両儀式朝餉


 

 台所に入った途端、式が振り向いて睨み付けてきた。
「結局寝てないな? 幹也」
 その通りながらも何か言い返そうとして、だけど、厳しい目付きに意気を削がれる。
「……ごめん」
 言うことを聞かなかったわけだから、謝った。
 今日までに仕上げなきゃならない仕事を持ち帰っていて、せっかく式が来てくれていたのに徹夜でかかり切りになってしまった。いい加減に寝ろよ、と何度も言われていた。邪魔しないようにと隣の部屋に居た式も、やっぱりたぶん碌に寝ていない。
「凄い顔してるぞ」
 そばに来て、心配そうながらも怒った顔で頬に触れてくる。柔らかい式の手は少し冷たくて、疲れた頭を目覚めさせてくれる。でも、ついでに別のところも目覚めてしまう。いや、本当は、ここに来る前から。
「終わったんなら早く寝ろよ」
 僕が何を考えているかなんて気付いていないんだろう、不機嫌に言いながら、式はまだ頬を撫でている。
「いや、橙子さんに届けないと」
 式の手を握って、掌に口付けると、微かに洗剤の匂いがした。
「良いよ、オレが持って行ってやるから。トウコの手元に届けば幹也の仕事はもう無いんだろ、今日」
「そうだけど。うん、お願いしようかな」
 申し出は嬉しい。僕が居ないと判っている伽藍の堂に式が自分から行くなんて珍しいことだから、考えなかった。
「でも……」
 言い淀む。式の顔を見るのが恥ずかしくなって、目を泳がせた。
「ん、何か食べるか?」
 そんな風に解釈したみたい。朝から式にご飯を作って貰えるなんて幸せだけど、それより欲しいものがあって。
「うん……そうだね。良いかな?」
「たいした物、できないぞ? 冷蔵庫の中がアレじゃ」
 だからこそ、急いで仕上げていたのだ。給料が出るように。
「大丈夫、ちゃんとあるから。時間は取らせてしまうけど」
 ポーカーフェイスができず、式に何か気取らせてしまったみたい。
「何が食べたいんだ?」
 式は、怪訝そうに訊く。
「えっとね」
 耳元に口を寄せる。こっそり帯を掴んでおいて、囁いた。
「式が食べたい」
 そんなことを言って、抱き締めた。
「おいっ、何をっ……」
 首筋に顔を移すと、逃げ遅れたほどのヒヤシンスの香りがする。式の匂いに胸がいっぱいになって、腕に力がこもる。
「こら、疲れてるんだろ、幹也」
 式が喋ると息が掛かってくすぐったい。
「うん、でもね」
 腰を引き寄せて、臍の下のあたりを式に押し付ける。
「ばか……っ」
 それっきり、式は黙り込む。二人分の衣服越しでも、式を感じて僕のものは堅さを増したみたい。
「いや、徹夜明けとかで疲れてると、逆にこんなことにもなり易くて……」
 自分でしておきながら恥ずかしくなって、言い訳する。でも、式の匂いをまだ楽しんでいた。しなやかな体を抱いて、首筋に口付けて、背中をまさぐる。式が僕の胸に手を当てて体を押し離したら、ちょうど顔が向き合ったから、これ幸いと唇を盗んだ。また不意打ちは成功、髪に手を差し入れて押え、舌を突き出す。甘い式の口は束の間だけ受け容れてくれたけど、閉ざされた。
「駄目だ。そんなやつにはメシも作ってやんない」
「うん、それは無くて良いよ」
 もう一回キスを迫ると、そっぽ向いてしまう。仕方なく、また耳に口付ける。
「あっ……」
 耳朶を甘噛みしたら、ここが弱い式は小さく喘ぐ。反応に滾って歯止めが利かない、頭を抱いて抑え込みつつ、片手は胸元から服の中に侵入させる。
「やめろ、馬鹿……」
 言いながら、あまり抵抗はされない。しっとりした肌に触れたら、手とは打って変わって熱いぐらい。
「ほんとは昨夜から欲しかったんだ、式が」
 もう一回、唇を狙ったら、今度は落とせた。舌を入れて、開いてくれない歯の門を攻略に掛かる。口付けるのは式も好きなんだから、時間の問題……。
「だめっ」
 突き放された。
「何考えてんだ、こんなところでっ」
 するりと式は僕の抱擁を逃れる。未練たらしく手を掴んだら、捻られた。
「あっ、痛っ」
 僕の両手を腰の後ろで捕まえて、寝室に向けて押してくる。
「ほら、メシは要らないんだろ、とっととベッドに行け」
「いや、ごめん……」
 体のこと心配してくれているのに、と少しは反省しつつ、まだ式の指の感触に欲情している。ベッドまで連行されて、あっさりと横にならされた。
「ほら、何をトウコのとこに持っていけば良いんだ?」
 仕方なく説明すると、すぐに式は部屋を出て行ってしまった。
 半端に式を味わってしまったせいで、まだ全然納まっていない。申し訳ないけど、すぐには眠れそうにない。
 シーツを替えたばかりで、まだ式しか寝ていないのを思い出し、変態っぽいとは思いながらも匂いを探してしまう。男の僕の鼻はそこまで鋭くはなくて、はっきりとは判らないけど、目を瞑ってさっきの感触を追想する。そのまま式の痴態を思い浮かべてしまって、少しも納まらない。
 目を閉じたまま、式の裸体を瞼の裏に映像化して、都合の良いように動かす。恥ずかしそうな顔を引き寄せて、キスして。両手で背中をまさぐって、周囲から環を描いて弱点に迫って行くと、緊張に堅くなりながらも期待している様子が息づかいから知れて……。
「何してんだ?」
「はうっ?」
 声を掛けられて、半ば跳び上がる。
 式が、手に僕の寝間着を持って傍に立っていた。
「……拗ねてる、のかな」
 沈黙が気まずくならないうちに、白状した。式が甘えさせてくれないのが悪いんだって。
「馬鹿……って、何回言わせるんだ」
 呆れた様子で式は僕の頬を撫で、そのまま胸を辿って、下の方に降りていく。ついでに擽ってくる。
「あはは……式?」
 返事の無いまま顔が近づいて来て、耳打ちの格好。吐息に、ぞくりとする。やっぱり追想だけじゃ及ばない、髪の匂いに陶酔する。
「式……?」
 良いの? なんて言いそうになり、やっぱり駄目とか言われるのを怖れて口を噤む。代わりに、気付かれないように両手を背中にまわし――かけた途端、耳に叩き込まれた。
「着替えて寝ろっ」
 うわ、そんなっ、期待させといてっ。
 捕まえようとしたけど軽く逃げられ、有無を言わさず、式は僕のシャツを剥ぎ取りにかかった。
「いや、式?」
 格闘になっちゃ、僕に勝ち目はない。迷い無くベルトを抜いて、ズボンまで脱がされた。
 残っているのはトランクス一つ。僕のものは、まだ張り詰めている。気が付いて、式は沈黙する。
 いや、どっちかと言えば、照れた顔をしている。
「困ったやつだな。大人しく寝られないのか?」
 ちら、と目線をこちらに向けてくる。睨みながら、口元にだけは笑いが零れていた。
「うーん、『良心無き正直者』だからね、これって」
 責任は、偉大な劇作家に押し付けよう。
 澄ました顔で、じとっと式は僕を見ていた。
「ともかく……これも、脱げっ」
「いや、ちょっ、それはっ」
 トランクスに手を掛けられて、とっさに抵抗した。
 ……って、あれ?
 式が笑っている。
「下着、替えないで着替えにならないだろ」
 改めて下着を脱がしに来るから、今度は従った。裸になった僕のものは、やっぱり張り詰めたまま。
「すけべ」
 じっと見てくる式の手を掴もうとして、見事に払われる。
「大人しくしてろ」
 さっき頬を撫でてくれた手が、今度は竿をくすぐり始める。う、と息を漏らす。お預けを喰らっていた性器は、尻尾こそ振れないけど大喜びだ。幾分、骨張った感じはするけど細くて整った式の指、絡み付いては引き戻されるのが焦れったくも快感。
「えっと、式?」
 おずおずと告げたら、今度は目も笑っていた。
「一回だけ、してやるから。ちゃんと寝ろよ」
 そんな、嬉しいけど申し訳ない提言のあと、返事を待たずに式は僕のものに唇を当ててくれる。
「いや、式、夕べはお風呂も入ってないから……」
「知るか。おまえの責任だろ、それは」
 奇妙な理屈を口にしながら、式は竿を根本から舐め上げる。白い指で袋を包んで、ゆるゆると揉む。
「しき……」
 気持ち良くなってしまって、まあ良いか、と身を委ねた。
 ペースはゆっくりだから、快感より興奮が先行する。式は、こんな綺麗な顔をして、こんな淫らな行為を僕のためにしてくれるのだ。いつまで経っても、信じられない想い。化粧もしていないのに、色白の顔の中で唇は紅く、そこから延びている舌は肉色。ちろちろと舐めながら、式は紅潮していく。
「んっ……」
 呻きを漏らしたら、目線を向けられた。恥ずかしくなって横を向く。僕だけ素っ裸なのを意識して、それも恥ずかしい。だけど式も照れた様子で、そのことにドキドキする。
「ふふ……」
 笑って、竿を握りながら、今度は袋を口にしてくれる。下から炙られるみたいに快感が沸き立つ。息を詰めて堪えても、式は絶妙にタイミングを合わせてくる。隙を突くのは格闘技の呼吸と一緒だなんて言ってた。
 僕が、どこをどうされるのに弱いのか、式には覚えられてしまっている。睾丸を口の中でしゃぶりながら、両手の指で竿をコチョコチョしてくる。袋の裏側を舐めて、ペニスの根本に口付けて、唇を滑らせて登って。雁首のすぐ下まで来て、ぺろぺろ。
「ふぁう……」
「ふふ……」
 横くわえにして、舌を使いながら降りていく。反対側に移って登ってきて、また穂先を残して下がっていって。
 気持ち良いけど、ちっとも先端には触れてくれなくて、焦れる。自分のものに式が頬ずりしてる姿とか、恥ずかしくも嬉しい光景だけど、焦れったい。先っぽに鼻を近付けて匂いをかぐような真似をされ、堪りかねて、ねだった。
「式、そこも、舐めて……」
 こっちに目線を向け、亀頭に唇を寄せて、すけべ、なんて口を動かした。息がまともに掛かるから、それがまた掻痒。
 やっと、かぷ、とばかりにくわえてくれる。でも、そのまま動いてくれなかったり。
「式、お願い……」
 もう一度ねだったら、目だけで笑い、舌が尿道のあたりに触れた。
「んんっ」
 唇でエラのところを包み、その中を舐め回してくれる。竿を指でくすぐる。袋を揉み立てる。
「はうっ」
 待たされていたところへ、いきなり全力攻撃を受ける。気持ち良すぎて、なんだか腰をがくがく動かしてしまう。シーツを握って、足をパタパタさせて、快感に耐える。いきなり逝ってしまいそうで、それはちょっと恥ずかしい。
 根本から先端まで、ねっとり舐め上げる。くるくる舌で先端を巡る。指で包んで弄り回す。また口に含んで、吸いながら亀頭を舐めて、尿道に舌先を入れるみたいにして。
 責め手の多彩さに翻弄される。
 式が息を継ぎ、今度はぐっと奥までくわえてくれる。雁首に集中された方が性感は上かもだけど、見た感じではこっちが興奮する。色んな所を舐められて、ますます熱くなる。
 ぐっと、また一段、奥まで沈めてくれて、とうとう先端が喉に当たる。僕は気持ち良いけど、式は苦しいに決まっている。
「あぅっ」
 そのまま式は頭を上下させるから、喉の奥に突っ込んだり引いたりすることになって、性器全体が式の口の中で愛撫される。式には悪いけど、気持ち良くて、すぐ逝ったら惜しくて、気を張って我慢する。けど、やっぱり式の動くタイミングは絶妙、ガードの緩んだ瞬間をすかさず突いてくる。
「んんっ、くぅ……」
 お腹の奥の方から射精する感覚が湧いてくる。こんなことしてくれるのが嬉しくて、髪を撫でたりする。ぎゅうっ、とシーツを掴み、足りなくて爪を掌に食い込ませ、抑える。でも、式がまた袋を弄り始めて、追いつめられる。
 頭の上下運動が速くなる。
 ああもう、限度っ。
「式……」
 思わず、頭を抑えて突っ込んでしまう。嫌がらず、式はそのまま頭を揺らし、舌を使い、喉に受け容れ、唇に包んで愛してくれる。
 諦めて、力を抜いた。体の中で、お尻の方からペニスに向かって何か動いていく気がする。駄目、破裂しそう。噴き出す……。
「あ……はうっ」
 逝ったと思った瞬間、思い切り根元のあたりを握られた。ぎゅっと締められて、快感を放てない。
「ちょっ、あうっ、しきぃっ……」
 手足を派手にバタつかせて暴れた。でも、大事なトコが式の口に入ったままで、無茶はできない。式は責め手を緩めず、気持ち良いのは気持ち良いまま。
 でも、だから弾けられなくて辛いっ。
「式、なんで……」
 情けない声を上げてしまう。その間にも、やっぱり握ったまま、式は盛んに頭を揺すって責め続けてくる。放てなくて、痛いのか苦しいのか擽ったいのか。
「しき……っ」
 呻いたら、やっと頭を上げて、さきっぽをペロペロしつつも式が言う。
「逝きたくないんだろ、あんなに必死に我慢してたんだし」
「いや、式、それはっ!」
 力を緩めず、今度は玉の方を舐めてくる。式の細い指の締め付けが痛くて、舌の柔らかさは快感を突き刺してくる。でも抑えられて放てない。
「ごめんっ、逝かせてっ」
 こっちに目を向けて、笑っている。
「ほんとに、このスケベ」
 言うが早いか式は頭を上げ、亀頭のあたりを口に含んで激しく動いてくれる。
「はふっ」
 ちゅぷちゅぷちゅぷ、って唾の音。舌が尿道口を責めてくる。
 とどめの一手。これには凄く弱い、良いトコでやられたら絶対我慢できない。式もそれを良く知っている。
 でも、まだ押さえ込まれていて逝かせてもらえない。
「しき、おねがいっ」
 手の力が緩んで、行き場を無くしていた精がやっと弾けた。散々待たされて沸騰したみたいだったのが、存分に飛び出した。詰まっていたのが一気に噴き出して、一瞬、快感で息ができなかった。
 勢いにでもびっくりしたのか、式は一瞬仰け反り、そのせいで精液を顔に浴びせてしまう。僕の精に汚れた顔をまだびくびく脈打っているペニスに寄せ、また口に含んでくれる。ためらう気配はない。残っていたぶんを吸い出されて、快感の時間が長引いた。途切れずにどろどろと粘って引っ張り出されていくみたい。
「ぁう……」
 やっと感覚が納まってきたころ、今度はゆっくりと舐めてくれる。まだ余韻はあって、式の舌がやたらにくすぐったい。あんなに激しかったのに大人しくならない僕のものを、その後もしばらく舐めてくれた。
 顔には僕の精が付いたままで、嬉しいけどちょっと罪悪感。
「ありがと……」
 息が納まって、やっと告げる。
 まだ指を絡めながら、式は顔から僕が掛けた白い粘液を拭い、それを面白そうに眺めている。匂いを嗅いでみたりもしている。ずいぶんたっぷり出してしまったみたいで、まだ顔にも残っている。
 そんな姿に興奮と快感を覚えながらも、恥ずかしくて声が掛けられない。式は、自分の指を吸って精液を舐め取っている。顔に残っていたものを全部取って、口に入れた。
「あのまま、出させてやらないことも考えたんだけどな」
 式が、人の悪い笑いを浮かべて言う。舌の上に、白いものが乗っている。
「そりゃないよ」
 式の喉が動き、何か飲み込んだ。
 いや、もちろん口に入れたものを飲んでくれたわけだけど。
「悪いのは幹也だろ。必死で抵抗してたじゃないか」
「あはは……いや、それは……」
 できるだけ気持ち良く、なんて思ったのは事実。たっぷり式のサービスを楽しもうとしてた。
「それは、何なのかちゃんと説明して貰いたいところだな」
 仕方がないから、顔を寄せて、いきなりキスする。逃がさないように捕まえて、舌を入れた。吸う。唇を舐める。そこで突き放されたから、今度は体にのし掛かって覆い被さってしまう。
「おい、何する気だっ」
 答えず、もう一回キス。強く拒まれこそしないけれど、あまり熱心に応じてもくれない。
 離れて、今度は首筋に唇を当てる。
「こら、書類とかトウコのとこに持ってくんだろ?」
「もうちょっと後でも問題ないよ。それより、僕だけ気持ち良いことして貰ったままってわけにはいかない」
「ばか、良いよ、そんなことっ」
 ベッドの上でもみ合っている。ホントに格闘なら、式には敵いっこない。なのに体勢が維持できているのは、了承の印だと都合良く解することにする。
「だって、式もしたかったみたいだし」
 帯に手を掛けながら、耳に流し込む。
「おまえっ……」
 さっきから式は同じようなことしか言ってない。
「調べてみようか?」
「な、何をっ?」
「体に訊いてみるってやつだよ。式って、わりと口でしてくれるだけで濡らすじゃない? もし、今ぜーんぜん濡らしてなかったら、したいとは思ってないって認めてあげる」
「おいっ、変態かっ、幹也っ!」
 騒ぎ立てる式の口を、また唇で塞いだ。
 色々と言いながら、さっきよりはこちらの愛撫に応えてくれる。絡み合う舌が愉悦。幸い、僕の精はちゃんと飲み込んでくれていたらしい。
「ふむ、そんなに抵抗するって言うのは、濡らしちゃってるからだね? 式」
「なっ……」
「そうじゃない? 濡れてないんだったら、それは簡単に証明できるんだし。見せてくれないって言うのは見られると不都合があるってわけでしょ」
「……そんな変態には見せてやらないっ」
 逃げようとするから、耳朶を噛んだ。
「んっ……」
「良いことしてくれたお礼がしたいんだ、式」
「変態……っ」
 また、唇に戻る。
 それから、ゆっくり帯を解きにかかっても、もう妨害は受けなかった。
 露わになった胸が眩しくて、仕方なく両手で隠そうとする。式の体って冷たく感じることがあるけど、今は掌に温か。自分と同じ人間の肌なのが信じられない。それぐらい、滑らかで手に馴染む。僕の手にちょっと余るぐらいの膨らみの形を撫で回し、その柔らかな感触に心弾ませた。
 乳首を摘んで、指先でくすぐる。
「あ……」
 いくらか既に堅くなっていたのが、はっきり尖ってくる。
「敏感だね、式って」
「んんっ」
 何か言いかけたのを、もう一方の乳首もつついて遮る。
 ほっぺたをくっつけて、仄かに良い匂いのする可愛らしいおっぱいを楽しむ。谷間に顔を埋めるってほどにはならないけど、欲情と安らぎを一緒に覚えたりして、幸せな気分。
「んふ……ふふ……」
 胸に顔を押し付けて喜んでいる僕のことが可笑しいらしくて、こんなふうにするといつも笑われる。
 俯いて肌に口付け、舌を突き出し、キスを繰り返して薄朱くマーキングしながら山頂を目指す。
「ぅんっ……んぁ……」
 乳首に口付けたら、気持ち良く喘いでくれる。堅くなっている先っぽを舌でくすぐって、もっと尖らせる。もう一方にも吸い付き、交互に繰り返し、しつこく舐める。
「あふっ……んっ!」
「ほんとに乳首が弱いね、式」
 恥ずかしいのか、いやいやってするみたいに首を振っている。
 またちょっと頬ずりして、名残惜しいけど、おっぱいを後にした。下がっていって、お臍に舌を入れてみたり。
「ひゃっ、変なことするなっ」
「ん、何か変かな?」
 二度、三度と小さなくぼみを舐めると、律儀に声を上げてくれる。くにくに、と舌先で弄ったら、悶えた挙句に顔を押し退けられた。
「止めろ、変態っ」
 要求に従って更に下へ。もう、式の大事なトコに到達する。薄めの翳りの下で、泉は充分に潤っているみたい。膝をくっつけていたけど、あまり強い抵抗はせずに脚を開いてくれる。
 そっと指で、式の大事なトコをくつろげる。
「ん……」
 恥ずかしげな吐息。
 淡い綺麗な色の谷間から、とろりと蜜が零れてくる。知らず知らず唾を飲み込んでいて、自分の喉の音が恥ずかしい。だから、式を責める。
「式、やっぱりトロトロに濡らしているじゃない」
 それを調べるというのが名目だったし、言葉に出した。ここまで来て、繋がらせてくれないとも思わないけど。
「当たり前だろ。あんなに胸とか触ったり舐めたりして……」
 そう言われて、ミスに気付いた。
「あ……」
「何がだ?」
 短い式の返事には、してやったりって笑いが零れている。
 いや、あの時点で濡らしてたに違いないと思うんだけど、その証拠は無くなってしまった。
「でも、式の潔白も示せないわけだね。他の状況に鑑みて式も求めているものを見なすことにする」
 一方的に言って、そのまま式の下の口にキスする。
「ふぅぅ……」
 すぐ、愛想良く声を出してくれるから、耳からの刺激が臍の下の方へ響く。被告の反論は無いみたい。舌先で幾度か谷間を掃くうち、何となくいつもより式の匂いをはっきり感じる。それで、思い出した。両手で太腿を抱えてしっかり捕まえ、尋ねる。
「式も昨夜はお風呂入ってないんだっけ?」
「ん、そうだけど……って、幹也、だめっ!」
 このために、脚に抱き付いたのだ。汚い、とクンニをやめさせたがる式をどうにか逃がさず、たっぷり、ぴちゃぴちゃ音を立てるぐらいに舐めてあげる。
「大丈夫、式だったら平気だから」
「馬鹿、俺だったら平気って、なんだそれっ」
「式と同じこと言ってるだけじゃない?」
 谷間を遡って、クリトリスに辿り着いたら迷わず唇で吸い付いた。舌を突き出して、ちろちろ転がしてやる。
「ぁあ! みきやっ……」
 言葉が意味を無くして、途切れ途切れの嬌声になるまでクリトリスに集中した。
「お風呂に入ってないのは式の責任だよ」
「んあふっ……」
 さっき言われたこと、まんま返してやる。残念なことに、たぶんまともに耳には入っていない。
 今度は、こっそり指を谷間に当てて、静かに押し進める。いつもに増して、式の中は温かくて素敵だ。指の腹で奥まで探って、式の弱いエリアを目指す。
「んん……」
 くぐもった声に目を向けたら、式は手で口を押えている。いやらしい声で喘いでしまうのは、式にはすごく恥ずかしいみたいで、よくこんな仕草を見せる。
「式、気持ち良くなって欲しい」
 もう一つ言えば、恥ずかしがらせたい。
 クリトリスを舌で弄びながら、膣内に急所を捉えた。びくんって全身が震えた。そこを果敢に、情け無用とばかりに責める。これだけで達してしまうのも式には珍しくない。
「くぁ……ふぅうっ……」
 たぶん式は、指を噛んで堪えている。
 少し息をついたら、ほっとしたように式の体から力が抜けた。でも、入れる指を二本にしてすぐに第2波の攻撃。捻ったり往復したり、柔らかいのに指を締め付ける式の中を楽しむ。じゅるじゅる、溢れている果汁を吸い上げる。
「ああっ……んく……」
 一声だけ高く喘ぎが漏れた。でもまだ噛み殺している。止めを刺そうと、またクリトリスと膣奥の式が好きなあたりに照準を戻す。
「ひっ、あっ……ふぁ……」
 抑えの効かない声が上がるけど、今度は休みはあげない。
「ああっ、んぁ……みき、や……」
 敏感な突起を吸い、舌先で突っつき回す。指で式の中を卑劣なまでに急所責め。お尻の方まで悪戯したら、こっちまで蜜が垂れてトロトロ。
「ひゃぅっ、ひあぁっ……」
 切羽詰まった声。もう、逝く一歩手前。
 だから、ストップしてやる。ちょっとだけ、さっきの仕返し。
「ん……、ぁん……?」
 式が醒めてしまわない程度に、ちろちろってクリトリスを舐めたりだけは続ける。
「ふぁぅ……幹也?」
 泣きそうな声だから、愛撫を再開。
「ああぁっ」
 でも、また半歩手前で止まったりした。そんなことを二三度も繰り返したら、式は俎板で魚が跳ねるみたいに全身を暴れさせる。両手ともシーツを掴んでいるのに、肘は別の意思があるかのよう。
「いきたい?」
 それを口にして欲しくて訊いてみたけど、言葉を発する余裕もないみたいで、ひたすらに頷くだけ。流石にもう、赦してあげる。
 今度こそ、息も吐かせず責め続けて、式を高みに追い遣った。
「あ……みき……ふぁああっ!」
 式が体を仰け反らせる。きゅ、と指を式の道具に搾られる。潮を吹くってほとでもないけど、とぷとぷ蜜が零れた。
「式、可愛かった」
 普段こんなこと言ったら殴られかねないけど、式は呟いただけ。
「……ばか……」
 この返しは脊髄反射らしい。
 弛緩した式に身を添えて抱き寄せ、惚けた目を覗き込みながら口付けた。舌を出したら、ぼんやりしたままながら応えてくれる。式の蜜をたくさん口移したのだけど、気付かなかったみたい。
 抱き合ったせいで、自分のものがまた元気になってしまっているのに気付かされた。朝から節操がないけど、今さら我慢できそうにないから、囁きかける。
「式、俯いてくれる?」
「ん……」
 まだ頭のはっきりしない様子のまま、それでも式は願いを聞いてくれた。意識しないうちに、と腰を持ち上げ、這う格好になってもらう。普段だと、恥ずかしがってなかなか許してくれない形。高く突き上がったお尻とその陰の濡れた谷間に掻き立てられ、覆い被さって包み込むように体を寄せ、後から入っていく。熱くて甘い、ホットチョコレートとか連想する。
「幹也っ?」
 流石に、はっとしたらしい。
「馬鹿、だめ……」
 捕まえて、柔らかな肉の抵抗を押し切って、逃げられないうちに奥まで突いてしまう。背筋を走る官能に震え、束の間、腹の奥に力を込めた。
「ぁん、待って……」
 待てない。ほんとに拒まれてはいないつもり。達した直後にすぐってのは女の子も辛いのかなって思ったけど、もう止まれやしない。僕だって、すぐ放ってしまいそうなのを堪えてる、だけどじっとしてなんかいられない。
「良いよね?」
 尋ねるポーズだけして、待たずに動く。
「んぁっ、そんなっ」
 細い腰を掴んで、後から突く。式を貫き通す。ずぶり、ずぶり、毎度新しく孔を穿っている感覚。バターに熱いナイフ。人肌のスプーンとハーゲンダッツ。蕩けている式の肉がもっと柔らかく、甘く。絡み付く。締める。搾る。快感に絡め取られていく。
「あっ、ひっ……んんっ」
 辛そうにも聞こえて、でもブレーキは壊れてる。却ってペースが上がる。知らず、姿勢を探っている。一番気持ち良い位置を体が勝手に探してる。気付けば、式も応じてくれている。二人で気持ち良くなっていく。
「もう……ひぁ!」
 滑らかな式の背中、手を触れたら小さく悲鳴。ここも式は敏感だ、どこもかしこもそうだけど。脇腹、腋の下、悪戯するにあわせて体が蠢動。撫で回す両手が性感帯ってほどに僕にも悦楽。しっとり浮いた汗を感じる。美味しそうに思えて、のし掛かって背中を舐めた。
「ふぁんっ」
 式の匂い。式の味。火に油、更に熱く。
 腰やら脇腹やらを手が辿ると、式の体が横に揺れる。後から突くたび、上下に脈打つ。複雑に腰が振れて、次々と快感。後からだし、式はシーツに伏せてしまってて、顔の見れないのが無念。耳まで真っ赤なのだけは見える。上気して全身、桃色。汗に濡れて艶々。
「気持ち良いよ、式……」
 背中から抱き付いて、お腹や胸までさすり倒す。腰を動かしづらいけど、少し休めるし、肌の触れ合うのが嬉しい。それでもすぐに焦れったくなって、式もお尻をもぞもぞ揺すり始める。
「式、起きる?」
 踏ん張って、繋がったまま式の体を後に引き起こした。
「あっ……」
 座った僕の上に、式が腰を下ろす格好。いやいや、ってするみたいに束の間首を振ってたけど、やがて自分で腰を上下し始める。
「こういうのの方が好き?」
 しっかり腰を使いながら、やっぱり首を上下にも左右にも振りつつ返事はない。正面から抱き合ってなら、式は上になるのも好きなはずだ。
 自由になった手で体を抱き、思うまま愛撫する。柔らかな胸の膨らみ、平らなお腹。もっと下がって、下毛を超えてクリトリスを探り当てる。もう一方では乳首を。
「ひゅふんっ、あぁっ!」
 何か仕掛けるたびに式は鋭敏に応じてくれるけど、その度に式の中はきつくなるから、僕も追い込まれる。
「みき、やぁ……」
 逝きそうになってるのが判る。こっちも同様。もう身を委ねようとして、やっぱり、後から責めて絶頂させたくなった。
 深く繋がったところで細い腰を捕まえて、動きを止めた。
「ふあ?」
 腰を揺すって、式は激しく抗議。僕の方も辛い状態、でも、凌いだ。体重を掛けて押し倒し、また這わせる。
 変な征服感とか覚えながら、じっとしてたぶんは戻った体力で責め立てる。
「あっ、ふぅんっ、ひゅふ……」
 指の代わりに、式はシーツを噛む。普段にないほど感じてるみたい。快感のぶん、媚肉が締まって、蠢いて、僕から搾り取ろうとしてる。
「式、ほんとはこれも好きだよね?」
 こうやって後からするのって、駄目とは言うけど、嫌いだと言ったことはない。
「あっ……」
 応えちゃくれないから、感じ過ぎて恥ずかしいんだって決めてかかる。
「もっと、恥ずかしく、してあげるっ」
 そう告げて、腰を掴み直した。安定させて、大きく、速く、往復する。
 よくこんなにってぐらい、腰が動いた。ぱんぱん、式のお尻に当たって音がしてる。ぐちゅぐちゅ、蜜の音も。繋がってるところから、びりびり電撃みたいに快感。全身を走ってスパーク。式との間で放電してる。
「ひあぁっ」
 ひときわ高く声が上がる。ぴったり壷に嵌った感じ、何とか同じストロークを維持。僕も、式の肉の襞に撫でられて掴まれて、喘ぐ。腹の底に力を込め、唇を噛んで、それでももう、耐えられない。
「式、逝きそう……?」
「うん、来て、みきや……」
「しきっ……」
 名を呼び合ったら、それでクライマックス。身を折れんばかりに弓なりにした式の中に、存分にぶちまける。
 びくびく、体の奥から迸り行くのが判る。
 ぱくぱく、口を、酸欠したみたいに声もなく。
 どくどく、まだ続いてる射精。まだ終わりじゃない性感。
 ひくひく、式の中が蠢いている。まだ搾り取ろうとしてる。
「しき……」
 再び口に出したら、式も応えてくれた。
「みきや……」
 虚脱して、式の背中に倒れ込む。
「こら、重いって」
 気怠げに僕を揺すり落とし、逆に上に乗ってくる。仰向けにされたから、抱き合うことになる。
 結構長いこと、唇を繰り返し交わしながら、余韻と体温に浸りながら、静かにそうしていた。
 そのまま微睡みかけて、式に揺すられた。
「幹也、寝るなよ、何かトウコに届けなきゃいけないんだろ?」
 言われて、はっとする。まずい、もうわりと日が高くなってしまっている。
「ああ、うん。って、式、行ってくれるって言ったじゃない」
「駄目だ。大人しく寝てたら行ってやったけど、こんなに元気なんだったら自分で行け」
「あはは、ごめん……」
 徹夜明けにこんなコトしてしまって、起きあがれないぐらい疲れている。だけど、そう言われちゃ仕方ないか。
「それに……。朝から何をしてたんだってトウコにからかわれる役は、おまえが引き受けろ」
 そんなことも言われて、ちょっと冷や汗。いろいろ言われそうだなあって。どうしてだか、橙子さんはこういうことをすぐ見抜くし。
 しかし、確かに早く行かなきゃならない。
「判った、僕が行くよ」
 名残惜しい式の匂いをもう一度鼻孔と肺に満たして、覚悟を決める。
 起き上がったら、空腹と疲労を自覚させられた。大きく息をしたら、「ん?」と式が眼を向けてくる。
「いや……」
 思いついたこと、少しためらったものの、口に出した。
「体力はともかく、活力は湧くけど。やっぱり、式が朝ご飯の代わりってわけには行かないみたいだね」
「……馬鹿」
 朝からもう何度目だろう、これ。

 

 

/両儀式朝餉・了

 


えー、朝食というものには英国式(English)とか大陸式(Continental)とか色々ありまして……。
両儀式というより幹也式かもしれませんがw

草紙 に戻る

©Syunsuke