を押して跳ね飛ばした。
 テーブルにトンと座って、式は笑っている。何度か見た不安な笑いでも嘲笑でもなく優しいような笑みだったから、わたしは少し落ち着いた。
 今のことを思い出す。その、逝かされてしまったけど、結局最後まで舐められていただけで、何も犯されたわけじゃない。式が見ているのは判っているけど、自分で確かめた。
 大丈夫。確かに、わたしの純潔の証は――こんなことをしておいて純潔だなんて、自分で言って笑ってしまうけど――無事だ。
 どうして? そう思って、式が笑いを堪えている様子に気付く。悪意は感じないけど、可笑しくてならないって感じ。
 思い当たることがひとつだけ出来て、式に飛び掛った。自分でさっき思っていたことなのに、繰り返してしまったらしいのだ。勝手に想像して独り踊らされてる。
 式はあまり抵抗せず、テーブルに仰向けになる。帯を強引に解き、着物を広げる。和服だからって下着を着けないってほど頑なでもないらしく、ありふれた白いブラとショーツが細身の体に残っている。
 この時点でもう、はっきりした。式の体は完全に女の子だ。中性的な美貌に反して、体の方は思いがけず女性的だった。両性具有だったりもしない。
 散々からかわれた訳で、怒りに心頭しつつ、どうしようもなく可笑しかった。騙された自分が滑稽なの以上に、幸福な笑いが起こってならない。
 式は、もちろん騙すつもりで言ったはずだ。それでも、思い込んで焦ったり動転したりは、わたしが勝手にしたことなんだ。
 意識を飛ばした鮮花にキスした。だけど柔らかい唇を楽しむ間はなかった。腕の麻痺が解けたらしく、突き飛ばされたから。
 そのままテーブルに座って、私は笑った。なんでまた、こんなヘンなことをしたのかと自分で単純に可笑しかった。
 鮮花の表情が和らぐ。感情の表れやすい女で、落ち着いたかと思った途端に、すぐにまた不安が顔に浮かぶ。そして慌てた様子で手を脚の間に運び、自分の中を探る。
 ふふふ。あんなのは大嘘だったけど――思いついておきながら、あまり気分の良い想像でもない――不安には思ったのだろう。
 どうして? そんな表情で私のほうを見ているのに気付いた。しばしば見せるような憎しみは感じないけど、怒っているには違いない。
 どういうことか理解できたのか、飛び掛ってきた。相変わらず気性は激しいが、鮮花らしくて良いとも思ったりする。私ってこんなに優しかったのかな。
 あまり抵抗せず、組み伏せられておく。帯を強引に解かれ、着物を広げられた。肌着は着けているのかと幹也に訊かれたことがある。和服だから、ってことだろうけど、それじゃ体育とかで着替えるときに困る。
 鮮花は忙しなく私を観察した。嘘だと納得したみたいだ。男みたいだとはよく言われたもんだけど、今の姿なら。流石に一目瞭然だろう。
 私の嘘にまた怒ったのか、獰猛に睨みつけながらも、顔がほころんで行く。それを見ながら、私の方ももっと可笑しくてならなくなった。
 さっき、私は織になったつもりでいた。ありえないけど、そうだったら良いのにとさえ思っていたみたいだ。
「くっくっくっく……」
 式が声を上げて笑い始める。そのせいで、わたしも笑った。
 意味もなく、可笑しい。つられたように、鮮花も笑い出す。
「まったくこの女(アマ)、人を馬鹿にしてっ」
 どうにかそれだけ言って、二人して大笑いした。女、と呼べるのが嬉しいんだ。気持ち良かったせいって理由もありそうで口惜しいけど、この幸福感は、式が普通の体をしていると知ったことが原因だと思う。
 認めよう。わたしはこの女を憎んでいる。だけど、嫌ってはいないのだろう。明らかに破れつつある戦いの好敵手。憎しみこそしても、真に好敵手でありえるのは、認めているからに他ならない。
 だから、唯でさえ普通じゃない生まれの式が、体にまで他人と違う部分があったりしなくて幸いだと思えるんだろう。
 そう叫ぶのが聞こえて、二人して大笑いした。女、と呼ばれたことが嬉しかった。織には少し申し訳ないけど、この幸福な気分は、女の意識が女の体に居るって言う単純なことに依存しているんだ。
 認めなければ。織が居ないことは、今も寂しい。だけど、進まなきゃならない。織と鮮花を夢想するのは幸福なイメージだ。だけど、私には幹也が必要で、式として鮮花ともやってかなきゃならい。
 私にも普通の暮らしが出来るんだと無理矢理に教えてくれた幹也、その家族とさえ付き合えないようでは困る。
「ところで、あんたも濡らしてるじゃない」
 式の肌着に染みを見つけて言ってやる。
 下の方を覗き込んで鮮花が言う。
「ん? ああ、鮮花、可愛かったからな」
「な、何言ってるのよ!」
 反撃するつもりが返り討ちを喰った。
 どうしたものか、鮮花にならあっさりと言える。
「前からおまえのことは可愛いと思ってるぜ、オレは」
 わたしは絶句する。言い返せなくて、でも看過出来ないから、式の手を掴んでソファに引き戻した。着物を脱がして押し倒してやる。  動きが止まる。何か言い返そうとして出来なかったらしく、私の手を掴んでソファに引きつけた。着物を最後まで脱がされた。
「こういうことは幹也にしたらどうなんだ?」
 ちょっとは驚いたみたいだけど、少しも焦ったり拒んだりする様子が無い。  礼園でのことを思い出して、同じことを繰り返した。
「うるさい。やられっぱなしで黙ってられますか」
 減らず口を叩く唇を塞ぐ。さっき散々飲まされたから、今度はわたしが唾を流し入れてやる。腹を立てている相手にキスするなんてことがあるのを初めて知った。わたしも女だから、レイプなんて犯罪は許せないけど、いつか聞いた話を実感する。この種の事件は『見知った相手に対して、腹を立てて』起こるのことが多いのだと。
 もっとも、今のわたしは実際には、怒っていると言うより口惜しいだけなんだろう。
 唇を離して、細い首に移す。女の子をどう愛撫すれば良いのかなんて知っているはずも無いから、さっきの式の真似をするしかない。そりゃまあ、男の人の体よりは女の体のことの方が良く判るけれど。自分でしたことはあるから。
 唇で言葉を封じられた。さっきの仕返しかのように、口の中に唾液を落としてくる。逆襲がキスってのも面白いが、怒っていても、可愛いものは可愛い。だからって許すわけじゃないけど、実感することがあった。何度か聴いたことのある下品な言葉、『怒った顔も可愛い』なんてののことだ。
 キスされるって、こんな感じなんだね――――織――――。
 唇から離れて、首に移ってきた。考えたこともない行為だったのに、さっきは何も意識せずに鮮花の体を愛撫できた。してくることが同じなのは、鮮花も自然とやっているんだろうか? それとも、単に私の真似か。
「んっ」
 喉から耳の方へちゅっちゅっちゅっと口を動かすと、式はリラックスした様子で吐息を漏らす。さっきのわたしと違って、端から受け入れている。それもなんか不公平な気がした。  喉から耳の方へちゅっちゅっちゅっと口を動かされ、私は我慢したりせずに吐息を漏らす。愛される感覚も知っておきたい。織に伝われば良いなって、さっきと同じ叶わない願いを抱いた。
「んふ……あっ……」
 耳に舌を付けたら、眉を顰めて喘ぐ。ここ、弱いのかな?  耳を舐められて、喘いでしまった。ぞくっとする、でも嫌じゃない感じ。
「式、ホントに幹也と……したの?」
 尋ねたら、式は真っ赤になってそっぽを向いた。  そんなストレートな。初めて反撃を食らった気がした。
「どっちなのよ」
 問い詰めても答えなかい。
 ブラジャーを外す。デザインこそ素っ気無いけど、シルクらしくて、高級品には違いなかった。現れた双丘は想像したよりもう少しだけ大きくて、とても綺麗だった。
 問い詰めてられたが、そっぽを向いていた。
 ブラジャーを取られた。幹也と買いに行ったものだけど、それは鮮花にはもちろん言えない。下着を一緒にかいに行くなんてことが出来るくせに、何だってあいつは。
「幹也って、大きい方が好きなのかな」
 両手でそれぞれ包み込みながら、訊くともなしに呟く。これに専心する男の人が居るのも判る気がした。自分のだとそんなこと思わないのに、柔らかくて弾力のある感触が手に心地良いし、滑らかな肌ざわりも素敵。  両手で私の胸を包み込みながら、独り言のように言っている。膨らみを弄る鮮花の手が気持ち良かった。自分で触れてもそんなことは思わないのに、他人に愛撫されるのは確かに良い気分だった。
「大きけりゃ良いってもんでもないだろ? 鮮花ぐらいが程々に良いんじゃないか?」
 ぺと、っとわたしのに触れつつ、式がさっきの呟きに答えている。一々、余裕の感じられる態度だ。
 無視して胸の先端に口を付けてみる。
 ぺと、っと鮮花のに触れつつ、先の問いの呟きに答えてる。大き過ぎるのはどうも、って本人が言ってた。
 コメント無しのまま、胸の先端に口を付けられた。
「あっ……」
 式は正直に反応する。可愛かったと言われたときには馬鹿にされていると思ったけど、こうやってみると自分の行為で快楽に肌を朱く染めるのが愛らしく思えてくる。硬くなった乳首を左右それぞれ交互にたっぷり味わい、両手でしばらく楽しんだ後、下に侵攻した。
 なんだかすっごく恥ずかしくなりつつ、これまたモノは良いけど味気ないデザインのショーツを脱がす。髪の毛と同じく夜のように黒いヘアが上品に覆っている。
 こんな距離で他の女の子の局部なんて見たことはない。いや、自分のだってこんなに見たことは無い。意味もなく、いやらしく感じるのは先入観だろうか。自分のだって同じだけど、なんかヘンな形をしてるって気がする。
 式には躊躇いもなく舐められてしまった。別に抵抗は無いんだけど、やたらに恥ずかしくて多分耳まで真っ赤だ。落ち着いた様子の式に少しは報いるために声を掛ける。
 体はまともに反応した。こんな声、出せたんだなって自分で思う。ねえ、織、やっぱり私は女みたいだね。君の代わりをするのは無理だ。いや、代わりなんて考えるのは良いことじゃないか。幹也がトウコの造る義体を拒むのは、代わりなんて無いんだって思いのせいだと言ってたし。
 ぎこちない、躊躇いの気配のある手つきでショーツを脱がされた。これでまあ、私の体を隠す布きれは全部無くなった。
 まだ、幹也にも見られたことが無い。いや、こんなに間近では誰にだって見られてはいない。我に返ったように羞恥が湧き上がったけど、平気なふりをしておく。じっと見ているけど、鮮花、さっきの私と同じく自分のを思い出してるのか。
 少しだけ躊躇っている気配。男でも、相手が好きな女でも、やっぱり躊躇ったりするのかな。幹也も、いつかはそんなこともしてくれるんだろうか。
「いやらしいわね、こんなに濡らして」
「不感症じゃないんでね」
 意味のない返事を聞きつつ、思いきって指で広げ、ピンク色をした谷間に口を付けた。  意味のない対話の後、鮮花は指で広げてきて、とうとう舐め始めた。
「ん、あ……ふあっ」
 ぴちゃぴちゃ猫みたいに舐めてやると、式は可愛らしい声を上げる。聴いていると、ぞくぞくしてしまう。女の子をそう言う目で見るようになっちゃったらどうしよう。
 クリトリスを探し当てて責めたら、式は体をびくびくさせ、声も一際高くなった。
 猫がミルクを舐める様子を思い出す。それに合わせるように声を発してしまう。女の方が好きになったりしたら、お前が遅いせいだぞ、幹也。
 舌がクリトリスをなぞり上げて、私は耐えられず甲高く喘いだ。
「ぁあっ、ひぁ……あふっ……鮮花ぁ……」
 名を呼ばれて、またちょっと背筋に何か走った。
 恐る恐る、式の中に指を入れた。そのまま奥へ進もうとして――――あれっ?
 こいつ――――
 そんなつもりではないが、愛しくて名を呼んだかのようだ。
 ゆっくり、私の中に指が入ってくる。でも途中で止まる。
 ああ――――
「式、あんた、幹也とまだ何も無いのね!」
 喘ぎつつも、笑っている。
 そう、式にも、生娘の証は残っていたんだ。
 言葉が出せなくて、ただ笑った。
 よく暴れたわりに、私のは未だ破れていない。
「幹也にされたみたいなこと、なんてのも嘘?」
 式は肯定した。まったく、この女がこんなに嘘吐きだとは思わなかった。頭に来るから、指で突き破ってやろうかと一瞬は考え、だけどすぐに思いとどまる。幾らなんでも、それは酷いよね。式のほうも、そんなことはしないでくれたんだし。代わりに、せめて身も世も無く善がらせてやりたくて、そこら中舐め回し、吸い付き、指で弄り倒した。  肯定する。私にこんなに騙されるなんて、鮮花らしくも無い。やっぱり、幹也との事となると、こいつも冷静さを無くしてしまうようだ。私もそれは同じだけど。傷つけまいと思ってくれたのか、鮮花が指を引く。その代わり、指や舌の動きがずっと激しくなり、そこらじゅう舐めまわされたり、吸い付かれたり、突付かれたりして、私はものが考えられないほど快感に呑まれた。
「ぁあっ、あん……ん、ふあぁあ」
 望みどおり式は淫蕩に声を上げる。一緒にぞくぞくしながら、愛撫を続けた。さっきの自分を思い出すと、妙な一体感を覚える。悪い気分じゃなかった。  また一瞬、鮮花に愛されている織を想う。でもすぐに、幻視は私と幹也に変わる。ここに居るのは女二人。その二人の意識の中には、男が二人居て、あわせて四人。
「ああぁ……鮮花ぁっ」
 がくん、っと体を引きつらせたのは、逝ったんだろう。それも、わたしの名を呼びながら。辱めてやるぐらいの気でいたはずなのに、ぽぉっと嬉しくなってしまった。
 顔を見に近付いたら、引き寄せてキスされた。横向きに抱き合って、初めて対等に舌を絡めあった。
 認めよう。わたしはこの女を憎んでいる。だけど、同じぐらい、好きなんだ。嫌いながら好きでもいるようなことは不可能だけど、愛憎半ばすることは出来るんだから。
 それから長いこと、ソファで向き合って寝そべりつつ、髪を撫で合っていた。
 幹也と呼びそうになるのを誤魔化して鮮花を呼んだ。悪い気はしなかった。別に鮮花のことは嫌いじゃないし、対立の種はまかない方が良い。
 顔を近づけて来たから、引き寄せてキスした。横向きに抱き合って、初めて対等に舌を絡めあった。
 認めよう。この女を好きなのは私だ。織でも嫌いにはならないと思う。でも、織のことは大事だけど、それに囚われていてはいけないと思う――――
 それから長いこと、ソファで向き合って寝そべりつつ、髪を撫で合っていた。

 


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