その声が誰のものなのか。振り向くまでも、そして考えるまでもなく、俺はそれを認識していた。
「蒔寺……」
そこにいたのはその名をもつ人物。先程見たときと変わらぬ、椅子に座って自らを慰め、そして俺のことを凝視してくる彼女の姿があった。
だが、俺は当然目を疑いもした。蒔寺がこんな格好で、こんな声で、あんな目を俺に向けるはずなど、夢でもなければあり得るはずがないから。
一歩――足が前に歩み出る。無意識と言えば無意識だし、意識してと言えばそれも確かかもしれない。だが、自分たち以外無人の教室とは言え、下半身丸出しで闊歩することが意識してのことだったら、それはそれで論外なことだが。
しかし俺はそんな姿のまま蒔寺に誘われるがままに彼女の座る席に近づいていき、彼女のその変貌しきった姿を見下ろした。
「えみ……ゃ……」
憂い顔で見上げてくると、足元すらおぼつかない様子で立ち上がり、蒔寺はそのままの勢いで俺の胸へともたれかかってきた。そして俺の首に腕を回し、熱い吐息と共に言葉をぶつけてきた。
「衛宮。あたしもう我慢……できない」
「素直だな」
「……バカスパナ。あたしが素直だったらそんなに変かよ」
「いや。意外ではあるけど、変じゃない」
「ならブツブツ言わないで、素直にあたしの言うことを聞いてろ」
「?」
すると彼女は俺にもたれかけさせたその全身の重心を傾け、俺の身体ごと押し倒そうとしてくる。
今の彼女は足のふんばりすら効かないはずなのに、俺はその重みを支えることもできず、後方の床に押されるままに尻餅をついてしまった。
「ぅ……」
蒔寺は俺の腿の部分に馬乗りになり、俺の下半身をまじまじと見つめてくる。
「こんなに……でかいのかよ、男のって。しかも、さっきまでコレが鐘の中に入っていた、と」
前者に対してか、はたまた後者に対してか、蒔寺は何故か膨れっ面を作り、丸めた指で俺のソレをピンと跳ねた。
「……ぐっ」
そして間髪入れずに手のひら全体でそのモノを掴んでくる。蒔寺の指に絡みついたぬめりと俺の棹にまとわりついたぬめりが緩衝材にでもなってか、先程の行為よりは痛みは感じない。
「しかし、ホント変態だな、衛宮は。確かこういうのって一度出したら縮むんだろ? それなのに、縮むどころかさらに大きくなってるなんて……」
ムニムニと手の握力を可変させながら俺自身を刺激してくる。そこにはもう、つい先程までの今にも泣きそうなほどに懇願してきた蒔寺の表情は消え去っていた。
そして蒔寺はそのモノをしっかりと手に納めながら、その身をゆっくりと持ち上げて手の中のモノに己自身の狙いを定める。
「こ、これを入れればいいんだよな?」
『初めて』に対する恐怖があるのだろう。そして、こんな状況とは言え、そんな『初めて』を不意に奪われる嫌悪もあるのだろう。俺のモノを握る蒔寺の手……のみならず、身体全体が微かに振動を帯びているのがよく分かった。
「鐘にだってできたんだ。あたしならもっと……」
真下のモノを直視しながら、己の身体をゆっくりと沈めていく。
下腹部に滴り落ちる蒔寺の汗がやけに冷たく感じる。
「……ぁんっ」
蒔寺の秘所が俺の先端部に僅かに触れたとき、彼女の口からそんな甘い声がこぼれる。同時に、俺のその部分からは電撃が走るような感覚が全身を駆け巡り、俺の口からもつい声が漏れそうになってしまう。
「う……ぐ、ぁ……はぁ……」
肉が肉を割っていく感触。ギチギチときつい膣壁の圧迫は明らかに俺のモノを排除しようとしてくる。
流石は陸上部。短距離のエースといったところなのだろうか? 下腹部の筋肉のしなやかさといったものが氷室のそれとはだいぶ違うような気がする。錯覚かもしれない。だが、そんな錯覚をさせられるほどの感触だということは間違いなかった。
だが、排除しようにもそんな蒔寺自身の動きが許さない。俺のモノを押し出そうとする動きと俺のモノを飲み込もうとする二つの真逆の動き。その反発……その摩擦が二人の意識を擦り合わせていった。
「あ、あぁ。衛宮……あたし、なんか変だ」
「痛むのか?」
「そういうわけじゃ……なくて。なんか、あたしの中にあたしじゃないモノがあるみたいで……」
「ま、まぁ。確かに今はこんな状態だしな」
「ア、アホっ! へ、変なこと……言う……なっ、ぁ」
しかし蒔寺の身体の上下への振幅は依然として止まることを知らない。それどころか、その動きはその速度を徐々に上昇させていった。
「っ、ん、ん、んっ……」
この行為に至る前、蒔寺が自分自身を慰めていたせいか、その膣内は既に十分に潤っており、注送自体に妨げはない。二人の腰は激しくぶつかりあい、また、そこからは淫靡な水音までもが響く。
蒔寺からこぼれ落ちるその液体は俺のモノを包み、あるいは下腹部に小さな水たまりを作り、あるいは絡みついた陰毛を柔らかくさせた。それほどまでに蒔寺から溢れ出る愛液の量は多かった。
「蒔寺、ちょっと動き……速くないか?」
「なんだ、衛宮? まさかもう音をあげたのか?」
ニヤリとした表情を浮かべる蒔寺が少々忌々しい。が、その擦り上げられるスピードと締め付けのきつさに既に限界も近くなっていたというのは残念ながら否定しようもない事実だった。
そんな俺の機微を読み取ったのか、蒔寺はさらに腰の動きを早めた。
「あっ、は……っく、ぅん、あ……」
しかし、蒔寺もそんな風に大胆に甘いため息を漏らしている。感じていないわけではないはずだ。ただ、微妙な違和感を完全に払拭できていないのかもしれない。
だが、このまま蒔寺にいいようにされるのは癪だったし、初めて?の女性相手に仮にも経験が一度はある男がいいようにされてしまうのは男という種としてのプライドが許さないものでもあった。まぁ、本当に些細な見栄でしかないプライドだが。
「衛宮……、衛宮、衛宮――っ!」
動きに合わせて蒔寺の喘ぎ声も徐々にその間隔を狭め、また加速していく。
「ぁ……ぐっ」
膣壁はきつく、膣襞は幾重にもまとわりついてくる。その感触に、俺の限界が急速に迫ってきていた。
今もたいして動いていないが、俺が腰の動きを止めたところで蒔寺は動きを止めない。むしろ俺の限界を悟って、いっそう速めることだろう。
ならば逆にこちらも一気に攻めてみるにも、正直なところ蒔寺が達するまで持ちこたえられる自信もない。
だが、そんな風に困っていた俺に助け船を出してくれたのは、なんと氷室と三枝だった。
「ほぉ、ずいぶんと雰囲気を出してるじゃないか、蒔」
俺たちのことを見下ろすように立っている氷室とその背中で控えている三枝。一度達した後であるせいか、その表情は深く紅潮しており、そのきれいな肌の上にいくつもの汗の珠が浮かんでいるのがはっきりと見えた。
そんな状態であるせいなのか、彼女らの動きの一挙一動が何故か淫猥に見えてしまう。それこそ、腰を下ろすというだけの動きだけでも。
「さて。衛宮には一ついいことを教えてやろう」
氷室はそう言って、俺の右側……つまりは蒔寺にとっての左側に肩を寄せるように身を屈める。また、その逆側には同様に三枝がついた。
「衛宮。蒔のヤツはああ見えて……というか、見た通りの鈍感者でな。故に不感症でもある」
「ちょ……おまっ!? そんなの関係な――っ」
「そうだな、まぁ関係はない。蒔は蒔でちゃんと感じるところがあるものな」
氷室の眼光が歪む。そして、その眼光は蒔寺の顔から徐々に下がっていき、首筋、胸と通り過ぎ、ちょうど身体の中間……腹部、正確にはへその所で止まった。そして氷室の指が蒔寺の褐色の肌を蟲のように這い回り、そこに至る。
「あっ……、きゃぅ!?」
その途端、蒔寺からこんな可愛らしい声がこぼれ、身体は飛び跳ねるように震え、背筋も大きく伸び上がった。
「ほら、由紀香も蒔のことを」
「う、うん……」
「ま――っ!? 由紀っちはそんなことしなくて……んぅっ!」
反対側に腰を下ろした三枝も同じように蒔寺に手を伸ばすのだが、彼女の場合、その手は胸のところで止まる。そしてその双丘を包む十本の指がじわじわと動き始めた。
「く、うぅ。そんな……由紀……っち……」
「いいなぁ、蒔ちゃんは。肌に張りがあって」
「ば、ばか。それを言ったら、由紀っちの肌なんて白いし……赤ちゃんみたいに……柔らかいし……」
「ありがと。お礼に私も手伝ってあげるね?」
「お礼をしてくれるなら、むしろ鐘を止め……んああああぁぁっ!」
氷室は陰部とへそを、三枝は胸と首筋をそれぞれ愛撫する。それに加え、当然俺は蒔寺と下半身が繋がったまま。流石に三人から責められては蒔寺もどうしようもなく、一際大きな声を発してしまっていた。
その声に気を良くしたのか、氷室は手の動きがいっそういやらしさを増す。
今は垂直方向へのピストン運動ではなく、水平方向への円運動により腰を動かしているため、氷室や三枝の愛撫も的確に蒔寺の快楽を貪っていく。
「ん、ん、ん……ぁ、うん……はっ、あん、あああぁ!」
蒔寺のテンションに合わせて声量も徐々にその大きさを増していく。だが、それと同時に彼女の膣内の圧迫も強さを増していき、俺への快感も加速度的に限界へ上り詰めていく。
気持ちいいまでの嬌声が俺自身を一気に昂ぶらせる。それこそ、もう「どっちが早くイクか?」などとくだらない意地も吹き飛ばすほど。
「くっ、この!」
「え、えみや!? ん、んあっ!? ぁ……、ああぁ」
蒔寺の腰を掴み、腰を突き上げる。
いくら自分が先に達しないためとはいえ、もうこんなまどろっこしい動きなどやってられない。高みへ、より高みを求めて。まるで獣のように貪欲に性を求める。
「ひっ、く……ぁ、あっ、う……。衛宮……はげし……ぃ」
蒔寺の身体の重さごと持ち上げてしまうほどに腰を上げて貫く。彼女の膣内をえぐっていく感触、そして最深部に達したときの彼女の中を自分のモノで叩くあの感触。一度この感触を覚えてしまうともう止まれない、やめられない。麻薬というものはもしかしたらこれに似たような感じのものなのかもしれない。
「蒔寺、蒔寺……っ、まき……で……らあっ!」
がむしゃらにただ腰を振るう。俺の下腹部と蒔寺の尻がパチンパチンと小気味高い音を打ち鳴らし、その度に二人の間に貯まった液体が飛沫する。その液体が汗なのか何なのか、もう見当もつかない。つくのは、それほどまでに二人が感じていて、そして絶頂までももう間もないということくらいだった。
「ふ、ふたりともすごい……ね。こんなにして痛くないのかな?」
「案ずるな、由紀香。たとえ少し痛みがあったとしてもそれすら快感になっているよ、今のこの二人では。由紀香もこの後してもらえば分かるさ」
「う、うぅ……」
激しく揺れる蒔寺の身体に今もまだ愛撫を繰り返してはいる二人だったが、既に眼中にもなかった。彼女が認識しているのは、己の全身を駆けめぐる快感と己が組み敷いた俺の姿と形のみ。そしてそれは、俺自身にとっても同様のことで……。
「蒔寺。さすがにもう……やばい……」
「いいから。衛宮の好きなようにしていいからっ。いっぱい……射精して……いい……から……」
本当に好きなように言ってくれる。しかも、あろうことかあの蒔寺にこんな風に言われては、理性という名の鎖で自分自身を縛り付けておくことさえできなくなる。
「え……みやっ。イ……ぃ、あたしも……も……ぅ……」
自分から腰を振り、乱れる蒔寺を下から幾度となく突き上げる。その度に体中に痺れが走り、もはや下半身は当然のこと、彼女の腰を掴む手にも感覚がなくなってきていた。
いや、むしろこれは感覚がなくなるというよりも感覚自体を吸い取られているようなもので……。
「蒔寺っ!」
最後の瞬間、弓なりに一際大きく突き上げた下腹部の先端部分が膨張する。だが同時に蒔寺の膣内は一際きつく収縮した。
「あっ、あ……はあああああぁぁぁぁぁっ!!」
そして艶に色塗られた甲高い嬌声をあげながら蒔寺はついに達した。
「……くぅ」
そのあまりにもきつい締め付けと幾重にも絡みつく襞は俺の膨れあがったモノを搾り出させる。
その脱力感と解放感、喪失感と達成感。対照的な上下の感覚が意識を混濁させられながら、俺も蒔寺に続くように達し、己の溜まりきった情欲を再び吐き出した。
ドクドクと何度も脈打ちながらドロリと生温かい液体が蒔寺の中を満たしていっているのが俺にもよくわかる。やはり身体と身体が、肉と肉が重なり合わさっているせいなのだろうか。
「は、あぁ……はぁ、ん……ぅ」
微弱なためいきと共に弱くも長い痙攣が続く。そしてその痙攣がようやく収まったとき、蒔寺な全身から力と緊張が抜け、身体ごと俺の胸の中にしなだれ落ちた。
「……ぁ、……、……っ」
いまだ繋がった箇所も焼けつくような熱さをもっていたが、声にもならない言葉尻が胸に触れるのも熱かった。
蒔寺の身体の重みも今は何故か心地良い。そんな心地良い虚脱感に己の全てを委ねて眠ってしまいたくもなった。
だが、そういうわけにはいかない現状。自分の目の前には半裸の女性が三人。それも取っ替え引っ替えに身体を重ねている。やはり夢とは言え、自分自身に恐ろしさを覚えてしまう。
「蒔寺。悪い、少しどいててくれるか」
胸の上に横たわる彼女の身体を押し上げるのと同時に、俺のモノが蒔寺の膣内から抜け出す。棹に粘度のある液体が付着し、蒔寺の下腹部との間に糸が引いている様はいやらしいと言うよりも最早グロテスクと言うにふさわしい。さらに、膣口から生き物のように這い出てくる白く濁った液体もそのグロテスクさに拍車をかけた。
「……ぁぁ」
半ば放心状態になっている蒔寺のことを床に横たえると、俺はその場からゆっくりと立ち上がった。
そんな俺が何かを言うより早く足を踏み出した方向……それは既に決まっている。それは意識してではなく、もう条件反射による行動のようなものだった。
「衛宮……くん」
俺が向かうのは彼女……最後の一人である三枝由紀香の下。
彼女は俺の名を呼ぶと、ツイと視線を背けてしまう。だが、それはすぐに元の位置へと正されてしまった。
「由紀香。最後はお前の番だ」
氷室が後ろから三枝の背を押したのだ。
三枝の軽い身体は、不意をつかれたこともあってか、身体がバランスを崩しながら大きく前に出てしまう。俺もその動きに合わせて慌てて歩みを速め、彼女の身体を自分の身体で支えた。
「あ……」
小さい…………それが、俺が三枝の肩を抱いたときの感想だった。とてもとても華奢で、今自分の手に力をこめれば、砕いてしまいそうなほどの柔らかで繊細な身体だった。実際の身長は三人ともそこまで大きな違いはないけれど、彼女の身長……言うなれば、身体全体が一回り小さく見えるほどでもあった。
「衛宮……くん。あ、あの……」
顔は上げない。彼女の目は俺の胸に向いたまま、言葉だけを俺に向けた。それによく見れば、彼女の身体は小刻みに震え続けていた。
恥ずかしい……などという以前に、恐怖を抱いているのだろう。仕方のないこととは言え、恋人でもない単なる男友達とこんなことをしなければならないのだから。
仕方のない? ――いや、そんなのは俺だけの都合の良い言葉でしかない。
「元の世界に戻るために」などという理屈をこねてみても、俺自身の身体は本能に対して正直だった。氷室に続いて、蒔寺とも行為に及んだ直後だというのに、俺自身は全く萎えることがない。むしろ回数を重ねるごとに硬度を増しているようでもあり、次第に痺れにも似た痛みすら感じるほどに怒張してしまっていた。
そんな思いのまま、俺は三枝の身体をより強く抱きしめた。そしてその勢いで押し倒してしまおう……なんて邪な考えが既に頭の中に充満していた。
だが、俺はとどまった。いや、とどまらせられていた。
彼女が呟いた、ほんの小さな言葉によって。
「今だけ……今だけでいいんです。私のこと、衛宮くんの本当の恋人さんのように想ってくれませんか?」
かすれるほどに小さな声の言葉だったが、胸打つ衝撃はとても大きかった。
「本当の恋人のように……って」
「せめて今くらいは一緒なんだって、そう思いたくて。私のことを本当に想ってくれている人がいるんだ……いたんだって、そう思いたくて。この瞬間が永遠でないのなら、せめて今という瞬間だけは忘れないように、強く心に刻んでおきたくて……」
「三枝……」
やはりその言葉は本当に小さいものだった。だが、その言葉から伝わる想いは間違いなく大きかった。それが触れる肌からもよく分かった。
故に、俺は出来うる限りに性欲という名の欲望を愛情へと転化させる。だが、そうして持った感情など、偽り、マヤカシと言われれば、否定はしきれないかもしれない。だがそれでも、今だけは俺もまた……。
「……んっ、ぅ」
彼女の背中に回していた手を首筋に回し、そしてその肌の上を滑らせる。ちょうど肩ほどにまで伸びた髪もその手の動きにつられて揺れる。その髪先から香る匂いは、肉と汗の臭いしかしないこの空間では一際異質なものに感じられた。
「三……枝……」
その匂いに惹かれて、彼女との顔の距離を縮める。
「衛宮……く……、っん」
己の上下の唇で彼女の下唇を挟む。その柔らかさたるや、他の何かに例えようもない。どんな食材よりも柔らかく、どんな果実よりも甘い……とだけしか。
俺はその味をもっと味わいたくて、もっと独占したくて、その華奢な身体を強引なくらいに押し倒した。
「はあっ、あっ……ぁん、っ……あぁ!」
激しくぶつかり合い、擦れ合う肉と肉の狂宴。外の肉を舌と唇で味わい、中の肉は己のモノをもって貫く。それが与えてくる恐ろしいまでの快感に既に俺は一度には止まらない絶頂を迎えていた。
「っく、あ……またっ」
「い、いぃ……です。わた……わたし……も……っ」
三人分の精――――夢魔に求められたのはそれだけだった。つまり、氷室、蒔寺、そして三枝のそれぞれと性交をすればいい、というだけの話だったはずだった。
なのに、どうしてか一度きりでは止められなかった。義務とかそういうことを忘れ、俺はただただ三枝のことを求めてしまっていた。
欲情が収まらない……確かにそれもある。あるけれど、それ以上に彼女のことを想う気持ちが抑えきれなかった。それこそ、本当に二人が愛し合っている恋人同士のように。
「三枝っ! 今度は外に」
「は……ぃ。かけて……くださ……い」
しがらみつく肉の襞の束縛から離れ、ソレは生温い外気の下に身を晒す。そしてその膨張しきったモノは中に溜め込んだものを勢いよく弾き出した。
「う……ぁ……」
己のモノをきつく握りしめ、前後に大きくしごく。すると、そこからは一度目の時と同じように……いや、一度目のとき以上の量と濃さの液体が三枝の肌の上を点々と汚していった。
「あつ……い」
「まだ、出るっ」
「ぁ……」
腰を前に進めると、液体の浸食領域がどんどん拡大していく。三枝の下腹部から始まり、お腹、胸、そして顔や髪の毛にまで降り注いだ。
だが、それでも終わらない。出し切るや否や、自分が出した液体と彼女から分泌された液体が分離することが不可能なほどに混じり合ったモノで満ちた場所に再び潜り込ませた。
「きゃうっ!? そんな……今イったばかり……で……、あぅ!」
そんなことを口にしても、それでも三枝は涙を浮かべながらも穏やかに微笑んで、俺の首回りに両手を伸ばして、身体を自分の下に引き寄せてくるのだ。
腰を振り、唇を合わせる――――それはなんと単純で原始的な愛情表現だろうか。しかし、それは確かに愛情表現だったと言える。性欲の捌け口としての行動でも、繁殖活動というわけでもなく。
まさしく、今この瞬間においては、俺たちは確かに愛し合っていた、互いが互いのことだけ見つめ、想っていた……そう言えた。
そして、その愛情表現は際限なく続いた。温度に上限がない……少なくとも人間という存在にとっては途方もない……ように、熱く、激しく。
だが、それにも終わりは来た。それが何回目の絶頂を迎えたときか?などは皆目検討もつかない。と言うよりも、終わりが来たということを、俺には認知すらできなかった。
その幕引きをしたのは一体誰か? 三枝か、それともあの夢魔か。
どちらであろうと、終わりが来たということはつまり、夢の終わり……あの夢という名の作られた閉鎖空間の消滅を意味した。
助かった……そう言っていいものか甚だ疑問ではあるが、俺はそんなことを頭のどこかで考えながら、重い瞼を開けたのだった。
夢ではない、この現実の世界で……。
epilogue
その日は雲一つないほどに晴れ晴れした空が自分の頭上に広々と描かれており、今のこの憂鬱とした気分の俺にはその清々しさが妬ましさすら覚えた。
「はああぁぁ」
大袈裟なほどに大きく深いため息をつく。
この時期だ。恐らく周囲からすれば「あぁ、受験に失敗したんだろうなぁ」などと思われてしまうことだろう。
しかも、今日は卒業式前の登校日だ。下級生のみならず、同級生の目も多くある。
だが、ため息に沈む自分自身をいくら衆目に晒そうとも、今の俺にはそんなことに気をかけている余裕はなかった。
その起因は全て、今朝の夢にある。
自分もよく見知った女性……それも三人とあんなことやそんなことまでヤってしまったという夢。パスカルだかフロイトだかソクラテスだか誰だか偉い人が言った、蛇だか林檎だかの夢とはまるで異なるあまりにも単純で直接的な夢。
いや、アレは夢と言うにはあまりにも生々しく、リアルな感覚で満ちたものだった。果たしてアレは本当に夢だったのだろうか? あんな夢みたいな夢を本当は現実ではないかと疑念を抱いてしまうほどに、リアルだったのだ。
そんなことを考えながらブラブラと歩いていると、前方に見知った人影を見つけた。それも三つ。そう、今朝の夢の中でも出会ったばかり彼女たち三人だ。
「蒔寺、氷室……、三枝……」
別に自分の姿を見られたわけでもないのに、俺はその身を道脇に隠そうとする。距離にして数十mは離れている。それにこちらを向いているわけでもない。そうそう気付かれるはずもない。
なのに、彼女は振り向いた。まるで俺が此処にいることを最初から知っていたかのように。
「あ、衛宮くん。おはよー」
その声につられて、隣を歩く二人もこちらを振り返る。
「げ、衛宮!?」
「う……むぅ……」
にこやかな笑みを初めに見せた三枝とは対照的に、二人は気まずそうに俺から目を背けた。これだけ離れていれば、まともに互いの顔も見れないというのに。
しかし、俺自身がそうしてしまう理由は身にしみて分かる。だが、彼女たちまでもがそうする理由があろうか。
(まさか……)
一瞬、自分の脳裏によぎった考えを否定する。もしそんな恐ろしい想像が合っていたとしたら、この先彼女らとまともに顔を合わせることなどできないだろう。
だが、やはりその予想は外れているに違いない。なにせ、肝心の三枝があんなにも『いつも通り』の笑顔を向けてくるのだから。
(……だよな)
そう安堵に胸をさする俺の下に、三枝だけが二人をその場に残し、ひょこひょこと軽い足取りで駆け寄ってきた。
揺れる髪先とスカートの裾の動きまで少し可愛らしく見えてしまうのは、三枝だから……なのだろうか。そんな彼女の姿を見ていると、夢がどうだかと疑問に持つ以前に、そんなことを考えていること自体が馬鹿馬鹿しくなってくる。
そうして俺もまた、少しだけ足取りを軽くすると、互いに距離を縮め合うように前に足を進めた。
そのときだった。
二人の距離があともう目と鼻の先ほどまでに迫ったそのとき、ふと二人の間を小さな影が横切った。明らかに俺たちの間に割って入ってきた……そう思えるほどの絶妙なタイミングと位置取りで。
「あっ、猫さん」
そうやって道脇の電信柱の陰から姿を現したのは、その陰の色よりも濃い黒の毛並みを持つ一匹の黒猫。以前にも何処かで見たことがあるような気がするのは気のせいだろうか。
「わ、こっち来た」
人間慣れしているのか、飼い慣らされてでもいるのか、その黒猫は人間の前でも堂々とした態度で、しかもまっすぐと迷いのない足取りで三枝の下へと歩み寄っていった。そして、三枝のすぐ足下にまで歩み寄ると、何故かその場でじっと彼女のことを見つめ続けた。
対して、三枝もその場に座り込み、自分を見つめる猫に優しく手を伸ばしていた。
「すごい綺麗ですね、この猫の毛色。真っ黒なのに宝石みたいに輝いてて」
三枝がその猫の顎先を優しくくすぐってやると、非常に気持ち良さそうな表情をし、可愛らしい鳴き声をあげた。
「それに、すごく可愛いです」
「……あぁ」
そんな三枝と猫のたわむれている光景を見て、ついつい笑みがこぼれてしまう。やはり三枝はこういう優しい表情をしているときが一番良い。見ているこちらまで優しい気持ちになれるから。
しかし、その光景はすぐに終わりを迎えた。
黒猫は結局何かをするわけでもなく、すぐに逃げ去るわけでもなく、ただ彼女の下に来て、ただ彼女のことを見つめて、そしてただただ悠然と尻尾を振りながら去っていった。
「あの猫、一体何がしたかったんだろうな?」
意味のない疑問を苦笑混じりにこぼす。なにせ、相手は猫。その疑問に対する正しい答えなど返せようもないのだから。
だが、三枝はその猫の後ろ姿を見つめたまま、何かを小声で呟いた。
「…………ありがと」
「え?」
それは本当に呟く程度のものだったので、少しだけ距離を隔てた俺の耳には音とだけしか認識されなかった。本当にあの猫に向けて言った言葉なのかも分からない。分からないが、横から垣間見る彼女の顔に憂鬱とした翳りはどこにもなかった。今のこの空のように明るく、突き抜けた清々しさがあった。
「さぁ、行きましょう、衛宮くん。遅刻しちゃいますよ?」
三枝もまた、その猫に背を向ける。そして猫とは真逆の方向へと歩き出した。彼女たちの待つ方へ。
「遅いぞ、由紀っち。もう少しで置いてくとこだったぞ?」
「うん。ごめんね、蒔ちゃん」
「何かあったのか、由紀香?」
「ううん。何でもないよ、鐘ちゃん。……ねっ、衛宮くん?」
「え!? えっと……」
本当に何もない、それこそ「いつも通り」と言わんばかりの笑顔を向ける三枝。
その言葉に眉根をしかめ、俺と三枝の間に割って入ってくる蒔寺。
そして、そんな二人ないし三人のやりとりを苦笑しながらもすぐ傍で見守る氷室。
こうやってまた、いつもの『悪くない時間』がまた音を立てて刻み始めていく。
蒔寺がいて、氷室がいて、そして三枝がいて。その輪の中にほんのちょっとだけ俺もいて。そんな時間が……。
たとえその時間があと僅かしかなくても、今こうしている時間があったことは決してなくなってしまうわけではない。
だからこそ、いつの日か語ろう。こんな日々があったことを。
そして、こんなにも仲の良い三人の女の子がいたことを語ろうと、俺はそう思っている。
/三枝由紀香の憂鬱・了
感想とかリクエストとかは下のフォームや掲示板でお願いします。