憧月翁
お姉さん二人のことを今どう思っているか、ライダーに聴いたときの返事が、いつまでも頭に残っていた。
「そうですね……『遠くにありて思うもの』でしょうか」
どう聞いたって横暴な姉だったみたいだけど、それがどれだけ『遠く』なのか、俺には想像もできない。
…………しかし、あんな話を聞いたのが、この状況の原因なんだろうか。
日本では到底望めないような、気の遠くなるばかりの青空。白亜の神殿。そんな中で、何かの台みたいなのに情けない姿で縛り付けられた俺。全裸で鎖に雁字搦め、エキゾチックな空も風景も眺めていられない。このまま生け贄にされるのが当然みたいな気配だ。
幸い、すぐに取って喰われる心配は無さそう。心臓を取り出したりも無いと思う。そういう物騒なものは傍にはないみたい。
「知ってます? この時代の男性って、女の子に足で踏まれるのが大好きらしいですよ?」
「変わってますね、この人間もそうなのかしら?」
そんな話をしているのは、小さな女の子二人。鏡に映したみたいにそっくり、一目でライダーを思い浮かべる色の髪、瞳も同じみたい。状況は理解不能でもこれは判る、お目にかかるのは初めてながら、ライダーの姉二人に違いない。その名、エウリュアレとステンノー。どっちがどっちだか、見た目じゃ俺には判らない。
認めよう。姿形なら、女神のように可憐だ。いや、真実女神であり、ただ可憐であることが本質なのだから、驚くべきことじゃないけど。
「試してみましょう?」
「ええ」
仰向けの俺の左右で石の踏み台みたいなのに腰掛け、言葉通りに両足で俺の胴体を踏みつけてくる。体重はかかってないから苦しくはない。
「だからっ、何がしたいんだよ?」
性格もライダーの語った通りで違い無さそうだ、さっきから、いくら喚こうとなんだろうと聴いちゃくれない。華やかな白いワンピースの長い裾を幾らか捲り上げ、小さな足で蹂躙してくる。靴は脱いでくれているのが幸いで、何ら苦痛はないけど、踏まれて嬉しくなんてあるものか。
「あら、私に自ら触れて貰えるなんて、光栄で昇天しても良いぐらいですのに」
「そういう方、何人もいらっしゃいましたわね」
ぺたぺた。
ぴとぴと。
お腹やら胸やらの上を、二人の素足が跳ね回る。歩いたことも無いんじゃってぐらいに柔らかくて滑らか。蝋細工みたいだとか思い、だけど温もりで溶けそうなのは俺の方。嬉しくなんかないけど、沁み入る感触に変な気分。
って、駄目だっ、何考えてるんだ俺っ。
「嬉しそうですわね?」
「ね。出来の悪い妹がお世話になっていますから、姉としてはきちんと日頃のお礼をしませんと」
「いや、良いから、解けよっ!」
叫んでもやっぱり無駄。
すりすり。
さわさわ。
足踏みするようなのを止めて、肌にくっつけたまま滑らせる動きに変わる。
「ちょっ、止めろってっ」
こちら、全裸にされているのだ。仰向けで、大の字に磔された状態なのだ。神様でも何でも見られちゃ恥ずかしい。外見だけなら幼く清楚な女の子だし、こんな仕打ちをしてくる当人なのに、羞恥に罪悪感まで勝手にプラスされてしまう。
「こうする方が嬉しいみたい」
「そのわりに、止めろとか仰ってますよ?」
「恥ずかしがりなのでしょう、この方は」
「いや、違うっ、絶対違うっっ」
ぴたりと四つの足が動きを止める。触れ合った部分から温かい感触が俺の体に侵入して、静かに燃えていく。息ぴったりに再び動いて、胸のあたりで、左右の乳首を爪先で弄り始める。
「いやっ、ちょっっ」
くにくにくにくに。
こちょこちょこちょこちょ。
……拙い。
くすぐったいような、得も言われぬ足の感触。踏まれて嬉しくなんか無い、無いったら無い、でもこの温かで柔らかくて滑らかな足に何の罪があるで無し。手で触られるのが気持ち良いのは問題なくて足だと駄目だっていう道理は無いはずで……
って、だから何を考えてるっ!
「ふふふふふ」
女神二人は声を合わせて笑っている。
拙い。されてることに腹は立つけど、触れられて快い肌には違いないのだ。状況の理不尽だなんだはともかく、この綺麗な足が気持ち良くなっちゃ拙い。
「女の子に踏まれるのが気持ち良いだなんて嘘だと思いましたけど」
胸を責めてくる足とは反対側のも動き回り、脇腹とか腰骨とかを擽っていく。
「気持ちよさそうね?」
……拙い。全裸なのは大変に拙い。むしろ、とっくに露見してるに決まってる。
「ねえ、お返事なさって? 私の足は良い気持ちなのでしょう?」
その、なんだ。ミンクやテンの毛皮ならこんな感じなのか。いや、毛皮はおかしい、極上のシルクというのか天鵞絨か、しっとり潤って、張りがあって、きめ細かくて、吸い付くみたいで、肌としては極上。そんな足の裏。
「ほら、お返事なさいませんと。証拠を踏みつけますよ?」
と、お腹の側の足が更に滑っていき、太腿を撫で始める。二人とも脚を開いて、ずいぶんとはしたない格好。
「さあ、どうですの?」
「だから、やめろって言ってるだろっ!」
思わず、吼えた。それでもやっぱり、何処吹く風。二人の脚が俺の内腿に滑り込んで、ぐりぐりマッサージしてくる。その間にある三本目の脚のことは、二人はまだ何も言っては来ない。
「お返事なさいませんね?」
「そうね。ひょっとして、言葉が判らないのかしら。それとも、耳が聞こえない?」
「ああ、そう言うこともあるかも知れませんね」
すーり、すーり、と小さな足が肌の上を滑り回る。
「ぁう……」
正直言えば、ちょっと気持ち良いわけで。いや、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ。ほんのちょっぴりだけっ。ちょっぴりだけなんだってばっ。
「じゃあ、仕方ありませんわ。もっと体の方にお訊きしましょう」
「ええ、口よりよっぽど体は正直だなんて言いますしね」
「だから、待てってっっ」
今さら、待つはずもなかった。
「さっきから気になっていたのですけど、これは何かしら? 私、ご存じ?」
ちょん、と。俺のイチモツを爪先で突っついた。
「ぁう……」
「いいえ、私と同じ、初めて見ました。それに、初めはもっと縮こまっていませんでした?」
「ええ、それをこんなに腫らしたみたいに、痛くないのかしら?」
ちょん、とまた突っつかれる。
……拙い。
いや、なんでさっ。俺はイチモツを足蹴にされて気持ち良いとか思わない。思わないぞっ。思わないんだってばっ。お願い、そんなこと思わないで、俺っ。
ちょん。
「はう……」
また触れられて、息を呑む。
「下にも何かありますわ」
くぬん。
爪先で、袋を持ち上げられる。もう、ぞくっとしてしまった。ぽよぽよ上下されたら、擽ったいのやなんやら全身が痺れていく気がする。
「ここも気持ちが良いみたい」
「この時代の男性は踏まれると嬉しいって、間違いないようね」
あう。
地球上の人口の半数に詫びねばならない。まったく、21世紀の男性をこんな俺が代表して良いのか。いや、良くない。断じて良くない。良くないが、だからってこれを誰かに代わって貰うことはできないだろうし、そんなわけにはいかないし、そんな惜しいことはできないし。そうだ、せめて俺が頑張らないと行けないんだ。頑張ってもっと気持ちい……
「ひゃふっ?」
するる、と棹を撫でた感触。やっぱり天衣のように滑らかながらもちょっと堅かったのは、あの柔らかで美味しそうな足の裏じゃなくて甲の方で撫でたのか。
くに、と表裏から甲側の爪先あたり同士で挟まれる。こしょこしょこしょ、と擦られる。
「はうぅっ」
駄目だっ。
良いのか、こんなワケも判らず呼び付けられたみたいな夢の中で辱められて気持ち良くなってしまったりして良いのかっ、男として恥ずかしくないのかっ。
「ひゃぅあぁっ??」
するんっ、と遙かに柔らかなものが裏の方を撫でた。
その感触に戦慄する。駄目だ、所詮はこちらタダの人間。相手は女神。それもまた、ただ男の理想を具現化した偶像。敵うわけもない。敵わなくても恥ずかしくない。いや、それはちょっぴり都合の良すぎる考えだ。
……でも夢に過ぎないんだし。
「ねえ、気持ち良くて?」
「いやっ、それはっ……」
イチモツが痛いほど堅くなっているのに気持ち良くないなんてことはない。ぴと、と触れられるだけで声を上げてしまうけど、返事はしなかった。
「うーん、気持ちよさそうなのですけど。駄目なのかしら、何か他に良いことはご存じなくて? 私」
「そうですわね。この時代の男性は、女の子の足を舐めるのも好きだそうですけど」
「そうですの? では、そちらも試してみましょうか」
「ええ」
「ちょっ、待てっ……」
待って、お願い。
それがもし、まかり間違って嬉しかったりしたら。いや、幾らなんでもそんな馬鹿な。いくら、目の前の足が石灰のように白くて小さくて完璧な造形でも。こう、チョウチョみたいにひらひらしてる二つの足が酷く可愛らしくて、むしろ花の筈のこっちがチョウチョに惹き付けられてるとは言え、それを舐めて嬉しいなんて変なことはないはずで。いや、でも、こう、その、何か、まあ、実は、良い匂いまでするようなしないような、なんて。
「舐めたいのかしら?」
「舌を伸ばしてますわね」
何ぃっ?
……女神様の仰せの通り。いつの間にやら、口を開けて舌を突き出していた。
「舐めたいのですね」
断定されている。
「馬鹿、足が舐めたいなんてそんなことあるかっ!」
叫びながら、ひらひら舞う足から目が離せない。それが本能みたいに追い求めている。
ひょいと避けられて、左右からほっぺたを挟まれた。その、幼き姿の男の理想に。正確には、その足の裏に。
「はふっ……」
抱擁。
抱き締められたような悦びが全身を駆けめぐる。末梢から中枢まで余さず快感に痺れ、まともにものを考えるなんてできない。
「あんな顔して……」
――――顔を足で踏まれているのであっても、それは確かに抱擁だった。ただ存在することの他に何の力も有しないのは、ただ存在するだけで男達への恵みだったから。彼女らが何か与えるからではない。存在するだけで事足りるのだ。
「幸せそうね?」
――――それなのに、素肌を触れ合わせてくれるなんて、この上なき幸せ。足であろうと何であろうと知るものか。
「ほら、舐めなさい? こんなこと、神代の昔からみても希なことよ?」
――――もう迷わない。目の前に突き出された足に向けて、舌を出す。
ぺろ。
微かに舌が足の裏に触れた。びくっ、と一瞬だけ離れたけど、すぐに戻ってきて今度はべったりと触れる。不自由な俺に代わって女神は足を動かしてくれて、踵から爪先あたりまで順に舐められる。何の味も感じてないのに、それでも天上の美味を味わうような悦びを覚えている。果てしなく唾液が湧いている。舌を動かす。ぺろぺろ、舐め回す。しゃぶり回す。
「だめよ、私ばっかり」
目の前から足が消え、すぐにもう一つが迫ってくる。今度は、爪先を口に突っ込まれた。唇を閉じ、歯を立てないように吸い付き、真珠の並んだみたいな指の間に舌をねじ入れ、蜜でも湧いている如くに味わう。むしろソーマかネクタール。人間なら、ひとしずくで永遠の若さと悦びを甘受できよう。
「ほんとに嬉しそう。嘘じゃなかったようね」
……って、俺、何してる?
我に返った思いで惚けていた目の焦点を合わせる。そこにあるのは、小さな足。爪先。
何をしていたかなんてはっきりしてるわけで、つまり、俺は嬉々としてこれを舐めてた……っ。
じっと見ているうちに、口の中が唾でいっぱいになってた。ごくんって飲み込んで、欲情するように足に惹き付けられているのを認めざるを得なかった。
足二つ、翻っては俺を誘って焦らして欲しがらせてる。
「くぅ……」
息苦しいほど求めている。酸素が足りないってぐらい。こんなに欲しいと思うものが俺にもあったのかってぐらい。
「ぁう……」
呻いていると、また頬を左右から挟まれる。
「ちょっと甘いトコみせるとこれね、人間って」
「ねえ?」
くい、と挟み付けてきて、柔らかい感触に心浮き立つ。
……いや、待て、俺は何をそんなに喜んでいるんだっっ!?
ぐにぐに顔を踏みつけられながら、それが気持ち良くて逃げられない。
「あら、こちらの腫れ具合が酷くなってるわ」
「ほんとね、大丈夫かしら?」
ちょんちょん、と臍の下の方に刺激を受けて。
「ひゃふあぁぁっ?」
貫かれた。快感に、串刺しにされた。
おかしい。あんなに軽く触れられただけで破裂しそうな快感なんて、おかしい。あり得ない。そこまで俺も過敏でもないはず。
「はふぁあっ!」
でも、事実として快感。すべすべの土踏まずに挟まれて、さすられる。力が篭もると痛いけど、でもそれに倍して甘美。先っぽのあたりを爪先に包まれ、くすぐるように指がもぞもぞもぞもぞ。
「なんだか、先端から液が漏れてるわね」
言われれば、受けている刺激がぬるぬるになってる。お陰でまた、なめらかな肌が更に快感。
「くぅっ、あぅっ、はぅっ……」
じたばたと暴れて、でも鎖がじゃらじゃら鳴るだけ。
「やかましいですね」
「もう一度あの口、塞いであげましょうか」
顔から足が離れて、また眼前でひらひら。
ごくっ。
しゃぶりつきたくて、喉が鳴る。
いや、馬鹿なっ、俺にそんな趣味は無いっ、断じて無い、無いったら無いっっ、お願い無いってことにしておいてっ。
そんな俺の心の叫びを余所に、酸素が足りないみたいに口をぱくぱくさせてた。
「ほら、しっかりお舐めなさい」
二つの足が揃って、口元に降りてくる。ぺろんと舌が触れて、甘露に震えた。何も考えられないぐらい、そうしてなきゃ窒息死するかの勢いで舐めしゃぶり続けた。
その上に、イチモツにも色んなことされて、死にそうになる。
すりすり。
こしょこしょ。
ぺとぺと。
くにくに。
根元から先端まで、二つの足が休み無く隈無く際限無く撫で回す。さきっぽばっかり、クリームみたいに柔らかな感触に包まれて責められて、もう一呼吸も保たない気がして、でも気持ち良すぎて息ができなくてそのままの状態。アイスキャンディみたいに足を舐めって、でも減らないわけだから限りない。限りなく甘露。
やっと息を吐いて、もう観念して明け渡そうってときにペニスの根元をぐっと踏み込まれて逝けない。そのまま、裏側をさわさわ往復されて生殺し。
「いやっ、ちょっ、そんなっ」
やっと解放されたら、射精感はちょっと納まっててまた焦らされる。
「でも、そう言えば聴いては居ませんでしたね?」
「あら、何を?」
「この時代の男性が踏まれて嬉しいのか、足を舐めて嬉しいのか」
「そんなの、見れば明らかでしょう?」
二人の両足、お腹と胸に戻る。そこら中を撫でられるのは紛れもなく快感、でもやっぱり、ペニスを撫でられる方が気持ち良いに決まってるのだ。
「舐めたい?」
ひらひら、足を見せつけながら問うてくる。
そんな趣味はない。
そんな変態みたいな趣味は持ってない。
「踏まれたい?」
ぺとぺと、お腹の上に足を着けたり離したりしながら訊いてくる。
そんな性癖は無い。
そんなマゾみたいな性癖は持ってない。
「足で、されたい?」
ちょいちょい、とイチモツを突っつきながら、尋ねてくる。
そんな嗜好はない。
そんなけったいな嗜好は持ってない。
幼い女の子の足を舐めて悦に入るとか、女の子に踏まれて法悦するとか、足でペニスを撫で回されて逝きたいとか、そんな奇矯な趣味は持っていない。
否定しろ。NOと言わなければ。出来ないことじゃない、難しいことでもない、元よりこの俺は極健全な嗜好に特化した本能を持つ性欲回路っ。そう、そう言うことにしといて…………っ。
「舐めたいっ、踏まれたいっ、足でされたいっ」
……即答してた。
きっぱりがっちり、武士でなくても二言はないとばかり、雄々しく逞しく断言してた。
「まあ、変態ね?」
そんな言葉も、既に快感。
「ほら、じゃあ、逝きなさいっ」
また、口に爪先を突っ込まれる。イチモツを踏まれる。痛い。苦しい。でも快感。撫でられて揉まれて擽られて悦楽。信じられないぐらい、柔らかくて滑らかで温かくて、少しずつ玄妙に感触が違ってて、そんなので触りまくられたら気持ち良過ぎる。
「はふっ……くぁっ」
溺れるほど唾液を湧かせながら、女神の足を舐めた。味なんてしない。それなのに、欲情した味覚中枢が悦びで狂っている。もう二度と、何を口にしたって美味いと思わないんじゃって怖れるぐらい。
これだけ肌を合わせてて、まだ達していなかったのが間違いなんだ。人の身に余る快感、受け続けてまともじゃ居られないのが当然なんだっ。
いや、でも、この足を舐めたいとか踏まれたいとか足で逝かされたいとか思ったのは間違いじゃないんだっ?
「かふっ……」
弾ける。神気に当てられて、何の備えもない俺は快感に弾け飛ぶ。腹の奥から魂が抜けていくみたいに、吐精した。ずるずるずる、と水分の足りない粘液めいた精を引っ張り出される感覚。その発狂しそうな絶頂感。辛うじて本当に魂が逃げていくのを妨げているのは、きっと唇に挟んだ足指と体を縛る鎖。そんな意味不明な確信。
どくどくどくどく。
悦楽に呻きも出ず、性感は体を蝕んで冷たい石に変えていく。代償に、残りの永遠の時を石像で過ごしても何の未練も抱かないほどの喜悦。
ずくずくずくずく。
体が空っぽになるほど射精する。乾涸らびるどころか、骨まで溶けて薄皮しか残らない勢い。
「はふっ……ほぁ?」
びゅ、びゅ、びゅっ、びゅっ……
水鉄砲の引き金を繰り返し引き続けてる、そんなぐらいに飛ばしている。
ぷつん。
オーバーロードする快感に耐えきれなくて、意識が途切れた。
「士郎?」
ライダーの声がして眼を開けたら、横向きに覗き込まれていた。
眠っていたらしい。
「ええと……おはよう?」
「ふふ、士郎、今は昼の三時半ですよ?」
ええっ? と慌てて時計を見たら、その通り。それに、ここってライダーの部屋。
「うわっ」
やっと気付く。俺、ライダーの膝枕で寝てたらしい。
「て、いや、ごめんっ」
急いで、離れた。
「謝る理由はありません、それより、良くお休みになれましたか?」
「それはもう、お陰様で」
寝心地が良くてぐっすり寝てしまってたのも道理、これで夢見が悪かったなんて言ったら罰が当たる。何と言っても女神様の膝枕だ。
……女神?
何か、その語が気にかかる。
「それは良かった。いえ、楽しいのか辛いのか、それがはっきりしない様子でしたので。良い夢を見ていたのですか?」
「ええと」
……思い出せない。見ていたには違いないと思う。何か、もの凄く嬉しい思いをした夢。でも、内容が思い出せない。どうも、嬉しいけど思い出しては拙い理由があるみたいな。うん、何か、嬉しがってちゃ駄目なことだったのか。
「ん……何か、見てたと思うんだけど」
判らないから、その通り説明した。
「そうですか。ならば、結局は悪夢だったのかも知れませんね」
ライダーに膝枕して貰って見たのが悪夢だなんてちょっと嫌だけど、そんなことを言っても仕方あるまい。
「そうだな」
きっと何か、歓喜と禁忌が入り交じった悪夢ってとこだったのか。
それなら、思い出さない方が良いのだろう。
そういうことに、しておいた。ライダーが裸足なのが妙に引っ掛かりつつ。
/呪物は蛇の足・了
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