あまたの幻舞


 無理もないことだが、初め秋葉は酷く戸惑って、取り乱しかけた。
 しかし、少し酒精が過ぎていたのか。胡乱な頭には、いずれにしても兄さんなのだから、と嬉しく思う方が勝ってしまったのだろう。何より、多少の違いはあるにせよ、望んだ通りのことなのだから。
 秋葉は、志貴の下腹部に顔を埋めている。色のないマニキュアに爪が光る繊手に、若い男らしく張り詰めた性器を握っている。朱を差さずとも紅い唇は、最愛の男のペニスを包み込んでいる。無論、たっぷりと舌を使い、恋人を楽しませていた。
「ああ、気持ち良いよ……」
 秋葉らしい柔らかくも芯の強い長い黒髪に指を絡めながら、志貴が、感極まったように呻く。
 ゆっくりと秋葉の両手が上下し、それぞれに志貴の性器を撫でさする。下端に辿り着いて、そのまま精巣に手を伸ばす。丁寧に、いたずらに、揉み始める。つい、頭を上下させるペースが速くなる。口の中で更に逞しく膨れ、舌使いに答えてほのかな渋みを味あわせてくれる。
 一端、吐き出して。今度は袋に唇を押し付け、そっと含み、舌で転がす。両手で先端を包むように、指先で亀頭のエラを擽る。志貴が弱い責め手の一つ二つは、もう良く心得ているから、この絶好の機会に思うがまま振るう。
「んふ……気持ち良いのでしたら無理に我慢したりなさらず吐き出して下さいね。今日はその必要はなさそうですから」
 自分のしていることの淫らさに酔い、ますます行為に夢中になる。どこに居るのか、今が何時なのか、頭から消えている。
「そうだね。気絶するまで可愛がってあげるつもりで、遠慮無くいかせて貰うよ」
 気絶するまで……。
 確かに、今日はいつも以上に兄さんには敵いっこない。嫌と言うほど兄さんに愛してもらえる。いいえ、嫌なんて言わない。気絶したあとも、夢の中でまでいぢめられたって、嫌だなんてことはない。
 柔らかく袋を揉みながら、喉まで受け容れて、小刻みに出し入れする。これも、志貴の好きなやり方のひとつだ。
「くぅっ」
 期待通りに官能の声を上げてくれる。休まず続けたら、言葉通り、あっさりとご褒美をくれた。口の中に、志貴のものをたっぷりと吐きだして貰える。
「兄さんの味……」
 舌の上に転がして堪能しながら、いきなり喉に落ちてしまったぶんのことを惜しむ。喉を鳴らして飲み込み、にっこりと微笑む。
「あんなこと仰ったのですから、兄さんも覚悟して下さいね?」
 淫靡な目線を向けた後、また志貴のペニスに頬を寄せ、唇を当てた。
 髪を撫でる志貴の手が、震えるほど快かった。背中をさする手も、お腹をくすぐる手も、お尻をつつく手も、どれも官能だった。

「んっ」
 快感に耐えられず、秋葉は息を吐く。志貴の舌が、女の泉を訪ねているのだ。くちゅ、ちゅぷ、と態とらしい音を立てて、秋葉の秘芯に口付けを繰り返している。指が二本、既にに沈んでいる。もどかしい、スローなペースで抜き差しされて、快感より欲情を引き出される。鮮烈な快感が走るところはあって、志貴も把握はしているみたいなのに、意地悪くもなかなか突いてくれない。何度も近くまで来ては引き、はぐらかし、焦らし、予期せぬタイミングでさすられる。
「ぁん……んっ」
 その代わり、舌の方はストレート。時折、周遊はしながらも、執拗にクリトリスを舐めてくる。包皮を捲り上げて転がされると、歓びの鋭さが辛いぐらい。
 いや、切ないのだ。
「ひゃんっ」
 指は、もっと恥ずかしい、後ろの穴にまで悪戯を仕掛けてくる。その指がとっくりと濡れているのは、先には肉壷を貫いていたから。
「こんな所まで綺麗だな、秋葉は。言葉にあるけど、ほんとに菊の花みたいだね」
「そんなっ……こと……」
 お尻の穴のことなんて誉められても、恥ずかしいだけ。判って言っていることぐらいは、秋葉にも判っていたが。
「花びら、何枚あるかな?」
 言うが早いか、肛門の皺を1つ1つ数えるみたいに辿り始める。
「ひあぅっ、そんなに舐めちゃ駄目です……っ」
 言ったところで止めないと知りつつ、叫ばずに居られるものではない。後ろの谷間を、性器の間際から尾骨のあたりまで、何度も往復して舌が巡り行く。休まるタイミングが無いぐらい、そのどこもかしこも、快感。
 でもやっぱり、穴に舌をねじ込むみたいに舐められるのが、一番恥ずかしくて、でも一番気持ち良くて。尖塔に、谷間に、孔にと休み無く舌を使われて、果てしなく恥じらいと悦びを高められる。

「イヤラシイなあ、秋葉」
 陶然と、秋葉の髪を梳りながら、志貴が揶揄を口にする。
「何が、ですかっ」
 つつ、と根元からてっぺんまで舐め上げて、秋葉は抗議した。淫蕩な行為に耽っているのは確かだけれど、こんなことを教えたのも、させているのも、兄さんなのに。後ろから責めているのも兄さんだけど。
「でも、舐めたくて舐めているだろ? いや、もし違うんだったら、厭々舐めてるんだったら、もうそんなことしなくて良いから言って欲しいんだけど」
 顎に手を当てて、男根から顔を離されて、問われる。その間も、両手は休み無く愛撫を続けているけれど。
「大丈夫です、兄さんのを舐めたくてこうしていますから」
「ふふ、じゃあ、やっぱりイヤラシイのは秋葉じゃないか」
 勝手なロジック。でも、それを秋葉も楽しんでいた。志貴は秋葉を責めるのを少しも休まないから、切なくて気持ち良くて、意地を張るより溺れたいのだ。
「ふふ、ちゃんとおねだりしないと舐めさせて上げない」
「あん……」
 志貴の手を逃れて、自らの口を男根で塞ぐ。今までより、ぐっと奥まで受け容れる。不意打ちの快感に震えた志貴に、秋葉は楽しくなって、激しく吸い付く。女を責める志貴の動きも激しくなる。ますます快感に、欲情に、絡め取られていく。
「こら、誤魔化しちゃ駄目だぞ、秋葉」
 今度は乳首を責めながら、志貴が続けた。
「あんっ……うふ、いやらしい兄さんは……私に、恥ずかしいこと、言わせたいんです、ねっ」
「いやいや、秋葉の思っていることをしっかり聴きたいだけだよ」
 ぐっと頭を引き上げられ、目の前に見せつけながら、舌が届かないようにされる。鼻先に突きつけられて、匂いに頭の中が熱くなる。くにくにと頬に押し当てられて、きっとグロテスクなのに、愛しいとしか思えない。
 とろけている。
 こんなの、正気じゃない。
 でも、素敵。
「うふふ……はい、秋葉は、兄さんのを愛して、差し上げたい、です」
「それじゃ判らないよ、もっと具体的には? それに、秋葉はどんな子なのかな?」
 滞りなく指を使いながら、秋葉は少し勇気を出す。何度も同じようなことは言わされているにしても、未だ恥ずかしいのに違いはない。
 励ますように背筋を撫で上げられて、気持ち良くておののきながら、口にした。
「イヤラシイ秋葉は、兄さんの、おちんちんをしゃぶり……たいんですっ」
「えっちだなあ、秋葉。うん、でも、そうしてくれると嬉しい」
 恥ずかしい真似をさせられた仕返しに意地悪をしたかったけれど、それ以上に、早くまた口淫を始めたかった。でないと、一緒に逝かせてあげられないだろうから。
 志貴のペニスに触れる舌や唇が、頬や上あごや、喉の奥まで、どれも快感の泉。こんなに気持ち良くて、それで志貴が歓んでくれるのだ。
 両手に握って、その上、くわえ込んで。
 おかしくなっている。自覚しながら、快感に沈み込んでいく。まだ何度も、おちんちんが大好きとか、えっちな秋葉は兄さんの精子を飲むのが好きなんですとか、兄さんのエキスを顔に掛けてもらうのが嬉しいんですとか、散々口にさせられるのは予想を待たない。
 でも、恥ずかしくっても、それも好きなのだった。
 たっぷりと愛撫し合って、口に、中に、顔に、思う存分に志貴の精を放たせた。

 首輪。
 見せられたときには、戸惑うばかりだった。どうみても、犬を飼うときに使うような、鋲を打った朱い皮の首輪だった。名前を書くらしい、小さな金属のプレートがあって、縄が繋がれている。
「何なのですか、これは?」
 ふざけているのだと思った。ただ、兄がわざわざ用意してくれたことについては、それが何であっても嬉しく思ってしまっていた。
「遊びだよ。ほら、秋葉はいつも当主として頑張っているだろ。たまには、ただ俺に可愛がられるだけが役割の子犬になるのも良いんじゃないかなって」
 言いながら、よしよし、などと正にペットの犬を愛玩するように頭と背中を撫でられる。ただ、指使いだけは女を悦ばせるもので、これまた充分に心得た鋭敏なラインを捉えている。
「そんな、馬鹿らしい……」
 口付けられ、更にお腹を撫でられる。キスの快感とお腹に感じる指のくすぐったさに、身を捩った。そのまま志貴の指は降りていって、秘所に潜ってしまう。背筋を降りていった手は、こちらも孔に入り込もうとする。
「あんっ」
「ほら、ペットは何も言わなくても可愛がって貰えるんだよ?」
「あん……」
 何も言わなくても。
 ――――私の下の口は兄さんのが欲しくて涎を垂らしています、とか。
 ――――逞しい兄さんのペニスを私の食いしん坊なヴァギナに入れて下さい、とか。
 そんなことを言わなくても可愛がって貰える。
 ――――兄さんが欲しくて私はこんなにとろとろに濡らしています、とか。
 ――――兄さんの熱い精子をたっぷり顔にかけて下さい、とか。
 ――――秋葉は兄さんが大好きで、兄さんのことを考えるだけで濡らしてしまうんです、とか。
 そんなことも。
 ――――まだ飲んじゃ駄目ですか? とか。
 ――――やっぱり見てる前でなきゃ駄目ですか? とか。
 ――――いえ、その少し上の、ここです。とか。
 ――――違います、意地悪して欲しいんじゃありません、とか。
 そんなことも、言わされなくて良いのかしら。
「駄目かな? こんな時ぐらい、色んな責任のことなんかは忘れて楽しんで欲しかったんだけど。やっぱり恥ずかしいというか、屈辱的かなあ、こういうのって」
「ん……いえ……」
 抱き締めて、背中を撫でられて、キスされて、くちゅくちゅと花びらから蜜を吸われて、秋葉はとろけた。お尻に指まで入れられ、耳を噛まれ、乳首を吸われて、ぐずぐずに溶けていく。
 ここで今さら、可愛がって欲しくないなんてこと言えるわけもない。
「……判りました」
「ん?」
 面白そうに顔を覗き込む志貴に視線を返して、秋葉は言う。飽きもせず背中とお腹をさすり、まだ動物相手のような声を掛けてくる志貴に。すり減りそうなほどクリトリスを舐めてくれる志貴に。お腹に頬ずりしている志貴に。
「着けて下さい」
「えっと、何を?」
「もう、兄さんが付けたがったんじゃありませんかっ」
 恥ずかしくて志貴の胸に顔を埋めながら、少しだけ声を荒げた。胸の傷跡に頬を付けると、志貴の鼓動が聞こえた。それが思いがけず速くて、興奮してるのは自分だけではないと思うと、逆に少し安らいだ。
 あんな犬の首輪をされるなんて、なんだか凄く恥ずかしいし、間違いなく屈辱ではあるし、どう考えても変だとは思うけれど。でも、兄さんが私のためを思って考えて下さったのだし。
 それに、あれを首に巻かれたら、身も心も兄さんのものにされてしまうみたい。そうね、私なんて、とっくに兄さんのものだけど、でも、首輪を着けて秋葉は俺のものだって態度を見せて下さるなら嬉しい。
 でも、あれを付けたら、やっぱり犬みたいに四つ足で歩かないと駄目なのかしら。それは恥ずかしいけど、でも、犬ってそういうものだし。
 ああ、それで、連れて歩かされたりなんかしたら……。まさか、この部屋から連れ出されたりなんてしませんよね? 兄さん。いくなんでも、それは恥ずかし過ぎます……。ときどき悪ふざけが過ぎる人だから、脚を上げておしっこさせられたりなんかして。でもそんなこと屋敷の中ではできませんし、それじゃ、外に?
「ああ、そうか、本当に付けたがってると思ったんだ、秋葉」
 そう耳に唇を触れさせながら囁かれて、あらぬ考えに浸っていた秋葉は一瞬、きょとんとしてしまう。
「いや、そこまでは考えなかったなあ。うん、でも、それぐらいしてしまうのも良いかな?」
「え? いや、その……兄さん?」
 つまり、象徴的に見せただけで、本当に私に首輪を付けるなんてところまでは兄さんは考えていなかった?
「そうだね。よし、秋葉。ちゃんと首輪を付けてあげるから、そう言ってごらん?」
 自分が考え過ぎていたらしいことに気付いて真っ赤になりながら、両耳を舌で責められて追いつめられる。だけど、脳裏に描いたイメージはどうにも恥ずかしいのに、それ以上に痺れるほど甘美。
 うふふ、私は兄さんの愛玩動物。今日は、こんなに沢山、可愛がってもらえる。
「秋葉に……その首輪を、付けて……ください……」
「よし、良い子だ」
 志貴が革ベルトを手にし、秋葉の細い首に巻き付ける。
「んっ」
 少し冷たくて、声が出た。
「ほら、鏡で見てみよう」
「はい……ふふ、わんっ」
 リードを引かれて、思わず秋葉は本当に四つ足で這ってしまった。姿見はすぐ傍だから、ほんの数歩のことながら。
「ほら、しろたえの肌にぬばたまの髪な秋葉には、赤いのが似合うと思ったんだ」
 頬ずりをしながら、志貴が囁く。言われれば、確かに赤い首輪は肌の白と髪の黒に映えている。
「うふふ……」
 いきなり、志貴に口付ける。当然のように受け容れて貰えたから、そのままたっぷりと続けた。またお腹の下の方に手が伸びてきて、弄り始める。
「私も……」
 態度だけでねだって、志貴のペニスに触れる。志貴の怒張の前にひざまずく。焦らすみたいに軽いキスから始めて、でも焦らされているのは秋葉の方。
 ぺろ、ぺろ。舌を使い、キスの雨を降らせる。あちらこちらと撫でられて、気持ち良くて姿勢が保てない。思わず、すがりつく。
 左右の頬に、交互に亀頭を擦りつけられる。
「手は使っても良いんじゃないかな?」
 犬に手はないけどね?
 からかわれながらも、愛撫を始める。指の環で上下して、指先で擽って、掌で穂先にマッサージ。唇でなぞる。舌先だけを出して動き回る。ぱくりと加えて、吸い付きながらエラのところを唇でちゅぷちゅぷ。尿道口に舌をねじ込むように。息を継ぐ間も惜しむ勢い。
 また、自分も舐められて、ますます溺れる。頭がぼんやりしている。
 ゆっくり、膣に入ってくる。奥まで貫かれる。淀みなく、志貴は腰を前後させ始める。動物らしい、四つん這いの姿勢で秋葉と繋がっている。
 私が首輪を着けられた犬なら。そんな自分と交わる兄さんも、犬なのかな?
「あんっ、ふくんっ」
 目の前に、鏡。首輪をされて、リードを引かれながら、最愛の人に後ろから犯されている。
 倒錯。
 鏡に手を突く。
 鏡像の中で、胸に志貴が手を触れてくれる。薄くてコンプレックスな胸だけど、志貴はいつも、恥ずかしくて泣きそうなぐらい愛してくれる。
 頬をつけて。
 掌で触れて。
 指先で擽る。
 酷く敏感な乳首を覆うように口付けて、期待に震えているのに、まわりからゆっくりゆっくり舌を使う。
「んンっ……」
 躰を捩って、少しでも舌に乳首を近付けようとしてみる。
「ん、どうしたの? 秋葉」
 そんな意地悪で返されるのも、いつものこと。
 両方にそんなことをされると、焦れったくて泣きそうになる。本当は志貴だって早くしゃぶりたいのを堪えている、だけど我慢比べは負けてばかり。
「乳首、可愛がって下さい」
「ふふ……」
 途端にどっちも刺激される。ちろちろと乳首を舌先が愛撫する。薄くても女らしい、しなやかさは充分な胸の肉に、逞しい志貴の手が愛撫を施す。ちょっと痛いときもあるけど素敵。
「あぁんっ……」
 敏感すぎて辛い。こう、一度にあちこちと責められては、意識が保たない。自分が何をされているのか判らなくなってくる。いま、後ろから挿入されているのに。
 鏡の中では、とんだ痴態を演じていた。気が付いたとき、額を鏡にあてて手を自由にしていた。
「ふぁう……」
 逝った瞬間の快感がずっと続いている感覚。
 嬉々として、志貴のものを口にする。弾けさせて、顔に浴びた。温もりと匂いに酩酊し、それでもまだ、舐める。今度は口に出して貰う。いつの間にか、髪に絡んでもいる。
 挿入されて、子宮まで響くようなビートを刻まれながら、顔も精に汚されたまま。
「中に出すまで飲んじゃ駄目だよ?」
 言われているから、舌を絡めてたっぷり味わう。ねっとりといつも通りに濃くて、唾でふやかさないと喉に張り付いて飲めない気がする。唾はいくらでも湧いてくるけれど。
 休み無く、志貴に後ろから突き続けられている。首輪をされた自分は鏡の中で、盛りきった獣そのものに見える。子犬なんて可愛いものじゃない。
「ぁんっ……ふぁうぅっ」
 軽く達した。途端に、志貴は膣の奥に精を放った。判るはずがないとも思いながら、お腹の中に温もりを感じる。力が抜けて、鏡に寄りかかりながら、口に残っていた精を零さないように喉へやる。胃の中も子宮の中も、志貴の精で一杯になりそう。
 もっと、いっぱいにして下さい。
 鏡に背を向けて、秋葉は大きく脚を開いた。その間をどろどろにしているのは、唾液と汗と、蜜と精液。
「ほら、兄さん……」
 指を沿えて、自分でクレヴァスを開く。くぷ、と指先を沈める。もう一本挿し入れ、リズム良く出し入れして見せる。
「気絶するまで、でしょう?」
 お尻を持ち上げた。あられもなく開いた脚の間に、ねとねとに濡れた性器が露わ。
「そうだよ、秋葉。覚悟は出来ているよね?」
 志貴が、膝を抱えて、そのままいきなり挿入してしまう。
「うふ、素敵……」
 手を引いて貰い、志貴の首っ玉に抱き付く。背中を撫で回し、脇の下を突っつく意地悪な志貴の手に悶えながら。
「ひゃんっ」
 またお尻も責められる。つんつんされるだけでも、挿入されたままだと感覚が段違い。挿入されて、咄嗟にしがみつく。お尻の穴に異物が出入りし始める。緩慢な往復運動の摩擦が、発火しそうに熱い快感。抱き付いてキスをねだる。腋を擽られて悶え、自分で腰を揺らしてしまって、割り入ったペニスを深く味わう。
 おかしくなる、気持ち良くて。
 変になりそう、幸せで。
 そのまま、前も後ろも責められ続けて、身も世もない声を上げ続けた。だけど、それで終わるわけでもない。
「もう、動けません……」
 息も絶え絶えに訴えたら、足の裏を擽られた。
「あははっ、はんっ、やめっ、にいさんっ!」
 また笑い悶えて、まだまだ動けるって示してしまう。その間も、お尻も膣もちゃんと悦んでいた。
「うふふふふっ、だめですっ」
 意地悪なくすぐり責めを止めてもらえず、下ろしても貰えない。
 くすぐったくて逝けないって思っていたのに。
「ひゃふぁ、――――ひあぁんっ!」
 くすぐられながら、逝かされてしまった。

「ふふ……変態ですね、兄さんはっ」
 足を舐める志貴に、秋葉が告げる。もう少し、蔑んだ調子で言い放ちたかったのだけど、どうにも甘い声になってしまった。
「舐めて下さい」
 冗談のつもりで足を突き出して一言告げたら、ためらいも見せずに従ってくれたのだ。こんなこと平気なんですか、遠野家の長男たる兄さんが。そんな理不尽な言葉も、爪先へのキスで途切れた。
 恭しく秋葉の足を捧げ持ち、志貴は土踏まずに唇を押し当てている。くすぐったいけど、行為に酔っている。思い切り甘えたい望みと共に、愛しい兄を奴隷のように服従させてみたい欲望も常にあったのだ。熱心に足の裏を舐めてくれる姿は、申し訳ない気分も消えないけれど、それ以上になんとも愉悦。
「遠野家のゴクツブシとしちゃ、当主様には従わないと」
 にやにやと笑いながら、足に舌を這わせて唾液に塗れさせてくる。丁寧に、どちらの足も舐めてくれる。踵から、どろどろに唾を塗りつけながら爪先の方へ。何度も繰り返す。どっちの足にも施されて、びりびりと脚の間の泉に響いてくる。
「そんなつもりは……ぁん……」
 一本ずつ口に入れて、足指とディープキスするみたいに舌を絡めてくる。指の間を舐められると、快感の鋭さに蹴り上げそうになる。あっちの指にもこっちの指にも同じことをされて、とてもじゃないけどじっとしていられない。
「良い匂いだよ、秋葉」
 あぁ、そんなこと……。
 風呂上がりだし、変な匂いはしないと思う。でも、それが石鹸の匂いでも何でも、自分の足に鼻を寄せた志貴に言われては、恥ずかしくて変になりそう。なのにやっぱり、匂いまで確かめてくれることは嬉しい。
「ふふ、秋葉としては、お尻と足だとどっちを舐めてもらうのが好き?」
 すっかり身も世も無いポーズにされて、またお尻の谷間を舐められたりする。もう立場は逆転だ。体を折り曲げられて、脚を大きく広げられて、見られて恥ずかしいところを全部、志貴の眼に晒している。胸も、秘所も、お尻も。
 そのまま、べろんと足の裏を舐めては、後ろの窄まりに舌をねじ入れられる。
「んんっ……」
 足指を吸われて、快い寒気のような感覚が背筋を登ってくる。お尻を攻められたら、全身が痙攣するみたい。
「ほら、どっちが好きなの?」
 執拗に、足の裏と肛門を責めてくる。変になりそう、気持ち良くて。ひどく猥褻なことに思えて、そうに違いなくて、恥ずかしくて。
 悦楽。
 返事をしないと、この恥辱の快感がいつまでも続いてしまう。考えたら、うっとりしてしまうけど、ともかく返事をした。頬が自然発火しそうな思いだった。
「そうか。じゃ、もっともっと、してあげる」
「ひゃあんっ!」
 ますます激しく、結局足もお尻も舐められまくって、さっき以上に悦楽。
「したくて、してるから」
 膝の裏なんてところも、感じた。踝を舐められて、くすぐったくて悶えた。さっきの当主様には服従云々は嘘だと告げられて、意地悪を言っているのだと判ってはいたけど嬉しく思う。
「秋葉は全身、どこをとっても綺麗だし、甘い感じがする。飴細工みたいだ」
「あふっ……ぅん……」
 恥ずかしくて、いやいやするみたいに首を振ったら、そっと押さえられた。
「だから、喜んでしてるんだよ。」
 キスされる。自分の足やお尻を舐めていた口だとしても、もちろん嫌なんてことは少しも無い。秋葉にしても、志貴のことなら足でも何でも喜んで味わうだろう。お互いの躰に、触れたこと、口付けたことにない場所なんてきっと無い。
「このへん、駄目だったよね?」
 内腿の、秋葉自身もよく判っていない微妙なポイントを突かれる。左右同時にされると、全身がじたばたと震えるぐらい感じてしまう。
「あれ、違った?」
 狙い澄まして急所を突きながら、とぼけているのが一目で判る。
「いえ……駄目です、そこ……」
 気持ち良いのに、ひたすらに切なくなる感触。
「そうか、駄目なことはしないでおこうな」
 え?
 また意地悪を言っている。指が離れた。慌てて止める。
「駄目ですっ、いえ、止めちゃ駄目ですっ」
「変な子だな、駄目なことされたいんだ、秋葉」
 意地悪を続けながらも、ちゃんと戻って来てくれた。こんどはそこを、クリトリスやアナルや足の裏やと一緒に、いつまでも口付け、吸い付き、舐め回すのだ。
「よし、今度から秋葉が駄目って言ったときには、ちゃんともっとしてあげるから」
「駄目ですっ……あ……」
 志貴が快哉の笑みを浮かべていたから、秋葉は諦めて甘える。
 指刺激だけで達しそうになる。秘裂を往復する指先、尖塔を摘む指先。不意にするりと侵入する。Gスポットを探り当て、ぐりぐりと集中。ぴちゃぴちゃと音を立てて舐り回し、水音を上げて愛液を吸われる。
 でも、今度はなかなか逝かせてくれない。切なくて啼いているのに、焦らされている。
「んっ……あふんっ……」
 初めは尊大に足を舐めさせていたはずなのに、自分が玩具にされている。
「ひゅぅん……」
 波状攻撃にガードできず、脳天まで直通する。もっと堕ちてしまいたくて、ねだる。
「あん……欲しいです、兄さん……」
「んん? 何をかな?」
 結局やっぱり、言わされる。でも、異論は無かった。
「兄さんの、おちんちんです」
「うーん、プレゼントするわけには行かないからなあ、こればっかりは」
 からかいながら、志貴は自分のものを握らせる。
「入れて下されば良いんです」
 手でさすりながら、秋葉は言う。
「入れる、か。ここかな?」
 そう言って志貴は、秋葉の口に突きつける。喜んでキスし、ぺろぺろと舐めはしながら、合間に秋葉は抗議する。
「もう、判ってらっしゃるんでしょう?」
「ふふ……でも、俺はちょっとこうやって胸を楽しみたいな?」
 志貴が、隆々としたペニスを秋葉の胸に寄せる。なめらかな肌に亀頭を押し当て、滑らせる。柔らかな肉の丘を登り、中心に至る。唾液や腺液に濡れた雁首で鋭敏な乳首を弄られ、秋葉は快感に震えた。
「胸が好きですね、兄さんは……」
「うん、こんなに綺麗なんだから、夢中にもなるよ」
 反対側の乳首もまた、同じようにして可愛がられ、更に快感。
「でもやっぱり、今は下の口に欲しいのかな? 秋葉」
 首筋を擽りながら、耳元に囁く。悶えながら、秋葉は答える。
「はい。意地悪なさらずに入れて下さい……」
「よし」
 しっかりと返事をしたくせに、志貴はペニスを秋葉の後ろの孔に押し当てる。
「あんっ、そこじゃなっ……」
 秋葉に最後まで言わせる間もなく、志貴は押し進んだ。志貴の唾液と自分の蜜でトロトロされているから、あまり抵抗も無く入ってしまう。無論、こんなことができるようになるまで、丹念に丹念に慣らされたのだ。痛いようなことはされていない。ただ、恥ずかしくて死にそうな思いをしてきただけ。でも、志貴の手で女として開花させられていくのはこの上もない悦びで、それがアナルセックスであっても違いはない。
 こんなことを平然と、いや、むしろ嬉々として、受け容れている。そんな自分に今さら驚いたり、余計に望んで志貴を求めたり。
 肛門から、ゆっくりと沈み込む志貴のペニス。前に受け容れるとき以上に、串刺しにされた感じがする。食べられてしまう感じがして、それを官能に思う。ゆっくりと抜き取られていくと、身を千切られるみたいで捕まえておこうとする。
「くっ、うぁ……」
 あまりに締め付けが強かったのか、志貴が呻いた。
「秋葉、これで満足?」
 ゆったりと肛門を犯しながら、志貴は尋ねる。答えは知っていたけれど。
「だめです……前に、下さい……」
 唇を舌で湿しながら、予想通りの返事。
「はしたないなあ、秋葉は」
 しつこくからかいながら、おねだりに志貴は応えてやる。
「あんっ……。好き……」
 ずぶ、と一息に奥まで貫かれる。落ち着いたペースで、往復運動を始める。
「あんっ……」
 悦びの声を上げ、だけどその口をすぐに塞がれてしまう。くわえさせられたものを、秋葉は喜んで受け容れ、舐め、愛撫し始める。志貴のことなら、愛しくない場所など無い。
 愛されている。果てしなく愛されている。全身を志貴に包まれて、快感に溺れている。志貴に溺れている。
「ひんっ……」
 息苦しい。酸素が足りなくて気絶しそう、でも休むなんて惜しくてできない。目の前が白くなったり黒くなったり。躰が持ち上げられて浮んでいる。全身に注がれる愛撫で満たされて、いっぱいに張り詰めていく気がする。ペニスで躰に火薬を詰め込まれている。点火されたら弾け飛ぶ。
「あきはっ……」
 切羽詰まった志貴の声。
 にいさんっ、と塞がれた口で答えようとする。更に返事するように志貴の動きが激しくなって、それで起爆された。
 声も出せない。
 躰が粉々になったみたい。
 自分の中身を全部、入れ替えられたみたい。何もかも、志貴に奪われた気がする。略奪は秋葉の生業なのに。
 絶頂した。逝くときは一緒に、という望みを存分に叶えてくれた。快感に狂わせてくれた。
 嬉しかった。気持ち良かった。幸せだった。
 膣と尻孔とに注がれ、口に出され、胸と顔と腹とに浴びせられ、両手をどろどろに汚されながら。

 兄さんが沢山居たらいいのに。
 そんな馬鹿げたことをどうして考えたのか。それこそ、アルコールに侵された頭のせいだったのだろう。
 兄さんのことは、独り占めしたい。
 でも、世界は秋葉と志貴とだけで出来てはいない。
 ならば、沢山兄さんが居れば、独り占めできるのに。

 淫らな夢は続いている。
 二人の志貴が、それぞれ秋葉の前と後ろを貫いて、リズム良く腰を振っている。
 別の二人の志貴が、それぞれ亀頭を秋葉の胸に擦りつけ、とりわけ乳首を擽っている。
 両手でそれぞれ、別々の志貴のペニスをさすっている。
 仰向けに反らせた口で、秋葉は志貴のものを愛している。
 順番を待てず、秋葉の足の指を舐める志貴。擽るように腋の下に口付ける志貴。お臍に舌を入れる志貴。背中を両手でなぞる志貴。髪に指を絡める志貴。耳に息を吹きかける志貴。耳朶を噛む志貴。クリトリスを吸う志貴。腰骨を撫でる志貴。お尻に頬ずりする志貴。太腿を抱く志貴。ふくらはぎを揉む志貴。膝小僧を爪でくすぐる志貴。膝の裏にキスする志貴。お腹に掌を当てる志貴。脇腹に指を這わせる志貴。背筋を上下に辿る志貴。秋葉のほっぺたに精を塗りつけて遊ぶ志貴。首筋をそっと愛でる志貴。
 また、口の中に志貴の精の味がした。お腹の奥に熱いものを感じた。お尻に何か溢れた。胸に粘液を浴びせられた。両手の中でそれぞれ弾けて、計ったように顔に浴びた。
 今度は俯せになる。お尻を高々と挙げさせられて、恥ずかしいけどドキドキする。志貴が一斉に動いて担当を変え、また口にも膣にもお尻にも手にも胸にも足にも背にも腹にも色々としてくれる。
 沢山の志貴を、秋葉は独り占めしていた。
「兄さん……」
「秋葉……」

「あ、秋葉、起きた?」
 胡乱な頭に兄の呼びかけが届いて、秋葉は目を覚ます。
 志貴が、気遣わしげに秋葉の顔を覗き込んでいる。
「兄さん?」
 口に出したら、今の今まで見ていた狂気の夢が頭に蘇った。そのあまりに破廉恥な中身に、一瞬で耳まで真っ赤にした。だけどあれは、確かに狂喜の夢で。
「大丈夫か? なんか変な声を出してたけど」
 発熱を案じるように額に手を当てられ、肌の触れあいを意識した秋葉はますます熱くなる。ひんやりと志貴の手が快く、汗で貼り付いた肌着は不快だ。
「だ、大丈夫ですっ」
 体を起こそうとして、やっと自分が何か抱き締めているのに気付く。
 黒い猫だ。
「秋葉が酔い潰れて眠ってたのも驚いたけど、レンを抱っこして放さないのも可笑しかったな」
 思い出す。あの時は少女の姿だった。秋葉を避ける様子のレンに気紛れにワインを飲ませたら、志貴よりも余程飲みっぷりが良かったから、秋葉自身も日頃に無いほど杯を重ねた。
 そういえば、この子って……。
 酔い任せて零した、兄さんが大勢居たら良いなんて妄言を、同じく酔った黒猫が叶えてしまったのだろうか。
 ただ、あれは少しだけ意味を取り違えたのか、それとも悪戯だったのか。ひょっとしたら、自分でも抑えていた不埒な願望を見透かされたのか。
 そんな考えに至り、秋葉は自分の見ていたものがまた恥ずかしくなる。
 でも、あれは居間でのこと。なのに、ここは自分のベッドだ。
「放さないから、そのまま一緒にこの部屋まで抱いて来たんだ」
 抱いて来た、って、兄さんが私を抱き上げてここまで?
 礼と謝罪を口にしながら様子を思い浮かべて嬉しくなり、でも少しも憶えていないのが残念でならない。頭に描いた絵にちゃんと黒猫の姿があり、まだ抱き締めているのを思い出す。
「ごめんなさい」
 レンにも詫びる。明日にもケーキを沢山買って来させてやろう。とんでもない夢、でも、お礼か謝罪か。いや、懐柔かしらね。
 放してやると、黒猫は秋葉の顔を見て少し首を傾げる。一声鳴いて振り向き、悠然と歩き去った。
「……それで、秋葉?」
 秋葉がレンを見送るのを待ち、志貴が耳打ちする。
「何でしょう?」
 平静を装いつつ、答える。
「どんな夢を見ていたのかな、秋葉は?」
「なっ、そ、それはっ!」
 まるで既に知られているみたいに思って取り乱す。違うと気付いても、あんな内容だなんて、その上、嬉しかったなんて、言えない。とても言えない。
「良い夢だったとは思うんだけどね? ほら」
「ひゃ?」
 いきなり秘所を刺激され、秋葉は悲鳴を上げた。驚きながら、酷くショーツが濡れていて、スカートを脱がされているのに気付く。
「兄さんっ?」
 激しい口調で、自分の格好について問い正す。お漏らしでもしたみたいに濡れているのは、間違いなく淫らな夢のせい。
「いやあ、服が皺になるといけないと思ってさ。レンを抱いてたから上は脱がせなかったんだ」
 囁きながら、さっさとブラウスも脱がしに掛かっていた。
「駄目ですっ」
 あ、こう言ったら催促になってしまう。いや、それは夢の話。
「秋葉は良い夢を見てたみたいだけど、俺はその悩ましい寝姿を見せられてたんだよ?」
 ベッドに押し倒されながら、秋葉は手を志貴の下腹部に導かれた。ズボンの中で、堅く張り詰めていた。
「……しょうがないですねっ」
 意地っ張りな返事をして、口付けられながら、思う。やっぱり、夢の外で兄さんを独り占めしたいって。

 

/あまたの幻舞・了

 


 えー。
 このような秋葉像は、きっと誰かの影響です(゚∀゚)

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