ゆうぞう 様
幸せになりすぎるのも考えものね、と凛は苦笑した。
何しろ依存性が半端じゃない。習慣性も天井知らずだ。もっともっと幸せになりたくなる。くわえて、凛は人一倍独占欲が強かった。一度手に入れた幸福を誰かに譲り渡すなんて、とてもじゃないが考えられない。ただでさえ彼女が心を開く人種が希少なのだから。
独占欲の対象が、恋人一人で収まっていた時期はまだマシだった。彼と二人だけで幸せを目指していれた頃は気楽だった。それなのに、何故だろう。気が付けばもっと多くのものを愛していた。手放せない仲間が増えていた。凛にとって宿敵にあたる大嫌いな蒼い魔術師。心の底では彼女を気に入っていたなんて、そんな事に気付かなければ良かったのに。
椅子の背もたれに寄り掛かって天井を睨んだ。無性に楽しいのが理不尽に感じた。夜空が見えないのが気に食わない。くわえたままのクッキーが溶けかかっている。風呂上がりで火照った体が疼いていた。意味もなく煙草を飲みたい気分だった。
「あー」
濁った声を洩してみた。疲れた、だるい、と横着な意思表示をしたつもりである。言葉を忘れたのでも喋るのが面倒くさい訳でもないが、なんとなく無性に甘えたくなったのだ。だから士郎を返せとルヴィアゼリッタをもう一度睨んでみる。
倫敦の片隅のアパートで、今宵も秘密のお茶会が開かれていた。狭いリビングで過ごすささやかな一時。三人で夕食を食べ、風呂に入ってからの憩いの時間。それが恒例になってどれほど経つか。実際にはそれほどでもないのだが、凛にはずっと昔から続けていたようにも感じられる。恐らく、士郎もルヴィアゼリッタも同じだろう。それだけ皆が馴染んでいる証拠である。
士郎はルヴィアゼリッタの膝の上で耳掻きをしてもらっていた。ソファーの上を占領する二人は自然すぎて、長年連れ添った熟年夫婦すら想起させる。怒るには今さらすぎる光景だったが、なんとなく除け者にされたようで寂しかった。
「あら、ミス・トオサカ。クッキーの粉がバスローブについてましてよ」
「……んー?。やだ、本当だ」
ルヴィアゼリッタの言葉に下を向いて、凛は胸元をぱんぱんと払った。士郎もその仕種を眺めて微笑む。―――バスローブ。そう、ここにいる三人ともその格好だった。もちろんその下には何も付けていない。その方がこの後の行為に都合がいいだけではなく、このお茶会で不思議な微熱と背徳感を楽しめたからだった。
「終わりましたわ、シェロ。それでは反対側を向いて下さいませ」
「ああ。頼むよ、ルヴィア」
ごろんと体ごと向きを変えて、士郎はルヴィアゼリッタの方に視線をやった。白色が眼前を満たしている。お揃いで買った三人のローブは、白くシンプルなデザインだった。
「―――いきますわ」
純銀製の西洋式耳かきが侵入してくる。東洋式とは違う控えめな感触に、士郎は安心して力を抜いた。
「ねえ、ルヴィア。終わったらアンタの耳をわたしにやらせてくれない?」
「私の? 残念ですけど、ミス・トオサカ。先日シェロにして頂いたばかりですわ」
「そうなの? でもわたし、そんな場面見た記憶ないけど」
「ええ。昼間、シェロの勤務中にですもの」
「むっ。それって抜け駆けじゃない?」
「まさか。れっきとした執事の仕事の一部ですわ」
「職権乱用としか聞こえないけど」
二人の会話を聞き流しつつ、士郎は膝枕の感触に酩酊していた。柔らかい感触とルヴィアゼリッタの体温。風呂上がりの女性の心地よい香りが、鼻梁をくすぐり続けている。どれも男にとっては極楽の代名詞に足る贅沢だったが、何よりも視界が最高だった。
なだらかな曲線を描く少女の下腹部。その、バスローブ一枚を隔てた先に存在する禁断のデルタ地帯。幾度となく見る機会に恵まれてきたはずだが、それでも惹かれてしまうのは男の性か。自分の耳を掃除してくれているルヴィアゼリッタに悪いと思いつつも、ついつい手を伸ばしたくなる欲望と戦っていた士郎だった。
「気持ちいいですか、シェロ」
「ああ、気持ちいいよ」
むっと、不満そうな視線を送ってくる凛に密かな優越感を感じながら、愛する男と触れあう喜びを噛み締めるルヴィアゼリッタ。膝の上に頭をのせた士郎が可愛かった。耳掻きの心地よさに目を細める表情は、無垢な少年のようにあどけない。それでいて、首筋も胸元も鍛え抜かれた男性そのものだったから、ルヴィアゼリッタの中の女がときめいていた。
下着もつけず、バスローブ一枚を纏っただけの身体の芯が、はしたなくも興奮している。士郎の吐息が、秘所を愛撫している気がするのは錯覚だろうか。耳掻きを持つ手が震えそうだ。無邪気に頭を委ねるだけの衛宮士郎が、ルヴィアゼリッタには憎らしかった。憎らしいはずなのに愛しかった。頭をよしよしと撫でていると、視線が合って微笑み合った。
やがて、リビングに鳩時計が鳴り響いた。
それがお茶会終了の合図だった。椅子から立ち上がった凛が手を叩いて、いまだ膝枕なんて体勢の二人に発破をかける。
「はいはい、そこのお二人さん。いつまでも耳掻きなんてしてないで、さっさと次にいきましょう」
促されて、士郎とルヴィアゼリッタも立ち上がった。ティーセットと菓子を簡単に片付けながら、お互い照れたように談笑する。凛には尚更気に食わない光景だった。
「まったく。相変わらず寂しがりやだな、遠坂は」
「捨てられた子猫の様な顔してましてよ? ミス・トオサカ」
全て分かってるとでもいいたげに、優しい視線を向ける二人が気に障る。……気に障るのだが嬉しくもあった。凛自身、今では素直になれない自分を分かっていたから、こうして理解してくれる人たちの存在がありがたかった。
「可愛いな、遠坂は。俺、そんな遠坂が大好きだ」
無遠慮に頭を撫でて恥ずかしい台詞をいう士郎。気取らない、直球すぎる物言いが凛の頭を沸騰させた。たちまち取り乱す様子をルヴィアゼリッタが面白そうに眺めていて、羞恥をさらに加速させる。士郎の朴訥さはある意味で凶器だ。乙女殺しっぷりが半端じゃない。自分が何をしたかも知らずに寝室へと歩き出した男の背中を睨みながら、凛は心臓を落ち着かせようと必死だった。
「さて、今夜は私が主導権を握る番ですわね」
寝室に移動したルヴィアゼリッタは、一つのトランクを大切そうに撫でた。恥ずかしそうに頬を染めながら、期待に満ちた表情で二人を見つめる。士郎はそれに苦笑で返して、凛は嬉しそうに微笑んだ。
「いつもの通り、普通に愛し合うだけじゃ不満なのか?」
「まさか、そんな事はありませんわ。ですけど、たまには違う趣も宜しいのではなくて?」
「でもさ……」
「観念しなさい、士郎。愛しのお嬢様のお達しじゃない」
茶化す様な凛の追撃に肩を竦めて、士郎はベッドの上に腰掛けた。正直な話、彼はこのシチュエーションを嫌ってない。それどころか男として非常に興奮していた。それを肌で感じているからこそ、彼女達もその行為を好むのだろう。しかし、愛し合うには少々過激すぎるという想いも捨てられないのだ。
衣擦れの音が聞こえてきた。部屋には明々と蛍光灯が灯ったまま。ほっそりと白い二人の脚。その、くるぶしよりさらに低い位置に、バスローブが当然のように広がっている。裸体を隠すものは何もなく、士郎は思わず息を呑んだ。
凛とルヴィアは微笑んでいる。期待を隠せず視線を注ぐ士郎の様子を楽しむように。頬を微かに染めながら。
「士郎のえっち」
「もう少しお待ちなさいな。私達はどこにも逃げなくてよ」
ルヴィアゼリッタの手の平が、凛の胸元をそっと撫でた。首筋を、耳の後ろを愛撫する。士郎を焦らす為に。凛を焦らす為に。なにより、ルヴィアゼリッタ自身を焦らす為に。外気に晒された大きな乳房の頂きが、固くなっているのが恥ずかしかった。
「それでは、今日は、私から」
「ええ、おねがいね」
トランクを開け、いくつかの道具を取り出した。まずは耳のついたカチューシャから。ルヴィアゼリッタが選んだのは黒猫だった。隷属を象徴する犬という選択も捨てがたかったが、やっぱり、凛のイメージは猫だったから。
「さ、ミス・トオサカ」
カチューシャをつけ、首輪をはめる。なんてアブノーマルな光景だろう。凛もルヴィアゼリッタも全裸のままで、不埒な遊戯の準備をしている。横目で士郎を盗み見たルヴィアゼリッタだったが、股間のバスローブを異常に高く持ち上げる存在を認識して、歓喜と恐怖で心を震わせた。あんなに大きくなったものを入れられたら、きっと裂けてしまうと確信したのである。
「……次、ですわよ」
息の上がったルヴィアゼリッタに促されて後ろを向いて、凛はいよいよだと身構えた。緊張できゅっと締まるお尻の割れ目を、ルヴィアゼリッタの指が割り開く。ひんやりとした感触が辺りをなぞって、その先端がアナルに沈んだ。どんどん侵食してくるビーズの異物感に耐える凛。やがてそれは最後まで入り、黒く短い毛並みの長い異物が、白く丸い尻を飾っていた。
そう、尻尾だった。
背徳感が燃え上がった。凛は今、人間以下の存在に落とされた。士郎の目がぎらついている。ルヴィアゼリッタとともに可愛がられる未来が見える。なんて刺激的なプレイだろう。倒錯した情欲と純粋な愛情が混ざり合う。それは禁断の林檎だろうか。この素晴らしさを身に刻まれてしまった今、忘れることなんてできなかった。ルヴィアゼリッタにも早くわけてあげたかった。
「ルヴィア、次はわたしね」
「は、はい。お願い、いたしますわ……」
すっかり上気しているルヴィアゼリッタに口付ける。女同士のキスにもすっかり慣れた。凛には元々そういう性向があったのかもしれないと士郎はいうけれど、それも正しかったのかと今なら思う。
「ぅんっ! 深いぃ……」
凛がルヴィアゼリッタに選んだのはキツネだった。オレンジがかった黄金の彼女には、それが一番似ていたのだ。高貴なようでいて可愛くて、孤高が似合う癖にどこか寂しがりやなイメージも。
準備を終えた凛とルヴィアゼリッタが四つん這いになり、士郎の足下までやってきた。お互いに犬以外の動物を選んだが、二人は正しく雌犬だろう。これから待ち受ける被虐の快楽に震えながら、ご褒美の愛情に目を輝かせている。
「ご主人様、夜の散歩に行きましょうか?」
「まあ、いいアイディアですわね。このまま、大通りをぶらりと練り歩きしません?」
「……冗談、だよな」
「ふふっ。ええ、冗談よ。だってわたし達―――」
「はい。シェロ以外の誰かに裸を見せる趣味はありませんもの」
尻を振り、尻尾を振りつつ二匹の雌犬。まずは主人をからかった罰をねだっていた。上目遣いに見上げる瞳は淫らに染まり、湧き出る羞恥に苛まれている。士郎はその痴態に喉を鳴らして、乞われるまま、主人として振る舞うことを心に決めた。
いつもの夜が更けていく。
なんでこんなプレイをするようになったのか、ですって? それはもちろんミス・トオサカが元凶でしょうね。思い出しても御覧なさいな。私が初めて首輪をつけられた時、全てを仕組んだのはそこにいる万年金欠魔術師だったではありませんか。あら? 詳しい経緯まではご存じない? まあそうでしたか。では丁度いい機会ですわ。ミス・トオサカの悪行を、この場でじっくりたっぷり教えて差し上げましょう。
あの頃、私は悩んでおりました、愛し合うとなればいつも、シェロに一方的に奉仕さていたのが心苦しかったのです。一晩二晩の事ならまだしものこと、あなたに初めてを捧げた夜からずっとでしたもの。
もちろんシェロは気にしないと仰って下さいましたが、それでも一方的な愛の営みなど不自然ですし、そうでなくても愛する殿方に快楽を得てほしいと願う女の気持ちを分かって下さいませ。ですけど、あいにくと私自身の性知識などあってなきが同然のもの。経験も全くありませんでしたから、困り果ててミス・トオサカに相談したのでした。彼女しか相手がいないという事もありましたが、それ以上にいざというときは頼りになると信頼していたからでしたのよ。
それなのにっ―――!
勇気を出して打ち明けましたら、それはもう嬉しそうな微笑みを見せて、ミス・トオサカは私にプレゼントを下さいました。ええそうです。後で私がつける事になる首輪ですわ。
なんでも、日本では首輪が従属や奉仕を象徴するそうで、地域によっては信仰すらされてる強力な神秘だとか。え、違いますの? ……まあ、とにかく。その時はその様に説明され、シェロに手ずから付けてもらえば私が奉仕する事に違和感を感じないようになると励まされたのです。あとは少しずつ、シェロ本人が好むように染めてもらえばいいのだと。さらにこの首輪にはほんの少しだけ勇気を増幅する魔術がかけてあるから、きっと私の背中を押してくれるとも。確かに魔術の気配が微かですが漏れておりましたから、納得すると同時に感謝したものです。
まさか本当はギアスの呪文が組み込まれていてっ、付けた方に絶対服従になるなんて誰が考えますかっ!
次の機会に期待半分、恥ずかしさ半分でお願いした私に、シェロは戸惑いながらも応えて下さいましたね。あらかじめミス・トオサカに教えられた段取りの通り、どんな命令にも喜んで従えとも命じてくれました。その瞬間ギアスが私を縛ったのでしょうが、恥ずかしながら高揚しすぎていて気付きませんでした。
「なんなりと、ご主人様……」
ドレスを着たまま首輪を付けて、執事服姿のシェロに傅く私。その異常さに背徳感さえ感じながら、新鮮なシチュエーションに酔っていました。シェロも、普段とは違う状況に興奮して下さったのですね。あのとき、だんだんと理性の殻を破って私に溺れてくれる様子が嬉しくて、それはもう本当に嬉しくて、首輪の強制力など関係無しに喜んで命令に従ってしまいましたっけ。
大きく反り返った殿方のものを目の前に突き付けられて慌てる私を、シェロは優しくエスコートして下さいましたね。あんなもの、手で握るのも舌で舐めるのも、そもそも明るい場所でまじまじと見つめるのさえ初めてでしたけれど、大きく暖かい手の平で頭を撫でられ気持ちいいよと褒められては、楽しさを感じないはずがありませんわ。今思えば拙すぎる動きだったのでしょうけど、あのときの私にとっては精一杯、ご奉仕させていただきましたのよ。
試みに擦ってみますとピクピクと震えて、先端から液体が湧き出てきたのでびっくりしましたわ。舐めてみると不思議な香りと味がして、しゃぶってあげれば口の中に後から後から滲んでくるのですもの。普段、私の奥をえぐる丸太の様なそれが、初めての夜は激痛を与え、だんだんと快楽で狂わせるようになった恐ろしすぎる存在が、途端に愛らしく見えてしまいました。
「ちゅぱ……、…………ぅんっ、しぇろ?」
「ああ、気持ちいいよ。ルヴィア」
「嬉しい……。もっと、もっとご奉仕させて下さいませ。ご主人様……」
幸福の絶頂とはあんな一時を指すのですね。初体験の事だらけで恐る恐るでしたけど、私の行為でシェロが喜んでくれるのが手に取るように分かりましたから。そうそう。髪の毛で包んで動かしてあげると気持がいいだなんて、殿方とはなんて可愛いのだろうと微笑ましくも思ったものですわ。
口一杯に頬張りながら、一心不乱に奉仕していた私に、シェロは要所要所で命令してくれましたっけ。袋の方を手で揉んだり、くびれている部分に舌をからめたり。頭を抑えて喉の奥まで突き入れられたときは吐き出しそうなほどに苦しかったですが、見上げれば微笑むあなたと目が合って、それだけで苦痛も快楽に変わりました。
そしていよいよと申しますか。―――当時の私にとっては突然でしたけど。シェロのそれが暴れ出し、私の口の中に熱い液体をしたたかに撒き散らしてくれたのです。もちろんとても驚きましたわ。驚きましたけど……。
「ルヴィア……、飲んで……!」
「んぶっ……! ………………っ!?」
愛しい殿方にそうねだられては従うしかないではありませんか。喉の奥の奥、鼻先がシェロの陰毛に埋まるほど突き入れられた体勢で、私は必死で耐え続けました。とどめなく吹き出る奔流を吐き出してしまわないように。
永遠とすら思える一瞬の後、シェロのそれが引き抜かれました。嘔吐きそうになるのをひたすら我慢して、ドロリとした粘液を飲み干そうと喉を鳴らします。とても苦しかったけど、知らずのうちに涙が滲んでましたけど、それでも私は幸せでした。苦い様な塩っぱい様な不思議な味わいを舌の上で転がす度に、ねっとりと喉にからむ液体を少しずつ苦労して飲み込む度に、ああシェロはこんなにも感じて下さったのですね、と胸がぽかぽか暖かくなっていったのですから。
それは恍惚と表現しても大げさではないでしょう。嗚咽が漏れて止まりませんでした。ついに念願叶って、あなたを絶頂へと導けたのです。あの時、シェロは私を気遣って慰めて下さいましたけど、本当は嬉しさのあまり泣いていたのですよ。
ミス・トオサカにも感謝しました。彼女がこの首輪をくれたおかげで、そして助言に従って傅いたおかげで、ここまで到達する事ができましたから。
……とまあ、これで終わればいい話だったのでしょうけど。
タイミングを見計らっていたように、いえ、事実見計らっていたのでしょうね。丁度よく扉がノックされ、ミス・トオサカが訪れました。
「よかった。上手くいってるみたいじゃない」
「遠坂?」
不思議そうに首を傾げるシェロを置き去りにして、私の所まで歩いてきます。その優しそうな表情に警戒なんてできるはずもなく、気を許してしまったのが不覚でした。慈母そのものの笑顔で私を抱き締めたミス・トオサカの暖かい体温に、ついつい身を委ねてしまったのですもの。
「折角だから、わたしも交ぜてもらおうかしら。いいでしょ? ルヴィア」
こくんと、私は頷いてしまいました。
「ふふっ、ありがと。それじゃあ士郎。わたしの命令も聞くように命じて頂戴?」
「ああいいぞ。ルヴィア、分かったか?」
「分かりましたわ、ご主人様」
「いい子ね、ルヴィア。じゃ、わたしの命令にも笑顔で従いなさい」
戯れのシチュエーション造りにしては随分と念が入っている気がしましたが、幸福に酔いしれたままの私にはどうする事もできません。漠然とした胸騒ぎを感じながらも、ミス・トオサカの要求に満面の笑みを返してました。
「そうね……。まずはお尻を出してもらいましょうか」
「はい」
ためらいもなく返事をして、一瞬の後に恐怖しました。熱は冷めて頭は混乱し、しかし顔は笑ったままなのです。抵抗しても無駄でした。私の意思などおかまいなしに、腕が勝手に下着を下ろしてしまったのですから。
「あらあら、随分と大きくてはしたないお尻ね。士郎、見て。凄くいやらしいでしょう?」
「い、いやらしいけど、綺麗だぞ。白くて、滑らかで……」
「ふーん。だってさ。答えなさいルヴィア。士郎に褒められて、嬉しい?」
「はい。もちろんで、ございます……」
床に四つん這いになって後ろを向き、自分でスカートをめくるはしたない格好。これが私のしている事なのでしょうか? シェロとミス・トオサカの視線が釘付けになっているのが分かりました。混乱と羞恥が頭の中で渦を巻いて、逃げ出したくなりましたが不可能でした。
「嬉しいなら、ルヴィア。自分で割り開いてみせなさい。前の割れ目も、後ろの穴も、じっくりとご主人様に見てもらえるように」
「畏まりました。どうぞ。ご、御覧下さい」
屈辱のあまり泣きたくなって、それなのに体は嬉々として従ってしまいます。体の向きを変えて脚をM字に開いた不様な格好。私は今、シェロにどんなふうに思われてるのでしょうか。淫乱な娘だと軽蔑しているのでしょうか。シェロに呆れられて、振られてしまったらどうしましょう。そんな不安で胸が苦しくなりまして、笑いながらも瞼が熱くなりました。
「うわぁ、丸見え。信じられない。あのレディ・ルヴィアゼリッタが大喜びでこんな真似までしちゃうなんて。ねえ、このまま自慰しなさいっていわれたらできる?」
「……っ! はいっ、喜んでっ……!」
「ル、ルヴィア!?」
涙をぽろぽろ流しながら、嗚咽まじりの声ながら、それでも満面の笑みで応えてしまう私の体。二人にお尻を突き出したまま、秘所をかきまわす私の指と、とどめなく流れる恥知らずな愛液。嫌なのに、悔しくて恥ずかしくて死にそうなのに、なんでこんな事をしているのか分からなくて。
「見て下さいッ! 私のっ、はしたない姿を……、ふあぁっ!?」
そんな私の内心を嘲笑うように淫らな水音が部屋に響いて、口は勝手に禁断の欲望を叫んでしまいます。こんなにも明るい部屋の中で、秘めておくべき場所の隅々まで見えてしまっているのでしょう。なんて惨め。だんだんと抵抗どころか快感さえ憶えていく私の体が、なによりも憎らしく感じたものですわ。
頬を涙で濡らしながら歯を噛みしめて抵抗しても、手は熱狂して秘裂を掻き回す速度をあげていきます。グチャグチャに濡れて愛液を飛び散らしていく淫乱な肢体。その喜びを知ったときが一番ショックでした。理不尽な命令にも順応して歓喜するなんて、それでは本当の変態ではありませんか!
「ふぁぐっ、あんっ! いやっ、やぁっ……、見て。……みないで……っ、いやっ、見て……っ、見ないでくださいませぇ」
「大丈夫、安心しなさい。余すとこなく見てあげるから。ルヴィア、あなたが可愛く感じてるところを。ね、士郎?」
「ああ……。すごいな、ルヴィア」
「そっ、そんな……。……ぅっ……、ひっく……。嬉しい、嬉しいですわご主人様……」
いっそう激しくなる指に合わせるように、腰までも快感を貪って動き出してしまいます。もはや恥じらいなんて欠片も残っていませんでした。いつの間にかすぐ側にやってきていた二人に交互に唇を奪われて、自分がなんで泣いてるかも分からない胡乱な頭のまま、絶頂への階段をかけ上っていったのです。
「っ、っぁ……。うぁぁ……、しぇろっ、シェロゥッ。こんな……、こんなのぉ……っ。やだっ、うれしいっ……見て下さいませっ。……だめっ、助けて……、恥ずかしい私を……、しぇろぅ……」
自分の意思が崩壊して混沌に堕ちていく中、貪った唇だけが暖かでした。それがシェロのものなのか、あるいはミス・トオサカのものなのか、代る代る二人ともだったのかは憶えていません。童女のように泣き喚く私の声がどこか遠くで聞こえていたように思います。噴水のように粘液を撒き散らす秘所が壊れそうに痙攣するのも構わずに、固くなりきったクリトリスを力一杯抓りました。
「……っ、あああぁああぁぁぁ…………!」
激痛でした。快楽なんて欠片もない、羞恥にまみれた激痛でした。それなのに、どうしてでしょう。その激痛を快楽としか感じられなかったのは。はしたなく仰け反りながら絶頂してしまったのは。……たしかに、激痛だったはずでしたのに。
「気持ちよかった?」
すすり泣きながらもこくんと、頷いてしまう自分が嫌でした。いったばかりの体が次の陵辱をねだっている様な気がして、もっと酷い扱いをして欲しいと視線で訴えていると思えてならず、恐ろしさに心底震えたのです。頭の芯まで欲望に正直になってしまったら、私は……。
「ご主人様、ミス・トオサカ。この私をもう一度……」
それが私の言葉だなんて、きっと、理解できないほうが幸せだったでしょう。とうとう、命令すらされてないのにねだるのでしょうか。いつまで耐えれば解放されるのでしょうか。この、恥辱と快楽の果てなき連鎖に。
「大丈夫か? 無理なんかしなくていいんだぞ、ルヴィア」
そんな、終わりの見えない苦しみに苛まれていた私を助けて下さったのは、この時もシェロの優しさでしたね。“無理をしなくていい”という命令を理解した瞬間、その場にへたり込んでしまいました。安心して泣き喚く私を抱き締めてくれたシェロの温もりは、今でもはっきりと憶えています。優しく力強いキスの味も、きっと忘れる事はないでしょう。
ミス・トオサカの悪行を忘れないのと同様に。
ちょっとこらそこの縦ロールふざけないでよ。さっきから黙って聞いてれば一方的に被害者ぶってくれちゃって。先にやってきたのはアンタでしょうが。あれはその時の復讐よ復讐。
なに、忘れた? アンタわたしにあんな酷い事しておいてそんな都合のいい言い訳は通用しないっての。いいわ。そっちがその気ならわたしがいくらでも思い出させてやるんだから。
あれは忘れもしない、士郎がトランシルバニアから帰ってきた日の晩よ。士郎は憶えてるでしょ? ええそう、ルヴィアがハイヒールで暴走した時。
あの頃、わたしもルヴィアもとにかく士郎に飢えてたわ。なんせ半月も会ってなかったから。帰ってくる日が近付くだけでそわそわしてたし、研究も講義も全く身が入らなかった。士郎と何処にデートに行こうとか、どんな事して甘えようとか、二人でそんな事ばかり話してたっけ。
帰ってきたらアパートで三人だけのパーティーを開く約束だったんだけど、運悪くルヴィアが実家からの使者に捕まったのよね。なんでも厄介ごとの後始末について当主の裁可がどうとか言ってたけど、正直、かわいそうって思うと同時にラッキーだとも思ったわ。士郎も帰ったばかりで疲れてるでしょうから、二対一だと構ってもらえる量は少なくなるし、そうでなくても好きな人と二人っきりになりたいって願うのは女として自然な思考でしょ?
全力で終わらせて駆け付けますから、なんて必死の声で電話してきたルヴィアを今度埋め合わせしてあげるから、って慰めてから、久しぶりの士郎の胸の中に飛び込んだの。ああ、あのときの幸せっていったらなんて表現すればいいのかもう、砂漠の中で見つけたオアシスに例えても大げさじゃないわね。
思う存分頬擦りして士郎の匂いを堪能して、太くて暖かい腕でギュッと抱き締めてもらっちゃて、えへへ。せっかく遠坂が腕を振るってくれたご馳走が冷めちゃうじゃないか、なんて当たり前のようにほざく唐変木のほっぺたをつっついて遊んでから、膝の上に座って「それなら士郎が食べさせて」っておねだりしたの。わたしとしては士郎が慌てて恥ずかしがる姿が見れれば十分だったのに、まさか、仕方ないなとか言いながら実行してくれるとは思わなかったわ。
「ほら遠坂、あーん」
「あ……、うん。あーん」
「うまいか?」
「え、ええ。我ながらよくできたかなって。……士郎も、たべる?」
「もちろん。遠坂が食べさせてくれるなら。ほれ、あーん」
「……ばか。…………あーん」
恥ずかしさで死ぬかと思ったわ。士郎もわたしに飢えていてくれたのかしら。わたしを抱き締める腕はちょっと困っちゃうぐらい力強かったし、鼻先を髪の毛に埋めて甘えてくれたし。だけど士郎、あの羞恥地獄はなんとかならなかったの? まったく、今思い出しても……、最高ね。
こらこら、ルヴィアったら士郎の首絞めない。あなたも優しくしてもらった経験は沢山あるでしょう?
で、食事が終わった後もそのままリビングでくつろいでいたのよ。二人でソファーに並んで座って、お茶を飲みながら士郎に話を聞いたりして。相変わらずの無鉄砲武勇伝が展開されていた様な気がするけど、ま、無事に帰ってきてくれたから何よりだった……、かな?
それで、そんな風に二人っきりで寄り添って語らったりキスしたりしていればムードは嫌でも高まるでしょ。それでも一応、ルヴィアが遅れてやってくるかもしれないからって我慢してたんだけど、いつしか無言で見つめ合っちゃって。溜まってたのに焦らされたのがいけなかったのかな。士郎ったら突然、もう我慢できないって押し倒してくれたのよ。
もちろんわたしだって凄く嬉しかった。久しぶりなのは一緒だったしね。ちらっと時計を見るとルヴィアが来そうな時間まではまだ少しあったから、ついつい、少しだけならって頷いちゃったのよ。後から冷静に考えてみれば、あれだけ盛り上がっておいて少しだけなんて無理に決まってたんだけど。
一度火がついたら止められなかった。寝室に行くのも照明を消すのさえもどかしくて、そのままソファーの上で絡み合ったの。あの時の士郎は凄かったのよ。ああいうのを野獣っていうんでしょうね。とても激しくて、力強くて、優しくて。何度も何度もわたしの名前を呼んで愛してるって甘く囁いてくれたりして、ほんと、それだけで絶頂しちゃうかと思ったぐらい。
「はぁ、はぁ、……遠坂、すごく濡れてる」
「ふぁ、ぁ。なによ……。士郎だって、こんなにおっきくしてるくせに……」
服を脱いで、脱がせながら二人とも全裸になって、その日はわたしが上にしてもらった。悔しいけど、わたしの方が余裕がないって感じちゃったから。早く士郎が欲しくて泣きそうだったから。士郎にまかせて焦らされでもしたら、あの夜わたしは狂っていたかもしれないほどに。
「い、いくよ? 士郎」
「ああ、きてくれ遠坂」
明るい部屋の中、騎乗位で見上げられるのは凄く恥ずかしかったけど、それもムードを高めるスパイスだったわ。とにかく早く繋がって愛し合いたかった。士郎が好きって気持ちが愛液になって、あそこからぽたぽた滴っていた。士郎もね、あれをビックリするほど大きく硬くしてくれて、手の平の中で熱く反り返って今か今かと待ち望んでいてくれたのよ。
先っぽを入れただけで膝が震えちゃったけど、士郎は優しく腰を支えてくれたの。あれも二人の共同作業だったのかしらね。少しずつ、ゆっくり、そのまま腰を沈めていって、奥まで入ったと思ったら達しちゃったの。同時にお腹の中に熱い奔流が感じられて、士郎も一緒にいってくれたのが分かったから、言葉もないほど幸せだったわ。
「遠坂、大丈夫か?」
「うん……。士郎の、まだまだ固いね……」
「まあ、ご無沙汰だったからな」
「むこうで浮気、しなかったんだ」
「するわけないだろ」
「うん、分かってる」
それから? 当然なにもかも忘れて貪りあったわよ。当たり前でしょ? 全身全霊で求め合わないと失礼じゃない。士郎だって疲れてるはずなのに何度出しても大きかったから、お互い回数も分からないぐらい絶頂して。最後の方は殆ど意識が飛んだまま腰を振ってた様な気がするわね。
どれくらいそうしていたのかな。さすがに体力も限界に達して、士郎の胸板に頬擦りして休憩しているときだった。まだ膣の中には反り返った士郎のものがあって、耳を澄ませば鼓動が聞こえて、ああわたしは愛されてるんだなってじんわり胸の奥が暖かくなって。
「ん……、溢れてくる。士郎の、いっぱい……」
「ああ。愛してるよ、……凛」
「ふふっ。わたしも……」
「お二人とも仲が宜しい事でっ!」
「え?」
―――振り返るとルヴィアがいたのよね。
座った目でつかつか歩いてくるルヴィアは怖かったわ。怒鳴られたりした方が遥かにマシね。そして、なぜか片手に脱いだハイヒールを掴んでいて、もう片方の手でわたしのお尻をガシッと押さえて―――。
それは、確かに騎乗位なんてあの頃のアンタには衝撃だったかもしれないけど。ルヴィアをおいて一足先に士郎と愛し合ったりしちゃったけど。知らずとはいえ見せつけちゃったのも悪かったけど……。だけど、いくら混乱しててもあれは酷すぎるんじゃないかしら? 士郎にも許した事なかったのに。
「ちょっとなにするのやめなさい!わたしそこはじめ―――」
「お黙りなさいっ!」
「――――――ぁぁああああぁああ!!!」
ルヴィアったらそのままずぶって、無遠慮に、深々とヒールを突き刺してくれたのよね。おかげでわたし、後ろの初めてを捧げた相手、アンタの靴よ? ルヴィアは後でちゃっかり士郎にあげてたのに。なんて事してくれたのよ。
「このっ、泥棒猫っ!」
「ひぐぅっ―――!?」
それで終わらずにぐりぐりと捻りこんだ挙げ句、平手でお尻を叩き始めるし。
「わたくしだってっ、しぇろのことをっ、どんなにかっ!」
「痛いっ、きゃっ、い、ぐっ、いやっ、……たたか、たたかないでよっ……。っ、助けてっ、お願いだからっ!」
あんな屈辱、初めてだったわ。それも何度も何度も繰り返し。士郎が呆然としたままだったのをいい事に、わたしが痛いって泣叫んでもかまわずそのまま暴走してくれやがって。悔しさと羞恥でぼろぼろ涙を流してたのに、アンタも同じぐらい泣いてて事態の収拾なんて誰にもできるはずなかった。
痛みから逃げようと腰を振る度に中で士郎のものが奥をえぐって、快感が頭の上まで突き上げるの。お尻の激痛と前の快感がごちゃごちゃになっておかしくなりそうで。自分が喜んでるのか嫌がっているのかさえ分からなくなって。
「ぅっ! 遠坂っ、そんなに動いて締め付けるとっ……!」
「えっ、え? ちょっとやだ待ってしろうっ?」
しかも、よ。ショックで痙攣した膣の中で士郎のものが暴発して、わたしまで一緒に達しちゃったのよね。それで理性とか体の力とか全部抜けちゃったから、意識が戻ってきたときには士郎の腰の辺りを暖かい液体がこれでもかと濡らしてて―――。
「やだぁ……ッ、見ないでっ、見ないで……っ、や……、ぁ……」
あー、やめやめ。これ以上思い出すとまた泣きたくなってくる。ま、その後、ルヴィアと二人まとめてたっぷり可愛がってもらったのは、……うん、……すごく嬉しかったけど。
そういえば……、ルヴィアの大きな胸に甘えるととても安心できるって知ったのも、あの夜の事だったかな。
……ええ、そうね。ルヴィアのいう通りだわ。
いい傾向だと思うぞ。二人ともなんだかんだで仲が良くなってきてるようで。時計塔の講義でもあまり衝突しなくなったって聞くし、似た者同士分かりあえるようになってきたのかな。
……なんで全力で否定するのさ。そりゃ、ちょっと前までの遠坂とルヴィアならともかく、今の二人はとてもじゃないけど宿敵なんかには見えないぞ。嘘じゃないって。むしろ仲が良すぎて俺が疎外感を感じるときもあるぐらいなんだから。いや、本当に。
例えばこの間、折角の年末年始なんだからって冬木に里帰りしたじゃないか。丁度いい機会だったからルヴィアも連れて三人でさ。懐かしい顔も見れて楽しかった、けどさ……。
連れ立って初詣に行ったのは3日だったか。あの日は一日中ドキドキしてた。女性陣はみんな晴れ着で眩しかったし、加えて髪も結い上げてたから雰囲気が普段と全く違ったし。
特に遠坂なんて怖いぐらい綺麗で呆然と見つめるしかなかったな。ルヴィアもいつもとのギャップがありすぎて逆にそこが似合っていた。桜もお淑やかなのに華やかで、珍しく人前で明るく楽しそうに振る舞ってくれたのも嬉しかった。何故か藤ねえだけは普段着だったけどさ。
連れ立ってわいわい楽しんできて、やれ疲れたとか人が多すぎだとか文句言いながら居間でのんびり夕飯を食べた後の事だ。雷画爺さんからもらったお酒がまだ大量に余っていたから、酒盛りをしようって言い出したのは遠坂だったか。というかな、今度からああいう提案は藤ねえが帰ってからにしてほしいぞ。まあ、年に一度の正月だからって許可しちゃった俺も俺かもしれないけど。
「それではー! 小さかった士郎の恥ずかしいエピソード暴露スペシャルだいさんだーん!」
「もう勘弁してよ藤ねぇ……」
何故って、俺が涙の海で溺れ死ぬから。まじで。何処にしまってあったのか幼い頃のアルバムまで持ち出されるし、遠坂もルヴィアも興味津々だし、桜に至っては次々とお酌して続きを促すし……。お願いだからとめてくれ。
「でねっ、そのときの士郎の強がりっていったら傑作なの! ―――藤ねえ、俺は泣いてなんかいない。次こそ必ず、むぎゃぁ!」
「ああもういい加減にしないと宅配便でシベリアの大自然に送り返すぞこの大虎!」
「タイガーっていうなー!」
「ひでぶっ!?」
で、酒が回って呂律が回らなくなった藤ねえを藤村組に連絡して迎えに来てもらって、やっと静かになったんだ。玄関まで見送ってほっと一息ついた後、平和になった居間に戻ったはずなんだけど。
「あれ? 桜も寝ちゃったのか」
「ええ。きっと張り切りすぎて疲れたのね」
「可愛い寝顔ですこと。ミス・トオサカとは大違いですのね」
くーくー寝息を立ててた桜が、遠坂に膝枕されてるとは思わなかった。
「どうする? 客間のベッドまで抱き上げていこうか? あ、でも晴れ着だし着替えさせなきゃまずいよな」
「いいじゃない。このまま寝かせておいてあげましょう?」
「そうですわ。美しい花を愛でながらの方が、お酒も美味しく進みましてよ? ああ風流。これがカチョーフーゲツですのね」
「ちょっとルヴィア、人の後輩に怪しい目を向けないでよ」
「というかまだ飲む気か。花鳥風月でも何でもいいけど、程々にしておかないと後が怖いぞ。日本の酒は薄くて甘いけど悪酔いするんだ」
「失礼な。自分の酒量は心得ておりますわ。あらあら、シェロのお猪口も空ではありませんか。ささ、もう一献」
遠坂が桜の頬を撫でて、ルヴィアが見よう見まねでお酌してくれて、幸せそうに笑ってたっけ。三人だけでちびちびと飲んだ席は賑やかな楽しさこそなかったけれど、静かで落ち着く安堵感があった気がする。我が家の居間も久しぶりで、懐かしかったのも理由だろう。夜空は澄み渡って星が綺麗で、静かな日本の冬だった。
「ん……。遠坂先輩……?」
「あ、起きた。大丈夫……、じゃないみたいね。寝る?」
こくんと、遠坂の膝の上で頷く桜を見て、まるで二人が姉妹みたいに思えたっけな。なんだよ遠坂、嘘なんてついてどうするのさ。あれだけ自然に甘え合っていれば、きっと誰だってそう思うぞ。なあルヴィア?
「寝るって。衛宮くん、客間まで連れていってくれないかしら」
「そうだな。歩けるか? 桜」
歩けると言ったそばから舟を漕ぐ桜を抱き上げると、薫き染められた香が鼻腔をくすぐったんだ。細い体は柔らかくて、瑞々しい女性のそれだった。妹だとばかり思っていたのに驚いたよ。
「ふふっ、ぐっすり寝てたわね。―――ねえ、ルヴィア。もう少しすればあの子も留学して来るのかしら」
「幸せそうに―――。ミス・トオサカ。もし倫敦まで追い掛けて来るのでしたら、その時は……」
「ええ、わたしも構わないわ。他の女なら許せないけど、―――うん、そうね……。それなら、後は桜自身の頑張り次第。士郎をその気にさせるだけ、か。それが、一番難しいかもしれないけど」
「ん? 俺がどうした?」
あの時、二人とも物凄い目で俺を睨んだろ。息が止まるかと思ったぞ。
「ほら、士郎ったらこうだもの」
「シェロ、相変わらず唐変木がすぎましてよ」
「あ、その、よく分からないけどごめんなさい」
そりゃあ、俺が女心に鈍いらしいのは常々怒られて身に滲みてるけど、遠坂達だってもっと素直に分かりやすくなってくれても罰は当たらないと思うんだ。第一、その方が可愛さも判りやすいじゃないか。
「はぁ……。やれやれ、桜も大変ね」
「私達もさんざん苦労したではありませんか」
「やめて。思い出しただけで恥ずかしくなる」
「やけ酒、飲みましょうか?」
「そうね、飲みましょう。乾杯」
「乾杯」
「……程々にしておけよ」
空恐ろしい会話を交わしながら乾杯しようとした二人から目をそらして、急いで桜を部屋へと運んだ。いっそ酔っ払いどもを放置して逃げようかとも思ったけど、そっちの方が怖い結果になりそうだったからさ。だから仕方なく、できるだけ短時間で往復したはずなんだけど。
「―――って! なんで二人とも全裸なのさっ!」
「……ん、士郎がみてる」
「かまいませんわ。見せつけてさしあげましょう」
「まあ、可愛い事言ってくれるじゃない」
精々2、3分だったよな。俺が居間を離れたの。一体全体、その間に何があったんだ? 着物も帯も散乱してて、髪飾りと足袋ぐらいしか身につけてなかったなんて尋常じゃないぞ。
「あん……。 ミス・トオサカァ」
「わたしの唇が欲しいの? ふふっ、いけない子。いいわ、はしたなくおねだりして御覧なさい」
「ああ……、お姉様……」
「……お姉様って何さ」
妖艶に笑ったルヴィアが遠坂を押し倒して、遠坂も喜んで抱き寄せてたっけ。絡み合って口移しで飲ませあう光景はどうみても同性愛のそれだったし、美女同士のレズショーなんて男にとっては目に毒以外の何ものでもないぞ。髪はしっかり結い上げたままだったから、いつもと違う新鮮さがあって尚更だった。いや、スケベって。あの場で俺にどうしろっていうんだよ。
「あんっ。ルヴィアの唇、柔らかいのね」
「ミス・トオサカ……」
いくら酔っぱらっているとはいえ遠坂、ルヴィアにキスされただけで恍惚とした表情になるのはどうなのさ。俺相手でもあんな表情、なかなか見せてくれないのに。というかすっかり忘れられて寂しかった。……眼福だったけど。
「……あら、シェロったら拗ねてますの?」
「んー? なーにアーチャーみたいな顔してるのよ。こっちへ来なさい。ついでに可愛がってあげるから」
「俺はついでなのか……」
今だから言うけど、あの時は結構なショックだった。なにがって、ついでなんて酷い事言われつつも尻尾を振って馳せ参じてしまう俺自身が。達者だったのは口だけで、視線は濡れそぼった二人の肢体から一瞬足りとも離せなかったのが。そこまで凛とルヴィアに溺れきっていた事に気付きもしなかった鈍い自分が。
「いらっしゃい、士郎……」
下で微笑む遠坂と上ではにかむルヴィア。折り重なる美女達の花弁はテラテラと濡れに濡れていて、口付けを繰り返すように擦り合わせられていたんだ。
「凄いな……。いくぞ」
俗に貝合わせと呼ばれる行為だろう。女の子同士で愛し合う間に押し入ろうと、肉棒をあてがい滑り込ませた。求め合う少女達を引き裂く嗜虐心と、二人の女性に同時に求められる満足感。その二つが混ざり合って絡み合って、なんとも言えない幸福が胸を貫いたのを憶えてる。
「っっんっ。シェロの……、ぁんっ! 太いっ!」
「ひゃぅっ! ほんと、おっきい……。興奮……っ、してたんだ?」
「勿論っ……。しないわけないだろっ!」
男根が溶けるかと思うほどの快楽だった。突き入れたそこはドロドロで、まるで膣に入れてるよう。愛液がとめどなく溢れてきた。竿を啄むようにはしたなく動く陰唇の間を往復すると、遠坂もルヴィアも可愛く喘いで乱れてくれたのが最高だった。
「シェロッ、ミス・トオサカッ、私っ、あふっ、……ふぁんっ、……ぁ……」
「ルヴィアっ。キスッ、……キスしてっ!」
「ぁんっ……ぅ、もっと、……もっと可愛がって下さいませっ!」
お互いに唾液を貪りあって盛り上がる二人においていかれないように、俺も一生懸命腰を動かしたっんだけ。感じて体をくねらせる程に秘所はうねって押し付けられて、ヌチャヌチャとえっちな水音を大きくしていったのは忘れられない。いや、あれだけスケベな痴態は滅多に見れるもんじゃないし、忘れようにも不可能だぞ。
……悪かったな。意地悪で変態でむっつりすけべで。
「くぅ……、出る……出るぞ!」
「出してっ、出してちょうだい士郎っ!」
「シェロッ! シェロッ! ミス・トオサカッ……!」
快感に飛び跳ねるルヴィアのお尻を上から力一杯押さえ付けて、最高の密着度の中に射精した。痙攣する遠坂。仰け反るルヴィア。秘裂は狂ったように潮を噴いて、俺も気が遠くなるほど大量に吐き出して……。
「ふふっ……。白いの、いっぱい」
「汚れて、しまいましたね……」
ころんと、喘ぎながらも畳に転がった二人は微笑んでいた。愛おしそうに下腹部を撫でて、粘液を嬉しそうに眺めている。
「ルヴィア、士郎の見て」
「まあ、すごい……」
「俺の? ああ、確かに俺のも汚れているけど」
というか、秘裂に挟まれて白濁液を噴出した肉棒は、他の何よりも汁まみれだった。
「お掃除、してさしあげませんと……」
「ええ、そうね。お口でしてあげるわ。士郎」
そう微笑んで、凛もルヴィアも男根に口を近付けた。精液だけじゃない、愛液までも沢山こびり付いていたというのに、二人も楽しそうに舌をはわせていたんだよな。二人もの裸の美女に股間に傅かれるのは男として冥利に尽きるとは思うけど、あれは少しいちゃつきすぎだと思うんだ。凛とルヴィアが。
竿についた粘液を舐めて、ルヴィアの味がする、とか、これがミス・トオサカの味ですのね、とか仲良く笑っていたのは序の口だった。亀頭を挟んで口づけし合って、そのまま純粋なディープキスに移行して、最終的にお互いの愛液を指で掬って舐めさせ合う段階になったときには、俺はすっかり放置されて久しかったぞ。
あれは思わず世界と契約しそうになるぐらい寂しかった。大げさじゃないぞ。我慢できずに乱入するまでの間、よりにもよって股間のすぐ前でレズられ続けたんだから。
むっ。なんだよ遠坂そのニヤニヤは。ルヴィアまで。いや、男に対してかわいいってのは褒め言葉じゃないと思うんだが。
「もう。すねないの。わたし達二人とも、一生懸命あなたを相手してあげてるじゃない」
「そうですわ。私達、シェロの事を全身全霊で愛してますのよ? シェロ抜きで今の生活は成り立たちませんし、成り立たせたくもありません」
揃って微笑みを浮かべながら、凛とルヴィアゼリッタは士郎を見つめた。そこには一片の嘘もなく、恋する乙女の輝きが見える。
「ああ……、それは疑ったこともないけどさ」
「ならいいじゃない。それとも、わたし達に不満でもあるっていうの?」
悪戯っぽい表情で士郎の胸板に指をはわせて、頬を染めた凛が囁いた。泡立てられたバスタブの中、熱く蕩けた秘裂を肉棒に押し付ける。士郎の男根は固くなっていた。細長く浅い西洋式のバスタブに隠れて、ヒクつく花弁が口付けをしていた。
「あんっ……。士郎……」
「遠坂……」
蕩けた瞳で見つめられて、士郎も凛を抱き締めた。浴槽から泡を掬ってお互いにかける。身体と身体で洗い合い、舌と舌を絡ませ合った。故郷で慣れ親しんだものとは違う入浴方式も、こうして二人で入れば極楽だったのだ。
「なにをしてますか、そこ」
後ろで、士郎の背中を堪能していたルヴィアゼリッタが、肩ごしに凛の痴態を睨む。士郎の一人占めは許さないとばかりに水中に手を伸ばせば、いつの間にか挿入されてしまっているではないか。愛の営みを見せつけられて悔しくなったルヴィアゼリッタは、せめてとばかりに豊満な胸を押し付けた。
「シェロッ、感じるなら私で感じて下さいませっ」
「だめよっ、衛宮くんはわたしの中で感じてるんだからっ!」
「ミス・トオサカッ! あなた先ほど三回も中に出してもらった癖にっ!」
自分を挟んで喧嘩をしだす凛とルヴィアゼリッタに士郎は少し困惑したが、これも中の良さの現れだと納得した。体を捻り、ルヴィアゼリッタにも口付けて慰めた。
「次はルヴィアの番な。いいだろ、遠坂」
素直に頷く凛の頭をよしよしと撫でると、彼女の膣が拗ねたように締まった。恐らくは、照れ隠しのつもりなのだろう。そんな凛に愛しさをさらにつのらせながらも、士郎は一度膣から引き抜いた。こんな場所で不自由な体勢で楽しむのも燃えるものがあったのは確かだが、それ以上に二人をもっと思う存分貪りたくなったのだ。
「よし。それじゃあ、二人とも上がって。寝室に行こう」
「……大丈夫なの? 士郎。さっきまであんなに頑張ってくれたのに」
「無理してませんか? 明日は、朝一番で空港まで行かねばなりませんのよ?」
期待半分、不安半分で士郎を見上げる少女達。その仕種を微笑ましく感じながら、士郎は少しいじわるな笑みを浮かべた。
「二人が嫌ならいいんだけどさ。物足りない分は後でこっそり処理するから」
「―――もったいない! じゃなくて。……仕方ない。士郎がそういうのなら愛情こめて処理してあげるわ。ね?」
「え、ええ。奉仕して差し上げますわ。シェロの、シェロの為ですもの。仕方がありませんわ」
顔を見合わせ目を輝かせながらも、淑女らしさを取り繕うとする凛とルヴィアゼリッタ。そんな二人に苦笑を隠しながら、士郎は幸せの味を噛み締めていた。
/ロンドンの夜空に・了
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