Half a Blue, Half a Shadow

Catalina


 目隠しをされて、連れ回される。ぐるぐると、首輪の紐を引かれて這い回らされる。AOAOと読めるドッグタグを首に吊るされて、散歩中の飼い犬のように。両頬には、とりあえず今は乾いた涙の跡。晒された白い素肌は幾条も刻まれた薄紅い筋に飾られ、ほのかな光に映えている。夜気が冷たくて、まだ少し熱い鞭跡を宥めてくれる。
 一歩、手を出す毎に、きつく巻かれた二本のベルトに上下から挟まれた豊かな乳房が震え、乳首に括られた錘が跳ねる。糸の掛かっていない方にはピアスが光り、どちらもはっきりと円錐に勃起して、はしたなく愛撫をねだっている。
 一歩、脚を運ぶ度に丸いお尻が揺れ、半分ほど押し込まれて垂れたアナルビーズの尻尾が腿を擦り、後ろの孔にも淡い刺激を味わうことになる。自分のショーツを咥えさせられていて、落としたらお仕置きだから、言葉を出せない。
 鼻先に塗付けられて乾いた男の精が、忘れた頃になってにおいを突きつけてくる。止せば良いのに耳を澄ませて、聞かなくていい音まで捉えようとしてしまう。飲んでも飲んでも、ふつふつと湧いて唾が治まらない。まだ舌に苦味が残っている気がして。丁寧に清められたのに、脚の間は再び潤っている。雫が内腿を伝い落ちている。さぞ、辿って来た道々に発情した牝の匂いを撒いて来たことだろう。
 ブーツだけ履かされていて、そのせいで意識を堕とし尽くしてしまえない。自分が何者なのか、忘れてしまえない。
 マジックガンナー・ミスブルー。世界にたった五人の魔法使いの一人。そんな昼間の姿は、忘れてしまいたい。差し出した世界の半分のことも。この瞬間の自分は、こんな夜の僅かな時ばかりを繋ぎ合わせて生きている、ただの馬鹿な女。一匹の牝。華やかな肩書きには、己の哀しい牝犬っぷりが明瞭に脳裏に浮かぶから、自分で失笑を禁じえない。
 女らしい体つきとは裏腹に鍛えてあって、地を這うぐらい、さしたる負担はない。
 体には。
 酩酊している。それを、飲まされたシャンパンのせいにする。そんなに酒に弱くはないけれど。普段なら視界を無くしたぐらいで位置の感覚まで失ったりはしないのに、自分が何処にいるのか自信を持てなくなっている。
 物音に、怯える。
 考えたくない。でも、もし、こんなところを蒼崎青子を知る誰かに見られたら。
 最低限、目隠しで顔は隠れている。今の姿を、自分に結び付けるものなど居ないだろう。そもそも、知り合いなど居ないはず。
 だけど。
 それで羞恥が薄れるものでもない。
 ……だけど。
 体は疼いていた。
 何処に来たのだろう、一日晴れていたはずなのに、雨上がりのように足元が冷たく濡れている。空気の温度が低く、体が冷えて鳥肌が立ちそうなのに、芯の方で熱い。
 何処と知れないまま停止を命じられて、青子は四つ這いのままじっとする。
 そんなこと、男がするわけがないとは、良く分かっている。それでも主観で一分も経つと、捨てて行かれたみたいで不安になる。
 殺す……。
 殺す、殺す、殺すっ!
 死ぬ思いで自分を選んでもらったのに。待たされて、色んな夜の記憶が甦る。

 

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