◇ Round 4

 「なんか、アルクェイドに秋葉を獲られちゃったみたいだな」
 アルクェイドに抱き締められたまま、秋葉は志貴が笑うのを聞いた。
「ふふ、悪い吸血鬼に攫われたお姫様は、王子様がなかなか助けに来てくれないものだから」
 志貴の方に少し顔を向け、アルクェイドに続いて囁く。
「吸血鬼に懐いてしまいますよ?」
「そうか、それは困るな」
 秋葉を抱く腕を志貴が剥がそうとし、途端にアルクェイドは秋葉ごと転がって志貴に背中を向ける。
「そんなに簡単には返さないわよ。ねえ、お姫様?」
 秋葉は吸血鬼にキスされる。懐くなんて自分で言ったように喜んで受け入れ、進んで深く舌を絡める。
「おのれ吸血鬼、これでも喰らえ〜」
 ふざけた声が聞こえた途端、アルクェイドは小さく痙攣した。それから、びくびくと身を震わせ続ける。秋葉が何事かと思う間に、唇が離れてアルクェイドは甘い悲鳴をあげた。
「ほらほら、これでもか?」
「あぁん、だめっ」
 やっと理解する。兄がアルクェイドを愛撫しているのだ。恋敵が愛しい人の愛撫に悶えているのだと思うにつれ、焼餅が戻ってくる。だから、背中越しに腕を伸ばして声をかけた。
「王子様っ」
 せっかく用意してくれた馬鹿馬鹿しい話に乗って、照れながらも。
「ああ、今助けますっ」
 手を繋ぎ、調子を合わせてふざけながら、アルクェイドの上を越して抱き寄せてくれる。だからそのまま、思いきり抱き付いた。
「酷い目には遭いませんでしたか?」
「ええ。愛してます、王子様っ」
 いきなり口付ける。
「あらあら、さっきはわたしに懐いてしまいそうとか言ってたくせに」
 背筋を撫でられ、今度は秋葉が悶える。逃げようにも、志貴に抱かれていて動きが取れない。いや、あからさまに、拘束してアルクェイドの魔の手に晒そうとしている。
「ひゃんっ」
 尾底骨のあたりからお尻の谷間に攻め入られて、ますます快感にもがく。
「ほらほら、お姫様はとっくに吸血鬼の虜よ?」
「そんなことありませんっ、私が愛してるのは兄さんです!」
 無意識に、王子ではなく兄と呼んでいた。
「そうか、安心したよ、秋葉」
 そして、姫ではなく秋葉での返事と、再度の口付けを貰えた。
「……でも、悪い吸血鬼と王子様がずっと以前から愛し合っていたことを、お姫様は知らないのでした。おしまい」
 陶酔していた秋葉に、アルクェイドが囁いた。
「駄目ですっ、どこにそんな話があるんですかっ」
 思わず抗議した秋葉にアルクェイドがまた接吻し、目の前で更に志貴と唇を重ねる。羨望や不安に言葉を無くしていると、またアルクェイドに囁かれる。
「ねえ、今度こそ妹の番じゃない?」
「はい?」
 戸惑うと、二人に内腿を撫でられる。
「このまま、妹は入れて貰わなくて良いの?」
 子供っぽい遊戯に思いがけず没入していたのか、三人で性交するなどという不道徳な行為の最中だったのを忘れかけていたのだ。
「駄目です、ちゃんと責任は果たして下さい、兄さん」
 尊大な態度に羞恥を潜めて、告げる。
「じゃ、妹、今度はわたしと舐めっこしよ?」
 聞き返す間もなく抱えあげられ、上下逆にアルクェイドと抱き合う姿勢にされる。うつ伏せで、目の前にはアルクェイドの下腹部がある。
「志貴にはちょっと休ませてあげないと」
 下の方で、そんなことを言っている。
「ぁあっ」
 いきなりクリトリスを吸われた。膣に指が潜り込んで、Gスポットを擦り始める。お尻の穴まで突付かれる。
「ふぁう、ふああっ」
 啼かされるばかりで、舐めっこにならない。それでも、何とか愛撫に応えようと女の部分に口を寄せる。
 アルクェイドの、雌の匂い。女である自分がそれに酔わされるなんておかしいと、何度も同じことを思っているけど、うっとりと熱くなるのは事実。そこに、雄の匂いも混ざっていた。
 不思議に思いながら、口を付けた。ペロリと舐めたら、女が蠢く。舌を動かし続けていると、蜜が溢れてくる。そこに、かすかに兄の精の匂いを嗅ぎ分ける。
 ああ、そうか。
 さっき、志貴はアルクェイドの体に精を注いだばかりなのだから。
「兄さんの、返してもらいます」
「え?」
 判っていないアルクェイドを余所に、指を秘裂に挿しいれて蜜を掻き出す。水音を立てて吸い、舐める。はっきり判るものでもないけど、混ざっているのは確かだと思える。
「あふぁ、んんっ、はあ……ん……」
 熱心なものになった愛撫にアルクェイドが喘ぎ、またお返しと責めに力を注ぐ。果汁に濡れた指を後ろの穴にあて、ゆっくり侵入していく。痛くはなくても、きつい感じはする。それでも、気持ちは良い。
「んぅうんっ」
 のけぞるような快楽。前に入れられた指の抽送まで激しくなり、二重奏で登って行く。なんとか耐えようと、自分もアルクェイドをひたすら舐める。
 そんなとき、不意に背中に刺激を受ける。
「ひあぁあっ」
 大声で悲鳴が出てしまう。
「凄いな、秋葉」
 夢中で意識から消えていた志貴が、片手で触れたに過ぎなかった。そっと静かに、子供を寝かしつけているように撫でられているだけ。なのに、体が弾けそうな喜悦。
「ほんとに敏感だなあ、秋葉」
「ふぅん、ひゃぁんっ」
 両手で責められては、耐えようも無い。
「うふふ、ああんっ」
 くすぐったい脇腹だって、半ば以上は快感になっている。
「秋葉、ちゃんとアルクェイドを舐めてあげなきゃ駄目じゃないか」
「あ、はい、兄さ――ぁんっ」
 頑張ってみても、体の自由が効かないほど悦楽に融けてしまっている。せめて指だけ、と動かしてはいた。
「ひうっ」
 背中を撫でられているだけ。背筋に沿って、その両脇を一緒に突付きながら、不規則に上下している。お尻の谷間から、耳まで。横に広がって、腰骨、腋の下。くすぐったい、意地悪な指使い。でも、もっと、して欲しい。じれったい。
 本当に、愛し合うときだけは、兄が支配者だ。いや、酷いことをされたことなどない。そう、嫌なことをされたりなんか、志貴はしない。ただ、鮮烈過ぎて。優しくて、意地悪で、甘くて、容赦なくて。
 怖いぐらい。
 恋敵に女を可愛がられながら、恋人の愛撫に身を委ねている。倒錯と背徳に昏い悦びを覚えもする。なのに、芯の方では安らかなのだ。
「ほら、舐めてあげないんだったら、俺がアルクェイドにあげちゃうぞ?」
 もう、秋葉は指も動かせずにいた。
「えへへ、志貴、それに賛成ー」
「よーし」
 秋葉の正面に膝立ちした志貴は、アルクェイドの膝を立てて腰を上げさせる。秋葉が意味を解して思わず阻止しようとしたときには、既に遅い。もう数度の射精を経て尚、隆々と勃起した志貴のペニスがアルクェイドを貫く。
「あ……」
「ぅんっ!」
 今度こそ、自分の回りだったのに。
「ぁん……志貴、好き……」
 惚けた睦言。羨ましい。ずるい。早く自分に入れて欲しい。
「あんっ」
 そんな想いを余所に、アルクェイドは手も口も休めず秋葉を愛してくれる。それでやっと、少し意識を変えた。
 自分を愛して欲しいと思うのは、身勝手ではないと思う。自分だけを愛して欲しいと思う事だって、我侭なんてことはないと思う。いつか、自分一人のものにしてやろうって意志を、無くすことなんて出来ない。
 それでも。
 秋葉は首を横に向け、兄の性器が出入りしているアルクェイドに口を寄せる。舌を伸ばして、クリトリスを舐め上げた。
「あぁっ、んっ」
 アルクェイドが憚らず嬌声を上げている。
「ふぁあっ」
 反撃の責め手も激しくなり、力が抜けそうになる。
「ふふふ、妹、こうされるの駄目でしょ?」
「ひぅうっ」
 脚の付け根を擽られているという他、何をどうされているやら判らないけど、確かに駄目。そんなこと、知られてしまっているのが口惜しい。でも、気持ち良い。ますます正気を無くしていく。
 兄さんに穿たれたいのに。
 文字通りの目と鼻の先で恋敵が愛しい人と交わっている。恋敵の秘所に、自分が受け入れているべき愛する人のペニスが出入りしている。その恋敵には、自分の急所なんてものまで知られている。
「あ……くふぅ……」
 口惜しいから、気力を奮い立たせて女を責める。口惜しいけど、別に屈辱ではなかった。抱くのは、もっと前向きの対抗心。
 アルクェイドさん、何処が弱いんだったかしら。
 快楽に霞みのかかった頭で考える。太腿の後ろから手を回して、秋葉も、お尻の方を撫で始める。谷間に攻め入る。
「んふっ」
 びくり、と反応があった。
「アルクェイドさんも、お尻、気持ち良いんですか?」
 どきどきしながら、窄まりに指をあてる。花から零れた雫に濡れているから、そっと押したら受け入れてくれる。
「うん、感じる……んっ」
「んあっ」
 くにくにと掻き回されて悶え、同じことをやり返す。指を捻られて感じたから、やっぱり真似をする。何か、愛し方を教わっている気がして、おかしな気分。
 そして、その通りなのだろうって、気がつく。
「ああっ、志貴、それっ」
 競争相手は悲鳴を上げた。兄が何かしたのだとは、秋葉にもすぐに判る。指を入れているお尻も締まったり緩んだり激しい。
「頑張ってる妹の味方もしないとな?」
 兄が笑っている。
「それ、駄目ぇっ」
 取り乱して、アルクェイドは悶える。ずっと続いていた秋葉への愛撫も滞る。
「ほら、アルクェイド、ちゃんとしないと秋葉にあげちゃうぞ?」
「あーん、私がそれ、駄目なの、知っててえ……」
 余程の急所なのだろう、息も絶え絶え。
「兄さん、早く私に」
 嬉しくなって言ってしまい、その破廉恥さに火が出そうになる。でも、何を今更。どう見たって、爛れ切った行為の最中なのに。
「悪い子だ、秋葉」
 いきなり、頭を撫でられる。子供っぽい扱いが、なんだか嬉しかった。
「でも、そうするかな」
 すっと腰を引いて行き、麗しい恋敵の秘所から恋人の剣が抜け出てくる。
「兄さん」
 呼び止めて、口を寄せる。アルクェイドが垂らす蜜を拭い取ろうとするように、しゃぶり付く。淫蕩な女の匂い。愛しい男の匂い。どちらも心を震わせた。体の芯を熱くした。魂を奮い立たせた。
 くちゅ、ぺちゅる、じゅぷ……
 知らず、くわえ込んで味わっている。
「んんっ」
 くぐもった声を上げる。志貴の責めが止んで余裕の出来たアルクェイドが、再び秋葉を可愛がり出している。
 舐められながら咥えたことぐらい、何度でもある。もちろん、志貴に舐められながら。今は、互いに口を使うより深く受け入れられるから、促して喉の奥まで陰茎を咥え込む。
 息苦しい。だけど、嬉しい。ここまで出来てしまうほどに慣れてしまった、そんな自分の淫らさに陶酔する。
 アルクェイドも自在に責めてくるから、喉まで埋められたままで喘いでしまい、その刺激に志貴が呻く。睾丸を揉んでやると、もっと声を上げた。散々に自分たちを苛める男の凶器に仕返しする気分で頭を前後させつつも、髪を撫でられたら、それだけでうっとりする。結局、嬉しくてならないのだ。
 反対の手は、アルクェイドの秘所に潜り込んでいる。注送に伴って、秋葉を舐めるアルクェイドの動きが乱れる。秋葉に余裕が出来て志貴への愛撫に熱が入り、志貴が耐えようとして手が疎かになる。アルクェイドが勢いを取り戻し、秋葉が切羽詰り……。
 そんな、淫らな脈動。
「うくっ、あきは……」
 志貴が腰を引いた。咄嗟に追い縋り、握る。兄のあげた声が苦悶だと気付いて、慌てて放す。でも、ちょっと意地悪して笑う。
「どうしたんですか、兄さん」
 やっぱり頭を撫でて、兄は応えてくれる。
「こら、丁寧に扱わないと、秋葉にはあげないぞ?」
「ふふふ、兄さんこそ、優しくして下さらないと、貰ってあげませんよ」
 欲しくてならないのは自分なのを棚に上げてそんなことを言う秋葉にも、志貴は笑ってくれる。
 秋葉の尻の方に志貴がまわると、アルクェイドが秋葉の秘所と尻を寛げて言う。
「ほら、妹ってイヤラシイよね? こーんなにしてるんだよ、悪い子っ」
 広げられた媚肉も尻の窄まりも、愛液と唾液に塗れつつ蠢いている。
「うん、えっちなことが大好きだからなあ、秋葉は。兄としては、ちゃんと躾をするべきなんだろうな」
「そうねえ、躾と言うより、お仕置きじゃない?」
「ああ、そうだな」
 勝手なことを言いながら、志貴が秋葉の背中を撫でる。安らかな官能にたゆたっていると、アルクェイドがお腹や胸も撫でてくる。早く欲しいけど、今の陶酔も、極上。
「妹って、背中も胸も同じぐらい弱いよね……でも、ここは特別かな?」
 乳首は、まさに急所。
「ほら、妹? お仕置きしてもらうんでしょ?」
 前から後から蕩かされて、体の奥に点けられた火は勢いを増す。
「はい……」
「よし。えっちで悪い子な秋葉に注射をしてやる。覚悟しろ?」
「はい。兄さん……」
 そして、やっと、はしたなく涎を垂らしていた秋葉の秘裂に、志貴の陰茎が宛がわれた。先端が少しだけ、割り入る。
「んふっ、ん」
 そこでストップされて、我慢できなくて、腰を揺すってしまう。
「じっとしないと注射はできないわよ?」
 意地悪く囁かれ、息を殺して動きを止める。でも、志貴は動いてくれず、代わりにアルクェイドがクリトリスを舌でつつく。
 堪らず逃げたら、志貴が膣から抜けてしまう。
「なんだ、要らないの?」
「そんなっ」
 また、決死の思いで体を固定する。舐められても我慢する。お尻の穴ををつつかれても堪える。乳首を擽られて、悶えながらも耐える。こちょこちょされても、頑張る。
 しかし、背筋の一番下に志貴が口付けた時には、とても凌げないと自覚した。
 背筋に沿って舐め上げ、吸い付き、舌で上に辿られていく。全身、力が抜けるのか入るのかも判らないような戦慄に、気絶しそう。
「行くよ?」
 気付いたら、熱い息が耳に届いていた。はい、と、理解せずに答えていた。
 一息で、貫かれた。満杯の蜜壷たる秋葉の秘所にも、その一撃は痛烈で、悲鳴は歓喜とも苦悶ともつかなかった。
「ふぁう……うぁあっ」
 存分に、突かれる。穿たれる。一撃ごとに、死ぬ思い。小さな死は、すぐそこ。
「くぅんっ」
 背中を撫で擽る手。指。肌の下に入り込んでいそうなほどの鮮烈。快感。幸福感。愛しい兄だから。最愛の人だから。こんなにも、気持ち良い。
「だっ、めっ、ですっ、そんなっ」
 クリトリスを嘗め尽くす舌。肛門に忍び込む指。とても正気を保てない。まともなままじゃ居られない。
「だめっ、もっとっ」
 否、とっくにまともなんかじゃない。憎いはずの、愛する人の心を奪う美しい人に、兄と一緒に女を責められているなんて。現実とも思えない。
 それでも尚、喜悦。それでこその、悦楽。みんな一緒だから、至福。それだけは、事実。
「秋葉っ」
 名を呼ばれて、歓喜。我を忘れて、半泣き。
「んっ、妹、気持ち良い?」
 恋敵の呼びかけが耳に媚薬。その先の愛だけが部屋に響く。
 気持ち良い。それ以外に何も無いみたい。体が、気持ち良い、だけで出来ていそう。感覚が全部満たされている。今まで志貴と交わしてきた幾夜もの情交が反芻されて、共鳴する。
 つまり――――
 ぷくりとしたクリトリスを吸われている。肉色の陰唇を広げられている。背筋を舌で掃かれている。脇腹をくすぐられている。淑やかな胸の膨らみを確かめられている。桜桃めいた唇を啄ばまれている。熱く潤った肌を合わせている。アクアマリンの双眸を静謐に覗き込まれている。華奢な手首を力強く握られている。子供っぽく頬っぺたをくっつけ合っている。縦長に窪んだお臍を弄られている。慈しんで額に口付けられている。天上の美味のように掌を味わわれている。お尻の穴に指を突き入れて抜き差しされている。平静に戻ったら羞恥に死んでしまいそうな淫らな嘆願を強いられている。清楚な恥毛をつんつんと引っ張られている。零れた唾液を甘露のように飲まれている。痛む一息手前ぐらいに耳朶を歯で挟まれている。柔らかな二の腕に幾つも幾つもキスマークを付けられている。ふくらはぎを穏やかに擦られている。気が遠くなるぐらいに鋭敏な膣内の一点を探られている。しっかりと気恥ずかしくなるほど抱き締められている。真面目くさって鼻を咥えられている。追いかけっこしながら象牙細工の指を絡ませている。引き締まった腰を左右から捕まえられている。夜光貝の背中に甘えたように頬擦りされている。細い息を執拗に吹きかけられている。舌を伸ばしてしゃぶらせて貰っている。優美な鎖骨を繰り返しなぞられている。硬く尖った乳首を摘んで転がされている。肋骨の谷間をひとつひとつ辿られている。夢のように愛を囁かれている。秘めやかな尿道まで見詰めて恥ずかしがらされている。溶けないかと怖れるまでに首筋を舐められている。牡の匂いの官能に酔わされている。敏感な足の裏を我慢できるぎりぎりの手付きで撫でられている。顔から火がでるような睦言を漏らしている。うっとりするほど包まれている。指使いの巧みさを思い知らされている。汗ばんだ腋の下を嗅がれている。内腿をぐにぐにと揉まれている。しなやかな肢体の隅々まで性感を拓き尽くされている。左右そろったお尻の膨らみに交互に歯を立てられている。珠の並んだようなつま先をねぶられている。膝の皿と後を同時に悪戯に引っかかれている。黒真珠の長い髪を梳られて陶然としている。急所をどれも知られている。体を重ねている。押えきれない歓喜の声を交わしている。溢れて止まない愛蜜の味を調べられている。足の指に歯型を付けられている。秘唇を男根で穿たれている。体の奥まで貫かれている。下の口で男を貪っている。凶悪なペニスを締め付けている。軽やかに登りつめようとしている。歓喜を全て共有している。一緒に逝こうとしている。何も考えられなくなっている。名前を呼ばれている。肉の壷を蠢動させて精液を搾り取ろうとしてる。愛を確かめ合っている。限界を告げる声を聞いている。志貴が弾けたのを感じている。熱い精の迸りを余さず飲み干している。至高天を垣間見ている。羽化登仙の境地を教えられている。
 秋葉自身も、一瞬だけ早く爆ぜていたから。
 蕩けている。浮かんでいる。達している。惚けている溺れている飛んでいる生きている愛している――――
「ひっ、あっ、ふっ」
 途切れ途切れ。まともに声も出ない。魂が抜け落ちていないのが、不思議。過飽和な快感に押し潰されたみたいに、指一本動かない。瞬きさえも忘れている。どれが志貴で、どれがアルクェイドだったのかなんて、判らなかった。どうでも良かった。どちらでも良かった。錯覚でも幻覚でも良かった。どちらでも嬉しかった。
 いっぺんにされていた訳がないとは、判っている。それでも。
 愛されている。愛している。
 愛し合っている。
 それは、確かだったから。
 圧倒されていながら、兄の声ばかりは聞き取れていた。アルクェイドの言葉も届いていた。
「あきは、いくっ、よっ」
「いもうと、ほらっ……」
 それが最後のトリガーだったのだから。
 気持ち良くて、くすぐったくて、恥ずかしくて、嬉しくて、愛しくて、口惜しくて、申し訳なくて、切なくて、苦しくて。
 欲しいものは他に無くて。
 欲しいものは、もう手に入っていた。
「妹、凄かったみたいね、今」
 まだ思考が真っ白のままベッドに横たえられて、アルクェイドと志貴に両側から抱き締められる。
「あんなに悦んじゃったんじゃ、お仕置きにならないなあ」
「ふふ、じゃあ、また今度違うお仕置きをしてあげようね、妹?」
「……はい」
 判っていて、そう答えていた。
「秋葉」
 志貴の声に眼を向けたら、途端に視界を塞がれた。
「兄さん?」
 戸惑っていたら、キスされる。
 不埒で破廉恥なセックスの快感も罪悪感も、この接吻の甘さには敵わない。そんな思いさえするほどの、愛しいキス。
 もっとしていたいのに、唇が逃げる。
「あん、もっと……」
 言ってしまって、恥らう。羞恥に塗れつつ、それでも、もっと口付けていたい。
「ふふ、じゃあ今度は私ー」
 偽り無く、すぐにまた柔らかな唇が重ねられた。今夜だけで何度となく交わして、もうすっかり互いの好きなキスの仕方は覚えている。
 いや、ただ自分の好きなやり方をするだけで、互いの一番好きな口付けになるのだ。一番たくさんキスしている相手が、同じだから。
「初めにやったテストをもう一回やろうか、秋葉」
「テスト?」
 言われた時もまだ、視覚を奪われたまま、ひたすら口を吸っていた。
「二回キスするから、俺とアルクェイドとどっちなのか当てること」
 アルクェイドの笑うのと、自分を放置して二人でキスする音が聞こえた。
「ほら、一回目」
 キスされる。動き回る舌は意地悪で優しい。じれったくて的確。丁寧で容赦無い。まるっきり、いつもの志貴のキスだけど、さっきのアルクェイドとのキスともそっくり。
 ちょうど、もう少しっていうところで逃げられる。
「で、二回目」
 思わず突き出していた唇を、吸われる。やっぱり、凄く意地悪で、正確で、愛しい唇。本当に、そっくり。
 だけど、判る。
 唇が離れていき、目隠しがやっと外れる。
「さて、どっち?」
 アルクェイドと志貴が、笑っている。二人の顔を代わる代わる眺めたあと、秋葉も笑った。
「ずるいですよ、兄さんもアルクェイドさんも」
 二人が、面白そうにするのが見える。
 本当に、ずるいと思う。この悪辣な陰謀のせいで、さっきは酷く切ない想いをしたのだ。ひょっとして、今夜のことは、二人に仕組まれたのかも知れない。
 だけど、法悦の余韻から醒めない頭で、見破れたのが嬉しくて、赦してしまう。
「判ったの? どっちだったか」
 促されて、答えを告げる。
「ずるいです。二回とも、アルクェイドさんだったじゃないですか」
 答えると、にっこりとアルクェイドは笑ってくれる。
「正解っ。妹、すごーいっ」
 そう言って、抱き締められた。
「最初の時のは、二回とも兄さんだったでしょう?」
 今度は、背中に暖かいものが触れる。
「そうだよ。やっと判った?」
「ずるいです、兄さんもっ」
 なんて奇妙な状況なのかと思う、理性の欠片は残っている。だけど、受け入れた。
 愛していること、愛されていること、いや、愛し合っていること。
 それは、確かだから。

 そのまま三人、志貴のベッドで裸のまま朝まで眠ってしまい、起こしに来た翡翠に見つかったなんてのは、また別のお話。
 一番慌てていたのが秋葉で、翡翠は意外に冷静だったとか。アルクェイドと翡翠が不思議に親しげだったとか。それもこれも、更にまた別のお話。

 

・Round 4・了

 


 

えー、主として作者が楽しい種類の遊びに走ってしまいました^^;
ちなみに、とか、白ととか、とか、そういうものは書かないと思いますw

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©Syunsuke