「オレは、おまえを犯したい」

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 何をされたのか判るまで、一瞬時間が掛かってしまった。
 唇を塞がれたんだ。その、つまり、式の唇で。
 何をするのよ、っと式を突き飛ばそうとしたのだけど、まるで果たせなかった。両腕とも肘のすぐ下の辺りで押えられていて、ぴくりとも動かせない。腿の上に体重が掛かっているから、脚で弾き飛ばすのも無理だった。
 唇を押し付けられたままで、舌まで伸ばしてくる。噛み切ってやろうかと思うけれど、歯の間には入れてこない。歯茎と唇の間を舌先が這い回っている。
 ぞくり。
 頭に来ることに、無理矢理キスされているのに快感を覚えてしまった。
 何をされたのか判るまで、一瞬時間が掛かったようだ。
 唇を塞いでやった。つまり、私の唇で。
 私を突き飛ばそうと鮮花は暴れたけど、押さえ込み続けられた。両腕とも肘のすぐ下の辺りで押えているから、まったく動かせない。腿の上に体をのせて重みをかけて、脚で弾かれるのも防いでいる。
 唇を押し付けたままで、舌まで伸ばす。鮮花の気性じゃ噛み千切られかねないから、歯の間には入れない。歯茎と唇の間を舌先でなぞって行く。
 びくっ。
 腹立たしいだろうに、鮮花は強引なキスに快感を覚えたようだ。

「ふふふ、初めてだったりするのか?」
 ようやく離れた式が、嘲笑って言う。相変わらず体が動かせないから、流し込まれた唾液を吐き付ける。残念ながら、式には当らなかった。自分の顔に落ちてこなかっただけましではあるけれど。
 正面から頭を動かした式は、今度はわたしの首筋に口を付けた。吸い付いて、その中を舐め回している。
 しばらくして離してやり、言う。相変わらず体が動かせないから、流し込まれた唾液を吐き付けて来た。狙いが悪くて、私にあたりはしない。自分の顔に落ちるようなことになるほど間抜けでもなかったようだけど。
 正面から頭を移動して、今度は首筋に口を付けた。吸い付いて、その中を舐め回してやる。
「何考えてるのよ、あんたっ!」
 喚くわたしを意に介さず、式は首の辺りを舐め続けていた。それから不意に耳に口を動かす。耳朶を噛まれて、唯一動かせた頭も固定されてしまった。  喚くのを意に介さず、私は鮮花の首の辺りを舐め続けていた。それから不意に耳に口を動かす。耳朶を噛んで、唯一動かせた頭も固定してやる。
「してやろうか、幹也がしてくれたみたいなこと」
 また一瞬、思考が止まった。こいつ、いつの間に幹也と。
 火事場の馬鹿力みたなものを怒りが呼び起こしたようで、わたしは式の手を振り払うことが出来た。そのまま式の胸元に手を着いて押し退けようとし、気付く。
 また一瞬、抵抗が止む。
 ある種の格闘技の技みたいなものか、怒った鮮花は尋常でない力を出して私の手を振り払った。そのまま私の胸元に手を着いて押し退けかけ、止まる。

「――馬鹿にして。体はちゃんと女でしょう」
 特に大きい方ではないけど、着物の上からでも乳房の脹らみはしっかりと手に感じられた。  まあ、大きくはないにしても、触って感じられないほど脹らみの無い胸をしてるわけではない。
「良かったじゃないか、幹也が男同士でも平気なヤツだったりしなくて」
 しれっとして式は言う。また浮かべている笑いは、さっきと違って穏やかだ。要するに、今のはわたしの言葉に対する意趣返しだったんだろう。
 ああ、腹の立つ。さっきから、ずっとわたしが勝手に色んなことを考えては気を動転させているばかりだ。
 ただ、何となく、無視して立ち去ってしまったりするのではなく絡んで来た式が、前よりも女の子らしく思えたりした。昔の式は、もっと非人間的で、他人に関わろうとなんかしなかったように思う。恋敵が異常な人間だなんてのは、自分も異常みたいで良い気分はしない。そう言う点では好ましく思える変化だ。どうしようも無い馬鹿女と争ったりするようなのは惨めな訳だし、式が美人なのも気に入ってはいるんだし。
 あっさりと言ってやる。なんとなく笑いを浮かべていたようだ。鮮花のくだらない言いがかりに対してはこんなもんで充分だ。
 何か、可笑しかった。だけど同時に、鮮花の言葉を思う。私が織だったら、あるいは織がここに居たとしたら。
 鮮花の幹也への慕情に気付いたのは織だったけど、織として鮮花の事はどう思っていたのだろう? あのころ織は、殺すことしか知らなくて、愛情と殺意が同じことだった。私はそれを受け入れていたけれど、普通に人を好きになったりは出来なかったのだろうか? 鮮花が普通だとは到底思えないけど、数少ない良く見知った同世代の女で、綺麗で魅力ある一人なのは間違いない。
「それに、鮮花なんかはむしろ女同士でも行けるんじゃないのか? 禁忌に惹かれるんだろう?」
 少し落ち着いていたところに、またとんでもないことを言ってくる。
 わたしだって運動神経は悪くないし、式と取っ組み合って勝ったこともある。なのに、今回はまた押さえ込まれた。ソファに仰向けにされ、両腕を頭の上にして片手で押えられている。関節が極まっているのか、全く動かない。空いた手で肘の辺りを打たれ、途端に腕が痺れる。式が手を放しても、自由にはならなかった。
 また不穏な笑いを湛えてわたしを見詰め、手を胸に伸ばす。白い手がわたしの胸を掴んだ。
 本当はこんなことを思っているのではないけど、私は言った。
 鮮花は運動も得意で、取っ組み合って私が押さえ込まれたこともある。でも、今回は勝たなきゃならない。ソファに仰向けにして、両腕を頭の上にして片手で押える。関節を極めて、当然のように肘の神経節を打って痺れさせる。思えば、こんな技の稽古をするのはいつも織に任せきりだったのに。
 手を伸ばして、鮮花の胸を掴む。結局、織が生きている間に触れたのは、私の体の胸のふくらみだけだったわけだ。
「意外とあるね。喜ぶんじゃないか、あいつ」
 何を。もう一度、唾を吐き付ける。今度は狙い違わず頬に当ってべったりと付いた。なのに、式はそれを指で拭うと、あろうことか自分の口に運んだ。指を舐める舌が奇妙にいやらしく動く。
 それから、式は素早かった。見る間にボタンを外してわたしの服の前を広げてしまい、慣れたような手つきでブラまで外された。視線だけで火を点けてやれないものかとばかりに睨みつけながら、言葉を出すことが出来なかった。
 両手で乳房を揉みながら、乳首に吸い付いてくる。舌が動きまくって先端を転がす。
 険しい目をして、鮮花はまた唾を吐き付けてきた。狙い違わず頬に当ってべったりと付く。私ははそれを指で拭うと、穏やかに自分の口に運んだ。指に移った鮮花の唾液をゆっくり舌で舐めとる。
 こんなこと、してみたかったんだろうか? ボタンを外して鮮花の服の前を広げ、ブラジャーを外す。発火の魔眼みたいに睨みつけながらも、鮮花は言葉を発しない。殺意こそ持っても、織が女を犯したがっていたとは思えない。
 両手で乳房を揉みながら、乳首に吸い付いた。舌で先端を突付き、転がす。
「んふっ」
 感じてやるもんか、と唇を噛む。でも、そんなことをしていること自体、感じてしまっている証拠だ。  意地を張っているのか、鮮花は唇を噛んでいる。でもそれは、それ自体が感じてしまっている証拠だろう。
「あ……っ」
 自分の指で弄ったことならあるけど、舌の感触は初めてだから、気を逸らせない。反対側の胸に式が口を移動させたとき、とうとうまともに喘いでしまった。  自分のに触れた感覚を思い出し、それから舌の感触を想像する。結局織は、男としての経験を何も持たないまま死んでしまったのだ。
「あぁっ」
 嘲られることを覚悟したのに、式は何も言わずに愛撫を続けている。
 そう、愛撫だ。切っ掛けこそ、わたしの言葉に機嫌を損ねての仕返しだったのかもしれない。でも、あまりにも式がやりそうにはないことだったから想像が出来なかったのだけど、だんだん式の行為がわたしを辱めようとしているようには思えなくなってくる。知らず知らず、人物を置き換えた今の状況を思い描いてしまう。つまり、式と幹也が絡んでいたり――――わたしと幹也が抱き合っていたり。
 とうとうまともに喘いだ鮮花に、私は愛撫を続ける。
 そう、愛撫だ。そもそもは、鮮花が安易に性同一性障害なんて口にしたからだ。正に織は、それに悩まされていたのだから。だけど、鮮花を辱めるつもりは無い。話す時だけ男言葉になってしまうのは織を失ったことへの代償だとトウコは言っていたけど、今、私は織になって鮮花を抱いているつもりでいる――――自分がこんなふうに、幹也に抱かれているところを夢想したりもしながら。
「ふあぁあっ」
 式が胸元を離れて顔を寄せてくる。覗き込む目は優しかった。唇がゆっくり近付いてくるのを、わたしは穏やかに受け入れていた。
 舌を絡めあいながら、思う。もとより、わたしはこいつが嫌いなのに、式の方ではわたしを嫌ってはいない。いや、むしろ、わたしは数少ない気を許している人間の一人みたいでさえある。橙子師にも今の式が織ではないことを説明されて納得しているのに、それでも織である可能性を考えてみる。わたしのことを好意的に思っていて、それが織だったとしたら、実は、恋愛感情に他ならないのかもしれない。
 気が付いたら、わたしも舌を伸ばして式の歯茎を舐めたりしていた。歯の間に差し入れても噛み付かれたりはしないし、わたしもそんなことはしない。
 認めよう。式は間違いなく綺麗だし、学校の成績なんてものはともかく、頭も良い。恋敵としては強敵。けれど、それに不足は無い。相手を貶めることでなく、自分を磨くことで争うのなら、相手は優れていた方が良いのだ。幹也がこの女を好きになった本当の理由は判らないけど、一般論として魅力のあるのは確かだ。そして、争うに値しないようなつまらない女と付き合うような男だったら、幹也を愛してなんかいなかっただろう。
 恋敵でなければ、きっと、ちゃんと友人に、それも真に気持ち良く親しく付き合える友になれた気がする。
 そんな空想をしていたら、式がキスをやめて耳に何か囁く。『幹也がしてくれたみたいなこと』って言葉とか、さっきの妄想とかのせいで、幹也に囁かれているような気まで起こしている。
 胸元を離れて、鮮花の目を覗きこんだ。優しい目が出来ているだろうか? 私がゆっくりと唇を近づけるのを、鮮花は穏やかに受け入れてくれた。
 舌を絡めあいながら、思う。もとより、私は鮮花に嫌われているようだけど、私のほうはそうでもない。いや、むしろ、あまり口にはしないけど私にとっては数少ない気を許せる人間だ。私は織ではないけれど、想像してみる。織だったら、この気の強い女のことを愛しく思うようになることはあったんだろうか。これは、私が幹也を欲していることによる勝手な想定だろうか。
 気が付いたら、鮮花も舌を伸ばして私の歯茎を舐めたりしていた。もう噛み付かれる心配はないだろう。もちろん、私にもそんなことをする気はない。
 認めよう。生きていたのが織だったら、こんな今日があったはずはない。それは都合の良い夢だ。だけど、考えずにはいられない。織なら、鮮花とは親しくなれたのだろうか、と。幹也が私なんかを好きになってくれた理由は判らないし、正直、男の嗜好なんてものは私には判らない。だけど、私がこの子のことを大事に思っているのは、幹也の妹だから仲良くしなきゃならないなんてことを考えているからではない。
 織は、恋人にはならなくても、きっと友人には、たったひとりでも鮮花の幹也への想いを応援してやれる友人には、なったんじゃないかと思う。
 空想を一旦やめて、キスを中断して耳に囁きかけた。『幹也がしたみたいなこと』なんてさっきはいったけど、それより、私はまた織として、鮮花に囁いているつもりになっていた。
「オレの胸、触って体のことは判ったつもりみたいだけど、鮮花。両儀ってどういう意味かぐらい知ってるんだろう?」
 両儀。式の姓だけど、この風変わりな苗字は陰陽を意味する。天地とか、光と闇とか、そういう対極にあるもの。大極が両儀、四象、八卦……と分岐し進んで行く過程の二番目の段階。名前どおり、両儀家は代々「 」に繋がった人間を作ろうとして来たらしい。時折、二つの人格を持って生まれる子があり、式はまさにその通りで、それぞれが男女の自己認識を持っている。どうやら式は両儀家にとっては完成品らしくて――――  両儀。私の姓だけど、この風変わりな苗字の意味は鮮花なら良く知っているはずだ。天地とか、光と闇とか、そういう対極にあるもの。大極が両儀、四象、八卦……と分岐し進んで行く過程の二番目の段階。名前どおり、両儀家は代々「 」に繋がった人間を作ろうとして来た。時折私のように、二つの人格を持って生まれる子があり、それぞれが男女の自己認識を持っている。つまり。
「ひあっ」
 耳を舐められた。  耳を舐めたら、悲鳴を上げた。
「陰陽って、男女って意味で使うだろう? だから、式と織な訳だけど、どうしてその二重性を意識だけに限定する?」
 何? 二重性が意識だけでないなら、  二重性が意識だけでないなら、
「きゃっ」
 ウエストの方からスカートに手を入れられた。普段、和服しか着ないくせに、脱がす手際は妙に良くて、すぐにスカートを脱がされてしまった。膝の辺りから内腿を付け根の方に撫でて、ショーツの上から触れてくる。その、女の子の部分に。
 ウエストの方からスカートに手を入れる。普段、和服しか着ないからって服の構造を知らないわけでなく、スカートを脱がすのに苦労はしなかった。膝の辺りから内腿を付け根の方に撫でて、ショーツの上から触れる。その、女の部分に。
「なんだ、もう準備OKって感じだな」
「式!」
 準備って。いや、濡れちゃってるのは判っているけど。
 そう思って、式がさっき言ったことを理解した。
 私だって恥ずかしいのを誤魔化しながら、言う。
 私のほのめかした意味を、鮮花は理解したらしい。
「まさか、式、あなた!」
 返事をせず、式はショーツまで脱がそうとしている。脚は動くけど、それだけでは有効な抵抗が出来ず、難無く裸にされてしまった。両脚を割り開いて、その間に顔を埋めると、式は躊躇無くそこに口を付けた。  返事をせず、ショーツも脱がしてやる。脚をばたばたさせているけど、それぐらいじゃ大した障害にはならず、難無く抜き取った。両脚を割り開いて、その間に顔を埋めると、躊躇無く口を付けた。
「止めなさい、式! ――止めて……そんなところっ!」
 自分で触ったことはあるけど、もちろん舐められたことなんか無い。
 異様な感触は擽ったくて、寒気がするようだけど、なのに、不快ではなかった。
 私自身、そんなところを舐められるのがどんな感触なのかなんて知らない。
 擽ったそうに鮮花は少しの間だけ悶え、だけど大人しくなった。
「鮮花のなら良いけどな、オレは」
 ああ、そんなこと――
 舌の感触――脳が処理し切れないのか、わたしの理性がまだちゃんと抵抗しているのか、快感には一歩届かない半端な感覚――に、意識を掻き乱されながらも、式の言ったことを反芻する。
 両儀、陰陽とは男女のことで、それが精神に限定されないというなら、体も両方ってことだ。体が二つあるなんて馬鹿なことは無いだろうから、式の体は、両性って意味になる。
 つまり、式には男性性器もあるってこと?
 それは、本心だった。
 結局、織は、男の体のことを知らないままだった。どこから手に入れて来たのか、一度だけ男性のヌードの載った雑誌を眺めていたことがある。普通なら興味を持つ女の体は、一応、私のがあったから。
 両儀、陰陽とはしばしば男女の意味で使われる。それが精神に限定されないというなら、体も両方ってことだ。そうだったとしたら、一体私と織は、どんな性認識を持ったのだろう?
 つまり、私に男性性器もあったとしたら。
「嫌ぁ!」
 不思議なことに、初めて本当に嫌だと思った。
 式が心身ともに完全に男だったら、そしてわたしが幹也のことを愛してなんか居なかったら。紛れも無く「特別」な式は、もしかしたら、わたしにとっては最高の恋人だったかもしれない。幹也を除いたら――この想像は難しいのだけど――男性である式を超える人なんてきっと居ないだろう。
 そんなことを考えはしても、現実にはわたしは幹也を愛している。式は魅力的な人物だけど、それでも形はどうあれ、犯されたくなんか無い。
 鮮花が叫ぶ。初めて本当に嫌がっているこえだった。
 ここに居るのが心身ともに織だったら、そして鮮花が幹也のことを愛してなんか居なかったら。二人は、恋人になれたのだろうか? 鮮花は「特別」なことに惹かれるといっていた。だけど、織が鮮花と愛しあうようになるなんて考えるのは、やっぱり私の都合の良い夢なんだろうか?。
 その通りよ、と告げるかのように、鮮花は暴れている。私は織のつもりで鮮花を愛している気で居るけど、向こうには判るわけが無い。
「嫌、止めなさい! 止めて、駄目っ」
 相変わらず腕は痺れている。神経節を突くとかそんな技だろうか、とにかく動かない。それ以外は自由になるけど、ぴったり顔を脚の間に付けられていて逃げられない。  織の身に付けていた技はまだ利いていて、鮮花の腕は未だ動かないようだ。脚を両手で固定して、ぴったり顔をその間に埋めて愛撫をし続ける。
「殺すわよ! 止めて!」
 式が少し違うところを舐めた。途端に、半端だった感覚が甘い毒性のものに変わる。全身をビクリとさせてしまい、こっちの状態を式に知られることになった。同じ所を舌が責め続ける。クリトリスだ。あんまり強烈だから、怖くて自分でもほとんど触ったことが無い。
 気持ち良くて、力が抜ける。暴れていた下半身も大人しくさせてしまっている。
 構わず、舐める位置を少し変える。途端に、全身をビクリとさせた。感じているみたいだから、同じ所を責め続ける。クリトリス。自分で触れた時の強烈だった感覚を思い出して、舌で責められたりしたらどんな感触なのか、思わず想像して私の方まで熱くなってしまう。
 気持ち良いみたいで、力が抜ける。暴れていた下半身も大人しくなっている。
「止めて……駄目、式……お願い……」
 口惜しくて泣きそうになりながら、いや、本当に少し涙を滲ませながら、わたしは懇願する。だけど式は願いを聴いてくれず、クンニリングスを続ける。脚を押える必要が無くなり、手も攻撃に加わる。指先が膣内に入って、膜に触れている。
 止めて欲しいのに、快楽は意識を犯していく。
 口惜しげに、少し涙声になりながら鮮花が懇願する。私は聞き入れなかった。鮮花には悪いけど、こんなことは2度とないだろうから。脚を押える必要が無くなって手が使えるから、指先を膣内に入れて膜に触れる。
 女の子を愛する感覚を、もう居ない織に伝えてやりたかったんだ
「大人しくしろって」
 この状態になって初めて式が口をきいた。式がもう少し指に力を加えて突いたら、それは破れてしまう。  久しぶりに声を発した。鮮花が酷く緊張しているのに気付いて、自分が膜を突付いているのを思い出した。
「してますっ……」
 本当にわたしを犯す気があるなら、指で裂かれたって大した違いはないけど、わたしは望みを託さざるを得なかった。
 式はわたしを嫌ってはいないなんて、幻想だったんだろうか。
 指や舌の動きが激しくなり、わたしの体を蝕む快感は強くなって行く。
 切羽詰った声で言う。私にはそんなつもりは全くないのだけど、破かれてしまったら大変だって怖れがあるみたいだ。
 確かに、ちょっと酷いことをしているわけではある。
 忘れ去れさせてしまえ、と私は指や舌の動きを激しくした。
「ふぁあぁっ……幹也ぁ……」
 思わず呼んでいた。助けを求めたつもりなのか、せめて、わたしを犯しているのが幹也なのだと思って慰めようとしたのか。後の方の考えに至った途端に、また式と幹也が、あるいは幹也とわたしが抱き合っている様子を思い浮かべていた。
 己の妄想に囚われるように快楽に沈んでしまい、頭が真っ白になって、重力が感じられない気がした。浮き上がる感覚。魂が体を抜けて飛翔しているみたいで恐ろしくなる。だけどその恐怖も甘く鋭利な悦楽に切り刻まれて霧散し、わたしは弾け飛んだ。
 助けを求めているのか、その名を呼んでいる。それとも、幹也に犯されているところを夢想しているのか。そう思った途端、私は私で、奇妙な情景を思い浮かべていた。つまり、ここに居るが織と、幹也だという……
 鮮花の声が途端に高くなった。また何度も幹也の名を呼んでいる。シキの名の挙がらないのが寂しく思えるけど、それを望むのは詮無きことだろう。最後まで逝かせてやろうと、私は集中した。さほど間もなく、鮮花は弾けた。
「ぁああぁっ……あぁっ……あ……」

 


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