Sanctus, Succubus, Succubus


 ちりん……
 眠りに落ちる寸前、鈴の音がしていた気がする。
 あんまり静かだから体が警報を鳴らし、ほの白いのが目を惹いた窓の外には雪が降っていた。そんな感覚で、気が付いた時にはとっくに異常の渦中に居た。
 凍えるようなのに、体は酷く火照っている。暑いのか寒いのか判らない、おかしな体感。小さいころ頻繁に高熱を出して寒気に震えたものだったのを思い出して、それを危惧した。でも、はっきりした意識は保っている。
「ん?」
 そこまで考えて、やっと体が動かないのが判った。頭の上に両腕を上げて、脚を軽く開いて仰向けに寝ているのは判る。感覚はある、なのに全く動かせない。
 眼さえ開かなくて焦ったけど、額に何か触れた途端にそれは解消した。奇妙な銀色の光に照らされていて馴染まない印象ながら、目に入ったのは俺の部屋の天井だった。
 ああ、この感じは記憶にある。思った途端に気配があって、目線だけ向けたら、案の定そこに居るのはレンだ。ただし、髪も衣服も真っ白。
「こんばんわ、志貴。また逢えたわね」
「おまえ……」
「ふふふ、消えたはずって? そんなわけは無いわ、私はレンの内に在る言葉だもの。レンが居る限りは姿を見せられる」
 見慣れている青い髪のレンよりずっと作為の判る目をしていて、自信有りげに微笑む。でも、すぐに俯いた。
 着ている白い服ってのは前とは違い、レンの服の色違いみたいなのじゃなくて、ワイシャツを引っ掛けてるだけ。多分、俺のなんだろうと思う。確かにそんな姿のレンを妄想したことがあって、思い出すと自分で呆れた。こんなことも記憶から読み出されたりしているんだろうかと思って不安になる。
 胡乱な俺の思考を無視して、偽物のレンは話を再開する。
「そんなに好き勝手に出て来れる訳じゃないのは確かね。これも、レンが居る限りってことだけど」
 顔を上げた先を見ると、そこには青い髪のレンが居た。やっぱりワイシャツ一枚で、申し訳無さそうに、不安げに俺を見ている。二人ともリボンもしていないから、眼と頭以外、そっくりだ。
「この前のことが原因で、志貴とレンの契約が少しだけ弱くなってるわ。私はそれに乗じて顔を出したってわけ、ついでに志貴と直接契約してしまえばレンのことを塗りつぶして私が表に出られる」
「本当なのか? レン」
 無言のまま、こくりと頷いた。
「そうか。でも、俺がそうしなければ良いだけなんだろう? 教えてしまったら意味が無いんじゃないのか」
「そうね。本物の振りをして、志貴に精をねだることが出来るんだったら、それが一番簡単だった。でもここはレンの作る夢の中なの、私一人の勝手には出来ない。それに、私とレンがここで争ったら、志貴のことを危険に晒してしまう」
 苛立たしげに、白い髪の少女が口を歪めている。
「だから、志貴に決めてもらうことにしたのよ、どちらと契約するのか。そんなに簡単じゃなくてよ? そのために同じ格好をしてるのだし」
 言うが早いか、白衣のレンは両手を前に伸ばす。
「そっくりな姿の私たち二人から、お望みの方に精を放って頂戴。どっちともしないって選択は無し、私が無理矢理に具現化したぶん、繋ぎ直さなきゃ二人とも存在を維持出来ないから」
 今度も目線だけ向けたら、レンは沈痛な面持ちで首肯する。
 白いレンの掌の間に銀色の煌きが生まれ、眼が眩んだ。白い闇が晴れていくまでの間、まだ同じ声が話している。
「ああ、膣の中以外のところだったら何度でも射精してくれて良いわ、それぐらいの役得はあって良いもの」
 レンが夢魔なのは知っていても、こんなに露骨なことを幼い声で言われると、無性に気恥ずかしかった。
 視界はやがて回復したけど、不可解な銀色に包まれて色が良く判らない。二人のレンの白と青の髪も同じようなグレイに見えて、区別が付かなかった。入れ替わったのか同じなのか、確かに見た目はそっくり。
「自分勝手だな、みんな。俺の意思ってのは無いのか?」
 ぼやいてみたけど、もう返事は無かった。
 揃って妙に照れた表情をしていて、さっきまでの超然とした気配はどちらも漂わせていない。髪の色は霞んでいるのに、頬が淡く赤いのは見て取れた。
 くす……
 にぱ……
 不安も自信も宿したような笑いを見せて、二人が近付いてくる。さっきまでは瞭然だった瞳の違いも無くなっている。睨んだだけで寝間着を消失させてしまい、あっさり俺を裸にする。いつの間にか僅かに体を起されているけど、俺は相変わらず動けない。
 ちゅ、ちゅ
 左右の頬にキスされる。少しずつ唇に近付いて来て、有無を言わせず右のレンに先に口付けられた。小さな唇は熱くて滑らか、重ねると言うより俺の口の中に全部収まってしまう。舌を突き出して絡めてきて、唾液が滴って柔らかにぬめる。痺れるほどに甘露。追ってもっと貪ろうとしたら、逃げられた。子供っぽい笑いで俺を見ている。
 別の顔が視界に割り込んだ。少し怯えたような眼つきが俺の知っているレンを思わせるけど、確信は持てない。やっぱり顔を降ろして来て、控えめな舌使いながら、一心に吸い付かれる。唇を啄ばみ合い、歯茎まで舐めっこする。思わず歯がぶつかって、笑う。それからまた舌で二重の螺旋を描く。両手で頭を抱えてくれていて、抱き返せないのが残念でならない。
 こんなに間近で見ても、やっぱり髪の色は判らない。
 唇を離れて、頬擦り。もう一人が真似て、左右からほっぺたを擦りつけられる。妙にくすぐったい。次は同時に耳を噛まれた。舌が耳朶の迷路を辿っている。左右から吐息を入れられて、全身ぞくりとして。
「う、ぁ……」
 何か、背筋を駆け下りた。甘く噛み付かれたり、唇に挟まれたり、舌で突付かれたりするたびに、変な感触を背骨の辺りを行ったり来たりしてる。
 ようやく、自分のモノが固くなってるらしいのが判った。
「レン……」
 呼んだのが合図だったかのように、左右から乳首に触れられる。右の子がキスを再開する。さっきより舌が長くなりでもしたみたいに、深く絡まり、奥の方まで刷かれる。巧拙は判らないけど、好意は存分に伝わってくる。
 気持ち良かった。
「くぁっ」
 キスしながら、思わず呻いた。ぬるん、と左の乳首を舐められて、そのまま吸われる。転がされる。
 気を反らしたのに腹を立てたみたいに、強烈に唇を吸われる。急速に昂ぶる。銀色の霞みが頭の中に入ったみたいで、ただ口を吸いあうのに夢中になった。白黒の区別を付けようと頑張ってたのに、蕩けて意識から抜け落ちていく。
 盛んに首を揺らしているから、髪が首筋や頬の上で踊っていてくすぐったい。豊かな髪は石鹸みたいな匂いがした。快くて鼻で息をしていると、ますます思考が靄って行く。
 顔を離したレンは俺の鼻をぺろんと舐め、桜色の唇から紅い舌を覗かせ、悪戯に笑って離れていく。
 すぐに、右の乳首を舐められた。少しの間、左右同時に愛撫されて、ショートしたみたいに胸の辺りで快感が跳ね回った。白いシャツを羽織っただけの二匹の猫が、それぞれ一心に俺の胸の辺りを舐めている。細い脚が剥き出しで、その付け根には揃って突き出したお尻。そそられて触りたくなるけど、手は依然固定されたまま。
「邪魔しないから、体、自由にしてくれないかな」
 頼んでみたけど、二人して俺の方を見てにっこりと笑っただけ。聴いてはくれなかった。
 俯いているから、ちゃんと留まってない襟元から中が覗ける。シャツの他には桃色のパンツしか身に付けていないようで、ミルク色の肌があり、液面下の苺が透けたみたいに乳首が判る。目に映る肉体は、やっぱり罪悪感しか起きないほど幼い。乳首に送りこまれる快感が無ければ、二人の正体なんて忘れてしまいそう。
「うあ、ぁ」
 すっかり屹立しているペニスを意識した途端、どちらかが竿を撫でた。すぐにまた、するりと一撫で。袋を揺らされる。亀頭の方をいじくられる。
「意地悪なのは二人ともかい?」
 期待ばかりさせて、まともには触れてくれない。二人並んで俺の視線を遮り、悪戯しては引っ込める。びっくりしたのは、二人がキスしたこと。俺の性器を弄び、乳首を指で摘みながら何度も繰り返し、二人のレンの唾液が糸を張っていた。
 眺めているうちに、頭にかかった靄が濃くなる。
 ――レンが二人なら、二倍楽しんじゃえば良いだけじゃないか。
 左のレンが顔を寄せて、また接吻して来た。唇を当てるだけで離れ、また僅かに触れる。笑ってる。離れる。じれったくて、僅かな自由を駆使して近寄る獲物に飛びつく。今度はまともに口付けてくれる。熟れた果実を思わせる匂いがする。
 途端に、また何か弾けた。媚薬でも飲まされたみたいだ。交互に唾液を飲むたびに熱くなってくる。イチモツに濡れた感触。視界の隅で、もう一人が唇を亀頭に寄せているのが判る。慌てた風に、キスしてたレンも寄り付く。束の間、抜け駆けを怒っているみたいに二人で睨み合い。
 あれ、どっちが先に舐めたんだっけ。
 二人でこっちを見て、幼い顔つきを淫靡に歪め、同時に横向きに俺のモノを咥えた。
 根元と先端にそれぞれ口を付けて、中で舌が当ってる。先端に着くと、小さな口をいっぱいに開いて咥え、舐めまわす。初め、いきなり放ってしまいそうだった。ただペニスを舐められたと言うには強烈過ぎた。背筋の下端とかそのへんにブースターケーブルでも繋がれてそう。
 パートナーが根元まで一往復してくると、名残惜しげに粘って強く吸ったりする。そうしていると頬にキスしたり耳を襲われたりして、不承不承、亀頭を明け渡す。相棒は、心底楽しげに食らい付く。何度も交代して、先っぽは愛撫されっぱなし。竿の方は左右交互に気持ちいい。
 どちらからとも無く手を伸ばして来て、まだ唾に濡れてる乳首を弄り始める。丸っこい小さな指が繊細に踊って、普段、まず意識しないところの性感を開墾される。息を呑んでいたら袋を握られて、また瞬間に果てそうに思った。それぞれ片方づつ揉まれている。
「あ、くぅぅ」
 二人して先端に集中し始める。見てるのは意識しているんだろう、あどけない顔で淫蕩な眼差しを向けてくる。唾なのか、先走りの腺液なのか、俺のものはすっかりドロドロ。銀灰色にちらつく髪と白い肌に唇と舌の朱が映えて、口だけの魔物に喰らわれている気分。
 ……きっとそいつは官能で獲物を痺れさせる。とっとと吐精してしまいたいんだ。分泌する毒は死に至るほど甘美なのに、多分ほんとに死ぬまで放つのは許してくれない。少しも耐える気はないのに、ミルクでも舐めてる感じの舌は中枢神経まで侵しているのに、逝けない。
「レン、頼む、から……」
 同時に動きを止めて、鏡像みたいに首を傾げる。瓜二つの微笑。あと一歩の飛翔。男根のすぐ上でキスして見せ、俺に脚を開かせて、睾丸を口にしたらしい。片方づつ含まれているのが判る。しゃぶりまわしてる。結構強く押えられてるのに少しも痛まずに、経験の無い刺激にひたすらに快楽に疼く。気持ち良いけど居ても立ってもいられず、動けたら即座に組み伏せて突っ込んでしまいそう。
 交代に手をエラの部分にあてて、二人の手で輪を作って摩擦してる。
「くふ、ふぁう」
 二人のサキュバスに口から活力を注がれでもしたか、どくん、と精巣が直接脈打った。右のは、やたらに吸われてる。左は舌で転がされてる。責められまくってるのに、生殺し。
 二人一緒にストップ。口から雫の垂れるのが見える。塔の根元に唇を付けて、登り始めると、口の触れている位置まで満たされていく気がする。登りきったらやっと出せる、そう思ったのに先っぽのところで止まって、両側から包んで舌が走り回る。筒に密封された精が掻き混ぜられてるみたい。
「だから、レン、お願いっ」
 こっちを向きこそしなかったけど、同じように笑ったのは判る。袋を掴み、向き合って首を振りたくって責められる。神経を焼ききる過電流。
「ぐ、うふあ。んあ」
 最後には、あっさりと終わった。振りまくって栓を抜いたコーラみたいに呆れるほど精が飛んだ。慌てて二人とも口を寄せ、二人とも吸えずに顔に掛かるばかり。改めて扱かれて、まだ溢れる。仲良くちょっとづつ舐め取ってる。
 睾丸を揉み続けながら、お互いの顔の白い粘液を口にしている。
 すっかり全部吸い取られた頃、並んで俺の方に向き直って、口を開けてみせる。ワイシャツに呑まれるような体格の愛らしい女の子が二人、美味しい口をしていたものは、紛れもなく俺の精液。掌にちょっとづつ吐いて俺に示して淫蕩に笑い、お互いの手を引いて交換して舐めると、そろって喉を鳴らした。
 夢中でケーキとか食べてて、お互い生クリームまみれなのに気付いて舐めっこしただけ。なのに俺が勝手にとんでもない妄想をしてる、そんな錯覚を起すほど無邪気で、だけど背徳の光景。
「……あ」
 動ける。金縛りが解けてる。鏡像みたいな二人に半ば跳びかかって、一緒に押し倒す。嬉しそうな右のレンにキスしかけて、今俺の精を飲んだばかりなのを辛うじて思い出す。流石にちょっと気が引けて、かわりにシャツのボタンを外しにかかる。と言っても、二つしか留まってなかった。
 外して、開いた。気持ち上気して染まった白い肌。小動物めいた無垢な肢体。手を引かれて、もう一人にもはだけさせる。やっぱり肌が白く、真珠が二つ転がっている。
 ごくん
 知らず、涎を飲み込んでいた。
 こんな未熟な姿態を食べ尽くしたい。そんな不埒な媚態に焼け付く期待。吸い寄せられて、薄い胸に頬を擦り付ける。乳首のある辺りだけど、未成熟だから頬っぺたぐらいの感覚じゃ判らない。俯いて、目を瞑って舌先で探ってみる。
 力を入れたら裂けそうな柔肌を味わっているうち、さらさらした中に一箇所、滑らかさの違うところがあった。集中したら、頭を抱かれる。細い体がびくびくしてる。構わず続けたら、ちゃんと硬くなって隆起する。
 舌足らずなのに、レンの嬌声が体の芯まで響く。
 少しだけ違う汗の匂いが二つ混ざってる。見ていないから、鼻が鋭くなってるらしい。自分のだったらこんなに官能を覚えないに決まってるし、きっと両方レンの匂い。
 ぴちゃ、ぴちゃ
 今度はそんな音を聞いて目を開けたら、もう一方の乳首をレンが可愛がってた。
 レンの乳首を、俺とレンの二人で舐める。乱れた呼吸が耳に届く。あどけないのに淫らな微笑が目に入る。
 もう一度視界を閉ざし、匂いと舌触りだけでレンの体を探る。一緒にレンを舐めてるレンのワイシャツの下に手を潜り込ませて背中に触れ、こちらも感触だけ楽しむ。お腹が柔かくて気持ち良いから顔をくっつける。お臍に舌を入れたら頭を押された。
「催促してるのかな? レン」
 からかって、まだ残ってる肌着の上から女の子の部分に鼻を押し付けた。
「いやらしい子だ、ぐっしょりじゃないか」
 頭の手が髪をくしゃくしゃにしてくるけど、脚を閉じようとはしないらしい。
 ゆっくり息を鼻から吐く。布地の下に熱い空気が潜り込み、レンは腰をくねらせる。
 ゆっくり、息を吸う。蕩けたレンの匂いで体がいっぱいになって、もっと続けるつもりだったけど我慢できない。腰を持ち上げて、ショーツなんか脚から引き抜いて、レンに直接かぶり付いた。細い隙間に舌を突っ込んで舐めまわす。下の毛も生えてないから、つるんっとした中に秘裂があって、雫が滴ってる。甘い匂い。甘酸っぱい背徳の華の匂い。さっき感じた汗の匂いの片方に似ていた。目を開けて幼すぎる性器を確認したら流石に躊躇しそうだから、閉ざしたまま。
 もう一人の背中をまさぐっていたのを思い出し、お尻の方からパンツに忍びこんで引き降ろしてやる。戻って後ろから秘唇を襲い、いきなり指を埋めようとして拒まれる。逃がした。
 仕方なく眼を開けたら、また二人並んで寝そべっていた。さっきと違うのは、どちらも肌が桃色なのと、どちらも妖花ならぬ幼花を晒していること。それに、シャツが完全に開いてること。
 魅入られて、欲情しながら膝立ちで硬直していたら、股間に何か当る。見れば、左のレンが足を伸ばして突付いていた。
「こら」
 捕まえる。初めてレンを夢に見た時には足で弄られたっけ、なんて思い出す。ぴくぴく動いてる足を見ていて、衝動に駆られて、土踏まずに口を付けた。
 びっくりしてる。唇を滑らせると悶える。くすぐったそうだから、舌を出してペロペロしてやる。暴れたけど、逃げられないと悟ったのか、抵抗を止める代わりにもう一方の足を突き出して攻めて来る。爪先で陰嚢を持ち上げたり、揺らしたり。
 と、もう一本、右から脚が出てくる。そっちも捕まえてやると、すかさず更に追ってきて、ペニスを弄びだす。それぞれの外側の足に挟まれてる格好で、内側の足は俺が握っている。
 姿勢、苦しくないのかな。そんなことも思うだけは思ったけど、忘れた。
 子供っぽい肉付きの足が可愛らしくて、なのに酷く扇情的。
「かはっ」
 苦しく変な息を吐く。足の裏に噛み付く。粒の並んだみたいな短い指を一つづつ、しゃぶる。くすぐったそう。でも気持ち良さそう。
 ぬちゅ、じゅる
 あっという間に二つとも涎でベトベトにしていた。それでも足りなくて貪る。柔かい肉の感触はペニスの方でも感じてる。酷く器用で息の合った動きで、足だなんて信じられない。いつの間にか、ぬるぬるしてる。
「ふふ、負けないからな」
 馬鹿なことを言って、また土踏まずのあたりに喰らいつく。こうやって、舌を尖らせて往復されるのに右の子は弱いらしくて、表情がくるくる変わって身を捩る。あんまり続けると責めてる側の足の動きが凶暴になってくるから、その辺で交代。
 左のレンは、指を吸われるのが駄目みたい。唇で挟むだけ挟んで顔を見てると、期待してるのか怯えてるのか、とりあえず視線を合わせて来たり反らしたり。
 ちゅうっ
 吸ってやると、体を反らしたり、シーツを掴んだり。
「かふっ、う」
 いきなり左のレンが起き上がった。両手で俺を押す仕草は仰向けに寝ろと言ってるらしく、意図は判らないまま従った。そうしたら、俺に背中を向けて跨り、お腹の上に腰を降ろした。
 戸惑ったけど、すぐ判った。両足使って、俺のを挟みつけたから。
 腹の上に座られても、ちっとも重くなんかなくて、それよりお尻の肉感が楽しめた。寝転がったままだった方のレンは俺の脚の間に陣取り、二人合わせて四つの足でイチモツを弄び始める。くにくに、すりすり、さっきとは快感が別天地。加減されてたんじゃないかってぐらい。しゃぶり尽くした爪先が亀頭を包んで、尿道口を開いたり閉じたりまでしている。
 どれだけの動きのバリエーションを足で出せるのやら、ともかく、たまに強烈な電撃がある。自分を刺激してるのは足なんかじゃない特殊な器官に思えたりする。
「うぁう……」
 シャツ越しに背中をちょっと撫でたりしたけど、切羽詰って続かない。
 諦めたら、今回は速かった。自覚が無いうちに射精感が湧いてて、そのままあっさりと果てた。吐き出した俺の液を足で塗りたくられる。
 最後、あまりに気持ち良かったから妄想に耐えられず、先端を挟んでいた二つの足を捕獲した。さっき舐めてた足と違って、もっと複雑で男を刺激するような構造をしてたりして、なんて。
 目の前に引き上げて調べる。無論、凶悪に愛らしくて奇妙に艶かしいことを除けば、単に普通の女の子の足。ただ、白濁した液でねとねと。
 自分でおかしくて笑ったら、脚の間でレンも笑ってた。
 穏やかに息を整えながらも、俺に跨っているレンを後ろから抱き締めた。続けて二度も射精したばかりなのに、まだ節操無く腕の中の女の子を欲しいと思ってる。いや、今立ち上がった方のレンも欲しいのだけど。
 寄ってきて、腕の中のレンに抱き付くけど、キスしたがってるんだと判った。二人の体を一緒に包んで、おねだりに応えてやる。抱き締めてる方のレンが必死で横を向こうとしてるから、力を緩めて、こっちにも口付けた。
 くちゅ、ちゅぷ
 瞼を下ろして代わる代わる口を吸ったら、かすかな匂いの違いが今度も判った。
 どちらが先ってことも無く手を下げて、俺のモノを掴まれた。呆れたことに、ちゃんと元気だった。
 流石に思い出す。白黒二人のレンのうちから、俺の良く知ってるレンの方を見分けて精をあげなきゃならないんだった。どうやって区別したものやら、服装は同じワイシャツ一枚だし、ほんとなら違うはずの髪の色もちらついて判らないし。
「あぅぁ……」
 ペニスへの刺激に我に返った。
 俺の腰の上で二人、足を絡めたりしつつ女の子の部分で俺を前後から挟んでいた。同期して体を上げ下げされて、色んな液で濡れそぼったペニスを二人の肉に包んで絞られる。
 ねっとりと、性毛も揃わない秘所は薄い肉付きの身体のわりに柔かく、二人の蜜が溢れて往復のたびにぐちゅぐちゅと鳴ってる。
「ふぁう、ぅあ」
 皮膚に擦りつけてるだけなのに、この快感。レンの性器は前後からイチモツに食いつこうとしてるみたいで、段々囓られて減ってるんじゃないかとか思う。狭窄したような視野に陶然として喘ぐレンの顔があって、陶然とした目つきは確かに見覚えがある。束の間、髪が青く見えたけど、すぐに靄けて判らなくなる。腰を使う二人のレンは細く嬌声を紡いで、耳から浸入して脳味噌を乗っ取る。聞き続けたら気が狂いそうなデュエット。
 後ろから、手前の子の胸に手を回して撫でる。バストの膨らみなんて無きがごとしだけど、赤ん坊めいた温い肌が掌と指に甘い。普段は少し凹んだぐらいの乳首がしっかり硬くなってて、転がしてやったら歌声が変わる。向き合ってる方が上がったところで腰を止め、僅かにこちらに突き出す。照れながらも真剣な表情を見せた途端、男根の先に、にちゃりと食い付かれた。
 あ、こっちに入れちゃって良いんだっけ。焦ったけど、考える前に気を張らなきゃ耐えられそうになかった。まだ僅かにしか入ってないのに、全身をまさぐられてるみたいな衝撃。レンは精一杯俺を受け容れようとしてるけど、単純に体のサイズが拒んでいる。
 ゆっくり。ちょっとずつ。レンは体を降ろしてくる。蠕動して押し出そうとしながら、奥へ吸い込んでしまおうともしている。蠢く熱い肉に苛まれ、咀嚼音まで聞こえそうなほど窮屈。それでも柔らかくて、癒着してそうなほど一体になる。
 そうしている間も、背中を見せているレンは、一人で腰を使っていた。竿に自分を擦り付けて荒い息をしてる。あっちのレンの乳首と下腹部に両手を伸ばして悪戯してる。向こうは向こうで、こっちの頭に体を預けたりしている。自分たちの存在を賭けた闘いのはずなのに、奇妙にも睦まじい様子。
 ようやく、しっかりと納まった。ほら、とばかりにレンは誇らしげ。腰を擦りつける相手を無くした手前のレンは、俺にクリトリスを愛撫されて啼いている。入ったところで止まっているけど、俺は快楽で蹂躙されている。ずるずると無数の濡れた突起に隙間無く責められながら、次々と奥に進む輪に絞られている。体のあちこちから体液を吸い集められてる気がする。これで動かれたら、もう助からない。
「ふ……ぬぅ、あ」
 動き出して、ゆっくり腰が上がっていく。吸われる感じが強くて引き抜かれそう。全身全霊で耐えると、上まであがって抜いてしまった。
 今度は手前のレンが腰を上げて、全く同じことをする。一往復だけで抜く。
 また二人でぴったりと挟み、一緒に動く。さっき、あれほど強烈だったこの感覚も、レンの中を知ってしまうと生殺しに近い。気持ち良いのは喩えようもないけど、上があるのが判ってしまったから。
「レン、入れたい」
 手を掴んで思わずねだって、どっちに入れてやれば良いのか決められていないのを思い出した。
 考えなきゃならないのに、二人の動きが激しくなって、焦れったいながらも強烈な快感に融かされてしまう。
「ぐ、あうっ」
 ぬちゅじゅぷぐしゅ、と先端を責めては竿を二度ほど往復。それの繰り返し。ほんの時折、一往復ずつ包んでくれる。まだ、どっちなのか判らないから、死ぬ気で快楽に耐える。
「うあっ」
 膣から抜けた次の瞬間、いきなり爆ぜた。ほっとして、達してしまった。息ができず、窒息するかと思うほど長い射精をした。二人の間に精液を噴き出し、頭の上まで飛んだ気がする。くらくらする頭で青い髪のレンが手から俺の体液を啜ってるのを見て、馬鹿みたいな量に目眩が酷くなる。そのままの口でキスされても、嫌だとか思うほど頭が働いてない。濃霧の掛かった思考に、甘酸っぱい匂いだけ感じられた。
 一瞬気が遠くなって、覚醒したら仰向けに寝て二人に挟まれていた。
 ああ、まだ体には放ってやってない。相変わらず二人はそっくりだし、ワイシャツ羽織っただけの今の格好では唯一の違いであるはずの髪の色も、銀色に霞んで判らない。もう三度も吐精してるのに、ペニスは馬鹿みたいに勃起したままで、契約してやれることだけは確からしい。
 中に出してやらないと終わらない。幾らとんでもなく気持ち良くても、二人が精力を補給したりしてくれてるんだとしても、好い加減、気が変になりそうだから終わりにしたい。
 でも、どっちのレンが俺の知ってる黒いレンの方なんだ?
 迷っていたら、片手ずつ出して性器を撫で始める。もう、それだけの刺激が気絶しそうなほど快感。責め手が四つになって、息を飲む。二人の頭を撫でてやる。貧血で倒れる寸前の危険な感覚。モノクロームな視界に唇だけ紅い。いや、もちろんレンの髪は青いのだけど……
 ……あれ?
 頭を振って良く見たけど、やっぱりどちらも銀灰色の髪をしてる。
 撫でる手を止めたせいか、きょとんと二人が俺を見る。またキスしてきた二人も手を止めているから、眼を瞑って柔らかい感触を交互に楽しむだけの余裕ができている。
 それぞれの甘い匂い。ユニゾンではなくハーモニー。二人で少しだけ違っている。
「よし、契約をし直そう、レン」
 繰り返されるキスの途中で、目を瞑ったまま一人を抱き寄せて押し倒す。どうにか性急にならずに、溺れるほど蜜の溢れている秘花に自分を潜り込ませた。
 甘酸っぱい、匂い。咲き誇る背徳の花の香り。もう一人がどうしてるのかなんて意識にも登らせず、幼い体の無垢な淫魔を抱き締めて、瞼を閉ざしたまま命の元を注いであげる。契約のためなんてこと、どうでも良くなっていた。
 さっきまでみたいな暴力的な悦楽じゃなくて、優しい感覚。圧倒されるのは同じだけど、奔流に安らかに身を任せてしまえる。
「…………し、き……」
 途切れ途切れに聞こえる呼吸と歓喜の声の合間に、この一言だけは意味を成していた。
「……レンッ」
 俺の方も、口にしたのは名前だけ。単純極まり無く、拙い対話ながら、これを越えるものは少しも必要じゃなかった。
 きっと、一番気持ち良かったのだろうけど、限度を超えてて判りゃしない。
 眼を閉じたまま、ずっと長いこと、レンを下にして抱き合っていた。
 それでも、永遠にそうしている訳には行かないから、恐る恐る一緒に起きて眼を開く。
 近すぎて顔しか見えず、だけどそこには、馴染んだ二つの目がある。いつもの恥ずかしげながら意志の強い、柔らかに光る紅い瞳。ぼんやりしてるみたいで、必要なものは全部見ている。澄んでいるのに、深すぎて奥に潜むものは影も見せない。
 さっきまでは二人の目はどちらもこんな風じゃなかった。
 体を押し放す。豊かな髪は澄んだ空色。俺の頭の中からも霧が晴れている。
 見渡しても、白い髪の少女の姿はない。
「どうにか、主として失格ってことにはならずに済んだかな?」
 自信はあったけど、やっぱり安堵した。
 見詰め合っていたら、いつもみたいに照れた微笑みを浮かべる。俺の方もなんだか面映くなって、笑い返して誤魔化す。
 向こうから顔を寄せて来る。鼻先を触れ合わせて、焦点の合わない距離で瞳を覗き合う。
 意味も無く、額にキスしてあげたら、レンの方からも返礼してくれる。
 その接吻は春の午後のように爽やかで、木漏れ日のように暖かだった。

 

/Sanctus, Succubus, Succubus・了

 


 

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