あくまの異常な愛情
/またはあたしは如何にして心配する事をやめ、愛するようになったか

権兵衛党 様


 

 ――――ええと。あたし、何でこんな事になってんだっけか。


 唐突に脈絡の無い言葉が頭の内側をドンブラコと流れて行く。
 そしてそのまま滝壺に落ちてご臨終。南無南無、惜しいヤツであった。
 ……いや、特に意味のないイメージ映像だが。脳内限定の。
 そんな頓狂ないめーじが脳裏を阿波踊りながら通り過ぎていくとゆー事は、どうやらあたしはただいま現実逃避中のようだった。
 だがそれも仕方の無いところかもしれない、と、そこはかとなく思わないでもない事も無いような気がするようなしないようなのはやぶさかでも無く……いや、どっちなんだか自分でもよくわからないんだけど。
 ともかくあたし、蒔寺楓には目の前にある現実が、どうにもこうにも脳内処理不可能っぽい状況だった。
 なにゆえに?
 何で? 何故に? どうしてこんなことになってるんだ?
 そして何より、どうしてあたしがココに居るっ!?
 空回り気味に走り回る思考は全然ひと所に留まれず、けれど何一つとして把握不能。
 それとは裏腹に身体の方はすっかり硬直してしまっていて、あたしは身じろぎ一つできやしなかった。
 ……というか。
 有り体に言うならば手首足首をそれぞれ縛られていて、マジで身動きできなかったりするのだが。
 あたしは芋虫じゃないんだぞオイ。
 咬まされた布のおかげで声も出せないし、チクショウ本当になんだってこんな事になってんだか。
 喉が渇いて仕方がないのに、目の前にある湯呑のお茶を飲む事すら出来ない。
 いや、ひょっとしたら呼吸すら止まっているのではないかとさえ思った。
 だけどそれは口を塞ぐ布の所為でもないかもしれない。

「ム、ムグゥゥゥ……!」

 噛まされた布に歯を立てる。が、ビクともしやがらない。
 息が苦しい。
 喉が渇く。
 そして、眼が離せない。
 あたしの視界の中で妖しく艶やかに行われているその光景から。
 床から見上げるあたしの目前で展開される光景は――――

 視界に納まっているのは二人の女の媚態。
 絡み合い、睦まじく求め合い、悦楽を貪る二つの白い肢体。

 こっそり告白してしまうと、あたしだってエッチな映像を見たことくらいはある。
 あたしらの年頃なら多かれ少なかれちょっぴり好奇心をそそられるのは当然ではなかろうか、などと思いつつ誰も居ない自宅で無闇に周囲を警戒しながらテープをデッキに放り込んだのは、割と新しい記憶だったりするのだが。
 自分に言い訳しつつ、同年代といえば陸上部マネージャーたる由紀っちとか、氷室のヤツとかも自分と同じように好奇に駆られてエッチぃビデオに手を出したりするのだろーか、という別な難題を抱え込んだりもしたっけか。実際、どんなもんだろう? 由紀っちも氷室もそういうシーンはちょっと想像がつかない。やはり「わ、わわっ」と頬を赤らめてたり、眉一つ動かさずに……
 ……ああ、また思考が逃避を敢行してやがった。目前のなめらかに神経を蕩かす光景から。
 思考は上手く繋がらないのに、見ている事自体があたしのどこかを焼いていくような予感がする。甘く気だるい何かに魂の尻尾を引っつかまれるようでもあり……いかん、気を強く持たないと。
 話を戻すと、現在あたしの目前では女同士の媚態が繰り広げられている。
 見たいわけじゃない。でも眼を離せない。耳を塞げない。心臓のドキドキが止まらない。心の殻の内側にまで入り込まれるのをどうにも止められやしなかった。
 あえて無意味に比較するならば、目の前のそれより以前にこっそり見たエッチぃビデオの方がより大胆であったし、行為も直接的ではあった。もちろんそういう映像にありがちな女性器の露骨などアップ(モザイクあり)や大仰な喘ぎ声も今ここには有りはしない。
 けれど。
 でも。
 それだけに目前の光景はリアルに生々しかった。
 映像の中の女優の演技とは違う、現実のリアルからあたしは眼を逸らす事ができない。
 少し苦しげな、けれど何処か甘さを含んだ息遣いが空気を揺らし、耳に残る。
 瑞々しい肌の上を滑っていく指の感触を、自らの上に生々しく置き換えてしまって得体の知れない震えが奔る。
 何よりこの部屋にはほのかな匂いが漂い始めていた。何処か淫靡な、入り混じった女の匂い。まるでアラビアン・ナイトの世界のハーレムで焚かれる香でもあるかのような、不思議な刺激感覚。あるいはそれは誘蛾灯の光のような――

「はぅ……あ……」

 上げられたくぐもった声にビクリと、思わず封じられた拳をギュッと握った。何故だか自分がとても危うい気がして。
 それほどまでに、あたしは目の前の二人に魅入られた。
 しどけない姿を晒して求め合う二人はとても綺麗で、蠱惑的で、扇情的だった。あたしの中の何かが揺られて震えるほどに。
 あたしに見られながら、否、あたしに秘め事を見せつけている二人。
 それにどんな意味があるのかなど、あたしには理解できない。理解したくない。
 何故ココに居るのかと思いながらただ見ているだけ。
 目前で続いているこの媚態――――


 ――――遠坂凛と美綴綾子の――――


 /

 この穂群原学園で友達になっておいて損がないヤツといえば、その筆頭は何と言っても遠坂凛だろう。あたし、蒔寺楓はそう考える。
 その意見に多数の同意を得られるかどうかは知らん。あいつ友達少ないし。
 だが少なくとも『敵に回したく無い奴の筆頭』であれば、まず賛成多数どころか全会一致で可決されるであろう事は間違いないだろう。
 すこぶる美人で成績優秀、冷静で皆から一目置かれる高嶺の花、天は何ゆえに二物どころか三物も四物も与えたのか、ちくしょーひいきだ責任者でてこいっ、というくらいの才色兼備にもほどがあるほどであり、このあたしですらちょっぴり敵わないかもしれない相手である……と、こないだ氷室のヤツにそう言ったらイヤな笑いと共に「ほう、ちょっぴりか。なるほど」等と嫌な笑い方されたりしたがな。くそう。
 それはさておき。
 この際あたしとしては「天は何故この蒔寺楓を産んで、遠坂凛まで生み出してしまったのだーっ」などと叫んで血を吐いてくたばってるわけには行かない。
 みれば、色々とより取り見取りというか上手く立ち回れば何かと不自由しない立ち位置に居るくせに、遠坂のヤツは何故だか孤高を保ち続けている。
 そこでこの冬木のスーパースプリンター、穂群の黒豹の灰色の脳細胞は考えた。


 ――ここは一つ、あたしが代わりにおいしい目に会ってやるぜっ!


 と。
 まあそんな訳で、あたしと遠坂の友達付き合いは始まった。
 ……の、だが。

「遠坂ー、日曜の」
「ごめんなさい、日曜は美綴さんと約束があるんです」

 本日、あたしの誘いは言い終わる前に否決された。
 しかもよりによって我がライバルたる美綴綾子の名を出して、だ。くそー、おのれ。
 あんまりにべも無く断わられたのでけっこう腹ただしい、のだが。
 だがここは昼休みの穂群原学園校舎の教室。このまったりとしたお昼の教室でいきなり暴れだしたら、あたしは単なる馬鹿モノあつかいである。遠坂もいつも通り猫被ってやがるし、どう考えても遠坂に優勢あたしに不利。故に、あたしはしぶしぶ引っ込んだ。
 週末の気だるいお昼休みも残り僅か。
 春先の麗かな陽光に包まれて、教室はまったりとたゆたっていた。
 この学園での春ももう三度目。
 今考えれば我ながらどうなのかという思いつきから始まった割に、あたしと遠坂の付き合いは長々と続いており、今では休みの日に一緒に店を巡ったりなどする仲となっている。
 ただ、その割においしい目にあった記憶はほとんどなかったりするのだが。
 だがまあそこはそれ。故にこそ今後への期待が高まるし、それでなくても付き合ってみると案外に気持ちのいい友っぷりを発揮してくれるヤツなのだ遠坂は。
 そんな訳であまり深く考えること無くサバサバと付き合いを続け、明日も一緒に古道具屋でも回ろうかと思ったのだが……結果はこの有様だった。
 あたしも遠坂とは割合いい関係を保っているのではあるが、弓道部主将の美綴綾子には親密さで更にその一歩先を行かれているような気がしてならない。ちぇっ。
 そんな訳で自席に戻ってちょっと不貞腐れる――

「おや、振られたようだな蒔の字」

 ――間もなく、氷室が声をかけてきやがった。
 いつも通りの抑揚で、ナニ考えてんだか判らんのもいつも通り。
 ついでに何故か由紀っちまでいそいそと嬉しそうに寄ってくる。

「あーあー、振られたとも」

 投げやりに答えつつ頭の後ろで腕を組む。
 そのまま体重を後ろに傾けると、椅子がギシギシと音を立てて傾いていくので身体全体でバランスを取りつつ限界まで倒していく。すこぶる行儀が悪くてけっこうお気に入り。
 が、しかし。

「なるほど、遠坂嬢は蒔の字より美綴綾子の肢体の方が好みか」
「え、ええっ? 遠坂さんってそうだったの!?」

 ……もう少しで椅子ごとコケるとこだった。あぶねー。
 危うい所でバランスを保ったマイ腹筋と運動神経に惜しみない賛辞を与えよう。
 しかし。
 鐘っち、何故にどうしてそうなる。どうしてそこでンな単語が混ざるのか。
 隣で、確かに女好きしそうな身体ではあるなアレは、等と一人合点している氷室は何かあたし等の間柄を誤解しているのでは無かろーか。というか、あんたの独り言聞いてると自分の身の安全にまで危険を感じるのは、本当にあたしの気のせいか? イヤンあたしは身持ちの堅い女だぜ?
 とりあえずその辺りは(今後の友情の為に)触れない事にして、まともな姿勢に座りなおした。次にコケさせられた時に、我が腹筋がバランスを維持できるかは保証無いし。
 周囲の評価ではクールビューティを地で行ってるはずのこの氷室鐘。親しく付き合ってみると実は言動が至極的確なようで、微妙に何処かずれているような気がするのはあたしだけなのだろーか?
 あと微妙に顔を赤らめてる由紀っち、何でもかんでも素直に信じないように。

「あー。いま何考えてるか知らないけど、とりあえずそれ全否定しとく」

 投げやりにそう言って、頬杖を突く。
 ああ、何か思いっきり走ってスカッとしたい。今すぐもやもやと溜まったものを、おいてけぼりにして駆け抜けたい。
 昼休みの残り時間に余裕があったら全力ダッシュで爆走するんだがなぁ……
 未練タラタラに窓の外のグラウンドを眺めやる。
 先ほどまではウジャウジャしていた人影が、今はチョロチョロと校舎に吸い込まれていく最中。
 まだ居る連中はチャイム鳴ってから駆け込むつもりだろうか。
 ぼうとそれを眺めていると、後頭部方面から聞こえる返答。

「つまり、蒔の字はいずれ身体で遠坂嬢を篭絡する自信があると?」
「いや、だからもっと根本からの全否定だっつーの!」

 何か、非常に疲労感を感じつつ否定した。
 まったく氷室ン、一体どこからそういう発想が出てきたのか。あたしと遠坂は清く正しくお友達以外の何物でもないっつーに。美綴とはどうか知らんけど、きっとそんな関係ではなかろうよ。
 それから横で「やだ、マキちゃんたら」とか地味に身悶えてる由紀っち。チミにはもう少し妄想癖を抑える事をお勧めする。
 もうグラウンドにはほとんど人影も無い。ああ、爆走したい。
 そんな馬鹿な事を思いつつ、なんとなく無意識に思い浮かべてみたり。
 ――ぴったりと裸で抱き合って唇を吸い合うあたしと遠坂が、こう……

「…………ぐぁぁ……」

 なんというか、すっげえ違和感とでも言うべきものが。いや、寒気か?
 むろん遠坂の事は嫌いではないが、それはまた別問題である。何で鐘っちや由紀っちの脳内にはこんな図が生息できるのか。あたしだったら生存権など認めずおもむろに斬刑に処したり処さなかったり。……いや、特に意味は無いが。
 累積する疲労感に、ああもうどうでもいいやと額から机に突っ伏した。僅か数分だが五限が始まるまでグッタリしよう。

「……お。マキ、遠坂嬢と美綴綾子が話してるぞ」

 そう決めたので、氷室のその声にも頭を上げずにぐったりと伏せていた。残り一分だろうと二分だろうと、休息してやる。
 このさい遠坂と美綴が話してようが、イチャイチャしてようが百合ってようが知った事ではないのだった。もういい休ませろ。おやすみ。
 心の中で宣言して、グッタリした。
 もうグッタリ。
 心底グッタリ。
 グッタリ……グゥ。
 そして結局のところ概ねその意思は貫徹でき、あたしは十分に疲労感を癒す事ができた。
 まあ一つだけ予想外だったとすれば。

「……………………あれ?」
「マキちゃん部活いくよー」

 起きたら五限はおろか六限終わって放課後だった事くらいだろーか。
 でも代わりに疲労はスッキリ取れたので別に良し。実に爽快。
 ついでに午前中の授業がどうだったかも黙秘しておく。

「あー、先行っててくれ」

 教室の前部入り口で手を振ってる由紀っちと氷室にそう声をかけて、それからぐっと伸びをする。机で寝ると疲労はとれるがやっぱあちこち痛くなるなぁ。
 そのまま左右に身体を倒してちょっとだけ柔軟もどきをしておく。血の巡りが悪いと走るのもままならないし、寝ぼけたままで部室行くのもイヤだし。
 さりげなく周囲を見回してみると、皆そうそうに部活かあるいは帰宅路についたようだった。
 むむ、教室内はもう閑散としているな…………どれ。
 んんーっと伸びをしつつ思いっきり身体を後ろに倒して、ついでに脚も精一杯つっぱらかる。最大限に椅子を傾けてバランスを取る。それこそ覗き込めばパンツ見えそうなギリギリ寸前まで。
 伸びをする猫のイメージで、それこそ肢体に猫のしなやかさと黒豹の力強さを――

「蒔寺さん、ちょっとよろしいかしら?」
「――ふぇっ?」

 ……いや、唐突に声を掛けられたものだから。
 床の上から見上げた逆さの遠坂の顔は、当然のように呆れていた。
 チェッ。


 /

 ――――で。何故だか遠坂の家に招待されて、日曜日に勇んで来てみたら美綴も来ていて、まあいいかと思ってたらどういう訳かこんな事になっていた。と。
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 …………整理してみたが、やっぱり訳がわからん。つか整理無意味。意味不明。
 この二人が百合な関係だったというのは、こうして目撃した以上は認める。認めざるを得ない。
 だがしかし何故ここにあたしが居るのだろーか? そして何でこーなってんのか?
 あ、『こうなって』というのは手足縛られたり口塞がれてる事で……いや、他もまるでわからんのだけど。
 わからない。なのに質問はさせてもらえない。
 声を発する事もさせてもらえないあたしの喉は、ヒリヒリとした渇きに耐えかねて唾を飲むばかりだった。
 あたしの五感は停止した訳じゃない、けれど。
 認識する視界の半分が横たわる美綴の肌の白さに占められていた。
 上気した裸体がハッとするほどつやめかしい。
 普段の美綴綾子からは、中性的なというか男の子っぽい印象を受ける。
 だがその下に隠れていた肢体は。武芸百般に通じているはずのその均整の取れた身体は、当然ではあるけれど、明らかに柔らかな少女のものだった。
 息を飲む。少年のような凛々しい印象はそのままに、晒された肢体に。
 贅肉のないすっきりとした身体つきであるけれど、その曲線がどうしようもなく少女のものである事は隠せていない。
 すらりと伸びてお尻に繋がる両の脚が、くびれた腰が、鎖骨から喉にかかるラインが。
 何よりも女である事を主張して止まない形のよい胸が、その快活な普段の印象と相まって、匂い立つような鮮やかさで初々しい少女のその艶めかしさを掻き立てていた。

「ん、ん……」

 その美綴が、僅かに恥らう声を上げる。
 何かを堪えるその表情がなまめかしい。
 滑らかな肌の上、少女の急所を遠坂の指先が掠める度に小さな声が空気を震わしている。
 恥じらいの色に染まった秀麗な顔の、美綴綾子そのもののような凛々しい形の眉が、こう、与えられる感覚に耐えかねて悩ましげに八の字を描いて堪えている風情など、

(た、たまらない……)

 のだ。ほんとうに。
 そして堪えきれずにまた呻き声を上げようと開かれた美綴の濡れた唇が、あたしの目の前で遠坂のソレによって塞がれ、くぐもった息遣いだけが耳に漏れ聞こえていた。
 そうさせているのは、遠坂凛。あたしの視界を釘付けにしているもう一人。
 ややあって美綴綾子の肢体に覆いかぶさる裸体が少しだけ離れて、悪戯に微笑んでいる。
 美綴のそれを吸った唇が濡れてツヤツヤと色めいている。
 ショーツのみを残して惜しげも無く晒した裸身が、部屋の光を受けて輝いて見えた。
 元々綺麗なヤツだとは思っていた。
 けれど、今見ている姿ははっきり言って反則だった。
 このあたしが、ちょっぴりどころでなく丸っきり敵わないと思ったぐらいに。
 手を握り合い、うっすらと肉の付いた脚を擦り付けあうのを見つめる。呆然と見やるあたしの前で、二人の媚態は続いている。
 遠坂の舌が美綴の首筋を這い、美綴の口が僅かに開いて喘ぎ未満の戦慄きを繰り返す。
 されるがままになりながら、美綴も手を伸ばして遠坂へと反撃する。でも、更にお返しされて瞬く間に蕩けさせられてしまっていた。耳を甘噛みされるその表情は恍惚としている。
 抑えきれない昂ぶりの故だろうか、美綴の手が遠坂の腕をしっかと掴んだ。
 くすりと笑った遠坂が柔らかくその手を解き、握ったその手の甲にくちづける。
 更に伸ばされた舌がペロリと美綴の指を舐めて行くのを見、われ知らず、あたしの左手は震えていた。
 そんな経験なんてない。試した事なんてない。あるはずもない、のに。
 なのに、何であたしはこんな遠坂の舌が這って行く感触をリアルに想像できてしまうのか。這う舌の熱さを、ヌラリとした感触を、指をしゃぶられる快感を理解してしまうのか。淫らなイメージを受けてしまうのか。
 現にされている美綴がうっとりとした顔をしているからか、それとも自分がされる事を期待しているからか―― 

「う……」

 はじめ、くぐもったそれが自分の喉から出た声だとは気づかなかった。
 気がついて、とっさに布を噛み締める。
 今、ここで。
 あたしは声を立ててはいけない気がした。
 身体を硬くして、縮こまる。とんでもなくいけないモノを見ている気分だ。否、私は明らかに見てはいけないものを見ている。
 なのに、眼が離せない。
 あんな風に舐められてしまったら、等と見ているだけで自分を抑えられなくなりそうなのに、見ないことが出来ない。
 美綴の指を丹念に舐めしゃぶりながら、上になっている遠坂が自らの指を美綴の顔の前に差し出した。まるで甘い餌で誘うかのように。悪戯っぽく揺らしている。
 遠坂の下で喘ぐ美綴は、トロンとした目で見て、当然のようにその指先を咥えた。

「ん、ふぅ」

 熱い吐息を漏らしながら、お互いの指を舐めしゃぶっている。
 舌の上で指を転がし吸いたてる水音。小さく低く、微かなのに何故かはっきりとあたしの耳は捉えている。否、捉えてしまう。何て気持ち良さそうなんだろう、と。
 実際には加えられていないはずの刺激の感触が、指先から背筋へと伝ってきて背中から総毛立つのを感じてしまう。なんだろう、この感覚。
 ――――おちつけ、あたし。アレはあたしの指じゃないんだぞ。
 自分に言い聞かせて呼吸を整えようとするのに、その息の熱さばかりが気に掛かる。
 何でこんなに、と思うほどに気になる。くそ、邪魔な布だ。
 それなのにあたしの中の場違い感は強まる一方。
 眼が離せない、動けない、なのに居てはいけない場所に居る確信がある。
 なにゆえに。
 何で。何故。

 ――――どうしてアレがあたしの指じゃない?

 じゃないっ、なに考えてんだあたしはっ。おおおおおちつけぇぇっ!
 確か何でここにいるのかとか考えてた筈だったのにっ!?
 バックンバックン鳴っている自らの鼓動を抑えようと躍起になるがどうにもならない。
 過敏になった神経が、脇腹と掠れる服の感触までを捉えてしまっている。
 指チュパを続ける二人を指を咥えて見ている……というとマヌケな表現だなー、とかはとりあえずさておき。ともあれ二人は互いの指に濡れた舌を絡ませあって、得られる悦楽を楽しんでいた。
 そして、それだけで終わる筈もない。終わる筈がない。
 あたしの位置からは遠坂が指をしゃぶられながら、もう片方の手を美綴の胸のふくらみへと伸ばすのが見て取れた。
 美綴はまだ気づいていない。いや、遠坂が気づかせないのか。でもあたしが見ている事は十分意識している筈――やっぱり、そうみたいだ。
 美綴の視界の外で遠坂はあたしの視線を惹くが如くにワキワキと手指を動かして、悪戯な微笑を浮かべつつ美綴の胸を不意打った。

「ひゃっ」

 小さな悲鳴を上げた美綴の胸に遠坂の指が沈み込む。
 あたしよりも大きなふくらみに沈んだ指先が、緩々と撫で回しつつ白い肌と柔らかさを堪能するように撫で回す。
 喘ぐような吐息を漏らしながら背を反らした美綴は悩ましげに眉根を寄せ、絨毯をギュッと掴んで堪えようとしている。けれど。

「フフ。綾子の、綺麗よね?」
「あ、ダメ……」

 ニンマリとした遠坂の細い指が美綴の桜色の先端をその二本の指で摘むと、美綴の声は戦慄いた。

「あたし、も」

 翻弄されつつもやはり一方的にされるのは趣味ではないのか、美綴の手が遠坂の身体へと伸ばされる。首筋に触れた力の抜けた手の平が、撫でる様に鎖骨を伝い、胸のふくらみを押し潰しにかかる。
 受けて、愉悦の笑みを浮かべた遠坂の指先が美綴の反応を窺いつつ、その突起を悪戯に転がしていった。
 いつの間にか抜け出ていた唾液塗れの右手の指で美綴の唇をなぞっていく。塗られた唾液に唇が塗れ、艶やかに光って見える。
 それから遠坂はまた綾子の唇へと指を差し入れた。
 今度は人差し指と中指の二本。

「んんぅ……」

 美綴が従順に口中のモノを舐めしゃぶるのを見ながら、遠坂は丹念に執拗に美綴の胸を嬲っていく。
 ふくらみの柔らかさを堪能するように、繊細にはっきりとしたオンナの悦楽を美綴綾子の身体に刻んでいく。その事は、されている美綴の表情を見ればはっきりと判る。否、例えその顔が見えなくても判っただろう。見ているあたしだって女なんだから。
 でも甘い感覚に浸る美綴の表情はとても扇情的でとんでもなくオンナのものででも何処までもそれはキリリと凛々しい美綴綾子のものに他ならなくてという事はそれがそうなるだけの凄い事なのであって…………ああ、なんて言やいいんだろうコンナノは?
 理解しきれない思考の交錯に惑乱する。
 けれど奥底の奇妙に冷静な部分では、あたしは身体の奥でどうにもならない熱が渦を巻きだすのを自覚し始めていた。
 そして。また、今度は美綴とあたし双方の不意を突いて。
 遠坂の指がいきなりふくらみの先端を強くギュッと摘んだ。

「ぅんっっ」
「――――っ」

 上がった、くぐもって小さな悲鳴は二つ。
 一つは固くなっていた先端を捻られた、美綴の上げたもの。口中に迎え入れていた指の所為で声は大きくならなかったらしい。
 そしてもう一つはいつの間にか魅入られて見つめていた、あたしのあげたものだった。
 遠坂の触り方は滅茶苦茶なまでに繊細で、滑らかで、見てしまえばアレで弄ばれる事を思わずにはいられないものだったから。
 咬まされた布の効果もあったし、自分でもとっさに押し殺したのだけれど、上げた声を目ざとく耳にしたらしい遠坂はほんの一瞬こちらに視線を向け、微かな、しかしはっきりとした笑みを浮かべた。クスリ、と。

 ――知られた。

 知られちゃった。
 あたしがこの事体に困惑しているだけでない事を、既にいやらしい目で見ないで居られなくなっているのを知られてしまった。
 顔が羞恥にみるみる赤くなる。
 無論、痴態を晒しているのはあっちの方だ。
 そりゃ見てるのだって恥ずかしいのは確かだけど、メインで恥らうのはあっち側のはずなのだ。なのに、なんでこうなるんだ? あたしは顔を真っ赤にして伏せてしまい、遠坂は悠然と微笑んで美綴綾子の肢体を味わっているというのは。
 そうも思ったけれど、遠坂があたしから視線を外すとやはり伏せた顔は上がって、二人の姿を目で追ってしまう。
 魅入られるとはこういう事だろうか、と頭の隅でおぼろげに思う。
 けれど、どうしたところで目は離せないのだ。それが現実。
 何故だかそれがあたしにとってのリアルとなっていた。
 この悪い夢だと思い込みたいリアルの中で、遠坂が口を開く。

「綾子、ダメじゃない歯を立てちゃ」
「あ、う……スマン」

 ホントに怒った訳じゃない声と共に、遠坂の指が美綴の口から引き抜かれる。
 美綴自身の唾液を塗りたくられたその指には、微かに歯型が幾つか刻まれてあった。
 きっとさっきの衝撃で思わず噛んでしまったのだろう。だが、前後の情景から思い起こすに遠坂のやつは確信犯っぽい。大した事はなさそうだし。

「お返しに、綾子が汚したこの指で嬲ってあげるんだから」

 そう耳元で囁いて、遠坂は濡れたその指で美綴のお臍の下辺りに触れて指をクリクリと動かした。それはきっとノックと同じ意思表示。今からこの指をその下の、貴方の女自身に潜らせてあげるという意思の宣告。
 無意識に唾を飲み込む。
 宣告を受けたのは美綴綾子。でも、唾を飲み込んだのは紛れも無くこのあたし。
 恥ずかしげに赤らんだ顔を僅かに首肯させた美綴は、やや躊躇いがちに、ちょっとだけ両の脚を広げた。それが普段はキリリと凛々しいはずの彼女の、精一杯の意思表示なのだろう。ノックに応じて扉を開く、それだけで身体を固くしてギュッと眼を瞑ってしまった。

「はい、よく出来ました」

 瞑られた眼に遠坂の唇が軽く触れる。体重の一部を美綴の身体に預けて、空いた遠坂の左手が美綴の手を誘う。さっきまで遠坂自身がしゃぶっていた指先を導いた先は、やはり遠坂凛本人の女の部分。

「いっしょに気持ちよく、ね?」

 囁くように、そして流石に抑えきれないのかやや潤んだ声で告げる声。躊躇いがちに、しかし真っ赤な顔で眼を逸らしつつそれでもコックリと頷く返答。
 遠坂の指が美綴の、美綴の指が遠坂の、僅かにある草叢を這い、侵入を許すために開かれた脚の間を通ってその先へと。濡れた両の脚の間のその先へ――
 その先は――あたしは――
 無意識にモゾモゾと両の脚を擦り合わせる。
 あたしの身体の奥で、二人が慰め合おうとしているのと同じ其処で、あたし自身が下着を濡らしているのを感じてしまう。
 今、きっとあたしは二人がしているのと同じ、欲情した女の顔をしている。
 物欲しそうな潤んだ眼で、遠坂と美綴の淫らな行いを見詰めている。
 あの二人と同じ顔で、二人と同じように、自らの秘唇を慰めて欲しくて堪らなくなっている。
 何故だろう、それが判らない。
 なにゆえに。
 何で。何故に。どうしてこんなことになっているのか。
 そして何より、どうしてあたしはココに居るんだろう。

 ――――何故あの二人と一緒に悦楽を与えられず、こんな所に一人で居るのか。

 それが、判らない。
 苦しくて、切ない。
 他の事は今この時に消えて無くなってしまう程に、堪らない。
 それほどに遠坂に胸を嬲られたい。
 美綴に指をしゃぶってもらいたい。
 体中を弄られて、このどうにもならない疼きを癒して欲しい。
 代わりに、あたしに与えられる官能ならなんでも与えてあげるから。
 だから、あたしにも。
 息が荒くなっている。心臓がドキドキしている。身体を焼く熱が治まらない。
 目の前で行われている二人の淫らな行為が羨ましい。
 目の前で弄りあい、手指を淫らな滴りに塗し、貪りあう遠坂と美綴が嫉ましい。
 秘所を探りあい、甘い声を漏らす二人に焦がれる。

「う……うう」

 なのに声が。咬まされた轡に声が出ない。
 いや、それを抜きにしても言葉が出せない。あたしも混ぜてくれと言えない。
 あたしは羨望の眼で眺めているだけなのか。そんなの我慢できるわけがないのに。
 ああなんて気持ち良さそうなんだろう。
 喉が渇く、喉が渇く、喉が渇く。
 焼け付くように喉が渇く。唾を飲んでも一向に直らない。
 遠坂か美綴の唾液なら癒されるのか?
 それとも、あの、脚の付け根から脚を伝い落ちている淫液を甘露と啜ればいいのか?
 両の脚を押し広げて頭を差し入れて、ミルクを舐める子猫のように飲み干せば。
 きっとあたしも同じように脚を、開いて――
 身体が――熱い。
 考えるだけで、更に奥から滲み出る。
 啜られる悦楽を思い立っただけで濡れてくる。
 一人よがりに悶えてしまう。
 あたし自身が疼いて、執拗に嬲り立てられるのを求めて止まない。
 あたしに見られる趣味はないのだけど。
 ない、はずなのだけど。
 動悸を抑えようと不自由な手で胸を抑えれば、敏感になった胸の先端が待ち焦がれた刺激として受け止めてしまう。鎮まらない熱を帯びた吐息が肌にかかれば、それだけでゾワリとした感覚が神経を焼く。
 我慢できない。
 我慢できない。
 もう、抑えられない。
 慰めが、欲しい。
 幸い後ろ手に縛られた訳じゃないから。
 あたしはクチュクチュと音を立ててお互いのものを擦り続ける二人を見ながら、躊躇いつつ、そろそろと動かしづらい手を自らのスカートの内へと、自らの濡れそぼったショーツの内へと――


「あら、自分でしちゃうんだ?」
「――――!!」


 瞬間。紛れも無く身体が跳ね、そして固まる。
 自分の心臓が止まる錯覚。その声の衝撃は、言葉にすらならなかった。
 恐る恐る眼を向ければ、一旦美綴を弄る手を止めた遠坂のヤツとばっちり目が合う。
 既に意識がはっきりしていないっぽい美綴も、こちらに眼だけは向けていた。
 淫らに溺れつつもまだしっかりとした声で、行為が始まってからほとんど初めて、絨毯に転がされたまま動けないあたしに声をかけた。

「それでもいいけど。それで終わっちゃっていいの?」

 からかうような声に、普段なら悪態の一つもついたろう。
 でも今のあたしは泣きそうな顔で、フルフルと頭を振っただけだった。
 このまま手を差し入れて思う様に自らを慰めれば、きっと溺れるような愉悦だろう。
 恥ずかしい手淫を見せることになってしまうが、それだって悪くしても五分五分。それ以下になる事はありえないのだ。既にあたしはあいつらのを見てしまってるんだから。
 だのに、それでも。
 あたしは。今この時のあたしは、それだけでは満たされやしない事を知っていた。
 何かを美綴に囁いた遠坂が、身体を起こす。
 身に上着も纏わない遠坂が四つんばいであたしへと近づいてくる。
 つい今の今まで、美綴綾子を蕩かしていたその当人が。
 あたしにも、シてくれるのか? あんな風に――
 まるで猫のようにしなやかに、そして艶麗な動きで寄ってきた遠坂が手を伸ばす。
 否が応にも期待してしまう。してしまって堪らなくなる。
 まず足の、それから手を縛めていた紐が解かれる。
 そして口を塞いでいた布が遠坂の手によって取り除かれた。

「ぷはっ……」

 あたしは自由になった口から思いっきり体内へと空気を送り込む。
 でもその空気もこの部屋のモノで。二人の、妖しい淫らさを交えたモノで。
 ちっともあたしの熱を冷ましてはくれず、むしろボウと頭を焼いていくような気さえした。
 だから。

「わたしと、したい?」

 もう解らない事も疑問も全て投げ打って、その問いにこっくりと頷いた。
 すぐ目の前に、遠坂凛がいる。
 あたしは潤んだ瞳でその姿を見詰める。

「と、遠坂……」

 自分の声が声が震えていた。
 自覚はできても意のままにならない。

「蒔寺……いえ、カエデ――」

 遠坂があたしの名を呼ぶ。
 なんてことだろう、あたしはそれだけで期待にうち震えてしまう。鼓動が激しくなる。
 今のあたしは酷くおかしい。
 そうなってしまった自分を思い返すことも出来ず、ただ遠坂の愉悦に塗れた顔を見る。
 そして。
 遠坂はニッコリと満面の笑みを浮かべて囁いた。

「――――もうちょっとだけ我慢してね?」


 ………………
 ………………
 …………って。なんとぉぉっ!?
 固まった。一瞬、あたしの身体は確実に固まった。さっきとは別の意味で。
 ああああああああ、なんてこったオニか貴様っ!
 ここまでやってそんなのありかっ! この期に及んであんまりだ!
 このオニ、あくま、編集者ぁぁっ!!
 その言葉がまるで腹をすかせた犬にオアズケを食わせるように思えて気に食わない。
 気に食わないがしかし。もう、ダメだ。
 あたしは涙の浮かんだ目でヤツをどうにかこうにか睨みつけ、僅かな躊躇いを拭い去って、自分のスカートを捲り上げた。

「む、無茶言うなっ。あたしもう、こ、こんなになってんだぞ……」
「うわぁ、ベトベトになってるじゃない」

 自分自身の下着のこんな状況を視線に晒すのは、凄まじく抵抗がある。
 というか正気の沙汰じゃない。
 とはいえ、既にそんな事を気にしていられなくなっていたのだ。
 だからもう、なんとかしてくれ。その指であたしをメロメロにしてしまってくれ。
 両の腿を摺り合わせてのそんな哀願だったというのに。
 遠坂は、

「やっぱりもうちょっとだけそのまま居てね?」

 なんて言ってのけやがった。それもすっごく楽しそうに。
 この、あくまめ。
 更にはその舌であたしの目に滲んだ涙をペロリと舐めとって。

「――――その代わり、後で綾子にもしたことない、凄い事してあげる」

 耳元でそんな甘すぎる殺し文句付きである。既にあたしに拒否権は残っていなかった。
 結果。
 おまたせ、とか言いながら絡み合う二人をさっきと同じく情けない思いで見守るしかないあたしが居た。

「あ、ああ……」
「ふふ……」

「うううううう、うーっ!」

 決まっている。
 あのヤロウはあたしがこうしてふくれっ面で睨みつけているのを楽しんでやがるのだ。
 この……この、正真正銘、根っからサディストのあかいあくまめっ。
 再開された二人の淫欲と陶酔と悦楽に塗れた交わりをじっと見詰めながら、あたしはまた、熱に浮かされた疼く身体とベトベトに熱く濡れ続けるショーツを抱えて、二重に泣きそうになりながら延々オアズケを喰っていたという。

 ああああ、何から何まで納得いかねぇぇ……


 /

「それで、一体なんなんだコレはぁぁぁぁっ!!」
「凄い事」

 ジタバタと暴れるあたしに、遠坂はあっさりと言ってのけた。
 声は何やら愉快そうではあったが、どんな顔して言いやがったのかは確認できない。
 表情だけでなく顔自体が見えなかったりする。
 何故ならあたしは目隠しされていたからだ。
 ……………………
 ……………………
 ……いや、途中でおかしいとは思ったんだ。
 思ったんだが……その、つい。
 また手を縛り付けられてしまっていて、身動き取れなかったりするのだコレが。
 さっきとは違って足は自由になっているんだけども――

「まー、確かにされた事はないなコレは」
「やかましい!」

 ――二人がかりというのは卑怯だと思うの。
 あたしは両手をまとめて引っ括られた挙句、背後から弓道部主将美綴綾子に羽交い絞めにされているのであった。
 あああ、背中に何か非常に柔らかい物が当たっていやがるチクショウこのぷにょぷにょした水風船はちょっぴりささやかっぽいマイ乳への当て付けか!?

「おっと。暴れるなって」

 無闇にジタジタしていると、ますます水風船が押し付けられたりした。ええい、いっそ拳銃でも突きつけられた方がまだマシだ、などと思いつつ今のところは大人しくする事にして、されるがままに美綴にもたれかかるようにした。どのみち逃げられそうにないしなぁ……
 しかし、結局延々見せ付けられた後でコレである。何で目隠しプレイなぞされねばならんのか。ああもう、やっぱり芋虫のよーに這いずってでもさっさと帰るんだった、などとブーブー悪態をついていると。

「あら、そんな事したら大変な事になってたわよ?」
「あたっ!?」

 からかうような声と一緒に、ぺしっといういい音プラス額に軽い痛みが走った。
 見えないので判らないが、きっと遠坂のヤツがデコピンでもしやがったのだろう。
 おのれ、美少女虐待は世界的犯罪なんだぞ? ちゃんと保護しろーっ。

「だから保護してあげてるんじゃないの」
「どこがだっ」

 やっぱ大人しくなんてしてらんねーっとぎゃんぎゃん叫ぶあたしの額に再びぺしっとデコピンをくれ、遠坂の声が耳元で囁く。

「だって一応、まがりなりにも、趣味によっては、マキジって結構可愛いんだから――」
「一応とか要らん前置き付けんなぁぁぁぁ!」

 厳重に抗議する。
 が、黙殺。なにやらやれやれといった雰囲気を醸し出してやがるし。
 何か黙って聞けとか言ってるが。
 だが知ったこっちゃない。さっきから理不尽づくしで気が立ってるし。
 よって構わずに文句を言い続けていると、ふと何時からか遠坂が返答しない事に気がついた。

「あれ? おい、遠坂?」

 返事がない。
 あたしの言葉が部屋の空気に溶けて消えると、部屋はいきなり静寂に包まれた。
 包まれて、そして喧騒が戻らない。
 とたん、不安になる。

「……おーい、遠坂ー……?」

 やはり返答はなかった。
 返事がない。
 応えがない。
 何も返ってはこない。
 なにしろあたしの視界は目隠しで覆われている。
 耳から入る音と皮膚感覚しか外界を認識するモノがないのだ。
 改めて人間というものが普段、如何に眼に頼って生きているかを思い知らされる。
 それを奪われたあたしは、思い知らされた分がそのまま頼りなさと不安へと変わっていくのを抑えられなかった。
 幸いに美綴綾子の抑えた息遣いは間近に感じるし、何より羽交い絞めにされていて背中にも変わらず大きめ肉まんの感触はあるのだが。
 あるのだが、遠坂の方は完全に気配を断ってしまっていた。
 いや、美綴の方だってこの呼吸の主が美綴綾子であるかどうかは確かめられない。
 そりゃ消去法でいけば美綴しか居ない事はわかっている。わかっているのだがそれでもこのうなじに掛かる息の主が見えない事も、きっと意図的なのだろうがなかなか言葉を口にしない事も、あたしを揺らしていく。
 この目で確かめられないというのは何でこんな不安なんだろう、と思っていた時、あたしは微かな床の軋みを耳にした。
 ハッとして意識を向ける。
 僅かな音を拾おうとそばだてる。
 耳に全神経を集中する。
 ――――瞬間。

「ひ、ひゃっ? ひあっ!?」

 はむっ、と。
 暖かく濡れた物があたしの右の耳に触れた。
 背筋をゾワゾワとした物が駆け上がっていく。
 瞬間頭が真っ白になり、次いで正体を理解する。
 これは、遠坂のヤツだっ。
 ヤツがあたしの耳を啄ばんでやがるのだ!
 つまり耳たぶハミハミ。
 うあっいきなり何てことしやがるっ!
 うひああああああああああっ!?

「ちょ、ちょっと、止め――ひゃあっ!!」

 制止の声は効力を持たず。
 結果。

 はみはみはみはみはみはみはみ。
 はみはみはみはみはみはみはみ。

「ああああああっ!? うひっふひゃっふぁぁぁぁぅあっ!?」

 はみはみはみはみはみはみはみ。
 はみはみはみはみはみはみはみ。

「やめっ、やめぇぇぇぇっ!! ひぁぁぁぁああああっ!?」

 はみはみはみはみはみはみはみ。
 はみはみはみはみはみはみはみ。
 ……………………………………
 ……………………………………
 ……………………………………
 ……………………………………


「――で、話を戻すとね?」
「…………………………」


 しばし後、遠坂が何事も無かったかのように切り出した時。
 あたしは息も絶え絶えでグッタリしていた。
 な、なんてとんでもない黙らせ方しやがるのか。
 おのれ遠坂めー、と憤ろうとしても無理。すでに気力足りねぇ。
 息と心拍数がとんでもない事になってるし。

「おー、お見事お見事」

 背後の傍観者ライクな声の主はとりあえずさておき。
 声から遠坂の居る方向の見当はつく。
 つくけど睨みつけてやる余力もなかった。まあ、睨むも何もそもそも目隠しされてる訳なんだけども。
 それでもなんとか文句を言おうと口を開き――

「次は左耳かしら?」

 ――かけて、完全に沈黙した。 
 ええい、なんでそう恐ろしい事をニコヤカな声で言えるのかコイツは。
 やっぱオニだあくまだ吸血鬼だっ、きっと死んでも土に埋めておいたら蘇るに違いないから土葬はダメだ、火葬を推奨するっ。トドメは山吹色の波紋疾走だっ、否、火山の噴火で宇宙に打ち上げて小惑星でゴー!。ヤレヤレだぜ。
 ……いや、とても口には出来ないけど。

「あたしもしてやろうか?」
「や、ヤメレっ!!」

 後ろから耳にフゥと息を吹きかける美綴に辛うじて応じたり。
 あたしを絶句させた事を確かめて、遠坂が改めて続ける。 

「話を戻すと蒔寺みたいな子が身動き取れない状態で転がってたら、簡単にお持ち帰りされちゃうわよ? って事」
「いてっ、いててっ!?」

『わ・か・り・ま・す・か・蒔フライ?』
 とでも言いうが如くに額をつつきまくられたり。
 ああもう、さっきのデコピンといい何でコヤツはあたしの額を集中攻撃するのかっ。チクショウあたしのデコはそんなに魅力的か、貴様はどこのビフタネンかっ。みてろよ、今に使用人にしてやる。
 でも抗議して「じゃあ耳にするわね」とか言われても困るので黙っておこう。
 それはさておき。
 遠坂の言い分に理がある事は、あたしも認めない訳にはいかなかった。
 芋虫のように這いずって遠坂邸を脱出する事がもし出来たとしても、その後誰にも見つからずに帰宅するのは不可能だ。
 もしも、そこで通りがかった人が底抜けのお人よしであればいいけれど……
 あたしも通りがかりの野郎が全て底抜けに親切であるなどと思ってる訳じゃないし、想像するだにゾッとしない事態だとて起こり得る。
 つい勢いで言ったものの、あたしにだってそのくらいの弁えはある。

「それに――」
「……それに?」

 遠坂の声が近づいて、消えた。問いかけに返答はなし。
 ついさっき耳を食まれた記憶が色濃く残るあたしとしては、これは当然のことに警戒する。
 自然と耳をそばだててしまう。
 至近の記憶、遠坂の唇と舌に耳を嬲られた感触が蘇る。
 意識すればゾクリと震えが奔るのを止められない。
 そうして緊張してしばし。
 左の耳が間近に極僅かな息遣いをとらえて。
 あたしは身体を固くして身構え――

「ひぁぁぁあああああっ!?」
「おっと、と」

 奔った何かに、思わず身体が撥ねた。
 鼓動がバクバクと早くなり、一気に息が乱れてしまう。
 あたしを捕まえていた美綴が、慌ててあたしを引き寄せた。
 ぽよんぽよんのエアバックってのは背中側にあるモンじゃないよなぁ……いや、顔の前にこんなん持ってこられてもアレだが、とか関係ない思考を過ぎらせつつ、あたしはどうにか事態を把握しようとする。

「――ほら、こんなになってる」

 驚くあたしの反応を確かめてか、微かにクックと忍び笑う声がした。例えるなら、何か悪戯が完璧に決まった時の得意そうな感じの。
 ……う、うかつだった。
 遠坂のヤツ耳に注意を引きつけておいて、不意打ちで腿の内腿に手を伸ばしやがったのだ。くそ、さっき耳を攻めやがったのからして、全部コレのためのフェイントだったんじゃなかろうな?
 ああああ、なにか撫で回す手つきがすごくエッチ臭い!?
 何とか言い返してやりたい気分ではあるのだが……そんな所撫で回されてしまうと声を抑えるので精一杯。
 挙句に柔らかく濡れた何か(きっと悪戯っぽく立てられた遠坂の指だ)を唇に押し付けられて。

「ダメよ蒔寺、こんなエッチなお汁を滴らせてるクセに外に出ようだなんて。すぐに襲われて攫われちゃうわよ?」
「ぐっ……」

 そして再びクックと喉の奥で笑う遠坂の声が耳元で囁いた。
 声とともにあたしの内腿を遠坂の指がまさぐって行く。さっきの今で濡らしてしまっているあたしの脚を。その濡れた肌の上を遠坂の指が――
 ようやく理解が到達して、みるみる顔が熱くなっていく。くそう、あたし、きっと真っ赤になっちゃってるんだろうな。
 もぞもぞと身を捻って逃れようとするが、そもそも不可能。

「うー、ううううう、うだー!」
「おおっと」
「ほら大人しくなさいな」

 結局ガッチリと脚を抱え込まれてアウトである。
 上半身は美綴のヤツに押さえられてるし、これで遠坂に脚をキャッチされては身動きできない。二人がかりって思った以上にずりぃ……
 しかし。
 こうして二人して押さえられていると、やっぱり密着する部分は増えるわけで。
 しかも二人ともさっきの今なので半裸、というか、ほとんど全裸に近いわけで。
 更に目隠しされてるせいか、全神経がほとんど聴覚と触覚に向いてるわけで。
 そして、このあちこちに触れる柔らかい肢体は、紛れも無く(認めるのはちょっとシャクだが)穂群原学園きっての美女二人のニョタイであるわけだ。
 それがこう……………………………
 …………………………………………
 …………………………………………
 …………………………………うーむ。
 たぶんコレ、あたしが男だったらきっと願ってもない事態なのかもしれんが。
 というかこれでオチない野郎はいない、美味しすぎる状況なんだろーが。
 いや、オンナのあたしでもなんと言うか、こう……複雑かつアレ気な気分になってくるのだが。
 ……などと思うと、なんであたしはこんな抵抗しようとしているのか、とかふと疑問に思ったりもしたりもするのだが。
 そもそもあたしは、どうしたいんだろーか?
 逃げ出したいのか、それとも身を委ねてしまいたいのか。それからしてよく判らなかったりする。もう何かどうでもいいような……
 だがしかしっ。
 ここはあえて、せっかくだからあたしは抵抗する方を選ぶぜ! という選択肢を選ぶ。
 そう、あたしが蒔寺楓である故に! ……いや、自分でも何が何だか意味不明だが。
 ともかくもこのままっつーのはすっごく釈然としないし。

「ええい、離せはな――うむグっ!?」

 と。
 叫ぼうとしたら、唐突に口を塞がれた。
 一瞬、また布でも咬まされたのかと思った。
 でもそうじゃない。そんなモノではない。
 凄く柔らかくて、湿った感じの、よく判らない何か。
 その正体に気づいたのはソレがあたしから離れてからだった。
 …………うあ、ファーストキスってこんなのなのか。
 じわりと認識が追いついてきて、顔が熱くなる。

「もう、暴れないの」

 仕方ないわねえとでも言いたげな声と共に頬に添えられる、スベスベした感触。恐らくは遠坂の手の平。
 気づいた途端、それだけで真っ赤になってしまって声も出せない自分が何か悔しい。
 でも、何でだろう。遠坂凛の唇があたしに触れた、それだけで、これ以上抵抗する気も溶けてしまったようになくなってしまったのは。しかもあたし今、結構ドキドキしてる。その変化に自分でも驚く。
 これは遠坂なのに。それが判っているというのに。
 ……やっばいなあ、実はあたし、鐘っちの見立て通りな感じだったりするのかなぁ。さっきのどうにも押さえの効かない状態よりも、もっと甘酸っぱい方向にドキドキしちゃってるよ。
 そんなあたしの内心を知ってか知らずか。
 身動き取れないあたしの身体に、遠坂の身体が摺り寄せられる。ピッタリと、張り付くように。云わば、美綴と遠坂の間にサンドイッチされる形。
 ああああ、何と言うか非常に柔らかい何かが押し付けられてるしっ。
 畳み掛ける様に遠坂の声が囁く。

「ねえ、蒔寺?」
「な、なんだよ……」

 動揺を知られたくなくて、ぶっきらぼうに応じる。
 たぶん無駄なんだろうとは自分でも思うけど。
 
「それ以上暴れるって言うなら――」

 遠坂の声が耳に甘く残る。
 遠坂と美綴の身じろぎが全て伝わってくる。柔らかく、柔らかくて、そしてひたすら柔らかい感触が。二人ともかなり鍛えてる筈なのだが、どうしてこう女の子の身体ってのは柔らかいのか。ってあたしが思うのは間違ってるだろうか。
 息が乱れて苦しい。鼓動がやたらと大きく思える。
 ええいうるさい鎮まれあたしの心臓! むしろ止まれ!
 いや、止まるな止まったらあたしが死ぬっ!!
 内心ちょっぴりうろたえつつ言葉の続きを待つ。
 一体何と続ける気か。『このまま放置するわよ?』とでも言うか、それとも『縄で縛るわよ?』とくるのか。
 どっちもお断りだもう抵抗できそうにないし、とか考えつつ待っていると。
 遠坂の声はようやく告げた。
 キッパリと。
 はっきりと。
 いつもの満面の笑み(予想)で。


「お尻にタバスコぶち込むわよ?」
「――――――へ?」


 ……タバスコ?
 ――――って、タバスコ?
 絶句した。
 絶句してしまった。
 一瞬、何かの聞き間違いかと思ったくらい。

「あ――」
「あ?」

 しばし口をぱくぱくさせた後。


「ありえねえええええっ!!」


 何よりも先に突っ込みを入れたという。
 そして思わず両手で尻を押さえようとして、美綴に阻まれた。
 ――正直に言おう。
 恐ろしかった。
 心底から恐ろしかった。
 何がって、その発想が。
 だってここでタバスコとくる。どういう脈絡だ。
 あのスパゲッティにかける赤くて辛いタバスコ。それが、尻。
 限りなくシュールな想像図であった。
 恐ろしすぎる遠坂凛の、その思考法。これが遠坂家に代々伝わる戦いの発想法だとでもいうのか!?
 ありえねぇ発想だ。有り得ない拷問提案してますよ、このあくま。
 想像するだに尻に火がつくとはこの事か。
 自然にガタガタ身体が震えてくる。おおおお、ヤツはデーモン族の勇者か何かか。
 ……あ? 甘酸っぱさなんてキレイに飛んだっつーの。むしろ対極。文字通り極辛。
 何故にお尻が極辛地獄の刑を受けねばならんのだ。

「あっははははははは、そりゃ酷い!」

 その美綴は美綴で、なにやらツボに嵌ったらしく身体を震わせて爆笑してやがるしっ!
 人の不幸を笑うな! 貴様など地獄に落ちて尻からハバネロの瓶漬けになりやがれ!
 まあ気持ちは判らんでもない。あたしだって他人事なら爆笑しかねない取り合わせだし。
 だがそれが自分に降りかかるとなれば別である。
 激辛カレーを食いすぎた次の日のお通じではあるまいし、想像を絶するアレ具合である。
 特に細かい部分が想像不可能なだけにオソロシイ。
 実際に尻にタバスコぶち込まれたらどうなるのかなんて知りゃしないけど、そんなモンの結果をMy尻で実証するハメになるのだけはひたすらゴメンだった。
 遠坂は美綴に「そう? 地獄麻婆じゃないだけ優しいわよ?」とよく判らない事を言い返しつつ、身を近づけてきた。
 そして。

「どう? まだ暴れるかしら?」

 断言する。
 見えないけど今、遠坂は絶対にいつも以上のすこぶるつきで爽やかなイイ笑顔を浮かべているに違いない。この女郎の事だ、間違いネェよ。
 できるなら、拳銃か何かでコイツの尻に二つ目のケツの穴を開けてやりてぇ、今マジで。
 しかし毒づくと余裕たっぷりに、あら女の子がケツの穴なんて言っちゃ駄目よ、と返される始末。更に、可笑しそうな声が耳元で囁いたりして。

「二つ目はさておき――今あるお尻の穴の運命を心配した方がいいわよ?」

 この言葉、事もあろうにパンツの上から的確にひとの尻の穴をグリグリしつつである。意図するところはもちろん、威嚇以外の何物でも無い。
 タバスコの瓶をねじ込むぞ、という最悪の。

「あ……ハハハハハ」

 冷や汗がダラダラと出てくるのは何故だろう。
 とりあえず、首をブンブンと振って意思を表明する。
 逆らってはいけない。
 こいつにだけは逆らってはいけないのだった。


 /

「ン――」

 ペタンと座り込んだまま、あらためて押し当てられた遠坂のキスをおとなしくこの唇に受ける。
 一応断わって置くがタバスコに屈した訳では決してない。別に遠坂と仲良くしてもいいかなー、と思っただけだ。信じるよーに。
 ……まあ、抗っても無駄だと思ったのは確かだけどさ。
 それはさておき。

「ん、じゃあ、あたしも」

 続けて美綴のくちづけを受ける。
 今はもう、暴れないという条件で羽交い絞めにはされていない。目隠しは遠坂の「せっかくだから」というよく判らない理由で今もって外されてはいないんだが。
 それにしても、目隠しを受けていても二人のキスが良く判る。
 二度受けた遠坂のキスと比べて、美綴のはほんの少しぎこちない。でもそれが心地よくないわけでも無い。顎に添えられた手の温もりも、唇の感触も、ほど近い人の匂いも、少しずつ違うけど悪い気分じゃなかった。
 離れた後も余韻に頭がぼうっとする。唇に残る、女の子の甘い匂い。キスが心地良いモノだなんて、あたしは今日初めて知ったわけで。……まあ、相手が遠坂と美綴だなんてのは事前の予想外もいいとこだったけれど。
 目隠し一枚向こうの、美綴綾子の息遣いを感じる。きっと少し顔を赤らめてるだろう。衣擦れの音が微かにするのは、シャツを羽織りでもしたのだろうか。まだ頬に置かれたままの掌が、熱かった。
 その美綴に、遠坂が何か囁いている。その内容までは聞き取れなかったけど。
 見えない状態を受け入れてしまった以上、何をどうされるのかは相手まかせだ。不安がない訳じゃないが……
 自分の鼓動を自覚しながら待っていると、再び美綴が近づいてくる気配がした。
 またキスをされるのかと身構える。と、美綴は方向を変えてあたしの耳に可笑しそうに囁いた。

「あたし、攻めに回るのは初めてだ」

 さもあろう。美綴に翻弄される遠坂というのはどうも想像できん。逆はありそうだが。
 ……って、マテ。それはつまり、あたしで今までの鬱憤を晴らすとかゆーことではなかろうな、とか思ったりもしたがもう間に合わない。

「ひゃっ」

 そのまま囁かれた耳をれろんと舐められた。
 今度はさっきの逆。左の耳である。

「弱いのはさっき見せてもらったからな――」

 そう言って美綴はゆっくりとあたしの耳に舌を這わせ始めた。
 熱く濡れた舌が、耳たぶを這いまわる。

「うう」

 何とも言えない感触に、思わず呻きが上がる。
 視覚を封じられた不安のあまり片手が空を彷徨い、やがて目前の美綴へと辿りつく。けれど押し返すことも出来ず、引き寄せる事も出来ず、迷うようにただ手をその肩に置いただけ。それでも自分ではない誰かの体温は、ほんの少しあたしを安心させた。
 そして、吐息がかかって。
 美綴の唇があたしの耳を啄ばみ始めた。
 熱く濡れた舌があたしの耳朶を蠢き、擽っていく。柔らかい唇が薄い肉を抓み、甘い痺れを残していく。体温を伴った息が漏れ、あたしの首筋をスッと撫でていった。

「ん……んん」

 慣れていないのだろう。美綴のその動きは、ぎこちない。けど、あたしを蕩けさせるには十分だった。なにより、あの美綴が、だ。目隠しの向こうではあの美綴綾子が懸命にあたしの耳を舐めている。いったい、どんな顔をしてあたしに触れているのだろう。
 想像するだけで、鼓動が妖しげな方向に高鳴るのを止められない。戦慄くように震える息を抑えるだけで手一杯だった。
 さっき遠坂に責められていた時のような悩ましげな? それとも、あの時の遠坂みたいな艶やかな? そして、あたしはいったいどんな蕩けた顔を二人に見せてしまってるの?
 それだけがグルグルと頭の中を巡っている。

「ふあ……」

 美綴の接吻が耳から首筋に移り、あたしの口から喘ぎが漏れた。
 同時に、ブラウスのボタンが一つずつ外され、あたしの服の前がはだけられて行く。

「う――」
「ん?」

 ちょっと待ってと言い掛けて、結局何でもないと首を振った。
 他人に服を脱がされるのは、特にこんななすがままにされるしかない時では、酷く心細い。けど、二人はもう脱いでしまっているのだし。
 あたしも覚悟を決めなきゃいけないかなぁ……
 おとなしくされるがままにブラウスを脱がされる。
 そして、確かなものを求めて改めて美綴の肩を掴もうとしたその手を取られた。
 見えないままに導かれたあたしの手は、柔らかいふくらみに触れる。

「お、おい?」
「ふふ、蒔寺だってされっぱなしというのは嫌よねえ?」

 やりとりから察するに今触れているのは美綴の胸で、そう導いたのは遠坂らしい。
 ――これが美綴の、胸――
 頬が火照る。喉が渇くのを感じて知らず唾を飲み下していた。
 掌から伝わる感触は、自分のとは比べ物にならないほどふくよかで、柔らかい。
 さっきの遠坂との睦事の時に目では確認していた。しかし実際に触れてみればまた違う。美綴の均整の取れた肢体に隠し持ったこの膨らみというのは、一体どういう反則だ。自らの薄さ加減を思い返せばおもむろに悲しくなったりもするが。
 つくづくと思い出す。先ほど触れた肩の線。そこから流れるようなすっきりした二の腕と、鎖骨。そして今触れたふくらみ。
 こいつ性格はさっぱりと男前の癖に。

「……身体はおもいっきり女の子なんだよなぁ」

 つい、ポロッと本音が漏れた。

「な、なぬ?」

 返ってきたのは何故か動揺した美綴の声。
 そして、あかいあくまのクックと苦しそうな忍び笑い。

「そうよねぇ、可愛いわよねぇ綾子って」

 可笑しそうな遠坂の声に、美綴は憮然としているっぽかったが。それとも、照れて顔を赤らめていたのか。今の美綴の顔を見損ねたのは、かなり残念である。

「ええい、言ってろ」

 ブラウスに続いて、シャツもブラも手早く脱がされた。
 上半身の着衣を全て脱がされ心細い。思わず、手にした美綴の乳房に触れた手に力が入った。指がそのふくらみに、埋まる。

「あン」

 ……今のやけに可愛い声、美綴だよな?
 一瞬耳を疑ったのは秘密にしとこう。
 それはさておき。意外に気持ちいいな、胸を揉むのって。
 そういや従姉妹のねーちゃんが揉み魔で、飲み会の度に周囲の娘の乳を揉みまくってたらしいけど。本人曰く『揉まれるのは嫌だが揉むのは好き』だそうだが、何となく分らないでもない。……あたしは揉まれた事ないけどな。クソゥ、あたしの胸じゃ食指が動かないってのか?
 いやまあ、閑話休題。

「う……くそ。反撃だ」

 我に返ったらしい美綴の声と共に、あたしの胸に何かが触れた。
 おそらくは、美綴の掌。
 俗に掌を当てることを手当てというように、暖かな体感触が私の胸をすっぽりと覆う。
 けれどそれで思い出す。上半身脱がされたって事は、今、あたしは二人に比べて明らかに貧相な自らの胸をその目の前に晒していた。

「わわ……な、なあ、あたしの胸なんて触っても面白くないだろ?」

 つい気後れして、自らの胸を両手で隠して後じさる。
 でも、離してくれない。張り付いた美綴の掌は、あたしの胸から離れない。
 むしろ、遠坂と二人がかりで胸を隠した両の腕を引き離される。

「そんな事ないぞ。しっかり柔らかいし」
「そうそう、可愛いわよ」

 緩やかに美綴の掌があたしの胸の片方を撫でていく。
 僅かなふくらみを感じ取るように、力を抜いた手があたしの胸を捉えている。
 初めての感覚を、あたしは戸惑いつつも受け入れる。美綴の掌と指の下で、擦られた先端が敏感に反応し始めていた。声を漏らさないように、口を閉じておく。
 瞬間。

「ほら、こんなに可愛い――」
「ひゃっ」

 手とも違う感触が、あたしのもう一方を捉えた。
 その正体はすぐに思いつく。遠坂の、あたしの胸へのキス――
 遠坂が、下着姿の遠坂があたしの胸に顔を埋めてくちづけている。あたしの背中に手を回して抱きしめ、床に手を付き、姿勢を低くしてあたしの胸へと潜り込んで、そして――
 そんな図が唐突に脳裏に描かれてしまってうろたえる。その間にも、一旦離れた遠坂の唇が再びあたしの胸を捉えていた。

「ん……ふぁ……」

 愛撫というのとも違う、愛しむ様なキスの雨。そして、優しく撫でる掌の感触。
 悪戯というにも優しすぎる、二人の戯れ。
 迷った末、二人の手と頭に上からそっと両の手を重ねた。

「おっ?」
「ふふ」

 戸惑いと微笑。
 うう、きっとあたし真っ赤になっちゃってるだろうなぁ。
 などと思っていると、唐突に口を塞がれた。それも口づけで。
 目隠しの下で目を白黒させて、それから理解する。遠坂はまだあたしの胸のところ。だから今あたしにキスしてるのは美綴か。

「な、なんだよ、いきなり」
「いや、蒔寺が思ったよりも可愛かったから」

 そ、そんな理由でキスするんじゃない。
 言い返しようが無いじゃないかっ。

「しかし、二人がかりでマキジを攻めると結構動きにくいなスペース的に」
「んー、じゃあ……」

 へどもどとあたしが言葉を捜している間に、二人の間で話が進行する。
 ……むう、よく聞こえないけどきっとロクな事じゃないだろうなぁ。
 などとあたしが考えてるのに気づいたかどうか。
 あたしを蚊帳の外になにやら話が成立したらしく、二人の身体がゴソゴソと移動した。
 ど、どうする気だ?

「いや、つまりあたしが上半身担当で」
「わたしが下半身担当にしようか、ってね」

 う、うえっ、下半身!?
 思わず腰が引けそうになり、また美綴に抱きとめられる。今度は前から。
 さっき羽交い絞めにされていた時とは違って今はあたしも裸の胸を露にしている。
 そのあたしの裸体に腕を回し、美綴があたしを正面から抱きしめた。背中に回された両の手から、あたしの胸と触れて柔らかく潰れるふくらみから、美綴の温もりが伝わってくる。
 そして、もう一度キス。
 ほんの少しだけ躊躇って。
 優しいキスを受け止めて、それからおずおずと美綴の背中に手を回した。
 クスリと微笑んだのか、美綴の口の端が僅かに動く。それを、痺れる様な感覚と共に感じていた。
 やがて、甘いキスが離れて。
 そして耳元で囁かれる。

「大丈夫。何も怖くないから、さ」
「――あ、う、うん」

 身体はまだ抱きしめられたまま。縋りつくように抱きしめたまま。
 心臓は凄くドキドキしてる。吐息は熱い。
 不安な気持ちがなくなった訳じゃないけれど。
 それでも、あたしは二人に身を委ねた。
 ……しかし。鐘っちとの会話で裸で抱き合って唇を吸いあうあたしと遠坂を想像してげんなりしたのはついこの間の話だというのに。それがそのとおりの事を、それも相手が遠坂ですらなくて美綴であるというのに、それでもその行為があたしの頭をポウッと蕩けさせるのは、何故なんだろうか。
 あたし、元々こっちの気があったのかなぁ……

「ふふん、女殺しね綾子ったら」
「アンタがあたしにやった手管だ、アンタが」

 ――って。せめて聞こえない所で言え、そういう事はっ!
 ちくしょう、真に受けたあたしが馬鹿みたいじゃないか。
 おまいら必要以上にあたしを反抗させようとしてないか? タバスコ用意した上でよう。

「ああ拗ねないで。マキジったらいちいち可愛いんだもの」

 フォローのつもりなのかあたしの靴下を脱がしていた遠坂が、ぽんぽんと宥める様にあたしの脚を叩く。
 くそう、良い様に玩具にされてんなぁ。

「いいじゃない。わたしとしたかったんでしょ?」
「……い、いや。そりゃ、さっきはそう言ったけどさ……」

 遠坂に手早く靴下を脱がされつつ、言い訳を探すあたし。
 うー……駄目だ、一度あんな返事しちゃったら取り返しなんてつかない。

「ならいいじゃない」

 遠坂の両の腕があたしのむき出しの脚に絡みつき、愛しげに捧げ持つ。
 そして、足の甲に柔らかく濡れた何かが押し付けられた。
 ……って、何かって!

「と、と、と、遠坂! おまえ、今、あたしの足に!」
「ええ、キスしたけど?」
「さらっと言うニャあああ!」

 うおう、動揺のあまり噛んぢった。ニャあってなんだニャあって。
 というかそもそも、遠坂があたしの足にキスをするって何だ!
 確かにそんな妄想をした事はないでもないけど。遠坂がかしずいてあたしの足に口づけるという、ぶっちゃけ、あたしの足をお舐め系のおバカ想像図だが。しかしいざ実現してしまうととんでもなくドギマギしてしまうのは何故だ。
 もう今日のここまでの展開の所為で大概の事じゃ驚かないと思ってたんだがなあ。
 クスクスと悪戯っぽく笑う気配と共に、遠坂の声。

「だって穂群の黒豹と呼ばれた名スプリンターのナマ脚よ? 流石にほれぼれするわね」
「ううー……」

 判ってる。こいつは、このあかいあくまはあたしが照れて真っ赤になるのを楽しんでいる。それが判ってるのに、顔に血が昇っていくのを止められない。羞恥と気恥ずかしさで全身真っ赤になっていくのが見なくても判る。
 そんなあたしを見ている遠坂と美綴は、いったいどんな顔をしてるんだろう。
 少しでも身を丸めようとするあたしの肢体を捉えて離さない二人。幾ら嫌がるそぶりを見せても、ある種の期待故に本気で抗うことは既に出来ない事を知っている、柔らかな扱い。

「乱暴になんかしないわ。優しく優しくいぢめてあげる」

 宣言するようにそう告げて。
 そうして遠坂の口づけがあたしの脚に降り注いだ。
 まずはつま先の爪に。
 そして突き出されたザラザラの舌があたしの指に沿って這い回り、熱い唾液を跡に残す。

「ひゃっ、ひ、う、あ?」

 頭が動転して、上手く言葉にならない。
 幻覚だこんなの現実の筈ねェよ! と理性が机を叩いて主張する一方、こんなリアルな幻覚あるかよだからお前はアホなのだあっ! と五感がちゃぶ台ひっくり返していた。
 親指の先から根元へ、次は人差し指を根元から先まで、ぬめる熱が蠢くだけで、全身に鳥肌が立つ。
 不意打ち気味に中指を口に含まれ、しゃぶられながら甘噛みされた時には泣きそうになった。

「や、やめ。それ止めて!」
「あら、どうして?」

 ちゅうちゅうとあたしの指を吸いながらの、問いかけ。答えに詰まるあたし。
 遠坂があたしの足を舐めている。というのに、立場は完全にあっちの方が上。あたしは文字通り手も足もでやしない。
 脛に。それから膝頭に。遠坂の唇があたしの脚を吸っていく。唇が肌に吸い付き、その隙間から這い出た舌が、敏感になったあたしを擽っていく。少しずつ、じれったいほど少しずつ、遠坂の愛撫があたしの脚を進んでいく。
 それに連れて、遠坂の触れた場所からじわじわとあたしを蝕んでいくような、暗い熱。あたしの中に流し込まれ、渦を巻き、あたしの中にたまっていく淫らな滓。
 ぞわぞわと別の何かに飲み込まれていくような、期待と不安の入り混じった感覚が低温で炙られる様にあたしを少しずつ焦がす。その度に漏れる切ない吐息をあたしは止めることができない。

「おっと、そっちだけじゃないぞ」

 声と共に美綴の指があたしの頤にかかる。
 少しだけ上を向かされて、そしてあたしは美綴のキスを受ける。
 背中に回されたままだった両の腕に抱かれるように身体を折り曲げ、その背にしがみつくように手を回して、上からのキスに応える。
 見えないけど、美綴がクスリとまるで遠坂のように微笑した気がした。

「ん、んん!?」

 強引にあたしの口をこじ開けて、美綴の舌が進入する。
 自らの口腔内に這い入る、意思を持って蠢く熱く濡れた肉の感触。自分のものではない唾液があたしのものと混ざっていく。その交じり合った液体を喉の奥に嚥下すると、身体の内側から焼かれるような錯覚を覚えた。
 普通のキスだって今日初めて経験したあたしだ。だから、もちろんこんな体験なんてあるはずない。ましてや、見て確認する事すら封じられてるんだから。戸惑い、困惑、ためらい、混乱。そして不安。もろもろの雑多な感情に整理がつかないまま、ただひたすらに手に触れる身体にすがりつく。それがあたしと美綴との密着度を増し、より深い進入を許すことになるとしてもそうせずにはいられなかった。
 いいように口づけをむさぼられ、舌伝いに唾液を流し込まれながら、その身体の体温を拠り所にするしかない。その綺麗な胸に自らの胸を押し付け、潰れるふくらみの下の心音を重ねる。少女らしい細い背中に腕を回し、滑らかな背中に肩甲骨の形を感じ取る。そうやっていなければ、今にも逃げ出してしまいそう。
 弓道をしているだけあってか力強く自分の背中に回る手のぬくもりが頼もしく、あたしはその腕に身を委ねるばかりだった。

「ほんと、可愛いなぁ……予想外に」
「でしょ? マキジって本当は愛らしいのよ」

 しがみついて乱れた吐息をつくあたしに、二人の声が聞こえる。
 でも、もう言い返す余力はなかった。
 息を整える間も無く、美綴の蕩かす様なキスは再開される。

「ふっ……ふぅ、ン」

 口中を美綴に貪られる。その動きを自らの舌で追い、不器用に、ぎこちなく絡めていく。それが今のあたしに出来る精一杯。
 口の端からこぼれ落ちる液体を、美綴は優しく舐め取りあたしの中へと戻す。熱い舌から受け渡されたそれをあたしはまるで美酒であるかのように身体の中へと流し込む。酒精のまったくないカクテルが、あたしを恍惚とさせていく。
 そしてずっと続けられていた遠坂のキスも、既に膝の内側にまで上っていた。

「ん、もう少し脚を開いて」

 遠坂の要求に、あたしは見えないまま素直に従う。
 それがどんなはしたない姿を晒しているのかと思えば泣きそうになるが。

「ひぁ、う」

 膝の内側から更に進み、腿の内側に口づけられて思わず声を上げた。
 視覚を奪われて神経が敏感に成っているのか、遠坂のキスに肌が総毛立つ。そこからあたし自身まではもはやほど近い。ぬらりとした舌の感触が直接に響くようで、あたしは自身が昂ぶるのを自覚していた。そう、未だ直接には触れられていないそこが、既に熱い。期待してしまっている。何を? それは――
 そんなあたしを知ってか、遠坂はゆっくりゆっくりとあたしの脚を自らのモノにしていく。普段グラウンドを爆走する力を生み出すこのあたしの脚が、遠坂の熱く濡れた小さな舌の前ではまったく抗えないでいる。それどころかその舌がヌラリと這う時に得られるゾクゾクとした感覚を乞うて、その身を投げ出している。早く唾液の跡を残す遠坂の舌と唇の愛撫が欲しくて堪らず、期待に身を焦がしながらはしたない姿を晒している。
 遠坂の導くままに膝を立てれば、スカートの布地が腿を滑っていく。それは理の当然ではあるのだけれど。けれど――想像してしまっては羞恥に懊悩する。あたしの脚に顔を埋め、その情景を目の前にする遠坂の視界には、あたしの下着の恥ずかしい染みまでが全て露になってしまっている筈。
 い、いや。意識しちゃ駄目だ。意識しちゃ駄目だ。意識しちゃ駄目、なのに。
 意識してしまえば、身体が勝手にジワリと反応するのを止められないのに。

「あら、また濡れてきたわよ?」

 耳に届く声にビクリと身体が震え、脚が戦慄く。
 そう言った遠坂の顔は容易に想像がつく。羞恥を煽り、昂ぶらせ、あたしを欲情に悶えさせる、艶やかな表情。あいつはきっと、あたしにリアルにこの想像をさせる為に、美綴との睦言を先にあたしに見せたんだ。それが判っても、止められない。止められるはずがない。
 見えないあたしの視界には、艶やかで淫らな顔で喘ぐ二人の姿がありありと映し出される。そして、それと同じ顔をしてあえぐ自分自身の姿も。羞恥と共に淫らな期待があふれ落ち、あたしの身体を濡らしていく。
 また、ぬるりと舌があたしの脚の際どい所を掠めていった。

「うふ……あ」

 背筋を奔る何かに身体がいやらしくくねる。
 脚に触れる遠坂と、すがりついたままの美綴の肢体と、あたしの身体が擦り合わされて、熱を孕む。逆らいがたい、甘い甘い蕩ける熱。あたし自身を蕩かす、じれったい衝動。
 触れ合う美綴の身体との隙間で、あたしの薄い胸の先端が痛いほどに硬く尖っているのを感じていた。

「ん……んん」

 耐え切れず、むしろその先端を擦り付けるように美綴にすがりつく。
 狭間で潰れて滑る胸の柔らかさが熱く尖ったそれに心地よく、あたしは震えるように熱い息を吐いた。
 しばらくそうやっていてふと気づく。
 肩にかかる、ギュッと抱きしめている美綴の吐息も、あたしに負けないくらい熱かった。
 意識を集中すれば、あたしのと擦りあう美綴の胸の先端も堅くなっているのが判る。
 ――美綴も、感じてる。あたしと抱き合って、気持ちいいんだ。

「あ、は」

 自らの胸の先端を美綴のそれに重ねて押し付ける。
 そして上向き加減に口を開いた。
 意を汲んだ美綴のキスが、重なる。
 ぴちゃぴちゃと舌を交えながら、胸をゆする。硬い突起を美綴のそれに擦り付けると、切ない吐息がキスに混じって溶ける。
 口づけを続けながら美綴の背中に回していた腕をそっと戻し、美綴の胸との間に滑り込ませる。掌の中におさまる、美綴綾子のふくらみ。

「ひぁん!」

 切ない声を間近に聞く。
 きっと今、眉を悩ましげに八の字にしていることだろう。その声を塞ぐ様に、今度はこちらから口づけた。
 ……見えないので少しずれて鼻をぶつける。修正してキス。
 口づけながら、美綴の胸に指を這わせていく。鎖骨から、柔らかくふくらんだ女の子の胸がなだらかなカーブを描き、その先端を通り抜けて肋骨にたどり着く。ふかと指が沈み、けれど瑞々しい張りが沈む指を押し返す。その感触がたまらない。音を立てて美綴の口を吸いながら、繰り返しその曲線をなぞる。指に触れるその先端をくすぐる様に撫で続ける。そこがあたしと同じように硬くなっている事が、歓喜を誘う。ついさっき、あたしのそれと擦り合わせていた、欲情の証明。その優美な先端にキスの雨を降らせたい衝動にも駆られ、しきりに喉が渇く。
 あたしの指が動くたびに、直に塞いだ実綴の口のその奥で、途切れ途切れの喘ぎが漏れるのを感じる。その甘い吐息を自らの喉の奥に落ちていくと、美綴の熱があたしに流れ込むようでくらくらする。
 しかしそれもつかの間。

「……ぷはっ。おかえしだ」

 あたしの口づけから逃れた美綴に反撃された。
 美綴の指があたしの胸に触れ、ついと滑る。
 と、いきなり胸を奔る刺激。

「ひあっ!」

 喉から悲鳴が漏れる。
 美綴が、あたしの薄い胸の先端を抓み、弄くりまわしているのだと気づいたのは数秒以上たってからのことだった。

「あ、ひ、みつ、美綴! それ、それは……くふ、ぅン」

 敏感な先端を転がされる刺激に声が震える。自分のものとは思えない艶っぽい声が途切れ途切れに行為を止めようとするけれど、まるで意味を成すことができない。甘い甘い泣き声だけが喉から漏れ、あたしは美綴の指に転がされ続ける。
 バランスを保つ事すら出来なくなり、美綴の身体に倒れこむ。

「ふあっ、あ、はぁ……駄目、駄目だって……ひぃん!」

 少女の身体にすがりつき、その肩に顔を埋め、その手に背中を抱かれながら、あたしはその指に翻弄され続ける。身体の芯に直接触れられ愛撫されているようで、耐えられない。身を捩るのは逃れる為ではなく、じっとしていられないから自然と肢体を揺すってしまうだけ。口にする言葉とは裏腹にじんじんと疼く突起を潰されて甘く切ない声を上げ、溢れ出る蜜にはしたなく下着を濡らしていく。
 追い打つ様に、内腿の際どい所を唇で甘噛みしてくるのは遠坂の仕業。柔らかく噛んで、舌を滑らせ、下着越しにふうと息を吹きかける。焦れったくて、切なくて、いっそその顔をあたしの其処に押し付けてしまいたくなる。そんなもどかしさを知った上で、あえて柔らかい丁寧な愛撫を繰り返すあくま。まるであたしの脚を丸ごとしゃぶり、溶かしていくかのよう。脚を上に持ち上げられて、肩に担がれたみたい。戸惑いとおびえが抑えられず、それでもいいようにあそばれて抵抗の欠片もできない。
 翻弄され、戦慄くあたしに美綴が間近でううむと唸る。

「蒔寺のこんな顔を見たヤツなんていないだろうなぁ、と考えると何か優越感を感じるな」

 恥ずかしさに埋めた顔を持ち上げられ、情けないほど息を乱された口をまた吸われる。
 胸は今もいじられ続け、頭が追いつかずにショートしてしまいそう。
 それでも流されるままに与えられるだけ、というのは嫌だ。
 舌を啄ばまれ、唾液を啜られて、息も絶え絶えにキスに応えていく。

 ――だって、あんなに淫らで艶やかで、気持ちよさそうだった。

 脳裏を遠坂と美綴の戯れが掠めていく。二人で互いに秘所に指を這わせ、その指を舐めあい、淫靡な秘め事を楽しんでいた。あたしはそれを羨ましいと思ったんだ。二人のその関係を。あたしだって――あたしだって、遠坂や美綴にあんな顔をさせてみたい。今、あたしが見られてるんだろう、そんな顔を。
 封じられた視界の中、おぼつかない手を必死で美綴の胸へと伸ばす。
 けれど、その手は途中で受け止められた。

「あ……」

 思わず漏れた声に落胆の響きが交じる。
 喉の奥で鳴るような可笑しそうな微笑は遠坂の声。
 伸ばしたあたしの右手は遠坂の手に捉えられていた。柔らかく捕えられて動かせない。
 美綴はますますあたしの胸を、唇を、弄んでいるのに。遠坂だって。なのにあたしは。
 そんな不満が顔に出たのか、気づいたらしい遠坂の声が楽しげに囁く。

「おイタがしたいのね? だったら――」

 あたしの手が、遠坂の誘うままに動かされる。
 導かれたその先は。

「お、おい?」

 美綴の、胸から下がってお腹の中ほど。
 戸惑う美綴の声には応えず、そこからゆるゆると誘う手が下がっていく。
 そうして、あたしの手は美綴の下着にたどり着いた。彼女が唯一身につけている、最後の布切れ。そこに指がかかると、美綴の腹筋はビクリと震えた。
 
「どう? 綾子をいい声で啼かせたいと思わない?」
「あたしかよっ!」

 美綴の抗議も意に介さず、遠坂の声があたしを惑わし、あたしの右手は誘われるままに揺れ蠢く。正直戸惑ってた。確かに一方的に可愛がられるだけってのは抵抗があったけどさ。いきなりの立場転換に、ついていけないんですけどー。
 え、いいの? って感じで。

「だって、綾子もそろそろ限界でしょ?」
「いや、あたしは別に、その……」
「蒔寺に見えないからって嘘はダメ。とっくに下着を濡らして腿を擦り合わせてる癖に」
「そ、それは……ふあッ」

 遠坂は問答無用であたしの手を美綴の下着の中に滑り込ませた。
 初めに感じたのは、薄い布切れと肌との間に篭った体温の熱。それから指先が淡く柔らかな毛をかき分ける感触。手の甲には蛇のように絡みつく、遠坂の指。その誘いによってあたしの指はその先へと進む。
 正直、躊躇いはあった。
 だって自分のはともかく、他の子のソコなんて触れた事もない。今日、こんな事態になるまでそんな事は考えたこともなかった。けれど、今は。目蓋の裏に互いを慰めあい、絡み合う二人が焼きついてしまっている今はもう、引き返せない。
 自然と鼓動が激しくなり、乾いた喉を潤すために唾を飲む。
 誘いに抵抗せず、むしろ僅かながらも自らの意思を込めて、この手を這い進ませる。
 そして。
 あたしの指先はヌルリとした熱いぬかるみに埋もれた。

「ひぅ、ンっ――」

 上がった声は途中でかみ殺され、くぐもった呻きだけが耳に届く。
 代わりに間近な美綴の身体が緊張に強張り、確かな物を求めてか、手近なあたしの頭をその胸にギュッと抱きしめた。顔が、美綴の乳房に埋もれる。その張りのある感触は非常に陶然とするもので、鼻腔に美綴の、上気した少女の肌の匂いが充満してドギマギする状態であったけれども。でも今はそれよりも指先に触れる感覚に心を奪われていた。

 ――これが。ここが美綴の――

 触れてはいけない場所に触れている。
 そんな背徳感は常にあたしの心の片隅を支配し、鼓動を早くするのに一役買っている。
 この指先を濡らし、絡みつく蜜は美綴綾子の蕩けた証。あたしや遠坂との戯れに感じた少女の証明。そう思えば、改めてゾクゾクした何かが脊髄を駆け巡り、身体が震える。遠坂に指摘されるまでもなく、あたしのソコは、秘めやかなる唇は共鳴するように淫らな蜜を滴らせた。
 じゅわりと自分の内から蕩け出る様を間近で遠坂に見られている。それも、吐息がかかるほどの至近で。その事実があたしの羞恥を焼き、身体の内側から焦がしていく。その熱に突き動かされてあたしの指は美綴のそこをまさぐっていく。

「んあっ、ひや、ひふ……っ! 駄目ぇっ」

 顔にますます美綴の胸が押し付けられ、身体が悩ましげに揺すられる。
 たとえ目隠しが無くても肌色しか見えないだろうほど頭を抱え込まれながら、感覚だけを頼りに指先が美綴綾子の秘部を這う。
 あたしだってオンナだから、自らの体験に基づいてそこの慰め方は知ってる。えと……
 布団の中で声を噛み殺した記憶。身体を丸め、枕に顔を埋めたはしたない記憶を辿りながら、二本の指が秘肉をなぞる。
 ほんの少しあたしが指を動かすだけで、新たな蜜液が止め処も無く溢れ、切ない吐息が降りかかる。胸の肉が戦慄き、あたしの顔を擦っていく。美綴、すごく感じやすいみたいだ。そりゃー遠坂にいい様に啼かされるわなぁ、この敏感バディなら。そういえば、その遠坂のヤツはどうした?
 いつの間にかあたしをけしかけた張本人の動きが消えてることに気づいて耳を澄ましてみると、ボソボソと聞こえた声が以下の通り。

 ――ああん、わたしの指しか知らなかった綾子が、他の女の指で喘いでるぅ――

「………………おい」
「………………ちょっとマテ、そこの倒錯性変態症候群患者」

 黄色い救急車に乗るべき患者がそこにいた。
 いや、だって他に何と呼ぶんだあたしの脚の間ではぁはぁ息を荒げてごろごろと身悶えている、こういう輩。
 見えてないのにこの瞬間だけ、あたしと美綴の心は一つである。間違いなく。
 やがて自分に向けられる微妙な視線に気づいたのか、コホンと咳払いが一つして。

「いえ、その……適度なじぇらしーは睦まじい性生活には必要よね?」
「…………明らかに適度ってレベルじゃなかったと思うが」

 というか、ジェラシーとかそういう意味合いだったか? 今の言動。

「今に判るわよ」

 そう言って遠坂はチュッと口づけを再開した。
 ただし場所はあたしの脚ではなく、あたしのショーツの上にダイレクトに。

「ふあっ」

 微妙に曖昧になってた精神はともかく、既に焦れきっていた身体はたやすく遠坂の誤魔化しを受け入れ、反応する。そしてすぐに身体に引きづられてしまうあたし。弱いなぁ……
 自嘲もつかの間。
 履いたまま、濡らしてしまったショーツをちゅうちゅう吸われて悶絶する。
 ひあ、ちょ、おまっ、うえっ!?

「これが蒔寺の味なのね」

 羞恥に悶えるあたしを余所に今にもううんティスティーとか言いそうな遠坂であった。
 続いて薄い布越しに遠坂の舌が、あたしの形をなぞる。あたし自身の、本来的には男を迎え入れる為の、入り口の形。
 熱く自在に動く舌先がぬらぬらと秘唇を這い回り、唾液と愛蜜を絡めあわせ、あたし自身を撫でていく。

「――ッ、ああ……ン、ひぁぁ……」

 声を漏らすなというのは無理だった。
 散々おあずけを食らい、じれったいほどゆっくりと蕩かされ、その果てに与えられた、待ち望んだ感覚。身体が更に深い接触を求めて無意識にくねる。両の腿で遠坂の頭を挟み込み、動きづらいと押し広げられて、それでも小刻みに動いてしまう。
 ――知らなかった。あたしがこんな痴態を演じられるなんて。
 口先ではともかく、自分に色気などというものは諦めていたのに。
 おそらくはワザとなんだろう。目隠しをしたあたしにも分かる様に、遠坂は水音を立てるように立てるようにあたしを舌先で転がしている。
 美綴の胸に押し付けられたままの口から漏れる息が熱く、頬に当たるふくらみを滑っていく。その所為でもないだろうが顔に押し当てられるふくらみもまた熱く、その奥の鼓動が激しい。
 あたしを弄る遠坂の舌に耐えかねて、無意識に顔を振る。と、そのジンジンとしそうなほど昂ぶったその頂点が口の端を刺激する。深い考えも無く、あたしはそれを自らの口に含んでいた。

「んんっ、マキ、蒔寺っ」

 あたしの頭を抱きしめる手に力が入り、ますます押し付けられる。
 下の遠坂から与えられる快楽をそのまま与えるかのように、口に含んだそれをチロチロと舌先でくすぐった。
 きっと今、美綴は眉に八の字を描かせて、白い健康そうな肌をほんのりと朱色に染めて、そして尖らせた胸のふくらみの先端をあたしにいいように転がされて、でも決して嫌がってはいなくて……
 それはあたしには見えない光景だけど。
 でも先に見てしまった情景があたしにまざまざとその様子を目蓋の裏に映しだす。
 あえぎ声と、肌から伝わる肢体のくねり、それに絶えることなくあたしを満たす美綴のオンナの匂い。それがあたしを恍惚とさせて止まらない。
 あたし自身も遠坂の責めに下半身が蕩けていく。それを美綴にも伝えたい。

「ひん……マキ、下の方も……その……」
「ほら蒔寺、催促されてるわよ?」
「あ、うん」

 少なくとも、この三人の中では一番ふくよかな胸を変わらず舌で味わいながら、下着に滑り込ませた指の方も動きを再開する。クチュリと音を立てて、美綴の媚肉をかき混ぜた。
 嬉しげな嬌声が、頭の上で歓喜を表す。
 唇をなぞるように、それからその狭間を指の腹で撫で上げる様に。そしてその端の肉の宝石を指先でくすぐるように。まるで遠隔に指示されているみたいに、あたしは自らも悦楽にあえぐ声を漏らしながら、遠坂の舌の動きを指で再現する。自然、美綴とあたしのあえぎは二重奏のように室内に響き、折り重なるように溶けていく。はたしてこれは指揮者たる遠坂の意図の通りなのかどうなのか。ぼんやりとそんな事を考えながら舌の動きに蕩け、舌と指で女体を蕩かせていた。

「じゃあ、そろそろ見せてもらおうかな」

 しばらくして遠坂の声がそんな事を言った。
 何を? とふと疑問が湧いたけれど、その答えはすぐに分かった。遠坂があたしのショーツの両端に指を掛け、引っ張りおろし始めたから。
 上はもう脱がされている。下の方は靴下のみ脱がされて、まだスカートと下着が残っていた。ショーツを脱がされればスカートが残っていても意味は無いけど。
 ここまでされたらもう……と思う一方で、やはり羞恥を掻き立てるのも事実でちょっと躊躇う。

「いや?」
「う、えと……」

 本当はそんなに嫌じゃない。ただ恥ずかしいというか、なんというか。
 結局散々あーだのうーだのと唸った挙句に。

「……遠坂と美綴も脱ぐんなら」

 と言う事にした。
 振動で伝わる、懸命に笑いを噛み殺す遠坂の気配。
 ああくそ、やっぱり笑われた。

「はいはい、いいわよ。綾子は脱がしてあげるから動かないで」
「あいよ」

 憮然とする私を余所に、遠坂はゴソゴソと下着を脱ぐ気配。
 そして、あたしが手を差し入れていた美綴の下着も続いて引きおろされた。

「ふふ、綾子ったらこんなに。ショーツとの間に糸引いてる」
「い、言うなバカ! 蒔寺には見えてなかったのにっ」

 いやまあ、こっそり目隠しをずらしてみようとした気持ちは分かってもらえると思う。
 しっかり見つかって出来なかったけど。
 目ざといなぁ……

「綾子はそのまま蒔寺に可愛がられてなさい。あたしは蒔寺を可愛がってあげる」
「ちぇっ、攻めに回りそこねた」

 目隠しの向こうで、やりとりが行われている。
 しかし、それでいくのなら遠坂は?

「あたしは気にしないで。何なら次は二人がかりでわたしに挑んでみる?」
「それいいなあ」
「う、うん……」

 何となく話がまとまって、事態は元に戻る。
 つまり、あたしのパンツが脱がされる番である。
 二人が先に脱いでしまったので、今度は逃げられない。

「ほら、覚悟決めろー」
「わ、わかってるってば」

 相変わらず美綴に抱かれたままの頭をぐりぐりされて、覚悟を決めた。
 ――で。自分で脱ごうとしたら止められた。何故だ。

「バカね蒔寺。可愛い女の子のパンツは自分のこの手で脱がすのが浪漫なんじゃない」

 力説された。
 たぶんいつものいい笑顔でそう言ったのだとは思うが。……思うが、しかし。
 薄々感じていたけど、遠坂ってやっぱどっか。

「気にしないでやってくれ。遠坂は少し、変態なだけだから」
「うん、気づいてた」

 美綴のフォロー(?)にあっさり応じて、その話はそのまま流れる。
 単なる事実だし。

「ちょっと、二人して何よ」

 いやそのまま流しとけよ。
 それはさておき――

「いや、おまえの様な変態を待っていた、と蒔寺が」
「これっぽっちも言ってねえええっ!!」

 ――さておいて流せっ、いいからっ。人をどっかの組長扱いするんじゃねえっ!!
 閑話休題。休題ったら休題。
 というか強引に流す。盛り下がるから主に性的な意味で。
 あたしと美綴からの扱いになにやら葛藤はあったらしいが、自分で言った浪漫とやらの誘惑に耐えかねてか遠坂はあたしのショーツをじりじりとずり落としにかかった。
 正直、気恥かしくはある。けど、嫌じゃない。
 ただ。

「うふふふ艶やかな焦げキャラメル色の肌を飾る小さな純白のショーツをこの手で脱がしていくこの幸福感。すこしずつ布地が裏返るに連れて露わになっていく柔らかくて淡い叢が――」
「……おい」

 なにやら嫌な実況されておるのですが。
 それも延々と続くし。

「――しとどに濡れて息づく叢を過ぎ、張り付く布を丁寧に剥がしていくと糸を引きつつ離れていく。これまで秘められていた谷間が光の下に露出する――」
「おーい。聞こえてるかー?」

 これがあたしに聞かせて羞恥に悶えさせようという目論見なのか、それとも単なる遠坂の嬉々とした感情の発露なのかは知らないが、できれば止めて貰えないもんかなぁ。
 美綴から伝わる微苦笑めいた反応からすると後者の可能性が高い気はするけど。
 うーん。


「……おお、名状し難くも魅惑的な肉の連なりの狭間の奥に潜む悦楽の園の存在が如何なる犠牲をも超えてわたしの心を捕らえ浸透し蠢くように狂わせていく中でわたしは見たのだ見てはならない人類の理解を超越した星辰の彼方から飛来したかのような造型を思わせる奇怪なれど甘美な香りを放つその艶かしい生身の器官の全てを――」
「ちょっとマテえぇぇい!!」


 人が恥ずかしさに耐えてるというのに。あたしの(ピー)はルルイエの邪神か何かか!?
 思わず振り下ろす袈裟懸けチョップが豪快に空振り。
 くっ、目隠しさえなければっ。

「ほんの冗談よ」
「遠坂、冗談にももうちょっと時と場合を考えてやれ」

 なにやら気の毒そうな美綴の声に、こっちが同情しそうになったりして。
 その間にも遠坂の指は休むことなくショーツを引っ張る。あたしは少しお尻を浮かせて協力する。
 そうしてショーツは捲くれかえって。
 
「はい、脱げました。蒔寺の下着ゲットだぜっと」

 脚をスルリと抜けて、あたしの下着は遠坂の手に収まった……らしい。
 今まであった物が無くなるのは、少し心細い。肌寒さに似た感覚を覚えて、あたしは両の脚を合わせて引き寄せた。スースーする……

「あら寒い? じゃあ暖めてあげないとね」

 遠坂があたしの脚に軽く手を掛けた。
 さっきまでの痴態を思い返し、かあっと顔に血が昇る。同時に、脚の付け根のところに生じた熱さも思い返してしまった。あたし、さっきまでここを遠坂に舐められてたんだ……
 そして今からまた、今度は直にその愛撫に身をゆだねようとしている。
 ぶるりと一度だけ身体が震えて。
 あたしはおずおずと両の脚から力を抜いた。
 脚の間に遠坂が屈み込む気配。自然、身構えてしまうし意識が集中する。

「ほーれ、もっと力抜けー」
「ひあっ!」

 結果。
 いつの間にか背後に廻ってた美綴に、後ろからむにっと双丘を揉まれて驚くことになる。
 ……いや、双丘ってほど無いけどなチクショウ。
 セルフで悲しいツッコミをかますあたしだが、でもそれとは別に身体は敏感に反応する。
 ふくらみを覆った美綴の手が、その指先が滑らかに妖しく動き、敏感な先端を転がしていく。思わずのけぞった身体は背後の美綴に受け止められ、背中であたしのとは違うふくらみが重みを受けて柔らかく潰れていた。
 その柔らかさと肌触りが脊髄の中に電流を上下させる。
 背中に、肩に、二の腕に、胸に感じる体温の暖かさと、触れる事で渦巻く昂ぶりの熱さ。
 抱かれるようにその腕の中に収められ、耳を濡れた唇で啄ばまれる。
 熱い熱が耳朶を這い、首筋を擽って戯れる。
 奏でるように十本の指が胸からお腹を這い回り、敏感に反応するこの身体が自分の身体ではないかのよう。あたしは声を抑えるのに必死だった。
 その最中に。

「んふ、それじゃあ――」

 遠坂の呟きに、慌てて指を口に当てて軽く噛む。
 そうでもしないと、自分がどんな声を上げてしまうのか不安だったから。

「――――っ……ぅぅン……!」

 そして、それは杞憂じゃあまったくなかった。
 瞬間、跳ね上がった足が空を蹴り、爪先が宙を掻く。
 遠坂の濡れた舌があたしの女陰を直に舐めあげただけで、背骨を奔った何かに肢体が震える。その熱さに、ざらざらした感触に、擦られたあたし自身が上げかけた声はどんなものだったのか。それを噛み殺す為に、人差し指には酷い噛み跡が残っただろう。

「ああ、無理するなって」
「あ――」

 しかしそれもつかの間。
 跡のついたらしい指を美綴に取られ、癒すように舐められる。
 そして口を抑えるものの無くなったあたしの秘所を、遠坂の舌が這い回る。
 優しく、柔らかに、そして時に焦らし、時に的確に。

「はぁっ、は……っ、ふあぁあ――! うぁうっ! あ――っ」

 声が、抑えられない。
 自然と閉じようとする脚は遠坂に抑えられて動けない。
 そんななすがままにあたしを、遠坂の舌が這い回る。自分ではできない、したことも無いような蠢きで、あたしの秘唇を探る遠坂の熱い舌。削り取るような、それでいて撫でさするような愛撫があたしを狂わせていく。あえて水音を立てて吸われ、飲み干されるともう駄目だ。ぴちゃぴちゃと耳朶を打つはしたない滴りの音があたしを捕らえて離さない。
 目を封じられているのが聴覚を過敏にしているのか、本来聞こえるはずの無い音まで聞こえてしまう。
 裂け目を抉るように、スリットに差し入れられる舌の音。その奥からとろとろとあふれ出す愛蜜を啜られ、嚥下される音。敏感な肉の芽を転がされ、啄ばまれる――音。
 それは本当に音なのか、それとも何か他の感覚を錯覚しているのか。それすらも分からないまま、あたしは触れられる熱さと音に捉えられる。濡れた熱があたしを喜悦させるという意図を持って身体の中心、秘唇の内外を縦横に這い回り、はしたない滴りを汲み上げていく。

「ここはどうかしら?」
「だ、駄目っ……そこ、弱い、ふああっ!」

 動きが変わるたび、場所が変わるたび、あたしは何度も何度も喘がされ、肢体をくねらせ、痴態を晒けだす。堪える事はすでに不可能。遠坂に責められ、美綴に抱かれ、遠坂に脚の付け根を舐められて喘ぎ、美綴に胸の先端を転がされて吐息を漏らす。
 広げられた両の足に触れる遠坂の身体と、背中に感じる美綴の身体。見えないあたしにはそれが感じられる全てだった。否、感じさせる全てというべき。
 次の瞬間どうなっているのか、何をされているのかも判らないこの状態が、被虐的な悦楽に一役買っている。
 あたしは二人の思うがままに鳴かされるだけで、何もできやしない。せめて二人の肢体と触れ合う事でその存在を確かめることだけ。
 覚束ない手を遠坂へと向ける。触れたのは今は特徴的なツーテールから解かれているその髪。その髪を通してその頭に手を触れる。あたしからは見えない遠坂が何故だかクスリと微笑んだ気がした。

「……あ?」

 遠坂の髪に触れるあたしの手にそっと重ねられる、遠坂の手。そしてそのままあたしの手は頭から滑り落ち、その耳を、その頬を淡く撫でていく。
 すべすべの肌の上、首筋を、鎖骨の形をなぞらされた上で導かれた先は――あたし自身。
 あたしの指は、遠坂が舌を這わせているあたし自身へとたどり着かされた。

「ねえ蒔寺。自分のそこがどんなになってるか、判る?」

 悪戯な声が囁く、いじわるな問い。
 そんなこと手で触れるまでもなく判ってる、けど……
 で、でも、それに答えろというのか?

「あ……う……その」

 今更とも思うけど口にするには気恥ずかしく、ゴニョゴニョと言葉を濁す。うう、顔に血が昇るぅぅ。
 実際、自らの手で触れたソコは凄いことになっていた。指に絡みつく、僅かに動かしただけでクチュリと音を立てそうな愛液の粘り。遠坂の唾液と入り混じっているからか、自分で慰めた時には考えられないほどの滴りと熱に塗れている。

「そういぢめてやるな。おまえも口の周り凄いことになってるぞ?」
「それもそうね」

 美綴の指摘に、舌なめずりをする音が続く。
 べとべとのそれを舐め取ったのだろう。

「じゃあ、何処が気持ちいいのかちょっと自分で慰めてみて、って言うのもいぢめ?」
「いじめだと思うなあ……」
「残念」

 心底から残念そうないじめっ子の声と、苦笑めいたもう一つの声。
 そんな事目論んでたのかこのあくま。あたしを羞恥で悶え殺す気か貴様。
 もう突っ込みをかます余力もない。

「絶対、しない」

 ないけど、それでも意思表示は必要だと思う。こいつ、調子に乗るから。
 それに。

「その、遠坂がしてくれる方が、自分でするよりずっと……その」

 それも事実だ。
 あたしのいやらしいそこは、もう遠坂の舌の味を覚えてしまった。撫でるように這う柔らかく熱く濡れ蠢く舌先の与える快楽を身体に刻み込んでしまった。とろとろと蕩けだす泉の門を啜られ、その奥まで熱い先端を捻じ入れられ、かき回されて嬌声を上げる。肉の芽を覆う皮を鼻先で剥かれ、熱い吐息を吹きかけられ、待ちわびた刺激に身体を踊り狂わせる。そんな禁断の知識を知ってしまった。
 つい先ほどの感触を思い出すだけで、じわりと露が溢れてくるのを感じている。貪欲にむさぼり尽くされ、啜り尽くされ、ひくひくと痙攣しながら意識を失うまで腰を揺すり続けるような、そんな悦楽を期待して、更に愛撫を求めてしまう。
 ここまでの事を教えておいて今から自分で慰めろなんて、そんな惨めな。

「嬉しいこと言ってくれるじゃない。じゃあ、その代わりに綾子を慰めてあげなさい」
「う……」

 背後の美綴がしばし身じろぎする。
 が、反論がないところを見ると、結局欲求に負けたらしい。思い返してみるに快楽に弱い身体してたものなぁ美綴。
 と思うまもなく、あたしの手は再び遠坂の手に誘導されていく。
 まずあたしの蜜に塗れた指先に遠坂の口づけ。それから、美綴の下へと這い進む。
 ゆっくりと。必要以上にゆっくりと。

「……焦らすなよ」
「うふふ、慌てない慌てない」

 今にも一休み一休みと言い出しそうなほどの緩やかさで、あたしの手を操る遠坂。
 弓道部で鍛えた張りのある腿に触れさせる。
 蜜に濡れた手がもう一人の滴る蜜に濡れ、絡まりあう。
 滴る跡を遡るように、あたしの指先は美綴のそこへとたどり着く。

「あ、は……」

 待ちわびた刺激に美綴が漏らした吐息があたしの耳を擽っていった。
 あたしの蜜と遠坂の唾液の絡まった指に、クチュクチュと音を立てて熱い美綴の滴りが混じっていく。
 見える訳じゃないけど。その光景がまざまざと脳裏に浮かんでゾクゾクとしたものが背筋を駆け巡る。触れる指先に擦り付ける様に美綴は少しだけ腰を落とし、強い刺激を求めてくる。それに応えてあたしはその秘唇をかき混ぜ始めた。
 さっきよりは少しだけ、要領が判る。二本の指を別々に動かし、美綴綾子の中心を探り続ける。見る間に美綴の息が荒くなり、あたしを抱く腕に力が込められた。
 いつの間にか導いていた遠坂の手は離されていて、あたしはあたしの意思で美綴の喘ぎを汲みだしていた。あたしの指で可愛らしい声をあげる美綴が愛しくて。もっともっとあたしの手で鳴かしてやりたくて。
 あたしの指先の蠢き一つで蜜を溢れさせ、喘ぎをあげているこのオンナがあの美綴綾子であるという事実がゾクゾクと堪らない愉悦を掻き立て、あたしを止まれなくしてしまう。今この目でその悩ましげにけれど恍惚としているだろうその表情を見ることが出来ないのが、本当に惜しい。せめてもっと声をあげさせたくて、あたしは微細なひねりを指先に加えて美綴の秘芯を擽り、一本の指を慎重に奥へと進ませた。指を喰い締める力が感じられるくらいに。絶え間なく溢れる滴りが指を滑らせ、奥へと誘い込むような淫らな誘惑を繰り返している。
 悩ましい鼻にかかった喘ぎと共に擦り付けられる肢体の中で、ふくよかな胸の先端にあるしこりがあたしの身体を撫でていく。
 耳にかかる吐息から見当をつけてその頭を引き寄せる。

「ん……あ……ン」

 大人しく引き寄せられた美綴の頬に手を添えて位置を確かめ、口づけた。
 見えてはいない。でも、蕩けた吐息は理解できた。その身体に片手を回し、抱き合う様にして唇を貪り合う。片手は美綴の身体に、もう片方は美綴を喘がせる為に。だから自分の身体は二人に支えてもらわないと。
 ピチャピチャと音を立てて舌を絡ませながら、指は美綴の中へと潜り込んで行く。

「あ、ふぁあ……」

 舌をあたしに差し出しながらだから、美綴の息遣いは声にならない。
 でもその眉は八の字を描き、与えられる快感に耐えているはず。
 それが想像出来るのは、やっぱり事前にその様を見せ付けられた所為。悔しいけど。
 より深く唇を吸い、舌を啄ばんでその唾液を搾り取る。相手の体液を飲み干して、次には自らの唾液を啜らせる等価交換。ひとえにもっともっと深く溶け合いたいという衝動。
 自らの身体全てでもって相手を蕩かせてやりたいという自然な欲求。

「二人とも淫らで艶かしくて綺麗ね。思わず嫉妬してしまいそうだわ」

 遠坂の声に少し恥ずかしくなるが、それでも止める事は出来そうにない。
 ――それよりも、遠坂も一緒に。
 自由になる脚を遠坂の身体に擦り付けて、参加を促す。

「蒔寺、欲張りね」

 それは思わないでもない。一人でも勿体無いほどの少女を二人とも相手して欲しいと言ってるのだから。でも、逃げさせるつもりもない。
 抱きしめるように逃げられない様に遠坂の身体に脚を絡め、抱擁の様にあたし自身に近づけようとする。
 その意を汲んでか遠坂の手が再びあたしの脚にかかって――
 ピチャリ、と音がした。
 脚に触れる暖かく濡れた手の感触。

「――遠坂?」
「気がついた?」

 擦り付ける様に、濡れた遠坂の手があたしの脚をぬらぬらと弄る。
 それは、それはあたしの、ではなくて――

「ええ、わたしのよ。今の貴方達を見てたら、我慢できなくなって」

 クチュリという、水音。
 遠坂が自らを慰めている、証明。
 あたしと、美綴と一緒に昂ぶってるんだ、遠坂。
 その実感と共に、何でか愛しさが込み上げてきて、嬉しくなった。
 あの、遠坂が、だよ?
 キュンとあたしの中のオンナが疼く。

「ねえ、もっと見せて? わたしの愛撫で艶っぽく喘ぐところを見せてよ。わたしをもっともっと満足させて?」

 そう言って、遠坂は再びあたしの脚の付け根にキスを始めた。

「う……は、あ、ぁあ」

 そうなってしまうと、あたしはもう駄目。
 遠坂の舌が嘗め回すのに従って嬌声を上げ、足をつま先までピンと伸ばし、美綴の身体にしがみつくだけ。
 昨日まで自分で慰めていた場所に自分以外の熱さを感じながら、奥まで舌を差し入れられ、肉の芽を舌の平でゆっくりと擦られ、遠坂の思い通りに喘がされる。
 唾液に、それに遠坂自身の愛蜜に濡れた指があたしの秘所を割り裂き、内側を愛撫していく。時に濡れた手で上からお腹を撫でられ、下から舌を捻じ入れられて、絶え間ない悦楽を注がれ続ける。遠坂の蜜をあたしのと混ぜ合わせるように遠坂の指の進入も許し、あたしはかつてない感覚にただ流され続けた。
 時間をかけてじっくりと昂ぶらされた肢体も、もう限界近い。

「ん……もっと……」

 それで止まってしまったからか。
 美綴が更に激しくあたしの舌を啄ばんだ。
 自らの舌にあたしの舌を絡め、唾液をトロトロと送り込んでくる。
 あたしはそれに応えるだけで精一杯で、必死に流し込まれる美綴の唾液を嚥下する。
 それでも身体が火照るのか、あたしの手を挟んだ両の足がフルフルと振られ、更なる刺激を求められる。流れ出す滴りが柔らかい秘肉に挟まれた腕を濡らし、そこのやるせない熱さを伝えてくる。応じて、息も絶え絶えに美綴への愛撫を再開した。

「ふあ……っ、ぁっ……ン、んぅ……ン」
「はぁ…………ぅ、ひゃう…………」

 互いに舌を貪りながらあげる声が一つに溶けて、もうどちらのものなのかも分からない。
 触れる事が心地いいのか擦り付けあう身体が熱い。
 どれだけ濡らして、どれだけハシタナイ姿を晒しているのかももう気にならない。
 与えられる快楽を貪りたいから、可能な限りの愛撫を繰り返す。
 自分が与えているのか相手に与えられているのか、まるで一つに融けていくよう。

「あは、わたしも……もう……ンン」

 あたしを責める遠坂の声にももうさっきまでの余裕はない。
 美綴のともあたしのとも違う水音が、クチュクチュと速度を上げている。
 三つの情欲と濡れた身体が紡ぐ、体温を重ねあう行為の終焉。
 もうあたし達は止まれなかった。
 互いの息遣いとそれぞれの秘部をかき回す音。
 それだけを残してそれぞれの行為に没頭する。感じるのは肢体に加えられる喜悦の昂ぶりと、共に昇りつめる連帯感。自分だけでなくあいつらももうすぐ――って共犯者のような、密かな背徳感。心細さを感じさせないすぐそばの互いの温もり。
 何が何だか分からなくなりながら、けれど決して見失わないその繋がり。
 その果てに。

「ダメ、もう……ダメっ」
「イって、イっちゃっ――」
「あ、あああ――っ!」

 互いに何を叫んだのかも判らないまま、あたし達は連鎖的に真っ白になっていた。
 折り重なって崩れる中で、あたしは呆然と余韻に浸っていた。


 /

「感想は?」
「……凄かった」

 とりあえず息が静まって意識が正常に戻ってきた――ような気がする――辺りでのやり取りである。
 もちろん男の子とこんなゴニョゴニョな事をした事はないのでどっちがどうなんて言える筈もないけど、そうとしか言いようがない。それに、相手が遠坂と美綴だったしなあ。うちの男連中で、この二人と、以上にときめきそうな相手というのが思いつかない。
 我が穂群原学園、あたし好みなハンサムが居ないとは言わないが少ない気がする。美女は多いんだがなぁ、あたしを筆頭に。……おお、何か調子が戻ってきた気が。

「で、気に入ったかしら?」

 その質問にしばし考え込む。
 何を、かと言えばそりゃこの趣向だよな?
 目隠しはさておき、遠坂と美綴との行為と言う事なら、それは……その。
 少なくとも、それ以前に感じていた抵抗のようなものは綺麗さっぱり吹き飛ばされた。
 それにまあ……悪くはないよな? と思う。一応本気で。
 あたしがレズなのではない。あたしの食指が動くほどの超絶美形で、頭脳は天才的で、運動神経抜群、料理洗濯パーフェクトで、かつあたし一途な男がいないのが悪いのだ。
 という訳で。

「んん……まあ、遠坂と美綴がどうしてもって言うんならさあ、その、あたしとしても」

 おお、そう言えばまだ目隠し付けたままだった。もういいだろうコレ。
 軽くノタマイつつ、何気なく目隠しを外す。
 と。


「無碍に断るほどやぶさかでは――って、ぎゃああああああっっ!?」


 そこには二人の百合をも超える、本日最大の衝撃が待ち構えていたりしたのであった。
 ウン、室内に裸の遠坂と美綴がいるのはいいんダ。
 しかし。
 しかしだ遠坂サン。
 その、隣の二人は一体ナンデスカーッ!?
 慌てて美綴の後ろに転げ込むが、むろんそれでごまかせる筈もない。
 視線を避けることすら不可能。
 その視線を辿った先に居るのは紛れもなく

「…………」

 頬を真っ赤に染めて眼鏡の向こうからこちらを凝視する氷室鐘。

「……っ……もごっ」

 と、氷室に口を抑えられつつやっぱり赤くなってこっちを見てる三枝由紀香。
 である。
 とりあえず目を擦ってみるが、むろん夢幻ではない。
 眼鏡を掛けてればレンズの曇りを拭いてみる事もできただろうけどあたしは視力2.0だし……は、さておき!

「な、な、な、何故に! どうしてっ!?」
「ちなみに二人には蒔寺よりも先に来てもらって、そこのクローゼットの中で待機してもらってたのよ。蒔寺が目隠しするまで」

 と、と言う事は、一部始終を二人に見られてぇ!?
 ひょいと部屋の隅の二つ並んだクローゼットの右側の方を指す遠坂だが、それもこの際どうでもいい。

「ああ、やっぱ驚くよなぁ……」

 困ったように、気の毒そうに美綴が言うわけですが。
 ……と言う事は、チミも知ってた訳だなこの野郎。いや、女郎。
 脳天にスポーク刺されて地獄に落ちろ。牙を突きたてろの命令でも可。

「いや、遠坂がな? 知っての通り変……いや、ちょっと異常な愛情の発露をしてあたしの手には負えなくなってきてさぁ」
「ほう……それで他にイケニエを求めたんだなコンチクショウ」
「うむ、話が早くて助かる」

 今にもカラカラと笑いそうな調子で肩を叩かれたりするのだか。
 ……ホント、せめてそういうのは隠し通してくれ頼むから本人に率直に言うんじゃネエ。
 つか、他人に見られてる事知っててあんだけできればテメェも立派な変態仲間だ。
 それはさておき、

「ふふふふ、もちろん綾子も蒔寺も逃がすつもりはないわよわたしは。二人ともじっくりと可愛がってあげるんだから」

 と、遠坂に二人まとめてムギュッと抱きしめられたりして。
 苦笑気味の美綴はさておき、果たしてあたしはどんな顔をすればいいんだ?
 そしてヒト様の未来図を勝手に決めるな遠坂。
 とはいえまあそれはもう既成事実作っちゃったからには仕方ないような気もするのでそれはそれとしてひとまず棚上げにする。
 ここまではまだ、あたしが巻き込まれた理由だ。

「で、氷室と由紀ッチがここにいる理由は?」

 これだけは絶対誤魔化させないからな、と睨みつけた。
 なんとなく、とか言ったら本気で殴ろうと思う。

「昨日、氷室さんにとある疑いを持たれちゃったのよねー」

 苦笑い気味に答える遠坂。
 とある疑いなぁ……それについては思い当たる節が一つある。昨日の冗談だと思っていた問答、実は本気で疑ってたのか氷室……底知れないヤツだ。

「で、こいつカマ掛けられてうっかりボロ出しやがってなぁ。問い詰められてどうにもならなくなって、それで引きずり込んだんだ。自分で見て確かめたら、って」

 言の葉を継いだのは無論ビシスと遠坂を指差す美綴である。
 そ、それで来てしまったのか二人とも……というかもうまったく状況の収拾がつく気がしねえ。
 こいつら何がしたくて、今どういう場面で、あたしはこれからいったいどういう人間関係築けばいいんだ? 涼しい顔してそれとなく目を逸らし明後日の方向を眺めている超時空うっかりあくま遠坂を横目で睨みつつ、フリーズしっぱなしの脳みそでともかくも声を絞り出す。
 そもそも自分がまったく理解できてないんだから、何を説明していいのかなんて判らないけど。でも何かを釈明せねばと焦燥が訴える。

「ひ、氷室、由紀っち、これはその、な……ええと」
「――蒔の字、私は怒っている」

 しかしそれまで口を開かなかった氷室にぴしゃりと言われて続かない。
 由紀っちが何かもごもごしてるのは、きっと「か、鐘ちゃん……」とかオロオロしてるんだろう。
 でもあたしだってオロオロっぷりでは負けてなかった。
 裸のまま美綴の後ろに隠れながら、何かを申し開きしようと焦っているんだから。
 何を釈明しようとしてるのか。何故釈明しないといけないのか置いてきぼりのまま。
 そして何も説明できないまま口を開いたり閉じたりを繰り返した結果、先に次の言葉を切り出したのは氷室だった。

「いや、蒔にじゃない。ただ見ているしかなかった不甲斐ない自分にだ」
「氷室……」

 何と声をかければいいのだろうか。
 あたしの身を案じてくれた親友に、こんなとき――


「そう、どうしてこうなる前に自分のものにしておかなかったのかと!!」
「………………は?」


 ちょ、ちょ、ちょっとマテ! 何言ってるんだ氷室鐘!?
 ダンッと床を殴って悔しがる氷室の目の前で、あたしの目は点になってたに違いない。
 ええとちょっと待ってくれよ、あたし達の間にあった友情とかそういうのはどこ行ったんだ。確か友情の成分は 友情=思いやり+優しさ+愛情 でインプット完了するからグリーンボーイ時代の氷室に戻っただけだとバラクーダ師匠がソビエト出身で残虐ファイトで預言書の消滅と共に歴史から消えたけど封印された火事場のクソ力を開放してその時ええとイデが発動したんだっけ?

「で、自分で見て確かめた氷室さんは、それでどうするのかしら?」

 混乱したあたしが友情とは成長の遅い植物だったんだなぁと現実逃避にふけっていると、遠坂が氷室に挑発的な言葉を投げかけた。

「ふ、ふふふふ……」

 返答。不気味な笑い声。
 床を拳で叩きつつ俯いていた氷室の顔がゆっくりと上がり、その不敵な面構えをこちらに向ける。
 ひ、氷室サン、その獲物を見つけた獣のような目はナンデスカ? 何故に唐突にブラウスのボタンを外し始めるんデショウカ。舌なめずりするその仕草がやけに生々しいんですけど。

「ふふふふまだ遅くはない。遅くはないはずだ、諦めないぞマキ」
「ゲーッ! ひ、氷室が壊れた!」

 艶めかしく服を脱ぎ散らかしながら、にじり寄ってくる氷室。
 なにか蛇に睨まれた蛙のよーに動けないあたし。
 そして。

「わ、わたしも!」
「おふぅ!?」

 あたふたと服を脱いだ由紀っちのタックルを受けて床に転がった。ブ、ブルータスおまえもかぁぁぁぁ!? まるで作画:石川賢を疑うほど目玉グルグルにした由紀っちがヒシとあたしにしがみつく。

「身体が熱い、熱いよ……蒔ちゃん!」

 い、息を荒げてそんな事言われてもっ。
 いったい我が穂群原学園はどうなっているんだ。倒錯した生徒しかいないのか?
 そんなどうでもいいことを考えているあたしに迫る四つの影。
 ヒッ、と息を呑むあたしを見下ろして。

「蒔ちゃん、蒔ちゃん、蒔ちゃん……」
「ふふふふ私がこの世界の奥深さを教えてやるぞ蒔の字」
「ようし、今度こそ攻めに廻るぞー」
「はいはい、じゃあ今度は皆で蒔寺さんを、ね」

 まさに四面楚歌。
 興奮に潤んだ目のケダモノが四匹あたしを囲んでいた。逃げ道ナシ。

「ど、どうしてこうなったんだー!?」

 叫びを余所に、てんでにあたしに伸ばされる手、手、手。
 俺達の戦いもとい狂乱の宴はこれからだったという。


 /

「なんかハーレムって感じだな」
「よかったわね蒔寺、これ以上おいしい目ってちょっと会えないわよ。本望でしょ?」
「違うー! 何かが違うー!」

/あくまの異常な愛情・了

 


  後書

 まずは最後までお読みいただきありがとうございます。
 メモ帳表示で95kb。単品の18禁二次としては明らかに過剰ですな。お疲れ様でした。
 製作過程には紆余曲折がいろいろあるのですが、とまれ製作コンセプトは『漫画・ヴィジュアルノベル媒体では不可能な話』でした。漫画は視覚的一人称表現に向いてないし、VNで「目隠しされた状態」として肝心のエロい場面を延々画面真っ黒とかやったら暴動起こるでしょうしなあ。
 というわけで、文字媒体でしか出来ない事の追求を試みた次第。成功したかどうかは読者様の心の内にのみある訳ですが。
 それではまた次の機会に。

 

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