Moongazer で開催された 秋葉純情一本勝負 と言うお祭りに 「土曜日の夜に」とのSSで参加しました。
 この「土曜日の真夜中に(18禁)」は、続編に当ります。先に「土曜日の夜に(
18禁)」をお読みくださると状況が良くわかります。

 

土曜日の真夜中に

 


 

 わずかに黄色がかったグラスの中身を眺めながら、兄さんが困ったような顔をしている。なんとなく回転させたりして、躊躇っているのが判る。
「飲んで下さらないんですか? 兄さん」
 きつい口調にならないように注意して、言う。兄さんは一瞬動きを止め、苦笑いして答えた。
「いや、前ので懲りてるからね」
 だけど、その後すぐ、グラスを口に運んでくれた。少し啜って口の中に留め、やがて喉が動いて飲み込んだのが見える。驚きの表情。
「どうですか?」
「いや、うん。美味しいよ。って、この味が美味しいなんて子供っぽいとか言われてしまいそうだけどね」
 子供っぽい、か。確かに、その通りではあるのかもしれない。だけど、それはこの人らしいところなのだろう。変に達観しているかと思えば、酷く子供っぽい。どちらにしても、対応の仕方に困ってしまうのだ。
「私の取って置きですからね。気に入って下さったんでしたら、お出しした甲斐があると言うものです」
「ありがとう。知らなかったな、こんな味のもあるんだ」
「ええ。貴腐ワインと言うんですが、偶然頼りなので量は無いんです。ある種の菌が付いて、つまりは腐敗した葡萄を使って醸造するとこんな味になるそうです」
「へえ。まあ、これだけ甘ければ飲みやすいよ。だからって沢山は飲めないけどね」
 パジャマのボタンを掛け違えるなんて失態を犯して立たされた守勢から脱しようと、兄さんをお酒に誘った。飲めないから、と拒むのを言い含めるために、貴重なボトルを開けたのだ。このワインは確かに甘くて飲みやすいのだけど、干し葡萄のようなと称される味を受け付けない人も居る。だから、気に入ってもらえたのは幸いだ。
「ワインぐらい、平然と嗜んでいただかないといけませんね」
 空になっていたから、兄さんのグラスを新たに満たした。
 私も自分のグラスを干す。黙って待っていたら、兄さんがボトルに手を伸ばしかけ、だけど途中で止める。顔を向けた私の手からグラスを奪い取ってテーブルに置き、不意に首に手を回して抱き寄せられた。
 何をするんですか、と言おうとして、そんな間もなく唇を重ねられてしまう。
 それから、口の中に液体を流し込まれる。もちろん、先程のワインだ。唇を離そうとしないから、飲み込まざるを得ない。
 いや、飲むのを嫌がる理由なんて無いのだけど、今夜の初めのキスがこんな形になってしまったのが残念なような、緊張せずに済んでほっとしたような、そんな思いがした。
「何を、突然、こんなっ」
 口が放れた途端、私は叫んでいた。
「この方が早そうだったからね。それに、こうすれば俺はアルコールを摂らずに済むし」
「この程度、飲めないでどうするんですかっ」
 パニック状態の頭で、とにかく牽制を発する。甘いワインが更に甘くて、もう一口、今のを飲んでみたい。
「仕方ないだろ、多分俺にはアルコール分解酵素が足りないんだ。それより、もっと飲む?」
 はい、と即答してしまいかけ、踏み止まって、でもやっぱり肯定する。
「ほら」
 っと、兄さんはグラスを差し出す。戸惑って、半分ほど残った液体を見詰めていた。
「ん、飲まないの?」
 揶揄を含んだ声。朴念仁の癖に、やっぱりこんな時だけ鋭い。口惜しいことに、期待したのを見抜かれたわけだ。
「さっきと同じものだったら受け取って差し上げます」
 私の口は、またそんな言葉を紡いでいた。
 兄さんは声をあげて笑い、グラスの残りを口に含む。そして、再び口付けてくる。大量に飲むには甘過ぎるワインがいっそう甘美で、それなのに、もっともっと欲しくなる。また空になっているから、ボトルを取って注いだ。
「ほんとにザルだな、秋葉は」
「兄さんまでそんな言い方をしないで下さい。酒豪なのです、私は」
 そんな戯言にきっちり付き合いながら、ハーフボトル一本飲ませてくれた。流石にその頃には少しはアルコールが回っていた。結局、僅かにしか飲んでいない兄さんが立ち上がり、私も立たせようとする。ふらついた振りをして抱き付こうとしたのに、本当に足元が覚束なかった。
「酔っ払ったのか? あんなに飲むからだぞ、酒豪さん」
 酔ったのは、キスに、ですけど。
「兄さんが飲ませたんでしょう? 妹を酔わせてどうするつもりなんですか」
 ふふふ。酔った勢いで、なんてことは有り得ないんですよ。酔って本当に前後不覚か、酔った振りをしているか、どちらかです。
「うん。こうしようかな?」
 きゃっ。
 言うが早いか私を横向きに抱え挙げた。お姫様抱っこ、などという格好だ。体は弱いのに変に筋力があるのは、やっぱり七夜のせいなのかしら。
 抱き上げられて、照れ隠しに顔を背けていたら、すぐにベッドに寝かせられた。
「このまま眠る?」
 はしたないと自分でも思いながら答える。
「本気で言ってるんですか」
「じゃあ、これから何をする?」
 隣に体を横たえながら囁いてくる。私の望んでいることなんて判り切っているでしょうに、いつもいつも意地悪だ。
「意地悪っ」
 思わず口にしていた。
「ん? 意地悪して欲しいの?」
「いい加減にしてください。そんなに気の回らないようでは遠野家の男性としての自覚が疑われます」
 また伝家の宝刀のように、この言葉を使ってしまった。理屈も何も無い、ただ黙らせるためだけの言葉でしかないのは判っているのに。
「そうか。じゃあ、さっきからずっと秋葉がして欲しがっていたことをしようか」
 そう言って、いきなり私に覆い被さって、熱い熱いキスをしてくれた。
 ちゅっ、ちゅぅ、ちゅっ。
 キスを交わしながら、兄さんの手が首筋を往復する。耳を突付いたり猫をあやすように喉を擽ったりされて、悶えて息が苦しい。やっと離れて呼吸が出来ると思ったら、首に舌を付けられて、その感覚に再び息が詰まった。パジャマの上から胸に手を当てて、指先で乳首を摘んだり転がしたりする。
「ん、んふっ、」
 我慢なんて出来ないのは判りきっているけど、それでも声を殺そうとする。
「ふあっ、あっ」
 両方を同時に弄られて、もう既に耐えられない。
「ほんとに敏感だな、秋葉は」
 息がかかるほど傍で囁かれて、耳のあたりから体が崩れてしまいそうだ。
「自分でする時もこうなの?」
 じ、自分でって。
「そんなことっ」
 さっき留め直してもらったボタンを兄さんが外して行く。それから私を持ち上げてズボンをお尻から下ろし、裾を摘んであっさりと抜き取ってしまう。
「いやっ、ん、」
 再び私に覆い被さり、いやらしい言葉を耳に流し込んでくる。
「自分でなんか、しない?」
 したことは、ある。いや、会えなかった数ヶ月間には何度となく。
「しませんっ」
「そうか。じゃあ、どんな感じか試してみようか」
 えっ?
 唇を重ねながら、兄さんは私の手を掴んだ。掌を私のお腹に触れさせて、覆うように自分の手を重ねる。胸の方に動かして行き、自分で胸を揉む格好にされる。
「いや、こんなこと」
「ほら、胸が小さいって気にしてるみたいだけど、ちゃんと柔らかい膨らみは感じられるだろ?」
 それは、確かに。ふざけて触ったことのある羽ピンの胸の弾力には遠く及ばないにせよ、何も無いわけはないのだ。ただ、女らしさを感じられるには控えめ過ぎると思うだけ。
 私の人差し指を兄さんが摘んで、乳首に触れさせた。そのまま執拗に弄らされる。
「あふ、ぁ、ふぁああっ」
 さっきと遜色の無い甘い感覚が溢れる。
「こっちも」
 反対側の手も、胸に運ばれた。強制はされないけど、おずおずと指を蠢かせて先端を愛撫する。見られているのが恥ずかしくて、でも、そこに居ることがこの上なく嬉しい。会えなくてこんなことをしていた夜の事を思うと、兄さんの意地悪さえも嬉しい。
「さて」
 兄さんが両手を私の脇腹にあて、指先でかすかに触れながら滑り降りていく。
「ひゃんっ、」
 兄さんは私が過敏だと言う。何が基準なのかが気になるのだけど、口惜しくて訊けない。
 腰骨をくすぐって脚の方まで降りて行き、膝を撫でまわす。逃げようとしたら足を開かされてしまった。腿の内側をなぞって登って来て、足の付け根のパンツのラインに沿って指が動いていく。
「自分で胸触ってるだけで濡らしちゃってるね、秋葉」
「だけ、って訳じゃっ」
 反論しかけた途端、お尻を持ち上げてパンツを下ろされてしまう。
「ぁん、」
 足を閉じようとしたら、そのせいで脱がすのに協力することになってしまった。両足を持ち上げて下着を抜き取り、開かせて間に入り込む。思わず両手で脚の間を覆った。
「ん、今度はこっちを自分でする?」
 これは、窮地だ。手をどけたら見られてしまうし、そのままにしていたら自分で弄らされるに違いない。
「ぃやンっ」
 体を捻って横向きになろうとしたけど、膝を押えて防がれた。結局また手を捕らえられて、中指を引っ張って私の女の部分に導かれてしまう。
「すっかり濡れてるから大丈夫」
 そんな辱しめを口にしながら、谷間に指をあてがわれる。確かに潤っていた。
「ほら、こうやって、ゆっくり」
 僅かに沈めた指を上下に操作される。湧き上がる快感は兄さんに触れられるのと変わりなく、無論、独りきりで触れたときとは比較にならない。もう一方の手も捕まって、こっちはクリトリスに。気持ち良くなること以外に機能の無い奇妙な器官は、刺激が強すぎて怖い。だから、自分ではあまり触れなかった。
「あぁあっ、あ、ふあ〜っ」
 だけど、今は大丈夫みたい。身も世も無く喘ぎ始めてしまった。
 ちゅっ。
 キスされてようやく、兄さんが顔を近づけていたのに気付いた。いつの間にかパジャマを脱いでもいる。そして、すっかり自分の意志で指を動かし続けていることにも気付かされた。
「したことが無いにしては慣れてるみたいだね」
「んぁ、あぁっ」
 繰り返される辱しめの言葉にも、もう意味のある反論は返せなかった。もう一度たっぷりとキスした後、唇は胸に移る。乳首を大きく覆って、その中で舌が周囲を舐めまわす。なのに中心には襲ってこない。もう片方を指で可愛がられる。じれったい感触に耐えられず、自分の秘所を慰める指が奥へと進んでしまう。
「くふ、あ、ぁあっ、んっ」
 タイミングを計っていたかのように、指を突き入れた瞬間に乳首を舐められた。吸い付いて、ぺちゅぺちゅ音を立てて舐めている。何箇所からもくる快感に翻弄されて、ほとんどこれだけで逝きそうになる。
「にい、さん、」
 本当に逝ってしまおうと動きを激しくした途端、掴んで邪魔された。
「あん、な、」
 何故、と言いかけて、思い留まった。
「自分でしたこと、あるんだろ? 秋葉」
 確信した調子で問われる。
 逡巡し、いやいやするように首を振る。
「兄の質問に答えられないのか?」
 こんな時ばっかり強気。意地悪なのは普段の意趣返しですか。じれったくなるばかりの軽さであちこちを突付かれて、とうとう私は白状した。
「あります」
「そうか。嘘吐きで淫乱な秋葉にはお仕置きしないといけないな」
 言うなり、私の両足を高々と抱えあげ、体を大きく曲げさせられた。足が頭の上にくるぐらいに。さらには脚を限界まで広げられる。
「いや、こんな、恥ずかしい」
「お仕置きだからね」
 こんな無理な体勢のまま、兄さんが私を支える形で抱きしめて、私の中に指を沈める。他の指でクリトリスにも襲い掛かる。
 ちゅっ。
 信じられないことに、兄さんはお尻に唇を付けた。尾底骨のあたりから谷間を伝って移動してくる。
「いやぁ、兄さん、そんなところっ」
 抗議しても、止めないどころか舌まで伸ばしてくる。とうとう本当にお尻の穴に舌が届く。
「ぁあああっ」
 羞恥と嫌悪に塗れながら、それなのに快感に弾けてしまう。変態、などと口に出しかけて、それを気持ち良く思っている自分のことを考えてストップする。
 余らせていた手がまた私の手を捕まえ、さっきと同じく胸に持って行かされる。それだけで誘惑に負けて、私も自分で可愛がり始める。何もされなくても、気が付いたら両手でしていた。
 開いた兄さんの手は、届く限りのところを撫でてくれる。
「んあっ、ん、くはぁっ」
 少しずつ、でもはっきりと、手や舌の動きが激しくなる。秘所に突き入れられた指が猛烈に往復して、くちゃくちゃ、濡れた音をたてる。
 もう羞恥なんて忘れてしまっていて、息苦しい姿勢なのも意識に上らず、全身が快感に融ける。愛撫されているだけなのに、思考が止まってただ快楽に溺れていく。
「にい、さんっ、私、もうっ」
 答える代わりに胴をぎゅっと抱き締めてくれて、もっと手の往復が激しくなった。
「くは、ああぁあっ、ん、んはっあっ」
 いつものような、爆発してしまいそうな感覚ではなく、蒸発して消えてしまいそうな気がした。
 純白。閃光。弾けて。溶けて。
 自分が何処にいるのかも不確かに思え、ただ兄さんが居ることだけが確かに感じられて。それが嬉しくて。
 逝って。
 全身、虚脱する。何かお腹の方に違和感は覚えたけど、意味が判らなかった。
 生暖かい感覚に気付いたときには、もう遅かった。
「いやっ」
 そんなっ。
 兄さんが慌てたようで何かをお腹に当ててくれる。
「ふふふ」
 小さく笑ったのが聞こえた。恥ずかしいけど、それより、謝らないと。
「ごめんなさいっ」
 本当に。幾ら意識が飛んだからって、漏らすなんて。だけど、判っても止められるわけじゃない。
「ごめんなさい、兄さん」
 とっさに布で押えてくれなかったら、今ごろ辺り中が尿で濡れていたのだから。
「あんなに飲むからだぞ? 酒豪さん」
「全部飲ませたのは兄さんでしょう!」
 でも、だからって、こんなこと。
「びしょびしょだな」
 私のもので濡れた布を見て兄さんが言ってる。それにしても、あの布は何? そう思って良く見て、やっと理解した。
「そ、それ、兄さんのパジャマっ」
 なんてこと。
「ん? ああ、咄嗟に掴んだのがこれだったみたい」
「そんな、御免なさい、兄さんっ」
 本当に、そんなものを汚してしまうなんて。
「良いよ、こんなもの洗えば良いんだから。うん、風呂場に行こうか?」
 風呂場と聞いて、琥珀と交わした言葉を思い出した。意を決して、躊躇を振り切って、答えた。
「はい」
 とんでもない経緯だけど、それは叶ってしまったようだった。

 

<続く?>


 

 まだ続く……かなあ^^;
 

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