「それにしても、何処の異次元かと思ったわ」
 不意におかしなことを言ったせいだろう、ライダーは不思議そうにわたしを見る。
 きょとんとした様子が彼女の凄絶な美に程の良い隙を与えていた。伝説そのものの魔眼を持ち、善良とばかりは言えない彼女の正体をわたしは充分に知っている。それでも、その柔らかな表情は心を和ませてくれる。
「トートバッグ下げて野菜を買ってるライダーの姿よ。あんまり非現実的でね」

非等価交換


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 この世に存在していること自体が奇跡のようなもの。それほどの美貌の彼女が、小さな商店街の八百屋で長ネギやら大根やらを手にしている様子は、それだけで既に頭が白くなりそうだった。町の住人として店主やら買い物客やらとすっかり馴染んでいるらしいのが更に輪を掛けた。
 そして、メデューサだなんて知っているわたしには、完全に異空間だったのだ。
「あまりに目立つようなので、髪を結ぶことにしたのですけど、効果は無かったですね」
 そう言う問題では無いと思うのだが、案外自分の容姿に自覚は無いのかもしれない。美貌が災いして魔物にされてしまった過去があるはずなのだけど。
 ややこしい相談事が終わって、一息入れようと、お茶にしたのだ。ミルクティーを淹れてテーブルに向かい合って座る。イギリスで買って来た紅茶で、お土産はほとんど全部士郎のところに置いてきたけど、これだけはまた持って帰って来ていた。昨日からずっと衛宮家に居たから、遠坂の屋敷でお茶を淹れるのは帰国して初めて。
 帰って来て気付いたことのひとつに、ライダーが極自然に食卓を囲んでいたと言うのがある。衛宮の屋敷にわたしが居た頃から、藤村先生の手前や桜や士郎が強く望むのに応えて食事をしてはいた。それでも、仕方なく付き合っている気配は大きかった。
「美味しいです、流石は本場ですね」
 少なくとも、こんなコメントをする感じではなかったのだ。
「今のように安定したのと同じ頃からです、食事が本当に美味しいと思うようになったのも」
 色々と突っ込んでみたら、こんな返事があった。
「ごはん食べることでも魔力は得られるのよね? 必要ないのかも知れないけど、桜が居れば」
「ささやかな量ですが、得られます。そうですね、でも不要と言うものでも無いようです」
「どういうこと?」
 桜が充分過ぎるほどの魔力を与えているだろうから、ほとんど無関係だと思っていたけど。
「あれほど手間暇を掛けて調理するのも理解しました。もうすっかり、食事をするのは楽しみになってしまっています」
 あはは。ライダーまで餌付けされたか、士郎に。
 困ったものです、なんて言いながら少しも困った様子は無く、僅かに照れた笑いを浮かべている。
 ……やば、なんかドキッとしてしまった。おかしいな、魔眼殺し越しに見ているのに、あの壮絶な瞳に魅入られたみたい。
「ああ、それで思い出しました。リン、もうひとつ頼みがあります」
 紅茶のカップを空にして、ライダーが切り出す。真剣な面もちになっていたから、わたしも意識を切り替え、促す。
「私が安定したのには、サクラが慣れてくれたからでしょうが、他にもあるのです。どうも、あまり一種類の魔力源に頼るのは良くないらしくて」
「一種類って、桜のことよね? アンリ・マユの名残でもあるの?」
 名残、なんて自分でも曖昧な表現だと思うけど、あまり詳しく考えなかったのだ。
「アンリ・マユのせいなのかどうかは判りません。ただ、ずっと控えていた吸血をした途端、状態が格段に良くなったのです。同じ頃に食事を美味しいと思うようにもなって、考えてみると、少しでも別種の魔力を得た方が良いのだろうかと」
 ちょっと理屈は判らないけど、本人が自覚しているんだし、そう言うこともあるのかも知れない。しかし、堂々と言ったわね、吸血したって。
「ずっと血を吸うのを我慢していてストレス貯めてたってわけでもないでしょうね?」
「その説を全否定は出来ませんが、それだけが理由と言うことはないでしょう」
 って、今の笑いもまた妖しかったわね。変な事件起こったりしてないか、ちょっとは調べておいた方が良いかも。
「で、お願いって、その話なの?」
「はい。リンは今、遠い土地で得た魔力を多量に持ち合わせているでしょうから、分けて欲しいのです。いえ、交換で良いのですが」
「交換で良いなら問題無いわ、血を吸いたいって言ってるわけじゃないでしょ?」
「ええ、それでは交換になりませんし」
 互いの霊脈を繋いで少しずつ与え合えば済むだけの話だ。設備もここなら揃っているし、と思ったとき、ライダーが躊躇いがちに言う。
「ただ、問題はあります。普通に私と人間の間で接続を作る魔術行程には少なくとも五日はかかります。下手をすると十日以上、リンならもっと短くて済むかも知れませんが、それでも二日か三日は必要でしょう」
 三日? こっちには一週間しか居られないのに、それは困る。
 もっと短時間で繋ぐ方法。
 幾つかあるけど、と具体的に思い浮かんだ途端、わたしは頬が熱くなった。そんなこと、ライダーみたいな美女としてしまったら、絶対に後を引く。
「短時間で安全に、となると手段は限られてしまいます。あまり強くお願いできることでもありませんが」
 何故か妙にドキドキしているわたしに、ライダーは悪戯な顔つきで告げる。ああ、まさか、わたし、そんなこと。
「ソレぐらいしか、無いわよね。わたしとライダーじゃ魔術刻印を遣り取りするなんて手段も使えないし」
 でも、アレはちょっと、恥ずかしいというか、さっきからライダーを見ていて感じてるヘンな気分を思うと避けた方が良さそうと言うか。
 ああ、なんでわたし、こんなにドキドキしてるのよぅ? 期待してるみたいじゃない、これじゃ。
「交換と言いましたが、リン。私の方は、二倍お返ししても良い。平穏に過ごしていますから、余っている程なのです」
 二倍って。ああ、そんな美味しい話を聞かされたら受けないわけには行かないじゃないのっ。
 うん、そう言うことよ、これは。高々えっちするぐらいのことで倍返しなんて取引が出来るのに、拒むようじゃ魔術師じゃない。
 うんうん、そう言うことっ。
 ……それにしても、あの魔眼殺し、石化しか抑えてなんてこと無いでしょうね? 目が合うたびに心臓ばくばく言うんだけど。
「良いわ、そうしましょう。三日も無駄に出来ないし、魔力の収支としちゃ得するばっかりだし」
「助かります。それで、どういう方法で交換しますか?」
「ど、どういうって……」
 思わず叫びかけて、ライダーが艶めかしくも意地悪な笑いを見せているのが判った。からかわれたと知って睨み付けてやると、ライダーは顔を逸らして言う。
「リン、この眼鏡があるからと言って、あまり私の目を見つめるのは良くない」
 う。ま、そうみたいなんだけど。
「今夜で良いんでしょ? 早い方が良いわ」
「ええ、今夜が邪魔が無くて良いでしょう。サクラの居る家でするわけにも行きませんし」
 それは、そうだ。
「うん、じゃあ、わたしシャワー浴びてくるから。そう言えば、ライダーはお風呂なんて入るの?」
「必要はないのですが……一度霊体になって戻れば付着した汚れは無くなりますし。ですが、体を湯に浸すという行為は気に入りました」
 風呂に入るライダー。また、この上なく絵にはなる情景が浮かぶ。
「一度、サクラと風呂屋に行ったこともあります」
 このエキゾティックな佳人が銭湯に。それはまたシュールだ。ずいぶんと普通の人の暮らしを楽しんでいるらしい。
「じゃ、入るなら後で入って」
 相変わらずの落ち着いた口調で、ライダーは了解を告げてくれる。

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 バスローブを羽織ってソファでライダーを待つ。率直に言って変な気分だ。
「取引よ、これはっ」
 思わず口にした。そう、労せず魔力を増やせるんだし。
 ――コンコン。
 が、そう言う考えは、どうも援助交際とかそう言う宜しくないものを頭に浮かばせる。
 ――コンコンコンコン。
 だから、えっと。そう、魔術師としては、こんな得な商談もないのだ。引っ掛かってるのは、女の子としてはってことで。ライダーのことは、その、嫌う理由はないのだけど。
「リン?」
 あれ? さっきはライダーにドキドキして戸惑ってたのに。やっぱり魔眼のせい?
 綺麗だし、色っぽいし、そのくせ変なところで可愛いし。でも、だからって、女の子に胸を高鳴らせなくても良いのに。
「リン? 開けますよ?」
 そう、それに、あの声。しっとりと話すから気付きにくいけど、耳から流れ込んで知らぬ間に脊椎まで溶かされていそうな甘さを含んでる。
 ――ガチャ。
 声まで魔力が篭ってたりしないでしょうね? 無いとは言い切れないのが恐ろしい。
「リン? どうしました?」
 えっ?
 慌てて顔を上げたら、目の前に湯上がりのライダーが居た。思わず、絶句した。
 湿った髪とか、上気した肌とか、とんでもなく色っぽかったから。わたし、レズの気は無いつもりなんだけど、自信を無くしそうだ。
「いつの間に?」
 石化したみたいに黙ってしまったから、急いで取り繕う。
「失礼しました、何度もノックして声をかけたのですが」
 ああ、そう言えば聞こえていたような。
「綺麗ね、ライダー」
 思わず口をついて出る。
「ふふふ、リンこそ」
 隣に腰を下ろし、わたしの髪に手をかけて言う。他人に髪を触らせるなんて、色んな意味で避けるべきことだけど、撫でる手付きがやたらに心地良くって二度三度と繰り返すのに身を任せてしまった。
 いきなりの倒錯した雰囲気に飲まれながら、わたしも手を伸ばして、ラベンダー色の髪に触れる。濡れているのに、強い髪だった。堅いんじゃなくて、滑らかなのに芯が強い。到底そうは思えないけど、神話のままであれば、これは蛇なのだ。
「私の方は、いつでも構いませんが」
 囁かれて、何のためにシャワーなど浴びて来たのかを思い出す。今のって、わたしにGOサインを譲ったわけよね? それは良いけど、それってわたしがHを始めようと言わなきゃならないってこと?
 ライダーは長い長い髪を掻き上げ、指に掛けたまま腕を伸ばしている。真っ直ぐ手を差し伸べても半ばにも達せず、反対の手に譲って両手を開く。それでやっと、手からサラサラと落ちる。その何とも艶やかな所作の途中、わたしを見て小さく首を傾げ、泰然として笑う。
 わたしばっかり心臓をバクバクさせてるらしいのに腹が立ってきたから、言った。
「良いわ、早くしましょ?」
 立ち上がって、ベッドに促した。
 二人で傍に並んだところで硬直してしまっていたら、ライダーが首に手を掛けてきた。視線が合い、わたしはやっぱり魅入られてしまう。そのせいで、正面から真っ直ぐキスされたときも、成すがままだった。
 唇が触れ合っている。柔かくて熱い。まだ動けないでいるのに、ライダーは遠慮なく舌を差し入れてくる。唇の内側を舐められて、ぞくりと何かが背中を走る。その刺激に少し我に返り、両手でライダーの頭を抱く。
 どうせなら楽しもうって、開き直った。私の方からも舌を出し、押し合う。相手は舌まで長いのか、すぐ絡め取られてしまう。歯茎とか上あごとか舌の裏側とか、舌先でぬめぬめと辿られるたびに、魔力を通すのにも似た感触が全身を駆ける。
 ライダーが顔を引いて離れようとしたとき、思わず追いかけていた。それに応えて、顔の向きだけ入れ替えて一度は戻ってくれた。さっきより強烈なキスになる。おまけに指で首の辺りを撫でられて、くすぐったいのか何なのか判らない感覚に悶える。
 それから本当に離れると、ライダーは艶然と笑った。
「まだ緊張していますか?」
 緊張というより、興奮している。ベッドインを前にキスして興奮するのは当然だとは思うのだけど、やっぱり妙な感じだ。
「ほら」
「きゃっ」
 ライダーが屈み、いきなりわたしを横向きに抱え挙げる。そのまま、静かにベッドに横たえてくれる。
「強引ね」
 くやしい気もするけど、正直ほっとした。
 ライダーがあっさりバスローブを床に落とす。磨いた石膏の彫像みたいに肌が白く、造型もまた人外の匠の手になる芸術そのものだ。美しいことはそれ自体、突き詰めれば神秘足り得るけど、ライダーのプロポーションは充分その域にありそう。
 あんなにバストがあるのに、卑怯なほどウエストは引き締まっている。多分、いくら食べたって太ったりしないんだろう。ちょっとズルイ。
 ベッドに上がって来て、わたしに覆い被さる。華やかに笑い、顔を近づけてくる。大人しく目を閉じてキスを待った。
 ふふふ、と妖しい笑い声を洩らして、ライダーは唇を重ねてきた。さっきのキスが、ほんの挨拶だったのが判る。蛇が這い回っているみたいに口の中を舌が動いて、びりびりと痺れる快感を引き起こされる。
 キスって、こんなに気持ち良かったんだ。
 ちゅ、ぺちゅっ。
 ちょっとぐらいは反撃しようと舌を出したけど、敗戦一色。
「はぁあっ」
 ちょっと離れた途端に、堪らず熱い息を吐いた。すぐに再開されて、さっきよりまた触れ合う感触が快美になる。
「慣れてはいないようですね?」
 耳に唇を移してライダーが囁く。
「あたり前でしょ、女同士なんて」
 男の子とだって慣れてなんかいないけど。
「なら、とりあえず任せてください、私に」
「んんっ」
 耳朶を噛まれて喘いだ。リンの体を詳しく知らなければ、なんて言いながらライダーは手を頬に当てて撫で下ろし、首から肩に辿り着いて鎖骨のあたりを行き来する。耳を唾液で濡らす音が響いて聞こえる。それから、首筋を通って口と舌も肩に至った。
「んふっ」
 鎖骨を唇に挟んで往復される。中で舐められている。
「肌が綺麗ですね、リン」
 ひとこと言って、また口を付ける。皮膚を舐められるなんてことが不快どころか気持ち良いのは不思議な感覚。
 上半身を抱え挙げられて、バスローブを脱がされた。ついでのように再度口付けて、抱き締められて肌が触れ合う。背筋を辿る指の感覚もさることながら、押し潰しあう互いのバストの柔かさに酔う。わたしも背中に手を回して抱き締め、力を強弱して、ふにゅふにゅって感触を楽しむ。
 肌が綺麗とライダーは言ってくれたけど、これもライダーの方が上だ。滑らかなんてもんじゃなくて、液体めいた手触り。皮膚の中に潜り込んでるんじゃないかって思うほど、背中を撫でる手も擦り合う胸も気持ち良かった。くすぐるような指遣いで背中を責めて来るから、やり返そうとするのだけど、ぞくぞくして腕から力が抜ける。
「楽しんでください、リン」
 再びわたしをベッドに押し倒し、腕を頭の上にやらせる。手首を掴んで固定し、いきなり腋の下に舌を付けられた。
「きゃははっ」
 くすぐったくて悶えるわたしをしっかり押さえつけて、しつこく腋を舐めたり吸い付いたりする。ちゅうっ、なんて音を立てている。
「だめ、くすぐったいからっ」
 抗議しても止めないばかりか、更にわたしを動けなくして探るように執拗に舌を使い続ける。
「くふふふっ」
「くすぐったいのって、ある瞬間に性感になるんですよ」
 そんなことを言いながら、もうしばらく続けられた。聞いた事はある話だけど、とても信じられない。信じられないけど、ただ、不快には思っていないのに気付く。間欠的な動きの合間に、余韻だけは何処か甘美だった。
 そのあと、いきなり乳首にキスされる。
「あんっ」
 不意打ちに思わず声が漏れる。唇で挟んで先端を素早い動きで舐められる。腰骨あたりに触れた手が脇腹から登って来て、反対側の胸を揉み始める。
「ふあっ」
 吸われている乳首の快感が無闇に鋭い。くすぐられた時に神経の接続を変えられでもしたたみたいに、腋の下の撫でる指まで何故か気持ち良く思える。
「自分では無理ですからね、ここは」
 言って、舐めていた乳首を指で摘み、自由になった口は腋に戻る。
「ひゃあ、んっ?」
 さっきまでほとんど拷問だったのに、今の感触は全然違う。乳首の快感とハーモニーして、電撃みたいな心象の気持ち良さが走る。
「ほら、言ったでしょう?」
 なんか悔しかったから、思わず唇を噛んで耐えた。今度は気持ちいい拷問だった。意地を張って声を抑える。
「ふふっ」
 また余裕の笑いを発しつつ、放置されていた反対側の乳首に口を付ける。でも、さっきと違って舐めてこない。いや、大きく開けた口で乳首の周りを覆い、その中でくるくると舌を這わせてはいるんだけど、乳首には少しも触れてこない。もう一方のおっぱいは揉んだり摘まれたりしている。
「ん、んふっ」
 さっきから一度も触れられてないから、刺激を待ち望んでいた。それなのに、少しも舐めてくれないどころか口を離してしまう。
「何もしていないのに乳首をこんなにして」
「いぢわる……」
 何もしてないなんて大嘘なんだから。
 やっぱり触ってはくれなくて、ただ息を吹き付けたりしてくる。それから、わたしの手を取って、人差し指の先が乳首のすぐ傍になる位置で胸に運ばれる。
「ほら、わたしは見ていませんよ?」
 そんな悪魔の囁きのあと、さっきから可愛がられている方の乳首をまた責めてくる。
「くふっ、あああっ」
 触りたい。自分で乳首を刺激したい。でも見てないなんて嘘に決まってるし。
「自分でも焦らして楽しむのが、いつものリンのやり方なんですか?」
「いつもってっ」
 触らなかったらライダーの言葉を肯定するみたいになってしまう。でも見られてて自分でするなんて。そんな葛藤も僅かの間に過ぎず、気付いたら乳首を抓んで先端を弄っていた。言われた通り、すっかり硬く尖っていた。
「ふふっ」
「見てたわねっ!」
「あら、何をですか?」
「そ、それはっ」
 黙っていると、もう一方の手も胸に持ってこられて、それからライダーはわたしの胸の間に唇を押し当てる。そこから、ゆっくりと下に動いていく。もう、開き直って自分で胸を愛撫してしまう。
 ライダーの口がお腹を降りて行き、臍に至る。舌を入れて掘るように責めてくる。
「駄目、そこはっ」
 発した悲鳴に、ライダーは冷静に応じた。
「弱いのですか?」
「……うん」
 そうですか、と穏やかに言った後、余計に責められた。耐えられなくて、ライダーの頭を押し退けてしまう。抵抗せず、ライダーはもっと下に移動し、いきなり片脚を上げさせて脚の間に吸い付く。
「ひゃんっ」
 両足を押えて、わたしの女の子の部分を何度も舐めてくる。谷間に舌が入るのが判る。経験の無い感触に悶えた。少し上に滑って、クリトリスを探り当てて唇で咥えられる。
「それ駄目、すぐ逝っちゃうからっ」
 訴えたけど聞いてくれず、振動するような動きで刺激される。
「くはっ、ふぁん、ぁあ、あっんっ、」
 同時に谷間に指を入れられて、くちゅくちゅと掻き回される。もう充分濡れてるみたい。
「ふああぁあぁああ〜」
 逝っちゃう。気持ち良いけど、もうちょっとゆっくり楽しみたかった気もする。止せば良いのに、自分で胸は責め続けていた。魔術行使の際に似た、ただし痛みの無い昂揚感。思考が止まって快楽で体の中がいっぱい。
 もうちょっとで逝きそう。
 っと言うところで、ライダーは動きを止めてしまった。
「あん、なんで……」
「男性経験は無いようですのに、良くご存知なんですね、自分の体のことを」
 言われて、一瞬で全身熱くなった。バージンなのに、クリトリスが凄く弱いとかを自分で知ってるなんて、自分でして知ったと言ってるようなものだ。
「胸なども気持ちの良い触り方を知っているようですし」
 ちょっと見たら、ライダーは艶然と意地悪に笑っている。
「あうぅ」
 反論できず、羞恥に呻く。
「どうかしたのですか?」
 言いながら、また仰向けのわたしに体を重ねる位置に戻る。片手を取って指を掴み、それでクリトリスを弄らされる。はしたなく蜜が溢れていた。
「やぁんっ」
 またキスされる。するたびに感触が鮮烈になる。舌を絡ませあいながら、もう指を取られてはいないのに気付いても、クリトリスをそっと撫でるのは止められなかった。
「何も悪いことではないでしょう? こんな風に楽しむのも」
 そりゃ、こんなこと、別にタブーだとは思っていないけど、羞恥はあるわけで。
「でも、折角ですから、自分では出来ないことを楽しんでください」
 妙なことを言ったライダーは、私の足を掴み上げると、何の迷いも無く爪先を口に入れた。親指を口に含んで、隣の指との間を繰り返し舐め始める。
「ひゃはっ」
 初めに覚えた衝撃は、くすぐったいってことだったはずなのに、すぐにもっと快いものになる。とは言え、足なんか舐めるなんて。
「そんなとこ、汚いよ」
 恥ずかしくて引っ込めようとしても、強固に掴まれていた。
「きれいですよ、入浴したばかりでしょう? そうでないとしても、リンの責任ですね」
 冷静に言って、今度は踵を甘噛みする。べったりと舌を付けて、土踏まずを舐め上げていく。足を舐めるなんて卑しいことをライダーのような美女がしている姿は強烈に背徳的で、眺めていて興奮した。
 ぬろんっ、と舌を使っては歯を押し当て、唇をつけて吸う。
「んふっ、ぁん……」
 くすぐったい。それは間違いないのに、確かに性感でもあった。攻撃位置が動くたびに、脚の間の部分にまで衝撃がある。まだ手はそこに置いていたけど、強烈過ぎてほとんど動かしていない。ライダーがまた親指を咥えて、そのまま脚を上げさせるように近付いて、手をわたしに伸ばしてくる。
「だめ……」
 自分の手で覆ってガードしたけど、あっさり退けられてしまい、戦闘時の恐るべき破壊力からは信じられないような繊細な指がわたしの中に沈む。
「くぅん」
 優しく谷間をなぞられているだけ。それなのに、経験が無いほど感じた。一本づつ足の指を吸引し、指の間を舌先でしゃぶり回される感触と性器を弄られる感触がハウリングして増幅しているみたいだ。
「ああっ、あふぁ」
 小指側の二本を口にして、その間でマッサージ器の振動みたいな速さで舌が蠢く。あそこを責める指も激しく動いて、一番駄目なトコも遠慮なく襲われる。何にも考えられなくなる。じっとしてられなくて、体を仰け反らせ、両手でシーツを掴む。
「んぁあああ〜っ」
 こんなの、すっごい。自分でシたりするのと天地ほど違う。オカシクならないのが不思議。魔力が漏れているみたいに刻印が熱い。
「んぁ?」
 もうちょっとだったのに、ライダーは動きを止める。
「そんな……」
「リンひとりで逝っては霊脈が繋げませんが」
 ああ、そうだった。でも、こんな状態で止められたんじゃ耐えられない。
「ぁん……」
 もどかしくって身を捩るわたしにライダーが言う。
「でも、今回でなければならない理由は無いですね。まずはたっぷり楽しんで貰うのが目的でした」
 咥えていた足を放し、脚の間に顔を埋めてわたしを舐め始める。三度ほどヴァギナを舌で行き来しては、ちょん、と少しだけクリトリスを突付き、また谷間の方に戻る。舌を突き入れて探り、またクリトリス。
「ん、くふっ、んあんっ」
 それぞれは強烈に気持ち良いけど、断片だからじれったい。
 脚を持ち上げられて、膝の裏に手が添えられる。そこを揉んだり擦ったりするのと舌がクリトリスに集中するのは同時だった。
 鮮烈で息も出来なかった。そんなヘンなところが感じるなんて思いもしなかった。それから、もっと脚を持ち上げられて、一緒に腰まで浮いてしまう。
「やん、ちょっとっ」
 お尻を高々と持ち上げられて、体が大きく曲がって足は頭の上に来る。躊躇いも無くお尻の谷間にライダーは口を付ける。片手は膝を裏から押えつつ、もう片手はお腹の方から下腹部に回っている。
「駄目ぇ、そんなっ」
 長い舌が伸びて、お尻の一番奥に到達する。
「汚いよっ」
「お風呂で洗ったでしょ?」
 そんなことを言ってわたしの抵抗を聞き入れず、ライダーはお尻の穴を舐め続けた。
「くぁん、あはあああっ」」
 指で触れることぐらいはある性器と違って、そんなところは全く未知の感覚。なのに、頭の天辺まで手を突っ込まれたみたいに喜悦が迸った。
「手が空いてますよ? リン」
 え?
 飛び飛びの思考じゃ、自分の手のことだと判るのに時間が掛かった。
 気持ち良いんだし。自分でおっぱいに手を添えて、揉んだり乳首を弄ったりする。
「ふふふ、ずいぶんと慣れた手付きですね、リン」
 ライダーが辱めて来るけど、もうとっくに開き直っているのだ。
 ヴァギナを愛撫する指が水音を立てていて、糸を引いているのも目に入る。一番敏感なボタンを露わにされて、今まさに触れようとしていた。
 息を詰めて覚悟を決める。
「ひあっ」
 その瞬間に、膝の裏のくすぐられた。思い切り虚を突かれて、それだけで逝きそうだった。
「ふふふ、まだですよ、リン」
 でもまた加減されたらしく、ギリギリで止められた。
「もう、逝かせてっ、ライダー……」
 ひたすらにバストを揉みながら、懇願した。
「いやらしい子……」
 また羞恥を煽りつつも、しっかりと愛撫を再開してくれる。クリトリスと、谷間と、お尻。脚の間の狭い領域から手足の先端まで染み渡るように快感が溶けて混ざりこんでいく。まだ逝っていないことが恐ろしかった。今、身に受けている愉悦はいつもの逝く時のそれよりまだ大きい気がするのに。
「逝く時は逝くって言って下さいね?」
 囁きながら、ライダーはわたしの足の裏に指を踊らせる。準備万端の儀式魔術のトリガーを引いたみたいに、それが切っ掛けで弾けた。
 初めの瞬間、声が出せないどころか、碌に息も出来なかった。神経も魔術回路も焼断するんじゃないかって思った。痙攣してるのか麻痺してるのかも判らないぐらい。体が分解してエーテルにでもなったみたいだった。
 その状態に少しだけ慣れて、やっと息が吐け、声が上がる。
「いっ、く……」
 厳粛な義務みたいに、それを口にした。
 秒単位の時間でしかないと思うけど、酷く長かった。ライダーがクリトリスをヴァギナを弄り倒しているのとか、後に舌を差し入れんばかりにしてるのとか、足の裏をくすぐっているのとか、全部それぞれ判った。だから、別に体はちゃんとあるんだって、あたり前のことを思って、やっと意識が平静に向かう。
「あ〜〜っ」
 ようやく、普通に喘ぎ声が出た。
 ちょっとの間、気絶したかも知れない。脱力して、白目剥いてそうだとか思って、頑張って気を取り直す。目を開けたら、すぐ前にライダーの顔があった。
 天使のように、それとも淫魔のように、ライダーは笑う。いずれにしても、楽しげで優しい微笑みだった。恥ずかしいのも余所に、幸せになれる笑顔。
「可愛かったですよ、リン」
 呟いて、キスされた。ただ唇を重ねて、軽く舌で突付き合うだけの接吻。気持ち良いと言うより、楽しかった。
 ぎゅうっ、と抱き締めてくれる。しばらくそうしていて、やっと大事なことを思い出す。
「それで、霊脈は繋げたの?」
 なのに、こんな事を言って来やがった。
「いえ、それには二人一緒でなければ駄目なのはご存知でしょう?」
「そ、そうだけど。じゃあ、今わたしが逝かされたのは無駄ってことっ?」
 声を荒げたら、またライダーは抱擁に力を篭め直した。
「いえいえ、これでリンの体のことが良く判りましたから、本番で完璧を期すのに役立ちます。そのためですから、今楽しんでもらったのは」
 それは、事実だろうとは判断できる。でも、楽しんでたのはライダーじゃないかって思ってしまう。やられっぱなしと言うのは納得が行かない。
 なら、することは一つだ。
「ライダー?」
「なんですか?」
 抱擁を振りほどいて、上に伸し掛かりながら言う。
「わたしも、ライダーの体のことを充分知っているべきよね?」
 一瞬戸惑ったみたいだけど、理解の色が眼鏡越しの目に表れる。
「そうですね」
「じゃ、今度はわたしの番よ。大人しくしてよね」
「お手柔らかにお願いしますね、リン」
 しおらしく言いながらも、蕩けるような笑いには、余裕が現れていた。
 絶対メロメロにしてやる。そんなことを、思った。

 

非等価交換 一話 ・了

 


 

臆面も無くオフィシャルで「えっちして魔力補給」なんてのをやってくれたので、エロが非常に書きやすい。
タイプムーン系では珍しい露骨に妖艶なおねーさんなので、ドジっ子って方面よりそっちを追求しますw
キャラがみんなエロくなってしまうのはご容赦願いたし。凛の反撃は「待て次回」ってことでm(__)m

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